駅から少し離れた路地沿いに、その小料理屋はあった。
自衛隊上がりの大将が営むその店は、駐屯地や事務所からは少々離れているにも関わらず、多くの自衛官たちが集まり賑わっていた。
また一人、客が暖簾をくぐり店に入って来る。
「よう古田!」
「いらっしゃい」
いつもの頼むわ、と笑いながら、慣れた足取りでカウンター席に腰掛けたこの男は、大将の自衛官時代の同期である。
注文されたビールを注いでテーブルに置かれると、間髪入れずに口元に運ぶ。
仕事の愚痴を吐き出しながら流し込むうちにジョッキはみるみる空になった。
二杯目を受け取り口をつけた男の目の前に皿が置かれる。
カツオのたたきとハンペンフライ。男の『いつもの』だ。
「ありがとう。テューレさん」
「女将と呼んでくださいな」
応えて微笑む女将。
その頭部には兎のような長い耳が、真っすぐピンと立っていた。
◆◆◆
「成果を報告しなさい。アーチャー」
閉店後、自室に戻ったテューレが虚空に話しかける。
すると緑のマントを纏ったハンサムな青年が霊体化を解き、姿を現した。
「命じられた通り、渋谷で同盟を組んでたマスター三人。全員仕留めて来ましたよ。
はいこれ、証拠ね」
軽薄そうな声音でそう言うと、手に持っていた黒いビニール袋をテューレに手渡す。
中を検めるとそこには三人分の下顎骨が入っていた。
「マスター殺害の証拠としちゃ十分だろ」
「そうね。ご苦労様。
この間のように処分しておきなさい。しつこいようだけど、くれぐれも店に影響が出ないように」
「はーい了解了解。
それでだ、マスター」
とここで、アーチャーの声色が変わる。
先ほどまでの軽薄さは鳴りを潜め、ドスを効かせたような低い声に。
「俺は時には言われた通りに、時にはアドリブで仕事をこなし、使えるサーヴァントだと示せたと思う。
そろそろ教えてもらいたいもんだね。アンタが聖杯にかける願いを」
テューレは聖杯の獲得を目指している。
それはファーストコンタクトの際に明言されていた。
しかし、その内容については秘せられていた。
尋ねるには尋ねていたが「いずれ切り捨てるかもしれない相手に、軽々しく私の内面を話したくはない」と断られていた。
故にアーチャーは己の有用性を証明し続けた。
マスターと思しき人物の噂があれば行って真偽を確認し、場合によっては始末したし、
小料理屋には罠を張り巡らし、敵サーヴァントの襲撃を返り討ちにしたりもした。
そうしてアーチャーは、召喚されてからの10日間で6人もの主従を脱落させていた。
アーチャーは確認しておきたかったのだ。
この小料理屋の女将として幸せそうに生きるマスターが、この聖杯戦争という修羅場にどんなモチベーションで臨んでいるのか。
「いいでしょう」とテューレは語りだす。
「私が望むのは、今、この時よ」
「はあ?」
「私は復讐を成し遂げ、死んだ。
帝国を滅茶苦茶にできたし、ゾルザルもこの手で殺した。
引き換えに私も死んでしまったけれど、そこに悔いはないわ。
だからフルタの営む小料理屋で女将をやっている今の状況が、現世からハーディの御許に逝くまでのひと時の夢に過ぎないことはわかっている。
ここにいるフルタだって、声も姿も料理の腕も同じだけれど、帝都で出会った彼とは別人だということも、この暮らしに固執することは虚しいことだというのも全部わかっている」
けれど、と大きく息を吸って続ける。
「それでも今、私は幸せなの」
自分を騙し、陥れ、故国を滅ぼしたゾルザルに、絶望と屈辱をたらふく味わわせて殺してやった。
テューレの復讐はここに完結した。
その後のことなんか、考える必要もないと切り捨てた。
それでも少し未練だった。
フルタの描く夢に自分が関われないことが。
「この夢に終わってほしくないの」
ずっと続いてほしかった。
自ら作り上げた国で、客――国民のために努力と研鑽を続けるフルタを、隣で微笑み支える日々が。
「だから私は聖杯を求めるの。
聖杯を求める連中に、この夢を脅かされないために」
その妨げとなる存在すべてが此度のテューレの敵だった。
お眼鏡に適ったかしら?と小首をかしげるテューレに、アーチャーは嘆息しかぶりをふる。
「ま、そうっすねえ」
平凡な日々の営みを守りたい――人類救済だの世界征服だの言われるよりは、はるかに実感の湧くモチベーションだった。
―――アーチャー自身も生前、似たようなモチベーションで戦った英雄だったので。
「誓おう」
そう言ってアーチャーが跪く。
「ロビンフッドの名の元に、この命ある限り、アンタの夢を守りぬこう」
【クラス】
アーチャー
【真名】
ロビンフッド@Fate/EXTRA
【属性】
中立・善
【ステータス】
筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:B 幸運:B 宝具:D
【クラススキル】
対魔力:D
魔術に対する抵抗力。
Dランクでは、一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
単独行動:A
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。依り代や要石、魔力供給がない事による、現世に留まれない「世界からの強制力」を緩和させるスキル。
Aランクではマスターを失っても一週間現界可能。
【保有スキル】
破壊工作:A
戦闘を行う前、戦闘の準備段階で相手の戦力を削ぎ落とす才能。トラップの達人。
ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格が低下する。
ロビンフッドの場合、森林であれば進軍前の敵軍に六割近い損害を与えることが可能。
黄金律:E
人生においてどれほどお金がついて回るかという宿命。
ロビンフッドは常に貧しかったが懐具合が悪かったことは一度もなかったそうだ。
【宝具】
『祈りの弓(イー・バウ)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:4~10 最大捕捉:1人
アーチャーが生前に拠点とした森にあるイチイの樹から作った弓。ロビンフッドの通常武装であり奥の手。射程距離より近場での暗殺に特化した形状をしている。
標的が貯め込んでいる不浄(毒や病)を瞬間的に増幅・流出させる力を持ち、対象が毒を帯びていると、その毒を火薬のように爆発させる効果がある。矢が対象に命中する事は毒を爆発させるトリガーでしかないため、矢を弾いたり受けたりして防いだとしても効果は発動する。
また、単に武器としての効果の他に、基点となる地面に矢を刺すことで周囲をイチイの毒で染め上げ毒の空間にすることが可能。この毒の空間を先んじて作り毒矢を撃つ戦法も扱った。
『顔のない王(ノーフェイス・メイキング)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
アーチャーの纏うマント。完全なる透明化、背景との同化ができる。光学ステルスと熱ステルスにより気配遮断スキル並の力を有するが、触ってしまえば位置の特定は可能。外套の切れ端を使い、指定したものを複数同時に透明化させたり、他人に貸し与えても効果は発動する。この性質を利用し、発射した矢を透明化することも可能。
ただし、『祈りの弓』との同時使用はできないという制約があるため、『祈りの弓』を使うときは透明化を解除していた。
【weapon】
クロスボウ
【キャラ紹介】
顔のない、名前のない義賊
勝つためには手段を選ばず、奇襲や闇討ち、毒矢を得意とする。
軽薄な皮肉屋で毒舌だが根は善良。彼を迫害した村が領主の圧政に苦しめられているのを見捨てられず助力に入る程度には。
正義にこだわる青臭い自分を隠すために不真面目な素振りをしており、正々堂々とした戦いを望んでいるが、それでは勝てないためその手段を否定している……が、今回のマスターは彼にそれを求めないので、その青臭い部分は表出しないだろう。
【方針】
マスターの幸せな夢を守る
【マスター】
テューレ@ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり
【マスターとしての願い】
異界東京都での幸福な日々ができるだけ長く続いてほしい
【能力・技能】
ヴォ―リアバニーとしての高い身体能力。特に聴力は高性能収音機並み。
元女王であり、白兵戦闘能力も高い。
【人物背景】
東京の銀座に出現した『門(ゲート)』により日本とつながった中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界『特地』。
その特地の覇権国家『帝国』の皇太子・ゾルザルの愛玩奴隷。だがゾルザルの秘書も務めている。
元ヴォーリアバニーの国の女王。国を滅ぼさない代償としてゾルザルの奴隷となったが約束は反故にされ、国は滅亡し、同族からは国を売った裏切り者として恨まれている。
そのような経緯で帝国や皇族、ヒト種に恨みを抱き復讐を誓っていた。
謀計と人心の掌握術に非常に長けており、言葉巧みにゾルザルを陰から操っているほか、裏では多くの配下を従え、数々の謀略を以て帝国を泥沼の争いに陥れた。
その最中に出会った料理人・古田に惹かれる。自らの店を持ちたいという彼の夢に同行することを望みはしたが、想いを叶えることなくゾルザルと刺し違えた。
【方針】
平穏を脅かす者の排除。
最終更新:2022年07月17日 01:15