「先生に、なりたいんです」

 竹刀袋を握りしめる。
 脳に刻まれた知識と、目の前にいるサーヴァントという存在を認識し、少女は決意を固めた。
 少女、川添珠姫は剣道をしているという以外は、ごく普通の少女だ。
 幼い頃母を事故で無くしたが、父の愛を受け、実家の剣道場で大人に混じって剣道に励んできた。
 そんな彼女からすればこの状況は、聖杯戦争というものは許し難いものだ。

「あたしは、特に理由もなく剣道をしていました。お父さんの、実家の剣道場の手伝いで。
あたしにとって剣道は家事みたいなもので、毎日当たり前にすることで。嫌いじゃなかったけど、好きでもなかったと思います」

 サーヴァントは、赤い髪の少年だった。
 見たところ、少女と1つ2つ程度しか変わらない、しかしそれでも、世界に認められた英雄だという。
 特撮の世界にいるような、若くして超人的な力を振るい世界を救うヒーロー。
 そんな存在が何人もいて、そもそもヒーローだけでなく悪者だっていて、願いを叶えるために戦い合う。
 少女では、到底及ぶものではない。
 けど、それでも。

「高校生になって、成り行きで剣道部に入部して……けど、そこでやる剣道は、楽しかったんです。
皆と一緒に練習をして、試合をして、友達になれて。こんなあたしのことを、頼ってくれるんです。
タマちゃんみたいになりたい、って言ってくれたんです。あたし、それが嬉しかった」

 あこがれをまっとうする自分でありたい。
 もっともっと、強くなりたい。
 剣道家として、友達として。
 そして何より……自分にも、あこがれるものがあるから。
 先生のように、誰かを導き、頼られる存在でありたいと、珠姫はそう願っているから。

「この戦いで、沢山の人が悩んだり、苦しんだり、困ったりしているなら、あたしはそれを聞きたい。
どうにもならないかもしれなくても、あたしがもし何かを示すことができるなら、それを諦めたくないんです。
あたしを一緒に、連れて行ってくれませんか」

 赤い髪のサーヴァントは、じっと少女の瞳を見つめながら話を聞いていた。
 少女もまた、相手の瞳だけを見ていた。
 そうして、彼も口を開く。

「沢山の人が死んでしまうところを見るかもしれないぞ」

「けど、救うことだってできるかもしれない」

「マスターが死んじまうかもしれない」

「それは、誰もが死んでしまうかもしれないということです」

「人死なんて、知らないほうが、絶対いいぞ」

「知らないままでも、きっと悔やみます。それにきっと先生なら、助けに行きます」

「……そっか」

 いくつかの問答を経て、サーヴァントはニカッと笑った。
 少女より年上にしては、戦いの絶えない異世界の英雄にしては、それはとても幼気な笑みだった。

「オッケー。いいぜ、マスター。一緒に行こう」

「! いいんですか?」

「ああ。誰かのために死ぬ、とか言い出したら考えもんだったけどな、そうじゃないだろ?」

「はい、死ぬつもりなんてありません。そんな事になったら、皆悲しんでしまいます。先生も」

「せんせい、か。なんかさ、そういうところも、似てるな。聖杯ってのは、そういう共有点のあるやつを相方に選ぶのかもなあ」

 少年はどこか、過去を偲ぶように空を仰いだ。
 珠姫の先生は、親しみのある良い先生だったのだろう。
 しかし、自分の師匠(せんせい)は……。

「俺にもさ、師匠(せんせい)がいたんだぜ。尊敬できる人だった。そう、だったんだ。
けど……あの人は俺を利用してて、俺を作った人で、戦うことになって」

「それは……」

 遠い遠い異世界の話。
 過酷で、沢山の人が死んで、多くの災害があって。
 そんな遠い話を珠姫はあまり共感することができなかった。
 しかし、先生と決別してしまった、その悲しみだけは理解できた。
 きっと今も、彼は後悔している。

「俺、なーんにもなかったんだ」

 彼は、詐称するものという意味を持つエクストラクラスだった。
 世界を騙す、偽り人のクラス。
 そしてそれに相応しい経歴を、彼は持っていた。

「誰かの代わりとして生み出されて、利用されて、捨てられた。その時まで疑問に思うこともなかった。
ただ、なんとなく生きてきた。けど、それじゃいけなかった」

 空っぽの少年。
 それは少女と同じく、ただ環境のあるがままに信念を持たずに育った。
 だから少年は既に、少女のことが好きになっていた。
 二人は互いの半生に共感し、共に戦って欲しいと感じていた。

「不完全な技術で生み出された俺には欠陥があった。このままじゃダメだって、自分なりに頑張って、けどそれは所詮自分なりでしかなくって。
沢山のことを間違えながら、答えを探して。分かったことが、一つだけある」

 誰もが、一つの命であること。
 苦悩しながらも答えを探す時間を与えられるべきだということ。
 誰かのために生きること、誰かのために死ぬこと、それは信念の果ての答えであるべきで、強要されるべきではないこと。
 それが、少年の至った命の答えだった。

「君の『誰かのためになりたい』って願い、俺も手伝いたい。たとえ相容れず、戦うことになっても。
俺、精一杯マスターを守るよ。俺じゃ、頼りないかもしれないけれどな」

 だから、二人は誰かのために戦える。
 それは誰かを寄る辺にするためでもなく、そうしなければならないという強迫観念でもない。
 ただ、自らの夢と信念に基づいてそうしたいと思ったから。

「頼りないなんてことないです。ありがとうございます、一緒に戦いましょう。ところで……なんて呼べばいいですか?」

「ん? ああ――まあ、ここじゃ真名ってのはそんな重要でもないらしいけど……『プリテンダー』でいいよ。
しっかし聖杯ってやつも、俺にお似合いのクラスを持ってくるよなあ」

 少年の諧謔を含んだ物言いに、珠姫はムッとして反論する。
 年頃の少女が友人を呼ぶには、なんとも刺々しい名称だった。音の響きも気に入らない。

「ダメです、それ、そんなにいい意味ではない言葉じゃないですか。そんな風に呼ぶのは申し訳ないので、ちゃんと名前を教えてください」

「そ、そうか? じゃあ、俺の名前は――」


【クラス】
プリテンダー

【真名】
ルーク・フォン・ファブレ@テイルズオブジアビス

【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運C 宝具A

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。
事実上現代の魔術師ではプリテンダーに傷をつけることは出来ない。

騎乗:C
乗り物を乗りこなす能力。騎乗の才能。
「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
Cランクであれば正しい調教、調整がなされたものであれば万全に乗りこなせる。

偽装工作:D
ステータスおよびクラスを偽装する能力。
Dランクであれば、いくつかのステータスを隠蔽又は改変し相手に見せることも可能。
主に一部のステータスを低くし誘いに用いるか、逆に高くすることで威嚇に用いる。
生前においてルークは別に振る舞いを偽っていたわけではないのでスキルランクは低い。

精霊の写身:A-
ルークは音を司る第七音素意識集合体『ローレライ』と固有振動数を同じくする完全同位体である。
ローレライは別世界の基準においては所謂最上位の精霊とも形容できる。
ルーク本人は精霊というわけではないが、ローレライと共鳴しその権能の一部を振るうことができる。
自身の属性に『精霊』が付与される。

【保有スキル】
聖なる焔の光(偽):A
『ND2000 ローレライの力を継ぐもの、キムラスカに誕生す。其は王族に連なる赤い髪の男児なり。
名を聖なる焔の光と称す。彼はキムラスカ・ランバルディアを新たな繁栄に導くであろう』
ルークはこの予言によって生誕した存在ではないが、『本物のルーク』に成り変わり予言に記された運命と戦い世界を救った。
歴史上に発生する試練に対抗する正当な英霊としての底力、運命力をルークは保持している。
故にルークは正当なセイバーの適性を持つが、彼は自身が偽者であることをルーツとして認めているためプリテンダーとしての適性も持つ。

アルバート流:C+
ユリア・ジュエの弟子にして後の夫であるフレイル・アルバートが興したホド特有の剣術で、盾を使わず攻撃力に長けているのが特徴。
無手でも戦えるようにすることを念頭に置かれているためか、烈破掌や崩襲脚など格闘技も多い。
ルークはこの流派の基礎を修めているが、以降は正当な鍛錬ではなく過酷な旅の中で力を培うこととなった。
そして培った力は遂に、己の片割れを、師さえも超えた。

菩提樹の悟り:E
世の理、人の解答に至った覚者だけが纏う守護の力。 対粛清防御と呼ばれる“世界を守る証”。
そう呼ぶにはあまりにも拙い答えではあるが、ルーク・フォン・ファブレが悟った『生まれた意味』。
特別な意味がなければ己の存在を許せなかった偽者の少年が、ただ一つの命としてこの世に生きたいと叫んだ原初の願い。
Eランクであればあらゆるランクの物理、概念、次元間、精神攻撃に対し抵抗する余地を生み出す。
スキル「神性」を持つ者はこのスキルの効果を無視出来る。

【宝具】
『超振動(レイディアント・ハウル)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:10人
まったく同一の振動数を持つ音素(完全同位体)が干渉しあうことで起こる、ありとあらゆるものを分解し再構築する力。
第一から第七まで全ての音素で発生しうる現象だが、第七音素で起こった場合の破壊力は他を遥かに上回る。
ルークはローレライの完全同位体であるため、自力で超振動を起こすことができる。
しかしルークの超振動は劣化しているため威力は本来の6割程となる。

『ローレライの鍵』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
第七音素を集結させる力を持つ剣。
発動することによりルークの力の精密操作能力が格段に向上し、魔力効率を向上させる。
更にこの宝具を装備中、宝具『第二超振動』を使用可能となる。

『第二超振動(ロスト・フォン・ドライブ)』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:1人
ローレライの鍵を装備している時のみ発動可能な最終宝具。
オリジナルとレプリカ、二人の完全同位体の超振動を合わせることによって発生する『全ての音素の力を無に帰す力』。
ルークは生前オリジナルであるアッシュの力を受け取りこれを行使可能となった。
その威力は通常の超振動の比ではなく、あまりに高威力であるため制御の観点からもルークはこの力を対人以上の範囲で使用しない。
莫大な魔力を消耗するが、斬撃の効果範囲である直線上の対象を完全消滅させる。
『力を無に帰す』という性質上敵の宝具に対抗する際更に莫大な補正を得るため、およそ相殺できない宝具は存在しない。

【weapon】
片手剣
ローレライの鍵

【人物背景】
『ルーク・フォン・ファブレ』の劣化レプリカ。
生まれた意味を知らなかった偽者の少年。
その旅の果てにオリジナルとの対話を経て、彼は偽者であることを肯定しながらも自身が一人の命であることを肯定した。
特別な意味がなくても、誰かに必要とされなくても。
生まれたことに意味なんて無い、ただ、俺はここにいる。

【サーヴァントとしての願い】
生きたい。


【マスター】
川添珠姫@バンブーブレード

【マスターとしての願い】
人を守るために戦う。

【能力・技能】
全国クラスの剣道の腕前。
剣道は精神修養を第一目的としたものであり、窮地での護身は勿論精神強度は一学生としては非常に高い。

【人物背景】
川添道場の一人娘。
幼い頃から道場で剣道をしていたが、そこに何か具体的な目的があったわけではなく、真面目にやってはいたが惰性にものだった。
唯一の趣味といえば特撮鑑賞。『ブレードブレイバー』を初めとするシリーズが大好き。
高校に入学するまで目的もなく剣道に没頭し、それゆえに部活の剣道部にも興味を示すことはなかった。
しかし剣道部顧問の先生のしつこ、もとい熱い勧誘を受け、剣道部への入部を承諾。
そこで彼女は部活としての剣道を、自分を慕ってくれる同級生たちを、何故自分は剣道をし、その果てにどうなりたいのかを知っていくこととなる。
剣道をすることに目的なんてなかった。けれど、そんな自分を尊敬し目標とし追いつきたいと言ってくれる友人ができた。
たとえこれまでの自分に理由がなくても、自分は皆を導く標となることができる。
そして、川添珠姫は一つの招来への展望に至った。
『剣道をすることで、誰かが喜んでくれることが好きです。剣道部の皆と剣道をするのが好きです。コジロー先生みたいになりたいです。それがあたしの目標です』
空っぽだった少女が初めて自分を見つめ、剣道を見つめ、そして至った答えだった。

【方針】
戦いに出る。説得できる人は説得する。
戦うしかないのなら、戦う。けれどマスターは殺さない。犠牲者も容認しない。
たとえNPCだろうと、聖杯からの情報以外で判別できる要素がない以上意思を持ち血を流す人として扱う。

【備考】
レプリカルークにプリテンダーとかいうクラスを与える尊厳凌辱。ジアビスの皆さんは激おこ案件。
完全なる善陣営。ルークには聖杯が手に入ったら受肉したい、くらいの願いはあるが誰かを傷つけてまで願うものではない。
マスターが何処までも真っ直ぐで良識ある少女なのでルークの卑屈癖はある程度押さえられるでしょう。
ステータスとしては平均的なセイバーだが、宝具『第二超振動』が極悪。
その本質は対宝具迎撃宝具とでもいうべきもので、敵の宝具が強力であればあるほど突き刺さり負担を強いる。

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最終更新:2022年08月06日 00:03