◆◇◆◇



西洋の宗教とかだと、ドラゴンは。
古くから“邪悪なもの”の象徴だったらしい。
時には、悪魔とも同一視されるとか。
まあ、だから何だという話だけれども。






何気無く日々を過ごしていると。
ふいに、気付かされることがある。
頭にツノが生えてると。
寝るとき、たまに不便なのだ。

寝てる間にベッドの上部をツノで傷つけてたり。
寝返りを打ったときに、たまに枕のシーツをちょこっと裂いてたり。
そもそも顔を横向きにするとツノが邪魔になったり。

青木ルリ、ただの女子高生。
ある日を境に、ツノが生えて。
半分龍の血が流れてるという自分の出自を明かされて。
そうなってからの日々は、何だか不思議なものがあったけど。
普通に生活しているだけでも微妙に不便になる瞬間は、ふいに訪れる。

休日の朝、多分7時過ぎくらい。
目が覚めて、ぼんやりと寝ぼけた眼で。
シーツやベッド上部の無事を、とりあえず確認する。
手で適当にまさぐったりして、諸々の部分を傷付けていないことを確かめて。

その直後に、私の足元にしがみつく「重さ」に気付く。
まるで金縛りのようにずっしりと伸し掛かる感覚に、私は目を細める。
別に驚きもしなければ、ビビリもしなかった。最近はよくあることだったから。
そして私は、そのままガバっと掛け布団を剥がした。


「ちょっと」


先程まで掛け布団で覆われていた場所で。
ツノ頭の女の子が、いびきをかいて寝ていた。
そう、ツノである。
私と同じように、頭から直に生えている。


「パワー、ちょっと」


その娘は、私の右脚に引っ付いたまま寝ていた。
視線を落とした私は、太股の下らへんに付いていた噛み痕に気付く。
牙で喰らいついたような形跡に、私は目を細める。

―――また血ぃ吸ったな、こいつ。

彼女は私が寝てる時、たびたび勝手にベッドに入ってくる。
そんで夜な夜な私に噛み付いて、血を吸ってくる。
手軽に血液の補給がしたいらしい――それで満足したら、この娘は大抵そのまま同じベッドで寝落ちする。
パーソナルスペースもへったくれもない。

まあ、噛み痕自体は私にとって些細な傷だ。たぶん。
これくらいなら龍の代謝能力ですぐに治る、んだけど。


「寝てるとき吸わないでってば」


それとこれとは別である。
蚊じゃないんだから。
この娘は私がしぶといのを良いことに、遠慮なく血を吸ってくる。
いつか貧血になりそうで困る。
なってないけど。


「ん~~~~~……」


ゆさゆさと身体を揺らしたら、ようやくパワーが目を覚ました。
猫みたいに大あくびをしながら、目をゴシゴシと擦っている。

というか、パワーちゃん。
サーヴァントは睡眠いらないって言ってたじゃん。
なんでほぼ毎日普通に寝てるんだ。


「聞いとらん~~~……」
「寝る前言ったじゃん……」


パワーはよく人の話を聞かない。
都合の悪いことを頻繁に忘れる。
彼女はバーサーカーのサーヴァント。
理性と引き換えに強さを得る英霊らしいけど。
この娘は正気が奪われてるとかじゃなくて、単に自己中なだけである。
ステータスいわく、狂化スキルのランクが低すぎて理性を奪われてないとか何とか。


「ウヌはワシ専用の血液タンクじゃあ……」
「いや違うし……」
「ワシはバーサーカーじゃァ……狂気ゆえウヌの話など聞かん……」
「じゃ令呪使っていい……?」
「やめろォオオ」


とりあえず、私の脚にしがみついたままジタバタしないでほしい。




聖杯戦争というものは、正直まだよくわかっていない。
サーヴァントとか、マスターとか。
一組になるまで戦えとか、願いが叶うとか。
急にそんなこと言われても、といった気持ちで。
眼の前にその現実が横たわっているのに、私の心はまるで追いついてなかった。

バーサーカーことパワーと出会ったのは、一週間と数日ほど前だった。
どんな出会いだったのか、と言うと。
私が学校から帰宅したら、あいつは普通にリビングでテレビ観ながら寛いでた。うちにあったポテチも勝手に食ってた。
そのときは不法侵入の不審者出現に動転して思わず通報しそうになったけど、あいつが「ワシがウヌのサーヴァントじゃあ!」とか言って事情を説明してくれたので事なきを得た。
パワーと出会ってから聖杯戦争の知識とやらも頭に流れ込んできたから、信じざるを得なかった。

というか、こないだ自分の生まれに関する衝撃の事実を明かされたばかりなのに。
今度は聖杯戦争だとか何とかで、私を取り巻く世界が忙しなさすぎる。

この世界に、お母さんはいなかった。
いないというか、“都外の実家にいる”ようで。
どういうわけか、ここでの私は下宿生活をしているらしい。
つまりは一人暮らしである。このでっかい都内で。
諸々の家事とかを自分でやっていたのだ。
どうやら自炊までこなしていたらしい。
我ながら信じがたい。
この世界の私、立派すぎる。


「ルリィ~~~~」


寝起きの気だるさを引きずりながら、リビングへと赴き。
適当に目覚めの一杯でも飲むか、なんて思って冷蔵庫を開けた矢先。
真後ろからパジャマの裾を引っ張りながら、パワーが呼びかけてくる。


「早くメシ作れ~~~~」


腹が減った、早くしろ、などと言っている。
毎日ご飯作ってくれるお母さんの偉大さを、よりによってこんな形で知ることになってしまった。


「何故ワシのメシがまだ無いんじゃあァア~~~~」
「いま起きたばっかだからだよ」


せっかくの休日だというのに、いきなりメシを所望されている。
一週間ちょい一緒に過ごして気付いたけど、パワーに“家事を手伝う”という観念はない。


「腹が減ったァアア~~~~」
「ちょっと待ってろー」
「メシぃぃ~~~~」
「はいはい分かったってば」


サーヴァントは食事も睡眠も要らないらしいのに、この娘は喰うし寝るしおまけに遊ぶ。
そのくせ家事は気まぐれにしか手伝ってくれない。というか基本的に手伝わない。
霊体化ってのを使えば姿を消せるらしいけど、パワーは嫌がるのでいつも堂々と寛いでる。


「早く作らんとウヌのツノぶっこ抜くぞォ~~~~」
「やめろや」


結果、実質的に扶養家族(?)が増えた形になっている。
マスターとサーヴァントって主従関係じゃないのか。というか私のが立場的に上じゃないのか。
妙な理不尽を感じてしまう。
こんな状況に慣れ始めている自分も、なんだか変な感じだ。


「トーストでいい?」
「モチじゃ~~!」
「うーい」
「でもサラダは嫌じゃ!」
「野菜は摂れよ……」
「嫌じゃあ……」


でも、まあ。
案外、悪くはない。
何だかんだで不思議なものだ。





さっくりとトーストとサラダを用意。
マスターとサーヴァント、朝の食卓。
テーブルで向かい合って、一緒にごはん。
窓から仄かに朝の光が溢れて、リビングを照らす。
適当に付けたテレビからは芸能ニュースとかも流れてるけど、あまり興味はない。

トーストを齧りながら、私は目の前の相手を見つめる。
パワーは私よりも遥かに豪快にトーストへと喰らいついている。
折角用意したサラダは、しれっと私の方へと皿を寄せている。
いらないからやる、と言わんばかりに。
いけしゃあしゃあとしてるやつだ。
そう思いながら、バリバリとトーストを口に運ぶパワーを見つめていた。

視線の先。
パワーの頭のてっぺんにある、一対のツノ。
天へとピンと伸びる、
真っ赤に尖ったそれをぼんやりと見つめてから、私は自分の頭へと何気なく左手を伸ばし。
頭の根本から生えている、骨のような突起に触れた。
突起―――そう、自前のツノである。
私の頭にも、一対のツノがくっついている。
私とパワーで、ツノとツノ。

ある日の朝、急にツノが生えてきて。
お母さんから「あんたは龍と人のハーフ」なんて告げられて。
それだけでもひっくり返ったけど。
まさかツノで“おそろい”になる日が来るとは、夢にも思わなかった。
そんなパワーを見つめながら、ふいに考える。


「そういえばさ」
「うん」
「パワー、聖杯欲しいんだよね」
「そう……ワシのもんじゃ……」


もう勝った気になってないか?
謎に誇らしげな笑みを浮かべるパワーへのツッコミを抑える。


「戦わなくていいの?」
「いずれは戦う時が来るんじゃあ~~~でも今はその時じゃないんじゃあァァァ」
「先延ばしにしてる夏休みの課題みたいだ……」


聖杯戦争は、奇跡の願望器とやらを巡って戦う。
他の主従をみんなやっつけたら、何でも願いを叶えられる。
そういうことらしい。

私には、特に願いはなかった。
強いて言うなら「うちに帰りたい」とかそれくらいだし、「お金持ちになりたい」とかそういう俗なものも気が引ける。
しょうもない願望もあれこれ浮かぶけど、別にみんなを蹴散らしてまで叶えたいことじゃない。
だから私はこの世界に来て、未だに聖杯戦争に対して積極的ではない。


「……それでさ」
「なんじゃ」
「パワーは、なに叶えたいの?」


じゃあ、パワーはどうなんだろ。
ふと思ったことだった。

パワーと出会ってから、未だになんとなく聞きそびれていたことだった。
何というか、あまりに生活に馴染んでいたから。
戦うとか願いとか、そういうのを聞く空気でもなかった。
パワーにどれだけやる気があるのか否かも、正直わからないけれど。
それでもいつかは向き合うことだからと、腹を括って問いかけた。

肝心のパワーは。
なんだか、神妙な顔をしてて。
ほんの少しだけ、沈黙して。


「ワシ、友達おる」


そして、ぽつりと呟き始めた。
パワーの友達。初めて知ることだった。


「あいつ、ワシにまた会いに来てくれるって約束した」


思い出を振り返るように。
ぽつぽつと、自分のことを語る。


「だからワシも、会いに行くんじゃあ……」


どこか感慨を抱くように、宙を仰いでいた。
そんなパワーの姿に、なんとなく驚いてしまって。


「……そっか」


そして私は、ただ一言。
そんな反応を呟いた。


「ところでウヌはぼっちか?」
「ちゃいます」


パワーって、あんな顔するんだ。
ふいにそう思ってしまった。
すごく、寂しそうで。切なそうで。
ただのぼんくらだと思ってたこの娘が、何となくかわいそうに見えた。







『だって、デンジは』


デンジは……』


『初めて、できた……』


『友……達―――――』







「ルリ!!マリカー対戦じゃあ!!」
「メシ食って即ゲームかい」
「もしやウヌは戦いから逃げる気か?腐りきった臆病者が……!」
「そこまで言うか……」


そんなこんな言いつつ。
パワーはいつもこの調子である。
メシ食って遊んでは寝てばかり。
大丈夫なのかこれ―――そう思いつつもあるけど。
嫌かどうかで言ったら、別に悪くもない一時だった。

ツノが生えてても。
案外みんなは、受け入れてくれた。
人見知りだった私だけど。
ツノをきっかけに、何だかんだで繋がりが生まれた。

世の中、色々な人がいる。
火を吐いたり、ツノが生えたり、そんな人もいるけれど。
普通と違った特性を持つ人なんて、よくあること。
だから、仲良くやっていきましょう。
そんなふうにクラスの先生が言ってたのを、ふと思い出す。

そして、いま。
むちゃくちゃで、ぼんくらだけど。
自分勝手で、ワガママだけど。
それでも、何だか妙に憎めない。
そんな“同じツノの友達”ができた。
―――いやまぁ、やっぱりアレな娘だけど。
でも、これはこれで、友達なのかもしれない。
誰かと毎日一緒に過ごして、なんだかんだ馴染んでいるのだから。


「パワー最強!!パワー最強!!マリカーのチャンピオンじゃあ!!」
「しょっちゅう私に負けてんじゃん」
「ワシが勝つんじゃあ~~~~~、ついでに聖杯もワシのモンじゃあぁぁ~~~~~」
「聖杯とマリカーは関係ないだろ……」


それにしても、わたし。
つくづくヘンな人生送ってるなあ。
そんなことを、しみじみ思ってしまう。



【クラス】
バーサーカー

【真名】
パワー@チェンソーマン

【属性】
中立・中庸

【パラメーター】
筋力:C 耐久:B 敏捷:C 魔力:C+ 幸運:E 宝具:B+

【クラススキル】
狂化:E-
ワシは狂気の英霊じゃ……
まさに最強のサーヴァントなんじゃあぁ……
E-ランクの狂化スキルに相当する自己中である。
思考能力は正常に保たれているが、能力補正は特に無し。
ただし血液を過剰に蓄えすぎると狂化スキルにプラス補正が掛かる。
つまるところ、適度な血抜きをしないと更に傲慢になっていく。

【保有スキル】
パワー参上!!:B→A
「がははははは!!ワシの出番じゃあ!!」
任意発動型のスキル。
その場で大騒ぎして己の存在を喧伝し、一定時間に渡って敵全員のターゲットを自身に集中させる。
発動中は自身の耐久値にプラス補正が掛かり、また自己再生能力の効率が上昇する。
宝具『血の悪魔』発動時にはAランクに上昇し、効果が更に強化される。

吸血:B
血の魔人としての吸血能力がスキル化したもの。
血液を摂取して体内に蓄えることができる。
蓄積した血液は宝具による能力行使に回せる他、自己治癒に使うことも出来る。
また後述のスキル『血晶』は血液の蓄積量に応じて効果が発動する。

血晶:B+
バーサーカーが蓄えてる血液量に応じて魔力を自家発電できる。
溜め込んだ量が多いほど高効率での生成が可能となる。
なお一度生み出した魔力はそのままバーサーカーにストックされるため、『どれだけ魔力を自家発電しようと血液が無くなった時点で枯渇』という事態にはならない。
また、あくまで魔力を“自家発電”しているので、このスキルが発動することで血液の蓄えが減少するといったことも無い。

反骨:A
彼女はたった一人残された友達を守るため、“支配の悪魔”にさえ叛逆した。
同ランク以下の精神干渉能力を無効化し、ランクを上回る場合でも効果を大幅に軽減する。

簒奪:E++
ワシのじゃ……
神秘の宿っていない武器や乗り物を操る際、初撃に限りサーヴァントを傷付けることが可能になる。
例えただの自動車であろうと、バーサーカーが運転すれば英霊さえ轢殺できる(運良く一撃で殺せればの話だが……)。

【宝具】
『血の魔人(パパパパワー!!)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
人間の死体に悪魔が憑依して活動する『魔人』としての肉体と能力そのもの。
悪魔の力に由来する高い身体能力と再生能力を持つ他、固有の能力として血液を自在に操作できる。
バーサーカーは主に自身の血液を媒介に武器を生成して戦う。
血を蓄えれば蓄えるほど能力がパワーアップするものの、蓄えすぎると狂化スキルにプラス補正が掛かりツノが更に生えてくる。
逆に能力を使い過ぎると貧血になり、一時的に行動が難しくなるという欠点も持つ。
またその気になれば他人の血も操れるようだが、あまり得意ではない模様。

『血の悪魔(ミス・プレジデント)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
魔人パワーの本体である『血の悪魔』へと一時的に変身する。
通常時とは全く異なる異形の風貌と化すものの、人格は普段と一切変わらない。
全パラメーターが1ランク上昇し、血液を操る能力が劇的に強化される。
無数の血液武器の射出、他者の血液操作による体内破壊など、その規模と殺傷能力は魔人状態の時とは比較にならない程。
ただし宝具の維持に必要な魔力消費も大きいため、『血晶』スキルによる魔力貯蓄が不可欠となる。

【Weapon】
血で精製した武器

【人物背景】
悪魔への対策を担う公安退魔特異4課に所属するデビルハンター。
人間の死体に悪魔が憑依して生まれた『魔人』の少女であり、血の悪魔が本体となっている。
自己中かつ理不尽な性格で、更には虚言癖持ちで差別主義者。
どうしようもないボンクラだが根は純朴で素直。
同僚となるデンジや早川アキとは最初こそ揉めていたものの、次第に家族のような関係へと変わっていった。

【サーヴァントとしての願い】
“あいつ”がパワーを見つけに行くように。
ワシも“あいつ”を見つけに行く。


【マスター】
青木ルリ@ルリドラゴン

【マスターとしての願い】
特に展望なし。
いつかはうちに帰りたい。

【weapon】
なし

【能力・技能】
人と龍のハーフ。龍のツノが生えている。
龍の代謝能力も遺伝しており、喉の大火傷や刺し傷くらいなら数日くらいで自然治癒する。
そのせいでバーサーカーから夜な夜な血を吸われがち。
その気になれば口から火も吐ける。暴発は克服したが、まだ完全制御は出来ていない。

【人物背景】
何処にでもいる普通の女子高生。
「あ……?何コレ」
ある日の朝、目覚めるといきなりツノが生えていた。
お母さんに聞いてみたら、衝撃の答えが返ってきた。
「あんた人と龍のハーフなのよ、父親が龍だから」
冗談だと思いきや、どうやらマジらしい。

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最終更新:2022年07月15日 07:15