夢を見ていた。
そこで見たのは、ゲームの中で見たような世界と、その世界を仲間と共に冒険する青い髪の兄ちゃんやった。
夢の中で彼は、色んな怪物と戦っとった。
緑の太ったトカゲのような怪物、オレンジ色の怪鳥、醜悪なまでに太った半魚人、赤銅色の筋肉に覆われた魔人。
そして最後に、手と頭だけになった怪物の王を倒して、世界を救った。
人を笑わせることしか出来ず、誰も救えなかった僕とは大違いやった。


けれど


――レックにいちゃん、だいすき……さよなら……。
――さみしいけどそろそろ、おわかれの時がきたみたいね……。さようなら、レック……


彼が他の誰よりも守りたかったはずの二人の女の子は、泡沫へと消えていった。
それもそのはず。二人の存在は夢が作り出した偽物なのだから。
夢の世界にいた彼らは、怪物の作った世界の舞台装置のようなもので、怪物の力によってその存在を許されていたのだから。
まるでダニXによって生きることを許されていた『竜宮』の住人のように。


それを考えると、想い人と同じ場所で死ねた僕は幸せなのかもしれへんな。
誰かの人生を比較して悦に浸るつもりはないが、そんな風に思ってもうた。




カーテンから差し込んでくる眩しい太陽が、僕を照らす。
『竜宮』を照らしていた人工の灯りではない。
網膜が焼け付くような感じは、確かに二度と拝めることが無いと思っていた太陽やった。


「おはよう、ピート。」
『何やねんその言い方。とっくに昼やっちゅうに。』
「そんな時間か。どうにもホッとしてしまうと、遅起きになってしまうわぁ。」
『アンタ元の世界にいた時でも、仕事ないとき遅まで寝とったやろ!』


僕の兄、正確には兄が遺してくれた腹話術人形のピートは、この世界でも話しかけてくれた。
こんな風に言うと、頭おかしい奴としか言われへんと思うが、それでも事実や。

「あの時お別れやと思ったのに、また会えて何よりや。」
『アホやなー。生まれ変わったんなら、綺麗な女の人の手に動かして欲しかったわ。なんで生まれ変わってまでおまえとおるねん。』
「アホとはひどいな。僕がこんなに喜んどるというのに。」

たとえ一人だとしても、いつもやっていたことをやらないと、どうにもしっくり来へんらしい。
聖杯というのは、どうやら僕に寄生していたダニXまで生き返らせたーーということは無かったようで、鼻血も倦怠感も頭痛も無くなっとった。
着替えて家を出て、向かった先は芝生の青い公園。
二度と拝むことの出来なかったはずの地上を満喫しながら、ずっと前からやっていたことを始める。
既に子供たちが近くに集まっていた。
中には主婦や、散歩中のおじいちゃんらしき人もおった。


「はーい、こんにちは!ピート兄弟どぇー――ーす!」


いつものように、竜宮にいた時のように、竜宮に来る前のように、ピートと一緒に芸をやる。
笑ってくれる子供たちがいるのは、ええことやと思う。
あの竜宮でも、笑ってくれる子供たちがいたから、嘘つきでいられることが出来たしな。


「これは僕が高校生の時、ピートのズボンが脱げてな」
『笑うなや!人の失敗を笑う芸は、もう古いで!』
「君は人ちゃうやん!」
『こういう時だけ都合よく人形扱いするなや!』


こうしていると、どうにも落ち着いてくる。
どちらが嘘で、どちらが本当のことなのか分からなくなってくる。


「長くなったけど、これで今日の講演は終わり。みんなありがとう。」
『ほな、またな!!』
「先に言ってどうすんねん!ほな、またな!!」


満足したらしい子供たちが帰って行く。
この瞬間は、きちんと仕事を出来たのだと気持ちよくなる瞬間やった。

でも、僕の芸で笑ってくれへん人が一人いる。

「面白かったよ、マスター。」
少し高いくらいの、若い男性の声が、木の上から声が聞こえる。
そこで腰かけていたのは、夢の中で見た青髪の青年やった。


「ありがとう、マスター。」
『お世辞や。なんでわしの芸に笑わんねん。木の上に座ってるのがバレるくらい、デッカイ声で笑えや!』
「こら、マーク。セイバーに対して失礼やぞ。」


気まずそうな顔をしたセイバーは、顔を歪める。
それは僕が何度も目の当たりにした中で、特に下手くそな嘘の笑顔やった。

「ごめんね。これでも面白く感じているんだ。けれど俺は笑えないんだ。」


お笑い腹話術師として、僕は色んな人を笑わせて来た。
その中には、災害や離別によって笑顔を無くした人もいた。
一度は死んだ僕でも、ここまできっぱりと笑えないと言う人は初めて見た。
でも、セイバーが笑えなくなった原因を見てきたのだから、仕方がないとしか言えへん。

「君まで暗い顔することは無いよ。俺は勇者としての役目を果たしただけなんだから。」


ぎこちない笑顔で、セイバーはそう語る
「………。」
『おまえが励まされてどないすんねん!』
ピートがそう突っ込んでくれる中、不意にある言葉を思い出した。


――最後の最後まで嘘つきでいられるか?


僕が竜宮に来るきっかけになった質問やった。
意図も分からんままハイハイ答えて、竜宮を新設のレジャーランドか何かやと思て付いて行ったんや。
その後すぐにわかることになった。


『竜宮』は可能性のある人間を未来に遺すためのシェルターやってことを。
その先で僕は普通なら一生かかっても見れへんはずのものを、いやというほど見ることになる。

竜宮越しに見ることになった、隕石によって崩壊した日本。
食糧不足を解消するために、間引かれていく竜宮の住人たち。
そのあとすぐに、蔓延していく殺人ダニ。
鼻血を出していなくなる仲間。


そんな中でも、腹話術師としての役割を全うできるか聞かれたんやった。


その時、僕は分かった。
この若いセイバーの兄ちゃんも、最後の最後まで勇者でいられるか、誰かから言われたんやろな。実際に言われたわけではないにしても。
その結果が、今のセイバーなんやろ。


夢で見たあの冒険は、映画か何かと勘違いするくらい壮大やった。
僕より若いのに、あんな冒険を生き残るなんて、凄いとしか言いようがない。
情けないことこの上ない話やけど、あんな経験を積んでしもうたら僕の芸なんかで笑わせることなんて出来へんと思う。
いや、彼を笑わせる心当たりが無いわけではあらへん。
こんなのに頼るのは、腹話術師として最低の方法やと思うけど。


「ごめんな。人を笑顔にする仕事やというのに、何も出来んくって。」
「まさか、僕の笑顔のために聖杯を取ろうって考えてるの?」

見透かしたかのように、セイバーは問うてくる。

「そんなことしなくていいよ。俺の大切な人たちは、今でも……。」
「マスターとしてお願いや。」


僕は命令した。令呪を使ったわけではないが、心から懇願した。
彼の作り笑顔が、あの時最後のラーメンを食べさせてくれたおっちゃんの顔に似てたから。


「僕の前でだけ、嘘をつかないでや。噓つきは竜宮へ行った人らだけで十分や。
ヒーローになれるくらい強なったんやろ?じゃあ嘘つかんでも生きていけるはずや!!」

本当は強くても嘘をつき続けなきゃいけない人がいるのは、竜宮で学んでいる。
僕よりずっと色んな人を笑顔にした火野選手やミキ・マリかて、嘘つきにならなければアカンかった。
あの場所では、誰もが嘘をつき続けることを頼まれた。
ここでも、世界は僕らに嘘つきでいろと言うのか。
じゃあ、本当の僕らはどこにあるというんや。


せめて、自分は嘘をつき続けるのはいいが、隣にいる人間ぐらいは正直にいて欲しいと思った。

「俺は……。」

それを聞いたセイバーは、目をぱちくりとさせた後、絞り出すかのような声で言った。


「俺は……俺はあの穏やかな世界で、いつまでも妹と一緒にいたかった!嘘の妹でも良かった!!
そして……バーバラには消えて欲しくなかった!たとえ勇者なんかにならなくっても!!
手に入れた力は他人の為じゃなくて、自分のために使いたかった!!」


一度穴をあけてしまうと、止め処なく感情はあふれて来た。
まるで竜宮の穴から漏れ出た水のように。


「改めて聞くで、セイバー。何をしたいんや。」

僕にとっても、それ以上聞く必要のない事やった。
けれど、覚悟を決めるためにあえて聞いた。


「俺が愛したウソを、夢を現実にしたい。たとえ仲間や故郷を捨ててでも。」
「分かったで。セイバー。あんたと違て戦いは出来へんけど、あんたが笑顔になるまで、僕は一緒にいたる。」
『わしもいっしょにいたるわ!』

僕には分かる。きっとこの先、あの竜宮であったみたいなことがあるはずや。
それでも、僕はセイバーの笑顔が見たいねん。マスターとして、笑顔にさせてやりたいねん。

なあ、聖杯だっけ?お願いがあるんや。
僕はずっと嘘つきでいたるから、あの悲劇も離別も、災害さえも嘘にしてくれへんか。




【クラス】セイバー
【真名】レック@ドラゴンクエストVI 幻の大地
【属性】
秩序・善
【ステータス】
筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:B 幸運:E 宝具:A

【クラススキル】
対魔力:A~EX
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
また、下記の宝具の使用によって、1度魔法を跳ね返すことが出来る。

仕切り直し:B
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。

ふかくおもいだす/わすれる:A
出来事・セリフなどを正確に思い出すことが出来る。また、不必要なものを捨てることも可能。

自己回復:A
回復呪文による自己回復。

【保有スキル】

勇者:A
彼が持つスキルで、雷の魔法、自身とマスターを鉄に変える魔法、あるいは毒を受けても、致命傷を被っても命尽きるその時まで全力で戦えるスキル。
何が会ってもその役目を全うすることを望まれたのが勇者なのだから。
また、混沌、もしくは悪属性を持つサーヴァントに対して与えるダメージが大きくなる。


【宝具】
『幻の大地』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
レックが、冒険の途中で見つけて、装備した剣、盾、兜、鎧のセット。
天空からの授かり物である勇者の武器で、夢を創りし魔王を討った。
各装備品の能力は以下のとおりである

  • ラミアスの剣
イナズマの文様が象られた剣。振ると斬撃と共に、爆発が起こる。

  • スフィーダの盾
中心に十字架をあしらった白い盾で、使うと敵の魔法を跳ね返すことが出来る。他にも、氷系のダメージを抑えられる。

  • オルゴ―の鎧
ハートのような印が刻まれている鎧で、炎の攻撃を軽減する。また、一定数歩くごとに宝具を使ったセイバーの体力を回復させる。

  • セバスの兜
頂点に太陽のような印が彫られている兜で、精神に作用する攻撃を無力化する。

【weapon】
ラミアスの剣

【人物背景】
嘘をつき続け、人間を守るために大切な人たちと愛していた世界を犠牲にした勇者。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯の力で、嘘を本当にする。


【マスター】
茨木真亜久@7seeds

【マスターとしての願い】
聖杯という嘘のような力を持って、本当を嘘にする。

【Weapon】
なし。

【能力・技能】
腹話術師だったので、戦える力は無い。だが、どんな状況でも自分の役目を全うする胆力はある。

【人物背景】
兄の遺した人形ピートと共に「ピート兄弟」として活動していた腹話術師。
ある日、「最後の最後まで嘘つきでいられるか?」と聞かれ、そのまま災害用シェルター『竜宮』で活動することになる。
だが、竜宮で致死率100%の謎の寄生ダニ「ダニX」が蔓延し、次々と人が死んでいく。
想い人までも寄生ダニに感染していたことに気付き、彼女ら生き残りを冷凍庫に閉じ込めたのち、自分の命も断とうとする。
最期に宿主を殺させまいとする寄生ダニの抵抗に遭うが、自分すら騙すことで自殺に成功した。


[行動方針]
聖杯は欲しい。
かつて腹話術師としての役割を全うした時のように、聖杯戦争のマスターとしての役割を全うするつもりだが、他人の笑顔を奪いたくない。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2022年08月18日 20:38