matome6

495. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/22(木) 13:34:46.18 ID:mYCiP6AO
宮殿から隊列が群を為して南へ向かうのが見えた

アルゴン「モニア…弟に何かあればすぐに伝えてくれ……。教えてくれて感謝する」

モニア「かしこまりました…しかし、任務も全うできず逃げ帰った私めにその言葉はあまりにもったいのうございます…」

アルゴン「…………」

アルゴンはこの雲一つない青空が
今から起きようという現実を
見えなくしているような…そんな気がした…


――――――

○城内の茶店

オゾン「17ぁっ!?」

クロム「声が大きいです…」

オゾン「何食べてたらそんな小さくなるのさ…?」

クロム「さぁ…でも、私生活では問題ありませんから」

オゾン「問題ありありだって!さらわれちゃうよ、こわーいおっさんに!僕が言うのもなんだけど、その方面の趣味の方が黙っちゃいないと思うぜ…その容姿は」

クロム「問題ありません、すでに何人も返り討ちにしてますし、一般人にやられるようでは皇子の魔法使人は務まりませんから」

オゾン「へぇ〜……ま、いいんだけどさ」

ズズッ…

オゾン「…うまいなこれ」
496. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/22(木) 14:10:10.50 ID:mYCiP6AO
オゾン「…あいつに仕えてみてどうだい?」

クロム「……。」

オゾン(あ…)

オゾン「あぁ!ごめんごめん、アルゴン様ね」

クロム「…とても温かい方です…私のような者にさえ気を使ってくださったり、民の事をいつも考えていたり…それに…」

オゾン「それに…?」

平静を装っているが、耳が紅潮するのを見逃さなかった!

オゾン(ははーん…)

アルゴン「こんなところにいたのか」

オゾン「おわっ!!?」

アルゴン「?…クロム、さっきの話、ここで構わないか?」

クロム「…は、はい」

クロムの耳はいつも通りになっていた。

アルゴン「ハロゲンが併合を申し出てきた」

オゾン・クロム「!?」

オゾン「こいつは驚いたね、利権にしがみついた頑固者達だと思ってたけど」

アルゴン「そして開城の代わりに皇族が出向き群護人を*市政者から選任することを要求してきた」
*ハロゲン市の自治集団、主にハロゲンの大商人で構成されている

クロム「…つまり、皇子がその命を受けて私に魔法使人として従軍を…」
アルゴン「その通りだ」

オゾン(回転はえー…)

クロム「もちろんお受けいたします。しかし…」

オゾン「ニッケルもタンタルへ出陣したし、前妻の兄弟を首都から引き離してそのままアルキンを正統後継者にしようって魂胆じゃないの?」

アルゴン「…………」

オゾン「または…外征先で消すか」

アルゴン「父上はそんなことをする方ではない!!」

オゾン「あ………ごめん…言い過ぎた…」
497. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/22(木) 16:57:10.42 ID:mYCiP6AO
どうしてかその時のアルゴンには腹立たしかった
実の息子を[ピーーー]はずがない…
でも、あの父ならありえなくない…
幻想
かもしれない
最後の一言も

かもしれない
でも、信じたかった嬉しかった

わからない…わからないんだ


オゾン「じょ、じょーだんだよ!でもさ…念の為に注意は怠らないほうがいい…」

アルゴン「……わかってる…怒鳴ってすまなかった」

アルゴン「………クロム…三日後の朝出立する、用意をしておけ」

クロム「は…はい!」

アルゴン「それとオゾン」

オゾン「なんだい?」

アルゴン「ハロゲンで何かあったら準備をしておいてくれ」

オゾン「準備…?」

アルゴン「わかるだろ?」

オゾン「あー……了解了解」



三日後

わずかな者達が見送る中
アルゴン率いる1500騎が
朝の冷たい空気の中
ハロゲン市へ向け出発した
500. 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/01/22(木) 19:05:29.20 ID:I9modMY0
そういや魔族が魔法使人に孕ませたらその子供はどっちになるんだ?
まさかちょ(ry おっと誰か来たようだ
501. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/22(木) 19:09:07.25 ID:mYCiP6AO
――――――
ハロゲン市  城外

クロム「…ここにいらっしゃいましたか」

アルゴン「………」

アルゴンがいたのは死んだ兵士や市民を集団埋葬する仮墓地

戦争で死んだ数千の死体はとても埋めきれるものではなく
まだそこら中に積み上げられ
水を含んだ死体は腐敗し
悪臭を放っていた
本来は燃やすべきなのだが
死体の湿気が燃焼を妨げていた…

アルゴン「ニッケルも…」

クロム「……」

アルゴン「ニッケルも…こうなったのか」

クロム「……情報が事実ならば…私も間違いだと信じたいです」

アルゴン「部下も大勢死んだ…そして敵も…城下の人間も……」

クロム「………」

アルゴン「これが私のせいだとしたら、これからもこのようなことになるのか?」

クロム「……わかりません…」

一人で穴を埋めるアルゴンは
あまりにも悲哀に満ちていた
自分が今回の戦争で失った全ての命を背負おうとしているかのようだ…

クロム「ですが…皇子は一国の皇子!このようなことで毎回悔やんでおられては皆が迷ってしまいます!ここは―」

アルゴン「わかってる…わかってるさ…ただ、救えた者を救えなかったというのは…私も……いや、よそう。クロム、この土を埋めたら行くから先に行っていてくれ」
502. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/22(木) 19:11:39.09 ID:mYCiP6AO
>>500
おっと、それについてはおいおい説明します
503. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/22(木) 19:42:32.18 ID:mYCiP6AO
クロム「…わかりました…お急ぎください…皇子」

アルゴン「………」

ザクッ…ドサッ…

ザクッ…ドサッ…

父上…あなたは……やはり……
我々を[<FONT color=#00ed0>ピーーー</FONT>]ために……
だとしたら…あなたは…
やってはならないことをした
あなたを許さない…

私も…ただ黙っているつもりはない
私は…母上…を得た…

―――――――

女「どうしよう…このままベンゼンまで徒歩…?」

リン「馬がもう余ってないんじゃしょうがないわね…誰かのを頂こうかしら」

男「リンさん、いくらなんでも泥棒はまずいですよ」

とは言っても…乗り物なしじゃきついよなぁ……
ん…?小さな女の子…

子供「あの…」

女「ん?どうしたの?」

子供「お父さんを…看病してくれて…あ、ありがとう…」

おそらく女が戦争中に怪我人の安置室にいたとき
看病していたうちの一人の子供であろう
服のいたるところが破け血がついていた

女「あ…あぁ…お父さん大丈夫だった?」

子供「死んじゃった…昨日…」

少女の目はずっと泣いたのであろうか
赤くなっていた

女「………ごめんね…助けられなくて…」

男・リン「…………」
505. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/22(木) 20:06:06.79 ID:mYCiP6AO
女「…お名前は?私は女」

マリィ「マリィ……」

女「マリィ…ごめんなさい…」

と言ってマリィを抱きしめた


リン「わたしに何も言う権利はないけどあなたは頑張ってた、あれ以上は無理よ、あまり自分を責めちゃダメよ」

女は泣いていた

マリィ「お姉ちゃん…私はもういっぱい泣いたから大丈夫だよ」

マリィ「お父さん…最期にお姉ちゃんにすっごい感謝してたの…、あんなに人がいっぱいいたのに一生懸命お父さんを看てくれて…」

女「………」

マリィ「それでね…お母さんがお返しにって…」

後ろから女性がのった荷台つきの馬車がきた。
こちらを向くと会釈して

マリィ母「夫がお世話になりました…。これからベンゼンに向かうとお聞きしたので、これしかお礼にできるものはありませんが…」
506. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/22(木) 21:40:32.04 ID:mYCiP6AO
馬二頭と黒い簡素な荷台を繋ぐいたってシンプルな馬車である
毛並みがそろい鍛え抜かれ引き締まった馬脚
立派な馬だ…
素人目にも素晴らしい馬だとわかる。

マリィ母「うちの夫はね運送屋をやってたから、馬に関しては飛びきりうるさくてねぇ…、自分で大事に育ててたの…。あなたに使ってもらえるならきっとあの人も喜ぶと思うわ」

女「そ、そんな大事なものいただけません…!」

マリィ母「いいのよ、まだ三頭いるから。それに…長旅なんでしょう?」

マリィ「わたしもお姉ちゃんに使ってほしい!」

女「……わかりました…ありがたく使わせてもらいます」

泣いた目をこすりながら
マリィを向いて言った

女「…マリィちゃん強いのね、私なんかお父さんいなくなっちゃったとき3日も泣きっぱなしだったの…、あなたはお姉ちゃんより強いから……辛いときがあっても大丈夫!」

マリィ「うん!大丈夫!」

そして、さりげなくマリィの手におまじないを書いた

女「これは…お礼ね」

マリィ「……?」

マリィの母に再三お礼をいい私達は集合場所に向かった
一人の少女が何故あそこまで強くなれるのだろう
罪悪感と自責の念が心の中に渦巻く
自分がもう少しでも頑張ればまだ助けられた命があったかもしれない
悲しむ人が減ったかもしれない
あの状況でもそれを考えられたなら…

男「渡りに馬っていったとこかな」

リン「私が前に乗るわね」

女「…………」
507. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/22(木) 21:53:54.67 ID:mYCiP6AO
{ザクッ…

アルゴン「ふぅ……」

アルゴン「行くか……」

―――――――

クロム「皇子が食糧と弾薬と軍資金をそちらに寄付するそうです」

市政者「これは…感謝いたします……、それで群護太守の件ですが…」

クロム「皇子が中央から臨時に仮群護人を呼んだのであとはその方の指示に従ってください」

市政者「そ、それでは…要求と違…」

クロム「ならば我々を[<FONT color=#00ed0>ピーーー</FONT>]なり煮るなりお好きにしてください。この要求は市長のほぼ独断だとお聞きしております…あなたも…そうなのですか?」

スチャッ(後ろの兵士が武器を構える)

市政者「は…はは…いやだなぁ…違いますよ」

クロム「ならばあなた達の蔵に大切にしまってある金銀財宝を少しは街の復興に役立てたらどうです?」

市政者「は……ははは」

クロム「街を守りきれなかったことはまた改めて謝罪に来ます」
&br() &br()スタスタスタ… &br() &br()アルゴン「………」 &br() &br()クロム「皇子…」 &br()}
509. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/22(木) 22:35:11.27 ID:mYCiP6AO
市政者の前に立つと
何を思ったが頭を下げ

アルゴン「すまなかった…!!」

クロム「!!?」

市政者「え…あ…!?」

兵士「!!!」

市政者「頭をおあげください!」

クロム「何をやっておられるのですか!?」

兵士達の間に動揺が走った。
主君が…帝国の皇子が頭を下げたのだ!
あり得るわけがない、あってはならない!

アルゴン「私の…失態で多くの人命が奪われた…すまない…」

クロム「皇子!!何を考えてるんですか!?例え皇子に全ての責任があっても頭を下げるなんてことをしてはいけません!!」

市政者「…アルゴン皇子を責める者などいませんよ、むしろ守り抜いて貰ってみな感謝しておるくらいです……」

アルゴン「………」

市政者「今のは見なかったことにしますので…どうかお顔をあげください」

アルゴン「…………」

数秒頭を垂れたままだったが
ゆっくり姿勢を元に戻した
その顔に何か決意めいたものが見えたのに気づいたのはクロムのみであろうか
511. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/23(金) 00:40:29.60 ID:H6S1eEAO
そのあと、アルゴンは市政者に事後処理などを伝達し、ハロゲンをあとにした。
ベンゼンを出たときとは比べものにならない人達がアルゴンの背に声援を送った。
アルゴンは複雑だった。が、どこかで感じたことのあるこの高翌揚感…安心感…
しかし、思い出せないでいた…
これは…どこか負の感情を秘めているような気がしたからかもしれない

パカパカ…

アルゴン「クロム……すまなかったな…」

クロム「皇子……あなたというお方は……先に謝っておきます。ほんとうに…ほんとうに…バカです!」

アルゴン「バカでいいさ…今は……」


――――――

ガラガラガラ

ボーー…

女「………」

リン「女ちゃん…いったいどうしちゃったの?」

男「さぁ…さっきからこの調子だけど…、おぉーい」

ブンブン(顔の前で手を振る)

リン「いい加減あきらめないと、先に進めないわよ?頑張ってたんだからそれでいいじゃない。それ以上を求めるのは新たな後悔を招くだけじゃないかしら」

女「………」

女「………男君……私達…初めて会ったときどんなんだったっけ…?」

男「なんだ?いきなり?うーん……あんま覚えてないなぁ」

女「私は少し思い出してきた…」

―――――――

約二年前―ケトン国 郊外(地図参照)

女「えぃっ!!」
513. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/23(金) 12:55:14.61 ID:H6S1eEAO
ボワッ…!

ヘリュウ「うおっ!さすがは我が娘だっ!ハッハッハ!」


女、14歳
ヘリュウは女の父
ケトン国に仕える数少ない男性の魔法使人

今行っているのは、術者を中心に対角線上に掲げられた紙を同時に燃やす訓練である

※基本的に*対象魔法とは一方に対して放たれることが最も効果的であり簡単である
*対象に向けての魔法

故に、対角線や多方向に多数存在する対象に対しては
威力が弱まるか、術者の力量によっては失敗することがある
ちなみに、自分の正面で一方方向かつ一点集中のとき
その魔法は最大(術者の魔力?100%)の効果をもたらす
拡散も可能であるが、もちろん
拡散の大きさに比例して威力は弱まる
一番困難とされるのは全方位攻撃だが
それはまた今度にしよう

魔法使人入門編「対象魔法」より
514. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/23(金) 16:18:27.24 ID:H6S1eEAO
>>513
「さすがは我が娘だ」×
「さすがは俺の娘だ」○

我がじゃなんかあれだもんね…
515. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/23(金) 16:47:08.54 ID:H6S1eEAO
女「やったー!お父さんの修行のおかげだねっ!」

ヘリュウ「嬉しいこといってくれるじゃねーの!このこのっ!」

女「えへへへ…」

ヘリュウ「こりゃあ将来大魔法使人になっちまうかもなぁ!よっし今日は一通りの呪文を覚えたご褒美に俺が晩飯を作ってやるよ!好きなもの食わしてやるっ!」

女「ほんとっ!?」

ヘリュウ「あぁほんとうだとも」

女「じゃああれ!あれがいい!ご飯をカリカリまで焼いて餡掛けのせたやつ!」

ヘリュウ「わーった!わーった!」

ポツポツ…

ゴゴゴゴゴ…

ヘリュウ「雨…?こりゃあ嵐になりそうだな…女、道具まとめて家に戻るぞ!」

女「はーい!」

ヘリュウ「…………」

ヘリュウ「…………嫌な色の雲だ…」


あの頃は
あらゆるものが魅力的に見えて
世界の全てが愛しくみえた
だが、現実は全てを奪った
まるで最初からなかったみたいに…

―――――――

ザァーーー…
516. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/23(金) 17:06:18.03 ID:H6S1eEAO
ヘリュウ(まずいな…どんどん風が強くなってやがる…)

女「お父さんのお料理おいしー!」

ヘリュウ「だろー?ナトリー、窓ちゃんと全部閉めてあるか?」

ナトリーは女の母
ケトン国王女の侍女として仕えている
とても温厚で聡明な母…
女はとても大好きだった

ナトリー「大丈夫よ。ウフフ、18までで使える呪文を全部マスターしたんですって?」

女「うん!」

ヘリュウ「すごいだろ〜」

ナトリー「なら、ケトンの魔法使人任用試験を受けさせてみたら?」

ヘリュウ「ばっか、こーんな田舎国の魔法使人で終わる珠じゃねぇよ、うちの娘はっ」

ナトリー「へぇーどうするの?」

ヘリュウ「…もう少し鍛えたらアボガドロに仕官させる!」

ナトリー「本気なの?あなた、あそこの倍率すごいわよ?全国から秀才とか神童と呼ばれてる人が何千と受験してその中でたった数人しか受からないっていうじゃない」

ヘリュウ「大丈夫だよ大丈夫!なんたって俺の娘だからな」
517. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/23(金) 21:00:47.30 ID:H6S1eEAO
ナトリー「もう、あなたったら…」

ヘリュウ「ハッハッハ」

女「ハッハッハ」


ザァァァァァッー…

ガタッガタッ…

ヘリュウ「ナトリー、やっぱり少し外を見てくるよ」

ナトリー「あ、気をつけて――」

ピシャァァァッン!!ガガガガッ

女「きゃぁっ!」

雷鳴があたり一面に怒号のように響いた

ヘリュウ「ち、近いぞ!」

ドンドンドン…!(ドアを叩く音)

ヘリュウ「…!?」

こんな嵐の中に…誰だ
家族に一瞬の緊張が走った
最近魔法使人が襲われる話を聞いていたからだ。
さすがは使人、すぐに臨戦態勢に入った、が

???「わしじゃ〜開けてくだされ」
518. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/23(金) 21:32:34.09 ID:H6S1eEAO
ヘリュウ「そのお声は…*ケイ導師」

*第一章の導師

ガチャッ

ヘリュウ「どうしたのですかこんな嵐の中」

ケイ「いや〜びしょ濡れじゃわい。すまんが少し火に当たらしてもらえんか?話はそれからじゃ」

ナトリー「ど、どうぞ、こちらに…」

その魔導師は暖炉の前まで行くと腰を下ろしてため息混じりにぶつぶつ言うと、暖炉の火が一気に燃え上がった
間違いなく魔法使人だ!
女の好奇心はその、魔導師にありきたりな魔導服を纏った老人に注がれた
深く刻まれた手の皺
今まで何を見てきたのだろうかという穏やかな瞳
蓄えた白髭
女はぼーっとみとれていた

ケイ「うお〜さむいさむい…ん?おおっ、君は女ちゃんじゃな?大きくなったのお」

女「おじいさんと会ったことあったっけ?」

ケイ「そうかぁ…君は小さかったからのぉ、覚えておらんのも無理はないわい」

ナトリー「導師、毛布です」

ケイ「あ〜心配ご無用、話が終わったらすぐに出て行きますから」

ヘリュウ「それでなんですかお話とは?」

ケイはナトリーに目配せした

ナトリー「あっ…女ちゃんは隣の部屋で遊んでて」

女「はーい」
519. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/23(金) 22:01:59.09 ID:H6S1eEAO
バタン…

女「…………」

女(…私はもう子供じゃないんだから!)

このままじゃ面白くないと思った女は
丁度壁に隙間が空いているところに耳をあて隣の部屋の声を聞こうとした。
雨の音が邪魔だけどかすかに話し声が聞こえる…

ケイ「ふぅ〜それにしても…すぐ大きくなってしまったのぉ〜」

ナトリー「育ち盛りですから」

ケイ「まぁ、本題に入ろうかの……この付近で魔法使人が殺害された」

ピシャァァァッン!!ゴゴゴゴゴ…

ケイは古めかしい地図を取り出し指をさした

ケイ「昨日ケトン国の首都で魔法使人が3人殺された、どれも爪を剥がれ、顔の皮膚も剥がれとった…おそらく拷問されたんじゃろう」

ヘリュウ「………」

そして地図をなぞりながら

ケイ「何を探っとるのかはわからんが、一連の魔法使人殺害と同一人物じゃろう…、それで殺害された場所を辿ってくとじゃな、この付近に来る可能性がある」

ヘリュウ「それを教えにきてくれたのかい?」

ケイ「そうじゃ、付近の魔法使人の家にも回って避難を呼びかけておる」

ナトリー「何かうつ手はないのですか?これではやられっぱなしではないですか」

ケイ「…………ここだけの話しじゃがな……あの大魔法使人が動かれたのじゃ」

ヘリュウ「ほんとうか!?」

ケイ「他言してはならんぞ」

――――――

女(大魔法使人…)

――――――
520. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/24(土) 00:56:16.10 ID:6RA2iEAO
ヘリュウ「大魔法使人が直々に動いたなら解決は早そうだな。……で、そいつはなにもんなんです?単独犯、それとも複数?」

ケイ「今んところは詳しいことは分からんが、それなりの腕を持った使人が何人もやられておるからなかなかの手練れじゃろ。それに、これは複数犯の可能性は薄いじゃろなぁ、複数なら目撃されとってもいいはずじゃ」

ケイ「目的も依然不明じゃが、魔法使人に相当な怨恨があるとみえる。拷問をしとるということは何かを探しておるのか、はたまた趣味か……情報が少なすぎじゃわい」

ナトリー「怖いですね…」

ケイ「とりあえず、すぐに荷物をまとめて西へ向かってくだされ、他の使人達との合流場所を用意しておる」

ヘリュウ「わかりました、すぐに準備し――」

ガラガラガラ…!!ドーーーーン!!

ケイ「!」

ヘリュウ「!!」

彼等が反応したのはすぐ近くに落ちた雷ではない
異様な気配…
嵐でかき消されてはいるが確実に家の外に何かが存在している
それも途轍もない何かが

それは、女も感じていた
使人としてというより第六感的なものだろう

女(………なに…やだ……嫌な感じ……)


ヘリュウ「導師…連れがいるのか」

ケイ「まさか…わしは単独行動じゃ」

ヘリュウ「じゃあ家の外で突っ立ってるのはなんだ」

ケイ「………最悪じゃの…」

ヘリュウ「ナトリー、女を連れて地下に隠れてろ。いいな、絶対にでるな」
521. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/24(土) 15:20:33.01 ID:6RA2iEAO
ナトリーが部屋を出るのを見ると
すぐに入り口のドアを睨んだ

ヘリュウ「導師…もしや後をつけられたんじゃ?」

ケイ「気をつけてきたつもりじゃが…もしそうならすまんのぉ…」

ヘリュウ「…何体いると思います?」

ケイ「おそらく…五体と術者が一人じゃな……魔族使いかの」

ヘリュウは自分の感覚を研ぎ澄まし状況を見据え
この場でどう動くのが最良か模索した
そして…

ヘリュウ「守る戦いは得意ですか…導師?」

ケイ「………慣れとるよ」

この速決した判断はそれなりの実力を持った魔法使人であるからだろう
瞬時に敵との力量の差を察知し
自分の置かれた状況と、最善の行動を理解した
しかし、その最善の行動すら
場合によっては死ぬ可能性があるものだった

―――――――

ガチャッ

ナトリー「女ちゃん!ここは危ないから地下室に…―」


部屋を見回したが女はいない…
…足元を見ると部屋の入り口に女が横たわって震えていた

ナトリー「ど、どうしたの!?大丈夫!?」

女「……怖い…なにかとても恐いの…」

ナトリー「お父さんと導師様がいるから大丈夫よ…さぁお母さんと安全なところに」

女「う…うん…」
522. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/24(土) 15:51:20.14 ID:6RA2iEAO
コンコンコン…

雨音混じりに響くこの無機質な木音は不気味さを通りこして恐怖だった

ヘリュウは相手の情報を少しでも探るためと
ノックをしてきた相手への返答として聞いた

ヘリュウ「どなたですか」

「……………」

答えはない
ただ恐怖を煽るためなのか…

もう一度聞いた

ヘリュウ「こんな嵐の中誰ですか」

数秒のあと
ドアの向こうから若い男の声ではっきりと聞こえた


「あれはどこだ」


また数秒、間があく

なんのことだ…?
導師も首を傾げるだけだ
523. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/24(土) 17:11:09.07 ID:6RA2iEAO
そしてまた

「あれはどこだ」

心当たりはない…一体何のことだ…?意味のない言葉で相手を油断させるにも意味不明すぎる

と、その時…

「きゃぁぁぁぁ!!」

地下から悲鳴が聞こえた!

ヘリュウ(ナトリー!?)

ドスン!!

ドアが打ち破られた

そこには、黒いゴツゴツした鎧を纏い能面的な鉄仮面をつけた大男がいた
部屋の中を見回し、また

「あれをどこへやった」

ケイ「貴様の目的はなんじゃ!一連の魔法使人殺害は貴様じゃろう!」

「…………」

無表情の仮面の奥で口元が歪んだ

「魔法使人…か…奴らのせいで統一世界の実現が……実現が………」

ヘリュウ(統一世界…?何を言ってるんだこいつは!?)
524. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/24(土) 20:21:21.95 ID:6RA2iEAO
「奴らをこの世から抹消し、せかいを…統べねばならぬ……言わぬなら……吐かせる…までだ…」

ダッ!!

ヘリュウ(はっ…速い…!!)

―――――――

地下室の中には先客がいた
暗闇の中に浮かぶ青い目が4つ

ナトリー「あ……あ……」

魔族1「……雌2匹、片方はガキだぜ」

魔族2「ギッギッギ…喰う前にヤっちまうか…ギギギッ」

魔族1「じゃー俺ガキのほう!ギギギッ」

ナトリー「女!後ろに下がってて…!」

女「お…お母さん…」

魔族1「ギギギッ…親子愛ってかぁ?…すぐに何も考えられなくしてやるぜぇ」

その時女は初めて魔族を見た
人間とは似て非なるその形その思考
14歳の少女にはこの現実は受け入れがたかった
さっきまで家族で楽しく夕食を食べていたのに…
どうして…

ナトリー「わ、私も魔法使人の端くれです…防御陣ぐらいなら…!」

ナトリーはエプロンポケットから小瓶を取り出し中に入った聖水を床に撒いて呪文を唱えた

すると青く光る螺旋状の線が2人の周りを囲んだ

魔族2「ギギギッ…そんなものでいつまで防げるのかなぁ?……ん?」

螺旋状の線が包んだのは女一人だった
525. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/25(日) 00:18:54.76 ID:ZCWmvkAO
{ナトリー「女ちゃん…これであなたは大丈夫なはず…」

この防御陣は広範囲、守る物体の数、媒とした聖水の量、効力により
持続時間、対物理攻撃力、対魔力が増減する
&br()よって少しでもナトリーは女を守るために &br()守る対象を少なくした &br()それは2人を守りきれることに確信が持てないのと &br()少しでも女に危害が加わる可能性を減らすためであった &br()とっさの判断のため、まだ方法があったかもしれないが &br()女の安全を一番に考えた方法だった &br() &br()魔族1「娘を生かすために自分を犠牲にするたぁ…ギギギッ」 &br() &br()ナトリーは貯蔵していた薪を手に取った &br() &br()魔族2「それで戦うのか、なめんじゃねぇぞ」 &br() &br()女「お母さん…!ダメだよ!そんなのやだよ!!」 &br() &br()ナトリー「早く!いまのうちに外へ出なさい!!裏口から出てそのまま止まらず走って!!」 &br() &br()女「………ヤダ…!ヤダぁっ!!」 &br() &br()ナトリー「お母さんは大丈夫だから早く!!」 &br() &br()温厚なお母さんが今まで見せたことないほど顔が怒っていた &br()このまま出て行ったらどうなるんだろう &br()お母さんがいなくなっちゃう… &br()そんなのヤダ…! &br()でも…恐い!逃げたい! &br() &br()いつの間にか足は階段をかけあがっていた &br()つまずくことなく… &br() &br()ナトリー(……ヘリュウ…ごめんなさい…) &br() &br()ナトリーは薪をその場に捨て立ち尽くした… &br()闇の中に押し倒され &br()服を引き裂かれ、辱められた &br()声を出すわけにはいかない &br()女が振り返らないために… &br()}
526. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/25(日) 00:35:12.59 ID:ZCWmvkAO
裏口から出るには台所を通らなくてはならない

女「はぁっ…はぁっ…」

少し動いただけなのに息がきれそうだった
恐怖と悲しみが疲労となって極限まで体にのしかかる

ヘリュウ「ぐぁぁっ…!!」

女(お父さん…!!)

自然と足は父がいる居間へと向かっていた

居間を覗くと
血だらけの父が大男に首を掴まれ持ち上げられていた
その側にはさっきまでの食卓の上に横たわっているケイ導師

女の受けたショックはどれほどだろうか…
10歳と少しの少女にはあまりに刺激が強い光景だった

ヘリュウ「な……なんなんだお前は……!?」

「……死ぬ前に教えてやろう……」

「世界を統べる者だ」

女(世界を統べる者…!!)

ヘリュウ「……かはっ……千年も前に死んだやつがなぜここに……ぐっ」

世界を統べる者「答える義務はない」

バキッ

ヘリュウの首はいとも簡単にへし折られ
その場に崩れ落ちた

親の死ぬ音を聞いてしまった

女「うぁ…あ……あ……や……やぁ……」

あまりの恐怖を目前に
言葉が出なかった
527. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/25(日) 00:52:33.25 ID:ZCWmvkAO
あまりに理不尽な暴力
なにもしていないのに
ただここで暮らしていただけなのに

大男はこちらに気付いた
仮面の隙間から見える顔がほくそ笑んでいる

「……見つけたぞ……」

「クハハハハッ」

動けない…圧倒的な恐怖に呑まれ
体が金縛りにあったようだ

「我が悲願………成れり!」

ケイ「…*ベリュサ!!!」
*強力な閃光で敵の視覚を一時的に奪う

バシュッ!

「うっ…!!」

目をあけた時には2人消えていた

「…内臓を潰したつもりだったがまだ動けたか」
―――――――
ザァァァァー!
○女の家から300mほど離れた地点
女「あ……あ………あ…」

ケイ「だ、大丈夫かい?」

女「お、お父さんが…!お母さんももた助けなきゃ…!!」

ケイ「いいかい、よく聞くんじゃ」

ケイ「今から君を異世界に飛ばす!それから君の今の記憶を弱める!今のわしにできることはそれだけじゃ!」

ザァァァァー!
ピシャァァン!

導師が女の頭に手を当て
呪文を唱えた

ケイ「これは完全ではない、だが少しはマシになったはずじゃ」

女「導師様……何が……」

導師は答えず
雨に濡れた土に魔法陣を書き始めた
528. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/25(日) 01:14:53.25 ID:ZCWmvkAO
ケイ「こちらの世界とあちらの世界を繋ぐ、君はあちらの世界の住人になるんじゃ!」

女「あちらの世界…?」

ケイ「科学文明が発達した世界じゃ、居心地は悪いかもしれんが我慢しておくれ」

魔法陣を書き終え
土に手を付きまた呪文を唱え始めた

ケイ「ちぃっ…!もうきづきおったか…!!」

女「私…どうすれば…?」

ケイ「当面はその世界の住人として住んでおればよい!ほとぼりが冷めたらわしが迎えにゆく!」

どしゃぶりの雨の向こうから人影がこっちに向かってきた
手に何か持っている

ケイ「見ちゃいかん!!!」

それはヘリュウとナトリーのものだった

「また邪魔をするのかお前達はぁ!!」

ケイ「異次元の門よ…我が契約に基づき…貴世へといざないたまえ…契約者の名はケイ・リンドバーク……」

すると魔法陣の空中が裂け扉が現れた

ケイ「開門!!」

ゴゴゴゴゴゴゴ……

ケイ「いいかね、君は死んではならん…もしかしたら親のことを思い出すかもしれんが、気を強くもつんじゃ。さすれば新たな道が現れるやもしれん!」

女「わ…わかんないよぉ……」

ケイ「時間がない…早くその門の中に入るんじゃ」
529. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/25(日) 01:27:47.32 ID:ZCWmvkAO
世界を統べる者「止せ!!」

ケイ「貴様の思い通りになぞさせてたまるか…!」

世界を統べる者「老いぼれがっ…!ならば!*メオンラグラシア!!」

*物質を原子レベルまで分解する魔法。習得難度S

ズヴァヴァヴァ!!!

大男の腕から放たれた紫の光線は導師の腕をもっていった

ケイ「ぐぁぁっ!!」

女「導師様!!血が…」

ケイ「早くゆけい!!門が閉まるじゃろが!儂が盾になるから早く!」

「次は外さぬ!!メオンラグラシア!!」

ケイ「*アンチスペル!!」

*対抗呪文。島マナ2
531. 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/01/25(日) 02:03:51.87 ID:o0okCY6o
>>1
そういえば今後の方針ってどうなった?  このまま受験勉強と平行して書き続けるのか?
532. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/25(日) 09:30:50.73 ID:ZCWmvkAO
>>531
多分
533. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/25(日) 11:52:29.07 ID:ZCWmvkAO
門の奥は闇
まるでそこには何もないというような無の世界が広がっていた
この無の中に自分が入るなんて考えただけで恐怖で足が凍った
自分をその中に投げ込む勇気はない

バチィッ!

ケイ「ぐぅっ…!!」

ザッ

もうすぐそこにいた
能面的な仮面の大男が

女「うぁ…あ…」

世界を統べる者「無駄なあがきだ…」

手には生々しい首があった

ケイ「見てはならん!…は、早く入るんじゃ!闇を畏れてはならん!」

恐い…目の前にあるものも恐い…
どうして…どうしてこんなことに……
世界を統べる者…こいつが来たから…こいつが全部を奪ったんだ
恐いけど憎い
許さない…

その時、女を囲んでいた螺旋状の線が女の足に絡みつき
扉へと動かした
一歩…一歩…

世界を統べる者「待て!鍵よ!!」

大男が手を伸ばした時には
女の体は扉の闇の中に吸い込まれていた
そして扉は閉まり、パッと消えた


「……わかっているだろうな、老いぼれ」
534. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/25(日) 12:06:29.80 ID:ZCWmvkAO
「また…私の邪魔…をする…のか貴様等…は」

ケイは膝をつき観念したように頭を垂れた

ケイ「お前みたいなよくわからん者に若い芽を摘まれるのを見るのは…もうコリゴリじゃからのぉ…ゴホヅ」

「言い残すことはそれだけか、爺」

ザァァァァー………

ズヴァヴァヴァ!!

ザァァァァー……


―――――――

何だろう…この感じ…
無と自分が溶けて一体になる感じ…
手も足もないみたい…ただ感覚だけが残ってるみたい…

あ…光が…

私がいる…?でもなんだか違う…

違う服を着てる…

なんだか温かい…眠く……なってきちゃった……

――――――――
535. 1 ◆DlyW/s8ibQ 2009/01/25(日) 12:52:17.69 ID:ZCWmvkAO
――――――
カチッ
ジリリリリリリ

うるさいなぁ…
眠い目をこすりながらアザラシ型の目覚まし時計をみた

6:50…

「あっ…」

ここは……初めてみたのに知っている。
自分が今どこにいるのか知っている
そして、今から何をすればいいのか頭にぼんやりと浮かんできた

「唯〜朝ご飯できたわよ〜、起きなさーい」

下から声が聞こえた、あれは母の声だ。

当たりを見回す…
このアザラシの目覚まし時計…お父さんに水族館で買って貰ったやつだ…
教科書が山積みになってる木でできた学習机…中学生になったときおばあちゃんに買ってもらった…

みんな知らないのに知っている
見たことないのにいつも見ていた

「夢…?」

今見ているのが夢…?さっきまでのが夢…?

とにかく学校にいかなきゃ

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最終更新:2009年09月21日 01:26