「あーっはっはっは!」

 男は、キャスターを召喚したマスターだった。
 堅実な魔術師であった彼は数日を陣地の構築に費やし、守りを固め、使い魔で情報を収集し、敵を迎え撃つ方針を取った。
 ロールによって与えられた家屋を要塞化し、防御力を高め、その行動に落ち度はなかった。
 落ち度があるとすれば、運が悪かったことだ。
 構築した陣地を外から粉砕するような、馬鹿げた火力の持ち主に目をつけられてしまった。
 結果家屋は木端微塵に吹き飛び、キャスターも爆殺されてしまった。
 魔術師は、その下手人であるサーヴァントを見る。
 深夜とはいえ住宅地の家屋を堂々と爆破した大胆不敵にも程があるそのサーヴァントは、小中学生ほどの少女だった。

「はい終わり。こんな小細工あたしには通じないよ。で、あんた。死にたくなけりゃ知ってることと溜め込んだモン全部吐き出しな」
「だ、誰が……」

 虚勢を張り口答えすると、少女は面倒くさそうにじろりと睨み、何かを投げて寄越す。
 それは、飴玉だ。そこらの菓子屋で売っているような飴玉。
 しかし、それはこの少女の魔力によって再構築され、全く別のものへと変貌している。

「ぎゃあああああああああ!?」

 そして、飴玉は盛大に爆発した。
 火を撒き散らすものではなく、概念的な爆発現象。
 絶妙に死なない程度に加減されたそれを受け、魔術師は痛みにのたうち回る。

「さー首を縦に振らないとこのまま爆発で延々と路上を転がしちゃうぞー?」
「あ、あくま……」

 その一撃で魔術師は気絶してしまい、少女はつまらなそうにその頭を足蹴にする。
 数秒後、遅れてその場に駆け込む男の姿があった。

「ランサー!」
「遅かったじゃん、もう終わっちゃったよ。活躍できずご愁傷さま」
「遅かった、じゃない! 派手な行動は慎めって言っただろ! 歩幅を合わせろ!」

 灰色の髪の、耳と喉にピアスを付けた男だ。
 魔力の消耗に加え、自身のサーヴァントの行動に頭痛を堪えている。

「あんたこの程度でゼーゼーいってんの? マスターの才能ないねえ」
「言われなくても僕が一番よく分かってる……! クソ、これだから天才の類は……いや、そんなことより、そいつを捕虜にして早急に撤退するぞ。
魔術での隠蔽だって限りがあるんだ。今から逃げつつ足跡を消すが、ここまで派手にやった以上気取られない保証は」
「あっそ。じゃあ全部任せるわ。あたしは霊体化しておぶさってるから。精々がんばんな」
「お前ッ、お前も手伝えよ、何のためにお前に『隠蔽の魔術を教えた』と……」

 ランサーはあくびをしながら霊体化した。
 現場に残されたのは木端微塵の家屋、気絶したキャスターのマスター、そしてランサーのマスターのみだった。

「……ああ、クソッ!」

 結果、ランサーのマスター……カドック・ゼムルプスは、一人で捕虜を抱えつつ足跡を隠蔽し全力で走ることになった。
 幸運にも、そしてカドックの努力もあって、その事件は翌日大々的に報じられはしたが、その下手人が彼(のサーヴァント)であることは気取られなかった。
 表の世界にも、裏の世界にも。

「ランサー、何度も言うが僕の魔力ではお前を支えきることはできない。消耗戦ができないんだ。敵に発見され情報を流されたら命取り……」
「はいはい分かった分かった。あんたの雑魚アピールはもう耳タコだよ」
「……分かったなら、無駄に火力を上げず節制に勤めてくれ。お前の宝具は威力を自在に調整できるのが取り柄だ。
お前が敵の耐久力を見極めて必要な分だけ威力を上げてくれれば、僕の貧弱な魔力生成力でもなんとか」
「やだね、かったりぃ。性に合わない。あたしはあたしの好きなようにやる」
「こ、こいつ……!」

 工房化した拠点にて、コロコロと飴玉を口の中で転がすランサーはカドックの説教などどこ吹く風だ。
 その問題児っぷりに、カドックは何度目かも分からない頭痛を堪えた。

 この異界東京都にてカドックの召喚したランサー……アクアは強力なサーヴァントだ。
 そのステータスはランサーというよりキャスターであり、本人も本来のクラス適性はキャスターだと言っているが、ならキャスターで召喚されて欲しかったと思う。
 異世界の魔法使い……飴玉を爆弾に変えるという物騒な宝具を持つ魔法少女は、それが唯一にして絶対の攻撃手段。
 そう、Aランクの対人宝具による魔術攻撃を通常攻撃として使用するのだ、弱いはずがない。
 例え三騎士が相手だろうと、対魔力など何の問題があろうか。
 飴玉一つだけでも家屋一つを木端微塵にする威力があるというのに、こいつはそれを気ままにダース単位で投げつける。
 それだけで、大抵のサーヴァントは倒せてしまう。

 しかし、それが許されるのは彼女に生身があった場合の話だ。
 彼女はサーヴァントであり、その攻撃を行うための魔力を賄うのはマスターであるカドックだ。
 そう、このランサーは強い。しかしあまりに火力に振り切れすぎている。
 難しい、実に気難しいサーヴァントだ。キャスターであれば陣地作成で賄えたというのに。

「別に、あんたの采配に従ってないわけじゃないだろ? あたしは別に戦闘狂とかじゃないし。
ダラダラしてていいならダラダラしてるよ? あんたが『あのキャスター陣営は情報を蓄えている、捕虜にしたい』って言ったんじゃないか」
「ああ言った、言ったさ。そして結果だけ見ればそれはうまく行った。そこに文句はない。勝手に出ていって戦闘を始めてるわけじゃない。
ただ……ただ……一度出ると決めたら、お前はひたすら目立つんだよ……! いちいちでかい破壊の痕跡を残すな!」
「ちまちまやるのはスッキリしないからやだ。戦うと決めたら容赦はしないよ。そこは譲れない線引ってことで。それとも、令呪でも使う?」
「馬鹿言うな、こんなくだらないことに令呪なんか使ってられるか。ただ、お前は脆いんだ。直撃を受けたらまずい、僕も補助はするが、気をつけてくれ」
「やられる前にやるさ。それでいいだろ」
「はあ……とにかく。これからあのキャスターのマスターから暗示で情報を引き出す。お前が相当痛めつけたからな、すんなり通るだろ。
今後は、しばらく潜伏期間だ。ランサー、お前には本格的に僕の魔術を『学んで』もらうぞ」
「へえ? そりゃ別に構わないけどね。マスター、それを許容するのかい?
あんたみたいな劣等感とプライドの板挟みになってるようなのが。ずっと渋ってたじゃん?」

 ニヤニヤと見透かしたように言うアクアに、カドックは苦虫を噛み潰す。
 このランサー、アクアは、カドックの嫌う『天才』に属する少女だ。
 例え100年間研鑽する時間があったとしても、彼女は一代で大成した才能の塊。
 カドックは、アクアを決して良く思ってはいない、いないが。

「お前のことは気に入らないさ。無遠慮に僕の魔力を持っていくことも、天才特有の下を見ない振る舞いも。
けど、それはそれだ。お前は強い。戦略を間違えなければ十分に優勝を狙えるサーヴァントだ。
なら、負ける訳にはいかない。僕は、もう二度と敗北を許容しない。どれだけ惨めに這いつくばっても、最後の勝利を狙う。そう、誓ったんだ」

 彼女に、アナスタシアに。
 この戦いに勝利して、その先自分はどうなるのか、それは分からない。
 だが今は、浅ましく目先の勝利に執着しよう。魔術師らしく、狼らしく。

「ふーん……獣だね。あんた」
「は? 急に何だ。そりゃ、僕の家の魔術は獣狩りの魔術だが」
「そう、そこ。陰気を気取ってるけどわっかりやすく自分に正直。その上で、戦いに手は抜かない。できることを何でもやって格上にも食らいつこうとする。
あんたとミカゼは……いや、やっぱ全然似てないわ。ミカゼは何だかんだ体術の才能は抜きん出てたし、あんたみたいに陰気臭くないし」
「認めたのかやっぱり貶めてるのかどっちだ」
「勿論馬鹿にしてんのさ、ケケケ」

 ま、及第点か。アクアはそう判断した。少なくともボンクラに召喚されるよりはいい。
 自分にも願いはある、勝って聖杯を手にしなければならない。
 背中を任せるには頼りないが、まあそこそこの力にはなりそうだ。
 そうして、二人は反りの合わないまま心を決めた。
 この一時の相方を使って、聖杯戦争を勝ち抜くことを。

「じゃ、あたしは駄菓子屋のおばあちゃんのとこで飴玉買い占めてくるから」
「目立つって! 言ってるだろ! 通販を使えよそんなもん!」
「はー!? 品質も定かじゃないカタログだけで飴を選べるわけ無いだろバカタレ! あのおばあちゃんの飴玉が一番質がいいんだよ!
これはあたしにとっての礼装ってやつなの、分かる? 礼装に手抜きの材料使うのかあんたは、あー?」
「こ、こいつ……! 魔術師として絶妙に認めざるをえない屁理屈を振りかざしやがって……! クソ、僕もついていくからな、暴れるなよ!」

 前途は非常に多難である。
 しかし、並大抵の壁であれば、カドックの努力とアクアの爆発はそれを問題なく打ち砕くだろう。
 打ち砕いだ余波で、更に前途は多難になること請け合いなのだが。


【クラス】
ランサー

【真名】
アクア@マテリアル・パズル~神無き世界の魔法使い~

【パラメーター】
筋力E 耐久D 敏捷D 魔力A 幸運B 宝具A


【属性】
混沌・善

【クラススキル】
対魔力:E
魔術のダメージ数値を多少削減する。
彼女は生前の事情により魔力ダメージへの抵抗力が皆無に等しかったため、本当に申し訳程度の対魔力しかない。
対抗するくらいなら破壊力で相殺するのが彼女流の対魔力なのだろう、多分。

【保有スキル】
破壊の魔力:A
アクアの魔力が持つ起源であり特質。
とにかく破壊することに特化した魔力は攻撃魔術やその威力を高めるための補助効果、魔力効率に大幅な補正を加える。

傍若無人:B
どこまでも身勝手なクソガキ。
自分が快適に過ごすためならだいたいの悪事はやる。けど自分以外の悪党は許さない。
敵ごと家屋を粉砕するわ、近所の畑から作物を盗むわ(自分の手は汚さない)、味方以外の敵どころか中立の存在に対しても容赦がない。
典型的な『自分にとって善いと思うことを躊躇いなく実行する』善属性の持ち主。
自己を強く主張しない対象に対し、あらゆる行動にアドバンテージを得る。
このスキルに抗うには一定以上の精神強度が必要。

マテリアル・パズル:A
万物に宿る根源的エネルギー『マテリアル・パワー』を組み換えることにより、既存の力を全く異なる性質を持つ別の力に生まれ変わらせる。
編み出す魔法に何1つ同じものはなく、即ちそれは己のみが設計図を所有し組み立てることのできる『新たなる法則』である。
習得難易度は高く、1000人に1人の才能ある人間が、20年適切な指導の下修行をしてようやく『習得』できるかどうか、というもの。
アクアは最高位の魔法使いであるバレット王の指導の下、僅か8年で『魔法』を習得した天才。
このスキルの持ち主はあらゆる魔力が関わる術理に対して高い理解力を発揮する。
Aランクともなれば異なる術理であろうとそれが実行可能なものであれば理解吸収し、己の力とする。
各世界において個人の特質ではない汎用的な術式であれば、アクアはそれを学び行使できる。
過去の戦いにおいてラセン国の秘術である『陣術』を、簡単な基礎講釈を受けただけで自分のものとした逸話の具現でもある。

【宝具】
『スパイシードロップ』
ランク:E~A 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:50人
アクアが習得し極めた彼女だけの『魔法』。自身の魔力を飴玉に込め、飴玉を破壊の爆発に変換する。
尚習得したての頃は『破壊の爆発』ではなく『花火』だった。現在のランクと威力は以降60年の更なる研鑽による賜物。
魔法による爆発のため科学的な理による威力の軽減は不可能、本人曰く素粒子単位での分解に近いもの。
込める力の大きさにより威力を調節可能、家屋を木端微塵にする威力から気に入らないパシリをしばく程度の威力まで自由自在。
尚、この宝具が彼女の通常攻撃である。

『ブラックブラックジャベリンズ』
ランク:A+ 種別:対城宝具 レンジ:1~50 最大補足:500人
スパイシー・ドロップの奥義。
複数の飴玉を触媒にして威力を相互増幅し解き放つ『陣術』。
解き放たれたスパイシードロップの魔力は直射線上の全てを貫く『黒い槍』となる。
魔力を込め陣を拡大するごとに力を相乗させていくため、チャージ時間が長いほど威力は際限なく上昇していく。
一分間のチャージがあれば最高クラスの対城宝具に匹敵する威力を発揮できる。
この宝具の名が彼女のランサークラス適性の所以であり、クラス補正により更に威力は向上している。

【weapon】
棒のついていない飴玉:適当にばらまいたり空中に設置したりする。
棒つき飴:接近戦で敵に叩きつける。
スーパーキャンデー28号:自身の身の丈ほどもある巨大な棒付きキャンディ。その大きさからスパイシードロップの威力も折り紙付き。

【人物背景】
かつてドーマローラという国に住んでいた妹思いで飴玉好きの活発な少女。
しかしある事情で国が滅び、瀕死時の重傷の中ティトォ、プリセラと体と魂を共有することで生きながらえるが、不老不死となってしまう。
当時13歳であったため、13歳の姿のままその後100年の時を過ごすこととなる。
修業を重ね、国を滅ぼし世界を滅ぼそうとしている元凶と相対するも、敗北。
魂を共有していた状態から無理矢理かつての3人に引き剥がされ、アクアはティトォを庇い海に落ち行方不明となる。
そして3年後、世界の命運を懸けた最終決戦において彼女は復活を果たすのだが……サーヴァントの彼女に、その時の記憶はない。
よって本来の彼女の『全盛期』を象徴する最終宝具『廻天の術』はロストしている。ぶっちゃけ最終決戦は現在本誌連載中なのでこの辺は出しにくい。

【サーヴァントとしての願い】
彼女の記憶は『行方不明となった直前』のものであり、その先の記憶はない。自分が生きているのか死んでいるのかも分かっていない。
聖杯にかける願いとしては、もし最終決戦に自分が間に合わなかったのであれば聖杯の力で駆けつけること。
それ以外では、自分の思うままに好き勝手過ごす。邪魔するやつは爆破する。

【マスター】
カドック・ゼムルプス@Fate/GrandOrder

【マスターとしての願い】
生き残り、勝利し、聖杯を手にする

【能力・技能】
高いレイシフト適性とマスター適性。しかし反面魔力量には乏しい。
基礎的な魔術に加え、対獣魔術を得意とする。猛獣退避、臭跡追跡、獣性付与など。
その魔術適性から野外活動もプロ並みにこなせる。

【人物背景】
カルデアAチームの一員。ロシア異聞帯を率いて第二部最初の敵として立ちはだかったクリプター。
魔術の才には乏しいがそれでもAチームに選ばれるだけの実力はあり、研鑽と努力を怠らない。
時間軸としてはトラオムの前、治療ポットで眠っていた頃からの参戦。

【方針】
この聖杯がどこから来たものであれ、これが聖杯戦争であるならば魔術師として勝ち残り聖杯を手にする。
かつての自身のサーヴァントの献身に賭けて、二度と敗北を受け入れはしない。
本戦に向けて情報を集め、しばらく潜伏期間とする。
その間に、アクアに『魔術』を教える。

【備考】
ランサーの皮を被ったキャスター。全てを破壊する魔力を備えるが、近接戦は脆い。
しかし買い貯めした飴玉を雑に振りまいているだけでも火力面では十分に強い、通常攻撃が宝具級のガキ。
また術を扱う協力者を得ることでマテリアル・パズル:Aによりその術理を取得できるチャンスが発生し、汎用性が広がっていく。
露払いもできる火力砲台であり、強敵相手には如何にチャージしたブラックブラックジャベリンズを命中させるかが肝。
圧倒的パワーの持ち主ではあるが、ちょっとしたミスで落ちかねない危うさがある。
マスターとの相性は、正直良くない。
莫大な火力で敵を殲滅する宝具を持ちチャージ時間がそのまま威力と化すアクアは、魔力量に乏しいカドックでは十全に運用することはできない。
万全の戦闘力を維持するには躊躇うことなく令呪を切るか、戦闘回数を控え魔力を貯蔵し策略を巡らせる必要があるだろう。
しかしそれは耐久性に乏しいアクアにとってある意味最適な戦術でもあり、戦術相性で言えば悪くはない。
反りの合わない主従だが、反りが合わない上で一定の評価はしている主従。

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最終更新:2022年07月22日 23:49