サーヴァント。人理に刻まれた英雄の影法師。
たとえ座に存在する英雄の一側面、一部を切り取ったものだったとしても、彼らには矜持がある。無念がある。誇りがある。罪がある。そして何より、生き抜いた人生がある。
からから、からからと髑髏が音を立てる。餓者髑髏じみたそれは、サイズこそ成人男性ほどのそれだが、硬度は申し分ない。サーヴァント…キャスターが生み出した、即席の兵である。
それを一体。二体。三体。続々と生み出し、コンクリートの地を割って人骨の戦士が顔を出す。両手は存在せず、橈骨と尺骨が刃の様に研がれ、硬質化された骨は一振りで人体をバターの様にスライスする。
これが、キャスターの魔術だった。宝具であった。人生の結晶、己の半身と言っても過言ではなかった。
その神秘はギリシャ神話の英雄や一つ国を作り上げた王には届かずとも、使い方次第では盤面を整え数で戦局を我が物とする知略と謀略に満ちたキャスターらしい宝具だった。
故に、キャスターは歯を食いしばっていた。
───がきん、と音がする。
悔しさで食いしばった歯が砕けそうだった。己で己の歯を噛み砕きそうだった。
───ばきん、と音がする。
目の前の現実を否定したい。なかったものとしたい。
眼前で繰り広げられるそれは召喚される前に見る夢で、己には関係のない光景なのだと。
───生成した兵が、砕かれていく。
草木も眠り、魑魅魍魎すら避けていくこの聖杯戦争の舞台。東京の地下鉄乗り場で行われる、異常な光景。
人の気配は消え、猛烈な死の匂いと砕かれた骨粉が舞い、地下鉄の通路はその日常を消し飛ばし、既に死地と化している。
「悪いけどさ」
眼前の明るいベージュの髪の少年が呟く。キャスターは己が後ろへと半歩下がっているのを、擦るような自らの足音でやっと気づいた。
恐れている。この少年の、異質さに。
「まだ死ぬわけにはいかねえんだわ」
───少し、時を巻き戻す。
少年、虎杖悠仁がこの場に訪れたのは、ほんの少し前だった。いつも通りの通学路で、いつも通り運動部顧問たちの勧誘を蹴って、いつも通りカツアゲされていた人を助けて、いつも通り家に帰り、ふと小腹が空いたなと家を飛び出し。
はて。俺のいつも通りとはこうだっただろうか、と少年は不意に自覚した。余りにも自然すぎて順応していた。聖杯戦争。サーヴァント。マスター。令呪。意味不明な単語が脳裏に焼き付いており、理解できない。
が。ただ、このままでは人が死ぬ、ということくらいは理解していた。
「…コンソメパンチって何でパンチなんだろうな」
コンビニの棚に陳列された菓子類を眺めながら、意味もなくそう呟く。食べ易いスティック状の菓子を数個買い、夜道を歩く。
そそくさと口の中に放り込み、胃の中に流し込む。歩く内に、虎杖は地下鉄のホームへの道に辿り着いた。等間隔に光るライトに、冷たい空気。今が朝ならば、通勤通学で賑わっていることだろう。階段を降り、進んでいく。
そして、その地下鉄のホームの真ん中で。
破裂音が、鳴り響く。
掌に空洞を作る様にして、頭上に掲げた双手を叩きつける。丹田から練った力を全身に巡らせ、拳へと流し───これを一部の人間の中では"呪力"という───更に衝撃を増幅させる。
双手の中に貯められた空気が逃げ場を求めて気圧を生み、大きな音を立てる。それを数度繰り返す。
無言の主張。『俺はここにいるぞ』と、自らの存在をこの空間に示す。
「…サーヴァントも連れずに挑発とは」
「ごめん。
ルールとかよく知らないけどさ」
地下鉄のホーム、その石柱の影から現れたのは、着物で体を包み菅笠を被った男だった。対する虎杖はサーヴァントを連れていない。
この場に連れてこられた虎杖には、サーヴァントが存在していなかった。聖杯戦争を行うにより自動的に召喚される筈の存在が、彼にはいなかった。
そして、虎杖悠仁は───さほど頭が良くない。
よって、虎杖が理解したのは『人型呪霊っぽいのと呪術師が手を組んでなんか戦う』程度の知識だった。
それでも。理解したことが、もう二つだけあった。
「あんた、この戦争に"乗ってる"のか」
この戦争は、罪無き人も巻き込まれるであろうということ。
「───無論。でなければ貴様の誘いに乗るまいよ」
そして。嬉々として人を殺すモノが存在するということ。
それだけで、虎杖には戦う理由になった。サーヴァントが何者であろうとも関係ない。呪いを祓い、人を助ける。そのためだけに、彼は生きているのだから。
「シッ───!」
その返答を聞いた直後に、コンクリートの上を虎杖が疾駆する。
そして、時は今へと流れ。
地下鉄のホームにて、人骨の兵たちと拳を交える虎杖の姿が、そこにはあった。和服のサーヴァントは、兵の背後で戦闘を見守っている。
視界に収まる五体の人骨兵。手首から先はなく、尖った骨は槍の様に大地を裂く。人骨兵の振われた腕を、床の点字ブロックに密着する様に身を伏せ回避すると、虎杖の代わりに背後の鉄柱がスポンジケーキのように容易くスライスされていた。
(アレに裂かれたら首なんて軽く飛ぶ! 狙うべきは、まず…)
虎杖の記憶に蘇るは、白髪の男。
呪術の世界において最強と呼ばれる、
五条悟の言葉。
『対式神使いのセオリーは、まず本体を狙うこと。式神に任せて本体が疎かになってる術師は多いからね。まあ、あえて疎かにして隙を見せてる術師もいるけど…そこは置いといて。
式神使いを倒すにはまず───』
虎杖が伏せていた体を上げ、人骨兵と距離を詰める。
まずは一人目。
『───本体を叩く。そのために式神を無力化するか、術式で虚を突くか。悠仁の場合は、前者になるかな』
ばきん、と音がした。伸びた人骨腕の槍を、下から突き上げる形で殴り、へし折る。突き上げた拳をそのままの勢いで振り下ろし、もう片方の腕も叩き折る。そして、その衝撃で後退した人骨兵の下顎を蹴り砕く。
槍と化した両腕。そして噛みつかれる可能性のある下顎。それさえ破壊してしまえば、人骨兵は武器を失った木偶の棒と化す。
それを残り四度。驚異的な速度と肉体の性能により、凄まじい速さで人骨兵五体を無力化する。
(長引けばこっちがやられる、直線で仕留める!)
無論、恐怖はある。気を抜けばこちらが死ぬと直感があり、危険信号が常に脳内を掻き鳴らしている。
しかし。それすらも力に変えろ。一人でも多く戦争から人を救え。あらゆる恐怖を、想いを、呪いに変えて。
五メートル以上あった着物の男との距離をほんの一瞬で詰め。呪力を込めた拳を叩き込もうと構え。
───そういえば、サーヴァントってマスターがいるんだっけ。
そんな、基本的なことが脳裏に浮かんだ。サーヴァントが死んだとして、マスターは孤立する。そうすれば、そのマスターはどうなる?
虎杖悠仁のように戦う手段を持ったものならいい。好戦的な者なら気を使う必要もない。
だが、しかし。もし、残されたマスターが今の虎杖悠仁のように、巻き込まれた者だったとしたら。
最悪の想定に、構えた拳が、一瞬遅れる。
最悪の想定は。最悪の結果を齎した。
「敵を前にして考え事か!」
着物の男が叫ぶ。虎杖悠仁は預かり知らぬことだが、着物の男は"キャスター"のクラスだった。基本的にキャスターのクラスは陣地を整え、その魔術で謀略、策略を弄するものだ。無論例外は存在し、肉弾戦を好むものもいるが、この着物のキャスターは魔術師然としたものだった。
簡単で便利な自動車があるというのに、高速道路を自分の足で疾走する馬鹿はいないように。
歴史と超常的な魔術があるというのに、わざわざ己の体を使う魔術師はいない。
よって、接近された時点で虎杖の肉弾戦にキャスターが敵う筈もなく。マスターがサーヴァントを倒すという大金星を目の前にして。
餓者髑髏が、姿を現した。
「ッ!?」
着物のキャスターの宝具である。戦死者。救われなかった者。安寧の眠りを得られなかった者。それらの無念が巨大な骸骨となり、生者を握り喰らうとされる妖怪。
虎杖の一瞬の隙の内に召喚されたそれは、即座に虎杖の肉体を人形でも掴むかの様に握り。
(さっきの奴らと比べたら骨の硬度が段違い! さっさと抜け出さねえと潰され───!)
「遅い。マスターがサーヴァントに勝つ。その意気は良し。
しかし、思慮が足らんな」
虎杖が餓者髑髏の腕から抜けるよりも早く。
その身体は、潰され、熟れたトマトのように飛び散った。
○ ○ ○
「…チッ」
人骨で作られた玉座。その座に腰を据えつつも、不快そうに眉を顰める、虎杖によく似た男が一人。
玉座から腰を浮かそうとして。
「仕方ない。小僧との契約ぐらいなら、赦してやろう」
再び、深く玉座に腰を据えた。その顔に、笑みを携えて。
○ ○ ○
キャスターの高笑いが響く。虎杖悠仁の上半身と下半身が泣き別れし、千切れた腕は地に落ち、鮮血が舞う。
砕けた骨は散り、内臓が零れ落ち
───時が、巻き戻る。
内臓は元の肉袋に収納され。砕けた骨は一片の罅も無く繋がれる。
鮮血は肉体へと帰り、千切れた腕は複雑に絡み合い繋がり、泣き別れた上半身と下半身は再び出会い一つとなる。
キャスターの高笑いが収まり、餓者髑髏が虎杖悠仁の体を離し。
───時が、動き出す。
「…は?」
キャスターは己が宝具を発動しようと接近した虎杖悠仁に狙いを定め。
己の胸から、剣が生えていることに気がついた。
呆然としたのは、虎杖とキャスター。両者とも予想外の光景を前に、正確に霊核を貫かれたと理解したキャスターは口を開く前に消滅した。
「…誰だ」
虎杖悠仁は再び構える。目の前のキャスターが消滅した。つまり、目の前の存在───サーヴァントは、今のキャスターよりも更に上の存在だ。
灰色の服に、動きを阻害しない程度に体にフィットした軽い鎧。腰に下げられた短剣。矢避け用に、シルエットを大きく見せる外套。
古めかしい剣を持ったその女は、虎杖を見て口を開く。
「───問おう。君が自分の、"生徒"(マスター)かな」
セイバーの名を冠するサーヴァント。
灰色の悪魔が、降り立った。
「…えーっと…多分?」
突然の出来事に、首を傾げる虎杖を添えて。
○ ○ ○
───無限とも思われる人骨の城。どろりとした血液のような液体が大地を満たす。
否、人骨だけではない。獣骨から魔の者に至るまで、あらゆる死骸がその空間を構築している。
赤黒い。赤黒い。赤黒い。
何もかもが鉄臭く、何もかもが暴虐の痕跡を残したその空間で。頂点に鎮座した、その主人が口を開く。
「ほう、俺の魂にすら干渉するか。たかが使い魔、されど使い魔。
そこらの特級とは訳が違う、ということか」
くつくつと笑う。長着を着流したその男は、あくまでその態度を崩さず、傲岸不遜に鎮座している。
───その名を、両面宿儺。虎杖悠仁の中に住まう、悪鬼羅刹。呪いの王。
己の快・不快のみを生きる指針とする、死して尚現世に残り続ける"呪い"。
それと。
「成る程。妙な気配がする、と覗き込んで見れば。
地虫共の裔か、はたまたあくせく働いて魔生化生の類でも作り上げたか。
どちらでも構わぬが…少し趣味が悪いのう。戦果を見せびらかすのがお好みか?」
まるで対等、いや、それ以上の立場と言わんばかりに、どろりとした水面を歩く少女が一人。緑の髪を靡かせ、骨の城を下から見上げている。
フォドラの大地。全てに生きる者の母。"はじまりのもの"、ソティスである。
「…ああ、サーヴァントとやらの中に潜むはおまえか。無駄な儀式、下らんものに巻き込まれたと退屈していたが…存外、面白い見世物だ。
サーヴァントとやら、貴様らがどれだけ俺の知らん力を持っているか、楽しみではあるが」
両面宿儺を知っている存在が見ていれば、恐らく最初の一言の時点で両膝を突き、地に頭を擦り付けるが如く頭を下げていただろう。
頭が高い。息をしている。話しかけられている。『見られている』。一挙手一投足が死に直結する呪いの王を前にして、平伏さない人物がどこに居ろうか。
それは聖杯戦争とて同じこと。サーヴァントだろうと、マスターだろうと、何だろうと変わらない。
つまり、両面宿儺が取った行動は、いつもと変わらぬ一つだった。
「───不愉快。誰の許可を得て此処へ踏み込んだ、小娘」
指を、ピンと跳ねさせる。呪いの王が放ったのは、その一動作だけだった。誰が見ても脅威にはなり得ない、ありふれたジェスチャーの一つ。
それと同時に。
緑の少女の身体に、一閃が刻まれる。左肩から右腰にかけて、袈裟に切り裂かれる。音も無く、一瞬で。
反応すら示さない少女は立ち尽くしたまま。
音と衝撃は、後からやってきた。
大地を満たす液体が割れる。骨の城の一部が吹き飛ぶ。
放たれた一閃が魚を捌く包丁なら、遅れてやってきた衝撃は海ごと吹き飛ばす魚雷のよう。少女のみを消し飛ばすこともできたであろうに、気分のまま破壊を行使する。
"たまたまそういう気分だった"。ただそれだけで、少女の肉体は綺麗に切断されるどころか、跡形も無く吹き飛んだ。
「随分な挨拶じゃのう、おぬし。初対面の者には刃を投げよ、と母にでも教わったか?」
そして。跡形も無く吹き飛んだ少女は、変わらずそう告げた。
切断されたはずの身体も。跡形も無く吹き飛んだ筈の身体も。傷一つなく、少女の周辺のみが破壊に晒されて無残な痕跡を残している。
「…凄まじく速い…違うな。認識を狂わせる術式か?」
「ほっほっほ、その内おぬしも知るじゃろうて。謎解きも良いが…今回は商談に来た、このわし自らな」
上と下。骨の玉座と液体の大地。それぞれ在る場所は別なれど、その格はもはや対等と化していた。
両面宿儺もただ疑問を浮かべるのではなく、好奇心が勝った。サーヴァント。聖杯戦争。興味がないのは変わらずだが、それでも『知らぬモノ』に相対した好奇心は捨て難い。
「なあに、簡単な話じゃ。サーヴァントとは人理の落とした影法師、つまり、死のうが何じゃろうが構わん。元々、既に死んでおる身なのでな。
かと言って、子供が死んでいく様を眺めるというのも、些か居心地が悪い。そこで───」
規則を作ろうとではないか、と緑の少女は笑った。
縛りか、と。両面宿儺も、久方振りの『未知』に、笑ってみせた。
○ ○ ○
「…ということでの。『サーヴァントとして虎杖悠仁を守る』、『両面宿儺と虎杖悠仁の間に交わされた縛りには口を出さない』代わりに、『両面宿儺はマスターの全権利を虎杖悠仁に譲る』という…縛り? というものを課しておいた」
「…要するに、自分のマスターは彼で変わらない、ということ?」
「そうじゃな。それと、仮に両面宿儺が表層に出てきたとしても、令呪の執行などは出来ぬということじゃ」
所変わって、骨と赤黒い液体で満たされた場所から、静謐な緑光が射す玉座の空間で。床も玉座も石造り、何処までも広がる終わりなき広大な空間。
その玉座に座ったまま、緑の少女───ソティスは、そう言った。
「……」
「もっと有難がらんか、戯け。この地ではマスターと共にサーヴァントも召喚される。
あの小僧…虎杖と言ったか? あやつの元に、おぬしが直ぐに召喚されなかったのも、あの両面宿儺とやらの仕業であろうよ。
ヤツにマスターの権利を握らせて放っておけば、最悪の事態もあり得た。ここはおぬしの語彙の全てを使い、このわしを褒め称えるところであろう?」
「うん、助かったよ」
「淡白じゃのう…」
緑光が射し、少女の一挙手一動作が照らされる。小さいその身体は、誰が見てもどうも神そのものであるとは思えないが、溢れる神としての存在感が、その存在に説得力を持たせていた。
セイバー…"べレス=アイスナー"ももうこの光景に慣れたものだ。
「さて。わしとの話よりも、マスターの相手をしてやれ。
新しい教師生活じゃ、生徒を早々に死なせるのも居心地が悪かろう?」
ソティスの一言を区切りに、世界が変わる。
心象世界から現実へ。神殿から地下鉄のホームへ。
意識を現実に戻したセイバーの前には、虎杖悠二が表情を引き締めて、壁に設置された座席に座っていた。
「なるほど。大体わかったんだぜ、聖杯戦争」
「本当に? それにしては眉間に皺が寄ってるけど」
「…セイバー、もう一度説明してくれだぜ」
聞くは一時の恥。聞かぬは一生の恥。カッコつけたはいいものの、虎杖悠仁は結局そのルールを理解していなかった。
セイバーは語る。聖杯戦争。マスター。サーヴァント。令呪。意外なことに、勉強は不慣れな虎杖の脳にもするりと入ってくる不思議な言葉。これが『教え方が上手い』というものなのだろうか、と漠然とした感想を虎杖は思う。
「…つまり、その聖杯を狙って殺し合うってことか」
「簡単に言えばそうなるね。君が聖杯が欲しいというなら、自分は従うけど」
「いや…そんなどうしても叶えたい願いってのはねえかな。あとセイバー、表情硬くない?」
「産まれつきでね。ちょっとは変わる様になったとは言われてるんだけど」
虎杖悠仁は軽くセイバーと話をした後、顔を伏せる。静まり返った地下鉄のホームで、その沈黙が更に空間を支配する。
セイバーも口数が多い人間ではなく。ただ、虎杖の言葉を待っていた。
「…人は死ぬ。それは仕方ない。俺もそれはわかってるよ。どうやったって人はいつか死ぬ。
───だったらせめて、正しく死んでほしい。誰かに理不尽に命を奪われるとかそういうんじゃなくて、もっと…そのためには迷わないって決めたよ」
「…」
「だけどさ。聖杯戦争の仕組みを知らされて、どうしたらいいかわかんなくなった。巻き込まれた人はどうする? 戦いたくないのに戦いを強いられている人はどうする?
人を殺すしか道を選べなかった人も…俺は殺さなきゃいけないのかな」
この地で起きる聖杯戦争。その残酷さ。それは、『望まぬ殺しを強いられる人も存在する』ということ。殺す道しか選べなかった人物が何の罪もない人を殺すのなら、殺さねばならないのか。
「…それは、難しい質問だね」
暫しの沈黙のあと。セイバーが、口を開く。
しっかりと。虎杖の心を、受け止めた上で。
「いつの時代だって、戦乱の世であっていい筈がない。自分は戦いの中にいた方が居心地が良かったけれど、後に平和の在り方も知る様になった。
だからこそ、とても厳しいことを言うよ」
虎杖が顔を上げる。その目線の先に、凛としたセイバーの瞳があった。
目を逸らさない。言葉を濁さず、しっかりと受け止めて。一人の人間として、言葉を交わしている。
「戦うしかない。平和と、その裏に潜む闇を祓う為には剣を取る必要もある。どれだけ被害が出ようとも、足を止めることだけは許されない。
それをしてしまうと、一番に失われるのは自分の大切な人達だから。戦って、戦って───時のよすがを辿りて、自分だけの答えを出すまで」
「…戦う…」
「勿論、君が嫌だというのなら強制はしないよ。何を選ぶかは、君自身だから」
「…いや、戦う。戦うよ。迷わないって決めたんだった。
俺は、俺のできることをする」
頬をパン、と叩き虎杖が立ち上がる。その瞳には、もはや迷いはなく。
セイバーの前に手を差し出す。力強く、決心するように。
「俺は出来る限り人を助ける。だから、セイバーも力を貸してくれ」
その言葉と、差し出された手に。
セイバーは笑顔で、その手を握り締めた。
呪術師と灰色の悪魔。呪いの王と神祖。
互いに人ならざるものを心に宿す二人が、手を取り合った。
どうかその先に、希望のある朝日がありますように。
「…ところで、セイバーって先生とかやってたの?」
「やっていたよ。望むなら、徒手空拳でも教えられるけど。武器より素手の方が得意そうだからね、君は」
「マジか…サーヴァントとの組手って大丈夫なのか…?」
「大丈夫だよ、教えるのは得意でね。ジェラルト傭兵団式の格闘法を教えてあげるよ」
「傭兵!? 先生で傭兵だったの!?」
【クラス】
セイバー
【真名】
べレス=アイスナー@ファイアーエムブレム 風花雪月
【属性】
中立・中庸
【パラメーター】
筋力:B 耐久:C 敏捷:A+ 魔力:C 幸運:D 宝具:A
【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。
天馬や飛竜が現存した世界で生き、神祖の力を宿した故の高ランク。
騎乗:C
乗り物を乗りこなす能力。正しい調教、調整がなされたものであれば万全に乗りこなせ、 野獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。
セイバーがいた時代では天馬や飛竜に乗ることも珍しくは無かったが、セイバーはあまり利用しなかったようだ。
【保有スキル】
灰色の悪魔:A
フォドラの地にてその名を響かせた傭兵の二つ名。
戦場に恐れられたその名がスキルとなったもの。
相手の武器に対して適切な判断・有効な戦術を即座に繰り出し、剣だけでなく拳や身体全体を使った戦闘術。また、戦闘における回避や離脱判定にも大きくプラス補正を与える。
戦場において一人で軍を相手取り戦局を変える存在。
師の導き:B
かつてフォドラの地にて、傭兵の身ながら教師に抜擢されたその能力、逸話。
相手の素質、才能、得意分野を見抜き的確な助言・指導を可能とする。
これは戦闘にも利用され、対峙する相手の力量・技量を読み取り戦闘判定にプラス補正を与える。
戦場及び日常でも発揮されるスキルであり、戦況把握や同ランク程度の専科百般(武器)スキルとしても活躍する。
実戦にすら触れたことがない未熟な貴族や平民を一騎当千の英雄にまで育て上げた、教師の手腕。
13番目のクロームハート:C
セイバーの心臓は動いていない。いや、正確には『産まれた頃から鼓動を停止していた』。
誕生した時には既に終わろうとしていたその生命を繋ぎ止めたのは、『神祖の紋章石』。神の心臓を使い作られたソレが、セイバーの心臓の肩代わりをしている。
このスキルにより、セイバーの側面で召喚された彼女はキャスターとしての側面を得ることになり、白魔術・黒魔術の使用が可能となる。
一種の魔力炉としても稼働し、魔力の供給さえあれば己で魔力を生成し、回復や攻撃力の強化など強い生存力を会得する。
【宝具】
『天帝の目覚め、祖なるは天を覇する神剣(エスパーダ・エンペラドーラ・セレスティアル)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:50
神祖、"はじまりのもの"の肉体を利用して作られた神剣。
所謂蛇腹剣であり、その刃は遠方の敵すら切り裂き、万物を切断する。
一度の斬撃で二度の判定を与え、その名に恥じぬ攻撃性を秘めている。また武器に似合わぬ再生力を持ち、その刃はどの戦場でも刃毀れせぬと謳われる。
真名を解放すれば『覇天』と呼ばれる技能を使用。
神祖と意思を合わせた無数の斬撃が、一振りにして辺りを蹂躙する必殺技。
『拍動よ止まれ、祖なるは天を刻む歯車(レロー・オラ・ディオース』
ランク: A 種別:対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
"はじまりのもの"───神祖ソティスの力を利用する、世界に作用する魔術。
世界の理に介入し、時間を操作する。
基本は戦闘中において一時的に時間を停止し、相手の認識と攻撃タイミングをズラすことに使用する。
限度はあるものの、使用する魔力の量により時間を巻き戻し相手の行動を見てから対処することや仲間の致命傷を回避することも可能。
が、一時的に時間を停止させることは容易いものの巻き戻すとなると時間に対応した魔力を消費する。
「だいごまほう? なるほどー。人の身でよくもまあ…。
そうじゃのう…神に出来ぬものはない、ってことでどうじゃ?」
『覇天顕照、此は全ての原点なる神祖(エル・トローネ・フォドラディオース』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:30~50 最大捕捉:不明
魔術の最奥、固有結界。術者の心象風景をカタチにし、現実に侵食させて世界を作る大魔術。
セイバーの霊基の中に存在する淡い緑に照らされる玉座を、その世界を作り出す。
この結界内でのみ『神祖ソティス』が現界可能となり、神祖ソティスは対魔力すらも撃ち抜く神の魔法と『拍動よ止まれ、祖なるは天を刻む歯車』の無制限発動を可能とする。
此処は神祖の玉座。入り込んだ時点で、既に神の掌の上である。
【Weapon】
『天帝の目覚め、祖なるは天を覇する神剣』
【人物背景】
フォドラの大地における腕利きの傭兵団『ジェラルト傭兵団』の団長、"壊刃のジェラルト"の一人娘。
とある日、彼女は盗賊に襲われる三人の男女を救う。
アドラステア帝国の次代の皇帝、エーデルガルト=フォン=フレスベルグ。
ファーガス神聖王国の第一王子、ディミトリ=アレクサンドル=ブレーダッド。
レスター諸侯同盟を盟主の嫡男、クロード=フォン=リーガン。
彼女、彼らを助けたべレスはその腕を認められ、士官学校の教師となり、様々な戦争に巻き込まれていく。
べレスの人生については諸説あり、三つある学級のどれかを担当したか、または教師にすらならなかったなど様々。
召喚したマスターによりべレスはどの側面が召喚されるか決定されるが、今回はアドラステア帝国に所属し偽りの平和と地中深くに根付いた"闇"を駆除した側面の彼女らしい。
戦争時の傭兵故の冷徹さとほぼ無表情の彼女だが立派に感情はあり、人の話を聞くことや人の助けになることが趣味。
口数は少ないが、笑顔や信頼に応えることが好きな女性であり、黙って人の話を聞くこともしばしば。
傭兵であるが故に命のやり取り・戦局については冷徹ではあるが非道ではない。無口で無表情、合理的な判断が多いが故に勘違いされやすいが、根は優しい女性である。
今回は『内に人ならざるものを飼う者』としての縁で呼ばれた。
【サーヴァントとしての願い】
マスターの力になり、依頼されただけの仕事は完遂する。
【マスター】
虎杖悠仁@呪術廻戦
【聖杯への願い】
なし。
【weapon】
なし。
【能力・技能】
生物としての強度の高さ、優れた身体能力による格闘、呪力操作。
身体能力は走ればアクセルを踏み続ける軽トラックに追いつくほどの速さを秘め、拳はアスファルトを砕き更に余波で大地を砕き、掌に穴が開こうとも怯まない耐久力を持つ。
卓越した格闘センスを持っており、直感で学んでいないはずの格闘技を扱うことも。
また、呪いの王『両面宿儺』を宿しているため、猛毒や魂への干渉耐性を持つ。
【人物背景】
ノリが良く、社交的で人とすぐ打ち明けることのできる、呪術師には珍しい『善人』。
とある件から両面宿儺を体に宿すこととなり、両面宿儺を制御できる貴重な『千年産まれてこなかった逸材、両面宿儺の器』としての価値を見出され、『秘匿死刑執行猶予(両面宿儺の指を20本飲み込んだ後)』という試練を課される。
本人は祖父の死の際に、「オマエは強いから人を助けろ」「手の届く範囲でいい。救えるやつは救っとけ。迷っても感謝されなくてもとにかく助けてやれ」「オマエは大勢に囲まれて死ね 俺みたいにはなるなよ」と言葉を残され、「正しい死とは何か」を考えるようになり、人を助ける道を選んだ。
参戦時期は起首雷同編終了後。アニメ一期終了後、原作では8巻63話~64話終了後からの参戦。
【方針】
多くの人を助ける。
人を殺す者には、容赦はしない───迷わない。
最終更新:2022年08月24日 23:15