すべてを終わらせた私に願いなんてない。
 けど本当は、もう一度だけ、貴方の声を聞きたい。
 私の悲しみの終わり、私の憎しみの果てに。
 黒き憎しみの炎の中で、降りしきる苛立たしい五月雨の中で。
 今も私は、貴方の声を夢見ている。



 如何に栄えた都市であろうと、光と闇は表裏一体。
 発展と治安は必ずしも比例せず、東京という都市にも一般的に近寄ることを推奨されないエリアは多数存在する。
 そんな治安の良くないエリアの付近では、ある一つの噂話だった。

『凄腕の占い師がいるらしい』

『コールドリーディングってやつ? 少し話をしただけでこっちの言いたいことをズバズバ当ててくるの』

『すごい陰鬱そうな女の子がえらく辛辣な物言いをしてくるんだけど、これがまあぐうの音も出ない正論で』

『ムカついて喧嘩売ったやつがいたけど、不思議な力で廃人にされかけたとか何とか』

 不思議な和装をした怪しげな少女が、裏通りの奥地で決まった曜日に占い店を出している、という話だ。
 店と言っても、路地の脇に簡易テントを張りテーブルを出して座っているだけらしいのだが。
 噂話をしているのは主に所謂不良、中には半グレや暴走族に片足突っ込んでいるようなものもいる。
 そういった場所に出入りすることに躊躇いのない層から聞こえる話だ。

 さしたる広がりではなく、未だごく少数のみが認知している噂話。
 一般の人にとっては真偽も定かではないものではあるが……それは、概ね真実であった。




 雨の降る薄暗い裏通り、汚れたアスファルトと排気が雨と混ざり合う中に、その店はあった。
 雨避けの簡素な組み立て屋根の下に、特にそれといった道具も並んでいないテーブルがある。
 そしてその奥に座っている、錫杖を携えたまるで疲れ切った老人のような白髪の女がいた。
 絶望に彩られた瞳に反し、それは未だ齢20も超えた様子のない少女だった。
 横髪の一部に朱色の名残が根ざしているのは、彼女の白髪が生来のものではないことを示している。
 極限下のストレス負荷により、本来の色を失った故の白色だった。
 大雨の裏路地を通る人は少なく、時折傘を差した会社員が不思議そうに少女を見て、通り過ぎていくばかり。
 占い師の少女はぼんやりと、雨を降らせてくる暗き曇天を仰ぎ眺めている。

「こんな雨の日くらい、店を出さなくても良いでしょうに」

 それは、占い師の少女の言葉ではなかった。
 少女の隣、もう一つ用意されていた空き席に、突然現れたサーヴァントのものだ。
 占い師の少女より更に幼い、美しい銀髪をたなびかせた黒いドレスの少女だった。
 しかしその口調に幼さはまるでなく、老獪で妖艶な女性のそれだった。

「晴れていようが雨だろうが関係ありませんよ。占い屋は毎週決まった曜日に出しているので」

「こんな薄汚い環境につきあわされる私の身にもなって欲しいのだけれど。帰っていいかしら?」

「すいませんね、なんだか二人いないとしっくりこないもので。昔の相方は、ここにはいませんから」

「生きていた頃ではないのだから、あえて劣悪な環境に身を置くこともないんじゃなくって?」

「美しかった頃に回帰できるほど、綺麗ではないでしょう? 貴方も、私も」

「別に好きで泥を啜っているわけではないでしょう?」

「別に泥が好きなわけではありませんが。私は、こちらのほうが落ち着くので」

「難儀なマスターに当ってしまったものだわ」

「貴方も十分難儀なサーヴァントですよ、キャスター」

 二人で屋根の下、雨の音を聞く。
 忙しない環境音、やかましい静けさの中で。
 この世界に招かれてから、サーヴァントを召喚してから、かつてのように占い屋を出すようになってからもうしばらくたつ。
 各地では既に戦いが始まり、脱落したサーヴァントも死亡したマスターもいることだろう。
 しかし占い師の少女は、変わらない。
 誰と戦うでもなく、こうして目立たない場所で、しかし必ずしも見つからないとはいえない場所で、占い屋を営んでいる。
 その事に対しサーヴァントの少女もまた劣悪な環境に対する形式上の文句を言うだけで、異論を挟む様子はなかった。

 二人の少女は、見る人が見ればまさに恐ろしい怪物そのものだった。
 人外の力を内包し、世界を滅ぼしうる術式を手にし、他者を殺すことへの躊躇もない。
 双方ともに混沌・悪のアライメントを持つ、生前は数え切れぬ程の人々を殺戮した悪魔のような少女だ。
 しかし、少女たちはただ空を見上げる。
 嘗て燃え盛っていた炎は胸の内の種火となり、再び燃え上がらせる理由がなかった。
 全ては、終わったことだった。



 ふと、通りを小学生ほどの男の子が通りがかった。
 ここの治安のことを知らないのだろうか、長靴で水溜りを踏みしめ、カラフルな傘を回している。
 そしてそれは、反対側からやってきたガラの悪い青年とぶつかった。
 倒れ込む男の子と、にらみつける青年。
 びしょ濡れになり既に泣きそうな男の子は、青年に胸ぐらを掴まれ苦しそうに呻いた。

 よくある、悪しき光景だった。
 たしかに男の子にも非はあるだろうが、青年は軽くぶつかられただけで何ら被害を受けていない。
 ただムカついたから、苛ついたから、特に理由はないがそれっぽい理由をでっち上げて弱いものを虐げる。
 全くもって、いつも通りの世界の光景だ。

「あの」

 突然背後から声をかけられ、青年は振り返った。
 そして、闇のような暗い瞳に見つめられ、後ずさる。
 占い師の少女は傘もささず、雨の中通りに出て青年を見ていた。

「別に水をかけられたわけでもないでしょうに。手を上げるつもりですか」

 そのおどろおどろしい雰囲気に押されかけたが、それが小さな少女であると見るや青年は苛つきのままに暴言を吐いた。
 とっとと消えろ、とか、お前も同じ目に合わせてやろうか、とか、月並みなセリフを聞き流す。

「一過性の苛立ちですら無い。ただ殴りたいから殴る。善悪ですら無い、愚者にもなれない堕落者ですね。
警告します、その手を離して失せなさい、塵屑」

 そして、分かりきっていたことだが青年は拳を振りかざした。
 占い師の少女はため息を吐き、蔑んだ目でそれを見る。

「では――仕方ありませんね」

 そして、瞬間青年は『燃え上がった』。
 全身を真っ赤な炎が覆い、皮膚が焼け付き、肺の中の空気が熱されていく。
 それをただただ、果てしない痛みとしてだけ青年は認識した。
 何が起こってるか分からず、焼けたまま一瞬呆け、そしてようやく痛みを理解する。

「ひっ、火、火、火ィ!? た、たすたす、け、たすけ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!??」

 青年は『燃えたまま』路地を転げ回り、汚い悲鳴を撒き散らしながら奥へと走り去っていく。
 走り去ったところでどうなるというのか、身の程を知らなかった青年はやがて、ある程度走ったところで息絶えるだろう。
 そのように、占い師の少女は調整した。

「貴方、大丈夫ですか」

 そのような恐ろしいことをしでかしたままに、占い師の少女は転んでしまった男の子に手を差し伸べる。
 しかし男の子は、まるで怯える様子を見せずその手を取った。

「すっげー、姉ちゃん! 『何もしてない』のに追っ払っちゃった! あいつ、どうしたの?」

「さあ、どうしたんでしょうね。忘れ物でも思い出したんじゃないでしょうか」

 男の子には、『燃え上がった』青年の姿など見えていなかった。
 ただ突然苦しみだし逃げ出した、そうとしか見えていない。
 青年の体が『燃え上がった』のは青年にとってのみの事実であり、男の子にとっての事実ではない。
 だから、今目の前でどのようなことが起こったのかも、理解していない。

「それよりも。こんな大雨の中でわざと水溜りに足を突っ込んではしゃぐからこのようなことになるのです。
好奇心旺盛なのは結構ですが、貴方は未だ小さくか弱い。必要でない危険は遠ざけることを心がけなさい」

「うっ……けどさあ」

「けど、ではありません。規則正しい生活、人を傷つけない義、正しいことを成す心を育みなさい。
言い訳を続けたまま成長すれば、良き未来は訪れません。先程のろくでもない男のようになりたくはないでしょう。
貴方はまだ幼い、だからこそ間違った成長を選ばないことです」

「姉ちゃんの言うこと、むずかしいよ」

「今は分からずとも、覚えておいてください」

「うーん、分かった!」

 先程何の躊躇いもなく青年に命を奪う幻術を仕掛けておきながら、男の子を見つめる占い師の少女の表情は柔らかいものだった。
 暗い面持ちの中にも、微かに愛らしい少女であった時代が存在したことを感じさせる微笑みだった。
 男の子の手を引き立ち上がらせると、ハンカチで汚れと水を拭いていく。

「いてっ、あー、擦り傷……」

「我慢しなさい、と言いたいところですが」

 痛みに顔をしかめる男の子の手を、軽く握りしめる。
 男の子はまるで明かりを直視したようなちかちかとした何かを感じた。
 なにか温かいものが体を満たしたと思えば、気付けば傷の痛みはさっぱり消えていた。

「痛みをなくす『おまじない』です。帰ったら消毒するように」

「すげー! ありがと、占いの姉ちゃん!」

 男の子は占い師の少女に感謝すると、路地を駆け出そうとし……思い出すように振り返って、静かに歩き出した。
 それを見送ると、占い師の少女は占い屋の席に戻った。



 水浸しのまま座ろうとすると、頭にタオルを被せられる。
 一部始終を眺めていたキャスターが、皮肉げにしていた。

「お優しいことね、マスター」

「そう見えますか、キャスター」

「貴方からすれば厳しいのでしょうけど、私からすれば十分優しいわよ」

「私は、できることをしているだけです。あれが、今の私にできるせいぜいのことですから」

「謙遜もそこまで行くと嫌味ね」

「事実ですが。実際、今の私は貴方の『虚無の魔石』の再現にマスターとして8割の力を常に消費しています。
できることといえばあの程度の幻術と、おまじないくらいのものです」

「別に再現して欲しいと頼んだ覚えはないのだけれどね」

「別に再現したくて再現しているわけではないんですけれどね」

 互いに呆れたように視線を合わせ、溜息を吐く。
 数奇な縁、数奇な共通点、それ故に不完全なれど復活してしまった力。
 このような采配を行う聖杯とやらは全くもって底意地の悪い存在なのだろうと、二人は確信していた。

「サーヴァントとしては力があるに越したことはないわ。そういう意味では有り難い。
けれど、せっかく彼が。『ヴェラード』がその手で砕いてくれた忌々しき不死の根源を、不完全とはいえ再び手にしてしまうとはね」

「男女の惚れた腫れたはよく分かりませんが、まあ、なんかすいません。嫌なら他のマスターを探しに行けばいいかと。
別に貴方であれば、私を殺しても構いませんよ」

「嫌よ。忌々しいけど、貴方以上に気が合うマスターなんてきっといないもの。私も貴方も、どっちも『やる気なんて無い』でしょ?」

「そうですね」

 再び、ぼんやり路地と雨模様を見つめ始める。
 抑揚はなく、意味も特にない、ただなんとなくの共感だけがそこにあるやり取り。
 五月雨には程遠い、真冬の雨模様。
 けれどこんな雨の日はいつだって、元々悪い気分が更に悪くなる。
 まあ、気分が悪いからなんだという話だが。



「ところで、惚れた腫れたの話だけど」

「はあ、まだ何か?」

「よく分かりませんは、それは嘘よねえ?」

「何ですか、嘘なんて言いませんが。恋愛沙汰なんてとんと縁がありませんよ」

 鬱陶しげに占い師の少女が否定すると、キャスターはにんまりと悪どく笑った。

「――『騎士を志望します! 姫、あなたへの愛を誓いましょう!』」

「ぶッ、ごほッ」

 突然放たれたその台詞に、占い師の少女は喉をつまらせた。
 それは、古い古い思い出の言葉。
 少女にとって何よりも大切な、幼馴染との記憶。
 このキャスターには知られているはずのないことだった。

「可愛い子じゃない。死ぬことも恐れず、姫を守る健気な騎士様ね」

「貴方……まさか私に『幻燈結界』を使っていませんよね……?」

「そんな野暮はしないわ。ただ見えてしまうだけよ。私と貴方なら尚更このと。貴方だってそうでしょう? 言いっこなしよ」

「…………」

 マスターとサーヴァントは、ラインで繋がる。
 そしてこの聖杯戦争では聖遺物の触媒は一切用いられず、縁のみが頼りとされる。
 召喚されるサーヴァントは必然何かしらの要素でマスターに近しく、それが善であれ悪であれ、本意であれ不本意であれ、ラインは強固となる。
 そして強固なラインを通じ、無意識の内に互いの存在を把握する、そう、夢という形で。
 そして、この二人は、そう、あまりにも『共通点』が多かった。

「偽りの正義によって故郷を蹂躙された貴方。世界に絶望した私。それを許せなかった貴方。この偽りの世の終わりを願った私。
炎と幻術を得意とする貴方。同志とともに忌々しき信徒共と争った私。死を覚悟し最後の戦いを起こした貴方。そして、終りを迎えた『私達』」

「私は、貴方ほど清々しく死んだわけではありませんがね」

「そんな貴方がマスターであるからこそ、私は通常の霊基すら若干逸脱し、『虚無の魔石』をスキルとしてだけど取り戻してしまった」

 キャスターは己の下腹部を撫でる。
 そこに、その中に、何かがあると言いたげに。

「こんなもの、『不死』なんて、得るものじゃないわ。けれど、これのおかげで私はあの人に、ヴェラードに出会えたの」

「…………」

「貴方はどう? 幼馴染に『不死』を与えてしまったことを、後悔してる?」

「……しているに、決まってるじゃないですか」

 幼かった頃の過ち。
 内乱に巻き込まれ重傷を負い、痛みを訴える親友に一心不乱に施した『おまじない』。
 痛くない、痛くない、痛くない、痛くない、痛くない、ただそれだけを込めたおまじない。
 ただただ無意識で、生きていて欲しいと願った幼い故の無垢で残酷な意思がもたらした、取り返しのつかない『呪い』。
 あの日から、彼女は。そして、それを自分はずっと知らないまま。

「もしあんなことをしなければと思わなかった日なんて、ありませんよ」

「けれど、願わないのでしょう?」

「願いませんよ。私の罪は、私だけのものではないのですから」

「そうね、罪深いことだわ。『良き死』を迎えられないことは。けれどそれを含めて、人生というもの。私の800年も、貴方の可愛い幼馴染の苦悩も、また」

 親友は、いつの間にか姿を消していた。
 何も知らない私に、私のせいであんな体になってしまったことを知られないために。
 そしてあの子は帰ってきて、私を連れ出して、そして。

「愛していた? それとも、憎んでいた?」

「どちらも。きっと、彼女もそうです」

 愛憎はまさに紙一重、愛する故に憎み、憎む故に愛する。
 美しいものを見た(おぞましいものを見た)。
 優しい人達がいた(残酷な人たちがいた)。
 世界はどこまでも広かった(世界はどこまでも間違っていた)。
 何も知らぬ小娘に親友が命を擲ってまでそれを教えてくれたのは、きっと愛情であり、同時に復讐だったのだ。

「そうね。あれほど愛したものはいない。同時に、あれほど憎んだものはいない。
愛する故に期待し、期待する故に裏切られる。けれど……けれど最後には、願いが叶ったわ」

「ええ。最後に聞いた声が愛する人の声である以上のことは、ありません」

 死の際に、彼女らの願いは既にかなっている。
 故に、聖杯に願うことは、ない。
 ここにあるのは嘗て存在した世を乱す残酷な悪魔、その信念の形骸でしかない。
 世界に絶望し、悪を成し、世界に殺された。
 例え未熟だらけの過程に後悔があろうとも、自ら選び取った結末に、後悔はない。



「『不憎』。憎しみが過ぎれば、心が押し潰されてしまう。絶望し、死を希ったこともあります。
けれど、私はその果てに新たな家を、家族を得たのです。こんな私が家族のために戦い、共に死ぬことができた。
その結末の、何を後悔することがあるでしょうか。私はもう『ボタン』ではない。ヴェーダ十戒衆の五番、『フューリー』なのですから。
貴方が『リゼット』ではなく、『リーゼロッテ』であるように」

「大したものね。私は憎まないことなんてできないわ。ただ、ただそれ以上に、ヴェラードが私を終わらせてくれた。
そのことが嬉しい。これ以上のことなんて無いし、これ以下のことなんてどうだっていいくらいにね。
けれど、ならば、これからどうするのかしら? 私のマスターは」

 闇に濡れた4つの瞳。
 この世の絶望という絶望を知り、悪逆を為した2人の稀人。
 しかし今はただ静かに、静かに、雨音の中にいる。
 今は、静けさだけがどこまでも心地よい。例え、五月蝿い雨音の中でも。

「まあ、一度死んだからってまた殺されてやるつもりはないので。私はこの異世界にて再び『正義』を問いしょう。
正しく人を救う信念、組織、社会の在り方を問い続けます。偽りの正義は、破壊されるべきですから」

「殊勝なこと。まあ私は正直どうだっていいけれど、せめてお気に入りの貴方に付き合ってあげましょう。当分は占い屋の相方のようだけど。
ああ、それと、もう1ついいかしら」

「はい、なんでしょう」

 細やかな情動、冗談の掛け合い。
 言葉は曖昧に、心の奥底で通じ合うことは、特別な絆だった。
 フューリーの陰鬱な表情を、リーゼロッテはゆるりと微笑みながら眺めて、言う。

「もし仮に願うとしたら、何を願う?」

「……それは、愚問というものでは?」

「そうねえ、じゃあ一緒に言ってみましょうか」

 それは、決まりきったお約束。
 勝手知ったる言葉遊び、解答欄を覗いた答え。
 それでも、視線と口を合わせたそれは何だか可笑しくて。
 つられて、フューリーも小さく笑みを零した。



「「――もう一度だけ、彼女(彼)の声を聞きたい」」



【クラス】
キャスター

【真名】
リーゼロッテ・ヴェルクマイスター@11eyes

【パラメーター】
筋力C 耐久E 敏捷C 魔力A+ 幸運E 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
陣地作成:A
魔術師として自らに有利な陣地を作成可能。
Aランクとなると「工房」を上回る「神殿」を構築する事ができる。

道具作成:A
魔力を帯びた器具を作成可能。
リーゼロッテは古今東西の大抵の魔術道具を作成することができる。

【保有スキル】
信仰の加護(異):A
一つの宗教に殉じた者のみが持つスキル。加護とはいっても最高存在からの恩恵ではなく、自己の信心から生まれる精神・肉体の絶対性。
ランクが高すぎると、人格に異変をきたす。
リーゼロッテはかつて敬虔なカタリ派の教徒であり、世界に絶望し神を憎んで尚今も信仰を貫いている。
彼女が一度は世界を滅ぼそうとしたのも、愛憎のみだけではなくカタリの教義に則ったものだった。

虚無の魔石:A
『翠玉碑(エメラルド・タブレット)』の大いなる欠片であり、1000年間闇精霊を吸収し漆黒の輝きを帯びた不滅の象徴。
本来はEXランクの宝具かつ通常霊基では到底再現不可能なものであるのだが、マスターとの最高峰の相性によってスキルとして付属している。
その効果である『完全なる不死性』と『無限の魔力』が劣化再現されている。
リーゼロッテは必要な魔力を消費することにより瞬時に失った肉体を再生可能とし、また自身は存在するだけで魔力を生成する。
劣化して尚魔術世界においては竜種にも等しい人外性を誇るが、このスキルはフューリーがマスターである時以外は機能しない。

バビロンの魔女:EX
炎の魔女、ルクスリアの魔女、大淫婦とも呼ばれし最も邪悪なる魔女、その忌み名。
欧州最強最古の魔女として800年もの間魔術世界に君臨し、破壊と混乱を振り撒いた逸話の具現。
その魔術は暗黒の太陽を創造し、その手管は国家を崩壊させ戦火を拡大させる。

【宝具】
『幻燈結界(ファンタズマゴリア)』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大補足:1000人
記憶や恐怖といった深層意識に働きかけて幻影を見せる暗黒魔術。
分類としては『固有結界』に該当する、幻影魔術の領分を完全に逸脱した異世界創造。特殊な条件を満たせば平行世界への干渉すら可能とする。
結界に取り込んだ対象の五感と精神を支配し、自身又は他者の心象風景から幻影の素材を蒐集しそれを投影具現化する。
具現化された風景や物質は本質的には幻影なのだが、精神支配を受けている状況下においてそれは実物に等しい。
他者のトラウマを刺激し精神崩壊を起こしたり、実体化した幻影による直接攻撃で対象を殺害する。
情が深いほど、強い信念を持っているほど、過酷の過去を持つほど、この幻術は心に突き刺さる。

『奈落墜とし(ケェス・ビュトス)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:惑星全土 最大補足:全人類
世界全土を対象に発動する人類鏖殺の大儀式魔術。
光精霊で構築された現世に暗黒の門を開くことで全ての光精霊を闇精霊に反転させることにより、全ての生物を死滅させる。
かつてリーゼロッテが行使しようとした世界を滅ぼす大魔術だが、現在のリーゼロッテはこの宝具を行使することはない。
人類鏖殺の理想は、かつてそれを語った愛する男によって否定された。
しかし理論と術式は確立されており、今でも必要な魔力と最適な霊脈があれば行使自体は可能ではある。

【weapon】
暗黒魔術を中心とした魔術攻撃。
また体術においても超一流であり人外の膂力を誇る。

【人物背景】
嘗てリゼット・ヴェルトールという少女であったもの。
南フランス、オクシタニアの城塞都市ベゼルスにて敬虔なカタリ派の民であった少女は十字軍に蹂躙され、世界を、神を呪った。
その憎しみを見初めた魔術師によって『虚無の魔石』を与えられ、不老不死の魔女と化した。
十字軍への憎しみと、『良き死』を迎えることができなくなった絶望から、魔術を極め世界に混乱を振り撒きながらも自身が死ぬ方法を探し続ける。
そして自身と同じく世界に絶望する男と出会い、愛し、『人類鏖殺』の理想を掲げ『奈落堕とし』の術式を編み出し、それを実行しようとした。
しかし、その理想は他でもない愛する者の魂によって否定され、彼女は彼から齎された死を受け入れた。
いつか不死のお前に死を与えてみせる、その約束が果たされたことにより、魔女は愛する者の腕の中で息絶えた。

【サーヴァントとしての願い】
ない。人類鏖殺の悲願は既に失われた。
今は自身を召喚せしめるに至った『縁』に免じ、召喚者の道行きに付き合う。

【マスター】
フューリー@誰ガ為のアルケミスト

【マスターとしての願い】
ない。ただこの世界の『正義』の行く末を問う。偽りの正義があらば、破壊する。
――本当は、『彼女』の声が聞きたい。

【能力・技能】
呪砲術。火の砲撃を得意とする。
幻術。視覚、聴覚、触覚、極めれば痛覚をも支配し、存在しないダメージを敵に与える。
フューリーは呪術師としての天賦の才に加えヴェーダより齎された異次元の力を得た。
今や彼女の呪術は街一つを破壊し尽くしたと錯覚させたり一万の軍勢を顕現させる程の幻術を扱える。
しかし現在フューリーの力の8割はリーゼロッテのスキル『虚無の魔石』の再現に費やしている。
また彼女はヴェーダの力を得る代償として『忘却』を失っており、あらゆる過去を忘れることができず、あらゆる悲劇を鮮明に記憶している。

【人物背景】
誰ガ為のアルケミスト期間限定イベント 十戒衆アルゾシュプラーハ-うるさいよ五月雨-を参照。

嘗てボタンという少女であったもの。
ワダツミという島国で生まれ育った彼女は外の大陸で騎士となっていた幼馴染のイカサに連れられ遊学の旅に出た。
絵物語でしか知らなかった立派な騎士、大陸の優しい人々、美しい景色。全ての人々が手を取り合えば、世界はきっと平和になると彼女は信じていた。
しかし大陸のグリードダイクという国家がワダツミが内乱で疲弊しきった隙きを狙い『錬金術の乱用』を大義名分にワダツミに宣戦布告。
『悪しきワダツミの巫女を赦すな』と標榜し、同じくワダツミの巫女であるボタンが錬金術を修めていることは大陸中に知れ渡った。
そして、地獄が始まった。立派だった騎士、優しかった人々、美しかった景色は全て、全てが反転した。
手を取り合えたはずの人々からは恐怖と憎しみの視線を向けられ、騎士からは剣を向けられ、ボタンは絶望のままイカサと共に逃げた。
逃げて、逃げて、故郷へと戻って、そして、大切な人たちは皆死んだ。
グリードダイクの偽りの大義、所詮疲弊した国土を容易く切り取るためだけのただの言葉を、それに踊らされた世界を、ボタンは憎んだ。
そしてそんな偽りの正義を破壊すべく『ヴェーダ十戒衆』へと加入。五番目の席に座り、名をフューリーと改めた。
彼女は『不憎』の戒律を掲げ、過ぎた憎しみを抱えることはない。しかし偽りの正義を掲げる世界を許すことはない。

【方針】
主従ともにとんでもなくやる気がない。しかし死ねと言われて死ぬつもりもないし聖杯は気に食わないし敵を殺すことには一切躊躇いがない。
この別世界においてフューリーは静かに占い屋を営みつつも、嘗てのように正義の在り処を問い続ける。
そんなフューリーをリーゼロッテは見つめ、隣りにあり続ける。

【備考】
モチベーションに著しく欠けるものの極めて強力で危険な陣営。
フューリーはその力の8割をリーゼロッテの規格外のスキルの維持に費やしているため戦闘力に大幅な制限が加わっている。
その代わりリーゼロッテに付与された『虚無の魔石』はただでさえ強力なリーゼロッテの力を更に増幅させている。
積極的に襲いかかることこそ無いが、野生のFOEと呼ぶべき存在となる。
リーゼロッテもまたやる気はないが、なにかするとすればそれはフューリーのために動く以外ありえないくらいには彼女を気に入っている。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2022年08月14日 01:27