【001】
僕の名前は阿良々木暦。それなり以上の進学校である私立直江津高校に通う三年生男子――つまり受験生であり、本来であれば教科書片手にウンウンと頭を悩ませながら机にかじりつき、模試の点数の多寡に一喜一憂していなければならない身である。
世の中恨み言に溢れていて、中でも労働への恨みつらみは一定以上の年齢の人間にとっては共通言語となりうるほどありふれて――とばっちりのように気楽な学生に向かって嫌みったらしい皮肉が飛んできたりもする。だが待ってほしい。大学受験まであと一年を切った受験生たちが抱えるストレスがどれほどのものか、単純な比較こそできないだろうがそれはけして労働者達の悲哀に勝るとも劣らないものであるはずだ。その合否によって運命が、人生が決定づけられるかもしれない戦いを勝ち抜くべく、我々受験生は血の滲むような不眠不休の努力を重ねている。
まあ僕は一般的な受験生からすれば一緒にされたくないと思われてしまうような――簡単に一言で表してしまえば、落ちこぼれ、落伍者、日陰者、真面目系クズ――そのような形容を避けることはできないだろう、きわめて学力最底辺に近い人間だ。
とはいえ僕にも思うところはあり、高校三年生の春から続く紆余曲折や多少の騒動を乗り越え、スパルタな女教師(同級生)二人に受験生としての自覚を強制的に叩き込まれ、ようやく人並み程度にはらしくなってきたところである。
だが僕は今、そのような受験生の憂鬱の一切から解放されていた。なんという開放感! 今なら空も飛べそうな気がする! アイキャンフラーイ!!
……嘘だ。どうしようもなく、嘘だった。
確かに僕は今、受験戦争からは解放されている。だが代わりに僕が巻き込まれたのは別の戦争――万能の願望器へ辿り着くために多くの”魔”が――”怪異”が蠢く、聖杯戦争。
阿良々木暦の新しい物語は、嘆息から始まった。
【002】
サーヴァント。確か召使いを意味する英単語だったか――辞書でもひけば正確な意味と例文がいくらでも出てくるのかもしれないが、こと聖杯戦争に限っては、まったく別の意味を持つ単語である。
サーヴァントとは、使い魔――であるらしい。魔。僕にとってそれは、この短期間でひどく馴染み深い概念になったもの。とても身近に――というより、身内になったというべきか。近くなんてものではない。まさに僕の内――体内に、人ではないものが混ざり合ってしまっている。
まあ僕の自分語りを長々と聞いても何の面白みもないだろうから手短に説明をさせてもらうと。
高校三年生になる春休み。僕は美しき吸血鬼と出遭い――そして吸血鬼となった。美しく、恐ろしく、最強で、儚い――そんな鬼と、運命を共にすることになった。
僕は知った。怪異とは――人ならざるものとは。時として人よりも人らしく。そして人とは、どうしようもなく隔絶しているということを。
ならば、今僕の目の前にいるサーヴァントは――見目麗しい少女騎士といった風貌をした存在は。
やはり人間とはかけ離れた存在になってしまっているのだろうか。
僕は問う。
「――お前が僕のサーヴァントなのか?」
「ええ、そうよ。私のクラスはセイバー。好きに呼んでもらってかまわないわ、マスター」
セイバーを名乗った少女は、凛とした瞳を真っ直ぐに僕のほうへと向けてきた。
綺麗な目をしている――と思った。嘘や偽りとは縁遠いだろう、美しき高貴な女騎士。僕にとってはファンタジー世界の住人である。
僕は思わず目を背けてしまった。自慢ではないが、僕の目は死んだ魚の目と比べても幾分か透明度が劣ると評されたことがある代物である。セイバーと視線を合わせてしまえば光と闇が合わさり対消滅を起こしてしまいかねない。いや、単純に気恥ずかしさが勝ってしまっただけではあるんだが……。
だが待てよ? 彼女は僕のサーヴァントだ。僕は彼女のマスターだ。僕たちは特別な契約を結び、主従の関係となっている。
つまり――本来であれば僕のほうが優位に立ってしかるべき立場なのだ。ならば――ここで自ら視線を切ってしまうのは、主人として失格なのではないだろうか。
確か犬を飼うときにも最初に飼い主と犬の力関係を教え込むのが重要なのだと聞いたことがある。不甲斐ない主人の姿を見たセイバーが信頼ではなく失望を抱いてしまった場合、そこから始まる聖杯戦争はハードモード。マイナスから始まった関係性を挽回する機会が訪れることはないかもしれない。チャンスの神様には前髪しかない。機会が二度僕の部屋をノックすると考えるな。
僕は再び顔を上げ、彼女と真っ直ぐ向き合おうとした――だが。僕の視線は、とある一点で釘付けとなる。
セイバーが着込んだ鎧衣装――それはまさに異世界ファンタジー世界を想起させる服装で。ある種のお約束の通りに――露わになっていた。何が、というのは改めて僕の口から説明せずともわかるだろう。健全な男子高校生の視線を釘付けにするファンタジー衣装のどこがどうなっているのかなんて、わざわざ文字にせずとも一発で理解してしまう概念である。
僕は見た。防御力を優先すべきはずの防具が、際どい部分だけはまったく機能していないところを。たわわに実る豊満な果実が、深き谷間を作っているさまを。
くっ……! ダメだ、経験に乏しい男子高校生にとって、その部位のその肌面積は完全に致死量を超えている!
僕は反射的にまぶたを閉じかけ――しかし思い直した。そのような軟弱な姿勢は、セイバーの主人として本当に相応しいのか? 故に僕は選ぶ。僕が思う、主人が取るべき行動を。
――ガン見ッt「ていっ」
「あ痛っ!? セ、セイバーおまえ――ノータイムでマスターに目潰しをっ!?」
既に格付けは完了しているようだった。忠義に生きるはずの美しき女騎士はマスターへの忠誠心などまったくこもっていない、排水溝の隅でわさわさと蠢く虫けらを見るような冷たい視線を僕へ向ける。
「サイッテー……どうかしてるわよ、あんた……」
「待て、誤解だセイバー! 僕は僕なりにお前とのファーストコンタクトを成功させようとして――」
成功させようとして――そこまで言いかけて僕の口はぴたりと静止した。その次に続く言葉を発した瞬間に僕の中の大切な何かが失われてしまうような気がしたのだ。出会ったばかりの従者のおっぱいを凝視することがマスターのあるべき姿だと思ったなどと、そんなことを口走ってしまってはもう僕に主人としての威厳など微塵とも残らない。
「――やっぱりなんでもないです。僕が悪うございました……」
完膚なきまでの敗北宣言。諦めたのでここで試合終了です、安西先生。
だが僕にだって言い訳の一つくらいはする権利があるだろう。そんな格好をしているんだから好奇の視線を集めるのだ――なんて時代錯誤なセクハラ擁護をするつもりはないが、見慣れぬものが近くにあればついつい目線を向けてしまうのが人間という生き物の習性なのだ。
「そう、それが悲しき男子高校生の習い性――」
「高校……生……?」
「いや、すまん。そりゃそうだな、そんな格好をしたファンタジーワールドの住人なら高等学校という概念を持ち合わせていなくてもおかしくないか。
学校……はわかるか? 勉強をするために生徒たちが通う……そうだな、僕が前に少し読んだその手の小説だと、学問だけじゃなく魔法を学ぶための学校なんかも定番だったんだが」
装備を見るに、セイバーは僕が暮らしていた現代日本とはまったく異なる世界から召喚されている。それこそ剣と魔法の王道ファンタジー世界の存在だったとしてもおかしくはない。
実は僕もそういうの嫌いじゃないんだよな……剣技と魔術の両方を使いこなす魔法剣士だとか――無詠唱で多重発動だとか、ここぞというときの大技では滔々と読み上げる決め台詞的な詠唱で性能を底上げするだとか――男の子なら誰でも一度くらいは考えてみたことがあるんじゃないか?
「残念だけどそういう中二っぽいやつはちょっと……」
高校生を知らないのに中二病の概念はあるのかよ。どういう世界観で生きてるんだこの女剣士は。
【003】
サーヴァントとは便利なもので、実体と霊体を使い分けることにより一般人からの視認を避けることが可能なのだという。とはいえ常に霊体であれば問題がないかというとそういうわけではなく、やはり実体を持ったときでないと万全の状態で戦うことはできないそうだ。
セイバー曰く、装備そのものに強力な魔術を付与しているため、基本的には装備を外すことなく臨みたい――常在戦場の心構えであるとのことだった。
けれど明らかに現代日本の文明度にそぐわない出で立ちをしたセイバーは、そのまま出歩けば悪目立ちすること間違いない。聖杯戦争とやらのセオリーを知らない僕だが、そのような形でセイバーの存在を喧伝することがプラスには働かないであろうことくらいは想像できた。
幸いにして今の季節は冬。鎧の上から羽織るオーバーサイズのアウターでも用意すれば然程目立つことはなくなるだろう。そんなこんなで――僕とセイバーはショッピングモールを訪れたのだった。
「ただまぁ、ああいうところは苦手なんだよな……」
女性向けのショップが並ぶフロアを遠巻きに眺める。男性向けフロアですら居心地の悪さを覚えることがあるというのに況んや女性向けをや。
鎧を着込んだ女騎士を引き連れて商品を物色する――なんて目立つ行為は避けたい。かといってセイバーに霊体化してもらって僕が一人でショッピング(しかも虚空に向かってブツブツと相談しながら)すればまた別の意味で大注目を浴びてしまう。いや、むしろ周囲からは目を背けられるかもしれないが。
代案としてまず僕が男女兼用の軽装を買い、セイバーに買い物の間だけ着替えてもらうことにした。僕にあてがわれた社会的立場(ロール)――ごくごく一般的な男子高校生の懐事情を鑑みれば少しばかり痛い出費にはなるが、このくらいなら必要経費のうちだろう。
財布を持たせたセイバーがにこやかに店内に入っていくのを確認して、僕はフロアに据え付けられたベンチに腰掛けた。
ふぅ、と息を吐く。セイバーがいなくなり一人になったことで緊張の糸が切れてしまったのか、どっと疲れが押し寄せてきた。このまま目を瞑っていたらそのまま眠りに落ちてしまいそうだ。
だがまだ――眠るわけにはいかない。やらなければならないことは――考えなければならないことは、山のようにあった。
そもそも。――僕はどうして戦争の準備なんかをやっているんだ?
この世界に呼ばれ、サーヴァントと出会い、僕は聖杯戦争についての基礎的な知識を得た。僕が望む望まないに関わらず、盤面の駒に――プレイヤーになることを強いられた。
僕たちは戦争を――殺し合いを、やらなくてはならないらしい。らしい、とどこか他人事のような言い方になってしまうくらいに、僕に当事者意識はなかった。
戦う――殺し合う――命を奪う。言葉にしてしまえばシンプルで、しかしその行為を想像しようとすれば脳が途端に拒否してくる。
いや、僕は既に殺し合いを――命の奪い合いを経験したことがあるのだけれど。高校三年生になる春休み。吸血鬼を巡る怪異譚。その決着に至るまでの過程で――命が喪われるさまを、この目で見てしまったのだけれど。
だからこそ。
僕はあの陰惨な光景を――脳裏に焼き付いてしまった残酷を――できることならば、もう二度と見たくないと。体験したくないと。そう思っていたはずなのに――。
「この戦争に勝ち抜いた者は、なんでも願いが叶えられる――か」
僕にとっては、そもそもが矛盾している。僕は特別なんか望んではいない。当たり前の日常を。大切な人たちとの暮らしを。ただの平穏な生活があれば、それで十分だった。
だからその平穏を投げ捨てて戦いに身を投じ、その末にまた平穏という望みを叶えたところで――ただのマイナスにしかなり得ない。僕の望みが、叶えられることなどない。
いや、これだとまるで僕が無欲の聖人君子のようだ。一人称のモノローグで僕がそう語るのは、アンフェアかもしれない。
無論、僕にだって欲はある。何もかも満ち足りているほど僕は恵まれているわけではないし、欲しいものを挙げろと言われれば即座に両手の指で数えられないくらいには浮かんでくる程度に俗物的な人間だ。
だがそれは――人命を犠牲にしてまで欲しいものでは、断じてなかった。人の命と天秤にかけてまで欲しいものは――僕には、なかった。
「――待たせたわね、マスター」
思索に耽っていた僕は、セイバーの声で現実に引き戻された。考え込んでいた間に僕の従者のお買い物タイムは終わっていたようだ。
さて、我が騎士が選んだ衣装はどんなものか、この目で確認してやろう。僕の予想だと女騎士らしく上品にまとまったシックな一品。彼女の美しさとよく似合う純白のコートもいいが、凛とした佇まいを引き立てる漆黒のジャケットなんかも捨てがたい。
はたして、どんな姿が僕を待っているのか。顔を上げた僕の目に飛び込んできたのは――パステルカラーの水玉模様。やけに彩度が高い水色と桃色。胸には可愛らしいデザインのキャラクターワッペン。袖と裾にはフリフリのフリル。
誰がどう見ても女児服だった。女児服を着たハイティーンガールが、ドヤ顔を僕に向けていた。
「どう、なかなかいい服でしょ?」
「なんでそれでドヤれるんだ!? いやっ……! 私服が……ダサすぎる!
それはあれか、異世界の流行りなのか? もしくは異世界でも相当にニッチな特殊性癖なのか?」
叫びながら僕は思い出していた。この数ヶ月、怪異と出遭ってからの僕と縁があった女子たちのことを。
彼女たちもまた、一般的な女子とは一味二味三癖四癖と違っていた、変わり種の女子たち――
どうやら僕はいつの間にかそんな女子たちを引き寄せる体質になっていたようで。
セイバーとの巡り合せも、そんな奇縁の一つ――ということらしかった。
そうなると高貴なる女騎士が相手だと無駄に緊張していたことが馬鹿らしく思えてきたな……。
「なけなしの軍資金から予算を出したスポンサーとして、その服には断固抗議させてもらう」
「お金の問題? だったらそこらへんでパチンコでもして稼いでくればいいじゃない」
「なんでファンタジー世界の住人が公営賭博を推奨してくるんだよ。世界観はどうなってんだ世界観は」
「うちのギルドマスターはよく景品のお菓子を抱えて帰ってきてたけど」
ファンタジー世界、なんでもありか? こいつと話していると自分の常識や思い込みがどんなに浅はかなものだったか思い知らされて頭がクラクラしてくるな……
そもそも高校生がパチンコを打てるわけがないだろう、常識的に考えて。
一昔前の不良漫画の世界ならいざ知らず、今はそういうのコンプラが厳しいんだぞ。
結局セイバーは僕の再度の苦言と提案を徹底的に無視し、色鮮やかな女児服に袖を通してにこにこと笑っていた。こいつ、実はめちゃくちゃ精神年齢が低いのではなかろうか……。
強引に脱がせて別の服を着せることも考えてみたが、いくら吸血鬼もどきとなって人並み以上の身体能力を持っている僕でもサーヴァントが相手ではアリと象の喧嘩になりかねないと思い、断念することとなった。(そもそも女児服を強引に脱がせようとする男子高校生は、本当に絵面が悪すぎる)
不貞腐れる僕の横、空いたベンチにセイバーは座ってきた。
「何を考えてたの、マスター」
「お前みたいな服を着たやつと一緒にいると僕まで笑われそうで恥ずかしいし、そんな僕の心を知ってか知らずかまったく意に介さずに横に座ってくるセイバーの強心臓っぷりはさすが英雄様だなって」
「茶化さないで」
茶化しているつもりはないのだが。これもまた、僕のまぎれもない本心ではあるのだが――
「この戦いにおいてマスターとサーヴァントは一心同体。これから私たちが迎えるのは”戦争”よ。
――ねぇマスター。あなたに、”戦争”をする覚悟は――そのための”願い”は、ある?」
見透かされていた。僕にこの聖杯戦争とやらへのモチベーションがないということ。
僕には、叶えたい願いなど――ないということ。
「そんなもの、僕にはない――と言ったらお前は落胆するのか」
「いいえ。――そんなもの、私にだってないもの」
意外――だった。意外にも僕とセイバーは、似たもの同士だった。
それも含めてのマスターとサーヴァント。喚んだ者と応じた者との縁――ということなのかもしれない。
「だけど、僕たちにはなくたって――他のマスターたちには”願い”があるかもしれない。
なんでもお願いを叶えてくれる神様のようなやつに縋るしかない人間だっているかもしれない」
そう。”猿の手”に願いを叶えてもらおうとした、僕の後輩のように。
もしも希望が見えてしまったなら――可能性があるのなら。それがどんなにか細い糸だろうと。その下に奈落への落とし穴が待っていようと。
ただ真っ直ぐに。それしか見ない。それしか選べない。そんな人間だっているということを――僕は知っている。
「マスターは優しいのね。自分のために他人を蹴落とす――そんなことをしてくる人間を気にかけてあげる必要なんてないでしょ」
「優しいんじゃない。小心者なだけさ」
自分と他人の大切なものを天秤にかけて、その結果を見なかったことにして我を通す――ましてそこに人命なんていうあまりにも重すぎるものを追加ベットだなんて、僕の人間としての器の小ささを舐めるなと言いたい。
「そこにしか救いがない人間がいたなら――それに命を懸けるというのなら。僕にはその必死さを笑うことも否定することもできやしない」
「そう。――少しだけ、安心したわ。どうやら私のマスターは、善人と言い切れないにしても、けして悪人ではないみたいだから」
そう言ってセイバーは微笑を浮かべた。
「まったくよく言うぜ。高貴なる女騎士様のほうがよっぽど善性の塊だろうにな」
「女騎士? あたしが? ……あっははっ! マスターってば、あたしのこと騎士様だと思ってたの?
全然違うわよ。私は冒険者。ダンジョンに潜っては日銭を稼ぐ、一山いくらのありふれた冒険者よ」
僕の目はとことん節穴だったようだ。いや……だってファンタジーで鎧で美女って、騎士とかのほうを想像しがちだし。セイバーという響きもなんとなく騎士っぽいし。
「冒険者か……にしては装備が豪華な感じがするよな」
「まぁ、S級冒険者だったし?」
「だから女児服でドヤるな。――にしても凄いな、S級。A級よりさらに上ってことだろ?」
R級より下のほうのS級は見たことも聞いたこともないからSUGOIのS級で間違いないはずだ。
セイバーの世界でS級冒険者がどの程度の社会的立場を持つのかは知らないが、サーヴァント――英雄・偉人という枠組みの中に入っていてもおかしくない人物ではあるのだ。
「S級冒険者――まぁ、凄いわよ。天才剣士だなんだと持て囃されたこともあったし、大陸でリリィ・フラムベルの名前を知らない冒険者はモグリだなんて言われてた」
「へぇ……」
「2年間、何もせずに引きこもったりしてたこともあったけどね。本当に、たった一度も外に出ずに、ひたすら部屋にこもっていたわ」
「会話の温度差を考えないタイプ?」
「――たった一度の失敗だったの。初めての失敗。だけど大きな失敗だったわ。
――私は、一人だけ生き残ったの。仲間はみんなダンジョンの奥底で朽ち果てた。私だけが地上に帰ってきた。
何があったのか理解できず思い出せず――喪った仲間の妹からは恨まれて――そのまま2年。私の時間は止まっていたの」
ヘビーすぎる告白が飛んできた。聞いた僕がベビー返りして有耶無耶にしてしまいたくなるほど重いセイバーの思い。
だけどそれを話す彼女の表情に――憂いや悲しみは、なかった。
2年間と、彼女は期間を話した。だから彼女は――そこから再び立ち上がれたのだろう。外に出られたのだろう。
僕は想像する。暗い部屋のベッドの上で、身体を丸めてただじっと時間が過ぎるのを待っていたセイバーの姿を。
そこは絶望の底だったはずだ。そのとき彼女が”願って”いたものこそ、”救い”だったはずだ。
「私がもう一度歩き出せたのは、そのときただ黙って私を守ってくれた人たちのおかげなの。
だから私も、誰かが困っていたら――傍にいてあげたい。助けてあげたい。私みたいなその日暮らしの冒険者が持ってる願いなんて、そのくらいのちっぽけなものよ」
「お前は、それで人が救えると――助かると思ってるのか?」
「ええ、そうよ。誰かがどんな屁理屈をこねたとしても、私は大声で言い張るわ。私はそれで助かったんだから!って――エクスクラメーションマークを100個くらい重ねて、フォントサイズを256くらいに設定して」
無駄にページ数だけかさむやつじゃないか、それ。いや、でも――本当にただ言いたいことを、正しいと思っていることを伝えたいなら――余計な理屈や修辞はいらないのかもしれないな。
「それにね。もしもあのときの私がこんな戦争に参加して――その末に聖杯を手にして。なんでも願いを叶えられるだなんてことになったとしても――きっと、私の心が救われることはなかった。
誰かの血が注がれた杯をいくら飲み干したところで、喪われた心の空白が埋められることなんて、ありえなかった」
「だからマスター。私はあなたに一度だけ”お願い”をするわ――」
「私は――こんな形の”救い”は、認めたくない。
この戦争は、それ以上の悲しみと怨みを生むことになる。
――ねぇ。私と一緒に、この戦いを止めてくれない?」
――ここまで言われて。ノーと言えるほどの胆力は、僕にはなかった。そもそも言うつもりもなかったが。
なるほど――確かに聖杯とやらのマッチング機能はよくできているようだった。
「僕も同じだ。いや、僕のそれはお前とは違って、もっと消極的で、消去法で選んだものかもしれないけれど――
誰かが死ぬところなんて見たくない。どうせ見るなら笑っている姿がいい。笑っているみんながいる元の世界に帰りたい。あの世界で困っている友人を助けたい。
これが僕の願いだ。いや、僕たちの願いだ。この願いを貫き通す――そのためにお前の力が必要なんだ。力を貸してくれ、セイバー」
かくして僕たちの聖杯戦争は始まることになる。行く末は、ハッピーエンドかバッドエンドか――これはまだ、誰も知らない物語。
【クラス】
セイバー
【真名】
リリィ・フラムベル@追放されたチート付与魔術師は気ままなセカンドライフを謳歌する。~俺は武器だけじゃなく、あらゆるものに『強化ポイント』を付与できるし、俺の意思でいつでも効果を解除できるけど、残った人たち大丈夫?~(漫画版)
【ステータス】
筋力B++ 耐久B++ 敏捷B 魔力D 幸運C 宝具A+
【属性】
中立・善
【クラススキル】
対魔力:B
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などをもってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:A
12歳にして中級ドラゴンを屈服させ乗りこなした逸話を持つセイバーは、上級竜種を除くすべての獣、乗り物を乗りこなせる。
【保有スキル】
世界観(混沌):A
己の出身世界や聖杯戦争の行われる世界となんら関わりがない突飛な設定と遭遇しようとも動じずに使いこなすスキル。
剣と鎧と冒険者、ドラゴンの守る財宝が眠るダンジョンなどが当たり前のように存在するゲームファンタジー風の世界で生まれ育ったセイバーだが、
得意料理にはパック肉と味の素が欠かせないし、ドラゴンが落としたウージー短機関銃は使いこなすし、パチンコで勝ったギルマスと歓談だってする。
数多の世界から集ったマスターとサーヴァントを相手にしても己のペースを乱すことはないだろう。又の名をカオスギャグ適性。
再起の剣姫:A
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉への耐性と、天才と称される美しき剣技の複合スキル。
かつてセイバーの心は折られ、大陸中に知れ渡るほどの見事な剣技も喪われようとしていた。
だがセイバーは仲間の支えにより再び立ち上がり、その心と技はかつて以上の輝きを見せることになる。
【宝具】
『友との絆はいつも傍に』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
稀代のチート付与術士レインによって異常な強化ポイントを付与された装備の数々。
ひとたび剣を振るえば地は裂け岩を砕き、その鎧は如何なる刃も通さぬ無敵の盾となる。
ただしあまりにも増大した攻撃力は反動も大きく、考え無しに乱用すると自壊する危険性もある。
装備が全損した場合も強化ポイントは付与されたままだが、高位の付与術士でなければ他の装備に強化ポイントを移譲することは出来ないだろう。
『魔法剣・無銘』
ランク:C++ 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大捕捉:1人
魔法技術によって作られ、特殊な効果を持つ剣。銘こそ無いものの名だたる名剣と比べても遜色ない。
魔法を切り裂くことが出来る『魔力刃』と刀身の傷を自動的に修復する『自己修復』の特殊効果を持つ。
また、基本攻撃力と特殊効果が大量の強化ポイント付与によって大幅に底上げされている。
【weapon】
魔法技術で作られた無銘の剣。だがリリィも知らない隠された名があるようで……?
また装備一式には莫大な数の強化ポイントを付与されており、ステータス倍化(++)相当の恩恵がある。
【人物背景】
史上最年少でS級冒険者に認定された天才剣士で、その名は大陸中に知れ渡っている。
7歳のときには低級ドラゴン5体を討伐、12歳で中級ドラゴンを屈服させ乗りこなし、ついには上級ドラゴンを単独で撃破するほどの実力を持つ。
しかしとあるクエストの失敗により冒険者活動を休止せざるを得なくなり、2年の間冒険者ギルド「青の水晶」にて引きこもることになる。
強化付与術士であるレインが青の水晶に加入したことをきっかけに冒険者に復帰し、かつて失敗したクエストに再挑戦しトラウマを払拭する。
【サーヴァントとしての願い】
かつて自分が仲間たちに救われたように、自分も誰かを救いたい。
聖杯によって叶えられる願いには興味があるが、その過程で生まれる犠牲には懐疑的。
【マスター】
阿良々木暦@化物語(漫画版)
【マスターとしての願い】
元の世界へ生還し、”友人”を救う。
【weapon】
無し。
ただし最強の吸血鬼キスショットと同種の物質創造能力を用いることで、己の肉体を刃に変えることが可能――通称・アララギブレード。
【能力・技能】
不完全な吸血鬼。
吸血鬼もどきの状態でも人並み外れた再生能力と身体能力を持っている。
【人物背景】
進学校である私立直江津高校に通う男子高校生。
個人的理由により高校生活の大半を独りで過ごし落ちこぼれかけていたが、三年生に進級する春休みに「怪異」と出遭ってしまったことにより彼の生活は一変する。
【方針】
誰かを犠牲にすることなく元の世界へ帰還する方法を探す。
最終更新:2022年09月01日 14:36