───それは、変革が訪れようとする歴史の黎明でのこと。

───それは、時に1879年の英国でのこと。


夜闇で構成された暗がりだけがそこにある。
都市の各所を同時多発的に襲った悪意の炎は既に鎮火され、喧騒に満ちたロンドンは元の静けさを取り戻しつつあった。手を取り合った市民と貴族の目は、最早消え去った火の名残になど向いてはいない。
人々の視線は高く、高く、遥か高みにある一点へと注がれていた。
テムズ川を繋ぐ架け橋足らんと作られた、建設途中のタワーブリッジにか。いいや違う。
その上に立つ、たった二人の男に向けて。

共に黒の衣を身に纏う男であった。
共に人々の想いを背負う男であった。
一方は人々の怒りと憎悪を、一方は期待と憧憬を。
犯罪卿と呼ばれた"彼"は市民の正当なる怒りを向けられ、名探偵と呼ばれる"彼"は眼前の悪魔を誅する役目を期待と共に背負わされている。
すなわち、その名をウィリアム・ジェームズ・モリアーティ、並びにシャーロック・ホームズ。
何もかもが対照的な彼らは、あるいはその心さえも罅割れた鏡写しのままに向かい合う。

「お前の計画は見事だよ」

口火を切ったのはシャーロックであり、その静謐な口ぶりと表情とは裏腹に、激情にも似た巨大な感情のうねりを言外に込めた、言い知れぬ圧のようなものを滲ませていた。
それは怒りにも似て、しかし悔恨にも似ていた。それでいて期待や夢が叶ったような晴れやかさのようなものも覗かせて、同時に「させてはならぬ」という不安と焦燥に駆り立てられるようにも見えた。
あらゆる感情がそこにはあって、決して一つの面では表出しない。それを的確な言葉で表現することは、最早シャーロックにさえ不可能なことなのだろう。

「貴族と市民、大火から自分達の街を共に守らせることで階級の垣根を取っ払う……そして今、ロンドン中の憎しみが全て犯罪卿に集約した。
 ……悪魔。人々にとってお前は悪魔だ」

シェイクスピアに曰く、「全世界は一つの舞台であって、全ての男女はその役者に過ぎない」。
その言葉に則れば、なるほど確かに、この光景は舞台演劇に例えて相違ないのだろう。
舞台はロンドン、観客は総ての市民。主演は二人、犯罪卿と名探偵。
全ては蜘蛛糸を手繰る犯罪卿によって企てられ、名探偵は主演たれと仕組まれた。英国を覆う闇を切り裂き光をもたらす、人々の憧憬を担う英雄になれと祈りを込めて。
その果てに、地上の悪魔たる己を殺してくれと願いを託して。

だが、もしも仮に。
今や狡知の悪魔と化したウィリアムの誤算を、敢えて挙げるとするならば。


「───だが、まだ間に合う……!
 この世で取り返しのつかねえことなんて、一つもねえんだよ!」


それはきっと、彼の存在こそが全てなのだろう。

"全世界は一つの舞台"、なるほど。確かにその通りだ。
少なくとも、ウィリアム・ジェームズ・モリアーティにとって、生まれてからの人生は全て、命を懸けた芝居で相違なかった。

───もし困っている人がいて僕なんかがお役に立てるのなら、何でもしたいなって思うんです。

嘘偽りのない言葉だった。紛うことなき善心だった。己はそれを偽善と欺瞞で塗り固めた。最初から致命的に間違えたのだという自覚だけを胸に。
持てる才の全てを賭して、彼は演じた。若き天才数学者、清廉な伯爵家次男、報われぬ人々を救う犯罪相談役、悪を殺す悪党。あらゆる仮面を使い分け、彼は全力で世界を騙した。
迷いも後悔もありはしなかった。その資格は失われていた。最初からそんなものなかったのだ。
舞台の上に生きた男は、やがて望む舞台を整えた。
世界の歪みたる貴族、民衆がその境遇に賛同できる犯人、貴族の腐敗を世に暴く探偵。
幕が上がる度に悪徳極めし貴族が斃れ、悲鳴が上がる度に暴かれぬはずの不正義は世に暴かれた。
罪深き我よ、悪を喰らう悪となれ。罪を抱いて堕天せよ。
緋色に染まる両手を見つめ、最早その行いに感慨さえ抱くこともなくなったその時に。

彼を、シャーロック・ホームズを見出した。


「……残念だよ。そうやって君は、僕を"生"にしがみ付けようと誘惑するんだね」


"生きたい"などと、思っていいはずがなかった。
地上の悪魔は全て滅ぼさねばならない。それはこの計画を始めた時から……アルバートの家族を殺した幼き日から決まっていたことだ。
そうであるはずなのに。

「君の手は取らない」

君と共にいたかった。

「僕は間違ってなどいない」

君を見出したのは間違いじゃなかった。

「悪魔は貴様だ、シャーロック!」

けれど、僕は悪魔だから。

翳される刃に去来する数多の想い。記憶、尊く輝くもの。
白刃が夜闇に煌めく度、脳裏を駆けるかつての景色。忘れるはずがない。例え幾星霜経ようとも、永遠に。
シャーロック。君との出会いは僕にとって、罪深い計画を一瞬忘れてしまうほどに楽しいものだった。
唯一の理解者を得られた気がしたんだ。
互いの立場がなければずっと語り合っていたかった。全てを投げ出して君とずっと謎解きに興じていたいとさえ思った。
探偵の君にこんな感情を抱くのはおかしなことだけど、初めて会った時からずっと、年来の友人のように感じていたんだ。

だから。
だから、もし違う世界に生まれ変わることができたなら。
こんな薄汚れたところじゃない、誰も苦しまない美しい世界に生まれることができたなら。
今度こそ、本当の友達に───

「生まれ変わったらだぁ? まだ間に合うだろうが!」

幕を下ろそうとする腕を、阻むものが一つ。
犯罪卿と探偵の対決は十分なほど観客に見せつけた。だからもう、僕が生きる必要など何処にもなかったのに。
彼にその刃を突き立てて欲しかったのに。


「……死ぬことがお前の考える贖罪だってのか。笑わせんなよリアム、死を逃げ道にするんじゃねえ!」


"全世界は一つの舞台"、なるほど。反吐が出る言葉だ。
少なくとも、シャーロック・ホームズにとって生まれてから今に至るまで、何かを演じたつもりなどただの一度も存在しない。

───まあ俺は奴の謎を暴いてとっ捕まえることが出来んなら、この命を捨てたって全然構わないんだがな。

その言葉に偽りはない。俺は俺の望む形で、ずっとお前をつかまえたかった。
犯罪卿がお前で良かった。お前と出会えてよかった。
俺はお前じゃなきゃ嫌だった。お前であって欲しかったしお前でなきゃ駄目だった。
何せ、お前は俺の友達(ダチ)なんだからな。
ここまで追い求めたのは犯罪卿が初めてだったし、ここまで共にいたいと思えたのはお前が初めてだった。
だから、犯罪卿はお前であって欲しかったんだ。俺が追い求めた誰かは、お前という唯一無二でなければならなかった。
けれど、なあ。

「そんなもん只お前が苦しみから逃れてぇだけだろ!」

お前を失うなど考えたくもないから。

「本当に罪を償いたいなら苦しみから逃げるな!」

他ならぬ俺自身が、お前に死んで欲しくないと願っているから。

「お前にとって一番辛い道を選択しろ!」

それこそが、お前を救うただ一つの道だと信じている。
だって、そうだろ?

「……俺はミルヴァートンをこの手にかけた。お前と同じ罪人だ。だから一緒に償っていこうぜ」

お前にだけ背負わせることはしない。
こっちはとっくにそう決めてるんだ。

「やり方はいくらだってある。そうだろ?」

全ての迷いを振り切った、晴れやかな顔で告げる。
それは今まで刃を向けられた者の表情ではなかった。命を懸けることなど些末事だと言う、純然たる友愛の言葉であった。

だからこそ。
ウィリアムが、死すべき最後の悪魔が返すべき言葉は決まっていた。



「───サヨナラだ、シャーロック」



言葉と同時に爆ぜる光。
熱と爆音、砕ける鉄橋。
全てがスローモーションに引き延ばされる視界の中、シャーロックは確かに見た。
ウィリアムは……

───笑っていた。

憑き物が落ちたかのように、年若い子供であるかのように。
それは「安心した」とでも言いたげに、あいつは笑っていたから。

「ッ、馬鹿野郎!」

きっとそれは考えての行動ではなく、だから手を掴めたのは奇跡にも等しかった。
腕一本。それが爆発によって空中に身を投げ出したウィリアムの命を支える、最後の命綱だった。

「何故、そこまで僕を……」

「ハッ、何度も言わせんな。お前は俺の友達(ダチ)だからな、理由としちゃそれで十分だろ……ッ!」

それはきっと、たった一つの真実。
ただそれだけで、命を懸けるに値する答えだった。

「手紙は読んだ。お前は俺のことを単に計画に必要な駒だとは考えていなかった……ッ!
 それと同じように、俺もお前のことを只の解き明かしたい謎だなんて最初から思っちゃいねぇんだよッ!
 俺達は最初からずっと同じ気持ちだったんだ……なら! 同じ未来を見ることだって出来るはずだろ!」

溢れる言葉は止め処なく、堰を切ったように流れ出す。
それは彼に向けた想いと同じくして。
死が救いになるとは口が裂けても言わないが、しかし生きていればそれだけで救いが訪れるほど世界は優しくない。
その壮絶な半生に大きすぎる罪の意識、息をするのもやっとの重圧の中孤独に戦い続けた悪の旅路。これで終わりにしたいのだと、嘯くお前の気持ちを痛感する。
それでも、俺は何度だってこう叫ぶのだ。

「……生きろ! 生きろ、ウィリアム!
 生きんのは辛いことばっかりかも知んねえ……だがお前の変えた世界はこれから生きるに値する世界になる。きっとなる!
 俺もこの世界を守っていく! だからお前も……っ!」

「……君は探偵としてではなく、友達としてここまで来てくれたんだね」

溢れるものがあった。
それは涙の代わりに、言葉の代わりに、何よりも雄弁に彼の心を物語る。
笑み。
死を前にしたものではなく、ただ愛する友を目の前にした嬉しさに、口元が綻ぶのを止められない。

「だが運命は僕を許してはくれない。その足場は重さを支えきれない」

「良いから剣を捨てろ! 両手で俺の手を掴め!」

「君だけは、生きて帰ってほしい」

振るわれる一閃。

最後の力。

舞う血飛沫に離れる手。

投げ出された体は一瞬の浮遊感と共に。

呆けた彼の顔。

涼やかな心。

迷いは晴れた。未練はない。

そうして、ウィリアム・ジェームズ・モリアーティは落ちていく。
末期に得た救いと共に。望外の喜びと共に。友と交わした友誼と共に。
それこそが犯罪卿に定められた当然の末路。
悪を喰らう悪とは、すなわち最も許しがたい悪党であるのだから。その最期は無惨な死と決まっている。
ウィリアムは今度こそ、全ての終局にその瞼を閉じて。


「───お前ひとり、死なせてたまるかよっ……!」


……ウィリアムの誤算は二つ。
一つは、シャーロックという男を本気で好いてしまったこと。
そしてもう一つは、シャーロックはウィリアムの書いた筋書など"知ったことか"とぶち壊す、型に嵌らない男だったということ。

遠く離れ行くはずの彼が、同じように宙へ踊り出す様を見た。
信じられぬものを見たかのように、ウィリアムの目が見開かれる。

遠く離れ行く彼を、行かせるものかと飛び込む。
大切なものを掴むように、シャーロックの腕が伸ばされた。

「やっと、掴まえたぜ」

墜落が犯罪卿に定められた末路だとしたら。
これはきっと、名探偵にこそ定められた末路なのだろう。
星を掴んだ男は誇りと共に、胸を張って空を墜ちる。
地平線の彼方、黎明の朝焼けが人々の目を欺くその最中。二人は一つの星となって墜ちていく。
その眩さを前に、しかしそうではない確たる理由によって、ウィリアムは目を細めた。



───悪魔が消え去れば人の心は澄み渡り呪いが解ける。この国はきっと美しい───



「リアム、生きよう。生きて俺達は……」

言葉の先を聞くことはなかった。
ウィリアムは胸の内に去来する何某かの感情と共に、静かに目を閉じる。
緋色に染まった手も、迫りくる漆黒の水面も、最早恐れをもたらすには足りなかった。



ただ。
夜明けの光に照らされる街並みと、
自らを抱く友の姿が、あまりにも綺麗だったから───





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





この日、犯罪卿ウィリアム・ジェームズ・モリアーティは死んだ。
名探偵シャーロック・ホームズの存在こそ、彼が生きた証となるだろう。



───そして世界は輝きを取り戻す。

───あの子供はもう、泣いていない。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




それを正しく形容できる人間は、恐らくこの場には存在すまい。
近未来モデル都市、違う。石塔の街、違う。法則さえ異なる別世界、違う。
西欧はロンドンの東南地域でさえここには遠く及ぶまい。空を衝くがごとし巨大な石塔めいたビルディングの群れ、群れ、群れ。響き渡るガーニーの駆動音。雲のない夜空であるというのに星の見えない漆黒の空。
世界───かの遠きカダスを含まぬ地球圏においては、この時代最も繁栄した都市の一つであるところの巨大経済流通都市。
東京。その名を知る者は、やはりこの場には存在しなかった。

───夜の闇を駆ける男がいた。
───痩身長躯の男だった。

彼の名を知る者は多い。
彼の武勇伝は今や、新聞や伝記的小説によって幅広く伝えられている。

それは仕立ての良いブラックスーツに身を包んだ男だ。
知識の深淵で全てを見通すとさえ言われた男だ。

英国は愚か西欧諸国全土、果ては時を超えた未来にまで偉大な功績の知れ渡った、世界有数の諮問探偵がひとり。
欧州全土の謎を解き明かすという彼。
その名も高き犯罪卿の企みを暴き英国に光をもたらした彼。
碩学ならぬ身で"天才"と呼ばれる彼。
この世における叡智が示す人間の一角を担うに足るところであろう彼は、しかし聡明さの欠片も見せぬ様相でただひたすらに走っていた。まるで逃げるように。
何から逃げているのか。その顔に浮かぶものは恐怖にも似て、英国の闇を払拭せしめた勇壮なる彼が、まさか恐怖などと!

「逃がさん」

背後から聞こえた無慈悲な追跡者の声が届くと同時、半ば本能的に屈めた頭上数センチの距離を、鋭い何かが通り過ぎる。
首筋に文字通り刃のような冷やかさを感じる暇もなく、もんどりうって転がってしまう。視界の端でけたたましい音と共にズレ落ちるものが一つ。街灯である。鉄で出来ているはずの柱が、まるでゼラチン質であるかのように容易く切断されて倒れたのだ。そしてその暴威が、本来ならば己の首に飛来しているはずだった事実を、地面を揺らす振動と共に彼は正確に認識していた。
尻もちをついて見上げる先には、今まさに剣を振り抜いた姿勢で立つ男の姿があった。"彼"が知る時代の戦争においても帯剣の習慣はあったが、しかしこれは明らかに趣を異としたものだった。
その男の装いは古代オリエントの風格を帯びて、手にする剣もまた同じように古代の装飾が為された古式のものであった。銃砲火器が戦場を席巻する現代において場違いな装備。最早競技や式典にしか意味を見出せないカビの生えたそれは、しかし今しがた見せたように現代の武装兵士さえ歯牙にかけない圧倒的な武力をその身に宿しているのだった。
彼は、シャーロック・ホームズは多才である。その明晰な頭脳と豊富な知識のみならず、銃火器の扱いや拳闘の心得、果ては医学に則った人体の破壊に至るまで様々な技術を習得している。喧嘩なぞ数えきれないほどしてきたし、拳銃片手に命の取り合いをした経験も片手の指では足りない程度にはある。
しかし、眼前のこの男にはまるで勝てる気がしなかった。仮にこいつが無防備な姿を晒し、その脳天に銃撃をぶちかまそうが自分では決してこいつを殺せないという確信がある。

それは物理を無視し、質量保存則を無視し、既存概念を超越した個体───サーヴァント。
人道、条理、常識など一切意味を為さぬ魔道の真髄として顕現せし狂気の御業だ。
ならばこそ、シャーロックに抗する手段などありはしない。
物理を弾く神秘と加護された肉体は熱も刃も銃弾さえも通しはしない。この時代における既知科学最強たる核の炎を使ったとて傷つけ得るかどうか。

「……大した挨拶だな。何が気に入らなかったか知らねぇが、随分と血気盛んじゃないか?」

「その魔力に刻まれた令呪。貴様がこの地に招かれたマスターであることは瞭然である。丸腰の相手を嬲るのは気持ちの良いことではないが、恨むならば己の不運と軽率をこそ恨むがいい」

だから、何言ってんのか意味わかんねぇんだよ……っ!
魔力、令呪、マスター。この場違い仮装野郎が一体何を言っているのか、まるで見当もつきやしない。
俺はただ、一緒に落ちたはずの"あいつ"を探したいってだけなんだ。
気付いた時には明らかロンドンじゃねえ場所で目が覚めて、現状も分からないうちに襲撃を受けた。一目で勝てないと分かったから逃げの一手で、癪だが無能の警察(ヤード)に問題丸投げしてトンズラ決めようと走ってはみても、馬車も人影も何も見つかりはしない。
そして追いつかれてこのザマだ。仮装男は長剣を構え、こちらに鋭い視線を送ってくる。
言われずとも分かる。殺すつもりなのだ、俺を。
何の逡巡もなく、何の理由もなく。

「……っざけんな」

胸の内に湧きあがるもの。それは怒りか、分からない。
自分が何を考えているのかさえ分からない。ただ、混乱する意識の濁流の中で意志だけが奔る。
それは、直感であったのかもしれない。
または、恐怖で麻痺した脳が産む狂気か。



『あなたはどうしたい?』



「いきなり死ねと言われて、はいそーですかと頷く馬鹿がどこにいるんだよっ!」

手近にあった拳大の投石、それは違わず男の右目に迫るが、それだけだ。
ガン、と人体に衝突したとは思えない硬質の音を響かせて、勢いの失った石が落ちる。男は不動、剣や手で振り払うことすらしない。攻撃どころか目くらましにすら成りはしない。
返答と言わんばかりに閃く一撃は、たまさか奇跡の産物か直感の為せる業なのか、一瞬早く飛び退ったおかげで本来の狙いである胴体を裂くことは叶わなかった。代わりに太ももを斬られてしまったが。
舞い散る血飛沫に奔る激痛、思わず痛みに呻き蹲るも、睨みつけるような視線だけは決して男から外さない。



『あなたは何を願う?』



「貴様に願うものなど、何もないではないか」

「……なに?」

「未だ以てサーヴァントを連れぬことがその証だ。願い持つマスターならば当の昔に目覚めている。
 にも関わらず、命の危険に晒されようと従僕を呼び出せぬその姿、願いすら持たぬ落伍者であると断じて相違はあるまい。
 そのまま蹲っているがいい。動かぬならば楽に首を落としてやる。所詮貴様には、立ち上がるべき理由などないのだから」

それは事実、なのかもしれない。
既に自分がやるべきことはなくなった。
時代の変革は訪れ、人民の心は確かに動いた。計画の遂行は残された人間だけで可能ではあるし、ジョンの創作活動は俺がいなくたって続くだろう。
すべき義務も、使命も、既にない。
それは事実、だろうけど。
けど、なぁ。



『あなたが望むものは、なに?』



「ざけんな、つったんだよ俺は……!」

意識が途切れそうなほどの激痛を堪え、立ち上がる。
それで何ができるわけでもない。それでも立つ。諦めない。

「ああそうさ、てめぇの言う通りだ。俺には立ち上がらなきゃならねぇ理由なんざねぇ! だがな───!」

「立ち上がりたい理由なら───譲れない気持ちだけは、俺には抱えきれないほどあるんだよ!」

きっとそれは、シャーロック・ホームズにとっての真実。
時代でもなく、国でもなく、使命でもなければ義務でもない。
ただひとりへの友情のためという、たったそれだけの答え。
他者から見ればどれほど下らないものであっても、光は今もこの胸に在る。熱も炎も消えてはいない。
岐路に迷って間違って、血に濡れようと沈もうと―――

「あいつと一緒に生きたいと叫んだ言葉は、嘘なんかじゃねぇんだ……っ!」

シャーロックは叫ぶ。眼前にまで迫る言葉なき刃を視界に収めながら、叫んだ。



『それなら』

『あなたの魂が、本当は諦めていないのなら』



聞こえるものがあった。
それは決して声ではなく、それは決して音ではない。
周囲には誰もいない。自分と剣持つ男以外は。
だからこれは、決して耳に届く音響としての声ではなかったけれど。
確かに聞こえた。
聞こえたから。
俺は、お前を───



『呼んで。私は───』



「来い、フォーリナー!」

それは喉ではなく、魂の奥底から絞り出された絶叫だった。
理由は分からず、理屈も分からず。しかし根拠のない確信だけが胸にある。
これは力だ。呼び声に応え、喚起する力の奔流。
だから、きっと───



「万象破断する告死の魔剣。けれどこのあたしの影は砕けない」



静かに告げる、揺るぎない意思ひとつ。
静かに頷く、揺らめき始める周囲の影。

湧きあがるものがあった。
夜の闇に覆われたはずのシャーロックの影が、不気味に伸びあがっていく。
言葉に応じるかのように。意志に応じるかのように。それは影だ。暗がりだ。
決して形持たぬもの。
決して質量持たぬもの。
それが壁のようにせり上がって、細首刈り取るはずの剣閃を阻む。
絡め取られたように剣の動きが止まる。驚愕、信じられぬものを見たと言いたげな表情を男はして。

「あなたの声を聞き届けたわ。だからこそ、あたしはここに来た」

───それは、白銀色をした少女だった。

何時の間に現れたのだろう。泡立ち蠢く影の奔流の中にあって、ふわりと降り立つ少女は漆黒の闇の只中に浮かぶ白い光のように映えていた。
白銀色の少女。それは月の光を人の形に押し込めたような姿をして。
白き髪、白き肌。しかし何より目立つのは、その瞳だ。
黄金の瞳。白銀の少女は、夜空に浮かぶ月そのものの瞳を見開いて。

「───退きなさい」

右手に持つ剣を一払いするや、屈強であるはずの男を弾き飛ばした。
いや違う、吹き飛ばしたのではない。シャーロックの目にはそう見えただけで、実際には男の体に何の衝撃も運動エネルギーもぶつけられてはいない。少女の剣は男でなく、空間を切り裂いたのだ。その結果として、斬られた分の距離を延長された空間が、男の体をより遠くへ飛ばしたのだ。

「黒の剣能では剣の英霊に打ち勝てない。方程式の使用には行動を消費する。だからお願い、クロ。一瞬でいい、私に時間をちょうだい」

〈灰葬に踊れ水底の幻精(オールド・ディープワン)〉

宣誓と共に新たな影が迸る。
それは水だ。影と同じく漆黒の、しかし影ではなく黒き水の奔流が男を襲う。
それは決して傷つけず、それは決して命を奪わず、しかして動きを、思考を、精神を硬直させる幻惑の水。
まるで意思を持ったかのように動く水に絡め取られた男は、雄叫びと共に振り払おうと足掻くが、遅い。

「さあ、マスター。打ち勝ちたいなら宝具開帳の許可をちょうだい」

「……あ? 宝具?」

問われ、未だ意味を理解できないままの男は、しかし。
理解はできずとも察することにより状況を把握する。

「ああいいぜ、思いっきりぶちかましてやれ!」

「イエス、マスター。あなたに勝利を」

そして少女は黄金に輝く右目を覆うように、その右手で顔を覆って───
告げるのだ。世界の果ての何かへと。





「───城よりこぼれたかけらのひとつ」

「クルーシュチャの名を以て」

「方程式は導き出す」

「我が姿と我が権能」

「失われたもの」

「食らう牙」

「足掻くすべてを一とするもの」





───少女の周囲が。

───ざわめき、沸き立って、うねる。

見えているのは幻か、それとも夢か。
少女を取り巻き蠢くものが見える。それは、何かを思わせる。
それは今までの影と似て、今までの水と似て。
しかし違うのは、黒い粘液に似た不定形の群れが、少女の周囲に浮かんで"かたち"となること。

───黒い文字。

───古代の碑文を思わせる。

ぐるりと取り巻く黒い文字のような塊は、少女の影から吐き出され、周囲を蠢き回転し、不規則な幾何学模様を描き出す。
古代史はシャーロックの本業ではなかったが、類似する文字列を彼は知っていた。いや、それは厳密には言葉ではない。近いものは数列、それも恐ろしく複雑な。
関数、違う。これは何かの方程式だ。長く複雑すぎて、シャーロックには読めなかった。式が、そもそも何を意味しているのかさえ。
黒い群れを少女は呑みこんでいく。黒の布地と白のフリルが付いた茶会用ドレスの下に、あるいは口で、足元の影で。

───ひとのかたちをしたものが、怪物の成り損ないを食べている。

その印象に間違いはない。今まさに、彼女は捕食を行っているのだ。
文字の羅列を少女は呑みこんでいく。それは通常の生物が行う食事とは大きく次元の離れた行為ではあれど、他我を自我に取り込むという同化捕食の行いであった。
未だ多くの群れを残したままで、少女は告げた。

「食べるわ」

───そして、少女の姿が変わる。

金に輝く彼女の右目が、朱く、朱く、輝いて。
闇が充ちた夜のように、影のように、彼女の姿が変わる。
黄金の瞳から溢れる赤い光は、奇妙な紋様を描き出して、揺れる。
そして───次に、右の腕が歪む。
服を、肉を食い破り。肩口を食い破るのは黒い刃。確かな硬度を持つそれらは、互いに擦り合わさって軋む。金属音を掻き鳴らす。
右腕の末端にまでその変化は及んでいた。服を破り、肉と骨を砕いて、幾つもの刃が五指に至るまで生え揃う。震える。軋む。掻き鳴らす。

───そして、最後に。
体に赤い亀裂が走る。右肩から左下腹部までを、斜めに引き裂く赤の亀裂。
少女の右半身が歪んでいた。鋭い肋骨にも乱杭歯にも見える黒色の刃が幾つも宙に突き出され、歪む。歪む。歪む。
右目と右腕に浮かぶのと同じ赤色をした亀裂は、少女の胴体を引き裂きながらも体を砕かず、人型を保って蠢く。
脈動しているのだ。まるで、巨大な生き物の血管であるかのように。
人体が歪んでいく。壊れていく。美しくも儚い白銀色の少女が、深淵の黒く名状しがたい何かによって浸食されていく。

「なんなのだ、何だというのだ貴様は……!」

蠢く水に囚われた男は、セイバーは、恐慌の声を上げる他になかった。
意味が分からない。理屈が通らない。寸前までシャーロックに不条理と恐怖を与えていたはずの彼は、今や己自身が不条理と恐怖に見舞われていた。
このサーヴァントはなんだ、キャスターか? いいや違う、このような見た者の正気を奪うような代物が、まさか尋常なる魔術式であってたまるものか。
あの男はフォーリナーと呼んでいた。降誕者、聞いたこともない。それが事実だとすれば、奴は一体何を、この世に降り立たせてしまったというのか。

「簒奪者を僭称する哀れな人よ、貴方の声は何処にも届かない。だから……」

少女の声が。
あらゆる闇を、引き裂いて。

「闇の如く、噛み砕け」

───────────────!

幻惑の水に囚われた剣士が、砕かれる。瞬時に。
砕いたのは奇妙な黒い腕だった。少女の胴体部の亀裂からするりと伸ばされて、巻きつくように剣士の体を取り込み、圧し潰す。
砕く。元の形が何だったのかさえ認識できない、ばらばらの破片に至るまで。刹那の間に。
悲鳴も懇願も上げる暇なく、剣士が、サーヴァントが破壊される。
男の声はかき消される。少女の黒い巨腕は、異様なまでに巨大な"口"を、押し開いて。痙攣する男を、呑みこむ。喰らい尽くす。

後には何も残らない。
ただ、戦いも喧騒も怪物も存在しなかったように振る舞う夜闇の帳が、張りつめたような静寂を保つのみであった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「ありがとう、助かったわクロ」

剣士も巨腕も影も消え失せて、後には白銀色の少女が、駆け寄ってくる小さな黒い子犬を抱き上げる光景が映るばかりである。
やたら人懐っこく見えるその子犬に、頬を舐められながら困ったように笑う少女は、今しがた名状しがたい異常な風景を生み出したとは思えないほど、ありふれて牧歌的なものに見えた。

「それで、えっと……大丈夫かしらマスター?」

「ああ、俺も助かったぜ、作家志望のお嬢ちゃん?」

どっ、と疲れが押し寄せる体を地に横たえて、深く息を吐いて脱力しながらシャーロックが答える。
同時に頭に流れ込んでくる数多の情報───聖杯、令呪、サーヴァント、魔力、契約……他にも他にも、聖杯戦争とやらに必要な知識が湯水のように頭に染み渡る。
あー、さっきの奴が言ってたのはつまりそういうことか……などとひとり納得しながら、ふと少女のほうを見やるとそこには驚いたような表情の彼女。
ああ? どういうことだ?

「……ミスター、どうして私が作家だと」

「あ? そんなん明らかじゃん。まずさっきの嬢ちゃんの動きだが、鮮やかではあったが心情的には手馴れてなかった。
 つまり境遇としては今の俺と同じで、力の使い方だけを与えられた立場だってのは推察できる。この時点で魔道なりを修めた裏側の人間じゃねえってな。
 そんで次に、剣を振るうにはアンタの体は出来上がってない。手もまあ綺麗なもんだ、荒事を生業にした人間じゃねえのは明白。で、指の端々にはペンダコの痕があり、右手の爪にだけインクが僅かに詰まってる。
 その服装を見りゃ俺の同郷ってのは分かるし、文化的にも大して差がないだろうことを鑑みれば、嬢ちゃんほどの歳でそうなるのは学業か文芸かの二択になるわけだが、フォーリナーの適性である感受性により適したのはどちらか、って考えれば当たりはつく」

ま、今しがた流れ込んだ付け焼刃の知識ありきだけどな、と締めくくるシャーロックであった。
こんなもん推理でも何でもねえ、とひらひら手を振り、あーマジ疲れたわぁ……と寝そべる彼であったが。

「め……」

「うん?」

「名推理だわ! 確かにあたしは絵本作家で、本当はこんな気色悪い力なんて持ってなかったの!
 いきなりサーヴァントだなんて言われてジェイムズからは無茶振りされて、本当に困ってたのよ……」

「お、おう、そうか……」

ぐわっと顔を近づけて「驚いた、本当に凄いわ!」と言ってくる彼女に、ちょっとだけ引きながら答える。なあ、抱いてる犬っころビビってるけどいいのかアンタ? というかこの反応はジョンの奴を思い出すなぁ、つーかジェイムズ? やっぱ同郷の人間だったんだなとか思っていたところで。

「それでマスター、あなたはどうするつもりなの?」

「……と、言うと?」

「あなたならもう分かっているのでしょう?」

そう、此処で行われるは聖杯戦争。たった一つの奇跡を求めて椅子を取り合う殺人ゲーム。
そして彼は、シャーロック・ホームズは聖杯に託して然るべき大きな願いを持っていた。

「……ひとり殺すもふたり殺すも同じこと、ってな」

「えっ?」

「人殺しはいけないことです、なんてそこらのガキでも知ってることだ。けど、一度でも手を汚せば次からは当然みたいな顔して選択肢に入ってきやがる」

シャーロックは罪人だ。
犯罪卿が罪人だと言うなら、シャーロックも同じくしてやはり罪人なのだ。
確かにシャーロックが殺した男、ミルヴァートンは屑であったし、死んだほうがマシどころか率先して殺さなければ人の世に害しかもたらさない肥溜めの糞のような男ではあった。
しかし、死んだほうがいい人間はいても、殺していい人間なんてどこにもいない。
それでもシャーロックは殺した。己の手で、明確な殺意と共に引き金を引いた。
その責を忘れはしないし、ごまかしもしない。ならばこそ、一度殺人という手段を用いた彼には次なる選択肢としてもやはり殺人というワードが紛れ込んでしまう。
"もういいや、面倒くさいしぶっ殺したほうが手っ取り早いからやっちまおうぜ。ひとりもふたりも変わらねえだろ"と。
その罪深さと愚かさを誰より承知であるはずなのに、常に頭の隅に浮かび上がる選択肢。人殺しが罪だというならば、法的な罪刑とは全く別の話として、これが正当な罰ということなのだろう。
だからシャーロックには、聖杯を手にして所在不明のあいつを保護するという道も存在したし、そもそも元の場所に帰るには聖杯を取る以外に道はない。
考えるまでもないリスクの多寡。選ぶべきは明白ではあるのだが。



───その心持ちでいるならば、きっとこの先どんな選択をしようともお前は道を誤らない。



「……あー! やめだやめだ! こんな辛気臭ぇ話してもしょーがねぇだろ!」

「わっ」

がばっ、と飛び起きて叫ぶ。傍らの少女は驚いた表情で、何してんだこいつみたいな顔を向けてくる。
うっせえ、俺はもう決めたぞ。俺は友達としてリアムを諦めないのと同じように、友達として二度とジョンを裏切らない。

「聖杯は求めねえ。俺は人間を誰も殺さずに生きて帰る。最後までその道は諦めない。
 こんな俺にも信じてくれる友達がいるからな。俺自身はともかく、そいつのことは裏切れねえんだわ」

選んだのは最も困難な道。誰も殺さず、死ぬこともなく、この巨大で全容もしれない前代未聞の「大量殺人教唆事件」を解決してみせる。
そんな男の解答を聞いて、少女は柔らかく微笑んだ。

「本当に、それでいいのね」

「あぁ? 俺に二言はねえよ。つーか、嬢ちゃんも明らかに場馴れしてねぇのは明白じゃん?
 さっきのは緊急避難ってことでノーカンにしても、一般人に手を汚せなんて言わねっつーの」

不遜に笑みを浮かべながら、シャーロックは努めて不敵に言い放つ。
そうだ、それでいい。悪を追い詰める正義のヒーローってのは、これくらい傲慢なのがちょうどいいんだ。

「つーわけで、いい加減互いの名前くらい知っておこうぜ」

「ええ、もちろん。これから長い付き合いになるのだから」

そうして二人は笑い合って、告げるのだ。

「俺はシャーロック・ホームズ。諮問探偵なんかをやってる……まあ、ヒーローってことになるらしい」
「あたしはメアリ・クラリッサ・クリスティ。しがない絵本作家だけど、それなりに戦う術は与えられてるわ。どうぞよろしく」

差し伸ばされた手を取り、ゆっくりと起き上がる。
その目には既に迷いも、恐怖も、ありはしなかった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「我ら役者は影法師!」

「皆様方のお目がもし」

「お気に召さずばただ夢を」

「見たと思ってお許しを」

「───真夏の夜の夢」





【クラス】
フォーリナー

【真名】
メアリ・クラリッサ・クリスティ(黒の王)@漆黒のシャルノス

【ステータス】
筋力E 耐久A 敏捷C 魔力EX 幸運A+ 宝具EX

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
領域外の生命:EX
外なる宇宙、虚空からの降臨者。 邪神に魅入られ、その権能の片鱗を身に宿して揮うもの。

神性:EX
外宇宙に潜む高次生命の巫女となり、強い神性を帯びる。

狂気:-
周囲精神の世界観にまで影響を及ぼす異質な思考。
……のはずだが、彼女の場合何故かこのスキルは封じられている。下記黄金瞳による影響か、あるいは彼女を憑代とした神性の判断であるのかは定かでない。

【保有スキル】
黄金瞳:A+
夜に光る猫の目。真実を見通す瞳。あるいは、虚空に浮かぶ大いなる月の一欠片。
あらゆる隠蔽、虚偽の概念を無効化し、判定次第によっては当人すら知り得ない秘密の類すら見破ってしまう。有体に言ってしまえばアイデアロール確定成功。
また、これ自体が強大な魔力炉として稼働しており、事実上このサーヴァントに魔力切れは起こりえない。

黒の剣能:A
黒色なる茨の剣、人の心が持つ拒絶の形。
タタールの門を開く「銀の鍵」であり、同時に空間さえも断ち切る刃でもある。
人が互いを駆逐し合うための愚かなる自滅の道具。
この剣のような争いの道具を捨てられないがために、人はシャルノスを求める。

無貌の月:EX
人類種を観測するとある神格の残り香。別名をサードアイ、黒王赫眼。
虚数空間の境界面をより確かなものとし、周囲を狭間の世界へと落とす固有結界にも酷似した何か。
世界が異界の影に覆われた時、すべての時間は凍結する。

【宝具】
『城より零れた欠片のひとつ(Kruschtya Equation)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000
人類とは相容れない異質な世界に通じる“門”を開き、大いなる歪そのものである黒の王の腕を限定的に顕現させる。
効果対象は人間として在るメアリの認識に即する。故の対人宝具であり、本来の種別は対界宝具とも言うべき果てのない性質を持つ。

『灰葬に踊れ水底の幻精(オールド・ディープワン)
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:10
太古の時代、人が文明の光を手にしたのと同じくして姿を消した、儚き〈ふるきもの〉。文明華やかなりし人類にとって幼き日に夢見た水の幻想。
その名をダゴン。深い深い海の底を揺蕩う暗がりの大いなる水の神性。
普段は黒い小さな子犬の姿でメアリの傍を付いて回る。主な役割は優れた嗅覚による魔力探知。クロという名前で呼ばれる、意外と臆病な性格。
その矮小な姿の通り現在はすっかり零落してしまっているが、真名解放と共に本来の姿を取り戻し大いなる幻惑の水を操る。

『漆黒のシャルノス(What a beautiful tomorrow)』
ランク:- 種別:- レンジ:∞ 最大捕捉:∞
心が望むままにかたちを変える、何もかもがあり、そして何もない世界。
死と断絶の明日を拒絶し永遠の今日をもたらす力そのもの。
誰しもの内に在り、そして誰をも映さぬ漆黒の境界。誰かがひとり諦めるたび、世界がひとつ終焉を迎える。

厳密には宝具ではない。宝具として形容することはできない。
スキル:無貌の月はこの存在に由来するものであるため、定義上宝具欄に記述されるに留まる。

【weapon】
黒の剣能:柄を持つ手を荊で苛む漆黒の剣。ただしフォーリナー自身に剣の才覚はない。

【人物背景】
1890年前後の英国に生を受けた女流作家。《史実の世界》におけるアガサ・クリスティであり、こちらでは女性の絵本作家として知られる。
彼女自身、作家としての知名度はさほどでもなく、何かしらの特殊な出自や由来、生得的な才能や隔絶した精神性等も持たないため、本来ならば英霊として登録されるはずのない人物なのだが、とある異質な神格の憑代として疑似的なサーヴァントとなり現界する。

西暦1904年の12月に黄金瞳を発現したことに端を発し、1905年のゾシーク計画、シャルノス計画にほぼ中核に近い場所で巻き込まれ、世界を剪定事象と確定させてしまうシャルノス降臨を未然に阻止するという、人理の防人としての偉業を成し遂げる。
その後は惑星カダス・水上都市セレニアンにおいて、ただ一柱生き残っていた水のふるきものであるダゴンに手を差し伸べ、黒犬となったダゴンと共に諮問探偵にして幻想殺したるシャーロック・ホームズの下で助手を務める毎日を送る。

前述の通り彼女自身は特殊な出自・来歴を持たない一般人に過ぎないため、サーヴァントとしての戦闘能力は〈黒の王〉と呼ばれる神格の力に依存している。
サーヴァントとしての彼女は黒の王に見初められた時期、すなわち1905年当時の少女の姿で現界しており、精神性もそれに準ずる。



【マスター】
シャーロック・ホームズ@憂国のモリアーティ

【マスターとしての願い】
ウィリアムを犯罪卿としてではなくただひとりの友として今度こそ掴まえる。

【weapon】

【能力・技能】
諮問探偵として破格の推理能力を持ち、人間観察や洞察力にも長ける。拳銃や拳闘の扱いにも優れ、変装・鍵開け・靴跡や指紋等の証拠隠滅改竄、果ては新薬調合などその能力は多岐に渡る。

【人物背景】
その名も高き諮問探偵。民衆にとっての英雄であり、「彼」にとってはただひとりのヒーロー。星を掴んだ男。
名探偵として犯罪卿を追い詰め、一人の人間として友の手を取った。名探偵と犯罪卿、今やその肩書きに意味などない。

【方針】
この下らない事件を解決に導く

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最終更新:2022年06月28日 21:17