598 みかん sage New! 2006/11/28(火) 19:58:35.81 ID:oeuIwdHoO
保守がてら投下。

「おはよう。よく眠れたか?」
「お陰さんでね。」

少女は無表情のまま、抑揚の無い声で俺に尋ねてきた。
昨夜は久々によく眠り、気力、体力共にある程度回復出来た。

「これから私は貴様に尋問をする。簡単に死なれたら困るので回復を待っただけだ。勘違いするな。」
「そりゃどーも。」

後ろ手に縛られ床に転がされた俺は少女を見上げた。
美しいがまったくの無表情。まるで人形の様だ。
少女は俺を縛るロープにフックを掛けると、手元のリモコンのスイッチを操作し、俺をウインチで吊し上げた。


599 みかん sage New! 2006/11/28(火) 20:00:09.95 ID:oeuIwdHoO
「一応聞いておこう。貴様名は?所属は?何が狙いだ?」
「俺の名はおしゃれ泥棒。君のハートを盗みにきた。」

俺は少女の瞳をまっすぐ見つめながら言った。
少女は微塵にも俺の言葉に反応しなかった。
やっぱりな…俺の仮説は確信に代わった。
通常、いくら訓練された者でも100%感情を殺す事は出来ない。
本人は意識していなくても、無意識に体が僅かに反応する。
だが少女の反応を見る限り感情を殺している訳ではない。無いのだ。
少女がリモコンを操作すると、俺はさらに高い位置、足が地面から3メートル程離れた所まで吊り上げられた。


600 みかん sage New! 2006/11/28(火) 20:02:17.20 ID:oeuIwdHoO
後ろ手に縛られた腕、肩関節が悲鳴をあげる。突如ウインチのロックが解除された。
少女がリモコンを操作する。

「ぐぁっ!」

地上スレスレで急停止した俺の体の全体重が、腕の関節を破壊しようとする。
少女は無言で同じ作業を何度も繰り返す。
その度に関節の痛みは増し、靱帯が伸びていく。

ゴキッ

何回目の落下だろう。俺の肩はついに限界を超え、鈍い音と共に脱臼してしまった。


601 みかん sage New! 2006/11/28(火) 20:04:16.42 ID:oeuIwdHoO
「話す気に…はなっていない様だな。」
「当然。」

俺は脂汗を浮かべながら、少女に笑いかけた。
一瞬、ほんの一瞬だけ少女の瞳に動揺の色が浮かんだ。

「…そうか。」

そう言った少女の瞳には、すでに感情は宿っていない。
少女は床に備え付けられたフックに俺の足を縛るロープを掛けると、またリモコンを操作した。
ふわりと浮く俺の体。

「ぐっ…くくっ…くぁっ…」

肩が脱臼している為、ありえない方向に腕が持っていかれる。勿論足も固定されているから、
俺は少ししか宙に浮く事も出来ず、絶えず限界点まで腕を捻り上げられている格好になった。


602 みかん sage New! 2006/11/28(火) 20:06:36.85 ID:oeuIwdHoO
肩の筋肉が伸びきり切れる寸前、ウインチの巻き上げは止まった。

「自白する気になったか?」
「あ~…いい塩梅のマッサージだな…」

俺は無理矢理軽口を叩き、気を紛らわせた。
少女が透明な液体の入った小瓶を取り出す。

「言いたくなったら話せ。私からは何も問わん。」

少女は小瓶の蓋を取ると、無造作に俺の胸板に液体をかけた。

「ぐっ…があああああ!!」

焼ける。皮膚が、肉が焼ける。
俺の胸板は白い煙を上げながら溶け、液体が下半身に向かい滴れていくと、ジワジワとその範囲を広げていく。
激烈な痛みに支配された俺の意識の中に、少しだけ残されていた冷静さが首をもたげる。
痛みに任せて暴れたら肩の筋肉が千切れ、動かせなくなる。そうしたら脱出不可能だ。
俺はがっちりと歯を噛み締め、暴れるのを辞めた。


603 みかん sage New! 2006/11/28(火) 20:08:04.35 ID:oeuIwdHoO
生きながら溶かされる痛みに我を忘れそうになりながらも、必死に理性の糸を手繰り寄せる。

「ぐ…くぅ…ぎ…」

言葉にならない音が歯の隙間から漏れる。痛みのあまり、目の前に白い火花が散る。

突然冷水を浴びせられた。焼かれる痛みが和らぐ。
荒い息の中、俺は少女を見ると、少女は水に濡れたバケツを持って俺を見ていた。

「貴様のその冷静な判断、鋼鉄の意志、中々の物だな。」

俺の意図に気付いた少女は、感情の起伏を見せぬまま俺を誉めた。

「…お…お褒めに与り恐悦至極にごさいます、お姫様…」

痛みに耐えながら、俺はいつもと変わらない笑顔を少女に向けた。

「…貴様は何なのだ…」


605 みかん sage New! 2006/11/28(火) 20:09:29.60 ID:oeuIwdHoO
少女は静かに…だが震える声で言った。

「貴様はなぜ…いや、貴様は何者だ…」

少女の瞳には明らかに動揺の色が浮かんでいた。

「あぁっ!!」

少女は突然頭を抱え蹲った。少女は強烈な頭痛に襲われているらしく、苦しそうな呻きを洩らしている。

「貴様は…」

少女はゆらりと立ち上がる。腰に下げた乗馬用鞭を手に。表情は何時も通りだったが、
その目には苦痛、怒り、恐怖、動揺、複雑な感情が入り交じっていた。
少女は鞭を力一杯握り締めた。手にはめた革手袋がミリミリと音を立てる。


606 みかん sage New! 2006/11/28(火) 20:10:50.55 ID:oeuIwdHoO
「吐けぇ!貴様の知っている全てを吐けぇ!」

少女は激高すると、俺を力任せに鞭打った。

「吐け!吐け!吐けェ!吐けェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!」
「ぐっ!がっ!がはぁっ!」

狂った様に俺を鞭打つ少女。皮膚が裂け、焼けた肉が弾け、血がほとばしる。
俺は叫ぶ事しか出来なかった。

少女は俺の胸に揺れるネックレスに目を付けると、怒りに任せて引き千切ろうと掴むと、
突如、雷に打たれたかの様に仰け反った。
気を失ったのか、少女はゆっくりと崩れるように倒れていく。

「…ごめんなさい…」

小さな、気弱そうな少女の声を聞いた気がする。
俺はそのまま闇の中に引きずり込まれていった。

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最終更新:2006年11月30日 00:26