唸る、唸る、唸りを上げる。
叫ぶ、叫ぶ、叫びを吠える。
閑静な住宅街に、けたたましい電動音が木霊した。
工事現場でもないのに、土木作業でしか耳にしない、ギャリギャリとした刃が回る音が辺りで鳴り続けている。
丸太を裁断するだけに過ぎない伐採用の機械から発する、この地響きはどうしたことか。
まるで地獄の底から聞こえてくるような、身震いするほど恐ろしい声。
天が割れるほど力強い、誰かの心臓のような鼓動。
日の立ち寄らない廃屋に住み着いた野良犬、違う。
路地裏で幸せな夢を見るだけの薬物中毒者、違う。
「ギ、ガアアアアアアアア!」
腕を切り落とされて苦悶に悶える男、違う。
「キャアアアアアアアアアア!」
高所から振り落とされて悲鳴を上げる女子高生、違う。
「オアアアアアアアアアア!」
腕を切り落とした仮面を被った男の雄叫び、近いが違う。
音源は怪人の両手からのものだ。
腕に突き刺さった、否、腕から生えて回転する鋸の刃。
刃は腕だけじゃない。頭にもだ。
仮面にしか見えない鬼の形相は男の素顔であり、脳天から回転する鋸の刃を生やしている。
男は少年だ。
今年で高校1年生になる。
少年は悪魔だ。
悪魔の心臓を移植し、人のままで悪魔になっている。
その名は。
恐れられるべき悪魔の名前は。
「……貴様が……チェンソーマンか……!」
異界東京都を昼夜賑わすホットな噂。
街の裏で次々起こる怪事件。
悪魔の仕業としか思えない酸鼻な現場。止まらない犠牲者。
そんな最悪な奴らを殺しに、地獄から悪魔がやって来た。
両手両足全身のチェンソーを吹かして滅多切り。
殺されても殺されても、悪魔を殺すまで何度だって甦る。
どんな敵でも最後には必ず勝つ、不死身の悪魔。
地獄のヒーロー───チェンソーマン!
「よもや噂が真実とはな。そうであって欲しくはなかったが……」
「お、有名人かオレ? バトルしまくった甲斐あったぜ」
少年のあどけなさの抜けていない、年若い男の声だ。
ワイシャツにネクタイを通した服は、どこかの高校の制服とも見える。
繰り出した使い魔の魔獣を蹴散らした返り血で、最早見る目もないが。
対する相手もまたサーヴァントを従えるマスターであり、1人の魔術師でもある。
聖杯に招かれ、燻っていた野心に火がついた事で、猶予期間となる時間に抜かりなく勝利の戦術を練り上げていた。
そうした作業の最中だった。
制作中の魔術工房にチェンソーマンが乱入し、資源を根こそぎ奪還した上に工房を再起不能になるまで破壊され、外に叩き出されたのは。
「……何故この神聖な儀式に貴様のような異物がいる」
「は?」
魔術師の顔に憤怒が乗り移る。
腕を奪われた痛みを忘れている。
痛覚遮断の術を使うまでもなく脳内の快楽物質を増産されていく程の熱量は、神秘を貴ぶ者の矜持。
召喚術、特に魔獣の扱いにおいては一角の人物と評価を受けている身だ。
悪魔を名乗るこの男が、現代の魔術とは比べ物にならない神秘を宿してるのは即座に看破している。
ならばこそ憤る。
許せないと怒りを燃やす。
神秘とは神を秘するもの。魔術とは魔を統べるもの。
真理を探究し、術理を追求し、究極に到達する。
過程でも成果でも、そこには神秘が世界の地表にまだ息づいているのが前提になる。
これだけの『魔』の凝縮体を保有していながら、そんな大原則を意に介さずしている。
「貴様……分かってるのか?
俗社会で禁じられた神秘をこのような往来で平気に使って……神秘の隠匿はどうなっている隠匿は!
この世から魔術が力を失ってるのは、貴様のような若造が無知蒙昧に奇蹟を拡散しているせいだろうが!」
「あぁ~~~~? ガキ殺して回ってる奴が世間の目気にしてんじゃねえよなあ!」
チェンソーマンの眼窩が光る。
後頭部が剥き出しの機械のパーツで出来ていて、夜に前を照らすライトみたいに見える。
視線の先には、地面にへばりつくように座る女子高生。そして女子高生の首を掴んだままの、魔術師の飛んでった腕。
魔術師が女子高生に何をしようとしたのかは明白だった。
「こいつらはこの儀式の為に始めから用意されていた生贄、いわば資源だ。
放牧された家畜を屠殺して調理する事の何が悪い!」
「あっそ! じゃあ俺がテメーブッ殺して食べても何も悪くないってコトでいいんだなあ!?」
回転のギアを更に上げるチェンソー。
問答は無用、次はもう片方の腕も頂くと踏み込んだ時、異変はそこで起きた。
チェンソーマンの背後。ビルとビルの細い隙間から、一本の影が伸びた。
ビルの影が独立したように見えるそれは、影であり、影ではなかった。
サーヴァント。異界東京の真なる住人、その片割れ。
それも対象の意識外(アウトライン)からの奇襲を得手とする類。
骨格と関節の限界域を無視した潜航に、無音俊足の足運び。
前方の魔術師に敵意を全集中してるチェンソーマンに、これを避ける術はない。
背後から狙うは、脊椎に一刺し。
如何に不死身と謳われようと一定の硬直は免れない。それだけの時間があれば対応策は幾らでもある。
振り返る暇も与えず、残り一歩で詰めの距離に入った次の瞬間───握ったナイフが、真上から飛来した弾丸に叩き落された。
「……ッ!」
よもや奇襲する側が奇襲を受けるとは。
驚きと怒りと共に暗殺者は頭上を振り仰ぎ、射手の姿を探す。
探すまでもなく、シルバータイプの拳銃を握りしめる男はそこに立っていた。
雑居ビルの屋上。
闇に身を埋める間諜の真似など御免とばかりに陽光を浴びる蒼いコート。
姿形は銀髪を短く刈った青年そのもので、武装を除けば異物感はほぼない。せいぜいが右腕に金属製の篭手を嵌めてる程度。
チェンソーマン……
デンジと呼ばれたマスターの傍に一跳びで立ち、血を被った姿を見て一番に悪態をついた。
「オイオイ、ズタボロじゃねえか。俺に避難誘導任せた癖に、何一人で突っ走ってんだ」
「何ともねえなあ。コイツら血ィ出しまくるから飲みまくって全回復してるよ!」
「只の返り血かよ。我がマスターながらイカれた仕様だぜオイ」
気安いやり取りは、主人と従者よりは、同業者の関係にあるような距離感。
ならばこの銀髪の青年がチェンソー男のマスターであると見做すのが自然だが
「何だ……貴様らは……?」
……信じがたい事に、実態は逆だ。
圧倒的な魔力量。存在だけで身を戦慄かせ、賢しい悪意を問答無用に壊すパワー。
観測した情報は虚偽も欺瞞も許されず、本人も自覚せぬ挫折感と共に受け止めるしかなかった。
真名(たね)を明かそう。
怪人然とした悪魔の方こそは正真正銘の令呪持つマスター。
名を
デンジ。職業はデビルハンター。
受け継いだ悪魔の名はチェンソーマン。悪魔も泣き出す地獄のヒーロー。
そしていま現れたのがその悪魔と契約を結んだ悪魔(デーモン)。
剣を司るクラス。セイバーのサーヴァント。名をネロ。職業はデビルハンター。
血を引く悪魔の名はスパーダ。悪魔も泣き出す伝説の魔剣士。
悪魔と悪魔───悪魔狩り(デビルハンター)による悪夢のコラボレーション。
「さて
デンジ、それじゃ選手交代だ。メインディッシユはお前の腹には収まらねえ。ガキ拾ってとっととここから逃げ───」
「え、何で? コイツらブッ殺した方が速えだろ? 周りにメチャクチャ敵出てきてるしよー」
「……ああ。その方が早そうだし楽そうだ」
魔術師が用意した、一帯を埋め尽くす数の魔獣の群れにも、二人で臆さず軽口を叩き合う。
前後左右、ビル壁を伝って上の空間にも配置された、完全な包囲状態。
今にも一斉に四方から飛びかかってもおかしくない、一触即発の雰囲気に、ひーふーみーと頭を数える余裕綽々を見せつけてすらいる。
おもむろに、ネロは肩にかけた大ぶりの剣を掲げる。
肉厚で見た目からして常人に扱う調整がされていない大剣を、そのまま地に突き刺した。
柄のグリップを握ると、鍔元に取り付けられたメーターが振れてエンジン音が吹き上がる。
デンジも面白がって、両腕のチェンソーをかき鳴らしてエンジンを吹かした。
辺りに響き渡る二重の轟音。轟音はやがて心臓の鼓動になり、戦場のボルテージを否応なく上昇させる。
しかし、それ以上は何もしてこない。
ただの戦いの前の装備の充填にしては、何もなさすぎる。
どういうことかと訝しげに睨んでいて……ふと、気づいてしまった。
攻撃を誘う隙。
始まらない時間の浪費。
にやついた表情。
自分達は、崇高な儀式の下で奇跡を求めて戦い合う相手に、あからさまな挑発を受けていると。
「─────ッ!」
そこで完全に『緒』が切れた。
もはや我慢ならんと膨れ上がる憤怒が、限界に差しかかった膨張を破裂にまで突き刺す。
殺意が大渦になって、魔獣という形を持って殺到する。
「すぐに終わらす、しばらく目と耳塞いでしゃがんでな」
その直前。
今まさに飲み込まれようとしている、状況に置いてけぼりにされて恐怖で震え上がる女子高生に、ネロは一度だけ振り返って。
ドライブに行ってくると言うのと変わりない気軽さで、答えたのだった。
「こっから先はR指定だ。───Gのつく方だけどな!」
始めから全速力(フルスロットル)で回された戦いは、決着もまた高速に。
速報で流れた『またもチェンソーマン大暴れか。謎の悪魔の噂の調査』の見出しと共に、荒れ果てた道路がワイドショーの一面を飾る日となった。
◆
冬の東京、住宅街。
社会人1年生、自立を始めた若者の強い味方、1DKのアパート。
簡素な間取りと、生活用品しか置いてあるものがない内装。
1人暮らし向けの狭い部屋だが、窓の向こうの景色は見晴らしが良い。
本当ならあと1人分ぐらいで埋まってるぐらいがちょうどいいと思える、少し侘しい空間。
「おし、できた」
キッチンで調理を終えた
デンジは、慣れた手付きで冷めない内に皿へ盛り付ける。
目に眩しい白いご飯。豆腐とネギとワカメのシンプルイズベストな味噌汁。
卓の真ん中に置かれた主菜は、柔らかくなった豚肉を玉ねぎと一緒に炒めただけの、一人暮らしで料理に慣れない若者の強い味方パート2。
日本の定番家庭料理、生姜焼き定食である。
「いただきます!」
「おう」
ネロと卓を囲んで、2人共に膳を取る。
誰が先に言いだしたのでもない。
マスターとサーヴァントの区別なく、いつの間にやら一緒に食事を取るのがこの主従の習慣になっていた。
デンジは味噌汁から。なんだかんだ言って農耕民族、日本人には味噌が合う。一月食パン一斤生活だったくせに何言ってんだ。
ネロは肉。生姜の香りが食欲をそそり、酵素で柔らかくなった肉をフォークで突き刺して噛み千切る.。というからそれ以外がいまいち口に合わないのだ。
「肉はともかく……豆で作ったチーズに豆を腐らせたスープ、パンの代わりに炊いた麦をボウルに丸ごととか、よくこれで腹が持つよなお前ら」
「嫌なら食わなくていいぜ」
「メシ粗末になんかしたらキリエにどやされるぜ……」
自然と女の名前が出てきて、
デンジはちょっと嫌な顔をした。
「何だよ死んでるのに彼女いんのかよ……」と愚痴をこぼす。俺は知り合った女全員殺しにやって来んのに。
少し切ない気持ちになった。
「なんで家で男とメシ食ってんだ俺……?」
急に我に返ったような自問自答をする。
「お前が毎度出してくるからだろ」
「しょうがねえじゃん、アキがいるかと思ってつい作ってちまうんだからよ──────あ」
箸が止まる。
およそ1年前まで最下層に劣悪な環境で育ってきた割に綺麗に膳の白米を集めていた音が消える。
無音になった途端、狭い部屋の少ない隙間が、いやに広く感じられた。
「……今のナシな」
「思ったよりナイーブな奴だな。そんなんでこの先やってけんのか?」
「ハア? お前に何が分かるってんだぁあ?」
「何だよ不幸勝負か? 受けて立つぜ。言っとくがな、俺はお前の3倍は余裕で修羅場潜ってんだよ」
売り言葉に買い言葉、好き勝手に言葉の殴り合いを始める。
口から出るのは罵倒ばかり、嫌味混じりの応酬だが、不思議と空気に緊張感はない。
「よし乗った! 勝った奴この余った生姜焼き一枚な!」
エスカレートしていっても、濁った敵意は入ってない。澄んだ悪態だった。
遠慮のない関係と、良く言えばそう取れなくもない。
「じゃあ俺先行! 逃げた親父の借金返すのに、体ん中の売りまくって底辺デビルハンターやってた!」
「生まれてすぐ親父に捨てられて、悪魔崇めるクソ教団で汚れ仕事させられまくったぜ」
「それに周りの奴は歯みてえにどんどん抜けちまう。姫神センパイもアキもパワーも、み~んな俺残して死んじまってよ~~!」
「俺はクレドを、家族を守れなかった。俺に力がなかったから」
「……俺、親父の事殺してたのずっと忘れてたんだ」
「……死んでた親父が何人も犠牲にした上に蘇って、自分の弟と殺し合い始めやがった」
「……」
「……」
停止。
「ヴォエ!」
嘔吐。
すぐ立ち上がってテーブルの上の皿に戻さなかったのは、成長の証と言うべきか。
異に入れたばかりの米と大豆と肉が、吸収を待たずトイレに直行する。
「ワリい、やっぱ辛えわ」
「……いや、悪かったよ」
無理やり笑い話にしようとしたが、やっぱり無理だった。しくじりとか言ってる場合じゃない。
吐き戻す横で白米を口に運びつつ、流石にばつを悪くした顔になるネロ。
この少年の短い人生の道筋は、言葉以上に過酷で凄絶なものだ。
母はいない。病気で血を吐いて死んだ。
父親は殺した。自分の手で。衝動的に。
10も超えてない年頃で、遥かに体格に迫る男の暴力に、いつまでも耐えられはしない。
涙も訴えも意味を成さない。
法が救えるのはいつだって、法の手が届く範囲までだ。
延々と続く恐怖と混乱の中で、自分の命がいよいよ危ういと察すれば、咄嗟の反撃で死なせてしまった事を、誰が責められるだろう?
少年の不幸はそこではない。
何せそこは底ですらなく、終わりどころか始まりであった。
親の借金を押し付けられ、ヤクザに身を切られ、犬同然に飼われる毎日。
家は小屋。飯は滓。縁は絶。人も女も寄り付かない。
この世の底辺という底辺が、
デンジの生き場所で、死ぬ場所だといつの間にやら決められた。
違いはない。
温いと虚仮にする程
デンジの人生は優しくなく、ネロの人生もまた闇の路地の如き暗さだ。
悪魔の血を引く男から生まれ、顔も知らぬ内に黒衣に包まれて捨てられて、孤児となった。
信仰篤い国であったが、よりにもよって信仰の対象は人を守ったとはいえ悪魔であり。
その癖教皇の立場に立つ老人とその周りは、自身が神と崇められる為に悪魔の力を利用する、狂信者ですらない狂人の集まりだった。
それをぶっ飛ばしてさえ……呪いじみた血の宿命は続いた。
過去に死に瀕していた父が蘇り、息子に悪魔の力を、右腕ごと奪っていった。
罪のない人を数多く犠牲にし、魔界の樹を成長させて、世界の均衡を構うことなく歪めていった。
力が欲しいから。
何を理由にしてすら切り捨て、血を分けた弟と戦い、勝つ。ただそれだけの証明の為に。
人間にせよ悪魔にせよ、生まれる前の、知らない因縁に巻き込まれて精算を迫られた点で2人は似通っていた。
違いがあるのなら……ネロは、愛を得ていた。
守りたいと思えるもの。それさえあれば全てを捨ててもいいと奉じられるもの。
身寄りのなく荒れていた自分に愛を授けて、ネロは愛を知った。
家族か恋人か、区別こそ曖昧だが、愛の形に変わりはない。
受けた分を自分なりに育くみ、逆に与え返した愛を、受け入れてもらえた。
それだけで世界には光が満ちた。
聖書の祈りに乗った陳腐極まりない単語が、ただの幻想ではないと知った。
そしてその幻想は……現実の暴力の前には、あまりに儚く、脆い事も。
だから守ると誓った。
虚ろになっていた心臓に熱を入れる、それが契機(トリガー)になったのだ。
彼女を……キリエを守る事こそがネロの生きる意味となり、価値となった。
恨んで然るべき地上、人間界の守り手を任ずるに足る、希望となったのだ。
デンジにはなかったのか。
何の因果か同じデビルハンターである、この年若いマスターに。
廃坑の汚水に浸かっていた体に気づき、手を引き上げてくれる奇跡に、まだ出会えてないのだろうか。
「あ、不幸勝負もいっこあったわ。
一目惚れだった女の人が実は悪魔でさ、実は俺の心臓の悪魔しか見てなくて、俺ンことはな~~~~んにも見てなかったんだ。
俺とポチタの契約を終わらせる為に、俺に友達も家族も生きがいも与えて、幸せにしてからぜんぶぶち壊すってんでさ。
アキも、パワーも、他の連中も……全員俺のせいで巻き込まれて死んじまった。
俺が、殺したんだ」
沈黙、再び。
軽く言うと、ドン引きした。
女運が悪いというか、それは幾ら何でもクソすぎやしないか?
「お前はある?」
「……………………ねえよ」
「よし俺の勝ちィ!」
余った生姜焼きを奪い取り異に運ぶ。
負けたところで悔しくも有り難くもないが、焼肉一枚分の代金にはなったようだ。
「……なら、それがお前の願いってやつか?」
聞いたのは、今が聖杯戦争の只中にあるという、本質を突く質問だ。
殺し合いを繰り返し、最後に勝ち残った強者に万能の力を授ける。
何とも悪魔らしいゲームだ。魔界でやったらさぞ大ウケだろうに、何故わざわざ人間を招くのか。
「いや……マキマさんはいいや。俺の愛のデカさは証明できたわけだしさ」
「熱いハグでもカマしてやったのか?」
「いや、食った」
「メシ時に下らないネタ話すなよ。ますます不味くなるだろ」
「だから食べたんだよ。マキマさんを。丸ごと」
「……」
今日だけで何度目かも知れない絶句状態。
もう、ここまで来ると言葉もない。
「だからマキマさんはもういねえ。代わりにちっちゃいガキはついてきたけどさ」
「チラシによれば、死んだ連中さえテイクアウトOKって触れ込みらしいぜ、このトロフィー」
「何でも~~? 嘘クセ~~」
「気が合うな。同感だよ」
まったく。
悪魔の取引がここまで似合うシチュエーションもないだろう。
死者を生き返らせて生者も含めて殺し合わせる、これだけでも合格点をやれる悪趣味ぶりだ。
そこに奇跡の報酬。クリフォトよりも美味に見える極上の餌だ。
裏を勘ぐるのは当然。もし額面通りに望みが叶うとして、みすみす放置すればどんな被害が現実に及ぶか。
ここは人間界を模した、性質はむしろ魔界に近い異空間らしいが、それ故に『外』に漏れ出す懸念は捨てきれない。
重要になるのは、マスターの意見。
ここまで聞いた身の上を思えば、聖杯に希望を見出すとしても無理はない。
ネロも慈善家やヒーローを気取るつもりはない。
襲いかかった境遇を覆したいぐらいの欲望は肯定するし、それがこの少年となれば同情の念も多少はある。
コイツはもう少し救われてもいいんじゃないか。
そう考えてしまいもするのだ。
しかしその手が殺戮を取るのなら。
死人の英霊や悪魔らの外道相手ならともかく、只の人すら鋸にかける気ならば。
ネロにはそれを止める義務がある。
令呪だろうが自害されようが、やめさせる意思がある。
潜ませる決心を知ってか知らずか。
最後の白米を飲み込んだ
デンジは、テレビを点けてチャンネルを変えながら。
「ま~~でも本当に何でも叶うならよ~~。マキマさん以外で欲しいものっつったら幾らでもあるぜ?
アキは生き返らせるだろ。あ、姫神センパイも。パワーも見つけてやらなくちゃだし……。
あとうまいモンもっと食いてえな。毎朝ステーキ食って、昼はウナギで、夜は……キャビア! とかフォアグラ! とか、なんか高いヤツ!」
たまたま特集で高級グルメの紹介をやってたから、欲望と直結した脳から適当に口から出たんじゃないか。
あるまじきノリの軽さで箇条並べして。
「そんでやっぱ……女にモテてぇ……。
ホントはやっちゃダメだけど、彼女5人から10人くらい作って、全員とかわるがわるセックスとかしたい……」
どうでもいい聖書曰く、聖杯の起源、キリスト以前での源流は、粥を無限に生み出す大釜と伝わる。
イスラームの天国では、永遠の処女と酒池肉林を交わし放題と伝わる。
デンジが知っている筈もないが、それを前置きにすれば、何とも皮肉にも程がある俗さ加減だ。
「……ま。『神だ』とか『もっと力を』とか抜かすクソよりはだいぶマシか」
そう、少なくとも。
誇大な野望も、狂おしき渇望も。
揃って笑い飛ばせてしまえる下らない願いで、奇跡を無駄に消費してしまうのは。
随分気の利いた意趣返しではないか。
大体、分かってきた。
付き纏う連中も大概だが、それに輪をかけてコイツは最高だ。
自分のマスターがかなりブッ飛んで、ぶっちぎりでイカれた奴だという事が理解できてきた。
大なり小なり狂ってなけりゃ、この仕事は務まらない。
そういう意味で、デビルハンターはこの男には天職なんだろう。
(しかしまあ、俺を召喚したのが何でコイツかと考えてたが───)
後進の育成なんてガラじゃない。
先輩風を吹かすでもないが、生業が同じなせいか妙に気にかけてしまうところがある。
けどいずれは……その順番が回ってくるのだろう。
あの赤い背中。
初めて会ってからずっと追ってきた、追い越したと思ったら後を託されて更に先へ進んでいった、誇りある血族。
不器用に親子で殺し合いをさせまいと体を張ってきた男みたいに、誰かに託す機会がいつか来る。
そう思えば、まあ今回の依頼も甘んじて受け入れられるというものだ。
それに───ネロは知っている。
過去よりも、願いよりも先に、一番最初に大事な記憶を、知っている。
デンジが漏らした『ポチタ』という言葉。
そこにこもった、その一言だけで相手をどう思ってるか明瞭に分かってしまうぐらいに、深い情感を。
悪魔と心を交わし、家族同然に一緒に過ごして、愛した男を。
どうしてもネロは、見捨てる気にはなれないのだろう。
─番組の途中ですが、ここて速報です。○○区✕✕町で爆発事故が起きました。警察は都内で起こる一連の暴動との関連性を指摘し、周囲の住民に避難を─
「行くか」
「おお」
『依頼』の報道を流したテレビの電源を切る。
残った味噌汁を飲み干して卓を立つ。
昼メシの時間はおしまい。ここから先は悪魔狩りの時間。
開け放たれた簡素なアパートの扉が、物寂しくも飼い主の帰りを待つ犬のように、パタンと静かに音を立てて閉じた。
◆
「ねえチェンソーマンって知ってる!?」
All of these thoughts runnin’ through my head.
「趣味で街にいる悪魔を殺してるって」「俺は暴走族を皆殺しにしたって聞いたよ」
「そもそも悪魔ってホントにいんのかな?」「友達が父ちゃんが悪魔に殺されたって」
Arm on fire, veins burnin’ red.
「女の子しか助けないんだって!」「男はそのまま見捨ててんの?」
「でも相棒の方はちゃんと誰でも助けてくれるって聞いたよ!」
Frustration is gettin’ bigger.
「ねえ知ってる知ってる!?」
「チェンソーマンの相棒も悪魔って噂だよ!」
Bang Bang Bang – Pull my Devil Trigger!
◆
【クラス】
セイバー
【真名】
ネロ@DEVIL MAY CRY5
【ステータス】
筋力A+ 耐久A 敏捷B 魔力C 幸運B 宝具A+
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
半人半魔:C
神ではなく、悪魔との混血度を表す。
伝説と謳われる魔剣士の血を継ぐ。
体のつくりが人間と異なるため、人間では致命傷となるような傷でも死に至ることがなく、治癒力も高い。
ネロは正確にはハーフである双子の兄が人間と設けた子であり、つまりクォーター。
悪魔の血は比較して薄まったが、最も継がれるべき魂の誇りは父を超えている。
天性の魔、怪力、戦闘続行、魔力放出、等との混合スキル。効力はどれもAランク相当。
直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。
デビルブリンガー:A+
悪魔の力の顕れである、幻影の腕。
このスキルによる攻撃はランク分の筋力ダメージとして扱う。
かつては傷によって覚醒した右腕だけしかなかったが、覚醒した現在は両肩から翼のようにして出し入れされる。
標的に向かって伸び、殴り、掴み、投げ飛ばし、引き寄せあるいは自分を牽引し、多彩かつ豪快な戦法を行う。
スタイリッシュアクション:E~EX
スキル「王道踏破」に類似した、特定の行動、主義を貫くことでステータスの向上を行う自戒系のスキル。
ネロの場合は「攻撃を複数種組み合わせて連続して行う」、「敵からの攻撃を被弾しない」、「戦いには不要なアクションを取り入れる」こと。
鮮やかに攻撃し、挑発を織り交ぜつつ、華麗に回避を決める程……いうなれば「スタリッシュ」な程スキルランクが上がり、上昇効果も高まる。
攻撃を中断、ダメージを受けるなどで効果は停止、初期値に戻る。
【宝具】
『火刹・赤の女王(レッドクイーン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:1人
フォルトゥナ国魔剣教団騎士が使う大剣。峰に推進装置を装着して斬撃の威力を高める。
ネロのそれは一般剣士はおろか幹部用のより大型の改造を施し、噴射時は巨大な炎が噴出される。
完全人造の武器であり然程の神秘は備わってない。無数の悪魔を斬り倒した影響で、対魔特攻能力を得ているぐらいである。
『黒腕・悪魔の激壊(デビルブレイカー)』
ランク:E~C+ 種別:対人、対軍宝具 レンジ:1~30(換装によって変化) 最大捕捉:50人(換装によって変化)
対悪魔用義手型兵装。右腕ごと悪魔の力を奪われた後、武器職人ニコが開発した義手兼武器。
一連の事件が終わって右腕を取り戻した後も、試験がてらに腕を霊体化させて使用を継続している。
都合八種類の用途の異なる兵装に使い分けられる多彩さが売りだが、耐久性に難があり(開発者は「使い方が荒っぽすぎるんだ」と主張)、
一定の使用、強化されたチャージ攻撃の使用、自壊のパターンで壊れてしまう。
複数ストックできるため、武装を破棄、瞬時に付け替える等で巧みに戦術に応用できる。サーヴァント化の恩恵でかさばりを気にしなくていいのも利点。
なお、適性さえあればマスターでも使用可能。
デンジは適性有りだが、当然使うには先に腕をもいでおく必要がある。別に問題なさそうである。
『銀の決意、真開す悪魔の撃鉄(デビルトリガー・シルバーバレット)』
ランク:A+ 種別:対人(自身) レンジ:ー 最大捕捉:1人
悪魔の力を解放し、肉体を魔人へと変化させる。
戦闘力と対魔特攻能力の向上、HP自動回復の付加と、効果はシンプルであるものの、効果は絶大。
デビルブリンガーも全開となり、四腕の波状攻撃があらゆる敵を討ち滅ぼす。
家族の死を契機とし、兄弟(ちち と おじ)の血みどろの死闘を経て得た、大事な人を誰も死なせないという決意と信念、
悪魔の力を人の心を以てして戦いを制する、真の意味での魔剣士の後継を象徴する宝具。
【weapon】
『ブルーローズ』
片手撃ちのダブルバレルリボルバー銃。
上下のバレルから微妙に発射タイミングのズレた弾丸を発射し、連続して同地点に着弾させる事で破壊力を高める。
銃弾の消費も早いはずだが、弾切れを起こす心配はない。リロードは気分。
魔力放出によるチャージで、時間差で爆発する強化弾になる。
この他、以前所有していた日本刀に似た魔力による刀、デビルトリガー時に遠距離に魔力の刃を射出する幻影刃等がある。
【人物背景】
悪魔の力と人間の心を持ち合わせるデビルハンター。
愛する者を守る為に戦い、父との確執を乗り越えた人間界の新たな守り手。
【サーヴァントとしての願い】
あくまでサーヴァントとしての依頼をこなす。個人で何かを願いはしない。
ただサーヴァントや外道相手ならともかく、一般人の殺しはNG。
デンジとは相性が悪いようで、悪魔と心を交わした人間、という点であまり嫌いにはなれない関係。
【マスターとしての願い】
あれも欲しい。これも欲しい。もっと欲しいもっともっと欲しい~
【能力・技能】
胸についたスターターを引くと、チェンソーの悪魔の力を宿した「チェンソーマン」に変身、全身からチェンソーを出して敵を滅多斬りにする。
血(種族は問わない)を飲んでスターターを引けばどんな損傷を負っても回復する不死身マン。
デンジの常識に囚われない発想で自傷を厭わないイカれ……イカした戦法を披露する。
心臓に埋め込まれたチェンソーの悪魔は、かつて全ての悪魔から恐れられた最悪の存在といわれるが……現在は発動不能。
【人物背景】
悪魔の力を宿した人間であるデビルハンター。
無数の出会いと殺し合いと食事とゲロと逃避と現実と別れと愛を経て、少年は高校生になった。
第一部終了後から参戦。
【方針】
セイバー鬼強え! このまま悪い奴ら全員ブッ殺していこうぜ!
最終更新:2022年08月30日 21:02