自らの意思に関わらず一方的に招集された異界の東京都で、これから殺し合いをしなければいけないらしい。
『魔法少女リップル』こと細波華乃がその事実を知覚した時、舌打ちしたくなる衝動なんかよりも先にまず芽生えた危惧は、友人である『魔法少女スノーホワイト』もまた自分と同じ境遇に陥っていないかということだった。
強大な敵によって命を奪われることへの恐れ故、だけではない。彼女の清く繊細な心を磨耗させるに至ってしまった、二年前のあの悲劇が繰り返されること。彼女の内側に残る傷がまた抉られてしまう未来を想像するのが、何より苦々しかった。
もしスノーホワイトもこの地にいるなら、せめて、彼女のそばにいることが先決だ。
そういうわけで、パートナーとして召喚されたライダーのサーヴァントと共に、かれこれ一週間以上の期間を「スノーホワイトが聖杯戦争の参加者として東京都内にいるか」の確認のために費やし、
「マスターの友達は巻き込まれていないんだろう? それだけは幸いだったね」
「……はい」
スノーホワイトが東京にいる可能性は低いと見て良いだろう、との結論をひとまず下すことにした。
聖杯戦争に関係するものと見られる事件や事故について、報道から噂話まで大小問わず情報を集めては現地へ向かい、時には敵意を露わにする他のサーヴァントとの交戦を強いられながら。
いずれの場面においても、スノーホワイトが関与したと思われる痕跡は全く発見されなかった。特に誰の指示がなくとも、有害な支配者や簒奪者の鎮圧のために活動することが想像に難くないスノーホワイトの影が、見当たらない。
つまり、そもそも彼女はここにいないということだろう。
徒労だとは思わない。やっと一本、緊張の糸を切れたのだ。その安堵感を胸に抱いた今、考えるべきは己の身の振り方だ。
午後の都市を二人乗りのバイクで駆けながら、華乃はライダーの背中に身を預けている。街のパトロールの時に相乗りさせてもらうのが箒だった頃のことを、なんとなく思い出したりした。あいつも確か、昔はバイク乗りだったか。
「どうする? 今日もこのまま、他に仲間になれそうな誰かを探すのを続けようか?」
「……その前に、聞きたいことが」
ライダーは、善良な気質の勇者である。
世界征服だったか人類滅亡だったかを企む悪の組織を壊滅させ、人々の自由と平和を守り抜いたという、わかりやすいくらいの正義のヒーロー。女の子の憧れが魔法少女なら、ライダーは男の子の憧れか。
そんなライダーは、聖杯戦争の場でも平和を享受する命や尊厳が身勝手に脅かされるのを良しとしない。
この戦争の必勝法とかいう儀式のためと言って、罪のない民間人を生贄にしようとしたサーヴァントと対峙したことがあった。数日前のことだ。
どうせいずれ消えゆく塵芥共だ、先のない人生を我のために捧げるのが有効活用というものだ。誰に咎められる筋合いもあるまい。
げらげらと嘲笑する醜悪なキャスターに対して、リップルとなった華乃は怒りを抱き、その感情はすぐに怯みへと変換された。許さん、と叫んだライダーが、自分以上に激怒していたから。
その後、キャスターはライダーに蹴り飛ばされ、刺し貫かれ、爆死した。
完全に戦意を喪失したマスターのことは、二人で見逃すことにした。不必要な殺生を好まないのは共通のようだ。似たような蛮行をしでかす相手でもない限り、ライダーの側から積極的に仕掛けることは無いのだろう。
「今日、夢を見ました」
「夢?」
聖杯に懸ける個人的な望みを特に持たないライダーと、穏便に生還することが第一目標の華乃。
殺し合いとしての聖杯戦争には積極的でない二人の方針が、「聖杯を求めない者達と協力し、異界の東京から脱出するためのルートを構築する」「人を無闇に傷付けることを悪びれない危険人物に対しては、武力によって抗う」という形で順当に纏まるまで、時間はかからなかった。
「たぶん、ライダーの昔の夢です」
「……そうか」
いかにもな好青年といった様子のライダーと共闘を続けることに、なんら不都合は生じていない。期間限定のパートナーとしての関係は確立されている。
とりあえず気が合う。とりあえず手を組める。とりあえず、目上なので敬語で話す。そんな無難極まる関係性でも、十分に事足りている。
良好な交友関係を手広く持っていると何かと便利であることは、よく知っている。しかし、親友と呼べるまでいちいち親交を深める必要があるかというと、また話は別である。
「……詳しく聞いても、大丈夫ですか?」
だから、ただの個人的な興味のみによって、華乃はライダーの過去を詮索しようとしている。気分を害して心理的な距離を置かれるリスクを承知の上で、ライダーへと尋ねる。
深く痛ましい傷を二度も負った貴方が、なぜ今でも笑えているのか。そんな問いを、これから投げ掛ける。
らしくもない真似に及ぶのは、自身の感傷が刺激されたからだろうか。わからない。この情動に、相応しい名前を決められない。
「停めてもいいかな? この話をするなら、ちゃんと落ち着ける場所の方が良さそうだ」
「……お願いします」
ライダーからの了承を得て、近場にあったはずの大きな公園を行き先に指定する。
陽はまだ沈まない、そんな頃合いでの話であった。
◆
『仮面ライダーBLACK』は、世界を滅亡の危機から救うために『シャドームーン』を抹殺した。
それから時を経て、『仮面ライダーBLACK RX』もまた『シャドームーン』を葬った。
『南光太郎』は、生涯において二度、『秋月信彦』との永遠の別れを経験したのだ。
◆
「そうさ。悲しみと怒りだって、俺を突き動かす感情だった」
ライダーが二度成し遂げた、悪の組織の討伐。
一度目と二度目の共通点を一つ挙げるなら、その過程でライダーが無二の親友を喪ったことで。
相違点を一つ挙げるなら、戦いを終え一人旅立ったライダーの背中が、孤独という影を背負っていたか否かということだ。
「今度はちゃんと救えたものがあったから、綺麗事を言える余裕があるだけじゃないかと言われたら……そうなのかもしれない」
世紀の因縁に決着をつけた後、たったひとりの戦いに疲れ果てて眠る――はずだったライダーは、しかしその後も生き延び続け、やがて別次元から襲来した未知の帝国との戦いへと身を投じることとなった。
新たな敵。新たな仲間。地獄から蘇り、また還った友。その果ての勝利。
待ち人のいない孤独の中でエンドマークを打ったライダーの物語に紡がれた続編は、喪失という痛みを更に刻みながらも、暖かな光差す方角を指し示す終わりを迎えたのであった。
「それでも……いいや。だから、マスター、俺は誓って言える。大事な人達にめぐり逢える明日が来て、俺は救われた。光が見えない中でも、闇雲にでも、生きていて良かったと言えるんだ」
ライダーは聖杯を求めない。奪われ潰えた友との青春を取り戻したいとは、望まない。
力を合わせて生き抜いた仲間達。正義の系譜を継いだ先達。二度目の死の間際、その勇敢さにかつての人柄を見出せたような気がした友。
溢れんばかりの思い出の熱を、ライダーは胸に抱きながら。
「俺は、世界を愛している。みんなが……信彦が生きた、この世界を」
そう語るライダーの顔は、夕陽に照らされ影を差しながら、尚、眩しく見えた気がした。
「……すごく、ヒーローって感じですね」
そんな言葉を絞り出し、熱がそろそろ抜けてきた干コーヒーの、最後の一口を飲み干した。
どこか似ているようで、やはり華乃とは異なる人生を歩んだ英雄への称賛だった。
「俺にとっては、当然のことをしてるだけだよ」
「当然だと言えるのが、凄いんです」
「それを言うなら、マスターだって人助けをいつも頑張ってるんだろう?」
「それはまあ、そうなんですけど……」
おそらくは昭和の頃から形作られたような『魔法少女』のパブリックイメージを、ライダーも持っているらしい。
残念ながら、華乃達の立場は必ずしもそうではないので、訂正しなければならない。気まずくなりすぎない程度に、簡潔に。
「詳しくは言わないですけど、魔法少女って、思ってたよりも嫌なことの方が多いんです」
「そうなのかい?」
「……友達が殺されました。それで、私と同じ魔法少女を殺しました。ただ、憎くて」
「……そうだったんだね。すまない」
「いえ」
自らの罪を伝えたのは、過去を打ち明けてくれたライダーへの礼儀のつもりでもあるのだと、横に振った首の動きで伝える。
法で裁けない身である華乃への糾弾が飛んできたりすることは、無かった。
「正しい魔法少女じゃなくなっても構わないと思って、自分の気持ちにケリをつけて」
ライダーのような正義感や責任感でもなんでもない、ただの私怨の清算を終えた。
やり遂げて燃え尽きて、引退者だとか舞台を降りた者だとか言われそうな身のまま、死んだように生き続けるのだと思っていた。癒えない傷を咎としたまま抱えて朽ちて、いずれこの世から去りゆく生き方。
「……結局今も、こんな風に魔法少女を続けています」
しかし、この灰燼は今も静かに燃えている。
「誰かがいるんだね?」
「はい……スノーホワイトを放っておけないので」
後悔する前に自分で選ぶ。そんな彼女の意志の土台は、時を経ても未だに消えない後悔だ。
彼女自身が納得できる選択を、認めることにした。かつて憧れた清廉さから遠ざかっていく彼女を、支えていこうと思った。
だから、華乃は魔法少女として、何よりもスノーホワイトの隣へと帰らなければならないのだ。
喪わないために。後悔をしないために。そう「選んだ」。
「……それに、悪いことばかりでもないんです」
「と言うと……?」
「あの日死んだ友達……トップスピードからいろいろ学んだおかげで、前よりは人付き合いできるようになりました」
これでもだいぶマシになったんです、今の私。なんて軽い自虐もまた、距離感を縮めるためには必要な手法であるとも、今は亡き彼女の態度から教わったことだ。
彼女を真似ているおかげで、最低限の世渡りができている。コミュニケーションが得意なわけでもないこんな自分が、善い人間であることを取り繕えている。あの日々の記憶は、今日の糧として昇華されている。
ああ、と。今更ながら納得する。
聖杯の力で亡き友を蘇らせたいとの望みが、不思議なほどに湧くことの無かった己への、納得だ。
「……やっぱり私は、今更だけど、正しい魔法少女に近くありたい」
この世の全てをぶっちぎる『トップスピード』を名乗った友の、十九歳という享年に追いついてしまった華乃は、今、願う。
過ぎ去った命への罪悪感を抱きながら、それでも、破廉恥な生き様だとしても。
今を生きる友に恥じない姿であれたらいいなと、細波華乃――魔法少女リップルは夢見るのだ。
「……魔法少女というのがどんなものなのか、本当のところ俺にはよくわからないけど」
「はい」
「マスターはきっと、良い魔法少女なんじゃないかな」
ぺこりと頭を下げて、礼を言った。ライダーの賛辞が妥当であるか、判別などつかないが。今は否定せず、受け止めておくことにした。
人との心理的な距離が近付くとはこういう感覚なのかもしれないなとぼんやり思いながら、ほっと浸る時間が、何秒か何分か続いていた。
「うん、今日のところは冷える前に一旦戻ろうか、マスター」
「……あ、うん」
口から零れた音を遅れて拾い、返答に敬語を失念してしまったと気付く。しまった。気が緩んでいた。
上目遣いにライダーの顔を覗くが、なんら気を悪くした様子は無かった。
これで良いのだろうか。話す口調を変えるタイミングというものは、あいつからも教わっていないのだ。
丁度良い機会に、おっかなびっくりの手探りでも試してみるべきだろうか。トップスピードでもスノーホワイトでもない、また新しい友人ということになるのかもしれないライダーを相手に。
【クラス】
ライダー
【真名】
南光太郎@仮面ライダーBLACK RX
【パラメーター】
筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:B 幸運:A 宝具:A++
(BLACK RX変身時)
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではライダーに傷をつけられない。
騎乗:A
幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。
【保有スキル】
世紀王:-
五万年に一度、世界を統べる『創世王』の座を懸けて殺し合う運命を課せられた者。
暗黒秘密結社ゴルゴムとの戦いではなく、怪魔界からの侵略者クライシス帝国との戦いの物語を基にして召喚された南光太郎は、このスキルを保有していない。
太陽の子:A+
『キングストーン』が太陽エネルギーを吸収することで、荘厳なる奇跡の進化を遂げた戦士。
ライダーの全身、そしてライダーが繰り出す攻撃の悉くは『太陽』の属性を有している。
また太陽光を浴びている間、戦闘力の一時的な強化や、ダメージや消費魔力の回復の促進といった恩恵を受けることができる。
変身:B
ライダーは『キングストーン』の力を引き出すことで、光の王子「仮面ライダーBLACK RX」に変身する。
さらに別形態である悲しみの王子「ロボライダー」、怒りの王子「バイオライダー」への変身も可能。
ライダーの強みである、どんな危機でも乗り切る適応力を象徴するとも言えるスキル。
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
または、不利になった戦闘を初期状態へと戻す能力。
滅国の陽射:A
クライシス帝国による地球侵略からの防衛戦は、五十億の民の上に君臨する支配体制に抗っての、帝国最強を自負する戦士達との争いであった。
ライダーが勝利を重ねた末に帝国を壊滅へと追いやった、その戦歴を象徴するスキル。
大規模な組織や国家の類を率いていた(またはそのような体制側に属していた)経歴を根拠として英霊となった者、または聖杯戦争内で現にそのような状況となっている者との戦闘に及ぶ際、ライダーは戦闘において有利な補正を得ることができる。
弱きを容易く捻り潰す圧制者が相手であるほど、カウンターとしてのライダーの脅威性は増強されていく。
【宝具】
『太陽の輝石(キングストーン)』
ランク:A++ 種別:対界宝具 レンジ:1~999 最大捕捉:9999人
人類が生まれるはるか昔から存在していた暗黒秘密結社ゴルゴムの崇めた、神器の一つ。
ライダーの力の源となる神秘の輝石。ライダーの莫大なパワーは、このキングストーンから供給されている。
太陽の光があるかぎり、この宝具は魔力を生み出し続ける永久機関である。
単純なエネルギー攻撃はもちろんのこと、相手の超能力を無効化・反射し、空間を遮る時空の壁すらも破壊する。
そして、キングストーンはそれ自体が高潔な意思を持ち、時にライダーへ神託のように語りかけることがある。
『再誕の青飛蝗(アクロバッター)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:2人
ライダーの『騎乗兵』としての象徴である二つの宝具の、一つ。
かつて破壊されたゴルゴムの神器『バトルホッパー』が、仮面ライダーBLACK RXの誕生に呼応して再生・進化した姿。
バッタを模したバイクであり、自我を持ったスーパーマシン。
キングストーンのエネルギーと共鳴した力の倍増や自己修復機能を備えている。
ライダーがロボライダー、バイオライダーの形態となっている場合、それぞれ『ロボイザー』、『マックジャバー』へと名と姿を変える。
『煌光の重装騎(ライドロン)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:4人
ライダーの『騎乗兵』としての象徴である二つの宝具の、もう一つ。
クライシス帝国で設計された装甲車。ゴルゴムのクジラ怪人が遺した生命のエキスによって完成・起動した。
アクロバッターと同じく自らの意思を持ち、呼びかけに応じていかなる場所へも駆け付ける。
地上だけでなく水上・水中・地中の走行、果ては異なる時空間へさえも突入可能。
車体全部の突起や体当たり攻撃による戦闘を行うこともできる。
【weapon】
自身の肉体、及び聖杖リボルケイン。
ロボライダー時、バイオライダー時にはまた別の武器を用いる。
【人物背景】
秘密結社ゴルゴム、そして侵略者クライシス帝国に立ち向かい、勝利した青年。
二つの大きな戦いの中で、南光太郎は大切な存在を何度も失った。
しかし、最後には掛け替えのない絆の思い出を胸に、輝ける明日へと駆け出したのであった。
【サーヴァントとしての願い】
自らの生涯にもう未練はない。
自由と平和、そして愛を守るために戦い続ける。
【マスター】
細波華乃(リップル)@魔法少女育成計画limited
【マスターとしての願い】
穏当な方法による、聖杯戦争からの生還。
【能力・技能】
忍者装束の魔法少女「リップル」に変身することができる。
過去の戦いで負った傷により、隻眼隻腕の姿である。
固有の能力は『手裏剣を投げれば百発百中だよ』。
投げたものを目標に命中させる。目標は投擲時に決定し、投げた後に変更することはできない。
リップルが投げるもの=手裏剣という扱いのため、実際は何を投げても効果が発動する。
【weapon】
手裏剣やクナイ、忍者刀など色々。
コスチューム付属の手裏剣は弾切れの心配不要。
【人物背景】
森の音楽家クラムベリーによって仕組まれた、試験という名の殺し合いを生き残った魔法少女。
現在は、同じく生き残りにして友人である魔法少女スノーホワイトを支えるため、「魔法の国」での出世を目指して活動中。
参戦時期は「limited」本編開始前。
【方針】
脱出ルートを確立するため、協力できそうな陣営を探す。
殺人はなるべく避けたいが、悪党との対決には容赦しない。
最終更新:2022年09月01日 14:32