471 :友:2006/11/28(火) 10:17:48.04 ID:lHgEg1QX0
戻ってきたら、もう教室には誰も残っていなかった。
掃除ももうとっくに終わっていたんだろう。電気も消えて、日差しだけがうっすら窓から差し込んでいる。
男も、いつもならどんなことがあっても必ずオレを待っていてくれるのに、今日はやっぱりいなかった。

話、聞いてもらいたかったな……

あの最後の笑顔を見て、今日オレは、優さんのことを今までよりももっとずっと好きになってしまったらしい。
今も、胸が張り裂けそうなくらいに痛い。
優さんが言っていた、好きな人……
可能性は限りなく低いだろうけど、それがオレだってこともあるかもしれない。

諦めたくない……

このことを、どうしても男に聞いてほしかった。
なのに……

「……帰っちゃったのか……」


475 :友:2006/11/28(火) 11:02:23.48 ID:lHgEg1QX0
「……」

窓から見える空は茜色に染まっていて、夕日が遠く向こうにハッキリと見える。
雲ひとつない空に、綺麗な夕焼け。

いい眺めだなー……

「あ……」
そう考えていて、思い出した。

「もしかしたら、屋上にいるかもしれない……」


476 :友:2006/11/28(火) 11:03:38.40 ID:lHgEg1QX0
文化祭の初日。
男と二人で屋上に行ってから、あの場所はアイツにとってもお気に入りの場所となったらしい。
天気のいい日で暇な時なんかはよくあそこに一人で上がる、と言っていたのを思い出した。

行ってみようかな……

でも、もし男が屋上にいたとしても、アイツ、怒ってるんだった。
なにが理由で怒ってるのかもわからないから、オレから謝るのもなんだか変だし……
でも……


「……よし」
いろいろ考えた末に、やっぱり屋上に行ってみることにオレは決めた。


477 :友:2006/11/28(火) 11:04:11.76 ID:lHgEg1QX0

 ガチャン……

階段上のドアを開けると、外から心地のいい風が吹き込んでくる。
屋上はその場所がまるごと夕日の色に染まっていて、どこか神秘的な雰囲気をかもし出していた。

「男……」

男はやっぱり、ここにいた。
向こう側の手すりに寄りかかりながら、静かに町を眺めている。
その姿からはなにか哀愁すら感じられた。

「………」

 すっ……

変に神妙に声をかけて気まずくなるのも嫌だから、後ろからそっと近づいて、わき腹をくすぐってやった。

「おわっ!!」


478 :友:2006/11/28(火) 11:04:58.27 ID:lHgEg1QX0
「わっわっ!!あはははは!! ちょっ……!!」

 ドテッ

「だれ……あ」
「あはははは。ビックリした?」
「……友……」

「お、おまえ、なんでここに?」
「ん…なんとなく。ここにきたら男いるかなーっと思って」
「友……」

「……ねえ、まだ……怒ってんの……?」
「え?」
「今日、朝からずっと機嫌悪かったじゃん。オレ、なんか悪いこと言ったかな?」
「……」


479 :友:2006/11/28(火) 11:05:48.70 ID:lHgEg1QX0
「……別に。怒ってなんかいないよ」
「嘘だ。絶対怒ってたって」
「怒ってないって。今はもう怒ってない」
「あ、じゃあさっきまではやっぱり怒ってたんじゃんかー」
「あはははは。まあまあ」

……よかった。やっと話してくれた。
いつもどおりの人懐っこい笑顔。普段と変わらない男の顔だ。


「……よかった」
「ん?」
「おまえ、いきなり口利いてくんなくなっちゃうんだもん……オレ、凄いあせったよ」
「……」
「ちょっと……怖かった」
「ごめん」
「いや……」


480 :友:2006/11/28(火) 11:09:22.10 ID:lHgEg1QX0
太陽が山の向こうに消えようとし始め、いっそうその赤い輝きを増す。
男は笑顔だったけど、何もしゃべろうとはしなかった。

……言っても……大丈夫だろうか……

「あの、さ…男」
「何?」
「ちょっと……相談したいことがあるんだけど……」
「おお。なんだ?なんでも言ってみんさい」


「……その……」

「……優さんの…ことなんだけど……」

「………」


481 :友:2006/11/28(火) 11:09:45.11 ID:lHgEg1QX0
「今日、掃除の時間ね、ちょっと二人っきりになれたんだ」
「………」
「でさ、その……好きな人の話になっちゃって」
「………」
「それで……なんか、優さんにも、好きな人がいるんだって」
「………」
「……優さん、モテそうだし、きっと誰か他のカッコいいやつのことが好きなのかもしれないよ……でも」
「………」

「……オレ、まだ諦めなくても……いいと思う……?」
「………」


「ねえ……男?」


「……うるせえな……」


483 :友:2006/11/28(火) 11:12:02.05 ID:lHgEg1QX0
「…え?」
「うるせーっつってんだよ……!!」

「……!!!」

……お……
……男……?

「知ったっこっちゃねーよ……おまえの好きな人が、何考えていようがよ……!!」

「そ……」

「そんな言い方って……」
「うるせえ!!!」


485 :友:2006/11/28(火) 11:13:21.02 ID:lHgEg1QX0
「なんで俺がそんなことわかるってんだよ!!そんなのわかるわけねーだろ!!!」
「……」
「ふざけんじゃねえっ!!クソッタレ!!!」

 ガンッッ!!

男がおもいきり傍にあった手すりの鉄柵を足で蹴飛ばした。
静かな屋上に、その派手な音は大きく響き渡った。


「………」

………

……なんで……?
その言葉が、頭の中をぐるぐると旋回し続けた。


486 :友:2006/11/28(火) 11:14:31.94 ID:lHgEg1QX0
オレ……別におまえを怒らせようと思って…こんなこと言ったんじゃないよ……

男の顔を見た。歯を食いしばりながら、凄い形相で下を見つめている。
今度は昨日と違って、ハッキリと怒りをその顔に出して表していた。
そして、くるりとオレに背中を向けて、屋上の出口へと向かって歩き始めた。


……待って……

……男……オレ……

……オレ……


 ポロ… ポロ…

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最終更新:2006年11月28日 11:59