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すべての終わりは、新しい始まりである。

すべての終わりは、新しい始まりである。
                 -T.S.エリオット-

 

太古の昔。

人が増えた世界のこと。

人はその悪行の多さ故に地に蔓延る邪心有る者として神の制裁を受けようとしていた。

邪心無きノアの一族は制裁を逃れ、ノア以外の人間は神の洪水により絶える。

その筋書きを知った闇の王フェンリルは激怒した。

人の欲望は闇の力を強くし、その糧となる。

その人間が滅びては闇の勢力に属する者は飢えた獣同様地に腹を着けることを意味する。

闇の住人は人間に危害を加えない。

時には願いを叶え共存している。

人間は彼らにとって必要不可欠であり善き友でもあるのだ。

 

人間を守る。

 

彼らは神に対抗すべく反乱を起こした。

マルファス。ゴブリン。デーモンにトロール。皆人間を助けるべく立ち上がった。

弓神エピルスをアモンが惨殺したの始め、各地で単独の神を襲う。

これが原始ラグナレク戦争の始まりである。

神々は反乱を起こせし闇の勢力を封印するべく多くの神を率いて人の営みし大地へ降り立った。

その地の名はアースガルズ。

アース族が治めし神聖な土地。

この地を穢れた怪物の血に染めぬよう、神々は殺害の手段ではなく捕縛の手段で戦った。

多くの神の血が流されたが、

闇の勢力の筆頭フェンリルを己の右腕を犠牲にして捕らえた軍神テュールによってこの戦いは終焉を迎える。

実に100年に及ぶ戦いだった。

フェンリルはテュールの右腕を口に加えたまま束縛の紐に縛られ地の底に生きる苦痛と共に封印された。

神々は勝利を唄い、かねてからの決めごとであった悪しき人間の排除の実行として40日間洪水を起こした。

船を造り生き残りを許されたノアとあらゆる種の雌雄が洪水を逃れ、

水が退いた大地にて新しい生活を始める。

そして神は二度と人を滅ぼさんと空に虹をかけた。

 

 

 

そして時は激流の如く流れ、

 

西暦1625年

 

大粒の雨が降り注ぐ森の中。

ぬかるんだ獣道を白き馬とそれに跨がったローブの者が大地を揺さぶるが如き速さで駆け抜ける。

ローブは濡れ、馬の蹄からは黒い血が滴る。

駆ける道の先に淡い火の光が見えた。馬は速さを緩め、そこで足を止める。

ローブの者は濡れた地に足を着けた。

飛び散る泥が至るところにまとわりつく。

持っている松明に火をつけると巨大な樹が灯りに照らされ存在感を現す。

空は闇に包まれているものの巨大樹は天をも貫くほどであり、雨雲をも吹き飛ばさんとしていた。


「ユグドラシルの館の主よ!マーリンの爺が参った。」


ローブの者、マーリンは古代の言葉で《道を照せ》と唱えた。

巨大樹のメタセコイヤの幹の1万本分の太さはある幹の周りを螺旋状に火の灯りが照らす。

その灯りの元には階段があり巨大樹を登れる仕組みになっていた。

幸い苔が生えているものの巨大樹の枝葉が傘となり雨で滑ることは無かった。

急ぎ足で階段を登りつめると美しい館が巨大樹の平らな枝の上に建っていた。

広さにして10エーカー。

枝の上といえども広大な土地で、川も流れている。

白を基調としたゴシック建築で内装はフランボワイアン・ゴシックを感じさせる造りで至るところに絢爛豪華な彫刻が施されている。

館の門が開くと館とは対照的に黒い衣装と腰に装飾された鞘と剣を携えた黒髪の青年が現れた。


「変わらんなサタンよ」


マーリンは青年に…サタンに挨拶の握手を求めた。


「変わらぬのは元の姿を忘れたためだ。それより古の西の魔導士がこのホッドミールの森に如何なる用があろうとな?」


皮肉混じりで握手を断られた。


「フェンリルが消滅したのじゃ。己が使命を果たされてな。」


「何!?」


サタンは困惑の表情を浮かべてマーリンを見た。

老いたシワだらけの顔だが目は若く力強かった。


「取り合えず中へ。話はそこで聞こう。」

 

部屋に入ると淡い炎の色が出迎えた。

暖炉の火がパチパチと弾ける音がなんとも暖かい。

側の腰掛けイスにサタンが座ったのでマーリンも対面側の腰掛けイスに座ろうとした。が、

自分が雨で濡れていることに気づいたマーリンは指をパチンッと弾き、魔法で濡れていた所を一瞬で乾かしてからゆっくりと腰をかけた。


「良いかサタン殿。フェンリルは闇の王としての使命、神の過ちを阻止するべく神を討ち果たしました。

神の奴めはノアの一件からの約束を放棄し人間の消滅を…」


フェンリルは地の底からの封印が解かれ人間の姿となり転生した。

そして神の企てを知り、ヴァルハラの地で神と対峙し神と相討ちし互いに消滅した。

これを聞いたサタンは顔を歪め


「残念だがマーリン、神も神の企ても消滅はしていない。」


額を擦るサタンは苦痛な悩みと言わんばかりであった。


「今何と仰せになった?」


「何度聞こうが同じこと。私とて元は神の一族だ、奴の存在を感じることはできる。
マーリン。奴は消滅していない。かなり弱ってはいるものの計画を実行するつもりだ。」


おお、なんと言うことか。

マーリンの強い眼光が曇った。

老いた手や顔がいっそうに影が強まる気がした。

フェンリルは使命を果たせなかったのだ。


「マーリン。神々が集結しようとしている。
神はかつてのように洪水を起こす力を失ったかわりに神々の軍団をもって武力で人間を滅ぼさんとするつもりだ。
フェンリルが居ない今、エクスカリバーをもって神に挑める者はいない。もはや希望は絶えたも同じ・・・。」


勢いよくマーリンが立ち上がった。

まるで何かに叩かれたように。


「フェンリルと魔女フロルの間に一人だけ子供がおります…。」


サタンも立ち上がった。

二人に光が射したのだ。


「名はハティ…。」


「して今何処に。」


生気が蘇った眼光をギョロリとサタンに向けて


「人間と共に…」

 

 


 

最終更新:2012年01月21日 13:41