「……あんたは、ナチスがユダヤ人に何をしたのか覚えてるのか」
ある地区の路地裏、血だまりの中、ロングコートの白髪の男と白い、戦闘服を着た女が佇んでいた。
男の名は岸辺。最強のデビルハンターを自称し、支配の悪魔を計略により撃ち滅ぼした男だった。
その後、新たな支配の悪魔を協力者の手に託した所で、突如としてこの聖杯戦争に参加させられた。
そうして襲い掛かってきた一組の主従を倒して、今に至る。
「『核兵器』は?」
「……この手で撃ち放った」「マジか」
戦闘服の女――ザ・ボスと名乗った彼女は、手を震わせながらそう呟いた。
「で、第二次世界大戦にも参加した。チェンソーマンに喰われちまった歴史の体現者....か、アンタは」
「『チェンソーマン』……?」
彼女は、何だそれは、とばかりに首を傾げる。
「....この様子だと、悪魔を知らないみたいだな」
岸辺はこれ以上は何も語らず、ウイスキーを飲む。
ザ・ボスは、それを苦い眼で見つめた。
「戦争中に酒を飲むとはな。...悪魔というのは、何かの比喩か?」
「...そのまんまだ。どうやら聖杯戦争というのに招かれたんだろ?」
岸辺は酒を飲み続け、人差し指を立てる。
一。「マスターの俺の攻撃はさっきの変な衣装のやつ....サーヴァントには通用しない」
二。「サーヴァントのあんたの攻撃は変な衣装に通用する」
三。「この状況は俺にとっては昼下がりの飲みと何ら変わらない平穏なものだ」
「....。」
ザ・ボスは呆れるが、同時に岸辺の独特な風格にも気が付き初めていた。
仮にとはいえ、戦争に巻き込まれてもここまでの余裕。そして尚、兵士にのみ分かる直観だが――この男、戦闘後から奇襲に対する警戒を全く怠っていない。
それは、例えば自分を生前殺してくれたジョン....スネークが順当に年老い、老人となって尚戦場に身を寄せる姿を想起させる物だった。
死体、適当に片づけておいてくれ、俺は飲みに行く、と岸辺は言い放ち、
「.....あ、一つ言い忘れた」
「....何だ」
岸辺はウイスキー瓶を持ちながら、こう言った。
「お前の願いは何だ?」
岸辺の目が鋭く光る。ザ・ボスは少し狼狽え、こう告げた。
「……何もない。私は国家に忠を尽くしたが……もう、何も残っていない。今は自分と、主に忠を尽くすだけだ」
「そうか」
岸辺は背を向け、呟いた。
「....国とか仲間のためにと思ってやった事でも、辛いことあるよな」
「……マスター、我々が戦った記憶すら抜け落ちた貴方に何が分かるというの?」
ボスは反論するも、岸辺は難なく躱した。
「只の一人言」
そう言って、岸辺は路地裏の出口から雑踏の中へ消えていった。
....と、思ったが、ひょっこり顔を出して、
「日本は俺が戻って後始末しないと面倒なことになる。俺の方はただ、戻るだけだ」
そう言って、本当に雑踏の中へ姿をくらませた。
「(『相対的な敵』、か)」
ザ・ボスは死体の痕跡を消しながら考える。
時流によって、絶えず敵は変移する。そして軍人は弄ばれる。
軍人の技術は仲間同士を傷つける為にあるのではない。
ザ・ボスの居た世界では、敵はいつの時代も同じ兵士であり、人間だった。
岸辺が話した所によると、岸辺の居る世界では人間以外にも「悪魔」という相対的な敵がいるらしい。
チェンソーの悪魔を巡り、ソ連、アメリカ、日本、中国は平和の元、争った。
それは別に構わない。語っていた支配の悪魔とやらが目指したように、悪魔の力によって戦争や死が消えれば、相対的な敵も消え、自身がジョンに託した意志とは別のやり方で岸辺の世界は一つとなってしまうのかもしれない。
そう言う意味では、キシベはありのままの世界を残すために抗った兵士の一人とも考えることもできた。
「(ならば、私も....最善を尽くそう)」
ザ・ボスという英霊には、二つの側面がある。
核を撃ち込んだ凶人として歴史に名を刻まれながら、任務を全うし、全面核戦争を抑止した英雄(愛国者)としての顔が。
デイビー・クロケット。
彼女を凶人たらしめた戦術核兵器は、現在も彼女の宝具として扱えるようになっている。
この戦いは、チェンソーの心臓を巡る争いとも、賢者の遺産を巡る争いとも違う。
国家に帰属しない、たった一人の身勝手な意思によって、世界は書き換わる。
もし、彼女が死の間際にスネークに語った、時間に関与しない、本来ザ・ボスの居る世界に居るはずのない「絶対的な敵」....あらゆる世界の人類の存続を脅かす恒久的な敵が此度の聖杯戦争で生まれる場合は、もう一度、その手段を確立させた後にこの手で東京に核を撃ち放つだろう。
例え撃ち滅ぼせなかったとしても.....あらゆる物が、犠牲となったとしても。
それが、「ザ・ジョイ」....運命と時代に翻弄され、戦う相手は常に人間だった者に対する、運命への反抗であり挑戦。
即ち、英霊としての、人間でない「絶対的な敵」への戦いの願いであり、喜びだった。
岸辺は路上で飲みながら考える。この聖杯戦争について。
飲酒でネジが緩んだ頭の中に入れられた情報によって、サーヴァントには歴史上の逸話を再現した「宝具」が与えられているらしい。
"「『核兵器』は?」
「……この手で撃ち放った」「マジか」"
マジか、というのは即ち、そういう事だった。
つまり、得体の知れない兵器持ちのサーヴァントと一緒に組まされているし、何より悪魔との契約により自分の体には魔力どころか何も残っていない。
令呪の使い方までは頭に入っているが、ボスに聞かされたナチスや第二次世界大戦と同レベルの悪魔の恐ろしさだったら、まずそんなものを勝手に撃ち放たれた日には確実に魔力切れで死ぬんだろう。
「...嫌んなったな」
ストレスは増えるし、酒の量も増える。
あのサーヴァントに使える手札は二つ。一、片手で持ってた銃。二、相手のサーヴァントを取り押さえるときに使った格闘術。
そんなもので、他のサーヴァント達の「歴史上の宝具」には勝てるとは思わなかった。
ならば、宝具を使われる前にマスターを殺すか、脱出の協力者を探すしかない。
岸辺は、念話でボスに問いかけた。
『聞こえるか、ザ・ジョイ』
『....何だ、マスター』
『俺たちは積極的に他のマスターを探して、身柄を拘束するか殺す。サーヴァントが出たらお前は待機してろ』
『分かった。気を付けろ、マスター』
【クラス】
アーチャー
【真名】
ザ・ボス@METALGEARSOLID3
【パラメーター】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力E 幸運D 宝具C
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
新しい英霊のため抵抗力は低く、ダメージを少し緩和できるのみ。
単独行動:A++
魔力供給なしでも長時間現界していられるスキル。
ザ・ボスの潜入工作員としての能力がスキルを向上させている。
【保有スキル】
射撃:A++
銃器による射撃全般の技術。
長年作戦行動に従事した実力により、宝具パトリオットを使用した戦闘では脅威に値する命中精度と威力を発揮する。
CQC:A++
クロース・クォーターズ・コンバット。
ザ・ボスが弟子であるジョンと共に開発した格闘術。主にナイフや関節技を用いる。
基本的には、背後から忍び寄るか相手に高速で駆け寄り〇ボタンかRTボタンを押す....即ち、アクションを起こすことで発動し、相手を気絶、あるいは速やかに殺傷する。
ザ・ボス程のレベルともなれば、連続で相手をねじ伏せる連続CQCやカウンターを前提にCQCを行うことも可能。
カリスマ(コブラ部隊):A+
軍団を指揮・統率する才能。
第二次世界大戦を終結させた「コブラ部隊」を率いた英雄であり、統率・訓練教育の才能に恐ろしく秀でる。
【宝具】
『パトリオット』
ランク:C+++ 種別:対人宝具 レンジ:1~100 最大補足:10人
携行兵器。XM16E1をベースに銃身を切り詰め、高い火力を誇る、
魔力が枯渇しない限り無限に発射できる他、正面から弾幕によるバリアを展開できる。
『デイビー・クロケット』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~1000 最大補足:5000人
彼女を「核兵器を撃ち込んだ凶人」たらしめた戦術核兵器の再現。
軍事要塞を粉々に消し飛ばすレベルの威力を誇るが、その分膨大な魔力リソースが必要となる。
【weapon】
パトリオット、CQC用のナイフ
【人物背景】
通称「ザ・ジョイ」。嘗て歴史上から情報統制により抹消され、それ以前には「凶人」として記録された女性兵士。
冷戦の最中、第二次世界大戦時に遺された莫大な遺産を回収する責務を全うした。
【サーヴァントとしての願い】
願いは無い。今の私は何も残っていない。
だが、この聖杯戦争に『絶対的な敵』がいるのなら、嘗て自身がひとつになるべきだと信じた世界の為にそれを撃ち滅ぼす。
【マスター】
岸辺@チェンソーマン
【マスターとしての願い】
脱出。無用な殺しはしたくないが、他のマスターが全員殺しに掛かる気/脱出の方法がないなら勝ち残る。
【weapon】
支配の悪魔と対峙した時に使用した拳銃・ナイフ
【能力・技能】
生来の肉体の強さと、デビルハンターとしての怪異全般に対する対処能力。
ただし、彼の体は契約で支払えるものがほとんど残っていない状態。
【人物背景】
自称「最強のデビルハンター」。
殉職者が多数出ている公安デビルハンターにおいて、50代にして現役、且つ高い実力を保つ。
能力は人間の範疇であるとはいえ、下等生物を支配できる悪魔からチェンソーマンを逃がす、中国の支配下にある少女を攫うなど、諜報面において実力の底が見えていない。
参戦時期は第一部終了後。
【方針】
マスターを順次狙って潰す。抵抗する気が無いなら保護、あるなら殺害する。
最終更新:2022年08月06日 00:02