見上げた空に、落ちていく。
月が綺麗な夜だった。街明かりが星の煌きかのように輝く、
この東京学園都市も栄えてこそいたが、この都市も負けてはいない。
少年が滞在しているとあるホテルの一室も、調度品含め、最高級のもので揃えられており、贅の極みと言っても差し支えないだろう。
そんな一室の窓から、ありとあらゆる人間がごちゃまぜになっている都市をぼんやりと見下ろした。
老若男女日本人異国人。あまり自分がいる場所とは違い、世界の進み方が緩やかだ。
技術も、人も、何もかもが緩く、霞んでいる。
あの都市で常に生き急ぐように、生きてきた少年からすると、つまらない街としか言えないだろう。
少年――垣根帝督は元来、恵まれていた人間だった。
発現した異能――未現物質を操る才能を持ち、賢しい頭脳で学園都市の暗部で一定の立場を得るまでとなる。
頭上にいる第一位の能力者さえいなければ、立場は圧倒的だった。
その他大勢の人間から見ると考えられもしないくらいに頂点で、一言で言えば天才だった。
胡座をかいて、悠々自適な態度を取っていいものであるが、垣根は苛立ち紛れに舌打ちをするばかりだった。

――押し付けられた副賞なんて、クソ食らえだ。

だが、垣根にとってそれは家畜にも劣る、思考停止だ。
知っている、知ってしまっている、
人は生まれながらにして、運命は決まっている。
逸脱はなく、既知に満ちた箱庭で、座して待つ。
天上人であるアレイスター=クロウリーのあざ笑いが頭に浮かび、苛立たしい。
知るかボケ、自分の道は自分で選ぶ。
神様を気取ったカス共にいいようにされて、気分がいいやつがあるか。

アレイスターの指先一つで垣根達の運命は決まってしまう。
道化のように踊って、最後はゴミのように棄てられていく。
だから、まだだ、と。垣根はみっともなく足掻くことを手に取ったのだ。
勝手に査定されて、利用価値を低く見積もられるなんて冗談じゃない。
誰かのスペアプランではなく、唯一無二の能力者として。
その為の戦いを垣根は始めたはずだった。
それが一体どうしてこんな奇天烈な争いに巻き込まれてしまったのか。
ともかく、考えて解決する事象ではないことはもう理解しているし、巻き込まれてしまった以上は仕方がない。
頭に叩き込まれた知識を元に、垣根は生存及び勝利条件を構築する。
最後の一人になるまで生き残り、聖杯を取る。そして、聖杯戦争の観客席にいる黒幕をぶち殺す。
勝手に巻き込んで、戦いを強制させる天の神様を気取った奴はすこぶる気に入らない。
別に人を殺したり、欺いたりすることに躊躇はないが、それはそれとして道化のように踊るのは嫌いだ。
そう、一言で言えば、“ムカついた”のだ。
そんな感情的な理由で、垣根はこの聖杯戦争に対してのスタンスをやりたいようにやると定めた。
敵対して喧嘩を売ってくる奴は当然殺すが、敵対の意思がない雑魚に対しては放置だ。
場合によっては同盟であったり、傘下に入れることもいい。
無論のこと、自分一人の戦いとなったとしても、後れを取るつもりはない。
しかし、後々を考えると、『スクール』のような組織があったほうが便利なのは事実だ。
つらつらと思考を重ねていく垣根ではあったが、今は引き当てたサーヴァントに対して、対策を講じなくてはいけないのが頭が痛い。
ここまで頭がぶっ壊れたサーヴァントを引き当ててしまうなんて。

「それで、方針は決まったのかい。何なりと申し付けを、マイ・マスター」
「よく言うぜ。唐突に街に飛び出したり、放置してたらいつの間にかに戻ってきたり。行動に規則性がなさすぎるんだよ。
その『何なり』の範疇に、どんだけの詭弁が混じってんだ、セイバー」
「いいや、徹頭徹尾真実だとも。マスターとサーヴァントの関係ってやつを、私は弁えている。
少なくとも、こうしてコミュニケーションを取るくらいには、君の利用価値を評価しているのだから」
「今日もよく口が回って結構なことだ。まあ、俺の不利益にならなけりゃ、どうだっていいが」
「それはまた。束縛されず、放任主義も過ぎたら、それはそれで物足りなくなるね。
どうだい、試しに令呪でも使うかい?」
「テメェへの対抗手段をカスな使い方で消費してたまるかよ」
「ナンセンスな浪費をしない、一時の激情に流されない聡明さ……結構だ」

眼前の男は一言で言えば、胡散臭い。
常に粘ついた笑みは絶やさず、物事の全てを一段上から見ているかのようで。
口を開けば詭弁と論理を混ぜ合わせた言の葉で。もうダメだ、こいつ。
学園都市の理事長のほうがまだまともかもしれないとさえ感じる、胡散臭さ満載のサーヴァントだが、はっきり言って強い。
以前、好戦的な主従が一方的に襲ってきた際、一瞬で返り討ちにしたことがある。
心底がっかりした顔で、君達はつまらない、と。
敵意を向けられた主従は利用価値を見出されることすらなく、短い人生を終わらせてしまった。

「ったく。この切り札は現状お預けだよ、『審判者』。それに令呪で縛った所で、抜け道を探すだろ、テメェは」
生憎とこんな保険程度で勝利宣言をできる程、おめでたい頭じゃなくてな。
テメェとやりあうなら、もっと入念に保険をかけるっつーの」
「いい敵意だ。ぞくぞくしてくる。その不屈の精神、実に素晴らしい」
「一人で語ってろ。裏側にある無関心が見えてんぞ」
「釣れないマスターだ。だが、意気消沈した落伍者を神輿に掲げるのは私も困るのでね。
戦いとは、精神とは、競う相手がいてこそ、高まるものだ。
私が生前、惜しみなき尊敬を抱いた者がいたように。君にもいるのかい、是が非でも超えたい好敵手が」
「令呪を以て」
「ふふ、この話題はお気に召さなかったかな? 無駄撃ちはよくないって前言は撤回かい?」
「令呪で口でも閉ざさねぇと延々と続きそうだったんでな。
人の精神を逆撫でしないスキルを取得した方がいいぜ」

ああ言えばこう言う。慣れ切ってしまった今では、この軽口も、言葉程のストレスにはならない。
イラつく軽口を受け流していいくらい、セイバーには強さがある。自己を確立させ、存在を証明するだけの力がある。
垣根も、それが欲しい。第一位や理事長を圧倒できるような力が欲しい。

「願いだとか、方針だとか、テメェとくだらねえ言葉を踊らせる気はねぇ。
ただ、これだけは絶対だ。勝つぞ、セイバー」
「承知した、マイ・マスター」

与えられるという立場は気に入らないが、聖杯も奪えるなら奪っていこう。
垣根帝督という人間は貪欲なのだ。

「私も、箱庭を突き破る――眼前の壁を取り払い限界を超えたい……その気持ちはわかるつもりさ」
「変な同情はいらねぇよ」
「本心さ。世界が違えど、システムは変わらない。神様がいて、総てを高く見下ろしている。
私は君とは違って、頂点を目指す渇望が足りず、死んだが、こうしてやり直しの機会を与えられた以上……目指してみるつもりだよ。
高みを、ただただ、限界を。超えたい、諦めたくない。考えれば考える程、そんなプリミティブな欲求は、溢れるばかりで。
それに、この秩序無き箱庭で人がどう踊るのか、とても興味がある」

人を騙して。それでいて、期待をして。
相反する混沌を見せつけ、それらを超えてくれることを期待する光の奴隷。
飲み込まれてはいけない、垣根でさえ、油断すると堕とされる。

「その中には君もいる。垣根帝督、私の中にある既知を超えてくれるかい」
「レベル5を舐めんな。既知を超えてこそ、この位置《第二位》にいるんだ。
他の雑魚ならともかく、俺は早々と思い通りにはならねえよ。
テメェの中にある限界とやらも、全部塗りつぶしてやるから期待してろや。
あまりにも、俺が強すぎて、ビビっちまったら切り捨ててやるよ」
「この私を、切り捨てる、とねぇ! その意気だ、羽ばたいてみろ、『未現物質』。
君の願いが、意志が、私を驚かせてくれるなら――!」

セイバー――ギルベルト・ハーヴェスの笑みははたして誰に向けたものなのか。
垣根に乗って存在総てが狡知である彼を信用することは今後ない。
それは向こうも同じことで、自分が面白みのない存在に成り果てたら、切り捨てられるはずだ。
どちらが先に痺れをきらすか、もしくは脱落するか。
結局、垣根にとっては元の世界とやることは変わらない、自分の存在価値――頂点を目指す戦争である。
耳障りな笑い声を背景音に、垣根はめんどくさそうにため息をついた。


【クラス】
セイバー
【真名】
ギルベルト・ハーヴェス@シルヴァリオ・トリニティ
【属性】
秩序・善
【ステータス】
筋力:B 耐久:B 敏捷:B+ 魔力:B 幸運:A 宝具:A
【クラススキル】
対魔力:E
魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:B
騎乗の才能。
大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】
『光の英雄譚(偽):A』
あらゆる不可能を可能へと押し上げる精神・ステータス上昇スキル。
全ては心一つ、気合と根性があれば何でもできる。トンチキスキル。きっと、限界はない。
戦闘が続行されるにつれて、ギルベルトの持つ武勇、そしてステータスは際限なく上昇し続ける。
加えて、同ランクの精神汚染は無効化させる、というより精神汚染がほとんど効かない。

――な訳がなく。
ギルベルトは頭が良く、弁えている奴なので、限界はある。
尊敬する閣下と同格などとてもとても、と。英雄に負けた男は謙虚だった。

光の奴隷(偽):A:
戦闘続行、心眼(偽)を混ぜあわせた複合スキル。
不死と勘違いされてもおかしくない彼を体現するトンチキスキル。
実は限界はない。
通常ならば、重傷及び霊核を貫かれようならば、サーヴァントとして消失してしまう。
しかし、光の奴隷たるギルベルトが致命傷程度で死ぬはずもなく。
どれだけ、手傷を負おうが、武勇に陰りなし。彼は十全以上に戦い続ける。

――な訳がなく。
何度でも言うが、ギルベルトは頭が良く、弁えている奴なので、限界はある。
閣下のように私はなりたいが、難しいものだな、と。英雄を尊敬する男は謙虚だった。

神算鬼謀:A
必然、偶然、奇跡。ありとあらゆる要素を含め、策謀を張り巡らせ、先手を瞬時に取れる、軍略と直感を混ぜた上位スキル。
彼の智慧は神祖――いってしまえば遙か上位の逸脱者をも上回る擬似的な未来予知とさえ言えるだろう。
総ては彼の掌の上で。ギルベルトに見抜けぬ策謀はない。

【宝具】
『楽園を照らす光輝よ、正義たれ』
ランク:A 種別:対人・対軍宝具 レンジ:1~50 最大補足:100
衝撃の付着と多重層化を発動させる能力。
条件が整えさえすれば、街一つ潰せる程の汎用性。
能力単体というより、ギルベルトの頭脳から繰り出されるアホみたいな使い方が益々拍車をかけている。

【Weapon】
剣。

【人物背景】
光の奴隷。

【サーヴァントとしての願い】
何だと思う? 聡明なる君ならわかるはずだがね。

【マスター】
垣根帝督@とある魔術の禁書目録

【マスターとしての願い】
勝手に見下ろしてんじゃねぇぞ、コラ。

【能力・技能】
未現物質。

【人物背景】
チンピラ崩れの能力者。

【方針】
好きにやる。

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最終更新:2022年08月30日 20:57