スクランブル交差点を取り仕切る歩行者信号が青を灯す
青を合図に、白と灰のコントラストの上を人混みが埋め尽くす
その多くがスマホ片手にその画面を見つめ、指先でアイコンに触れページを開く
ましてやその光景を天空より睥睨すれば、まるで人が軍隊アリの行列のようだ
スマホを弄る理由はソーシャルゲーム、動画視聴、SNSへの投稿………理由は人それぞれであるが、その彼ら彼女らが注目しているのはとある一つのニュース記事
『〇〇市連続殺人事件、犯人は☓☓歳の女子学生』
『現代の異能力者!? 凶器無く殺す謎の殺人鬼の正体!』
能く在る殺人事件、能く在る大手新聞社からのゴシップ記事。新聞では一面記事として大っぴらに紹介され、聳え立つ巨大建造物に貼り付けられたモニターに映し出されたニュース番組のアナウンサーが業務的にその事件に関する事柄を読み上げる
横断歩道を渡る群衆の大半は、そんなニュースキャスターの声を流し聞きしながら、何時もの如く行き交っていく
伝えられるニュース、凄惨な事実と知れ渡る犯人の素性
SNS上で『#拡散希望』のハッシュタグと共にアップされる少女の写真
裏サイトにて違法にアップされる少女の個人情報
被害者会の遺族による情報提供、義憤に駆られた若き学生による独自の行動
人は情報に踊り、一喜一憂する生き物だ
判断材料が例え虚偽であっても、それを前提に思考し、行動する他無い
その結末が正しかったのか間違っているのかは結局の所個人の認識次第
だが、連続殺人鬼という明確な『大衆の敵』が齎したのは、大衆にとって何の理由もなく『叩く』事が出来る的を提供したことだ
ヘイトと言う名の弓矢を番える相手が出来たという事実は、暇を持て余した大衆にとっては格好の鬱憤晴らしでしかない
行き過ぎた正義は時に理不尽で無秩序な暴力となりうる、人間は己が正義や信念の為ならば、何処までも残酷になれるのだから
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323:以上、名無しがお送りします
例の殺人鬼、現在〇〇区のマンションの近くにいるとのこと
324:以上、名無しがお送りします
それマジ?
325:以上、名無しがお送りします
警察はもう動いてる?
326:以上、名無しがお送りします
既に包囲網が敷かれているらしい、近くの住民に聞いたんだけど
327:以上、名無しがお送りします
こっちの話だとYoutuberも配信に来てて一種のお祭り状態らしい
勿論警察に強制退去させられてるけど
328:以上、名無しがお送りします
でもその女子高生むっちゃ可愛いけど本当に件の犯人なわけ?
329:以上、名無しがお送りします
状況証拠出揃ってるからって理由でクロ確定らしい
あと例の異能力者の噂もあってアサルトライフル持ち込んでるぐらいガチっぽい
330:以上、名無しがお送りします
やり過ぎな気もするけどそんだけ危ない奴なん?
331:黒のカリスマ
ある犯行だとある一家が赤ちゃんもろとも殺されてた
ほんっと人のやることじゃないよね
詳細知りたい方用に後でリンク貼っとくね、ちなみに閲覧注意
332:モチツケ
モチツケ
333:以上、名無しがお送りします
>>332
荒らし乙
334:以上、名無しがお送りします
>>331
黒のカリスマキターーーッ!
情報サンクス、いつも頼りにしてます
……マジで人の心ねえんだなその犯人
家族の方にはご冥福をお祈りします
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夜闇に包まれたマンションの周囲に、パトカーのけたたましいサイレンが鳴り響いている
恐怖に震える老婆や、子供を下がらせる主婦、珍しいもの目当てでスマホのカメラを向けるスーツ姿で仕事帰りのサラリーマンがガヤガヤと騒いでいる
彼らを抑え、立ち並ぶ警官と黄色と黒の縞模様の規制線の向こう側に映し出されているのは血痕だ
ポタポタと、誰かが逃げたであろう血の痕跡
警官の一人が真っ黒なトランシーバーから声を受け取り、忙しなく動いている
別の場所には装甲車が何台か駐車しており、その中には機動隊の隊員が待機しているのだ
『こちら○○ 目標発見、抵抗あり。至急応援頼む』
警官の一人が受け取った情報から、隊員を載せた装甲車のランプが点灯し、目標のいる地点へと動き出す
○
場所は代わり、どこかの薄暗い路地
ポタポタと赤い液体を垂らしながら、腕を抑えながらも歩く黒髪の少女が一人
その右手には赤い刻印が――マスターの証たる令呪が刻まれている
「……どうして……こんな、事に……」
彼女はこの聖杯戦争に巻き込まれたマスターであり、そう珍しくはない巻き込まれた一般人である
だが、今彼女の隣にはいるべきはずの英霊の姿はない
「……ごめん、ごめんね……セイバー……!」
何故ならば、既に彼女が使役していた、セイバーのサーヴァントは既にこの世にはいない
何故そうなったかの経緯を話せば長くなる
巻き込まれる形で聖杯戦争に巻き込まれ、当初こそ召喚したセイバーに助けられながらも死にたくないという一心で生き延びてきた彼女
幾多の困難、ぶつかり合いの果てに新しく出来た友人との出会いを得て、少女は聖杯戦争を止めるという選択肢を選んだ
何故ならば彼女が抱く願望がありふれた物であり、誰かの屍を積み上げてでも叶えたいものではなく、どんな苦難があろうとも自分の力で叶える決意を抱いて
だが、この物語(Fate)に於いて彼女は主人公ではなく、ただの端役の一人でしかない。なので彼女の物語は唐突に終わりへと加速すた
正体不明のサーヴァントとの戦闘中、やむを得ず宝具を解放し、結果として街に被害を出してしまったのを切欠に、憶えのない被害に憶えのない凄惨な殺人の冤罪を着せられていた
彼女がこの世界で与えられた役割(ロール)は一人暮らしの学生である。殺人事件が続く中、偽物の証拠から少女の身元は割れ、学校ではストレスのはけ口として同級生のNPCによってイジメを受けることも多々あった
一介の少女には例え具合がどうであれ精神が追い詰められる事には変わりはない、犯人による犯行が過激なものへと変遷する毎に周囲からの視線は厳しくなり、果てに唯一の友人以外の理解者はいなくなってしまった
結果、彼女はついに指名手配され、このように機動部隊まで引き連れた警察の集団に追われる事となったのだ
勿論狙うのは彼らだけではない、敵を減らそうと合理的に行動する他のマスターやサーヴァントも挙って襲いかかってくる
度重なる襲撃にマスターの魔力は尽きかけ、セイバーもまたマスターに迷惑はかけたくないと、別のサーヴァントから致命傷を受けた際に最後に宝具を放ち、己が身を引き換えにマスターを逃し、少女は今に至るのだ
「いたぞ、追えっ!」
「相手は不思議な力を使ってくる! 不用意に近づかず離れて攻撃しろ!」
「どこ行きやがったサイコパス女! よくもおれの娘を殺しやがったな!」
機動隊員から身を隠しながら、少女は夜の住宅街に紛れて逃げる
滴り流れる負傷は服の一部を破いて包帯代わりにして応急処置。だがそれでも痛いものは痛いのだ
歴戦の戦士ではなく、今迄セイバーに助けられて人並みに頑張ってきただけの、ほんの少し勇気がある一般人に過ぎない
「……はぁっ……はぁっ……!」
人影も気配もいなくなったタイミングを見計らい、すぐさま次の物陰まで駆け出す
未だ少女は包囲網に囲まれたまま、このまま捕まってしまえばどうなるか等予測がつかない、最悪の結末が待っているのだけは嫌でも理解できる
「………」
それでも身柄の無事という点で言うならばこのまま警察に捕まった方がまだマシなのでは?と頭に過る
サーヴァントを失った以上、他の参加者も脱落者として殆ど見向きもしないだろうし、態々殺しに行くメリットも皆無
「……ううん、違う」
咄嗟に首を振って雑念を払う。確かにその選択は生存のみを優先するなら最悪だが最良の手だ
だけどそれ以上に、自分たちの偽物を使って罪のない人たちを、例えNPCだとしても巻き込むような下劣な存在を野放しにしたままなんて出来ない
無駄足だったが、自身の冤罪を晴らすために集めた証拠が手元には有る
セイバーは最後に言ってくれた。「自分の信じた道を進んでほしい」と
だから、最後まで立ち向かう。自分が出来ることを、自分が信じた道を往くために
「……あれ?」
幸か不幸か、周囲が静まり返っている。頑張って隠れていたのが報われたのか
だが、少女はそれをただ運が良いとだけという安易な考えは持たなかった
仮にも聖杯戦争を生き延びてきた身、流石にこの空気は慣れたものだ
「……人払の結界……っ! まずい――――」
気付いた時には既に遅く、シュッ! という風切り音が聞こえれば、少女の胸元には鏃が刺さっていた
熱さが込み上げると同時に全身に激痛が走り、口から赤黒い血を吐き出して仰向けに倒れる
「……あ゛………」
ドクドクと心臓から血液が溢れ出して、意識が朦朧となり視界が歪む
歪む視界の向こう側には見覚えのある男の姿。あの友人のサーヴァントであったアーチャーの姿
「……どう゛、じで?」
どうしてなのか、まさかあの子も自分を裏切ったのか?
それはあり得ない。ありえないと信じたかった、信じたくて、でも今の状態ではまともな思考すら出来ず
「――すまない。これも、マスターを救うためなんだ」
アーチャーは、そんな哀しそうな目で、少女へと呟いていた
少女から見たアーチャーは、自分のマスターに対して恋心を持っていたらしいことを聞く
そうだったんだ、と少女は口にしたかったが、声は出せなかった。そして
「……な、に?」
アーチャーもまた、『鏃を自らの霊核に突き刺した』己が行為に理解が追いつかないまま
少女が最後に見た景色と共に、その命を夜空の下にて儚く散らしたのであった
結界が解除され、機動部隊が少女の死体を発見し、それを回収して撤収したのは、この直後であった
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《次のニュースです。本日未明、****さん(17)が死体で発見され――――》
オフィスに設置されたTVから、ニュースキャスターの台詞がオフィス中に鳴り響く
それを遮るように、机に置かれた電話が騒がしく鳴り響いては、担当者が受話器を手に取り対応する
編集長の騒がしい大声が部屋中を駆け抜け、それを聞いた社員たちがけたたましく動き回る
ここはとある新聞社のオフィス内、手に入れたてのスクープの記事を誰よりも先に作り上げようとしている最前線の一つ
顎に手のひらを当て悩みこむ編集長の前に、ここの社員である青年が出来上がった新聞記事の仮のレイアウトをテーブルに乗せた
「編集長、如何でしょうか?」
青年の未だ緊張が解れぬ顔には目遅れず、編集長は記事を見渡している
紙面の内容は先日の案件、件の連続殺人鬼が死体で発見された事件である
死因は何者かによる刺殺痕、凶器も犯人も行方知れず
一人暮らし故に親元の確認が来るまで死体は警察の霊安室に保管されることとなった
「紙面の構成としては、売れそうな文面を心掛けましたが……」
『現代の異能力者、死す』
『真実は闇の中? 未だ疑念残る少女の犯行』
青年としては、この事件には何かしらの疑いを抱いていた
確かに警察から提示された証拠写真や防犯カメラの映像を見る限りは明らかに少女が犯人であるというのは確実。だが、それでも青年の中に居残り続けている疑いという名の心の凝りが、このような文面を書くように掻き立てたのだ
あまり自己主張せず、あくまでこういう考察云々という内容で、ある程度ウケも重視して書かれていた
文面が載せられたレイアウトを、編集長は手にとって眺め、ため息をついて机に放り投げた
「ダメだ。全部書き直せ」
「……!?」
編集長の呆れたような言葉に青年は少しばかり吃驚しながらも顔を傾げるも、それを見て編集長は怠そうな表情で言葉を続ける
「この内容じゃ、三葉会長やクライアントは納得しない。疑う気持ちはわからんではないが、あの女は世間を騒がせた大量殺人鬼だ。下手に擁護する内容は検閲がはいる。今後売れる売れないに関係なくは気にするな、分かったな!」
「は、はいっ!」
編集長の言葉に、少々納得がいかないながらも青年は持ち場に戻る
小さくあくびをして、TVで流れるニュース番組を編集長は退屈そうな表情で眺める
此度の内容は倉庫内で暴力を振るわれて殺された女子高生の事件であり、警察も犯人探しに難航しているとのこと
だが、それに同情や憐憫こそ持てど、切り替えが早い新聞者の重役は次なるスクープじゃ記事のレイアウトが提示されるまで待ち続けるのである
○●○●○●○●○●○●○
「――報告は以上です」
「そうか。下っても良いぞラスキン」
ラスキンと呼ばれた青年が、男の言葉を聞いて部屋から立ち去っていく
アンティーク感溢れる部屋の内装は、この場所だけ現代から切り離された、一昔前の富裕層のような意匠が施された椅子や本棚がずらりと配置されている
古めかしい椅子に座り、男の眼鏡越しのトパーズ色に輝く瞳が、新聞を眺めている
『――倉庫での凄惨な殺人事件、件の大量殺人鬼が関与か』
『恐るべき女子高生、その悍ましい犯行の経緯』
記事の内容にそれなりに満足したのか、新聞を丸めテーブル下の棚へ片付ける
椅子から立ち上がり、本棚へ近づく。心理学、現代医学、経済学――様々なジャンルの本が置かれているが
彼が手に取ったのは古ぼけた一冊の赤表紙の本――聖書だ
別段読むことが目的ではない。聖書の中に挟まれている栞。栞の中に隠すように入り込んだ一本のキーを取り出す
ちょうど聖書を取り出した場所から隠れて見える鍵穴がある。男がそこに鍵を差し込み回し、本棚から距離を取る
ギギギ……という擦音と何かが稼働する金属音が鳴り響き、本棚が床へと沈んでゆく
本棚で隠れていた壁には、ポツンと配置されているレンズと、無機質な色違いのタイルが配置されていた
男は指の一本をタイルに触れ、レンズを見つめる
数秒の沈黙の後、『ピンポーン』という軽快な音声が鳴り響き、男は壁から離れる
するとなにもない筈の壁に切り込みが入り、それを中心線として分かたれ奥へと扉の如く開く
扉の向こう側には薄暗い空間と階段、男は階段へ向かって進み、男の姿が見えなくなった所で壁の扉も、本棚もまるで何事もなかったかのように元に戻っていた
薄暗い空間に申し訳程度にランプが等間隔で置かれた階段を降り、歩いて数分程の場所にある鉄製の扉
ドアノブに手を掛け開いてみれば、客人を迎え入れたのは大量のモニターの輝きだ
モニターに映っているのはSNSの類にジャンルを問わない掲示板にまとめサイトの数々、そして各社各国のニュースサイトに動画配信サイト
ここはまるで世界の縮図だ、世界全ての情報が集っていると言わんばかりの、動力源も何もかも不明なパーソナルコンピューターやその他機器の稼働音が部屋の中に反響している
そんなモニターに映るサイトのコメント欄に打ち込み始めるのは椅子に座っている人物がいた
金の装飾が施された黒い仮面に黒いマント。まるで役者のような、演劇の舞台から飛び出してきたようなその奇っ怪な風貌。ただの一般人であるならばその胡散臭さと不気味さの方が目につくだろう
「……どうやら順調のようだな、アサシン」
「キミの方も楽しんでるようじゃないか、マスター」
アサシンと呼ばえた黒仮面は、椅子を回して男の方へ振り向く。仮面越しながらも男の事はちゃんと見えている
久方振りの対人での声を黒仮面は発しながら片手間にマウスを動かし、画面の一つにニュース記事を映し出す。ニュースの記事自体は森の中で顔がわからない程にぐちゃぐちゃにされた男性の死体が発見されたという内容だ
「……まだ仕留めたようだな。働き者で何よりだ」
「何言ってるんだいマスター? ボクはただ書き込んだり、ネットのみんなに情報を提供しただけの話だよ」
男のお世辞に、黒仮面は皮肉を交えて言葉を返す。事実、ネットで報道された男性は聖杯戦争の参加者であり、山奥に工房を作り万全状態で戦いに望んだ人物である
が、万全であったはずの男の居場所は何故か他の主従にバレ、挙げ句工房を周囲もろとも爆破されるという予想外の攻撃により、最終的に別のサーヴァントに殺されたのだ
勿論、この事実を知りうるのは一部の聖杯戦争参加者であるのだが
「……進化したものだな、この世界は」
憂うように、羨ましがるように男は声を漏らす
男が本来居た時代にはソーシャルネットワークというものは存在せず、果てや電波なる概念すら存在しなかった
この時代は、情報が伝わる速度が段違いに速いのだ。速い上に、だからこそ目の前の情報に多くの人民は踊らされるのだ。例えどんな内容であれ、メディアがそう伝えれば嘘であろうと聴衆にとっては真実と成
「……だからこそ、楽しいじゃないか。自分の知らない事ばかりってのも、存外新鮮な体験だと思うよ」
仮面の裏で、アサシンは薄ら笑う。聖杯戦争、英霊とそれを使役する者達での殺し合い、そして万能の願望器たる聖杯。彼にとって聖杯戦争とは未知そのものであり、愉快で心揺さぶられるおもちゃ箱なのだ
数多の暗躍の果て、因果地平の彼方へと追放された混沌の王は、この聖杯戦争に暗殺者のクラスとして招待された
「それには同意ではあるな。何せ、私が生きた時代より未来よりも、メディアは大いに発展していたのだからね。やり甲斐はある」
それに対し、アサシンのマスターである男もまた嗤う
男の本質は、人を人生の大事な局面で'破滅'してゆく様を見て楽しむ、悪魔のような人間なのだから
この聖杯戦争にマスターとして呼ばれたとしても、それは変わらない
与えられた役割(ロール)もまた、彼にとって自らの愉悦を満たすのに最適なものである
「……それに、聖杯という代物に特段求めるものは無い。この第二の生でこの様に好きに出来るだけでも価値はあるのだからな」
「それってつまり、聖杯はボクにくれるって遠回しで言ってる事で良いんだよね?」
マスターの発言は事実上、もし聖杯を手に入れたならアサシンの自由にしていいと言う宣言に等しいものだ
男に聖杯が掲げる万能の願望器など何ら興味はない。人を堕落させ貶める悪魔にとって、それは無用の長物であるのだから
「ああ。それに―――」
男は一泊置いて、アサシンに対し満面の邪悪さを、悪魔のような笑みで
「……君が望んだカオスな世界でこそ、私が見たかったものが、もっと多くの人の'破滅'が見れるのだろうからな」
そう、アサシンに対し言い切った。それがさも当然のごとく。男にとってはその邪悪の価値が、大いなる愉悦こそが、男の――"脅迫王"チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートンにとっての根幹なのだから
「……くく、くふふ――くはははははっ! あーはっはっはっはっはっ!!!」
仮面の奥底から、心の奥底から、アサシンは高らかに喝采して笑っていた
まるでお目当てのおもちゃを手に入れた幼稚な子供のように
まるで宝くじを当てて喜びの余り唖然としているサラリーマンのように
「いやぁ、ごめんごめん。まさかボクの望みを聞いた上でそう言い切れる人間は中々いないよ!」
笑い声が魅せたのはアサシンの本質だ。これがアサシンの'地'だ
混沌を望み、混沌を愉しみ、混沌のままに振る舞い、ただ快楽のままに世界を、全てを嘲笑し弄ぶ
「善悪」という観念に囚われず、行動に一切悪びれる事はない
今の世界が抱える民衆たちの本音の集合体、無自覚なる悪意の塊だ
「だったら少しばかり張り切ることとしようか、キミは兎も角、ボクの方は聖杯は欲しいからね」
「そうか。ならば私も、マスターの手助けになるよう、手回ししておこうか、趣味と実益を兼ねて、な」
上機嫌なアサシンに言葉を返し、ミルヴァートンは身を翻し地上へ戻るための階段を登る
それに目もくれず、アサシンは新たなる混沌の為、掲示板にコメントを打ち込んで、エンターキーを押した
(……だったらお望み通りボクがカオスを見せたげるよ、マスター)
(このボク――ジ・エーデル・ベルナルがね!!!)
混沌と言う名の台風の目の最奥にて、黒き仮面のカリスマは笑う
――ジ・エーデル・ベルナル。かつて次元振動弾にて多元世界を作り上げ、全てを混沌に巻き込んだ男は、この小さな混沌の中で、大いに喜んでいた
【クラス】
アサシン
【真名】
ジ・エーデル・ベルナル
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋力D 耐久B 敏捷B 魔力EX 幸運A 宝具A++
【クラススキル】
『気配遮断:B+~A++』
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。自らが攻撃行動に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
『陣地作成:A』
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
『道具作成:A』
魔力を帯びた器具を作成できる。科学者・技術者としての面において天才的な頭脳を持つアサシンは、様々な機動兵器を作り出すことが出来る
【保有スキル】
『二重召喚(ダブルサモン):B』
極一部のサーヴァントのみが持つ希少特性
彼の場合はアサシンとキャスター、両方のクラス別スキルを獲得して現界している
『次元力:A』
またの名をオリジン・ロー。宇宙の全てに存在する意志「霊子(エーテル)」に対する強制力。アサシンのいた世界の存在全ては霊子によって成り立っており、次元力はこれに対して働きかけ、霊子の定義する事象を書き換えるエネルギーである
次元力を引き出す方法は主に2つ、意志の力か、機械的なものかであり、アサシンの場合は後者によるものである
アサシンの場合、並行存在の召喚、自身の肉体を並行存在と置換、破壊された機体の再生が可能であるが、後述の宝具を解禁しない限りはこの力に大きな制限が掛かっている
現状はバインド・スペルによる暗示や、1体のみの並行存在の召喚のみが可能
『煽動:EX』
大衆・市民を導く言葉と身振り。個人に対して使用した場合には、ある種の精神攻撃として働く極めて強力な代物
アサシンは元の世界において、ありとあらゆる情報インフラ・メディアを手中に収め、自らデマを流すことでとある特殊部隊に仲間割れを引き起こした逸話から、ネットへのコメントでほぼ全ての人間を騙し信じ込ませる事が可能
【宝具】
『黒のカリスマ』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大射程:-
情報サイトの類に様々な怪情報を垂れ流し、大衆を踊らせ続けるアサシンのもう一つの姿
この宝具の発動中のアサシンは気配遮断のランクがA++まで上昇し、『単独行動:A』のスキルを獲得する
黒のカリスマの本質は、彼が垂れ流す怪情報にあらず、大衆の集団無意識を体現し立ち回るその在り方にある
アサシンが生きていた時代における情報共有の根本にて、自分を名乗り会場を流す匿名者は数多くおり、直接的に世界を混乱させたのはアサシン自信であるが、その混乱を一層増幅させたのは、『黒のカリスマ』という器を与えられて形を為した、市民達自身の流言飛語なのだ
情報社会に出没する黒のカリスマの実態を掴むのは困難極まる。嘘を嘘であることを見抜けない限り、ネットを使うことは難しいと発言した某掲示板の元管理人の言葉の通りに
この宝具の存在により、『黒のカリスマ』を名乗る一般市民は捉えられても、アサシン本体を捉えることは事実上不可能
『創世の芸術家(ジ・エーデル・ベルナル)』
ランク:A++(EX) 種別:対人宝具 レンジ:- 最大射程:-
世界に混沌を振り撒いたアサシン自身の存在を体現した宝具。宝具発動時には真名情報の強制公開及びマスターに対する多大な魔力消費のデメリットを背負う代わりに、アサシンの本来の力である次元力の制限を解除する。この際、アサシンの霊器はキャスターのものへと完全に変化する
召喚されたクラスの都合上本来の搭乗機の呼び出しは使用不可となっているものの、機体の力による次元力の行使は可能
……と言いながらも、この宝具が発動に成功した以上、別の平行世界の自分に搭乗機を持ってこさせることでその縛りすらも無視することが出来る
発動の成功にさえ持ってこれれば、サーヴァントとしての縛りから解き放たれ、混沌を齎す創世の芸術家としての、その悪魔の如き理不尽さを体現させるアサシンにとっての切り札
弱点は勿論、前述のマスターへの魔力消費の膨大さであり、基本的にこの第二宝具は発動不可に近い
だが一度でも発動してしまえば、並行存在何人でももってこいの数の暴力である
【Weapon】
なし。ただし次元力による本人の直接戦闘力は未知数
【人物背景】
次元振動弾であらゆる世界が混じり合った多元世界において暗躍した『悪魔』
ある時は特殊部隊お抱えの老科学者として
ある時は様々な人物や勢力と接触し、時には情報・技術の交換を行い、意味ありげな言葉で各組織の長を煙に巻くトリックスター
その実態は全てが『ジ・エーデル・ベルナル』という特定の個人、全てが並行世界の同一人物
究極の享楽家たる高二病、あとついでに妙なマゾヒズム癖あり
その真の目的こそ『太極』の屈服、及び御使いの打倒ではあったが、既に神を騙る愚者は倒されていた。
故に、今や彼を縛るものは無く、だからこそ彼は自由気ままに混沌を振りまくのだ
【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争を思いっきり楽しむ
【マスター】
チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン@憂国のモリアーティ
【マスターとしての願い】
特に聖杯に願うことなど無い、『悪魔』として己が愉悦を満たすのみ
【能力・技能】
『脅迫』の定義を知り尽しており、そのために相手を調べ上げる手段に長けている
【人物背景】
大英帝国最盛期においてメディア王として名を馳せた、人を破滅へと導く『悪魔』そのものになろうとした男
そんな男の最後は、名探偵と犯罪卿、決して交わらぬはずの男たちの親愛の絆によるものであった
【備考】
死亡後からの参戦
最終更新:2022年08月30日 21:08