お金は人を満たしてくれる。
金では買えないものがある...なんてわかったような口をきく奴らはごまんといるけどそんなものは嘘っぱち。
もってるやつらがそうロマンチックな響きに酔って嘯いているだけ。
お金がなくちゃなにかを食べることもできない。
人様の前に胸を張って出ることもできない。
「優しい」って色んな人から褒められる人も借金取りに縋りついて、唾をかけられ足蹴にされることしかできない。
人間を取り巻く衣食住はお金で成り立っている。
どんな幸せを求めるかは人の自由だけれど、幸せになりたいなら、どうしてもお金は必要なの。
だから...ねえ、なんで。
なんであんたはあの時、あの娘のタオルを取らなかったの?
☆
路地裏に肉を打つ音が響く。
プロレスラーを彷彿とさせる仮面を被った屈強な男の拳が、鎧をまとった男の胸板に叩き込まれる。
鎧の男の握りしめた鉄の拳が男の横っ面を殴り飛ばす。
ここで行われている演劇は試合―――否。
命を削り合い、命の灯火を燃やし合う様はまさに『死合い』。
互いの命果てるまで終わらぬ魂のやり取り。
血しぶきが舞い、男が壁に叩きつけられる。
鎧の男はトドメの追撃として、男の顔面目掛けて拳を突き出す―――それこそが、男の狙い。
プロレスラーは他の格闘技者よりも頑丈且つ受け身のプロ。
拳の着地点を微かにずらすことでダメージを軽減。
加えて、僅かに生じた緩みを活かし、懐に飛び込み、身体をぶつけ鎧の男の上体を崩す。
その隙に男は鎧の男の足を、肩を踏み台にして跳躍。
サルト・モルタル。
宙がえりした男は、雄叫びと共に鎧の男の頭部目掛けて飛び膝蹴りを放つ。
その鋼鉄のように硬く、そして強力な膝蹴りはまさに空駆ける馬の蹄。
『飛翔天馬・烈鋼弾(パンツァーペガサス)』
ゴキリと鈍い音が鳴る。
顔面が拉げる。
そして、勝敗は決した。
倒れ伏した鎧の男がその姿を空気に溶かしていく。
「あ...そ、そんなぁ...僕のサーヴァントがぁ...!」
眼鏡をかけた如何にも凡弱、という風貌の青年が悲痛な声を挙げて泣き叫ぶ。
そんな青年の肩に、彼女は手を置いた。
「ハイ、これで決着。どうする?私の為にちゃきちゃき働くか、ここで死ぬか」
露出の多い服装の女―――間宮リナは、青年の耳元で妖艶に囁く。
青年は恐怖でガチガチと歯がかみ合わなくなり、全身を震わせながら地に額を擦りつけた。
土下座。完全敗北を認めた証である。
リナはぐにゃりと嗜虐的に口角を釣り上げ青年の頭を踏みつける。
気分がいい。
破滅した奴を見下ろすというのは。
その破滅を己の幸せの糧とするのは。
人間というものは、他者よりも己が上だと思える時が一番幸福感を抱けるのだと実感する。
リナはそのまま携帯やクレジットカードといった生活必需品を押収し、自分が呼びつけたらすぐに動けと念押しをして青年の尻を蹴飛ばした。
「ふぅ...」
先ほどまでの機嫌の良さは成りを潜め、己の英霊へと目を移する。
そこにはもう彼の姿はなかった。
役を終えたレスラーは即刻退場するものだと言わんばかりの早さだ。
リナの引き当てたサーヴァントは少なくとも外れではない。
命令に従うだけの協調性もある。
余計なことを言わない寡黙さも気にならない。
圧倒的に強くはない為、万が一の時は切り捨てやすいのもある意味利点といえよう。
しかし、それでもリナは彼を気に入ることはできなかった。
彼女は夢を見た。
一人の男と少女の夢を。
男はプロレスラーだった。
老若男女、みんなが元気な気持ちになれるようなプロレス団体を創りたい。
そんな地道でささやかな願いを叶えようとするただのプロレスラーだった。
だが、ソレは瞬く間に奪われた。
有無を言わさぬ、圧倒的な『カネ』の力で!
コツコツと築き上げてきた信頼。
プロレス団体を運営する上で必須の地方興行権。
彼以外の選手。
そして、生活に必要な金を得る権利さえも。
要求を一つ断った―――ただそれだけで、カネの力に全て奪われたのだ。
団体は消え、残されたのは彼と愛する娘、そして空しく光るチャンピオンベルトだけ。
そして彼は戦いのリングへ上がり、戦った。
娘の為に。受けた屈辱を晴らすために。
プロレスラーの意地と誇りをかけて、血で血を洗う裏格闘技試合・ロシアンコンバット―――彼らをここまで追い詰めた元凶のもとへ。
そして彼は戦い、勝ち抜き、ついには絶対王者に挑む権利まで手に入れた。
だが―――王者は圧倒的な強さを誇った。
鍛え上げたこちらの攻撃は通じず。
逆にこちらの身体は為す術なく破壊され。
誰が見ても勝敗は明らかだった。
命を、金を拾う術はいくらでもあった。
彼が負けを認めればそれでよし。
そうでなくとも、セコンドであった愛する娘がタオルを投げ入れればそれでよかった。
それだけで、王者には負けても、ファイトマネーはしっかりと払われ、娘と生きて幸せに暮らすことができた。
なのに。
彼はそれを拒んだ。
すぐそこに金があるのに拒み、死が迫っているのに前へと進んだ。
リナにはそれがわからなかった。
なぜ金をとらなかった。
なぜ幸せをとらなかった。
これではまるで、金よりも大事なものがあると言わんばかりではないか。
ただ、それだけならばさして気にならなかっただろう。
リナはそういったロマンチストを食い物にしてきた身なのだから。
それ以上に、彼女が気に入らないと思ったのは、娘のことだった。
彼は決して娘との仲が悪いわけではなく、むしろかなり良好だった。
なのに彼は金を、娘を捨てて戦いに挑んだ。
娘と共に幸せになる権利を投げ捨てた。
それが彼女は気に入らなかった。
貧困に苦しむ、片親の一人娘という環境に、自らの生い立ちを重ねずにはいられなかった。
(...ちょっと前まではこんなじゃなかったのになあ)
リナは思わずため息を吐く。
本当に、少し前まではそんなことはなかった。
騙す相手に娘がいようが構わず金を巻き上げ、破滅に陥ろうが知らんぷり。
むしろ騙される方が悪いと舌を出しているレベルだ。
なのに、身も知らぬ娘に想いを馳せるなどと甘っちょろいにもほどがある。
その原因はわかっている。
ここに連れてこられる前に、リナが金をだまし取ろうとしていた男の一人娘・竜宮レナ。
自分の本心を察し、余計な口を挟むなと脅しかけても目を逸らさず。
涙目になりながら彼女は言った。
「お母さんがいなくなったのは私のせい」「今度こそお父さんを護るんだ」...と。
その姿が幼少期の自分と重なり、もう彼女を不幸にするような真似をすることが出来なくなってしまった。
(だからって、やり方を改めることなんてしないけど)
それでもリナは幸せになりたいと願っている。
お金をたくさん手に入れて、あの頃のようなひもじい思いをしたくないと思っている。
自分は他人を利用する術しか知らないのも解っている。
(幸せの椅子は誰にも渡さないわ。だってそれが私、間宮リナだもの)
幸せになるためだったらなんでもやってやる。
ステージが変わってもやることはなにも変わらない。
私の人生は、私の私による私のための、幸せ目指すがんばり物語でしかないのだから。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
天野和馬(リングネーム:アイアンペガサス)@職業・殺し屋。
【ステータス】
筋力:C 耐久:A 敏捷:C 魔力:E 幸運:E 宝具:D
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
狂化:D
筋力と耐久が上昇するが、言語機能が単純化し、複雑な思考を長時間続けることが困難になる。
【保有スキル】
頑健:B
自身の防御力アップ。
プロレスラーは打たれ強い。
血濡れの蛮勇:A
血で己の身体が真っ赤に染まったという、血生臭い逸話がスキルとなったもの。
敵を攻撃すればするほど攻撃力が向上するが、引き換えに防御力が下がっていく。
戦闘続行:A
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
彼を動かすのはレスラーとしての、父親としての意地、何よりも深く濃い闘争本能―――そして、巨大で純粋な、狂おしいほどの殺人・破壊衝動。
【宝具】
『飛翔天馬 烈鋼弾(パンツァーペガサス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
アイアンペガサス必殺の跳び膝蹴り。
敵の身体を踏み台に跳躍し、敵の顔面目掛けて放つ技。
その威力は鋼鉄の身体を誇る男の顔に消えない傷をつけるほど強力。
【weapon】
無し。己の鍛え上げたレスラーとしての肉体のみ。
【人物背景】
S・M・Wプロレス団体の社長。
シュートレスラーとして名を馳せたが、大金持ちであるイワノフ・ハシミコフの裏格闘技への抜擢を断ってからは金の力で貧困にまで追い立てられる。
愛する娘のため、プロレスラーとしての意地のため、イワノフ主催のロシアン・コンバットへ参戦。
しかし死闘を繰り広げる中で、湧きあがる己の闘争本能を抑えられなくなり、絶対王者・グルガとの死合いでは己の命が尽きるまで戦い続けた。
その姿はイワノフの脳髄にも刻まれ、その死合いの内容を聞かされた二人の男はその姿に触発され闘争心を燃やす。
けれど、娘のメイにはわからなかった。負けたって、父さんが無事ならそれでよかったのに。なんで止めさせてくれなかったのだろう。
【サーヴァントとしての願い】
己の限界まで死合いを勝ち抜く。ただそれだけでいい。
【今の状態】
本能が理性を上回っており、戦いのみを求めるその姿はまさに本来の意味での狂戦士。
その為、意思疎通は難しく、戦闘をする時以外はマスターの前には滅多に出てこない。
【マスター】
間宮リナ(本名:間宮律子)@ひぐらしのなく頃に 巡
【マスターとしての願い】
幸せになる。その為ならば障害の排除も辞さない。
【能力・技能】
水商売で培ってきた、異性を垂らし込む話術。整った顔立ちと豊満な胸。
【人物背景】
園崎グループの店のホステス。幼少期は両親の離婚に伴う貧困生活で苦しんでおり、その反動かお金への執着が一際強い。
その為、美人局や詐欺といった下法な手段を取るのも辞さない小悪党染みた性格になった。
ある時、金をだまし取ろうとしていた竜宮家の男、その一人娘とのいがみ合いの際、彼女の流した涙と放った言葉に己の幼少期が重なってしまい動揺。
性根が変わった訳ではないが、以降は竜宮家から身を引くことに。
その数日後に竜宮レナに殺される運命にあったが、この聖杯戦争にはそれを知る前からの参戦となる。
【把握手段】
天野和馬→漫画作品 職業・殺し屋(通常版) 7~9巻
間宮リナ→漫画作品 ひぐらしのなく頃に 巡 鬼明かし編 その壱―②
最終更新:2022年07月22日 23:48