第十三話(最終話)
そこに立っていたのは、あの少年ではなく、長いこと見慣れた女性がたたずんでいた。
 「・・・百合子・・・。」 あの電話ボックスの時と同じく、白く冷たい顔だった。
 「百合子・・・!」
違う! 嘘だ! 彼女が百合子に取って代わった人間だとしても、
彼女は私を愛してくれてたし、私も彼女を愛していたのだ! リリスだかなんだろうが問題はない!
 「百合子・・・嘘だろ、ただの冗談なんだろ? ・・・なぁ、おい・・・ 」
 「・・・・・・。」
私たちの周りには、あの黒いいやらしい生物がひしめいていた。
リリコッ・・・、リリコッ、と機械的な声を発しながら・・・。

・・・一匹のその白い巨大な蛇は、いまや女性のカラダに戻りつつあった。
彼女は完全に変身を遂げたあと山道に戻った・・・。
元の道には、きれいな顔をしたあの少年が立っていた。
彼女は少年に尋ねる・・・。
 「何故、あの人を助けてあげなかったの・・・ 天使なんでしょう、あなたは・・・?」
少年は涼しく笑う。
 「助ける? この僕が? 何十億もいるんだよ、人間て下等動物は。
 生かしておいても何の価値もないだろ? この前彼を助けたのは、ただの気まぐれさ・・・。」
彼女はしばらく彼をにらんでいたが、混沌とした緑色のガスの塊の中に自分のカラダをズブリと入れた。
すると、彼女のカラダは、ゆっくりと凝縮したガスの球体に次第に飲み込まれていく・・・。
そして最後に、彼女の姿は完全にその場から姿を消した・・・。

一方、少年はしばらく南西の方角を見据えていた。
その方角の先には、観測史上最大の巨大な台風が、日本列島に接近しつつあった。
既にその暴風雨圏内に入った沖縄では数百人以上の犠牲者が発生していたのだ。
 「・・・何故、助けてあげなかったの・・・か。」 少年は一人つぶやく。
 「やっぱり彼女も低俗な感情のある人間なんだな。ぼくとあいつも天使であるのと同じように・・・。」
そう言うと、少年は彼の本来の、本当の姿に戻る。
そしてぼんやりと、カラダの透明度を増しながら、
はっきりいつという事もなく消えていってしまった。
最終更新:2007年04月14日 12:15