東京都渋谷のとある廃墟。
そこに自分が召喚されて状況を確認しようとした真人は一瞬マスターの存在に気が付かなかった。
周りを見渡してあったのは何かの塊、それが人型の形をしてるのに気付き、そのまますぐ魂の形を確認してこれが自分のマスターであることを理解した。
そして同時に真人はそのマスターに関心を示した、驚きもあったと思われる。
それは人の形をしていたが、あくまで辛うじてということである。
その見た目は彼が改造した人間とほぼ似た姿であった。
これが今も魂を持って生きているというのだから驚きである。
とはいえこのままでは自分のマスターは死んでしまい、何かする前に自分も消えてしまう。
そう思った真人はそのマスターの元に近づき、自身の術式──無為転変で一度健常の状態にしようとして。
血眼となった目で真人を睨みつけ血反吐を撒き散らしながら、真人の腕を枯れきった手が掴みそれを静止させた。
それに対して真人も少なからず不意をつかれた様子だったが、無理もない。
死にかけていた、もうすぐ死ぬところだった。
そもそも生きてるのも不思議な存在であった。
そんなものが明確に拒絶の意志を示してくるとは思わなかったのだ。
そして今にも消えかけた魂が沸き立ち、呪詛が溢れ出す。
「いったい、誰の許しを得て、触れようとする……この、塵がァ!」
声そのものは僅かに搾り出されたもの、声の大きさなど微かなものにすぎない。
だがそこに宿っていた憎悪、怨念、羨望はその声から想像できないほど遥かに大きなものだった。
まるで真人だけでなく世界全てに向けているかのように。
「へえ…」
そんな男に彼はそれに興味を惹かれた。
様々な人間を見てきたが、これは今までにはないサンプルだと。
タイプそのものはそれほど珍しいものではない、病いに犯された人間ならばそういうものなのだろうと思っている。
事実、真人は先天的に病に犯された存在を一人知っている。
その時は特に思うところがなく、倒すべき敵として排除しただけだが。
彼が興味を惹かれたのはその常軌を逸した生への執念。
そしてその普遍的なものから成り立つ魂が人として異形と言っても過言ではなくなっている。
もはや人の魂ではない思えるほどに歪みきっていた。
これ自体が世界が生み出した一つの呪いと言ってもいいほどに。
正直なところ、真人はマスターという存在に対して面倒なものとしか思っていない。
自由に振る舞いたい自分に否応なく枷となるものだからだ。
聖杯戦争自体はともかく自分の願いを叶えるまでの過程で束縛されなければならないのはサーヴァントというものに不便さを感じている。
それは今も変わらないが、どうせなら面白いサンプルをマスターとしていた方が幾分かは気も紛れるだろうと思っていた。
そして生前自分は最後に良いように使われた、ならばここで人間に対する意趣返しとして次は自分が良いように使ってやろうと思いついたのだ。
「マスターなら聖杯戦争の
ルールくらい知ってるだろ? 俺はアンタのサーヴァントで、今アンタに死なれたら困るんだよ。だからアンタは黙って俺の処置を受ければいい」
「そう、か…。貴様が、俺に…献上された、道具…というわけか。いいだろう、ならば…さっさと、この俺を治せェ…!」
そして自分の生殺与奪を握る相手であろうと媚びずに唯我独尊を貫く聖十郎。
彼にとって自分以外の存在は自分に使われる存在でしかないと思っている。
ゆえに懇願ではなく命令、従って当然だろうという考え。
それが逆十字と呼ばれた男の他に対する価値観であった。
そんな目の前のマスターに呆れつつも嘲笑いながら真人は彼の魂に触れる。
酷く歪んだ彼の魂を健常な形へと変えていく。
そうして互いに見下しながら二人は主従の契約を結んだのだった。
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「手を抜いたな貴様?」
「あれだけ反抗的な態度取られると俺も気が滅入ったからね、もう少し殊勝な態度だったら違ったかもしれないけど」
真人が聖十郎に処置を施してすぐ後、聖十郎は完全に復調していないことを問い詰めたが、悪びれる様子もなく真人はそう言い放つ。
二人の間には信頼なんてものは存在しない、あるのはただの利害の一致である。
「最低限動けるくらいにはなっただろ? それに呪力を使えるようにはしたんだから、そこは感謝して欲しいね」
「…………」
「どうする? 今すぐ自害させるかい?」
「忌々しいが確かに貴様の能力は有用だ、無駄に捨てるつもりはない。業腹ではあるがサーヴァントとして使ってやろう」
どうせ出来ないことを知りながら挑発的な態度を取る真人を見ながら、聖十郎は顔をしかめつつも今はその気がないと告げる。
その答えを聞いて呆れながら肩をすくめる、こんな状態で主従契約というのだからお笑い種である。
「まあどうせ俺たちに信頼関係なんてものはないから、これぐらいがちょうどいいか」
そう言って真人は霊体化しその場を去って行く。
どこへ行くつもりかと聞こうとした聖十郎は遠目から人が近づいているのを見て、材料の確保に動いたのだと察し、離れている間に新たに手に入れた力に対する分析を始めていた。
(呪術か、盧生までの繋ぎとしては悪くない。最低限の知識は奴から聞き出したが、奴が語っていない使い道もあるだろうな。だが構わん、奴を観察しつつ呪力の性質を観察すればいいだけだ)
そう思考し、聖十郎は廃墟ビルの屋上から街を見渡した。
彼の術式の都合上、どこか人が集まる場所へ赴き、大量に人間を回収することで戦力を大幅に増やすことができる。
もっともいきなりそんな大掛かりなことを仕出かせば他の陣営にすぐ感知されるだろうが。
聖十郎は敵を恐れることはほぼないが、だからといって会う敵全てと律儀に戦うような効率の悪さも好まない。
聖杯を手に入れることは必定、肝心なのはどのように動けば効率よく事が進められるかどうか。
そうして少しだけ手に入れた時のことへと思考を巡らす。
自身のサーヴァントであるあの英霊、最終的には奴を排除しなければならない。
奴の術式を奪うとなれば先に逆サ磔を取り戻さなければならないが、もしかすれば呪術の力でそれを為せる可能性もあるかもしれない。
どちらにせよ手段はその状況において変わるだろうが、やるべきことは変わらないと聖十郎は結論づける。
人への恐れから生まれた呪霊。
ならば愛も情も分かり、人の性を余さず理解してると豪語するこの男にとってそれは己の枠に収まるものであると定義づける。
ならば逆十字に負ける通りなどない。
今までと同じように障害となる全てを排除し手に入れるだけである。
「精々高を括っていろ、貴様もまた俺のために生きている。ああ、そうだ───」
いつものように彼は宣言する。
彼にとってアレもまた一つの輝きであるならば。
「俺はお前が羨ましい」
彼が羨むのは必然であった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「柊の術式は病か」
一方人の気配を感じてその魂を確保しに来た真人はこの付近をたまり場にしていた半グレたちをコンパクトサイズの異形に変えながら聖十郎の魂に触れて読み取った彼の力に関して思案していた。
「すぐに教えてやってもいいんだけどアイツがどう悪用するのか分からない以上、まだ明かさない方がいいかな」
聖十郎に治療を施しつつ呪力を使用できるようにした真人は彼に呪術師としての最低限の知識を与えた。
本来であれば術式についても教えるつもりだったが、呪力の扱い方を実演で一度見せただけで彼は少しの時間でそれに適応してみせた、その飲み込みの早さを真人は脅威に感じた。
聖杯戦争という短期間での戦いならば制御できる範囲までしか成長しないだろうと高を括っていたが、理論だけでもあの男に授ければ厄介になると考えたのだ。
「それでも簡単に死なれちゃ困るしな、頃合いを見ながら小出ししていくしかなさそうだな」
現状決して良い関係とは言えないが、利害の一致として行動するには双方都合がいい状態である。
単にマスターを乗り換えるとしてもつまらない相手は勘弁したいところだった。
「それに柊がどんな存在になっていくかは興味がある。もしかしたら呪霊に転じさせたりできるかもしれないし、それはそれで面白そうだ」
術師に止めを刺す時、呪力によって殺害されなければ呪いへと転じる。
この世界でそれが適応されるかは不明だが、狙っても損はないだろうと真人は考えていた。
世界すべてを呪うような男の呪霊がどれほどのものになるのか、興味がないといえば嘘になる。
そんなことを考えるつつ、その場にいた人間を回収した真人は聖十郎の元へと戻っていく。
「難しいとこだね、気に入らない奴だけどただ捨てるにはもったいない」
聖杯を手に入れるまでの足掛けとして利用しつつ見世物として面白い存在として今のところ不満はない。
最終的に決裂しようとも最後まで付き合える存在ならマスターとして悪くないと結論づけた。
「どうせ最後は始末するんだ、せっかくだし遊んでおこう。滅多に会えるサンプルじゃないしね」
そうして最悪の呪霊は今後の展望とともにこれからの楽しみへと思いを馳せていった。
【クラス】
キャスター
【真名】
真人@呪術廻戦
【属性】
混沌・中庸
【パラメータ】
通常時 筋力:D+ 耐久:D+ 敏捷:C 魔力:A+ 幸運:B 宝具:EX
遍殺即霊体 筋力:A 耐久:A 敏捷:B 魔力:A+ 幸運:B 宝具:EX
【クラススキル】
陣地作成:D
呪霊として、自らに有利な陣地を作り上げる。
帳と呼ばれる ”結界”の形成が可能。
道具作成(人間):A+
宝具により魂を弄り、人間を武器や駒としての道具へと作り替えることが可能。
【固有スキル】
自己改造:EX
自身の肉体にまったく別の肉体を付属・融合させる適性だが、キャスターは別の肉体を付属・融合するのではなく自身の肉体を別の肉体へと改造することができる。
これによりある程度までなら筋力、耐久、敏捷のパラメーターを変化させることが可能。
このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。
仕切り直し:B+
窮地から離脱する能力、不利な状況から脱出する方法を瞬時に思い付くことができる。
加えて逃走に専念する場合、相手の追跡判定にペナルティを与える。
さらに宝具の使用により逃走できる確率を上げることができる。
直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。
【宝具】
『無為転変』
ランク:EX 種別:対魂宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
相手の魂に触れ、魂の形状を操作することで対象の肉体を形状と質量を無視して思うがままに変形・改造する術式。
手のひらに直接触れられなければ効果はないが、魂を守れなければそのまま改造され、改造された者は二度と元に戻れず遅かれ早かれ死ぬ。
キャスター自身に対して使うとノーリスクで自身の肉体を自在に変形させられるため、肉体の武器化や身体能力の強化が容易に可能。
また即死させずに対象に少しの強化や肉体回復をさせることも可能である。
応用性が高く、改造人間の生成にトカゲの尻尾切りの要領で自切したり、宝具を使用できない分身を生み出すこともできる。
そしてこの宝具による攻撃は魂に直接作用するものであるため、肉体の不死性は意味をなさない。
ただし生前であれば魂を知覚しなければキャスターにはダメージを与えられなかったが、サーヴァントはその基本が出来ているため、生前ほど無敵とはならない。
魂の防御もサーヴァントでは難しくないため、仕留めるにはそれなりの時間触れる必要が出てくると思われる。
『自閉円頓裹』
ランク:EX 種別:結界宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:結界内全て
キャスターの領域展開、風景は縦横無尽に人間の腕が伸び格子のように相手を囲む漆黒の空間を展開する。
「無為転変」を必中化する領域で、対抗手段を持たないものが引き込まれてしまうと、なすすべもなく餌食になる。
ただし領域展開の使用後はかなりの消耗を強いられ、わずかの間だが『無為転変』 が使用不可となる。
『遍殺即霊体』
ランク:A 種別:改造宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
複数回の黒閃発動を経て掴んだ「自身の本当の魂の本質」を具現化するべく、無為転変で自身を改造したことで変貌したキャスターの真の姿。
これまでの姿を脱ぎ捨てて「魂の羽化を果たした姿」とも言える新たな形態。
パラメーターを肉弾戦用へと変化させるが、魔力消費が大きい。
この形態ではこれまでとは正反対に、トリッキーな肉体変形に依存しない肉弾戦を駆使する。
攻撃手段は主に格闘戦に加えて肘の動きに合わせた棘による斬撃や尾による打撃で、マフラーのような触手で敵の四肢を絡め取り動きを縛る小技も扱う。
この形態時はブレード部分以外の変形は不可能となる。
この形態でも『無為転変』は使用可能。
【weapon】
『改造人間』
無為転変で魂を改造され怪物化・奇形化させられて操られる犠牲者の総称。或いはキャスターに即死させて貰えなかった人間の末路。
犠牲者は脳髄を弄られている関係上ほとんど自我を失い人々に襲い掛かり、コンクリートの地面を素手で叩き割り、
民間人程度なら食い殺すなどして容易く殺傷できる程に身体能力が高められているが、僅かに残った自我を使い助けや死による救いを求める傾向にある。
戦闘では意のままに動かせる戦闘員、奇形を利用した醜悪な武器や飛び道具、動く足場などとして運用。
「武器」や「手駒」となる人間が多くいる市街地はキャスターにとっては武器庫に等しい。
またサーヴァントとして召喚されたことで魂喰いを行えるため、魔力不足の時に収縮した人間を取り込むという非常食としての役割も果たしている。
「多重魂」「撥体」
多重魂は二つ以上の魂を融合させる技で、撥体は「多重魂」により生じた魂の拒絶反応を利用して魂の質量を爆発的に増大させ、攻撃として利用する技。
消費する改造人間の数に比例して攻撃範囲と攻撃力が増していき、通常の改造人間を消費した攻撃よりも更に広範囲の攻撃ができる。
「幾魂異性体」
拒絶反応の微弱な魂同士を合成した改造人間、その魂を燃料に、爆発的な攻撃力を一瞬だけ実現する。
その攻撃力はかなり強力だが、攻撃力以外は大したことはない。
【人物背景】
自らを「人が人を憎み恐れた腹から生まれた呪い」と称しており、実態は「人が人へ向ける負の感情」から生まれた呪霊。
髪が長く、身体中継ぎ接ぎだらけの青年のような姿をしている。
軽薄な性格で、発生したばかりの呪霊ゆえに無邪気で子供っぽく好奇心旺盛。
表面上は人間にも優しく接するが、本性は呪霊らしく冷酷非情で人間を見下しており、逆に同族である呪霊には、心から親しみを持って家族や親友の様に接する。
基本的には改造人間や変幻自在の肉体を駆使して距離を取りながら敵を翻弄しつつ戦う極めてトリッキーな戦術を駆使。
更に大量の一般人の命を使い捨ての消耗品として使い潰していく残酷で悪趣味極まりない戦法が特徴。
また悪意に満ちた言動と嘲笑、改造人間で敵の心を揺さぶりペースを乱すことも得意。
【聖杯への願い】
受肉して呪霊の世界を築くのが第一目的
虎杖と羂索に復讐するのが第二目的
それはそれとして聖杯戦争では好き勝手に暴れる
【備考】
マスターがいなければ現界できないため、死なれては困るから面倒と思ってると同時にあまりないタイプの人間で見物するサンプルと興味を持っている。
【マスター】
柊聖十郎@相州戦神館學園 八命陣
【聖杯への願い】
聖杯を得て、盧生の資格を手に入れる
【weapon】
なし
【能力・技能】
文化人類学全般の分野で名を馳せる天才であり、語学も二十ヵ国以上の言葉を話せるほどの知識と失敗に終わった邯鄲法を研究し、一人で実現一歩手前まで研究を進めるほどの頭脳を持つ。
さらに相手の技術、戦法、体術を見切り、それに対応するどころか「覚える」事で自分の技術として使用できるようになるほどの戦闘センスの持ち主。
盧生との繋がりはないため、邯鄲法は使用できないが、キャスターの宝具により呪力を使用できる状態となっている。
術式は病とされているが、現時点では使用不可。
今後の成長次第では手足に病魔の概念を纏わせたり、本来の技である逆サ磔のような力の略奪が可能になるかもしれない。
【人物背景】
隙のない凍結した鋼のような気配を纏い、顔立ちこそ整っているが非人間的なほどその印象は温かみを感じない。
酷薄、冷厳、威圧的な容姿ながら、幽鬼のような不確かな存在感を滲ませる「ただそこにいるだけで、すべてを不安にさせる人間」
氷の計算機めいた極めて冷徹な精神を有し、遊びがないため過虐はないが、同時に情けもないため容赦もない。
息子である四四八に対しても欠片ほどの愛情も示さず、彼を含め全ての他者を自分のための道具としてしか見做していない。
超人的な肉体と、極めて優秀な頭脳を持つものの、その精神性と行いは鬼畜・外道の類であり、真っ当な人間からはかけ離れている。
実は数多の病魔を発症し続け生涯一度たりとも健常であれた事のない特異体質な肉体の持ち主。
並の人間ならすぐに死んでいるが、彼は超人的な身体能力と、皮肉にも”病に屈しない強烈な自我”を持って生まれた為、数十年の間耐え続けている。
【方針】
聖杯への願いが第一でそれ以外のものは全て自分のための道具と考えている。
サーヴァントに対しても同じでかなり役に立つ道具としか見ていない。
【備考】
本来は数多の病魔を発症し続け生涯一度たりとも健常であれた事のない特異体質な肉体だったが、自身のサーヴァントにより半端に治癒されている。
なお聖十郎は邯鄲法を取り戻した暁には逆サ磔にかけてやろうと思っている。
最終更新:2022年08月15日 16:01