撃つ。殺す。片付ける。
撃つ。殺す。片付ける。
撃つ。殺す。片付ける。
繰り返し、繰り返し、無限にも思える刻の中で、ひたすらに同じことを繰り返す。
ゴミ掃除のように、淡々と、粛々と。

何も思わない、何も感じない。
傭兵として、執行者として、仕事を為すだけの、機械人形。

積み上げられ、崩れゆく屍の海に目をくれず、男は次の獲物を探す。
次の獲物は銃を持った男だ、狙いを定め、殺した。
次の獲物は刃物を持った狂人、狙いを定め、殺した。

殺した、殺した。
殺して殺して殺して殺して、殺し尽くす。
あらゆる悪の痕跡を滅びす尽くさために。
あらゆる悲劇の可能性を根絶し尽くすために。

男には、それしか残っていなかった。軋んだ機械の、錆びた歯車。
理想も思想もとうの昔に擦り消えた。残骸以下の動死体(リビングデッド)。
死臭の血溜まりを踏みしめ、何もかもが黒に染まった誰かが、再び銃を握って、悪を殺す。
何もなく、何も抱えず、下された責務を動力源に動く機械のような。
無銘の刀剣。誰かに使われる、ただそれだけの存在。
それが、この男なだけであった。


――――■■■■。かつて正義の味方を目指した男、その残骸。
心を剣(てつ)に変えた、その末路。
それ以外の、それだけしか残らなかった、そんな男だった。


『その為に多くの命を踏みにじった。であれば今回も例外は許されません。』
『どうぞ思うままに、無銘の執行者。』
『最後の責務、存分に果たされますよう──』






市立病院に、一際清潔な、と言うよりはまるで隔絶されたような一つの病室があった。
別に物理的に、外面的に隔絶されているわけではない。
コールを叩けばナースやかかりつけ医がやってくるし、簡素とは言え美味しい病院食も届く。他の患者とも交流はあるため孤独というわけではない。
端的に言うなら、この病室のベッドの主である少女には、記憶が無かった。
少女は、世界から隔絶された存在だった。

意識を取り戻した時から、彼女の両足は動かなくなっていた。
両足不随の記憶喪失者。引取先も見つからず、現状の少女の家はこの病院となっていた。
幸運にも病院関係者には善人が多かった。彼女の引取先が見つかるか、彼女の記憶が戻り帰る場所がわかるまではこの病院で暮らす生活が続くことになっている。

何度目の雪の夜か。月明かりに照らされた病室から、物憂げに窓から月だけを少女は見つめていた。
自分が何だったのか、誰にとっての何かだったのか。それすら思い出せない。
病院の人たちがどれだけ心優しくとも、彼女の本当の孤独を癒やすものは誰も居なかった。
茫洋と、窓越しの雪景色を見るのが彼女の日課となっていた。

――ただ、一つ。変わったことがあった。
右手に、赤い痣のようなものが浮かび上がっていた、二重丸に一線食わせたようなシンプルな模様の痣だ。
医者に見せても、分からなかった。何度か検査はしたが、原因不明だが特に身体の異常に関わるようなことではなく、少女当人も気にしないことにした。

何日かが経った。何も変わらない日々だけが続いている。
夜の赤い痣が不規則に光り輝くこともあったが、それすらも普通として受け入れられている。
そのたびに、少女の中にある何かが疼く。忘れていたものの蓋が開くような感覚。
それがなんなのか、未だ彼女にはわからなかったけれど。

「――私は。」

それでも、知りたかった。
それでも、思い出したかった。
自らの記憶の蓋、何故こうなったのかという断崖の扉の前。
いや、比喩としての扉はあった。眼前にある、光の粒子の塊。
手を伸ばす。それが自らに繋がる欠片だというのなら。
手を伸ばす。それが欠けた自己を補完するものであるというのなら。

できる限り手を伸ばす。それでも光には届かない。
だが、その光は塊というよりも徐々に人の形に集ってゆく。
光が薄れ、人の形として完成した"それ"は、余りにも黒いものだ。

鉄塊のような男であった。肉体的にではなく、精神的に。
黒ずんだ肌は、擦り切れた、もとい摩耗の象徴にも思えた。
白い眼から垣間見る眼光が、獲物を見定める狩人の如く、少女を見据えている。

「……全く、辺鄙なマスターに選ばれたものだ。」
「……ッ。」

男が、初めて口を開く。
重かった、何処までも。銃の引き金を初めて引くような錯覚。
命そのものが刈り取られそうな、そんな衝動だけが、少女の心に響いていた。

「問おう、アンタが俺のマスターか?」

男は、問う。少女に。
その刹那、彼女は思い出す。彼女が何物であるのか。
……何も思い出せなかった。最初から、彼女には何もなかった。
その代わりに、頭に流れたのは知らない知識の放流。


――聖杯戦争。英霊たちを従わせ、殺し合う。万能の願望器たる聖杯を手にするための戦い。
それが異界東京都、この世界の真実。

「……!!?」

少女は思い出せなかった。代わりに、この世界が殺し合いのためだけに生まれ。
殺し合いのためだけに、この世界に呼ばれたことを。少女は思い出した。

「……どうした?」

男が、目の前のサーヴァント、と言う先程知識として手に入れ理解した人物が問いかける。
途端に恐怖が襲いかかった。怖かった。何も思い出せない自分が、誰でもなかった自分が。
それでも、恐る恐る、少女はサーヴァントへと、声をかける。

「……はい。おそ、らくは。……あなた、は。私の、サーヴァント……?」
「そういうことになるな。」

震える少女の声に、男は答えた。
この男は自分のサーヴァントだというのはわかった。
それが、この殺し合いに選ばれた証拠。赤い痣――刻まれた令呪と共に、聖杯戦争の参加者であることを示す印。

「サーヴァント、アーチャー。……中身のない、ただのつまらない執行者だ。」

アーチャー。弓兵のサーヴァント。
その言葉が、なにか引っかかった。
でも、何も思い出せなかった。
でも、一つだけわかったのは、彼もまた、自分と同じく過去が無い誰かであったことぐらい。





■■■■■■■■



わからない場所にいる。

わたしは誰? あなたは誰?

何もわからない、何も思い出せない。

わたしはどうしてこんな所にいるの?

わたしはこんな所で何をしていたの?

わからない、分からなくて、怖い。


『大丈夫、私がなんとかする。』


しらない女のひとが、わたしにやさしくかたりかけている。

なつかしい面影、なつかしい匂い。

その髪の色も、何もかもがなつかしくて、尊くて。


『私は■■■■。あなたは■■■■。あの子は■■■■』


きこえない(ノイズ)、きこえない(ノイズ)、きこえない(ノイズ)。
わすれても、わすれられない、おんなのひとのこえ。


『三人は友達だよ。ズッ友だよ』


それだけ言って、おんなのひとはどこかへいってしまいました。
ともだち、あのひとはわたしのともだちだったのでしょうか。
それもおもいだせません。それすらおもいだせません。
でも、その言葉だけは、私ははっきりと覚えています。








私たちは三人は友達だった。
今は名前も思い出せない誰かだけれど。
それでも、その誰かを、その言葉を覚えている限りは。
生きたいと、死にたくないと、そう思っています。

【クラス】
アーチャー
【真名】
エミヤ・オルタ
【属性】
混沌・悪・人
【ステータス】
筋力:C 耐久:B 敏捷:D 魔力:B 幸運:E 宝具:E~A
【クラススキル】
『対魔力:D』
詠唱が一工程(シングルアクション)の魔術を無効にできる。

『単独行動:A』
マスターからの魔力供給を断っても自立できる能力。宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。

【保有スキル】
『防弾加工:A』
最新の英霊による「矢除けの加護」とでも言うべきスキル。防弾、と銘打っているが厳密には高速で飛来する投擲物であれば、大抵のものを弾き返すことが可能。

『投影魔術:C(条件付きでA+)』
道具をイメージで数分だけ複製する魔術。アーチャーが愛用する『干将・莫耶』も投影魔術によって作られたもの。 投影する対象が『剣』カテゴリの時のみ、ランクは飛躍的に跳ね上がる。 この『何度も贋作を用意できる』特性から、エミヤは投影した宝具を破壊、爆発させることで瞬発的な威力向上を行う。

『嗤う鉄心:A』
反転の際に付与された、精神汚染スキル。精神汚染と異なり、固定された概念を押しつけられる、一種の洗脳に近い。与えられた思考は人理守護を優先事項とし、それ以外の全てを見捨てる守護者本来の在り方をよしとするもの。Aランクの付与がなければ、この男は反転した状態での力を充分に発揮できない。

【宝具】
『無限の剣製(アンリミテッド・ロストワークス)』
ランク:E~A 種別:対人宝具 レンジ:30~60 最大補足:不明

錬鉄の固有結界。剣を鍛える事に特化した魔術師が生涯をかけて辿り着いた一つの極致。
『無限の剣製』には彼が見た「剣」の概念を持つ兵器、そのすべてが蓄積されているが、このサーヴァントは相手の体内に潜り込ませて発動させる性質となっている。
本来は世界を引っ繰り返すモノを弾丸にして放ち、着弾した極小の固有結界を敵体内で暴発させる。そこから現れる剣は凄まじい威力を以って、相手を内側から破裂させる。

【人物背景】
理想を喪った男

【サーヴァントとしての願い】
???






【マスター】
■■■■■(鷲尾須美)@鷲尾須美は勇者である

【マスターとしての願い】
死にたくない。

【能力・技能】
今は、ない。

【人物背景】
記憶を喪った少女

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最終更新:2022年08月23日 02:10