ワインレッドのスーツに、稲妻状の飾りが前髪についた、赤い髪。
女――哀川潤が、走る。否、走らせる。
走らせる。
走らせる。
走らせる。
赤い車を走らせていた。ハイウェイを――疾走していた。
やがて、哀川潤は車を止まらせ降りる。そこはどうってことのないありふれた住宅街だった。
そこに至るまで、高速道路を飛んでから車を変形やらなんやらさせたかなり無茶な運転で強引に最短距離を駆け抜けてきたのだが。
「重加速発生の目撃情報はここ――だっけか?」
蜘蛛のような頭部を持った人型の存在、胸元には012のナンバー。
機械生命体、ロイミュードだ。
怪物の存在を見ても、哀川潤は驚くでもなく。むしろ、目当ての存在が居たとばかりに近づき。
「うらぁっ!」
無造作に潤は殴りつける。が、ロイミュード012が手をかざした瞬間。周囲のすべてはスローになった。
しかし――それもわずかな時間だけ。
哀川潤の拳は、止まらずロイミュード012の頭部を殴り抜けた。
「!!??」
ダメージそのものより殴られた事実自体を意外に思ったのか、頭を抱えるロイミュードに、哀川潤はニンマリと笑う。
ロイミュード012は混乱する。
なぜ、スローにならないのか。いや、ならないにしてもなぜ人間の攻撃が効くのか。
自分は「サーヴァント」なのに。
理由はシンプルだった。哀川潤の腰についている、ミニカー。
サーヴァントが使う道具は神秘を帯びる。大原則である。
それは逆にサーヴァントを装備すれば哀川潤もまた、神秘を帯びるということに他ならない。
普通ならばそれはただの言葉遊びだろう。
だが、ここには「人に装備される小型サーヴァント」とでも言うべき存在が腰についていた。
シフトカーと呼ばれる、アイテムだ。哀川潤のサーヴァントの一部であり、仲間でもある。宝具でもあり、ひとつひとつがある種のサーヴァントでもある。
それを身に着けたものはロイミュードの周囲を停滞させる「重加速」をも無効にする。
ならば、ただのサーヴァントにこの哀川潤の拳が通用しないわけもなし。
そう――最後になぜ哀川潤がサーヴァントにダメージを与えられるか。そんなものは簡単である。
彼女が出した拳は、人類最強のそれだからだ。
「ったく。ぷに子よりかってぇとかずりいだろ」
そういいながら、哀川潤は特に応えた様子もない。
鋼鉄よりも硬いものを殴ったのに、だ。それは彼女が――学習し、適応し、進化を続けている証拠だった。
●
結局、あの後あたしはロイミュード殴り飛ばしてボディを壊すと、トライドロンに乗ってコアを轢殺した。そのまま、また高速道路を走らせている。
今度はロイミュードを破壊しに駆けつけるためではなく、単に走らせたいからトライドロンを駆っていた。
ドライブの連れも居ないわけではなく、助手席ではなくハンドルのすぐそばにあたしの相棒は居た。
同心円の重なった、シンボリックにデフォルメされた表情が点灯する。遠くから通信しているのではなく、この風変りな飾りのような機械そのものがあたしのサーヴァント本体だった。
「しかし、えらく手際がよかったな……」
あたしのサーヴァント、ライダー。この車に備え付けられたベルトに魂を移植したとかいうクリム・スタインベルトがちょっと引き気味に聞いてくる。
「轢くのも轢かれるのも慣れっこだからな」
「……深くは聞かないでおこう」
話していると変なところが律儀なやつだが、そりゃたぶんこの男が異常に用心深いのもあるんだろう。
サーヴァントとしての特性からか、あたしの出自もあってか精神やら記憶がある程度はつながってるってのに、いやつながってるからこそこいつは用心が過ぎる。
機械生命体、ロイミュード。こいつの脅威として自立的に発動してしまっている宝具を、あたしたちは狩っている。どうにも勝手に暴走したという逸話からロイミュードたちはクリムが自害しようが勝手に動き続けるらしい。
組んだ以上、自害させる気もねえけどな。
とにもかくにもこの陣営のスタンスは、暴走した自分の宝具を自分たちで撲滅するという変な形だ。ま、あたしとしちゃあ対サーヴァントの経験値がガンガン積まれてる感じがして悪くはねえが。
「変則的な召喚であるためライダーではあるが、君では戦士ドライブになることはできない。なによりドライブとなるには「彼」でなくては……すまないな、マスター」
「潤でいいよ。こっちも名前で呼ぶしな、クリム。ただしあたしを名字で呼ぶなよ。あたしを名字で呼ぶのは敵だけだ」
「オーケー、潤。だが君に提示できる戦力はドライブシステムの全力とはいいがたい」
「いいや。変身よりあたしはこのトライドロンがちょうどいいさ。良いマシンだ。デザインも気に入った。変形できるのもシフトカーもおもしれぇ」
「面白い……ね。そう言ってくれるのはありがたいが、やはりロイミュードの技術を含め、必要とあらば封じることも視野に入れねばならないだろうな」
「は。理性的だな。自分が造ったものより世界を選ぶ……冷徹と言ってもいい」
だが、実際は表でこいつの技術は暴れている。なら、むしろ封じるより矢面に立って戦い続ける方があたしとしちゃあ正解って気もするんだがな。
ただ、一度は自身のあらゆる技術と自分自身を凍結し封印し地下へ降りたのは、クリム・スタインベルトなりの筋の通し方なのも事実だろう。
「冷徹、冷酷な判断とは認めよう。だが、私は常に人類を選ぶ。秘密主義の猜疑心が強い存在だ」
こいつは理性的だ。あたしがあった科学者の中でもトップクラスに理性的かもしれない。強いて近い存在をあげるといえばヒューレット准教授だろうか。
情が無いわけではないのだが、人類のために平然と見捨てる。心を持ったロボットを。心を持っていると明確にわかりきったロボットを。
自分すら、切り捨てる存在の中に平然と含めている。
寂しい癖に。人でなくなったから、人を守るために、人のために、人を捨てる。
そいつはちょっと、寂しすぎるぜ、クリム。
「まあいいさ。ロイミュード全個体の撲滅。聖杯戦争の打倒。この哀川潤が請け負うぜ」
そう言ってタンカを切る。しかし……だ。請け負ったばかりだが。引き受けたばかりだが、引っかかるところが実はひとつあった。
このチームにはある重要な問題が立ちはだかっていた。
「だが、あたしにゃあひとつだけ納得できねえとこがある。こればっかりは納得できねえ」
神妙になったあたしの声色に、クリムが思わず沈黙で返す。
「ライドブースターってあるだろ、トライドロンの横にくっついてVTOL機みてえに飛べるようになる小さい車」
「……ああ」
「かたっぽ赤くねえじゃん! なんであっちのマシンだけ青なんだよ、赤く塗れよ!」
「えー。気にするとこ、そこかね?」
緊張の糸が切れたように投げやりな言葉を投げかけてくるが、あたしにとっちゃ重要だ。あれじゃあ赤の基調が台無しと言わざるを得ない。
「重要だろ!? せっかく全体的に赤くキマった車なのに台無しだっつーの。変形して黒になったりするのはまだいいけどよー。あれはねえよあれは……」
つうかクリム自身だって赤ベースの色合いじゃん。合わせた方が良いに決まってんだろうになんであそこで青入れたんだか。
「とにかくだ、あんたの仕事はあたしが請け負ったわけで。お代はそうだな……このクルマくれ」
「なに?」
突拍子もない提案にクリムが思わず聞き返してくる。
「カッコいいじゃん赤い車。ちょうど赤いヘリも欲しかったんだよな。あっちのライドブースターブルーってのも赤く塗らせてもらうからさ。一石二鳥の新車だ。いやいやいや、ぜってーおかしいって、全部かっちょいい赤なのにあれだけ青って」
あたしはぐっとくる赤いヘリが中々見つからず困っていたのだ。その点、ブースタートライドロンならふさわしい。
「あの……ジュン? トライドロンは一応は私の技術の結晶でもあるからあまり野放しにしたくはないんだが……危ないというか」
「あぁ? 別にいいじゃん。よこせよ。人類最強の請負人が使ってる車ならこんなすげぇのもあり得るか、で終わるって」
「そんな適当な……」
「そんなに不安だったらアンタも見張りについてくりゃいい。良いナビになる」
「人をオマケのカーナビ扱いかね!?」
「いやーあたしって相棒になったやつ必ず死ぬってジンクスあるけどもう死んでるから大丈夫だよなー。死んで魂データ化しててついでにサーヴァントだもんなあ」
「いやいやいや初耳なんだがねぇ、その不吉なジンクス!!」
【クラス】
ライダー
【真名】
クリム・スタインベルト@仮面ライダードライブ
【パラメータ】
筋力E 耐久A+ 敏捷E 魔力E 幸運C 宝具A++
【クラス別スキル】
騎乗:C
ライダーの場合は自身の肉体の延長線上である宝具を操作するかなり限定的なもの。
【保有スキル】
魂のデータ化:A
人間の精神をデータと変換して無機物やネットワークに出し入れが可能となるライダーが確立した技術。
ライダーの霊核は魂の物質化の反対とも言える彼の技術によりデータ化している。
また、たとえ爆散しても空間に波長を残しているため、バックアップなどデータを復元する手段さえあればオリジナルを修復する形で復活が可能。
【宝具】
『三相の赤き疾走(トライドロン)』
ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:1-100 最大補足:108
使い手の精神に呼応し、能力を発揮する。
また荒れ地を走るタイプワイルド、アームで破壊するタイプテクニックへの三段変形能力を持ち、
2機の飛行能力を持った「ライドブースター」と合体することやシフトカーのひとつ「シフトフルーツ」の装填によりそれぞれ飛行能力を持った形態へと変化する。
なお、ライダー自身の力と合わせて変身する機能もあるのだがそれを使用可能な存在はただひとりのため、実質今回の聖杯戦争では使用不可能となっている。
『人を救うための小さき僕(シフトカー)』
ランク:B+++
21存在する意思を持ったミニカー型サーヴァントの一種。それぞれが固有の能力を持ち、トライドロンに装填されることで能力を発揮もする。
また、シフトカーとシフトカーが触れた存在はグローバル・フリーズの重加速を無効化する。
『撲滅すべき108の罪(グローバル・フリーズ)』
ランク:? 種別:対星宝具 レンジ:不明 最大補足:全人類
ライダーが過ちとして否定すべき創造物、その被害が具現化した宝具。
時間経過とともに「重加速」という鈍化現象を周辺にもたらす存在「ロイミュード」がランダムに具現化されていき、無差別での破壊活動を行っていく。
呼ばれたロイミュードはサーヴァントの一種であり意志もなく進化もしない生前の破壊を再現するだけの駒だが、逆にそれだけで完結した事象でありライダーの魔力をまったく消費せず止められない。
またライダーの召喚と共にこの宝具は自動発動し、またライダーが消えても解除もされない完全な自立暴走宝具。
召喚が進むごとに重加速現象や破壊活動は重なり最終的には地球上の数分の1を鈍化させる効果となる。今現在は東京しか存在しないため、実質範囲は手早く世界すべてと等しくなる。
これを止める方法はロイミュード108体を胸元にあるコアごと完全破壊することのみ。
また「この世界で動けるものはライダーの技術を用いた存在のみである」という逸話からライダーとライダー自身の宝具を用いない限り重加速現象の鈍化に逆らうことはできない。
【人物背景】
機械生命体「ロイミュード」の開発者。しかし暴走したロイミュードに殺された彼は、自身の魂を機械にダウンロードする技術によってベルトに精神を移し替える。
そのまま暴走を始めたロイミュードたちを倒すために仮面ライダーのシステムを作成。
紆余曲折あってロイミュードの完全打倒を目指す。
変身者を見つけ協力により、諸悪の根源たるロイミュードに悪意を植え付けた存在を打倒。
ロイミュード108体の完全撲滅を確認し、自身の技術は今の人間の手に余るとして仮面ライダーのシステム及び自分自身を地下に封印、凍結し眠ることを選んだ。
【サーヴァントとしての願い】
ロイミュードの打倒。聖杯が危険物である場合の打倒。
【マスター】
哀川潤@最強シリーズ
【マスターとしての願い】
賞品にトライドロンが欲しい。
【能力・技能】
得意なことは錠開け、声帯模写、読心術。
優れた身体能力。心臓が止まっても蘇生する生命力。またどれほど傷ついても戦闘続行可能なしぶとさと勝利をもぎとる精神力を持つ。
【人物背景】
因果崩壊のための存在として父親たちに意図的にデザインされて造られた人類最強の存在。父からは未完成とされたが反旗を翻し、戦争を引き起こし暴れた後に請負人となる。
その後、ありとあらゆる伝説を作り上げつつも、世界の終焉を目指す父を打倒。
請負人として生き続けるも能力が高すぎる、破壊や騒動を巻き起こすといった弊害からか「哀川潤に依頼をしない」協定が各組織で締結されてしまった。
【方針】
請負人の仕事をまっとうする。
最終更新:2022年06月30日 23:11