454 :友:2006/11/28(火) 09:25:19.84 ID:lHgEg1QX0
次の日、男はオレに話しかけてこなかった。
なぜかはまったくわからないけど。
朝、教室で話しかけても、「ああ……」と一言返されただけだった。
だからオレも、なかなか話しかけることができなかった。
昼休みになっても。
チャイムが鳴って、いつもなら走ってこっちにやって来るのに、男は自分の席を動こうとしなかった。
無言で購買で買ってきたパンをかじっている。
しかたないから、オレも窓際の席で、一人こっそりとお弁当を食べた。
……どうしよう。
男、絶対怒ってるよな……
よくわかんないけど、オレから謝った方がいいんだろうか……
455 :友:2006/11/28(火) 09:27:58.41 ID:lHgEg1QX0
「あー!!しまったすっかり忘れとった!!」
放課後になって掃除の時間、オレたちの前で担任の教師が小さな悲鳴を上げた。
「どうしたんですか?」
「いやな、今日ウチのクラスが理科室の掃除の担当だったんだよ。
それでそのことをおまえらに頼もうと思っていたんだが……すっかり忘れとったわ」
「…そうですか」
「……しかたないから友、おまえちょっと今からやってきてくれんか?」
「ええ!? オレがですか!?」
「一人でやるのはさすがにキツいだろうからもう一人……そうだな、優!!」
「はーい」
「!!」
「友と二人で、ちょっと理科室の掃除してきてくれ。頼むぞ」
「わかりましたーっ」
「同じ名前同士仲良くな。はは」
「……」
460 :友:2006/11/28(火) 10:06:39.32 ID:lHgEg1QX0
「ついてないね。二人で、しかも理科室の掃除なんてさ」
「……うん……」
薄暗い理科室で、優さんと二人きり。
実はオレは、全然ついてないなんて思っていなかった。むしろ、信じられない幸運だった。
「よし。それじゃあパッパとやってパッパと終わらせようか!その方が早く済むよね!!」
「そっ、そうだね!」
そう言って、優さんが笑顔でせっせと机の雑巾がけを始める。
……このまま時間が止まってしまえばいいのに……
「そういえば、友くんと男くん、今日はどうしたの?」
「えっ?」
そんなことを考えていたら、優さんに突然突拍子もないことを尋ねられた。
461 :友:2006/11/28(火) 10:07:45.80 ID:lHgEg1QX0
「な、何が?」
「んー。いっつもずっといっしょにいるのに、なんだか今日は話してないように見えたから」
「そ、そう?」
「うん。だからもしかして、ケンカかなんかしたのかなあ、と思って」
女子ってホントに見てるんだな……
「……うん。実は。でもケンカした、ってわけじゃないんだ」
「どういうこと?」
「……オレにもよくわかんないんだ。なんか確かに怒ってるみたいなんだけど、いったいなんで怒ってるのか……」
「そうなんだ……でも、不思議だね。男くんが友くんに怒るなんて」
「え、どうして?」
「ふふふw」
「男くんって、友くんのことが好きなんじゃないかなーと思うから」
「は……?」
462 :友:2006/11/28(火) 10:10:25.78 ID:lHgEg1QX0
「え……え?それ、そういうこと?」
「そのままの意味だよ。そう見える」
「好きって……」
なんだそれ?
「あはは。友くん顔真っ赤w」
「……やめてよ、変な冗談言うの……」
「冗談じゃないよー。あたし、男くんの気持ちわかるなー」
「え?」
463 :友:2006/11/28(火) 10:11:42.47 ID:lHgEg1QX0
「だって友くん、こんなにかわいいんだもん。ホント、女の子みたい」
………
「ほら、髪とかサラサラだし、肌なんてこんなに白いし、
眼もパッチリしてて、まつ毛も……うわーすっごい長い!!うらやましいつっw」
「………」
「文化祭の時、あたしメイドの格好した友くん見て、ビックリしちゃったよ」
………
……そっか……
やっぱりオレは、男として見られて…ないのかな……
464 :友:2006/11/28(火) 10:12:55.44 ID:lHgEg1QX0
「友くんはどうなの?」
「……え?」
「男くんのこと、好き?」
「え……いや、好きって……」
「……そりゃあ、友達としてはいいヤツだと思うけど、そんな……」
「あはは。そっか。そうだよね」
「……」
「……優さんは……」
「ん?」
「いないの?好きな人……」
466 :友:2006/11/28(火) 10:13:42.92 ID:lHgEg1QX0
聞いてしまった。
「あ、あたし?」
「……うん……」
「……あたしはねー……」
もし、これで彼女の口から、クラスの誰かの名前や、
オレの知らないようなヤツの名前が出てきたら……
オレはどうなってしまうんだろう。
でも、どうしても聞かずにはいられなかった。
「……いるよ。好きな人」
「ほ、ホントに?」
「うん」
「……だ……誰……?」
467 :友:2006/11/28(火) 10:14:38.47 ID:lHgEg1QX0
「……それはちょっとまだ、教えられないかなー。だってまだ誰にも言ったことないんだもん」
「……」
ほっ…
「そ、そっか」
「うん。ごめんね」
「ううん。いいよいいよ」
なんだか、悔しいような、でも安心したような。
だけど、彼女に好きな人がいるということだけはわかった。
それだけでも大きな収穫だ。
468 :友:2006/11/28(火) 10:15:31.01 ID:lHgEg1QX0
「…よし。こんなもんかな。友くん、そろそろ終わろう」
「うん。そうだね」
「よいしょっと」
優さんがタップリと水の入ったバケツを持ち上げた。
「あ、いいよ!オレ持っていくから!」
「本当?ありがとう。友くん」
「いやいや…」
「優しいね」
「そ、そんな……」
470 :友:2006/11/28(火) 10:16:30.42 ID:lHgEg1QX0
何も持っていなかったけど、優さんは水のみ場までオレがバケツを運ぶのに付き合ってくれた。
「友くん。早く男くんと仲直りしなよ」
「あ……うん」
「ふふ。それじゃあね」
タッタッタッタッ…
別れ際にそう、にっこりと笑って、彼女は階段を駆け下りていった。
それはまるで、花のように可憐な笑顔だった。
「………」
最終更新:2006年11月28日 11:53