「家族って大事にしなきゃだめだよな。」
そんなひどく常識的な言葉を聞いた時。
櫛森秀一の胸をよぎったのは、言いようもない不快感だった。




朝、目覚ましと共に起きて、顔を洗って歯を磨き、食パンをトースターに入れる。
トースターの音が鳴る前に、フライパンを1つ取り出し、手際よくハムエッグを作る。
半分液体だった卵の白身が、固まってきた頃に、パンも焼き上がる。
コップにオレンジジュースを注ぎ、朝食の完成だ。


悪くない出来の朝食を、食卓に持っていく。
彼の家族は、この東京ではなく、鎌倉に住んでいる。
彼が朝食を一人で作っているのもそれが理由だ。


「よお、マスター。今日は早いんだな。」
一人暮らしという訳ではない。
目の前にいる、黒いロングコートともみ上げが印象的な、セイバーのサーヴァントと共に暮らしている。


「セイバー、偵察で誰かいたか?」
「いや、いなかったな。」
「そうか。」
秀一は顔を歪ませながらも、セイバーの話を聞く。
だが、それ以上話を進めようとも、盛り上げようともする気は無かった。
ただ、黙々と朝食を食べていく。


「そう見つめても、お前の分はないぞ。」
「いらねえよ。そんなシケた飯。そんなものを食ってて何も感じないのか?」
「シケた飯で悪かったな。昔のお前と違って、こっちは貧乏なんだよ。」


セイバーのサーヴァントから、彼が生前なにも不自由ない暮らしを謳歌していたことは聞いていた。
彼が欲しい物は、裕福な祖父に何でも買ってもらったという。
聖杯を望む理由も、祖父を生き返らせてもらうつもりだという。
なるほどそこまでは家族想いの良い人ではないか。
秀一の祖父は彼が生まれる前に亡くなったが、その気持ちは分かる。
そこまでは良い。そこまでは。


「なあ、マスター。もっといい小麦粉を使ったパンを食わねえのか?味の良し悪しが分からねえ奴は不幸だ……。」
セイバーは見下しているかのように、秀一の朝食に対して愚痴をこぼす。
目玉焼きに箸を突き立てると、涙が流れるかのようにとろりと黄身が皿の上に広がった。


「そんなこと1つで、人の幸せを決めつけるな。」
机をバンと叩いて、マスターを一喝する秀一。
セイバーは失言だったと感じたのか、話を続け無かった。
だが、秀一は不幸では無いと否定することも出来なかったので、彼も話を続けられなかった。


この聖杯戦争に巻き込まれる前、秀一が高校1年生までは、彼の生活は充実していた。
豊かではなくとも、心優しい妹と心配性の母の3人で、祖父の残してくれた大きな家で幸せに暮らしていた。
だが、それらをすべて失ってしまった。


しばらくしてから、セイバーは口をまた開く。
「1つじゃねえよ。俺はウマいものを一杯食わせてくれた爺ちゃんを奪われてから、飯以外にもケチが付き始めたんだ。」
「それで、聖杯で祖父を生き返らせたいのか。」
「その通りだよ。やっぱり学がある奴は、話を分かってくれていいな。」


食事を終えて、食器を乱暴に流しに置く。
「マスターも、家族が大事って思ってるんだろ。まあ優勝まで仲良くしようぜ。
学があるんだから、人の話聞くことだって出来ねえわけじゃねえだろ。」


十年来の友達であるかのように馴れ馴れしい口を利くセイバー相手に、秀一の胸の奥で炎が燃え滾った。


(ふざけるな。)
お前ごときが、家族の大切さを語るな。
お前のような屑と、俺を一緒にするな。
お前の祖父のような屑と、遙香や母を一緒にするな。


セイバーのサーヴァント、サムライソードが何をしてきたか秀一も知っている。
彼の祖父は、麻薬を売って、債務者を生活のどん底に追い込んで、未成年でも無理矢理働かせて、荒稼ぎしていたという。
言ってしまえば、他人を財布にしか思ってない、曾根や石岡のような屑だ。
その屑はデンジという男を殺そうとして、逆に殺されたらしいが、自業自得としか思えない。
そんな祖父から良い思いをさせてもらい、それでいてその所業を正当化している彼もまた屑だ。


「俺もマスターも、家族を奪われた。この戦いは俺達が勝手に人のモン奪い取る、学のねえ馬鹿をブチ殺す為にあるんだよ。」

秀一の胸に、かつてのように青い炎が燃え滾る。
冷たく、それでいて高い熱を発する炎だ。
叶うのならば、令呪を使ってこの悪鬼に自殺させてやりたい。
けれど、そんなことをしたら、願いがかなわなくなる。
自分が犯した罪を無かったことにして、家族と再び仲良く暮らすことにするという願いだ。


彼は、殺した。
暴力を振るい、寄生虫のように家に居座る義父の曾根を。
母と妹を守るため自分で完全犯罪になるであろう手段を思いつき殺害した。
そして、この犯罪の一部始終を偶然見つけて、強請ってきた不良の石岡も正当防衛に見せかけ殺害した。
だが、破綻していた完全犯罪を、とある警部補に見破られた。
家族がその罰の巻き添えを食う前に、トラックが走って来る道路目掛けて、ロードレーサーのハンドルを切った。


一度は全てを放棄し、家族のために自殺を決意した秀一だ。
けれど、こうして生き返り、しかも何でも願いが叶うという報酬を目の前に見せられると、俄然未練と言うものが湧いてくる。
2人を殺してから、何度も思い描いた、「もしも」の世界を。
自分は罪を犯しておらず、今でもロードレーサーと共に学校へ行き、帰れば家族と平和に暮らしている「もしも」の世界を。


「無視するなよ。俺はマスターが昔したこと、否定しているワケじゃないんだぜ。
むしろマスターがやったのは『必要悪』ってヤツなんだ。要は俺の爺ちゃんと同じことだ。
頭がイイならわかる……。」
「もうお前は黙っていろ。」


話を聞いてくれないとようやく理解したのか、セイバーは口を閉じる。
今度は、もう開くことは無かった。


しかし、黙ったからと言って、愉快な気持ちになった訳ではない。
彼は、セイバーの言っていることとやったことをすべて否定した。
だが、法を犯して何かを成し遂げようとしたのは、彼もまた同じだ。
そして、この世界でも聖杯を手に入れるために、家族とまた平和な生活を送るために、法を犯そうとしている。
まだ誰も殺していないが、戦争ということは、いずれは誰か殺さずにはいられないのだろう。

そんな自分が、セイバーやその祖父を否定できるのか。


家族がいた暖かな家とは、全く違う冷たい空気が充満した建物の中で、彼はそう考えていた。


【クラス】キャスター
【真名】サムライソード
【出典】チェンソーマン
【性別】男性
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:C 耐久:B 敏捷:C 魔力:D 幸運:B 宝具:C

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:C
 騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 野獣ランクの獣は乗りこなせない。


【保有スキル】
精神異常:B
 家族や同胞には同情心を持つが、そうでないものに対しては一切容赦しない。
 また、仲間が害を受ければ、その仲間に非があろうと一切聞く耳を持たない。
 精神的なスーパーアーマー能力。精神攻撃に対する高い耐性を持つ。

変身:A
刀の悪魔に変身出来る能力

仕切り直し:D
 戦闘から離脱する能力。


【宝具】
『刀の悪魔』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:‐ 最大補足:‐
 刀を恐怖する人の心によって具現化した悪魔。正確には、その心臓。
 彼が望めば、頭部と両腕に大きな刀が付いた怪物の姿になり、並の相手なら簡単に切り裂くことが出来る。また、捕食された場合に変身することで、窮地から脱却出来ることも。
また、変身後は基本的に不死身となるが、刀が折れたり、致命傷を負った後回復するには血液の供給が必要不可欠。魔力での代用は原則できない。

『爺ちゃんの想いを継いで』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:250
彼の祖父が集めていた「借金を返せねえクズ共」で結成されたゾンビ軍団。
発動条件は付近に倉庫や地下など、日の当たらなく、かつ広い場所があること。
総数百を超えるゾンビ軍団を体現し、敵対するものをのべつまくなしに襲わせる。


『鎮魂歌』
ランク:‐ 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:2
レクイエム
本人も自覚しない宝具。
抵抗することも出来ない状況で、かつ、急所に致命的な攻撃を受けた時に発動。
その際に発せられる音は、近くにいる者をスカっとさせるという。
特に本人やマスターにとってはメリットの無い宝具


【weapon】
両腕、頭部の刀。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯を手に入れ、爺ちゃんを生き返らせる。


【人物背景】
刀の悪魔と契約したヤクザの若頭。
悪事を重ねた祖父から、甘やかされた生活を送っていたが、祖父が殺されたことでデビルハンターに敵意を向ける。
彼は祖父のことを「ヤクザだったけど必要悪的な存在で女子供も数えるほどしか殺した事がない」「薬を売って得た金で何でも買ってくれた」と述べている。
要するに「自分とその祖父のことを悪と思っていない最もどす黒い悪」である。


【マスター】
櫛森秀一@青の炎 

【マスターとしての願い】
自分の罪を無かった、そもそも殺した相手をいなかったことにし、家族と平和な生活を送る。


【能力・技能】
一般人の枠を出ないが、柔道の経験があり。また、ナイフで相手を正当防衛に見せかけて巧妙に殺したことがある。
また、人を殺すために簡易的な発電機を作ることも出来る。

【人物背景】
由比ヶ浜高校の2年生。
成績は優秀で、ロードレーサーや家族の手料理、王菲のCDなどをこよなく愛する。
妹想いな性格で、バイト先からも信頼を置かれていたが、嘗て母親が別れた元夫の曾根がやってきたことで人生は暗転する。
法律でもどうにもならないと分かると、彼をばれないように殺害する方法を探る。
そして殺害に成功するが、それが崩壊の始まりだった。


※本編終了後の参戦です。
【方針】
聖杯を手に入れたい。だがそのために人を殺すべきか悩んでいる。


【Weapon】
2本のダガーナイフ。一本はブラックマンバのように凶悪なナイフで、もう一本はタマゴヘビのように巧妙に作られた殺傷力の無い偽物。

【Weapon】
護身用のバット

※映画版・小説版どちらからの参戦でも問題ありません。ラストでとある人物が書いている絵の内容が違っていたり、石岡の断末魔が異なっていたりしますが、粗筋にはさほど影響はありません。
漫画版もあるようですが、中の人が把握していない+未登場の人物がいるそうなので、こちらとは関係ありません。

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最終更新:2022年07月17日 01:06