「聖杯戦争――なるほど実に愉快な催しだ。神たるこの私を参加者として巻き込む不遜な事実さえなければ……ですがね」
ソードオブロゴスの長であった男、マスターロゴス。彼はこの戦いを面白がっている一方で、不快がってもいた。
自分が主催として巻き起こすのならともかく、いち参加者として呼び込むという事実に。
与えられた役割は無い。彼自身の我かあるいは能力が拒絶したから、とも言える。あるいはただの役割を持たぬ一般市民とも、浮浪者とも言えた。
このように尊大かつ優雅に日常を過ごす浮浪者がいるとすればだが。
彼の力をもってすれば、人を操ることも生活圏を構築することも容易い。少なくとも、マスターロゴスは好き勝手に居場所を変え気ままに動き回っていた。
なにやら怪しげなものがあれば、斬るのみだった。
「滾っておるのう、マスター」
ある時、そう言って唐突に。脈絡もなく出現したのは、彼にあてがわれたサーヴァントだ。
ビキニの水着のような、露出度の高い服を纏った女性。胸は大きく、長い髪に長い睫毛、牙のように尖った歯。長く伸びた手足は、意のままに刃として万物を切り刻む。
見目麗しき容姿をしているにも関わらず眼光鋭く舌なめずりする様は、煽情的と言うより「輩」じみたギラついた雰囲気があった。
冬場だと言うのにその姿で寒がっている様子は、ない。
マスターロゴスのサーヴァント、セイバー。
「ほう。貴方がこの聖杯戦争における私の配下……ということですか」
「うむ。ワシは刃竜のキリア」
真名を端的に言ったセイバーは、何を思ったか初見で主たるマスターへとその腕を振るった。
常人どころか凡庸なサーヴァントならばそれだけで首を跳ねられるだろうその美しき手刀の刃を、あろうことかこのマスターもまたどこからか出した黄金の大剣で平然と受け止める。
肉と大剣が出す音ではない。あるいはサーヴァントとただの物質が出す音でもない。同格の土俵にある、互いに互いを傷つけ、また耐え得る「剣と剣」がぶつかり合うような、キィンッと響く音がした。
うっとりと、その音と感触によってキリアは恍惚に浸る。マスターロゴスは、己の現状を確かめるように剣を構える。
「この場で使えるのは持っているカラドボルグだけですか……他の聖剣は無し、と。ふん――まあいいでしょう。充分だ。私の剣と切り結ぶとは雑魚ではないようですね」
マスターの見定めるような言葉に、サーヴァントはトリップした意識を戻すと、悪戯っぽく礼をした。
「お褒めに預かり光栄じゃの。だが――これならどうかの?」
軽く斬撃の蹴りを放ちカラドボルグから離れると、キリアは手刀をマスターロゴスへと向け叩き込む。
だが、その殺気が無い軽い一撃にマスターロゴスはむしろ拍子抜けする。なんのつもりかと思うが、何も起こっていない。
「どういうつもりですか、我がサーヴァントよ」
キリアはここにきて驚愕を隠せず、初めて狼狽の表情を見せた。
「ワシの強さ切りが通じぬ――!?」
元々本気で殺すと言うより悪ふざけと腕試しのつもりで斬りかかったのだが、一切の手応えが無い。相手の心の「強さ」を斬る強さ切り。それが全く効果を発揮していない。
だが、それは当然の帰結だった。
かつて、マスターロゴスたるイザクと戦った神山飛羽真いわく。
『お前の剣は軽い』『お前の剣からは何の想いも感じられない』
物質的なものではなく人間的強さを斬って弱くしてしまう――その本質がある種の「催眠術」である強さ切りは、マスターロゴスには全く意味が無い物だった。
マスターロゴスはエゴの塊だ。異常な剣技と恐ろしい戦闘力を持った怪物。
しかし、人間的強さとは無縁の存在でもある。
「強さを斬る――ね。人の強さなど私は否定する。そのようなもの神である私には無意味!! 想いなどに縛られはしないのですよ!」
マスターロゴスはそう、断言した。キリアはその傲慢な答えに一瞬ぽかん、として。
「はは……ははは! たまらんのう!! すさまじいのう!」
ぞくぞくと興奮するように我が身を抱き始めた。大いなる剣の刃とのふれあいに。強さ斬りが通用せぬその歪さに。それでいて、争いを好むその人間性にも。
元よりただちょっかいを出す程度の攻撃だったせいか、あっさりとキリアは矛を収めた。
「それで? お主はどうするつもりかの、マスター」
「マスターですか……いえ、イザクで結構。私もセイバーなどとクラスで呼ぶのはややこしいので真名で呼びますよキリア」
「構わん、確かに面倒じゃからの。イザク」
逆らう者に対して容赦のないマスターロゴス、イザクには珍しく刃を向けられてもなおキリアに対して終始寛容だった。
これは本気でやり合わずまだ互いに余裕のやり取りだったのもあるが――マスターロゴスからしてもまた、彼女の刃になんの信念も感じられなかったのもある。
何よりマスターロゴスはその事実に対し、新鮮な驚きに満ちていた。
自分の周囲の「強者」には全くいなかったタイプの存在。メギドの幹部も、剣士も。マスターロゴスの周囲に居たのは信念や過去をバックボーンとして宿した存在ばかり。
つまらぬ掟、信念、それらに未練がましく突き動かされた者ども。私に世界を守れとしつこく数百年も縛りつけてくるソードオブロゴスの連中。
だが、このサーヴァントにはそういったものが無い。
ただ暴力的に斬り合い暴れるだけのある種小物じみたところさえある存在。表裏無き矮小さと、残酷さ。底の浅さ。
それが、イザクにとっては非常に心地よかった。共感ができた。
「どいつもこいつも貴方のように物分かりがいい存在ばかりなら助かるのですがね……」
「そうかの? いやあ照れるの」
と言ってキリアは褒められて頬を染めていた。実に素直である。
争いを勝ち抜き、逆らうものを叩きのめし、いたぶり、強者と争う。だが、どのような目論見に従うこともなく破壊する。概ねイザクとキリアはこの見解でそろった。
キリアからしても特にマスターの大意には逆らわぬし、その範疇で好きに暴れさせてもらうと言ったことで決着はついた。
始まりが剣のぶつけ合いであったにもかかわらず、2人のやり取りは実にわだかまりの無いコミカルで朗らかなものに終わったと言っていいだろう。
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そして、キリアは霊体化しながら遠巻きにイザクを見、先ほどのやり取りを想い返し、何度も浸る。
「ああ、本当にたまらんのう。危うく濡れるところじゃった」
できれば一生共に刃を切り結んでいたいほどのうっとりとする剣捌き。永い間剣士として研がれた無秩序な暴力性と強さ切りすら無効にするデタラメさもむしろ好ましく。極上の獲物がマスターとして間近に居る。
そして主従の繋がりとしてチラリと見えたイザクの過去は、実にキリアからすると甘美なものだった。
剣士、剣士、剣士。見たこともない斬り合いたくなる刃の群れ。
そしてあの世界にも竜が居たのだ。とびきりのドラゴンが。
イザクを勝者にしてあの世界の全ての聖剣を与えれば、全知全能の書にてイザクは更なる存在へと進化するだろう。
その中にはあの記憶で見たブレイブドラゴンやプリミティブドラゴンとやらの力も含まれるに違いない。つまりはドラゴンイーターである自分の獲物として成立する存在にもなるだろう。
更なる超存在に進化し、竜の力を帯びたイザクと斬り合い、喰らう。そうすれば自分は限界を超えた高みへと到達できる。地上最強の滅竜魔導士に到達するのも夢ではない。
(問題は現状のイザクにも本気を出されたら勝てぬであろう上、全知全能の書などと言うどう見てもヤバい魔導アイテムを完全に掌握されたらなおさら勝ち目が消えることだが)
まあそれで敵わぬのならそれもよい。元々彼は主従としてはとっつきやすい人間性をしている。非常に気が合うのだ。従僕として動くのもやぶさかではなく、快感でもあった。
絶対的強者の庇護の下で暴虐を尽くすのもそれはそれで望むところである。
この身はサーヴァントである以上、恐らく元の世界に戻っても生者としての本当の自分が居る。ならば、マスター側の世界の方に付き合って攻め入るのも悪くはない。
「元々小難しい策略なんぞワシには向いておらん。イザクにはワシの素敵な主として、精々強く暴れてもらうだけのことよ……」
特にどう転んでもキリアからすると損はないのであった。
彼女が振るう刃には、マスターと同じく事情も重みも無いのだから。
【クラス】
セイバー
【真名】
キリア@FAIRY TAIL 100 YEARS QUEST
【パラメータ】
筋力B 耐久A++ 敏捷B 魔力A 幸運B 宝具A
【クラス別スキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術をキャンセル。セイバーの場合は純粋なものでなく「魔力を喰らう存在」としての要素が混ざっているためそれを加味してAとなる。
【保有スキル】
滅竜:A+
竜の要素を持った存在に対して捕食能力と優位性を持つ滅竜魔導士の特性の一種。セイバーは竜を喰らっている特殊性のためA+となる。
また、セイバーは刃竜の属性のため「刃」に対しても同様。
強さ切り:C
手刀で相手を切りつけ、人間性を斬って弱くしてしまう。
ある種の視覚的錯覚を使った暗示の魔術の一種であり、種がバレると効果が落ちる、相手の精神性次第で無効化されるなどの複数制約を持つ。
【宝具】
『刃竜のキリア(ドラゴンスレイヤー・オブ・セイバー)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
自分自身の肉体を媒介とした常時発動している宝具。四肢や存在を刃のように扱い、斬撃を飛ばしあらゆる対象物を切断可能とする。
『滅竜奥義・刃竜剣舞』
ランク:B 種別:対竜宝具 レンジ:10 最大補足:50
腕から発せられる刃で周囲を切り刻む。竜の要素を持つ相手にさらなるダメージを追加。
【人物背景】
ドラゴンを狩る滅竜魔導士のみが所属する魔導士ギルドのメンバーにして、竜を喰らい力を得たドラゴンイーターの一人。
相手を切り刻み支配することを望むサディストだが、上の存在や仲間まで襲わぬ程度の分別や作戦に従う協調性は存在する。
強者を精神的に斬っては調教し、飽きたら切り捨てるなど酷薄なところもあれば、強さ切りが通じぬ相手に惚れ込んだりして獲物として狙うなど好き勝手な存在。
【サーヴァントとしての願い】
竜がいれば喰らい、刃があれば切り結ぶ。弱者が居れば蹂躙し、強者がいれば叩き斬る。
【マスター】
マスターロゴス(イザク)
【マスターとしての願い】
退屈な世界の破壊。逆らう者を叩きのめす。
【能力・技能】
常人では持つこともかなわない重量の聖剣を片手で振り回し、圧倒的な剣技を誇る。
また必要とあらば防衛組織などの運営能力や外面のいい言動を取り繕うことにも長じている。
地球の裏側の結界を破壊する弓矢を創り出して射るなど術も得意。
全知全能の書と呼ばれるある種のアカシックレコードの一部の力を宿しているため常人より遥かに長命。
【Weapon】
カラドボルグ
全知全能の書を用いてイザクが創り出した大いなる剣。世界を崩壊に導く力を秘めている。
仮面ライダーソロモンとして変身後も扱い、連動して動く巨大剣を顕現させたり、多種多様な斬撃や能力を発動させることが可能。
巨大剣は複数呼び出し巨人型の『キングオブソロモン』として遠隔使役もできる。
オムニフォースワンダーライドブック
聖剣と本の力を纏めて作りだされた「全知全能の書」の一部から作られた本型アイテム。
イザクの持つこれは不完全であるが、それでも仮面ライダーソロモンへの変身やカラドボルグの生成などを可能とする。
【人物背景】
本の魔人メギドから世界を裏で守護する剣士の団体、ソードオブロゴスの長。騎士団の長、マスターロゴスとしてそれまで何も問題なくソードオブロゴスを運営してきたが、しかし長命だからこそ使命に飽き、フラストレーションを溜め狂っていった。
やがて全知全能の書を使い世界を刺激のある騒乱へ巻き込もうと画策。最高幹部の四賢神を殺害し反乱を起こす。
しかしソードオブロゴスの構成員、仮面ライダーセイバーに敗北。戦闘不能に近くなっていたところをそのまま利用し合っていたメギドの一人、ストリウスに始末された。
【方針】
戦いを煽り、介入し、不埒な神に逆らう輩を殲滅する。
最終更新:2022年06月30日 23:08