全ての悲しみの終わり、全ての憎しみの果てに、ワタシはキミを待っている。
 どれだけの罪と、どれだけの残酷と、どれだけの屍の上に立とうとも。
 ワタシだけは、キミを待つことをどうか許して欲しい。
 どれだけの愛、どれだけの憎しみを抱えようと、側にいさせて。
 五月闇の中、五月雨が耳を打ち続けたとしても、――キミと一緒なら、どれだけうるさくとも。



 宵闇の中に、剣戟の音が響く。
 多くの人の寝静まった深夜、されど東京のネオンは途切れることなく、星のように地上を照らしている。
 地上の星と空の星、その狭間の中空という闇の中を、2人の剣士が飛び交い火花を散らしていた。
 否、一人は剣士であり、一人は暗殺者だ。『聖杯戦争』という規格に則れば、そういうことになるだろう。

「闇に紛れる暗殺者の身で、なかなかやる」

 そう言ったのは、剣士、セイバーのサーヴァントだ。
 高いステータスと如何にもな宝剣は、基本に忠実な強力さを物語っている。

「これでも一応騎士だったものでね。剣の腕も、術の腕も、まあそこそこ。最も、セイバーを名乗るには役者不足なんだろうけど」

 対するは暗殺者、禍々しい大刀と戦旗を携えた緑髪の女騎士だった。
 アサシンのサーヴァントはからりと乾いた笑みを崩さないが、その内心は現状に眉をしかめていた。
 ――正直、分が悪い。

「キミ! ものは相談なんだけど、今夜はここまでにしないかな?」

「……一応、聞いてやろう」

 セイバーは構えこそ崩さないものの、その先を促した。
 アサシンは飄々と言葉を続ける。

「キミは恐ろしいサーヴァントだ。ワタシと戦う直前に、実に『3騎』ものサーヴァントを落としている。
今日の晩に起こった多数のサーヴァントの乱戦はワタシも見ていたよ。そしてキミは今も尚、1戦する余力を残している」

「…………」

「キミの魂胆は分かる。キミは一般には無茶な連戦を行っているが、ここで敗北することなど微塵も考えていない。
この日の変わり目を迎える前に、ワタシさえも落とそうとしている。マスターもまたそれを支えうる優秀な術師なんだろうね」

「そこまで理解しているなら、問答は無用だと思うが?」

「いーや、言うね。退いてくれないかな? このままじゃワタシとしても、命をかけてキミを倒さざるを得なくなる」

 戦況は、アサシンに不利だった。
 アサシンが細々とした傷を手足に受ける一方、セイバーは未だ健在。
 大きく傾いてこそいないものの、現状を維持し続ければ敗北するのはアサシンだ。
 故に、アサシンは言う。
 このまま続けるなら、文字通り全力で、すべてのスキルと宝具を用いて反撃すると。
 既に連戦を重ね少なからず疲弊しているセイバーにとっては、確かにそれは不確定要素と言えるものだろう。
 だが、しかし。

「そのような脅しを受ける謂れはない。もとより命懸けの戦い。アサシン、貴様はここで落ちろ」

「そっか……残念」

「貴様も一廉の騎士であるのなら、覚悟を決めろ」

「そう言われてもねえ。ワタシは帰らないといけないんだ、あの子のためにね。だから、今のワタシは命が一番大事なんだよ」

 アサシンの大刀が燐光を纏う。
 それは何らかの術による強化か、アサシンは強烈な剣気を放っている。
 セイバーは警戒しつつ、迎撃の構えを取った。

 セイバーに侮りはなかった。
 対峙するアサシンは剣士として遜色ない技量の持ち主であり、事実セイバーの攻撃はすべて致命傷を逸らされていた。
 肉を切らせて骨を断つ、異端の剣であるとセイバーは直感する。
 自らが傷つくことを前提とした剣術、つまりその本質は特攻だ。
 アサシンが本気を出すというのなら、文字通り捨て身の攻撃を行ってくるのだろう。
 ならば、捨て身が形をなす前に、肉を越え、敵の骨を先んじて断つのみ。


「――秘玄・幽刃」

 それは、闇の剣だった。玄の名を冠する秘剣は、黒を纏って敵を討つ。
 なるほどその姿はアサシンのクラスが相応しかろう。
 強烈な踏み込みから着地地点への薙ぎ払い、振るわれる剣は相手の攻撃を妨害しながらも広範囲を斬り裂く。
 まともに受ければ次に不利になるのはこちらか、そう判断するや、セイバーは後の先からアサシンの踏み込みに呼応し突撃した。
 まさに、完璧な見切りだった。

「ッ!」

 アサシンは焦りの表情で行動を修正する。
 踏み込みを短く、斬撃を威力を犠牲にとにかく速く振るうべく体勢を変える。
 しかし、時既に遅し。

「貰ったぞ」

 セイバーの剣は、アサシンの剣腕を捉えていた。
 十分な威力を乗せて放たれた斬撃は、せめて身を守るべく交差したアサシンの腕に直撃する。
 そして、そのまま腕を斬り飛ばし――

「……何?」

 斬れない。セイバーは、アサシンの腕を断ち切ることが叶わなかった。
 肉を斬った、筋を抉った、しかし骨だけはどうしても断つことができない。
 それは耐久であるとかそういったものでは断じてなく、まるでそこだけは絶対に断つことができない、と言わんばかりのものだった。
 腕を半ばまで断って尚、骨から先のもう半ばには届かない。
 セイバーは即座に悟った、これは、そういった概念であると。

「一定以上のダメージに対する肉体の保全、これが貴様の宝具か!」

「正解……ワタシは決して『戦うための四肢を失わない』!」

 四肢を失わないという概念、なるほどそれは、如何なる強力な攻撃であろうと彼女は手足を失うことはないということだ。
 肉体そのものを宝具とするタイプのサーヴァント、それも戦士としては地味ながらも重要な要素だった。
 きっと凄烈な戦いを続け、戦いに戦い抜いた逸話の持ち主なのだろう。
 セイバーはそれに敬意を表する、そしてその上で……反撃に移ろうとするアサシンより、尚セイバーの追撃の方が速い。

「良い剣士であった、さらばだ」

「がッ、ぐ……」

 セイバーの大剣が、アサシンの体幹を貫いた。
 四肢を飛ばせない、或いは肉体の欠損を防ぐ概念であるのなら、欠損させることなく貫いてしまえばいい。
 アサシンの心臓は完全に貫かれ、無慈悲に両断されていた。
 これで、終わりだ。

 そう、普通なら、これで。


「……ぬ、なッ!?」

「つ、か、まえ、た……」

 血反吐を吐き、体の中心を貫かれながらも、心臓が止まりながらも、アサシンは微笑んだ。
 ゼロ距離でセイバーの剣を支える腕を掴み、離すまいを封じにかかる。

「霊核は砕けたはず……最高ランクの戦闘続行、或いは蘇生宝具!?」

「半分、はずれ……正解は……『健在状態から致死ダメージを受けた時霊核のみを保護するスキル』だよ!」

 剣は、アサシンの体に深く突き刺さっている。
 さしものセイバーも、この状況から取れる手段は少ない。
 そして遂にアサシンの大刀が、セイバーの肩を貫いた。
 このままではこちらが敗北しかねない、セイバーは即座にそう判断し……宝具の真名を開放した。

「――ッ!」

 セイバーの宝剣が光を放つ。
 伝承級の聖剣、魔剣の真名開放はそのことごとくが対軍以上の力を持つ。
 疲弊しているセイバーのなけなしの最後の魔力ではあるが、その威力はサーヴァント1体を滅ぼして余りある。
 そして光がアサシンを包み込み、その体を消し飛ばす。

 そのようには、ならなかった。

「馬鹿、な」

 見るも無惨な有様だった。
 アサシンの全身は血に塗れ、骨は砕け、散々たる有様だった。
 しかし、それでも尚、アサシンは四肢を失わず、人の形を留めていた。
 決して、人の形を失うことはなく。

「さっきは否定したけどさ。それはさっき『まだ使ってなかった』ってだけで……別に蘇生宝具を持ってないってわけじゃないんだよね」

 血濡れの姿が回帰し、美しい女の姿を取り戻していく。
 相変わらずアサシンは、乾いた微笑みを浮かべていた。
 自らの胴にセイバーの剣を括り付けたまま。

 セイバーは、アサシンの体を見た。
 自身の宝具を受けズタボロとなった、つま先から首まで全身を覆う、どこか東方の意匠を交えた騎士装束。
 その下の肌を見て、そこに刻まれた『無数の致命傷』を見て、自らの失策を悟った。
 あの言葉は掛け値なしに『警告』であったのだと、あの時点で彼女は既に、この道筋を見ていたのだと。

「そうか……貴様はそのような英霊であったか……ああ、私の敗北だ」

「――秘玄・黄昏舞」

 そして、アサシンの斬撃がセイバーを八つ裂きに葬った。
 それはまるで受けた傷の威力全てを込めたかのような、闇夜の始まりを告げるが如き刃の舞踏だった。
 聖杯戦争の開始から数多のサーヴァントを葬りその名を轟かせていたセイバーは、ここに脱落した。



「やあ、帰ったよ。マスター」

「おかえりなさい~。待ってたよ~」

 ボロボロになりながらも帰還したアサシンを、間延びした声が出迎えた。
 アサシンのマスターは、ベッドに横たわりながらアサシンを見やる。
 その姿を確認し、その傷を確認した。

「アサシン、また無茶したね?」

「ごめんごめん、流石にアレは滅茶苦茶強敵だった。説得も無理だったし……命1つ使ってでも、ここで落とすしかなかったんだよ」

「そっか。アサシンがそう判断したなら、何も言わないよ」

 マスターはちょいちょいと右腕でアサシンを手招きする。
 アサシンはそれに応じベッドの前まで進むと、その右腕に対し跪き、頭を差し出した。

「じゃあ、補充するね。これで後3日は補充できなくなるから、大きな戦いは控えてね」

「分かってるよ、マスター。暫くは気配遮断に徹しよう」

 アサシンの持つ蘇生宝具は、2度までの致命傷から生き延びる力を持つ。
 そしてストック型の蘇生宝具は、マスターが莫大な魔力の持ち主であれば、その素質次第でストックを回復することも可能だ。
 異世界、冬木の聖杯戦争において、とある少女は3日に1回分のペースでの蘇生ストックの回復を可能としたが、このマスターも同様のことを可能とした。
 とてつもない素養、魔力を秘めたマスターだ。
 しかし、それを加味しても、このマスターは、この少女は。

「マスター、痛みはない? この世界の魔術形式はマスターに馴染みのないものだし……『神樹様』とやらの加護も、全ては届いていないんだろう?」

「大丈夫。端末がないから勇者への変身はできないけど、相変わらず痛みはないし、何もしなくても死ぬことはないみたい」

「……そっか。良かった」

 何が良いものか、とアサシンは思う。
 ベッドに横たわるマスターには、右目がなかった。
 左腕もなかった。両足もなかった。恐らく内蔵も欠けていた。心臓は止まっていた。全身は包帯で覆われていた。
 それでも、この少女は生きていた。この乃木園子という少女は、生きていた。
 最早右腕しか動かすことができなくても、それでも生きていた。

「私は辛くないよ。今はアサシンがいてくれるから。辛いのはアサシンの方でしょ。私のわがままで無理をさせちゃって、ごめんね」

「無理なんてとんでもない。キミはワタシを使ってくれればいい。ワタシも、痛みを感じないからね」

「お揃いだね、私達」

「そうだね、お揃いだ」

 初めて召喚された時は、愕然としたものだった。
 少女は『神樹様』と呼ばれる神にその身を捧げたという。
 身を捧げるほどに力を得て、国を、世界を脅かす外敵と戦い続ける。
 その末路が、この姿だった。
 心臓さえ動いていないという異常な状況は聖杯のロール付与さえも適応できず、生涯病棟の患者にもなれない。
 あるマンションの、ベッドしか無い空虚な一室。乃木園子はそこに横たわっていた。
 彼女は、死を忘れた者だった。
 『自分と同じ』死にながら生かされ続けている存在だったのだ。

「アサシン、手を握ってくれる?」

「ワタシの手、冷たいよ?」

「いいよ。それでも、あったかいから」

 アサシンは椅子を用意し、ベッドの横につける。
 そして園子に残った唯一の四肢である右手に、自分の手を重ねた。

「ワタシの手足を、マスターにあげられたら良かったんだけど」

「アサシンの手足は立派すぎて、ちょっと持て余しちゃうかな~」

「そっか、そうだね」

「ねえ、アサシン」

「うん」

「今日も、お話聞かせて?」

「いいよ、マスター。マスターが眠れるまで、話してあげる」

 今日の出来事を、その中で感じ取ったことを、アサシンは語る。
 それはマスターである園子のささやかな願いだった。
 この聖杯戦争に参加する、沢山の人達の話を聞きたいと、園子はそう願ったのだ。



『体を治したいとは思わないの? 元の世界に帰ることは?』

『……まだ、分からないんだ。どうすればいいんだろうね』

 ぼんやりと、どこか途方に暮れたような声色で、園子は言った。
 それは千載一遇の機会を得たという様子ではなく、心の底から困惑していた。

『私ね、治りたいよ。私の体を、わっしーの思い出を、ミノさんの命を奪ったあの世界のこと、許せないって思ってる。
今だって、大赦の大人は何人もの勇者のことを騙して、代償のことを隠して戦わせてる』

 それは、所謂護国の大義だった。
 大きな枠組みを守るためならば、多少の犠牲は仕方がない。
 たった数人の人柱で世界が救われるのならそうすべきだという、残酷な結論。

『それは、残酷な現実を直視させないための一つの優しさだったのかもしれない。けどね、けど、私は教えて欲しかったよ……知っておきたかった……。
だからきっと、元の世界でなら、私は世界のことより友達を、わっしーの思いを、私の思いを優先してたと思う。
もしそれで世界が滅んで、みんなみんな死んでしまったとしても、来るべくして来た結末だと思う』

 けどね、と園子はくしゃりと瞳を歪めた。
 涙を堪えるように、言葉を続けた。

『ここは、私の世界じゃないから……天の神も、神樹様も、勇者も、大赦もない。わっしーも、いない。
もしもバーテックスなんてものが存在しなくて、平和な世界が続いてたなら、こんなに綺麗で広くて、楽しい世界になっていたんだって。
色んな世界の人がここにいて、願いを託しに来てるかも知れなくて。私は……私はね。分からないんだよ。そんな幸せを壊して、願いを叶えていいのかなって。
私は……分からなくなっちゃったんだ』

 本来は、快活で奇抜な少女だった。
 明るく元気で、けどちょっと友達の少ない、それ故に友達を大事にする少女だった。
 そんな少女も友達を失い、体の大部分を失い、心の奥底にほのかに『許せない』という感情が生まれていた。
 それは当然のものだった。その選択をすることを一体誰が咎めることができるだろうか。
 しかし皮肉にも彼女はこの異世界に来たことにより、その感情を向ける先を失ってしまった。
 幸福な世界があることを知ってしまった。これを壊してはいけないと、そう思ってしまった。

『私、考えたい。2年間も寝たきりで、これ以上時間が必要だなんて思いもしなかったけれど……考える時間が欲しいんだ。
この世界のこと、聖杯戦争に参加する人たちのこと、全部知った上で判断したい』

『――分かった。ワタシがマスターの目と耳になるよ。キミの代わりに、この聖杯戦争を渡り歩こう。
騎士の誓いは……生憎、ワタシの主君は一人だけでね。けれど、キミのこと、精一杯助けるよ。待っていて、ワタシが帰ってくるのをさ』

『――ありがとう、アサシン』

 そうして、アサシンの戦いが始まった。
 それはこの舞台を渡り、見定める長い旅。
 敗北は許容しても死することは決して許されない、傷だらけの旅路だった。



 語らいは夜明けまで続き、ようやく園子は眠りについた。
 眠るための機能さえ正常に働いているか定かではないが、見る限りは休めている。
 アサシンはほっと息を吐き、ベランダに出た。

「どうすればいいんだろうね。ねえ、ボタン。あの時のキミも、こんな気持ちだったのかな」

 思い返すのは、生前の幼馴染のこと。騎士の誓いを契った主君であり、親友だった少女のことだった。
 自分が死ぬことのできない『死忘者』であることを知った彼女の顔は、本当に酷いものだった。
 今更ながら、あの子には本当に残酷ことをしたと思う。
 致命傷だらけの体、いびつに折れ繋がれた腕、どす黒く変色した肌、それが、英霊となって尚刻まれているイカサの姿だった。

「ワタシに、何ができるだろうか。ボタン、キミを裏切ったワタシが。キミを地獄へと突き落としたワタシが」

 生前の話だ。
 幼い頃のボタンが無意識にかけた『おまじない』によって死なない体となった自分は、ボタンの手でしか死ぬことができない。
 ボタンは、そのことを知らなかった。自分が言わなかったから。
 そして自分は、愛しい親友を、憎らしい親友を、守って、守り続けて、追い詰めて、追い詰め続けて。

 その手で、自分を殺させた。
 彼女が自分に救いの手を伸ばすことを許さなかった。
 そんな自分が今同じような、否、もっと酷い境遇の少女をマスターとし、それを救いたいと思っている。
 なんとも笑える話だった。どう考えても、そんな資格などありはしないのに。

「それでも、ワタシはサーヴァントだ。幻影兵にも似た、夢の続きを見ている」

 ――騎士を志望します! 姫、あなたへの愛を誓いましょう!

 いつか、昔の思い出が蘇る。
 幼いボタンと幼いワタシの、可愛らしい騎士ごっこ。
 あの日、ボタンの騎士であることを誓った、すべての始まり。
 ワタシは、ワタシは例え何があろうとも、これだけは。

「騎士であることだけは、やめなかった。それだけは、誇ってもいいかな? ねえ、ボタン。ワタシは、キミを守ることができていたかな?」

 その後のことは、分からない。彼女は絶望してしまったのか。
 絶望して尚、生きることを選んでくれたのか。
 もし、もしも、生きてくれていたのだとしたら。

「後少しだけ、騎士の夢を見続けてもいいかい? 同じ夢を抱く子と、出会ってしまったんだ。救ってあげたいと願ってしまった。
ボタン、もしキミなら……きっと、迷うこともなかったろうね」

 手のひらを閉じ、指を数え開いていく。
 故郷ワダツミに伝わる、昔々のおまじない。

 ひとつ、見渡す限り水平線。
 ふたつ、憧れの夢の大陸へ――みっつ、背後に平和な故郷。
 よっつ、同じ夢見た騎士がお供で――いつつ、見上げた今の空は?

『……正直に言っていいですか?』

 何処かから、声が聞こえた気がした。
 これはいつ聞いた声だったろうか、思い出せない。
 それはどこでもないどこかで、全てが終わった後あの子と再会した時の――

『憎らしいほど悪天候!』

「漫遊道中異常なし、か」

 雨は止まない。
 けれどこの雨音が眠りを妨げることも、ない。
 だって彼女はそこにイる、カサのようで。
 たとえその道筋がどこまでも間違っていて、どこまでも深い憎しみに続いていたとしても。
 隣り合い進めたのならそれすら幸せで、うるさい雨音さえも心地よかった。


 だから、貴方の思うままに、イカサ。
 貴方のことが大好きです、貴方の信じる道を行ってください。
 それが傘の中のものを守るための全てに繋がることを、私は願っています。


「ありがとう、ボタン。あの子のこと、なんとかしてみるよ」

 そうして、イカサは改めて決意した。
 今は園子のために戦うことを、彼女が答えを得る時間を作ることを。
 そしてこれより、彼女に聖杯を齎すための戦いを行うことを。
 今は遠き、最愛の友に誓った。


【クラス】
アサシン

【真名】
イカサ@誰ガ為のアルケミスト

【パラメーター】
筋力C 耐久EX(E相当) 敏捷A 魔力C 幸運C 宝具C

【属性】
中立・悪

【クラススキル】
気配遮断:A
自身の気配を消すスキル。隠密行動に適している。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
イカサは特に逃亡戦を得意とし、限定条件下において攻撃態勢移行時のランク低下を緩和する。

【保有スキル】
牡丹のおまじない:C++
彼女にとって最も愛しきおまじないであり、最も憎悪するのろい。
自身は健在の状態から致命傷に値する威力の攻撃を受けた場合、霊核へのダメージのみを無効化し踏みとどまる。
擬似的な不死さえ実現可能だが、このスキルはあくまで『死なない』だけであり、傷が治るわけではない。
イカサは生前に無数の致命傷を負い、全身を覆う服の下は数多の醜悪な傷が残っており、唯一出している顔さえ化粧を施さなければ直視し難い。

奇跡の生還:A
戦闘続行と心眼(偽)の複合亜種スキル。数多の死線から自身のみが生き残り帰還した逸話がスキル化したもの。
どれほど絶望的な戦況の中にいようと、イカサには常に一定の生還確率が存在する。
あらゆる戦闘において敵の脅威度に関わらず、幸運判定に成功することで生還の道筋を見いだせる。
戦場に敵軍友軍問わず多数の参戦者がいるほどイカサの幸運判定の成功確率は上昇し、逆にそれ以外の全ての参戦者の幸運判定の成功率を低下させる。

死滅願望:B
『死にたいと思ったことは何度も』
『死のうと思ったことも何度も』
『死にたくないと思ったことは一度だけ』
死をいとわない生存活動。肉体の限界を無視して稼働する。
腕が上がらない状態であろうと、心臓が止まろうと、五体がある限りイカサは立ち上がり剣を振るう。

【宝具】
『死忘華(しわすればな)』
ランク:D+ 種別:対人宝具(自身) レンジ:1 最大補足:1人
常時発動型宝具。同僚の聖教騎士たちからさえも『死忘者』と忌み嫌われたイカサの肉体そのものが宝具化したもの。
イカサは如何なるダメージを負っても戦闘力が減衰せず、自身の受けたダメージと攻撃回数に応じ筋力、敏捷、魔力ステータスに補正を得る。
痛みを感じることがなく常に自身の肉体は原型をとどめ、五体は欠損せず、自身が受ける治癒の効果を向上させ、自身のダメージを時間経過で回復させていく。
また自身が致命傷を負った場合、2回まで蘇生することができる。
イカサの蘇生は1度にどれだけの大ダメージを受けようと複数の命を失うことはなく、1回として処理される。
蘇生効果はマスターが大量の魔力を消費することで回数を補充することも可能だが、
それはマスターの魔力量がトップクラスである前提とし、3日かけて1回分を限度とする。

【weapon】
冥境刀:故郷ワダツミ製の武器。所謂極東の刀的なものだが、通常の刀剣より大振り。
紫苑の旗槍:仕える主人の家紋を刻んだ旗と、それを支える長槍。武器として使うことは殆どない。

【人物背景】
誰ガ為のアルケミスト期間限定イベント 十戒衆アルゾシュプラーハ-うるさいよ五月雨-を参照。

孤児であったイカサは、ボタンという名家の少女に拾われた。
彼女らは親友となり、幼い児戯の延長ではあるが、イカサはボタンの騎士を志すようになった。
彼女らの故郷ワダツミは内乱の絶えぬ地であり、ある日少女イカサは重傷を負ってしまう。
痛みに苦しむイカサを救うため、ボタンは必死に彼女に『おまじない』を施した。無意識に、自身の溢れる才能のまま、全力で。
そして、イカサは『死ねない体』となってしまった。『おまじない』は『呪い』に転じてしまった。
呪われた体となってしまった絶望、親友に自分のせいでこうなってしまったと知られたくない一心でイカサは故郷を出奔する。
その後、さしたる目的もないまま親友の憧れである『騎士』を志望し、大陸の騎士団に所属。
時は流れ、鎖国を続けるワダツミに開国要求という戦火が目前に迫ってきた頃、イカサはワダツミへと帰還する。
鎖国の影響で外の世界の状況を何も知らないボタンの手を引き、諸国遊学という名目で彼女を連れ出し……
そして、イカサは親友を絶望させた。世界の本当の姿を直視させ、その手で己を殺させた。
それでも、親友に生きて欲しかったから。生きて、苦しんで欲しかったから。憎まれても、一緒にいたかったから。

【サーヴァントとしての願い】
あの子に会いたい。
あの子に会いたくない。

【マスター】
乃木園子@結城友奈は勇者である

【マスターとしての願い】
失った体を取り戻し、友人と再会する。

【能力・技能】
21体もの精霊を所有する最強の勇者としての力。
しかし右目、左手、両足、その他内蔵多数を欠損しており戦うどころか身動き一つ取れる状態ではない。
神樹様の力はギリギリ届いているものの現在『勇者』への変身はできない。
ただマスターとして莫大な魔力とそれを供給運用する技術を持つ。

【人物背景】
『結城友奈は勇者である』、通称ゆゆゆにおける先代勇者。結城友奈の章途中から参戦。
この時期の彼女は都合21度の満開によって体の21箇所を散華し失っている。
心臓も動いてはいないが、勇者としての力によって死ぬことがない。
そのような状態から現人神として大赦という組織で保護され祀られている。
本来は天然系でぽわぽわした愛らしい少女なのだが、2年間に渡り寝たきりとなっていたため快活さは静かさに取って代わっている。

【方針】
園子としては、聖杯を取るべきか決めかねている。
元の世界であれば、世界の危機よりも友の選択を尊重しただろう。
しかしここは神樹様もバーテックスもいない別世界であり、そんな世界に対し自分の世界における恨み節をぶつけるのは筋違いだと自制している。
そのため、この聖杯戦争に参加する人々をアサシンに見てきてもらい、いろいろな話を聞いて判断しようと思っている。

【備考】
とにかく死ににくいアサシン。
『牡丹のおまじない』で致死攻撃を食いしばり、『死忘華』で五体を決して失わず、死を2度まで無効化する。
更に『気配遮断』と『奇跡の生還』により撤退を高確率で成功させ、大成功すれば敵に生存を悟られずに死を偽装することさえできる。
マスターとの共通点は、例え心臓が止まろうと生き続けるところ。
聖杯戦争の参加者を見てきて欲しい園子にとって生存に特化しているイカサは最善に近いサーヴァントではある。
互いに悲しくも強力なシンパシーを感じ、イカサは既に園子の体を治すために出来得る限り勝利を狙っている。

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最終更新:2022年08月14日 01:28