「どうした?これで終わりか?」
「くっ…」
強い。肩で息をしながら騎士の如きセイバーは目の前の獅子の如き獣人のランサーをそう評していた。
使い魔らしき異形の魔物を多数引き連れた獣人のランサーに対し、セイバーと少女のマスターは数の利を生かせぬよう狭い路地裏へと逃げこみ使い魔を各個撃破していたがランサーが単騎で迫ると状況は一変、終始圧倒されるばかりであった。
多数の使い魔を操りながらキャスタークラスやライダークラスではなく、ランサークラスとして召喚されている本質をその大鎌を振るう手腕に感じる。個の武芸がそのまま配下の数に繋がる神代やより神秘の色濃い空想の世界の生まれだろうか。
ランサーがその剛腕で狭い路地裏をものともせず壁を切り裂き振るう大鎌をなんとか避けると、セイバーは背後の少女、己のマスターへ目くばせをした。
正面勝負では不利だが、逃げれば今度はこのランサーに加え多勢の使い魔に囲まれる危険がある。
ならば、イチかバチかこの場で令呪を切り己の宝具と合わせてのランサー打倒に賭ける。それがマスターと出した結論だった。
息を整え、セイバーは己の剣を構える。ランサーはそれを見てなお堂々と構え、相手を見下すような笑みを浮かべていた。
「行くぞ!ランサー!」
「来い、人間風情が。」
同時に、セイバーの背後で少女が令呪を切る。
セイバーは静かに、ただ目の前のランサーに己の最大の一撃を加える事だけを考えていた。
《令呪を持って命ずる。セイバー…》
命令が途切れる、セイバーの体がふっと体が軽くなった。
魔力供給が途絶えたことによる軽い虚脱状態だ。
後ろを振り返ると、己のマスターが腹部から生えた虹に貫かれ、息絶えていた。
その背後でにやにやと笑う、虹を背負ったメルヘンな少女がセイバーの目に入る。
マスターの見たアニメで言う“魔法少女”だったか。それがセイバーの最後の思考だった。
虹を背負った魔法少女、レイン・ポゥは倒れた少女の姿が変わらないのを見て残心を怠らず、そういえば目の前の相手は魔法少女ではなく普通の人間だったことを思い出して残心を解いた。
聖杯戦争、それ自体は耳慣れぬ言葉だったが似たような形式の戦いは耳にタコができるくらい聞いた。
クラムベリーの試験。イカれた魔法少女が起こした試験と称したイカれた殺し合いだ。
過程は碌に知らないが、結果は知っている。新人魔法少女に対してベテラン魔法少女クラムベリーが死ぬまで数え切れないほどの殺し合いが起こることになり、更にイカれた魔法少女がクラムベリーの子どもたちをかき集めた所、中でもクラムベリーの信仰者となって活動していたベテラン魔法少女が大多数を殺害した。
レイン・ポゥも相棒トコとともに即興魔法少女たちを作り捜査班とぶつかったことがあるから分かるが、戦いに慣れたものと慣れていないものの間には明確な差がある。自分も殺しの世界に身を置いて長い、勝ち残ることは不可能ではないはずだ。
「おい、女。なんのつもりだ?」
レイン・ポゥが足元の死体から顔を上げると、己のサーヴァントであるランサーの顔が目に入った。
その顔は怒りと侮蔑に満ちている。レイン・ポゥは隠すことなくため息をついた。
まずはこのサーヴァントとのやり取りを切り抜けなければならない。
「なんのつもりって…マスター殺っただけだけど?今までもアンタの魔物借りてこんなのやってきたでしょ。」
「貴様が勝手に動くもオレの部下を動かすも許してやったが、オレの戦場に茶々を入れるまで許した覚えはない。
オレはあの程度の人間に後れを取らん。余計な手出しをするな。」
また始まったよコイツ。レイン・ポゥはそう思った。
自分のランサー・獣王グノンは強い。魔力の問題があるとはいえ最大で十万もの魔物の軍勢を召喚する宝具は魔法少女の中では見たことが無いし、その上でランサー本体も魔王の一角として十分な戦闘能力を持っている。頭も切れるし普通に残虐だ。
しかし、性格が偏屈すぎる。どこに怒りのツボがあるのかわかりはしない。
コイツがキレるのは勝手だが、つけあがらせると一生調子に乗るタイプだろう。舐められるわけにはいかない。レイン・ポゥはわざと苛立ちを隠すことなくぶつけた。
「別にランサーが負けるとは思って無かったけど?むしろ余裕勝ち間違いないからちゃっちゃと終わりにしてやろうと思っただけ。なんか文句あるの?」
「勝ちに遅いも早いもあるか、人間の手出しなんぞいらん。」
「そうは言うけどさ、聖杯戦争に参加してる奴らって全員二人組なわけじゃん。こっちも二人で襲った方が公平な戦いじゃない?」
「公平なんぞ知るか、オレの戦場だ。」
テメーの言い分の方が知るかなんだよ。
レイン・ポゥはその言葉を軽く呑み込み、両手を上げた。
「わかったわかった。これからはランサーが戦ってたら殺っていいか聞いてから殺るって。それでいいでしょ?」
レイン・ポゥとしては即応性が落ちるしランサーの反応でバレかねないリスクを伴う余りやりたくはない提案だったが、コイツ相手にはいくらか譲歩せねば話が終わらない。
ランサーはそれを聞くとふっと鼻を鳴らして嘲るように笑った。
「女、貴様は戦いにこだわりはないのか。」
「ないない、勝てりゃどうでも良いでしょ。」
「当然だ。罠に掛けようが多勢で嬲ろうが最終的には勝てばいい。
だが、肝心なことが二つある。勝者が全てを得る事、戦う以上オレが勝つ事だ。貴様のやり方は所詮敗北を恐れるだけにすぎんな。」
所詮人間か、そう吐き捨てるランサーをレイン・ポゥは冷めた目で睨んだ。
レイン・ポゥからすれば戦いなど限りなく避けたい。最後に残った一人だけを殺して勝ち残れればそれでいいのだ。
本来の相棒、トコが恋しい。もういない、自分が殺してしまった。
大人しくついてきて助けてくれたたっちゃんが懐かしい。もういない、自分が殺してしまった。
あの二人を生き返らせるためには勝つしかなく、勝つためにはランサーとの結束が不可欠だが、心に滲む毒は尽きない。
なんでこんなハチャメチャに傲慢でド偏屈な野郎を引いてしまったのか、レイン・ポゥは自分を呪いたくなっていた。
「せいぜいオレの足を引っ張ってくれるなよぉ?女ァ」
己を見下ろし厭味ったらしくそう言って飛び去るランサーを見て、レイン・ポゥはうっせーよと思い舌打ちした。
どうやら自分は魔王と呼ばれる輩とはトコトン反りが合わない星の下に産まれたらしい、レイン・ポゥはこの先暗そうな展望を思いながら、再び深いため息をついた。
【クラス】
ランサー
【真名】
獣王グノン@ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷B 魔力B 幸運D 宝具EX
【クラススキル】
対魔力(炎):B
A以下の魔術は全てキャンセル。事実上、魔術ではランサーに傷をつけられない。
炎属性であるグノンは氷・風属性の魔術に対しては耐性がワンランク下がり、氷・風・雷以外の属性の魔術に対して耐性がワンランク上昇する。
【保有スキル】
獣王:EX
頑強・戦闘続行・カリスマの複合スキル。
獣(ビースト)兵団の主である称号であり、同様の異名を持つ別世界の軍団長は竜の騎士の必殺権を数度耐え抜いたとすら言われる。
獣王特権:A
勝者が全てを得る獣王の特権。
生前打倒経験・使役経験がある存在のスキルを一つ獲得可能。
ランサーはこれにより竜王(狂)から魔王のカリスマを獲得している。
魔王のカリスマ:A
魔性に対するカリスマ。
ランサーはこのスキルにより宝具『魔王軍』の範疇が種族を問わぬ全種族に拡大している。
【宝具】
『魔王軍』
ランク:EX 種別:対人理宝具 レンジ:100 最大捕捉:100000
生前獣王グノンがアリアハン平原の決戦にて率いた総勢10万のモンスター軍勢を召喚・使役する。
勇者アルス一行を苦しめたその物量も脅威であるが、何より恐ろしいのは獣王グノンの癇癪に触れ嘆願を聞き遂げられずに殺されたものまで居るというのにアルスの次代の勇者との決戦において復活した際も全軍が獣王グノンの命令に従い続けるその統率力の高さにある。ランサークラスでありながらこの宝具を所有していることからわかる通り、ランサーはこれに頼り切ることはなく、装備の一種に過ぎないと認識している。
また、聖杯戦争中に獣王グノンが『勇者』属性を持ったサーヴァントと対峙し、その属性を認めた際にはこの戦いを「勇者と魔王の戦い」であると定義し、ランサー、魔王軍団員と対象サーヴァントにAランクの単独行動能力を付与、三日三晩続いた悪夢の戦いを再現する。
『ハーケン』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:10 最大捕捉:4
ランサー愛用の大鎌が宝具となったもの。
ライノソルジャー数名がようやく持ち上げられるほどの重量があるが、ランサーはこの宝具を軽々とブーメランのように扱うことができる。
『獣王グノン』
ランク:A 種別:対勇者宝具 レンジ:50 最大捕捉:4
ランサーそのものである獣王グノン、その真の姿。
面に獅子の体、蛇の尾、翼を持つスフィンクスに似た巨大な四足の魔獣の姿に変身。剣王と呼ばれる聖戦士の刃が通らない強靭な体毛と飛行能力により敵を圧倒し、により勇者の援軍に駆け付けたアリアハンの軍勢を軽く蹴散らした低気圧を操ってのブレス「空圧砲」を必殺技とする。
【weapon】
ハーケン
【サーヴァントとしての願い】
魔界と世界を手中に収め、支配する。
?
【マスター】
三 香織@魔法少女育成計画limited
【マスターとしての願い】
トコと酒井達子を蘇らせる。
最終更新:2022年07月28日 20:55