暗い。昏い夜だった。
月も星も分厚い雲に覆い隠され、狂風が吹き荒ぶ夜だった。
ただでさえ氷点下に到達した気温は、風の為に体感温度を更に下げてくる。
こんな夜に外を歩く者は、よほどの急用があるか、飛び抜けた豪胆さを持つものかの何方かだろう
現に、建ち並ぶ家々は、門も扉も窓も雨戸も固く閉ざして、外と内とを完全に分け隔てていた。
その様は、忌むべきものが、家の中へと入り込むことを阻止しようとする、虚しい努力を思わせた。
「此処か…………?」
街灯の灯り以外には光の無い住宅街の一角。
雑草のい生茂る広い敷地と、その周囲を取り囲む、薄汚れた高い塀を持つ、4階建ての広壮な屋敷の門前に、8人の男女の姿があった。
彼等は聖杯戦争を勝ち抜く。その為だけに手を組んだ四人のマスターと四騎のサーヴァントである。
全員が全員、魔術師では無く、鉄火場の経験も無し。聖杯が手に入れば欲に目が眩む事だろうが、進んで聖杯を望んでいると言う訳では無い。引き当てたサーヴァントは当たりと言って良いが、キャスターを引き当てたマスター以外は、サーヴァントを運用する魔力の確保と維持に汲汲としている有様。
必然。手を組もうということになる。キャスターが霊脈から確保した魔力を他の三騎に分け与え、三騎は直接の戦闘能力に乏しいキャスターの前衛となって戦う。
マスターもサーヴァントも、互いの負担とリスクを減らせるこの同盟は、組まないという選択肢が最初から存在しない程に魅力的ではあった。
更に言えば、聖杯戦争を勝ち抜く途上で、互いの戦い方、得手不得手や戦う上での癖、得意とする、或いは好む戦い方や、逆に、苦手とする、或いは好まない戦い方。更には切り札、秘奥である宝具。
それらを知り得る事で、やがて来る決着の時に戦局を自身に有利に導く。そう言う意図も存在していた。
いずれは戦う時が来る。サーヴァントもマスターも、殺し合うその時を規定の未来とした上で組んだ同盟は、今日までに三騎のサーヴァントを首尾良く脱落せしめたことからも、確かに功を奏したと言える。
───────────────────
932:Night Walker ◆/dxfYHmcSQ:2022/08/20(土) 22:44:38 ID:Pn4fKQg.0
「間違いない。噂になっているのは、この屋敷だ」
それは、他愛の無い噂話だった。
人が住まなくなって久しい洋館に、『出る』というかものだ。
無論。ただの噂だ。
ある少年は、金髪の幼女が家まで尾いてくると言い。
ある主婦は、白いワンピースの女に地獄へと連れ去られると語り。
ある青年は、かつてこの屋敷の住人を皆殺しにして己も自殺した、屋敷の主人の怨霊が、邸内を彷徨っていると囁いた。
そんな噂であり、そんな噂を持つ屋敷だ。
10人知る者がいれば、10人が違うことを語る。
所詮はただの噂話。実物は単なる廃屋に過ぎない。
────その筈だった。
この廃屋が、真正の『曰く付き物件』として認識され出したのは3日前。肝試しに入り込んだ大学生の男女5人が、全員そのまま帰って来なかった時からだ。
警察が屋敷の内部を捜索したが、人が侵入した痕迹すら見つからなかった。
「間違い無い。サーヴァントの気配だ」
固く閉ざされた門扉の前。周囲に鋭い眼差しを配りながら、西洋風の甲冑に身を包んだ壮年の男───ライダーが言う。
「中にいるのは一騎。陣地が構築されている様子は無い。一気に決められる」
ゆったりとしたロープに身を包んだ男───キャスターが語る。
「気味が悪ぃな。こんな所、サーヴァントは兎も角、マスターが持たんだろう」
軽鎧を身につけて、自身の身長よりも長い槍を肩に担いだ女────ランサーの言葉に、全員が不気味そうに屋敷を見た。
荒れ果てている。という表現以外に用いようが無い。それ程までに荒涼とした屋敷ではあるが、それだけではマスターはまだ兎も角、サーヴァントの心胆を寒からしめることは出来ない。
屋敷の敷地内に立ち込める凄まじい妖気。神代の魔物でも巣食っているのかと、四騎のサーヴァントが揃ってそんな事を思ってしまった程に、屋敷から感じる妖気は濃密で、悍ましかった。外に居てこれならば、内部はどれ程の惨状を呈しているのか。一つ、息を吸っただけで、肺腑が爛れ果て、腐った血を吐いて死ぬ。そう、言われても、此処にいる誰もが信じただろう。
凡そ、人が居住できる環境では無い。そもそもが居住以前に、人が────生物が居られる環境では無い。現に庭を仔細に観察した四騎は、庭に生物の気配が一切存在しない事に気付き、戦慄していた。こんな環境下にある屋敷に潜むマスター。サーヴァント共々、『怪物』と呼ぶに相応しいシロモノである事だろう。
『遠見』の魔術で屋敷内を走査したローブの男───キャスターが、陰鬱な表情で言った。
「4階に棺が一つ。地下室に人間が五人。地下室の五人は生きていない。死人だ。ついでに言うと屋敷の中に存在するのはこれだけだ。ネズミ一匹、ゴキブリ一匹居ない」
「棺が…って事は、そういう事かよ……」
己がサーヴァントの言葉の意味を正しく解釈した、キャスターのマスターが、心底嫌そうに言った。
魔術師では無い、ただの一般人だが、キャスターの言葉の意味を解することは簡単だった。
吸血鬼、死徒。夜の一族。そう、呼ばれる者達が、この屋敷の中に巣食っているのだ。
生者の気配がない。つまりこの屋敷に巣食うサーヴァントを召喚したマスターは…。
マスターの運命を想起して、全員が息を呑んだ。
「マスター達は此処で待っていて貰おう。中に居る死徒がマスターであったのならば、サーヴァントと死徒を同時に相手取ることになる。万が一が無いとは言い切れん」
今まで無言だった最後の一人。壮麗な全身甲冑に身を固めた女───セイバーが言い。
ランサーをマスター達の護衛に残して、三騎のサーヴァントは、霊体化して屋敷に侵入した。
三騎が屋敷に侵入したのを見送ったランサーは、何の気なしに空を見上げ、屋敷へ向かって空を飛んで来る人影を見た。
───────────────────
933:Night Walker ◆/dxfYHmcSQ:2022/08/20(土) 22:45:06 ID:Pn4fKQg.0
「これは…」
全ての壁が破壊され、一つの広い部屋と化した四階の空間に置かれた棺。晴れていれば、明かり取りの窓から差し込む月光に照らし出される位置に安置されたその棺を前に、三騎のサーヴァントは戦慄していた。
屋敷の中の空気を、それこそバクテリアでさえも死滅したとしか思えない程に汚染し抜き、サーヴァントである三人でさえもが、気を抜けば妖気に肉体を蝕まれて衰弱しきり、精神を蝕まれて思考や意識の喪失思想になる程の妖気が 、この棺から発散されている。というのも無論あるが、それは三騎が戦慄する直接の原因では無い。
その原因は、棺そのものに有った。棺の主の名を、棺を見た者全てに悟らせるその意匠。
凡そ人間二人を収める事ができる大きさの棺。その表面に黄金を用いて施された意匠は、天空を舞う龍(ドラクル)。
この様な棺に眠る者の名など、彼等は一つしか知らない。他に知り得ない。
「中に居るのは…かの竜公か………」
女のセイバーが漏らした呟きは、その場の全員が、背中に重石を乗せられたような錯覚を覚えた。
全員が撤退を考えていた。棺の中に眠る吸血鬼が『あの』名を持つ者だとすれば、夜に挑むのは愚行や蛮勇という以前の問題だ。撤退して、昼間に陽光の加護のもと挑むべきだった。
棺から目を離す事なく後退した三人は、棺から気を逸らさなかったからこそ、肝心な事に気づけなかった。聖杯戦争とはサーヴァントとマスターが組んで戦うという事を。
棺の中で眠る者が、マスターとサーヴァント何方にせよ。此処には『一人しか居ない』という事を。
肉の裂ける濁った音がした。
三人の布陣は、セイバーとライダーが前に出てアタッカー。キャスターが後方でバックアップという至極オーソドックスなものだ。
音は後方────キャスターの居る位置からした。
光の速度で振り返ったセイバーとライダーが見たものは、胸の中央から、白い繊手を生やしたキャスターの姿。
だが、明らかにおかしい。手の大きさから推察される手の主の大きさは幼女のそれ、成人男性であるキャスターの胸を貫くには、上背が足りないのだ。
二人の疑念は、手が引き抜かれ、キャスターが崩れ落ちた事で解消された。キャスターの胸を貫いたのは、淡い金髪に真紅の瞳の幼女。背には決勝か宝石のようなものがぶら下がった一対の枝、としか言い表しようのない翼。
こんな翼でも飛ぶ事に不自由は無いらしい。幼女は床から三十センチほど浮いて、感情の窺い知れない瞳で二人を見つめている。
「貴方達は、人間?」
外見相応の幼い声。だが、人理に名を刻んだ英霊二人が、総毛立ったのは何故か。
「いいや、死人よ。儂と同じく、な」
錆を含んだ声が言った。蝶番の開く、軋むような音がした。棺の主が、起きたのだ。
咄嗟に左右に飛び、幼女と棺の主を同時に視界に収められる位置を取った二人は、妖々と起き上がった壮漢を見た。
圧倒的な顔相の長身の男だった。瘤のような額の隆起を、逞しい鷲鼻が堂々と支え、強烈無比な意思力を示す分厚い唇と岩のような顎は、あらゆる困難をねじ伏せてきた力の具現だった。
一見、粗野ともいえる顔立ちに異を唱えるのは、糸のような二筋の眼であった。その形と色とを信じるのならば、この壮漢は、誇り高い家柄に生まれ、優美と権力を糧に育ってきたのだった。
深い海のような色の瞳と黄金(こがね)の髪の色を、二人は見ることができた。
取るべき選択は二つに一つ。逃走か、戦闘か。
降伏や交渉という選択肢は存在し無い。容れられる事など全く無く。その場で殺されるだろうという確信が二人にはあった。
二人は即座に逃走を決断した。この主従は底が知れなさすぎる。視線を交わすと、互いに背を向け、逃走を開始する。屋敷前に居るマスターと速やかに合流して、撤退。安全を確保してから、日が登るのを待つ。これ以外に選択肢など存在しない。
棺の主から見て右へと走ったセイバーは、五歩を駆けたところで、右肩を強烈に圧搾されて動きを止めた。
棺の主が右手を伸ばして、セイバーの肩を掴み、凄まじい圧を加えているのだ。
だが、いつの間に?既に30mは距離を離した。如何なる神速を誇るサーヴァントでも、これだけの距離を詰めるのならば気配がする筈。まるで瞬間移動を思わせる速さだった。
セイバーは振り解こうとし、右肩に生じた灼熱の感覚に絶叫した。無惨にも鎧ごと右腕を付け根からもぎ取られたのだ。
「儂の国では、死者が先に部屋を出る」
壮漢の右手に、己が剣の鞘が握られているのを。視界の奥で、幼女が振るった炎の剣に、ライダーが腰斬されるのを、セイバーは呆然と見つめていた。
───────────────────
934:Night Walker ◆/dxfYHmcSQ:2022/08/20(土) 22:46:08 ID:Pn4fKQg.0
屋敷の敷地内では小規模な混乱が渦を巻いていた。
極僅かな時間に、二人のマスターが令呪を失えば、場を恐怖と混乱が支配するのは当然だ。
戦況が極短時間に絶望的に不利になった事を悟ったランサーは、自身のマスターを連れて逃走する事を決意した。
セイバーがまだ残っているが、ライダーとキャスターが瞬殺されている以上、長く持ちはするまい。
恐怖に自失しているマスターの襟首を掴んで、ランサーがその場を離脱したと同時。残された三人の所にセイバーが落ちてきた。
屋敷の屋根から相当な速度で投げつけられたのだろう、直撃したキャスターのマスターは、原型を留めぬ肉塊と化して即死した。
恐怖に硬直したライダーとセイバーのマスターの前に、金髪碧眼の偉丈夫が、地を震わせて降り立つ。
胸に鞘を突き立てられ、半死半生のセイバーの顔を掴んで、自分の頭よりも高い位置に持ち上げると、首筋に牙を立て、溢れる血潮を嚥下し出した。
全身を痙攣させるセイバーに一切構うことなく、グビグビと音を立てて血を飲み干すと、貫手をセイバーの胸に撃ち込み、心臓を握り潰した。
「この様な身の上になっても腹は減る」
偉丈夫が視線を上に向ける。つられてライダーとセイバーのマスターも上方にに視界を向けると、背に一対の枝を生やした人影が浮いているのが見えた。
「儂のマスターも、な」
運命を悟った二人は、糞尿を垂れ流しながら、立ち尽くしていた。
偉丈夫の掌の中で、セイバーの身体が黄金に粒子となって消えていった。
───────────────────
常人の眼には、黒い影としか映らぬ速度で駆けながら、ランサーは歯噛みしていた。
館の中で何が起きたのか、あの偉丈夫は何者なのか、何も判らない。
セイバーも、ライダーも、キャスターも、せめて相討ちに持ち込むなり、叶わぬのならば、真名を明らかにするなり、せめて手傷の一つでも負わせるなり、してから斃れれば良いものを。これでは何の為に同盟を組んでいたのか。だが、愚痴を言っても始まらない、今はあの3人が殺されている間に、少しでも距離を稼ぐ事だった。
とは言え、マスターを抱えての身では、如何に最速を誇るランサーのクラスといえども、出せる速度など高が知れている。焦燥と苛立ちを、野生的な美貌に刻んで、夜の街中を疾駆するランサーは、ふと上に視線を向けた。
何ということはない。只、抱いていた自負が裏切られ、自信を喪失し、進退窮まった者が、無意識の内に取った所作というだけの話である。
だが、しかし。
其処に、居た。
漆黒の夜闇を背に。
其れは、居た。
935:Night Walker ◆/dxfYHmcSQ:2022/08/20(土) 22:46:30 ID:Pn4fKQg.0
ランサーの瞳は、闇夜の中にあっても煌めく、宝石の如き輝きをはっきりと見る事が出来た。
宙に浮かぶ影が、先刻館に飛んできた影だと、その背中の一対の枝が告げている。
ランサーは闇夜を貫いて、己と主人とを貫く真紅の眼差しを確かに見た。影が運ぶ偉丈夫の姿も、また。
ランサーの決断は早かった。マスターを離れた場所へ放り投げると、宝具でもある槍を取り出し、投擲の姿勢に入る────よりも早く、宙に浮かぶ影は、運んできた偉丈夫を、ランサー目掛けて全力で放り投げていた。
舌打ちして、ランサーは投擲では無く刺突へと姿勢(フォーム)を切り替える。
真名解放を伴う渾身の一突き。しかも放り投げられて宙にある偉丈夫に、この一突きは躱せ無い。
その目論見通りに槍は偉丈夫の胸を捉え、ランサーの刺撃と、宝具の威力を、余す事なくその身体に叩き込んだ。
────仕留めた。
歴戦の雄たるランサーが、そう思って気を抜いたのも当然と言える。それ程の会心の一撃。心臓を僅かに外れたが、その程度問題にならない威力の一撃。
強敵を仕留めた安堵と、上空への敵への対処を思案したランサーが、偉丈夫から気を離した瞬間。
ランサーの両手首は、肉が潰れ、骨が砕ける音と共に、握り潰された。
痛みよりも驚愕に襲われ、声も無く、呆然と、己の手首を握り潰した者を見る。
確かに致命傷を与えた筈の偉丈夫が、何らの痛痒も見せずに威風堂々と立っていた。
「良い技倆だ。得物も良い」
笑って、偉丈夫は未だに己が胸を貫く槍に手を掛けた。
「だが、それでは儂は殺せても、滅ぼせぬ。儂を滅ぼすには、古の礼法に則らねばならん」
偉丈夫は掴んだ槍を引いた。凄まじい力だった。例え無傷であっても、数秒と抗えぬ、それ程の力だった。
両手首が潰れても、尚も槍を握りしめていたランサーの両手の皮を引き剥がしながら、偉丈夫はランサーの宝具を奪い取った。
ランサーは己が宝具が、偉丈夫の魔力に侵食され、漆黒に染まってゆくのを成す術無く見ている事しか出来なかった。
「お前の技と宝具で送ってやろう」
偉丈夫が、ランサーの宝具の真名を唱え、先刻のランサーの動きをそのままに、槍を繰り出す。
ランサーの動きを真似た、模倣した。などというレベルでは無い。
ランサーが積んだ鍛錬。蓄積した経験。それらを基に振われる、英雄として語られるのに相応しい絶技。
それを、偉丈夫は、いとも簡単に再現してのけたのだ。
ランサーの眼から見ても、完全に己の絶技だ。彼女が鍛え上げ、技を教え込んだ弟子が振るったのならば、惜しみない賞賛を与えただろう。それ程に、彼女の技そのものだった。
ランサーは受けも躱しも、否、それらの行為のために必要な動きを取る事もできず、棒立ちのままに腹を貫かれた。
腹部を貫いた宝具の衝撃で、ランサーの内臓が潰れ、鮮血が口から噴水の様に迸る。
槍の切先を上げ、急速に力が抜けていくランサーの身体を頭上に掲げ、降り注ぐ血潮を浴びながら、偉丈夫は満足そうに笑った。
「熱い血潮よ。女の血は甘いが薄い。だが、お前の血は、並みの男よりも熱く、並の女よりも甘い」
ランサーが息絶え、消滅するまで、偉丈夫は流れ落ちる血潮を舐めとっていた。
───────────────────
「食事だ」
2階にある食堂で、巨大なテーブルの席に着いて、食事を待つ少女の前に、何処から調達したのか、鮮血を満たした巨大な銀の皿を置いて、偉丈夫は少女の向かいの席に腰を下ろした。
「外はどうであった」
これもまた、廃館に相応しく無い銀の匙で、血を掬って口に運ぶ少女に訊く。
「愉しかった!」
「であろうな。儂も久し振りに外に出た時は、外の歓楽と人間共の生命の豊穣さに、まるで生まれ変わった様に感じたものよ」
偉丈夫はしみじみといった風情で呟いた。少女の境遇を聞いた時、自分を招いた縁とはこの事かと思った程だ。
少女の名はフランドール・スカーレット。その規格外の力の為に、495年も屋敷の地下から出る事を許されなかった吸血鬼である。
目立つ姿形でありながらも、外を徘徊するのに任せているのは、空が飛べるだとか、下手なサーヴァントなら一蹴できるだとかいったところよりも、フランドールの境遇に共感してしまった…と言うところが大きい。
自身の心に、生前の知り合い共の顔を思い出し、奴らが知ればきっと笑い転げるだろうと思う。
「ずっと本ばかり読んでいたから、外に出て、人間と出会ってからは、外って本当に面白いと分かったの。けど、此処はもっとおもしろい」
朗らかにフランドールは笑う。年相応のあどけない、それでいて何処か狂気を孕んだ笑い。
「貴方も外にいかないの?」
何気無い問いである。サーヴァントが主人であるフランドールの境遇を知っている様に、フランドールもまた、サーヴァントの境遇を知っている。
狂人、怪物等恐れられる所業の果てに、裏切られ、敵国に囚われて、首を落とされる────筈が、吸血鬼に拾われ、吸血鬼とされ、そのまま五百年間幽閉された男。
自身がこのサーヴァントを招いた縁とはこの事かと思った程だ。
だからこそ疑問に思うのだ。
このサーヴァントは自由が恋しくは無いのかと。自由気ままに外を歩けるのに何故引き篭もって居るのかと。
「今はまだ、有象無象共が犇めいておるからな。こうして館にいれば、勝手に食事を伴って死にに来おる。敵を求めるのは、まだ先の事よ」
「遊べる相手が揃うまで、待っている訳ね」
「そうだ」
「揃ったら、一緒に遊びに行こう」
フランドールは笑みを浮かべる。狂気を含んだ、あどけない笑顔。
「そうしよう」
偉丈夫は笑みを返す、獰悪と称して良い、見たものが総毛立つ笑顔。
二人の口元には、鋭い乱杭歯が覗いていた。
「それでは儂は行くぞ。下僕共に下知を下さねばならん」
偉丈夫はフランドールに告げると、地下室へと足を向ける。先日侵入し、二人の喉を潤した五人に加え、今日新たに加えた、妖眼で支配した一人。この六人に命を下し、調度品の調達や、他の主従を呼び寄せる為の噂の流布を行わねばならない。
フランドールが使用している、食器や寝具は、この者達に調達させてきたものだ。それまでフランドールは、館内に打ち捨てられていたソファーで眠り、偉丈夫が態々人間を絞って血を与えていた程だった。
「これからは食事の用意もさせるか」
捕らえた人間を『加工』させる事もやらせても良いかもしれない。巧くできるかは定かでは無いが、最悪、皿に血を湛えられればそれで良い。
「この様な境遇になって子供の世話か」
偉丈夫は僅かに苦笑した。
偉丈夫を知る者達ならば、誰しもが偉丈夫と自身の正気を疑うだろう。偉丈夫自身、何故こんな事をやっているのか判らない。
マスターであるというのもある。永い間幽閉されていたフランドールに共感したというのもある。
だが、結局のところは。
「お前ならば、こうしただろう。我が妻よ」
オスマン・トルコの大軍に城を包囲され、絶望して身を投げた妻。偉丈夫の戦う理由。
人であった時に死別し、吸血鬼となってから再会し、そして腕に抱く事が叶わなかった妻。
彼女ならばそうしただろう。そう思えばこその行為であった。
だが、彼女とは?我が妻とは?果たして誰なのか。
深い谷底へ身を投げた妻か。
あの街で、姿を思い出すだけで陶然となる、その名を唱えるだけで戦慄する、美しい化物と奪い合った娘か。
記憶の中で、両者の姿はまじりあい、その姿は判然とせぬ。
だが、どちらであろうと構わない。聖杯に願って顕れた者こそが、偉丈夫が求める『妻』なのだから。
「待っておれ、再会は直だ」
偉丈夫の戦意に応じ、総身から濃密な鬼気を噴き上がった。
[クラス】
ランサー
【真名】
カズィクル・ベイ@魔界都市ブルース 夜叉姫伝
【ステータス】
筋力:A 耐久:A+ 敏捷:B+ 幸運:E 魔力:B 宝具:EX
宝具使用時
筋力:A++ 耐久:EX 敏捷:A+ 幸運:E 魔力:B 宝具:EX
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:A -
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではランサーに傷をつけられない。
…………のだが、聖性や流れ水に対しては脆弱であり、素の耐久値でしか抵抗出来ない。
陽光に対しては、抵抗すら出来ず、攻撃値をそのままダメージとして受ける
【保有スキル】
夜の一族:A(EX)
蒼天の下、陽光の祝福を受けて生きるのではなく、夜闇の中、月の光の加護を受けて生きる者達の総称。
天性の魔。怪力を併せ持つ複合スキルであり、ランサーは夜の覇種たる吸血鬼である。
闇の中では魔力体力の消費量が低下、回復率が向上する。
夜の闇ともなれば、上述の効果に加えて、全ステータスが1ランク向上する。
また、種族により更なる能力を発揮する場合があり、吸血鬼ならば吸血による魔力体力の回復及び下僕の作製。
及び精神支配の効果を持ち、抵抗しても重圧もしくは麻痺の効果を齎す妖眼の二つである。
下僕となった者にはA+ランクのカリスマ(偽)を発揮し、ランサーに服従させる。
下僕化は対魔力では無く神性や魔性のランクでしか抵抗出来ない。
このランクではCランク以上の神性や魔性でないと吸血鬼化を遅らせる事も出来ない。
下僕化によるランサーへの服従は精神力若しくは精神耐性を保証するスキルにより効果を減少或いは無効化させることができる。
弱点としては、大蒜や十字架に対して非常に脆弱で、陽光を浴びれば即座に全身が燃え上がり、負った火傷の回復は非常に困難。
十字架を直視すれば行動不能となり、後述のスキルが保障する不死性が消滅する。
ランサーは五百年の歳月しか閲していない元人間だが、当人の極めて高い資質と、親の規格外の格の高さにより、最高のランクを獲得している。
ランサーの親や、兄弟にあたる吸血鬼は、桃の果実を苦手とするが、ランサーは不明。おそらく苦手だと思われる。
不老不死:A+(A++)
吸血鬼の特性がスキルになったもの。
ランク相応の戦闘続行及び再生スキルを併せ持ち、老化と病を無効化、毒にも極めて高い耐性を持ち、即死攻撃はダメージを受けるに留まる。
攻撃を受ける端から再生し、一見傷を受けていないようにすら見える程。
物理的な攻撃では、たとえ肉体が消滅しても、時間経過で復活する。
しかし、復活に際しては、主従共々魔力を必要とし、何方かの魔力が不足していれば復活出来ない。
但し聖性や神性を帯びた攻撃には非常に脆く。流れ水に身体を漬けられたうえでの攻撃は通常のそれと変わらぬ効果を発揮する。
ランサーを滅ぼすには古の礼に則り、心臓に白木の杭を打ち込むか首を落とすかのどちらかしかない。
とは言え、首を落とすにしても、斬ったものの技量次第では斬る端から再生されて再生して無効化され、首尾良く斬れても、首を押さえて傷口が開く事を防ぎ、その間に再生癒着してしまう為に、何らかの方法で、ランサーの肉体に再生を忘れさせなければならない。
叛骨の相:A+
人であったときは、生涯を通じてオスマン・トルコと戦い続け、吸血鬼となっても自らの親である『姫』に叛旗を翻した在り方。
激烈強固な自我に基づく叛骨は、他者への服従を一切認めず、他者を自己に服従させる傲岸の極み。
同ランクまでのカリスマや、魅了をはじめとする精神干渉は当然として。
権威や権力、権能に基づく服従を無効化。
ランク以上でも、スキルランク分を軽減する。
心眼(偽):A
視覚妨害による補正への耐性。
第六感、虫の報せとも言われる、天性の才能による危険予知である。
【宝具】
徒手にて戦陣に立つ人非の騎士(ナイト・オブ・ジ・イーヴィル)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ :1 最大補足:1人
かつて森深き東欧の果ての地に伝えられていたとされる古の魔道の技。人の心を捨てた騎士に不敗の四肢を与えたとされる。
習得の為の修練は筆舌に尽くし難く、業の完成の暁には、人の心を捨てた証として、九十九日荒野を旅し、出逢った者悉くを虐殺しなければならなかったという。
そうして得られる業は凄まじく、如何なる敵の武器でもたやすく奪い、瞬時にその扱いに習熟し、その武器を振るって闘ったという。
その本質は“対峙した敵の“戦う術を奪い、使いこなす”。 古の魔道の業。
武具を用いるならば武具を奪い、更に武具を扱う為の技術をすらも、瞬時に習得し我がものとする。
ランサーの膂力に加え、元より、『武器を奪い取る』という性質を持つ為、三騎士のクラスといえども、得物を掴まれれば抵抗は困難。
徒手空拳の絶技や、特異体質の類でも、使い手の腕に手で触れるか、我が身に受ける事で、己がものとする。
如何なる武器も、無双を誇る練達の武人の業も、一切問題無く使いこなせる事から、副次効果として最高ランクの無窮の武練及び、武の祝福の効果を発揮する。
宝具へと昇華されたことにより、概念や逸話を基にする宝具や技能すら、奪う、もしくは習得できる。
同様の宝具である『天津風の簒奪者】と違い、形のある物でなければ、所有権の簒奪は発生せず、只修得するだけにとどまる。
つまりは技術や肉体的な特性による宝具やスキルは、習得した元である相手も継続して使用することが可能な為に、相手の驚異度が全く変わらない。
串刺し魔王(カズィクル・ベイ)
ランク: C 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大補足:一人
生前多用した処刑法であり、ランサーの代名詞でもある“串刺し刑”が宝具化したもの。
効果は『手にした棒状の物体を杭の宝具とする』
棒状の物体であれば良い為、槍や矛の類のみならず、丸めた布や、束ねた糸でも杭とすることが可能。
杭は『貫く』事にのみCランク相当の宝具と同じ威力を持つが、強度や耐久性は元の物質に準拠する。
杭には『吸血』の概念が宿り、杭により流された血は、ランサーの魔力に還元される。
ランサーの持つ逸話である、泉に黄金の杯を放置し、持ち去ったものを捉えて杭に串刺した。という伝説から、ランサーが『賊』と認識した者をランサーの意志によらず追尾する。
この効果は、ランサーが手にして振るう時だけでなく、投擲した場合にも発揮される。
鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア』)
ランク:A+ 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
後の伝承によるドラキュラ像を具現化させ、吸血鬼へ変貌する。
身体能力を宝具使用時のものに変更。一部のスキルランクが()内のものとなり、動物や霧への形態変化、といった能力を獲得。不死性や怪力や魅了の魔眼といった、元から所有する特殊能力が超強化される。
更に夜間には全ステータスが更に向上。正しく夜に無敵の魔人と化す
…………が、聖性や陽光に弱いという弱点が更に強調されてしまう。
魔力の消費量も跳ね上がり、通常のそれに、Aランク相当の狂化を持つ、バーサーカーのそれを加えたものとなる。
【人物紹介】
魔界都市〈新宿〉に現れた、四名の吸血鬼達の長である『姫』により、〈新宿〉に解き放たれた吸血鬼、作中ではベイ将軍と呼称される。
『姫』が想いを寄せる美しき魔人、秋せつらへの嫌がらせの道具にされた、華南高子に亡妻の面影を見て執着し、『姫』と決別する。
末路は、秋せつらへの刺客に仕立て上げられ、〈新宿〉の全てを知悉するせつらにより、再生機能を封じられ、首を刎ねられた。
人であった時には、東欧の国を統べ、オスマン・トルコと戦い、三万人のトルコ兵を串刺しにしたという。
ぶっちゃけヴラド三世その人である。
割と脳筋気質であり、姫の霊廟に突撃した時には、吸血鬼の馬鹿力で大パン三発入れてもビクともしない扉に対し、思考してから取った手が、助走つけての体当たりで蝶番を破壊する事だったりする。
余談だが、人であった時に首を落とされ、コンスタンティノープルで晒されたと記録され。
吸血鬼としての最後が斬首であった為、断頭・斬首といった概念には非常に弱く、抵抗すらできないのだが、当人はこの事を知らない。
【聖杯への願い】
受肉と妻の蘇生
【weapon】
無し
【マスター】
フランドール・スカーレット@東方Project
【能力】
ありとあらゆるものを破壊する事ができる程度の能力。
その物の一番弱い箇所"を自分の手の中に移動させ、拳を握りしめることで対象を破壊することができる。
原理は『全ての物には「目」という最も緊張している部分があり、そこに力を加えるとあっけなく破壊することができる。というもの。
異界二十三区では、『目』を手の中に移動させることが出来なくなっている。
【武器】
無い
【ロール】
無い。強いて言うなら幽霊屋敷の幽霊。
【聖杯への願い】
聖杯を獲得してから考える。
【人物紹介】
紅魔館の長であるレミリア・スカーレットの妹。
姉のことを『アイツ』呼ばわりしていたりする。
気が触れているとの触れ込みだが、頭の回転が速く、知識も豊富。会話も普通にこなす。
なお、ガチで閉じ込められていたベイと異なり、出ようと思えば出られるのだが、単純に力尽くに訴えてでも出ていかなかっただけだったりする。
最終更新:2022年08月23日 02:07