「この東京という都市は興味深いな。そう思わないか、マスター」

 時刻は早晩、しかし冬の季節の太陽は早々に地平線に沈んでいた。
 暗闇を数多の電灯が照らし、仕事から帰る者、食事をするもの、寄り道をするもの。
 数多の人々が行き来する歓楽街の中を、少女と青年が歩いていた。
 売店で購入したらしき、片手でも楽に食すことのできる軽食を手に、青年は自身の所感を口にする。

「日本、と呼ばれる島国の首都を再現したという異界東京都。ここにはマスターの世界にあるような魔法も、俺の世界にあるような神もいない。
信仰や創作、幻想としての概念は存在しているが……そういった、一切の絶対存在無き世界の発展の末と思うと、実に興味深い」

 鷹揚に頷き勝手に物事を咀嚼している青年を、若干鬱陶しげに少女が見上げる。
 青年は、構わず言葉を続ける。

「天高く聳える摩天楼の数々は、限られた土地の中で如何に発展を続けるかという命題への解答だ。
地震が多く災害大国とまで形容される地理にありながら、それに対し真っ向からぶつかり災害に対しても崩れない建築法を編み出した。
山手線と呼ばれる交通網はこの東京を円形で囲うことにより、凡人であろうとも労せず23もの区画を行き交うことができる。
一方で数多の災害、戦災によって古き善き建築の多くは消え去るさだめにあったが、それでも人々はそれらを『善いもの』として留めようと努力している」

 青年の視座は高く、語る内容は為政者のそれだった。
 異なる世界、魔法の如き世界からやってきた青年は、しかしこの東京への知見を既に得ていた。
 人工物によって覆い尽くされ、それによる世界の弊害は数多に存在する。
 しかしそれでも、この都市一つの芸術であり、宝石であり、叡智の美が存在すると。

「数多の戦火の中、信仰の是非を問われた歴史もまた数多にあったという。しかし、この世界に神……いや、『神の如き力』は存在しないとされている。
それでも尚人々は信仰を口にし、憲法とやらにはその自由が最たるものの一つとして記載されている。
俺はこれを、人の歴史の行き着く先と感じている。神に対する無形の畏敬。そこにあらずとも確かに存在しているもの。
物理的に頼る柱としてではなく、心の支えとする想いとして、この国における『なんとなくありがたいもの』としての神の肯定の形は、俺にとっても新たな知見だ」

「あの、ちょっといいですかね」

「む、すまない。俺ばかりが話し込んでしまったな。どうした、マスター」

 ようやく少女が口を開いた。
 少女は鞄から財布を取り出すと、その中身を改めている。

「いや、別に貴方の知見が鬱陶しいというわけではないんですけどね。いや、やっぱりちょっと鬱陶しかったですね。
まあ、観光は楽しかったですし、食事も良質ですし、それはいいんですよ。今日は良い日でしたね。それでですね……」

 財布の中身を開くと、そこには紙幣が何枚か。
 それを見て、少女は大きくため息を付いた。

「路銀が尽きかけています」

「なんと」

 少女は旅人であり、青年は閑人だった。
 当初こそ聖杯戦争だの物騒なことはひとまず置いておいて、観光に繰り出したものだ。
 しかし、そんな少女の所持金は今尽きかけていた。

「お金を稼ごうにも、この国は戸籍とか住所とか年齢制限とか色々カッチリしすぎてて、手早くお金を稼ぐ手段がありません!
どーなってんですかこの国! なんで仕事の一つ一つ、お金のやり取りまで管理されなきゃいけないんですか!」

「マスターの現在の所持金は、ここに呼ばれる前の路銀がこの国の貨幣に変換されたものだったか。
そして付与されたロールは『必要な単位は既に取得した大学生』だったな。この身分だと……資金調達の手段は、アルバイト、とやらしかあるまい」

「はあ、それしかありませんよねえ。交通費とかは夜間に魔法を使えば誤魔化せますが、夜間に訪ねることのできる施設なんて微々たるもの、意味がありません。
かくなる上は、あのパチンコとやらに手を出すしか……へへへ魔法を使えば」

「マスター、賭博は関心しないな。それはまっとうな対価とは言えない」

 自身の魔法を悪用し非合法な稼ぎに手を出そうと企むマスターの少女を、サーヴァントの青年が諫める。
 しかし、それに対し少女は非難するような視線を向ける。

「この資金の減り具合には貴方の鞄の中にあるそれなりの数の土産物も関与しているんですが?
綺麗事をほざくならその分のお金返してくださいよ、ホラホラ」

「む、それは……すまない。なるべく控えるよう努力はしたのだが」

「控えてはいましたね、その分購入数で補っていただけで。ハァ~……」

 ファンタジックな世界にて乱立する国家群を気ままに旅していた少女にとって、この国のシステムは窮屈なものだった。
 問答無用で拉致された、というストレス解消のため気ままな散財を続けていたが、そろそろ現実を見なくてはならない。

「仕方ないですねえ……バイトは勿論探しますが、そろそろ本腰を入れますか。聖杯戦争」

 コートの袖から木の棒のようなものを取り出し、くるくると回す。
 それは、魔法の杖だ。魔法使いの少女にとってかけがえのない生命線。
 この杖がある限り少女は魔女であり、杖を失ってしまえば無力な少女に過ぎない。

「いいのか、マスター」

「いいのかも何も、軍資金が尽きたからにはそれを調達するか、必要としないことで楽しまねば損というものです。
この異界に招かれた沢山の異邦人……中には話の合う人もいるかもしれません。まあ、大半は聖杯に願いを賭けるろくでもない連中でしょうが」

「否定的だな、聖杯というものに」

「無論です。ここに招待されたのはともかく、殺し合って願いを叶えろって。滅茶苦茶不本意に決まってるじゃないですか」

「そうか。俺はまだ決めかねている。聖杯という遺物の本質が、どのようなものか。道具に罪はないが、聖杯とは真にただの道具であるのか」

 旅先で数々の事件に巻き込まれ、あるいは首を突っ込んできた魔女にとって、このような状況への対応は馴れたものだった。
 一に命、二に挟持、三に金、後はそれ以外。
 彼女は決して、優先順位を間違えない。

「貴方が『お金を生み出してくれれば』話は早いんですけどねー、『帝君様』?」

「それはできない。俺はただの凡人だからな」

「ですよね。まあ、知ってましたけど。言ってみただけで」

 この異界東京都に召喚され、現状把握に数日。生活に数日。観光に数日。
 二人は既に互いのことを理解していた。
 それは会話を通してであり、ラインを通してでもある。
 少女はこの槍兵のクラスを適応された青年がどのような存在かを理解し、そして彼がどのようにありたいかを理解していた。
 訳知り顔で世を散歩し、聞かれずとも薀蓄を垂れ、良いものに対しては金に糸目をつけず、その癖金の管理に疎い浮世の閑人。
 天才を自負する自分の上からものを言うことのできる、厄介な相方。
 途方もない年月を経た意思を持つ大岩であり、今も尚人間を見つめ続けるもの。
 夢の中で、彼の人生の断片を見た。
 彼の言葉、そこに込められた祈りを。


『この大陸の全ての金銭は俺の血肉』

『こんな形で俺は、人間の労働、知恵、未来を保証する』

『これが俺の人間への信頼。金銭に背くことは、俺の血を汚すのと同然だ』


 ああ、彼が私に召喚されたこと、その理由は全く清々しいほどに理解ができます。
 この一点においては、聖杯とやらを認めてもいいかもしれません。
 私が信じるものの全てを司っていた、浮世の人々を守護するもの。
 絶対に口にはしませんが、この『人』は私が敬うに足る、偉大なる先達なのですから。
 けど、先生とは呼んであげません。そう呼ぶ人は一人だけと決めていますので。

「ところでですね。数日考えていたんですけど、その『マスター』っていうの、やめましょう」

「む?」

「『イレイナ』でいいですよ。私も貴方のことは『鍾離さん』と呼びますので」

「そうか、それは光栄だ。こうして一人の人間として認められるというのは、改めて悪くない。では、これからどう動く。イレイナよ」

「観光中に何人か争ってるマスターの目星がついたので、とりあえず襲ってカツアゲしてみましょうか。ま、勝てるでしょう」

「俺も努力するが、油断は禁物だ」

「油断でも慢心でもありませんよ、これは余裕です。なんだかんだ成り行きで既に3騎ほど落としているじゃないですか、私達。
これは確かな実績でしょう? それに、ですね」


「仮に何度かの撤退を前提としても。私と貴方が組んでいるのに勝利を掴めないなんて、それこそ怠慢の極地でしょう?」


【クラス】
ランサー

【真名】
鍾離@原神

【パラメーター】
筋力B 耐久A 敏捷B 魔力B 幸運B 宝具B

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。
事実上現代の魔術師ではランサーに傷をつけることは出来ない。

【保有スキル】
浮世閑歩:A
浮世の閑人は四方を流離い、世に思いを馳せる。
人と縁を結び、美食に舌鼓を打ち、芸能を称賛し、心の広がりを知る。
芸術審美、美食家、貧者の見識を包括した複合スキル。
鍾離は美しさの宿り得るすべての事柄、世間の万事に理解を示し、見識を発揮する。
ランクが低いとただの暇人なのだが、鍾離はその知識と見識を広く認められた客卿である。
Aランクともなれば多少の会話、証言、見聞から対象の詳細の正確な考察が可能。

老練:A++
精神が熟達した状態で召喚されたサーヴァントに与えられるスキル。
いかなる状態でも平静を保つと同時に、契約を通じてマスターの精神状態を安定させることができる。
A++ランクともなればその精神は神の威光、獣の脅威、如何なる絶望を前にしても揺るぎはしない。

最後の契約:EX
それは、全ての契約を終わりとする契約。神の国は人の国へ、岩王帝君はここに死す。
自身の能力から『神』たる要素の一切を排除し、『人』に固定する。
本来の『全盛期』と比較し、ステータスの下降、複数のスキル宝具が消失及びランクダウンしている。
これはひとえに鍾離本人の意思でありその意思を反映したサーヴァントとしての特性であるため、これらの力を取り戻すことはない。
仮に取り戻す事がありうるとすれば、それは聖杯戦争の範疇を逸脱した『世界に対する脅威』と相対した時だろう。

【宝具】
『地心』
ランク:C 種別:結界宝具 レンジ:1~5 最大補足:50人
『岩の堅きこと、物に於いて陥さざる無きなり』
戦闘天賦・元素スキル。玉璋のシールドを展開する。
シールドはダメージを吸収すると同時に岩元素の波動を発し周囲の敵に継続ダメージを与える。
ダメージ吸収上限は鍾離の耐久を参照するため、耐久ステータスを強化することによりシールドも強化される。
動きを阻害しない鎧としても、一度に広範囲を守る結界としても展開可能。他者への付与も可能。
燃費は良好であり、ダメージ吸収上限を超え破壊されようと再展開可能。

『天星』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~5 最大補足:50人
『蒼天の星岩を落とし、暗闇の運命を照らす』
戦闘天賦・元素爆発。天より岩元素で構築した隕石を降らせ着弾地点の敵に大ダメージを与えつつ、石化させ短時間その動きを封じる。
攻撃には『岩を砕く』概念があり、高い耐久力、強固な鎧、防御能力等を持つ敵に対し、それを大幅に消耗させる。
石化効果は対魔力がC以下の相手には確定で通り、B以上の相手は幸運判定に成功することで無効化される。
ただし、無効化された場合も全ステータスを1ランク低下させる『重圧』状態を付与する。
こちらの宝具も燃費は良好であり、連発も可能。

【weapon】
長柄武器

【人物背景】
俗世の七執政が1柱、岩神モラクス。岩王帝君の尊称を持つ。
6000年以上を生き、3700年を璃月の統治と守護に費やした『契約の神』。戦神、商神の側面もあり、貨幣を生む権能を持つ。
彼は3000年を超える治世の末に、己の仕事はもう終わった、と判断するに至った。
しかし果たして己が消えた後、人の治世へと移り変わる準備は出来ているだろうか。
それを確認するために彼は『岩王帝君の死』を偽装し、璃月の民と仙人たちは力を合わせその難事を乗り越えてみせた。
その後は一部の者たちにのみ己の生存を知らせ、最早この国で神としての権能を振るうまいと誓った。
岩王帝君はこの世にいない、ここにいるのは一人の凡人、『鍾離』であると。
その意思を受け、彼はサーヴァントとして召喚されても凡人の範疇を逸脱することはない。
ただ、6000年の生によって磨かれた見識と精神、武練と元素操作の極地を人の身にて振るうのみである。

【サーヴァントとしての願い】
この限りある異邦を見聞し、多くの芸能、技術を知り、多くの人々と語らう。
聖杯という遺物の是非、聖杯戦争への評価は保留。


【マスター】
イレイナ@魔女の旅々

【マスターとしての願い】
異界東京都を観光する。そのためにバイトする。
一方で戦いへの準備は怠らず、旅を続けるためにもこの異界からの脱出方法を模索する。

【能力・技能】
魔女としての魔法の数々。魔術師、マスターとしては相当にレベルが高い。
箒による飛行、様々な攻撃や防御の魔法等、魔女としてできそうなことはだいたい可能。
最たるものとしては対象物の時間を巻き戻す時間逆行魔法が存在し、負傷もこれで治癒可能だが魔力消費が非常に重い。
戦闘面では全力で戦闘したならば小国を半壊させることも可能だが、これは実力が完全に拮抗した相手とひたすら持久戦をした結果とする。
魔法で起こす現象が大規模であればあるほど魔力を大量に消耗するため、小さな現象を重ねて展開することを好む。
例えるなら大量の魔力を使って一気に地面をくり抜くよりも、少量の魔力と長時間の労力を駆使し少しずつ土を掘っていく方が魔力効率は良い。

【人物背景】
15才にして魔法使いの最高位『魔女』の称号を獲得した天才少女。現在の年齢は十代後半~二十代前半。
『ニケの冒険譚』という物語に憧れ、自分もこのような冒険をし様々な見聞を得たいと夢見て旅人となった。
灰色の髪と瑠璃色の瞳を持つ(貧乳の)美少女だが自己中心的でお金にがめつく、インチキ占いとかイカサマ程度なら平気でやらかす性根の汚い美少女。
シビアな面もあり、自分の手に負えない悲劇に対しては撤退を選び、事件が解決しないまま次の旅に出ることも。
しかし非情というわけではなく、むしろ一度気に入ってしまった相手に対しては滅茶苦茶情が厚く手助けをしてしまう。
近づきすぎてしまうと離れがたくなってしまう、本当に会いたい人とは会えないくらいがちょうどいい、と本人はそのような性質を自覚している。
お金にがめつい面も、価値のあるものに対し資金を擲つことに対しては躊躇いがなく、自分の納得を優先する。
話の結末によっては金貨袋を抱えぐへぐへ言っている時もあれば、得たお金を全て寄付してしまうこともある。
自己に対する深い理解と情動を抱えた、まだまだ道半ばの旅を往く多感な少女。

【方針】
聖杯についてはかなり懐疑的。
しかしそれがこの『国』のルールであれば仕方ないので、ひとまずルールに沿いつつ裏道抜け道を探す。
抱く願いも自身の見聞を通さねば意味がないので、仮に勝利して聖杯に何か願うとしても当分旅に困らない路銀でも要求するつもり。
話せそうなやつがいたら話をする、ボコれそうなやつがいればボコってカツアゲする。
後バイト探して資金を貯めて観光する。

【備考】
鍾離は最高ランクの対魔力とCランク以下が存在しないステータスを持つ。
更に技量面でも武術の技巧の冴えわたること。相対者の能力や人柄を見抜き、その精神は揺らぐことなし。
宝具はいずれも良燃費で実用性が高く、特化した派手さはないが安定性は抜群。
尚且つ『天星』の副次効果は対魔力を持たない三騎士以外の存在には非常に厄介極まる。これぞ凡人の極み。
それに加えマスターとして高い資質を持つイレイナとのコンビは十方隙き無しの万能。
マスターとの相性、関係性は浮世を歩くものとしての先達、後輩のような関係。
イレイナは鍾離に対して密かに対抗心を燃やし、鍾離はイレイナの稼ぎ方について苦言を呈する。
一見相性は若干良くないように見えるが、本質的な部分で深く共鳴しているため表面上のやり取りは単なるプロレス。
鍾離はイレイナをマスターとして申し分ないと思っているし、イレイナは言葉にはしないが鍾離を先達としてその深い知見を尊敬している。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2022年07月22日 23:47