―――生あるうちは輝いていろ。
―――思い悩むな。
―――人生は短く、
―――時は常に代価を求める。
「まァ、こんなもンか。」
それは古の墓碑に刻まれた詩句。世に存在する最古の歌。
戦いの狼煙としては奇妙だったが、その喧噪も数瞬の後に途切れた。
―――後に残ったのは静寂と、動かなくなった敵マスターの死体だけ。
「そっちから先に仕掛けてきたンだ、このぐらいの覚悟はできてンだろ?」
目の前の男は、己の欲望(ねがい)のために聖杯を欲した。
そのためならば他者の命も欲望(ねがい)も踏みにじると、そう行動で示したのだ。
ならば逆に、己が踏みにじられることも覚悟していなければならない。
「―――どうやらキミの方も終わったようだね。」
「おう、ネズミか。サーヴァントの足止めご苦労さン。」
姿を現した己のサーヴァントに労いの言葉をかける。
全体的に灰色で、夢の国でつけるカチューシャのような耳が生えた少女。
まさしくネズミが擬人化したような風貌だ。だが本人はその呼称に少し不満があるようだった。
「あのねぇ。確かに私は鼠の妖怪だが、だからと言ってその呼び方はないんじゃないかい?せめてクラスで呼びたまえよ。」
人間だって『人間』と呼ばれたくはないだろう?と述べる彼女。
だがそんな彼女自身は人間のことを普通に『人間』と呼称しているので、あまり説得力はなかった。
そんなサーヴァントの言葉で、墓守は初めて自分がネズミという呼称を用いたことに気づいた。
「ああ悪りィ、そういうつもりじゃなかったンだがな。普段組んでる相棒が「ネズミ」って名前なンだよ。」
基本いつも行動を共にしている少女の顔を思い出す。常に何かに怯えているような表情。
ボサボサの髪に隠れがちな、くるっとした目。小柄で貧相な体つきの、冴えない少女だ。
ネズミは自分で戦うことはできないが、戦闘支援や情報収集・隠蔽工作などには秀でていた。
彼女のバックアップのもと、墓守が前に出て戦い彼女を庇う。それがふたりの戦闘スタイルだ。
今のマスターとサーヴァントという役割からすれば、逆もいい所である。
実際、墓守はネズミに「マスター」と呼ばれていた。
「名前、ナズーリンだっけか?……長げェな。ナズでいいか?」
「勝手に愛称をつけないでほしいな。サーヴァントなんだからアーチャーと呼んでくれ。そもそも5文字で長いも何もないだろう。」
呆れ顔を浮かべた己のサーヴァントとアホなやり取りをしていると、急にチューチューと鳴き声が聞こえてきた。
彼女がそんな声を出す訳がないのはわかっている。なんだ?と疑問符を浮かべながら周囲を見渡す。
鳴き声の聞こえてくる方に顔を向けると、そこには普通サイズのネズミが複数匹集まっていた。
……敵マスターの死体の周りに。ギョッとして凝視すると、どうやら鼠たちは人肉を食しているようだった。
これにはさすがの墓守も目を丸くする。
「……おいおい。お前のネズミ、人の肉食うのかよ。」
「私が召喚した鼠は人肉を好むよ。だから逆に、赤色の薄いチーズとかは食べてられないんだってさ。」
そう言われて思い出すのは、またもネズミの顔だった。
ネズミが情報収集など何かしら任務に成功した時、墓守はご褒美として好物の角砂糖をよく渡していた。
角砂糖を両手で抱えて、嬉しそうにカリカリと齧るネズミの顔が頭に浮かぶ。
「……ネズミはチーズが好き、ってのは意外と人間の幻想なのかもしれねェな。」
「私にコメントを求められても困る。」
違いない、と思わず笑う。
ネズミとは性格も何もかも違う相棒だが、墓守は今の関係がそこそこ気に入っていた。
……ネズミが知ったらなんて言うかね、と若干後ろめたい気持ちもある。
「それにしても、容赦なくやったものだね。別に聖杯が欲しいわけじゃないんだろう?」
使い魔が齧っている死体を見ながらアーチャーが問う。
墓守は聖杯がそれほど欲しいわけではない。勿論、復讐という自分の欲望(ねがい)はある。
だがそれは、自分の手で果たさなければ意味がない、と思っている。
「アイツは自分の欲望(ねがい)のために他人を踏みにじるって決めたんだ。
自分が踏みにじられても文句言えねェだろ?」
わざわざ死んでやる義理なんて毛ほどもねェしな、と己のサーヴァントに応える。
墓守を殺しに来るということは、墓守の欲望(ねがい)を阻むのと同義だ。
「それと別に、まァ聖杯ってやつは気に食わねェ。どんな願いでも叶えられる、なんて胡散臭すぎンぜ。」
墓守のいた世界には『遺産(レガシー)』と呼ばれる物が存在する。
19年前、とある事故をきっかけに世界中へ拡散された『レネゲイドウイルス』という、ウイルスのような何か。
それに感染し、今の技術では再現できない事象を引き起こす物品や技術の総称である。
この『遺産』は、何かしらの力と引き換えに別のものを奪っていく、そういった性質のものが時折ある。
今回の聖杯も、この遺産の仲間ではないかと内心警戒しているのだ。
「それによ。呼んできた全員に殺し合いさせて最後の一人を決める、ってのがもう俺の地雷なンだ。」
仲間たちとの殺し合いを強いられた、過去の非人道的な実験を思い出す。
その実験で墓守はひとり生き残った。後に残ったのは不死身の生命力と、死んだ仲間の血肉と記憶だけ。
だから墓守は、その実験の首謀者たちを殺すために生きている。
今回の聖杯戦争という儀式は、あの実験を思い出させて単純に不快だった。
「いろいろ事情がある、ってことか。まあ、どうあれ今の私はキミのサーヴァントだ。方針には従うさ。」
「おう。これから頼むぜ、ナズ。」
そう言葉を返して、長居は無用とばかりに背中を向けて歩き出す。
その背中へ、だからせめてクラスで呼びたまえ、と言う声が聞こえるが墓守は気にしない。
そのまま歩いていく背中を見て、アーチャーは溜息を吐きながら、霊体化して後を追いかけた。
「…………やれやれ、なんであんな奴の召喚に応じてしまったんだろうね?」
最後に漏れたそんな呟きは、誰の耳に入ることもなく、寒空の下を吹き抜ける冷風と共に霧散していった。
【クラス】
アーチャー
【真名】
ナズーリン@東方Project
【ステータス】
筋力D 耐久C 敏捷A+ 魔力A 幸運C++ 宝具A-
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
単独行動:A+
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。
宝具の多用など、魔力を浪費するような真似さえしなければ単独で戦闘ができる。
彼女の場合は自身だけでなく、使役するネズミの使い魔にも影響する。
対魔力:B(D)
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
サーヴァント自身の意思で弱め、有益な魔術を受けることも可能。
Bランクでは、魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
アーチャーの本来のランクはDだが、主人の寅丸星が持つ宝塔を借り受けた状態で現界している為
毘沙門天の加護によりランクが上がっている。
【保有スキル】
魔力放出:A(C)
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。いわば魔力によるジェット噴射。
彼女の場合は自身の身体能力強化、ロッドの威力向上、および弾幕の威力増加に用いている。
対魔力と同じように、こちらも宝塔による毘沙門天の加護で出力が上がっている。
神性:E-
その体に神性があるかないかの判定。
七福神の毘沙門天の使いであるためか、わずかながら神性を持つ。
妖怪鼠:A
彼女の妖怪としての在り方を示すスキル。
そのまま文字通りネズミの妖怪であることを表す。
妖怪ゆえに魔性属性も併せ持つため、該当属性への特効効果には弱い。
(おそらく博麗の巫女などがサーヴァントになった際には、特攻を持っているだろう。)
使い魔(鼠):A
鼠を使い魔として使役できる。契約を行う必要はなく、思念を送るだけで可能。
現地の鼠を自由に使役することができるため、情報収集などに多大な効力を発揮する。
自身の魔力で鼠を召喚することもできるが、召喚したネズミは人肉を好む為呼び出し過ぎは禁物。
(現地の鼠であれば人肉を食すことはない。)
ダウジング:B+
探し物を見つけ出すスキル。別名「探し物を探し当てる程度の能力」とも。
直感・心眼(偽)との複合スキルであり、このスキルこそが彼女の本質。
探し物の手掛かりがなくとも、天性の勘とロッドやペンデュラムによるダウジング
及びネズミたちとの情報収集より目的のものを見つけ出す。
ただし、たまに間違えたり、見つけられてもガラクタだったりする。
戦闘に応用することもできるが、本来の使い方は上記の別名の通り。
彼女曰く「人探しも探し物のうち」とのことで、人探しにも効果があるようだ。
ただ、食べ物系の探し物は手元に来る前に使い魔が食い荒らしてしまう為、あまり向いてない。
【宝具】
『小さな大将の捜索双枝(ナズーリン・ロッド)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大補足:30
普段ダウジングに使うロッドの、攻撃宝具としての真名開放。
L字のロッドを鏡合わせにして、長方形の中心から2対の光線を放ったり
対のロッドの先端から光線を打ち出したりする。
要するに形はどうあれ「ロッドに見立てた2対の光線を放つ」技。
幻想郷で使っていた「スペルカード」というシステムが元の宝具である。
『小さな賢将の魂の振り子(ナズーリン・ペンデュラム)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大補足:100
アーチャーが愛用しているペンデュラムを用いた宝具。
普段は小型のペンデュラムが、真名開放と共に巨大化して複数に分裂する。
そして彼女の周りをペンデュラムが回転しながら、球形の小さな光弾を無数に発射する。
回転するペンデュラム自体にも攻撃判定があり、宝具発動中の彼女を攻撃するのは容易ではない。
こちらも同じく「スペルカード」システムが元の宝具。
『毘沙門天・代理人の宝塔(グレイテスト・トレジャー)』
ランク:A- 種別:対城宝具 レンジ:1~100 最大補足:300
主から借り受けた宝塔の力を開放する、アーチャー最大威力の宝具。
彼女を中心に八等分するような形で周囲に直線的なレーザー光線が放たれ、数刻の後に
光線が分裂して無数の光弾となり、光線を避けたと思った相手に襲い掛かる。(これを何度か繰り返す)
彼女の宝具はすべて、その性質上攻撃範囲が広い傾向にあるが、その中でもこれは範囲・威力共に桁違いである。
彼女自身の宝具ではなく主人の寅丸星からの借りものであるため、宝具としてのランクは下がっている。
もちろんこれも「スペルカード」システムが元の宝具である。
この宝塔は所持しているだけでもマスターと自身に毘沙門天の加護があり
ナズーリンの魔力に関する一部スキルのランクを上昇させたり、マスターに魔術的な加護を与えたりする。
【weapon】
ダウジングに使う二対のロッド。精度には疑問がある。
第一宝具の未開放状態。近接戦闘になった場合、やむなくこれと魔力放出で戦う。
ダウジングに使うペンデュラム。第二宝具の未開放状態。
平常時はあまり武器という感じではなく、主にダウジングで使用する。
主人である寅丸星から借り受けた宝塔。
第三宝具の未開放状態。毘沙門天の加護により自身とマスターの能力を向上させる。
【人物背景】
幻想郷で暮らす、ダウジングが得意なネズミ使いの妖怪鼠。
毘沙門天の代理を務める「寅丸星(とらまるしょう)」は主人であり、監視対象でもある。
毘沙門天の直属の部下である強力な妖怪で、毘沙門天から遣わされて星の監視役になっている。
一見すると複雑な間柄だが、主人である星との関係は良好。
性格は狡猾でちょっと上から目線。
体格は小柄だが、どことなく尊大な態度をとる。
【サーヴァントとしての願い】
自身には特にないが、マスターのことがなぜか放っておけない。
【マスター】
墓守清正@ダブルクロス The 3rd Edition リプレイ・メビウス
【マスターとしての願い】
過去の実験の首謀者への復讐。
だがそれは自分の手で成し遂げなければ意味がない。
聖杯に対しては『遺産』と同じように警戒している。
殺し合いに乗るより前に、聖杯がどういうものか確かめたい。
自分に刃を向けてきた者であれば問答無用。
そもそも聖杯戦争という儀式の様式が気に入らない。
※遺産:レネゲイドウイルスに感染した物品など。何かしらの恩恵の代償に、別の何かを奪っていく場合が多い。
【weapon】
『白き墓碑槍(しろきエピタフ)』
普段は彼の腕・胴体を覆っている無数に組み合わさった骨の刺青。
古代ギリシャの歌『セイキロスの墓碑銘』を口ずさむと刺青が蠢いて体を離れ、白い槍を形作る。
槍の銘エピタフに由来し、彼は「マスターグレイヴ/墓場の主」と呼ばれている。
【能力・技能】
『レネゲイドウイルス』という未知のウイルス(のような何か)に感染し超常の力を得ている。
(レネゲイドに感染した者のことを『オーヴァード』と呼ぶ。)
自己再生能力≪リザレクト≫により、ウイルスの侵食率が100%を超えていない限り致命傷でも回復する。
仮に100%を超えたとしても、大切な人との絆≪ロイス≫があれば何度でも立ち上がる。
しかし、侵食率が上がりすぎると理性を失った化け物≪ジャーム≫と化してしまうので、限界はある。
※聖杯の力なのか、この場所では≪ワーディング≫が使えない。
普通のオーヴァードであればHPは30前後だが、彼は130を超えるHPを持っている。
心臓を貫かれる程度のことも、彼にとっては致命傷になりえない。
その為、上記の≪リザレクト≫をそもそも発動させるのも難しいほどの耐久力を誇り
その耐久力から同業者からは『不死身のマスターエージェント』とも呼ばれる。
現在はサーヴァントであるアーチャーの宝具によって魔術的な加護が与えられており
その影響でサーヴァントとの防戦程度なら可能となっている。
(エピタフの攻撃も『命中さえすれば』効果がある状態となっている。)
【人物背景】
レネゲイドウイルスが密かに蔓延し、能力者(オーヴァード)が増加している世界の出身。
世界と日常を守るUGNという組織に敵対する、FH(ファルスハーツ)という組織に所属している。
一般的にはテロ組織として認識されているが、彼の場合は己の目標を果たすために所属しているにすぎず
時と場合によってはUGNと協力することもある。
幼い頃にFHチルドレン(FHが引き取った身寄りのない子供)を殺し合わせる非人道的な実験で
仲間たちとの殺し合いを強いられ、一人生き残った。
その実験で彼が得たのは、濃縮されたレネゲイドによる不死身の生命力と、死んだ仲間の血肉と記憶。
そして―――強烈な怒りだった。
表向きはFHの荒事屋として働きながら、上記した実験の首謀者たちを殺す機会を窺っている。
他者との深い交流を嫌い、無関心で酷薄だと思われがちだが、その根底には真に大切なものを守りたいという情熱が満ちている。
【ロール】
ひとり暮らしの高校生、ということになっている。
【把握媒体】
ダブルクロス The 3rd Edition リプレイ・メビウス@全三巻
ダブルクロス The 3rd Edition リプレイ 春日恭二の事件簿
ダブルクロス The 3rd Edition データ集 ヒューマンリレーション、など
最終更新:2022年09月02日 19:54