そのアパートの一室は、異様ともいえる生気のなさに支配されていた。

 現在は真冬だというのに暖房は機能しておらず、食料が保存されている筈の冷蔵庫は、電源も入らないまま伽藍洞となっていた。
 食器棚に置かれているのはビールを飲むためのコップと、摘みを乗せる為の小皿がそれぞれ一個ずつ。部屋の隅に置かれたゴミ箱は、まだまだ満杯には程遠い。
 未だ紫煙を燻らせている、一本の煙草が置かれた灰皿だけが、辛うじてその部屋に生活臭を齎していた。

 実に二人もの男が、其処で一週間近くも共に暮らしているなど、余程の推理力がなければ気づくことは叶わぬだろう。

 黒髪を真っ直ぐに切り揃えた男のは、薄茶色の髪をしたもう一人の男に語りかける。
「では、お前はそれで本当にいいのだな、マスター?」
「ああ、俺はこの聖杯戦争に、何の願いも託さない」
 一呼吸の間を置いて、薄茶色の髪の男は二の句を語り出す。
「俺は元居た世界で、仇討ちって自分の都合の為に仕事を放り棄てて、むざむざ罠に嵌って死んだ。俺の周囲に居た皆に、取り返しのつかない迷惑をかけたよ」
 だから、と彼は続けて語る。
「俺はもう二度と、私情の為にこの命は使えない。刑事の端くれとして、この聖杯戦争に巻き込まれた人たちを守る」
 語る内容の過酷さにそぐわぬ、淡々とした口調と声色。しかしそれを聞く黒髪の男は、言葉の込められた覚悟と勇気を、確かに感じ取っていた。

 男の一人は笹塚衛士。聖杯戦争に招かれたマスターにして、日本警察の刑事。
 男の一人はブローノ・ブチャラティ。アサシンのクラスで召喚された笹塚のサーヴァントであり、イタリアギャングの幹部。
 警察とギャング。水と油に思えるこの主従は、しかし人を惹きつけ、人の輪に囲まれた生を送ったという一点で、極めて近しい組み合わせといえた。

227: 刑事とギャングの共通点 ◆Ydvc2XJMDI :2022/07/03(日) 13:59:36 ID:DyuQeS6o0
「マスター……どうか、自分ばかりを責めないでほしい」
 お前ばかりを懺悔させるのは悪いと、ブチャラティも口を開く。
「オレの二人の仲間は、無謀な道を歩んだオレに付き合って、オレが倒そうとした男に殺された」
「……そうか」
「すべきことをしたとは思っている。だがそれでも……オレがその男に抗わねば、二人が生きていられたことも事実だと、そう思う」

 ブチャラティの生前、その最後の数日間。血塗られたギャングの世界で、太陽の如き少年に出逢い、苦難に満ちた、しかし信じられる道を走り切った烈しき戦いの記憶。
 笹塚が観た欠けた夢の終わりに、彼は残された者たちに希望を託し、一滴の後悔も遺さずに天へと昇って行った。

 ああ、そうか、と笹塚は想う。
 復讐に身を委ねた最後の日々で、自分は周囲の人々を信じることを忘れていた。
 潔癖で誇り高い同期の上司と、控えめでフォロー上手な後輩。色々と軽すぎるふざけた男と、実直だが堅物な女の、真逆の意味で危なっかしい部下たち。
 自分とは真逆の個性を持つが、だからこそ頼れる味方だったチンピラの男。――誰よりも無力な筈なのに、事件の只中で希望を捨てずに前を向いていた、大食いの女子高生探偵。

 彼ら、彼女らは皆、笹塚を信じ、助けになろうとしていた。己をあれ程に報われぬ死へと追いやったのは、彼らの手を振りほどいた己自身であったのだと、笹塚は内省する。

 だから。

「少しだけ、叶えたい願いが出来たよ」

 最期まで仲間たちとの絆を守り、共に在ろうとすることを諦めなかったこのサーヴァントとならば。

「俺の周りの人たちに、一人で突っ走って済まないって謝りたい」

 信じてくれた人々に恥じぬよう、もう一度最後まで戦えるだろうと、笹塚はそう信じられた。

「ならばその願い、決して投げ出すな。それこそがきっと、俺たちが死ぬためではなく、前を向いて戦うための力になる」

 二人が見上げた窓の外には、雲を裂いた陽の光が燦燦と差し込んでいた。

【クラス】
アサシン

【真名】
ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険 Parte5 黄金の風

【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷D 魔力C 幸運D 宝具C

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
気配遮断:D+
サーヴァントとしての気配を絶つ。隠密行動に適している。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。
宝具『引手が信ずるは務歯の道』との併用によって効果の増幅が可能。

【固有スキル】
貧者の見識:A
相手の性格・属性を見抜く眼力。
言葉による弁明、欺瞞に騙されない。
無知なる者の救いを呼ぶ声を悟り、吐き気を催す邪悪を打ち倒す為の智慧。
……余談だが、ブチャラティには汗のテカリ具合で相手の嘘を感知し、汗の味を確認することで真偽を確実に見抜くという特技があるらしい。

スタンド使い:B+
生命エネルギーの具現化である、スタンドを保有する事を示すスキル。
スタンドの制御には強い精神力や闘争心を必要とする故に、このスキルは逆境における精神耐性としても効果を発揮する。
ブチャラティの場合は上記に加え、自分のチームを率いてスタンド使い同士の激戦を戦い抜いた逸話から、
このスキルにCランク以上の「カリスマ」「心眼(真)」「戦闘続行」を内包している。

【宝具】
『引手が信ずるは務歯の道(スティッキィ・フィンガーズ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:30人
殴った物体にジッパーを取り付ける能力を有するスタンド。
取り付けたジッパーは自動的に開閉し、強度を無視してあらゆる物体を切り開き、寸断する。
能力で作った切断面は、ジッパーを閉じて元に戻すことも、完全に切断して敵を死に至らしめる事も本体の意思次第で自在。
この性質を利用し、自分の腕をジッパーで切り開いてパンチの射程を伸ばす事も可能。
他にもジッパーを閉じて別々の物体を結合する、ジッパーの中に空間を作り、潜入や収納に利用する、ジッパーの引手を掴み、開閉の勢いで移動するなど、総じて応用力が極めて高い。

本体であるブチャラティの周囲から約2メートル程度しか離れられず、スタンドのダメージは本体に、本体のダメージはスタンドにフィードバックする。
スタンドは通常、スタンド使い以外からは認識されず、スタンドでしか干渉されないという性質を持つが、
現在はサーヴァント化の影響によって、マスター及びサーヴァントであれば視認可能となり、魔力を帯びた攻撃であればダメージも通じる状態になっている。

スタンドのステータスはサーヴァントの基準に換算して、筋力B 耐久C 敏捷Aに相当。

【人物背景】
人の輪に囲まれて生きたギャング。

【サーヴァントとしての願い】
マスターの想いに従う。


【マスター】
笹塚衛士@魔人探偵脳噛ネウロ

【マスターとしての願い】
身の周りの人々全員に謝罪したい。

【weapon】
拳銃、及びトラップ用具一式。

【能力・技能】
世界各地を旅して培った、通常の警察官の範疇を遥かに超える射撃・格闘・トラップ技術。

そして、並外れた生気の薄さ。

【人物背景】
人の輪に囲まれて生きた刑事。

【方針】
自分を信じてくれた人々に恥じぬよう、この聖杯戦争を収拾する。

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最終更新:2022年07月04日 23:50