「俺はお前のことなんて知らねえし、聖杯戦争なんて興味ねえよ」
「ええー!? 興味ないんデスか!?」

 辛辣な言葉をぶつけるのは、青メッシュ混じりの赤髪にパンクファッションを着こなす青年だ。
 アンニュイな表情を一切変えず、右手に宿った令呪をしげしげと眺めている。
 それを聞いて仰天するのが、召喚されたサーヴァントである少女だ。
 バッテン印のヘアピンが特徴の、快活そうな威勢の良い金髪の少女だった。

「そ、そんな事言われても困るデスよ! ここには調もいないし、S.O.N.Gもないし、あたしはさーゔぁんと? になっちゃったし……
とにかくセーハイセンソウっていうのに参加して、情報を集めないといけないデス!」
「俺は困らねえ。お前の力なんて必要ねえぜ」
「なんでこの人こんな塩の味しかしないデスか!?」

 困り顔のサーヴァントに対し、マスターはどこ吹く風。
 ピクリとも動かないアンニュイフェイスに、少女はぐぬぬと唸った。
 少女にとっては異界東京都とやらも、サーヴァント化した自分も完全に理解の外の現象だった。
 いや、一応一通りの知識は頭の中にインストールされたのだが、今ここにいる自分は一体何なのか。

 いつものようにアラートが鳴ったので出動し、『ギャラルホルン』の様子を見に行ったらこの始末。
 どうすれば自分は帰ることができるのか、セーハイとやらを掴めばいいのか。
 そのために戦う必要があるなら仕方ないだろう、幸い自分のコンディションは最高値で固定されているようだし。
 願いを賭けて戦うというのなら、それは対等な決闘だ。虐殺とかでないのなら否はない。
 そう悩みつつも一念発起して、マスターに声をかければ、帰ってきた返事はなんともまあつれないもの。

「マスターさんは、叶えたい願いとかないデスか? このままでいいのデス?」
「俺に願いなんてない。選ばれたことが残念だぜ」
「それは……巻き込まれただけなら、無理強いはできないデスね……」

 しょもん、と少女は意気消沈する。
 主従というのは少なからず相性が関連するという知識から、自分のマスターはきっと気が合う人だと思った。
 しかしそもそも聖杯にかける願いもなにもないというのであれば、切り口もない。

「…………」

 マスターの青年は、そンな少女をじっと見つめる。
 今しがた拒絶の言葉を吐いたはずの青年は、何かを訴えかけるように見つめ続ける。

「? なんデスか? あ、ひょっとしてあたしの美貌に――」
「俺は戦うのは嫌いだ。歌うのはもっと嫌いだけどな」
「ガーン!? まさかの追い打ち!? っていうか、歌うの嫌いなんデスか!? そんなロックシンガーみたいな格好で!?」

 戦うことどころか歌も否定された。
 歌は少女にとっての武器であり、かけがえのない大好きなものだ。
 もうなんか、何もかもが噛み合わなくて流石に元気が取り柄の少女もちょっと泣きそうだった。

「…………」

 そんな少女を見て、青年は僅かに顔をしかめる。
 小さくあー、とか、いや、とか気まずそうに頭を掻いた。
 お互いそんな状況で、ちょっとだけ間が空いて。

「……よし」

 アクションを起こしたのは、青年だった。
 どこからか、長い何かを持ち出す。
 それは少女にとっても非常に馴染み深いものだった。

「マイクスタンドとスピーカー? マスターさん、歌が嫌いなんじゃ……?」
「…………」

 手に持ったマイクを大切そうに握りしめ、一呼吸おいて、青年は少女を指差す。

「全く気分が乗らねえぜ……お前のためになんて歌ってやらねえからな」
「……? デ、デデデ???」

 ここまで来ると、最早訳がわからなかった。
 否定に否定を重ね、もったいぶったと思ったらまた否定。
 別に少女は強制するつもりなんて欠片もないし、そんなに念を押さなくても……と思い、そして別のことに思い至る。

 そうだ、いちいちこんなことを口に出す理由があるか?
 確かに世の中には人の嫌がる顔を見て愉悦を感じるようなどうしようもないダメな大人がいるが。
 しかし少女は一貫して、この青年からそんな悪い気配を感じないのだ。
 悪い言葉を使ってはいるが、そこに悪意を全く感じないのだ。
 で、あれば、この一連の行動の意味は何か?
 少女は顔に似合わず、過酷な生活を沢山の仲間と共にしてきた経験がある。
 だから、少しだけ分かることがある。

「……なんだよ、ついてくんなよ。俺は路上になんか出ねえし、お前に聞かせる歌はねえからな」
「!」

 なんともおかしいものだ、自分はついていってなどいないのに『ついてくんな』とは。
 明らかに不自然なこの発言に、少女はついにこの『素直じゃない人』の真意にたどり着いた。

「……分かったデス! ついていくので、マスターさんの歌、聞かせてくださいデス!」
「…………!」

 その言葉に、青年は大きく目を見開いた。
 まるで、望んだ答えを得られたかのように、その目には輝きがあった。


「――お前、俺のこと全然分かってねえよ。最低だぜ」


 青年の口元に、微かに笑みが浮かんだ。
 二人はマイクスタンドとスピーカーを持って、外に出た。

 駅近くの橋、通行の邪魔にならない程度のスペースで、青年はマイクスタンドを構え、少女は一人目の観客となった。
 派手なカラーのロックシンガーの登場に、通行人も僅かにざわめき、足を止める人もチラホラと見える。

「これっぽっちもやる気が出ねえ……お前ら、せいぜい盛り下がってろ!」

 口から出るのは相変わらずの憎まれ口。
 なんだこの不遜なやつは、とざわめく人々は、その後に評価を一転させる。

「~♪ ――Loki Rock you!」

 足元のスピーカーから音楽が奏でられる。
 聴衆の目を引き付ける腕の振り付けから、空気を揺さぶるロックフレーズが響き渡る。
 この世のものとは思えない悪魔のような美貌から、魂を震わせる歌唱が飛び出した。

「Loki Rock you Loki Rock you! Loki Rock you Loki Rock you!」
「わあ……!」

 少女には分かる、それは命をかけた、魂をかけた歌だった。
 自らの存在意義を示すかのように、青年はロックを奏でる。
 最高峰の歌姫と比すれば荒い所はいくつかある、しかし本当に大切なことはそんなところにはない。
 これは――形は違えど、これは彼なりの『絶唱』だ。

「ろっきろっきゅーろっきろっきゅー……ろっきろっきゅーろっきろっきゅー!」

 脳裏に響き渡るフレーズを口ずさむ。
 青年のロックは、少女にとっても心地よい、とても好みの曲調だ。
 きっと気が合うと思っていた、それは何も間違いではなかった。
 やがてコールは観客に伝播していき、突発の路上ライブは大盛況を迎える。

「「「ロッキロッキューロッキロッキュー! ロッキロッキューロッキロッキュー!!」」」

 その熱狂は、三度のアンコールが終わるまで続いた。
 アンコールのたび、青年は悪態をつき続けたが、しかし言葉とは裏腹に観客の期待に応え、歌い続けた。

「なんでかは分かんないデスけど、嘘しかつけないデスね?」

 ライブが終わり、後片付けを始める青年の顔を覗き込む。
 青年はそれを見て、おもむろにまたマイクを構えた。

「~♪ その通りだぜ♪ 分かってくれて、ありがとな♪ ついてきてくれて嬉しかったぜ♪」
「わっ!? あれ……今回は素直デス」

 青年はリズムに言葉を乗せる。
 その内容は、今までのような悪態ではなかった。

「俺はロキ♪ メギドラルからやってきたメギド♪ ヴィータはメギドを悪魔と呼んだ♪ 俺のメギドの個のさだめ♪ 俺は嘘しか話せねえ♪
嘘なんてホントは大嫌いだ♪ けど歌ならいけるんだ♪ 歌ならホントを言えるんだ♪ だから俺は歌を歌いに、ヴィータの世界にやってきた♪」
「嘘しかつけない……けど歌なら嘘をつかなくていいデスか? ううっ、苦労してきたデスね」

 つまり、これまでの言葉は全て嘘だったということだ。
 と、するとだ。少女はこれまでの会話を思い出してみる。


「俺はお前のことなんて知らねえし、聖杯戦争なんて興味ねえよ」
『俺はお前のこと知ってるぜ、聖杯戦争にも興味あるな』

「俺は困らねえ。お前の力なんて必要ねえぜ」
『俺は困ってる。お前の力が必要だ』

「俺に願いなんてない。選ばれたことが残念だぜ」
『俺には願いがある。選ばれて光栄だぜ』

「俺は戦うのは嫌いだ。歌うのはもっと嫌いだけどな」
『俺は戦うのは好きだ。歌うのはもっと好きだけどな』

「全く気分が乗らねえぜ……お前のためになんて歌ってやらねえからな」
『お前のために歌いたい気分だ』

「……なんだよ、ついてくんなよ。俺は路上になんか出ねえし、お前に聞かせる歌はねえからな」
『ついてきてくれよ。俺は路上に出るから、俺の歌を聴いてくれないか』


 つまり、こういうことだったのだ。

「ただのいい人じゃないデスか!?」
「お、おう……?」

 つまりこの人は戦うのが好きで、歌うことはもっと大好きで、聖杯にかける願いもあって。
 なーんの問題もないということだ。
 メギド、とかヴィータ、とか専門用語らしき単語はよく分からなかったけど、少女に懸念することはもう何もなかった。
 だってこのマスターは、ただの素直じゃないだけのとびっきりの歌好きだったのだから。
 歌を愛する人に、真の悪人はいないから。
 だから、ようやく自己紹介もできるというもの。


「あたしはランサーのサーヴァント、暁切歌デス! イガリマのシンフォギア装者で、歌うのは大好きデス!」
「そうかよ。お前の歌、全然聞きたくねえな。後で聞かせるんじゃねえぞ」
「はいデス! 後で一緒に歌いましょう! ところで、そんな癖を持ってて一人で辛くなかったデス?」
「一人だった頃は辛くなかったが、マネージャーがいた頃は辛かったな。マネージャーは俺の真意を理解しないやつだった」
「はえー、マネージャーさんがいたデスか!? 翼さんとマリアみたいデス!」
「その翼とマリアってやつ、気にならねえな。話なんてしなくていいぞ」
「ここではあたしがマスターさんの通訳にならないとデスねー」


 戦意は十分、そして歌への気持ちも十分。
 ここに、胸の歌を力とする悪魔と少女の主従が結成された。




【クラス】
ランサー

【真名】
暁切歌@戦姫絶唱シンフォギアシリーズ

【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運B 宝具B

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】
レセプターチルドレン:C
終わりの魂の器。
輪廻転生を繰り返す先史文明期の巫女の器候補として集められた孤児であり、実験体として調整、訓練を施されていた。
シンフォギアの適合者候補として厳しい訓練と薬物による強制適合実験を繰り返したため、痛みや毒物への耐性を持つ。
また他者の感情の機微に敏感となり、それを感じ取る。

ユニゾン:A
異なる旋律を相乗させ増幅させる力。
これは本来イガリマとシャルシャガナに搭載された決戦機能だが、擬似的なユニゾンであれば他者とも可能。
イガリマの適合者であり『誰とでも合わせることができる』と言わせしめた切歌のユニゾン適性は非常に高い。
歌を力とするものが共にいる時、互いの歌の力を高めることができる。
ユニゾン間における理解度、絆の深さによってより効果は高まっていく。

きりかのおきてがみ:C
黒歴史。自称常識人の独特センス。
若干ズレた存在に対する共感性、とも言う。
突拍子のない存在に見えて、切歌は他者を支え引き立てることに長けている。
アライメントに関わらず、あらゆる相手との交渉、対話、連携が若干円滑となる。

【宝具】
『獄鎌・イガリマ』
ランク:B 種別:対人宝具(自身) レンジ:1 最大補足:1人
戦神ザババの双刃、その片割れたる翠の刃。
の、欠片を使用したFG回天特機装束『シンフォギア』。
歌の力、フォニックゲインによって聖遺物の欠片を励起し、鎧と纏う戦装束。
聖詠によってシンフォギアを纏い、歌い続けることによってフォニックゲインを生成し宝具を維持する。
戦闘においてこの宝具の存在は大前提であり、パラメーターもこの宝具を装備した状態のもの。
身体能力の上昇、多種のアームドギアの創造、そして『位相差障壁』と呼ばれる特殊な空間的防護を無効化する。
切歌の創造するアームドギアは大鎌を中心とし、アンカーやギロチン等トリッキーな形状の刃が多い。
複数の決戦機能、モードチェンジが存在するのだが、サーヴァント化に伴いその殆どが没収されている。
「イグナイトもアマルガムもデュオレリックも取り上げられたデス! 絶唱とエクスドライブしか残ってないデスよ、およよ~!」

『絶唱・魂魄一閃』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
シンフォギアシステムの決戦機能。
絶大なバックファイアを代償に聖遺物の欠片に対応した必殺の攻撃を放つ。
イガリマの絶唱は、物質的な防御を無力化し対象の魂を一閃するというもの。
文字通りの必殺、死神の一撃である。

『始まりの歌(エクスドライブ)』
ランク:A+ 種別:対人宝具(自身) レンジ:1 最大補足:1人
莫大なフォニックゲインによって全ての拘束を解除するシンフォギアの決戦機能。
飛行機能の獲得の他、全ての出力が大幅に上昇する。しかし単独での発動はまず不可能。
自身の絶唱を含めた『3つ以上の絶唱』とユニゾンしない限りこの宝具は起動しない。

【weapon】
イガリマのシンフォギア、及びそこから展開されるアームドギア

【人物背景】
イガリマのシンフォギア装者。
シンフォギアGより登場し当初は敵として戦ったが、GXより味方として参入。
以降チームの自称常識人、新たなムードメーカーとして心強い味方となる。
G参入組の共通点として低い適合係数をLiNKERで補なわなければならない弱点があったが、
サーヴァント化において適合係数はLiNKER使用時で固定されている。

【サーヴァントとしての願い】
とりあえず聖杯戦争に参加して聖杯の獲得を目指す。
マスターさんともっとお話する。一緒に歌も歌いたい。


【マスター】
ロキ@メギド72

【マスターとしての願い】
自身の個である『嘘つき』をなくす。
しかし、メギドとしての個は自身の存在そのものとも言えるので、
これを無くした時果たして自分は自分でいられるのかと一抹の迷いもある。

【能力・技能】
純正メギド:
異世界メギドラルの住人であり、人間(ヴィータ)からは悪魔と呼ばれる存在。
メギドには基本的に戦いを求める本能があり、メギドラルの社会とは戦争社会、軍団の戦争によって全てを決定する世界観である。
赤い髪の青年の姿は『ヴィータ体』という人間を模倣することによる省エネモードであり、本当の姿は正しく悪魔と形容できる異形。

メギドとしての能力:
ロキは『音』を武器とする。
叫び声は壁を粉砕する衝撃波となり、その歌唱は味方を高揚させ攻撃と防御を高める。
この効果は自他問わず演奏が重なれば重なるほど高まっていき、味方の演奏効果も向上していく。
全力を発揮する場合『メギド体』へと変身し強力なシャウトを繰り出す。
ただしメギドの力を使用するのには自分の魔力を消費するため乱発は厳禁。

【人物背景】
嘘しか言葉として発せられなかったメギド。
ロキの話す言葉は全て嘘であり、彼は本当のことを喋ることができず、また黙ろうとしてもつい喋ってしまう自分を制御できない。
本当の気持ちを話してみたいと願っていた彼は「歌」と出会った。
音楽に乗せれば本音で話すことができると気付いた彼は、ヴィータの世界ヴァイガルドに降り立ち流されるままに歌手となる。
初対面の相手からはひどく態度の悪いやつだと思われがちだが、言ってることの全てが嘘だと分かればその評価は反転する。
なにせ彼は基本悪いことしか言わないので、それはつまり良いことしか言ってないということだからだ。

【方針】
俺は戦うのは嫌いだ。歌うのはもっと嫌いだけどな。(俺は戦うのは好きだ。歌うのはもっと好きだけどな)
ランサーとは気が合いそうにねえよ。一緒に歌ってなんかやらねえからな。(ランサーとは気が合いそうだ。一緒に歌ってみてえな)

【備考】
切歌は一撃必殺の宝具を持つ以外は平均的なランサーで突出した能力はない。
しかしマスターであるロキとの相性は抜群であり、マスターに対しスキル『ユニゾン』が使用可能。
ロキと切歌、双方が『共に歌うことで効果を高めていく能力』を持っているため、戦闘が長期化するほど目に見えるステータスに反しその戦闘力が高まっていく。
仮に他にも歌や演奏を得意とする参加者がいた場合、協調することでさらなるハーモニーを生むだろう。
性格的にも好戦的ではあるが善玉の陣営。ただし、マスターであるロキにとって『嘘』は地雷である。
ロキに対して『嘘』をつき、それを見破られた場合ロキは激昂のままに戦闘を開始し、相手を殺そうとする。
嘘をつかなくても生きていける人間が、わざわざ嘘をつくことが彼には許せないことなのだ。

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最終更新:2022年07月12日 22:58