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   たとえば君が傷ついて くじけそうになった時は 

   必ず僕がそばにいて ささえてあげるよその肩を

   世界中の希望をのせて この地球は回ってる

   いま未来の扉を開ける時 悲しみや苦しみが いつの日か喜びに変わるだろう

   I believe in future 信じてる

                                    ――杉本竜一、Believe







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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 今日は、食べてくれるだろうかと。少女は思った。
ううん、弱気になっちゃだめ。気難しい人だけど、今日こそは口を付けてくれるわ、と思い直した。

 朝のメニューに、奇の衒いはなかった。スクランブルエッグ、焼いたベーコン、トースト。そして、コーヒー。とてもオーソドックスな、モーニングメニューだ。
先日、近所のスーパーで1パック限定で、卵が特売されていたから、それをスクランブルにした。
スーパーで、その卵と、今日明日食べられる分の食糧を購入した、その帰り。商店街を歩いていたら、顔馴染みの精肉店が、美味しそうなベーコンのブロックをくれたのだ。
「困るわおじさん、おばさん」と最初は遠慮したが、「良いんだ良いんだ、『キーア』ちゃんが頑張ってるのは知ってるんだ。若い娘も肉を食べないと」。
そう言って肉屋の店主は、キーアと言う名の少女の持っていた買い物袋に、半ば無理やりビニール袋に入った、サランラップで巻かれたベーコンを突っ込んだ。
「パパもママも仕事でいないのは知ってるけど、一人が寂しかったらあたし達のお家に顔を見せても良いんだよ」と、店主の妻である年配の女性が手を振ってそう言っていた。
その貰ったベーコンを包丁でスライスして、ベーコンから染み出る油だけでカリっと焼いてみせたのだった。
そして、主食のトーストである。商店街のパン屋で買ったものだが、これが、ビックリする程美味しかった。
初めてその食パンを口にした時、キーアは、ビックリして腰を抜かすかと思ったのだ。キーアが今まで食べて来た、どんなお菓子よりも、甘くて、そして柔らかくて。
ジャム何て塗る必要がない程に、甘くて、ふわふわで、もちもちで。トースト何てする必要がない程に、美味しかったのである。

 いや、食パンだけじゃない。
このベーコンにしてもそうだ、卵にしてもそうだ、コーヒーにしてもそうだ。
ベーコンは正真正銘豚の肉で出来ているし、卵にしたって本当に実在する鶏が産んだ代物である。
コーヒーはお湯で溶かすタイプの簡単なインスタント聖だが、それでも、キーアが嗅いできたどんなコーヒーよりも香りが良かった。
ベーコンが豚の肉の加工品で、鶏が卵を産む事の、何処に驚く所があるのかと。呆れられ、無知の阿呆でも見るような目で見られた事もあるが、
階層都市インガノックの住民からすれば、それは驚くに値する事。何せキーアからすればベーコンとは、合成ベーコンの事である。
これは最低限人間の肉じゃない事だけは保証されている、とても不味い肉である。卵と言えば、合成卵。キチン質の殻に注入された、卵によく似た何かなのである。白身は独特の臭みがあって不味いし、黄身の色もどことなく汚くて、初めて見た時は何ともまぁ、食欲が消えてしまったのを思い出す。

 本物は、こんなにも違うのかとキーアは驚いたものだった。
ベーコンにしてもそう、卵にしてもそう、パンにしてもそう。この地で、とても高いとは呼べない、寧ろ安いグレードの食べ物ですら、インガノックで食べたあらゆるものを凌駕する。
とても美味しくて美味しくて、自分だけが、この味を知ってしまうのは罪なのではないかと思う事がある。パルやルポ、ポルンらお友達にも、振舞ってあげたいぐらいだった。きっとあの子達なら、目を輝かせるに違いない。

「さ、朝のご飯ですよ、セイヴァー」

 そんな、素晴らしい食材を丁寧に仕上げたのだから、美味しい食事になっている筈だとキーアは強く思う。
そして今日こそは、一口だけでも食べてくれるだろうと、希望的観測を彼女は抱く。
テーブルまで今日の朝御飯を持って行き、対面の席に座るその女性に対して、はいどうぞ、と差し渡した。

「……」

 綺麗な青色の髪をセミロングにした女性だった。
化粧気が薄く、ナチュラルメイクすら施していないようであるが、それなしでなお、女性の顔つきは綺麗であった。
アクアマリンを思わせる蒼い切れ長の瞳が特徴的で、キーアは初めて彼女の目を見た時、吸い込まれそうになった程である。
一方で服装にはそれ程頓着しない性格なのか、それ自体に、余り金をかけていると言う様子はなく、ファッション性を重視していると言う気風も見受けられなかった。
肌の露出の少ないワンピースで、辛うじてボディラインが浮き出る程度にしか、己の身体のプロポーションとポテンシャルとを主張しない。
年頃の、それも、誰が見たとて美人であると判ずる女性にしては、何とも欲のない、田舎娘のような服装であった。

「御前のしつこさには呆れる他ないわね」

 その声には、刺々しいものが含まれていた。
女性は、確かに美人ではあった。但しそれは、普通に過ごしていれば、の話である。
キーアは、セイヴァーが召喚されて以来、彼女の笑顔を見た事がなかった。いや、笑顔を見せないだけならまだ良い。
気を許し、リラックスするような表情すら、キーアは目にしていなかった。その言葉には何時だって、他者を遠ざける為の棘があり、纏う空気には何時だって、何者をも寄せ付けさせぬ・近寄るなとでも言いたそうな斥力のような物が含まれていた。

「サーヴァントに食事の必要がないと言う事は、御前の頭にも刻み込まれている筈。それをも知らぬ程に無知なのか、それとも、知りながらの嫌がらせなのか」

 セイヴァーは、常に険を纏わせた表情で、キーアに対して接していた。
しかしその一方で、彼女に対して強く当たった事は一度もなかった。勿論今のように、遠回しに悪罵するような言い回しを用いる事はあれど、語気を荒げてそう言った事は一度もなかった。
単純だ。セイヴァーは、キーアとコンタクトを取る、その事そのものを、積極的に避けている。それはまるで、御前と付き合う事がただただ面倒臭い、と言う声なき声が聞こえてくるかのようだった。

 同じ場所に佇んでいれば、絵になる二人であった。 
キーアの方は成程、商店街を歩いていれば、道行く顔馴染みに声を掛けられ、利益など出なくても良いからと、いろんな商品をプレゼントされるのもむべなるかな、と言う位には。
愛くるしくて、可愛らしい容姿の持ち主だった。オレンジがかった金髪の少女で、年の頃にして十歳にも達していないような、疑いようのない少女であった。
精緻な洋人形を思わせるような姿でありながら、表情豊かで、愛想も良い。その上気配りも良く出来ていて、礼儀も正しいと来る。
成程、商店街のちょっとしたアイドルなのも頷ける。性格も良くて見た目も可憐、しかも歳はまだまだ子供と来る。孫がいるような年齢の人間が多い近所の商店街の人々に、可愛がられるのも良く分かろう、と言うものだった。

 キーアとセイヴァーの年齢差は、年の離れた姉妹位である。
姉妹、と言うには髪の色から顔つきまで何から何まで違うが、整った顔立ちの2人、と言う共通項が其処には横たわっている。
キーアもあと十年すれば、道行く男が皆振り返るような美人に育つ事であろう。その十年の変遷の間に、性格の方も洗練されていたのなら、世のどんな男とも結婚が出来るに違いあるまい。

 並んで立っていれば、これだけ顔も良いのだ。サマになる事は間違いないだろう。だが、そうはならない。セイヴァーの方に、問題があるからだ。
端的に行って、セイヴァーは『擦れて』いた。皮肉屋を越えて、最早ニヒリストそのものとしか思えない思想や言動は、明るく優しいキーアの傍に立たせるには、到底相応しくない。
年齢にして恐らく、二十代前半か、十代の後半位に見える程度には、セイヴァーの外見は若い。にも拘らず、纏う雰囲気は年相応のそれでは断じてあり得なかった。
落ち着いていると言うよりは、寧ろ彼女は枯れている。この世の何物にも興味を示していないような風すらキーアには感じ取れるのだ。
もう生きている内にやるべき事を全部やり終えて、後は、棺桶の中に入ってその蓋が閉じるのを待つだけの、老人。それが、セイヴァーに対して抱かれるイメージであった。
倦怠、諦観、そして、虚無。それらが綯交ぜになったような雰囲気を緩く醸すセイヴァーの傍に立つには、あまりにも、キーアは似合わなかった。

 そして――理由はそれだけじゃない。
セイヴァーがコーヒーを口にする時、左腕の袖から覗く手首に刻まれた、無数の、洗濯板のような赤黒い傷痕を、キーアは目にする事があるのだ。
酷い事故にあったんだろうと、キーアは同情した事もあった。「何の傷なのかしら?」とキーアが問うた時、「楽になろうとしたのよ」と返した、その意味をキーアは知らない。

 キーアは、リストカットと言う言葉もまた、知らない。

「確かに、あなた達には必要がない習慣なのかもしれないけれど……。食べる事で、生きる力も湧くと思うわ。あたし、元気のないあなたが不安」

「生きる、力」

 セイヴァーは、キーアの言葉を鼻で笑った。特大の嘲りと侮蔑とが、その声には内在されていた。

「下らない言葉。私が此世で一番、嫌悪するセンテンス」

 キーアが、自らの召喚したこのサーヴァントとまともにコミュニケーションを取れた時間。
召喚した当初から現在まで、全てをひっくるめて彼女とこのような会話のキャッチボールをする事が出来た時間を総和するのなら、20分以下、と言ったところであろう。
キーアの方から積極的に話しかけても、セイヴァーの方は取り付く島もなし。相槌を打ってくれるのならまだ良い方で、酷い時には無視である。
たまに何を思ってか、戯れと言わんばかりに言葉を交わす事もあるが、出てくる言葉は、皮肉と虚無の極地。
セイヴァーは、生きる、と言う事に対してあまりにも消極的で、冷笑的で、欠片として正のイメージを抱いていない。何処までも、嘲笑の念を隠そうともしない。
それはまるで――死ぬと言う事こそが、救いとでも言うかのようでもあった。

「鋏にとっての幸福とは、と、考えた事はある?」

「? はさみ?」

 キーアは、質問の意図が読めなかった。きょとん、とした表情を隠せない。

「鋏は、何かを切る為に存在している。それは、覆しようの無い定め。其れだけが鋏の存在意義であり、この事物にとっての、幸福」

「セイヴァーの言っている意味、あたしよくわからないわ」

「役目がある、って言う事は幸福なの」

 断言するようにセイヴァーが言った。

「仕事とか義務とか使命とか、そんな言葉でも言い換えられる。何か打ち込めるものがある、其れは人にとって自然な形であり、最も簡単に幸福が手に入ると言う事」

「じゃあセイヴァー、あなたにとっての役目って?」

「セイヴァー、と言う言葉の意味も知らないかしら? 救世主、と言う意味よ。その役目を果たしてしまったから、私は、御前の奴隷<サーヴァント>に身を窶してる訳」

 「これなら世界なんて救うんじゃなかったわね」、と小言を口にするセイヴァー。

「そして、その目的を達成してしまったから、私はもう不必要な存在に成った」

「世界を救ったんでしょう? そんな事になるわけがないわ」

 セイヴァーがどのようにして世界を救ったのかは定かじゃないが、世界の危機を救ったとあれば、もっと褒められてもおかしくないのではないか?
然るべき席(ポスト)を用意され、其処でまた活躍し、ハッピーエンドを迎える。それが、普通の終わり方ではないのか?

「御前、私を御伽噺の勇者だと勘違いしていないかしら?」

 呆れを、セイヴァーは隠しもしない。

「現実は甘く無いわよ。世界を支配する悪の魔王を倒して、祖国に凱旋して御姫様と結婚して終わり? 生贄を要求する邪悪な龍を打倒して、溜め込んだ宝を手に入れて幸せに過ごしました? 黴の生えた下らない、陳腐な王道よ。今時の餓鬼の興味すら引けない」

 吐き捨てるようにそう言葉を紡ぎ続けるセイヴァーを、キーアは、もの悲しげな瞳で見つめていた。

「現実に世界を救ってもね、誰も褒めてくれないわ。へぇ、そうだったんだ、凄いね。これでおしまい。救世に失敗すれば、今度は一転して戦犯扱い。当然よね、救世主は結果が全て。世界を救う事に失敗した者を、人は救世主と呼ばない。敗北者と言う相応しい言葉が用意される」

 「――そして」

「救ったとて、安泰何てもう無い。役目を果たして、世界を救う以外の生き方を何一つとして知らない、世故に疎い大人の出来上がり。余生をドラッグに手を出して身を破滅させてみたり、タチの悪いトリップで見た幻覚の勢いに任せて自殺を試みたりとか。そんな風にして終わりよ」

「それでも……セイヴァーは、人間なのでしょう? 他に、生きる目的とか、興味だとか……」

「御前の歳じゃ解らないし、想像も出来ないだろうから、教えてあげる。此の世の中には、其れしか生き方を知らない人間が、御前が思ったよりもずっと多い。そして私の其れは、世界を救うと言う事だった。そう言う生き方を、徹底された」

 救世の巫女だとか天使だとか、色々調子の良い言葉を使われたりもしたが。
究極の所、『ヴェーネ・アンスバッハ』と呼ばれる女性を一言で言い表すのであれば、世界を救う為の道具でしかなかった。
セラフィックブルー第一片翼として、セラフィックブルー本体の存在を安定させる重要なピースであったヴェーネは、産まれた頃よりその役目を徹底した教育を課された。
教育、とは言うが、実態は計画と実験と言っても良い。それも、『精神性を致命的に破壊してしまう程の』、と言う形容句が付く程の。

 ヴェーネの生きていた星は、緩やかに、だが、確実に、死を迎えつつあった。
ガイアキャンサー、文字通り『地球の癌』とも言うべき存在は、星が有する生体定義情報、ガイアプロビデンスの異常から生じた存在であった。
ガイアプロビデンスとは、何か。摂理や真理をも包括した、根源とも言えるであろうか。万有引力から光や音の速度、水の沸点から重力の強さに至るまで。
地球と言う星に作用するありとあらゆる事象を定義する情報根幹、それこそガイアプロビデンスである。
これに対処しようと多くの者達が手を打ったが、それでも、ガイアキャンサーによる侵攻を遅らせるだけで、根本的な解決には至らなかった。
星の癌を一網打尽にし、この世から根絶しようと、編み出されたプロジェクト。それこそがプロジェクト・セラフィックブルーであり――。ヴェーネはその計画の、疑いようもなく根幹に属する人物であった。

 世界を救うと言う一大事業。
その重責たるや並の物ではなく、当事者の、特に世界を救う役割を大きく担うヴェーネの精神的負担たるや、尋常の物ではない事は誰もが想像がつく。
プレッシャーに圧し潰される程度なら、まだいい。考え得る中で最悪の事態は、使命の放棄であり、これをされてしまえば当然世界が終わってしまう。
故にこそ、プロジェクトのリーダー格たる男は、徹底して、ヴェーネ・アンスバッハから人間的な感情や情動、精神性を奪おうと考えた。
つまりは、ヴェーネ・アンスバッハを一個人としてではなく、世界救済の為の道具であり、それのみに注力出来るような人格を形成しようとしたのである。

 その目論見は、失敗だったとも言えるし、成功であったとも言える。
結果論の話ではあるが、ヴェーネは確かに世界を救って見せたのだから、教育の一環が功を奏していた、と言う言い方も確かに可能だ。
だが、その様な教育方法を施したせいで、ヴェーネの周りを取り巻く人物が多いに激怒し、状況を拗らせてしまい、本来的には起こす必要のないトラブルを無数に引き起こしていたのもまた事実。
何よりも、世界を救うと言う事をこそ己の存在意義としていたヴェーネが、その目的を達成してしまえば、どうなるのか? それ以外の生き方を知らない彼女が、だ。
空虚な抜け殻、燃え尽きた人型の灰が出来上がるだけである。世界に平和と安寧を齎す筈の女は、皮肉な事に、その平和の故に生き方を見失い、精神を病ませて行ってしまったのだった。それが、ヴェーネ・アンスバッハに与えられた、ピリオドの向こう側であった。

「生きる事が、本当に正しいと思う?」

 ヴェーネは、キーアの方に目線を向ける。
キーアは、自らのサーヴァントである彼女の瞳を見る度に、不安を覚えるのだ。
とても、とても、綺麗な青い瞳であると言うのに。彼女の瞳は、冷えた泥土のように淀んでいて、生気など欠片も感じぬ程に、曇りきっているのであるから。

「生きる事が救いに成るとは限らないし、死が人から全てを奪うと言うのも限定的な発想。百の癒し、千の愛ですら救いきれぬ絶望の淵に沈んだ者を、それは、時に優しく包み込んで、あらゆるしがらみから解放してくれる許しの御腕。死は、時にあらゆる存在をも救うのよ」

 キーアは、押し黙ってしまった。
傍から見れば、ヴェーネと言う女性は、最早矯正が不能な程に精神を病んだ女性にしか思えないだろう。
捻くれ者だとか、変り者だとか、奇人や変人だとか、そんな可愛い言葉で形容出来得る域を当に彼女は過ぎている。
娑婆ではなく、本来的には、精神病棟にいるべき精神性の持ち主だった。生きる事への悲嘆、死への希求。それがヴェーネは、余りに強い。

 ……成程、確かに。
常人は彼女に何も出来ないだろう。ヴェーネの辿った道筋は余りにも悲しみと絶望と怒りとで舗装されていて、故に、普通の人間には彼女の考えなど変えさせられない。
生き方の密度、其処に至るまでの過程の凄絶さが違うからだ。

「……フン。私も、子供相手に大人げないわね。そう言う事。御前の召喚したサーヴァントは、厭世観を何処までも拗らせた悲観論者<ペシミスト>。言い換えれば、外れであると言う事」

「セイヴァー」

 けれど。

「生きる目的って言葉が嫌いだって言ったけど、セイヴァーには、恋人とか、いなかったのかしら?」

「馬鹿にしているのかしら? こんな、塵のような性格をした女に恋をする男なんて――」

 けれど、けれど。

「生きていて欲しい、と思える人は、いなかったの?」

 けれど、どうやら。
キーアと言う少女は、『普通』じゃない。

「……」

 ヴェーネが、黙った。
その時、瞳に、柔らかい光が灯ったのを、キーアは確かに見たのだ。険の強いヴェーネの表情が、一瞬、穏やかで心優しいそれに変わったのも。

「あたし、恋人……って言うには、そんな関係じゃないのかもしれないけれど、生きていて欲しい、好きな人がいるの。お医者様なんだけど、自分の身体の健康なんて全然気にしない、困った人よ」

 ギー。キーアの大好きな、数式医(クラッキング・ドク)。
当て所なく都市を徘徊し、自分の力を僅かにでも必要としている患者を助けようとする男。自分の身体の健康よりも、他者の健康の方が重要であるような、医者の不養生が極まった男。
ああ、思えば、あの人には随分と、口に出した以上に困らせられきたわ。ご飯も食べないし、コーヒーだけしか飲まないし、そのせいで足取りもフラフラだったし……。

「あたしは、あなたのこと、ごみだなんて思わないし、ハズレだとも思わないわ。それに、生きる希望だって、捨てて欲しくないの」

「どうしてよ」

「あなたは……あたしの好きなあの人と、おんなじだから……」

 ――ギーは、異形都市に於いて、ある意味で最も狂った人間だったと言っても良かったのかも知れない。
夢や希望と言う単語の意味が、遠くに置き去りになって等しい街だった。その都市に生きる者は皆、ヴェーネと同じような瞳の輝きをしていた。

 青空が奪われて久しい世界だった。空が蒼いと言う事実を忘れている者すら珍しくない都市だった。
まるで煮溶かした鉛から噴き出る蒸気のように、重苦しく陰鬱な灰色の雲が隙間なく全天を覆うあの街のあの空を見上げても、夢も希望も自由も、見出す事は叶わなかった。
『《復活》』、そうと呼ばれる現象が起きた理由は、今を以てしても不明瞭な部分が多い、説明不能な事柄であった。
《復活》と言えばプラスの意味合いに聞こえようが、実際に齎された結果はプラスどころか限りの知れぬマイナスであった。
人は人としてのあるべき形を失い、その生き方を大きく変更しなければならない事を余儀なくされた。
身体から獣毛が生える、手足が獣のそれになる、翼が生えるなど可愛い方で、顔の形が鳥類のそれになるだとか、下半身がまるでラミアめいた蛇体になるだとか、魚鱗が生じるだとか。
人間の体をベースにして、全く異なる生命体の特徴が露出すると言う奇怪な症状がありとあらゆる人間に生じ始め、異形の姿に変じたばかりか。
都市には妖物魔樹の類が蔓延り始め、嘗て人であった異形達の生命を脅かす、この世の地獄のような有様と化してしまったのである。

 異形となり果てた人類が辛うじて生きられる領域を確保し、其処でまるで、奴隷船の一室のように多くの者達がたむろする。
荒くれ者、薬物中毒者、狂人、終末思想の傾倒者、アルコール中毒者に人攫い。そう言った身分にまで身を落とさざるを得なくなった者達すら跋扈する、階層都市インガノックの下層部。
其処に生きる者達の頭から、夢などと言う言葉が消失して、既に久しかった。

 輝かしくも美しいものがあった筈の過去を振り返っても、底の見えぬ断絶の奈落が広がるだけで。
転機と好機とが待ち受けている筈の未来に目を向けても、其処に在るのは今と変わらぬ、これまで過ごして来た灰色と暗澹と惨憺のルーティンが丹念に舗装されているだけで。
絶望と失望とを友とする、インガノックの毎日は、其処に住まう者の精神を鑢掛けにでもするように、確実に擦り減らせて行ってしまい……。
遂には、その日常こそが当たり前のものになってしまい、諦めてしまう。ヴェーネの目と言うのはつまるところ、そう言った、諦めた者の目であり、生きる事に希望を見出さぬ者の目であった。

 誰もが、自分か、自分の魂よりも大事なものの為に動いていたあの街で。
ギーだけは、違った。あの男は寧ろ、自分の事に何て全く重きを置いてなどいなかった。
亡霊のように都市を彷徨い歩き、自分の力を欲する誰かを探し、時には対価なんて全く求めず、治療に及ぶあの数式医を指して、ある者は狂人だと言っていた。
ギー程の才能がある人物であれば、階層都市とも時に称されるインガノックの底辺階層ではなく、もっと上のアッパー・レイヤー。
上層部で活躍し、華々しい生活を送る事だとて、可能だった筈なのだ。ギーは、それをしなかった。何故そうしないのかと、ギーの友人のエラリィは逢う度彼を説得していた。
もっと自分の欲に従っても、良いんじゃないのかと。エラリィはそう言いたかったのだろうか。苦労して得た技術なのだ、その苦労に見合った対価を要求する事もまた、大人に求められる責務なのではないのかと。

 ギーは、何故、狂ってしまったのか?
変わり者だったから? 確かにそうだ。欲がなかったから? 成程そう言った情動について彼は希薄でもあった。
だが、キーアは知っている。病院施設の崩落に巻き込まれた一人の少女の、懸命な治療の甲斐なく死なせてしまい、その時の後悔こそが今の無欲な医療行為に繋がっている事を。
力及ばず、少女を救えなかったその無念こそが、廉潔無私の域を超えて最早気狂いの域に突入している、病的かつ強迫的な人助けであった。

 だから、そのインガノックから、身分の差が撤廃され、階層間の行き交いが思うがままになり、職業の選択の自由も許されたあの時。
自分の力を必要としていた者が己の手の内から旅立ち、更なる幸福を約束されてしまった、あの瞬間。
ギーと呼ばれる数式医は、己がどのようにして生きれば良いのか、解らなくなってしまった。ギーの医療に依存していた患者も勿論いたが、それ以上に、ギーがその患者に依存していたのだ。
自分の力を必要としてくれる者が、誰もいない。依然として都市の現状は変わっていないのに、皆は幸福への片道切符を手に入れていて、自分もそれを手に入れられる筈なのに。
ギーだけが、幸福じゃなく、困惑と当惑の中に放り出されただけだった。インガノックの混沌に、一番救われて、一番依拠していたのが自分であった。その事をギーは、認識してしまったのだ。
数式医としての自分を求めてくれる者は何処だと、迷子の子犬のように都市中を歩き回り、遂には見つけられず、項垂れて、インガノック第7層28区域のアパルトメントに戻って来たあの瞬間を、キーアは覚えていた。

「あなたの事、あたしはよく知らないけど……。いたのよね? 生きていて欲しかったと。あなた自身が、強く思う人が……」

「……」

 ――まあ色々在るだろうけどさ。空でも見ながら、ゆっくり歩いて行けよ――

 ――頑張れよ。俺達が付いてるからな。みんなで、一緒に生きて行こうぜ――

 ――恐れないで。必ずその足で何処までも歩いて行ける――

 生前に掛けられた、様々な言葉を思い出す。ドラッグを服用し、頭がおかしくなっても消える事のなかった言葉と思い出。
彼は前世の自分の夫だった。彼は前世の自分が産んだ愛しい息子だった。彼女は、本当の自分であった。
皆、答えを得たかのように、己の人生の納得を見つけ、それに相応しい終わりを見せつけ、そして、ヴェーネに生きて欲しいと願っていた人々だった。
……酷い人達ね、本当。私が本当に生きていて欲しかったのは、私何かじゃなくて、あなた達だったと言うのに……。勝手な事を思い思いに言って、何処かに行ってしまうのだから……。困った奴ら。

「死んだ方が楽になれる、それは、そうなのかも知れないわ。あたしも……同じ事に出くわした事があるから」

 ギュっと、握り拳を作るキーア。
忘れはしない。出産を間近に控えた母と、それを楽しみにしていたキーアと、彼女の兄と父。入院していた病院を突如として襲った、崩落事故。
それに巻き込まれ、瓦礫の堆積に埋もれ、最早死を待つだけだった自分と、そんな自分を救おうとする若い研修医。
そして、苦しみに喘ぐ自分を見て、涙を流して「苦しそうだ、頼むもう楽にしてやってくれ」と懇願する兄の姿。今際に見るには、余りにも凄絶かつ壮絶な風景だった。

「……でも、やっぱり、生きていたいと思ったわ。あたしを助けてくれようとしたあの人に、お礼を言いたかったから。あの人と一緒に、過ごしてみたかったから」

 自分の死が消えぬ、癒えぬ傷痕となり、狂ったように壊れたように、人を治す事に努めようとするあの青年に、キーアは逢いたかった。一言、言ってあげたかった。
恨んでなんかない。憎んでなんかない。苦しんで欲しくもないし、傷ついて欲しくもない。あの時、死に逝くあたしの為に一生懸命になってくれて、ありがとう。それが、キーアの思いだった。

 ギーとヴェーネは同じだ。
忙殺されんばかりの使命と義務の環境の中でしか、己の存在意義を見出す事が出来ず、それに注力する事ことこそが、生きる目的だと信じる者達。
自分はそう言うものの為の装置であり歯車だと、疑っていない。疑っては、ならない。疑問を覚えてしまえば、自分の意義を見失うから。壊れて、しまうから。
本来彼らが求めるべき最終目標である平和が訪れる事で、逆に自壊してしまう、逆説的で哀れな生き物。ギーとヴェーネは、キーアの目には、同じに見える。

「……辛いわよね。好きな人がいなくなるのは。不安にもなるわ」 

 だが、結局キーアがそんな事言えるのは、自分が逢いたいと思っていたギーが、生きていたからに他ならない。
ヴェーネはきっと、違うのだ。自分に生きていて欲しいと願った大切な人達はとっくに逝ってしまい、精神的な支えにもなっていた己の使命が消失し。
そんな平和と虚無とが綯交ぜになった世界で、生きて行く事を、彼女は強いられてしまったのだ。それはとても、堪えられぬ程に残酷で、辛くて、厳しくて。

「でも、あなたに生きていて欲しいと願った人達は、本当は優しい人。だって、誰かに生きていて欲しいと願える人は、心優しい人だもの。間違いないわ」

 「――だから」

「その人達の為に、もう少し、前を向いて歩いてみましょう?」

 「それにも少し飽きたら……」と言ってキーアはパタパタと小走りになって、窓まで近づき、カーテンを開けた。
抜けるような冬の晴れ空。雲一つない快晴。輝ける真冬の太陽。室内灯など付ける必要もない。気持ちよくなるような、見事な蒼い蒼い空が、窓から広がっていた。

「ほら、見て!! 綺麗な青空でしょう? たまには空でも眺めて、楽しみましょう?」

 キーアは、この異界東京都で見る空が好きだった。
本当に、蒼いからである。インガノックで見た書物で、青空を指して『抜けるような』と言う比喩が用いられていたのを見た事があるが、当時はその意味が解らなかった。
今なら解る、その表現が正しかった事を。あの空は何処までも大きくて広くて、高くって。見上げ続けていたら、己の魂までもが上昇していくような、そんな気分が味わえるのだ。
ああ、翼が欲しい。アティと一緒に仕事をしていた、あの翼を生えた《鳥禽》の人が、羨ましく思える。あの人も、どうせ飛ぶならこんな空だと、この東京の空を見れば思うに違いない。

「……馬鹿な娘」

 フッ、とヴェーネは嘲った。

「空を見上げても、何も無いわよ」

「自由に生きていても良いって、思えるでしょう? 青は自由の色だそうよ?」

「憂鬱の色でもあるわ。blueは、憂鬱って意味もあるのよ」

 そこでヴェーネは押し黙る。数秒程の沈黙が流れ、ああ、これで今日の会話も……。とキーアが思いかけたその時だった。

「優しい人だって。御前はそう言ったわね」

 ふと、ヴェーネがそんな事を口にして来た。

「半分は正解よ。もう半分は……何処までも身勝手。何やら満足して、私の知らない答えを見つけて、自分に自由やら祈りやらを託して重荷を任せて来た、自分勝手な男共よ」

 そう口にするヴェーネの言葉は、呆れながらも、親しみと、温かみが同居した、優しい声音であった。

「男の子はそう言うものだって聞いたし、そうだとあたしも思うわ。ギーも、あたしに何も言わず何処かに行って、フラリと帰って来る人だったから。でも、そう言う人が、あたしは好き」

「……呆れる程のマセた餓鬼ね。御前の十年後は、ロクでもない男に騙されて終わりよ」

「フフッ」

 と言ってキーアは微笑んだ。この少女にその十年後が遂に訪れなかった事を、ヴェーネは知らない。
さて、と言ってテーブルに戻ろうとし、自分も朝のご飯を食べようとしたその時だった。

「――聖杯戦争」

 ヴェーネはポツリ、とそんな事を口にした。キーアが立ち止まる。
それは、今正しくキーアが巻き込まれている恐ろしいイベントの事であり、今後嫌が応でも避けられ得ぬ事柄であった。
考えていなかった訳じゃない。寧ろ必死にどうすれば良いのか考えていた。結局、彼女の頭では何も思いつかなかったし、ヴェーネと心を通じ合わせようと頑張る事の方が、重要だと思い、プライオリティを下げていたのである。

「私にとっては何処までも如何でも良いイベントだけど、御前にとってはそうでも無いのでしょう?」

「……ええ、そうね」

「どうせ御前の事、願いなんて物も、無いのでしょう?」

 頷くキーア。そうだ。彼女の願いは、もう生前に叶っているのであるから。

「簡単な心理テストを出して上げる」

「心理……テスト?」

 インガノックでギーの助手を勤め、古い医学書とかを学んでいた時、そう言ったテストを行う事で、患者の心理状況を把握したり、適性を計ったりする習慣があった事をキーアは知って居る。勿論《復活》後のインガノックでは、死に絶えた風習である。

「其れの答え次第じゃ、御前を守ってあげても良いわ」

「じゃあセイヴァーは今まで……」

「当然。御前の為に戦う気何てなかったわ。とっとと死んで、私の方が自由に成りたかった」

 余りにも直接的に、正直に言うものだから、キーアは怒るよりもむしろ苦笑いをしてしまった。そして、その事に対して、如何にも怒れない。

「――その右腕に抱くのは、産まれて間もない懐いた仔猫。その左腕で握るのは、一本のハンマー。……この意味は?」

「???」

 意味が解らない、と言う風に首を傾げるキーア。
通常心理テストと言うのは、出題された者にその意図を探られては意味がない。
それはそうだ、テストと言うからには当然、想定された答えが用意されていて、その答えを元に適性等を図るのである。
だからこの場合、質問の意図が読めないと言うのは、寧ろ極めて正常な反応なのだが、それにしたとて、キーアは意味が解らない。猫に、ハンマー?

「猫ってあの、ニャーニャー鳴く、あのネコ?」

「其れ以外に何が在るってのよ、馬鹿」

 恥ずかしながら、キーアは猫を見た事がなかった。
本物の猫を見たのは、この異界東京都に召喚されてからの、近所の駐車場で野良猫が会議をしている様子を目の当たりにしたその時こと。
そのあまりの愛くるしさに、彼女は時間を忘れて可愛がってあげた物だ。そして、その猫と遊んでいると、インガノックでの大事な友人である、アティの事を、彼女は思い出すのである。

「フフッ、セイヴァー。あなたの心理テストって、面白いのね」

「は?」

 仔猫が自分に懐いている。確かにヴェーネはそう言った。ならば、やる事など、一つだろう。

「『ハンマーを捨てて、開いたその手で撫でてあげた方がねこさんが喜ぶわ』」

「………………………………」

 ヴェーネは押し黙る。キーアは、答えを出すのを渋っているのだと思った。

 ――やあヴェーネ。今日はお前の5歳の誕生日だったな――

 ――これはハンマーと言うものだ――

 ――猫の顔をよく見ているのだぞ――

 生前、幾度となく繰り返されたやり取り。
5歳の時も、6歳の時も。7歳の時も10歳の時も、20歳の時もやらせた事をヴェーネは思い出す。
そしてキーアに質問したシチュエーションにそのままヴェーネが直面し、彼女がどんな選択を選んだのかと言う事も。外ならぬヴェーネ・アンスバッハは、良く覚えている。
この心理テストと言う名前の、過去の自分の追想に対する正解とは、何だったのか。キーアの問いは、きっと、恐らく……。いや、絶対。これが正しかったと、ヴェーネは思った。

「……ま、50点ね」

 ヴェーネは違った。
自分の頭の空想の中で、ヴェーネは、過去の自分にそんな体験をさせて来たジークベルト・アンスバッハの顔面にハンマーを叩きつけ、その脳漿と頭蓋骨と脳みそとを巻き散らさせ、即死させた。

 ――ああ、スッキリした。こんな世界でまで憑いて来るんじゃないわよ、この亡霊風情が。

「……あ、セイヴァー……!!」

 あっと、キーアは思わず目を丸くした。
食べている。ヴェーネが、自分の食べた朝食を。スクランブルエッグに、口を付けている!! 今まで、食べてもくれなかったのに!!

「……この箸って奴、使い難いわね。あと、卵はもっとしっかり炒りなさい。半熟は嫌いなの」

「……フフッ、何か、大きな子供みたい」

「可愛げのない餓鬼ね、やっぱり御前は」

 不機嫌になりながらも、ヴェーネは朝のご飯を食べ続ける。
気分を良くしたキーアが、直ぐにテーブルに座り、楽しそうに、彼女と一緒にトーストを頬張り始めた。

 ――異界東京都の北区、そのアパルトメントでの一シーンが、これであった。




【クラス】

セイヴァー

【真名】

ヴェーネ・アンスバッハ@Seraphic Blue

【ステータス】

筋力D 耐久C+ 敏捷B+ 魔力A 幸運A 宝具EX

【属性】

中立・善

【クラススキル】

救世の使徒:A+
世界を救う定めを課せられた者。そして、その役割を果たせた者。
前提として世界を救ったと言う事もそうだが、当スキルのランクの高低は、当該サーヴァントが関与した危機の深刻さ・広範さで決定される。
要は、惑星の危機が深刻であればある程、そしてその事態のケアの完璧さによって、スキルランクは高くなる。
セイヴァーの救世の使徒ランクは最高峰、惑星全土から霊長の類が消える事は勿論の事、全天全地が消滅する程の危機を救った、紛れもない大偉業の達成者である。
世界の危機、星の危機、人命に対する危難を救おうとする行為全般に対して、有利な判定ボーナスが付く上に、その行為を行っている間、セイヴァーの全ステータスはワンランクアップする。

【保有スキル】

セラフィックブルー:EX
聖なる青を、取り戻す者。
地上に生きる人間であるパーソンと、前世の記憶と能力を引き継いで産まれる天使王国フェジテの人間であるセラパーソンの相の子。それが、セラフィックブルー本体である。
存在的に極めて不安定であり、その存在の確度を高める第一片翼と第二片翼と呼ばれる存在が必要になり、セイヴァーは本来はこの第一片翼の方であり、本体はまた別に存在した。
セラフィックブルーと呼ばれる存在の真の意義は、後述する宝具であるガイアリバースを発動させる事に在り、これを以てセラフィックブルーと言う存在が定義される。
その為、第一片翼に過ぎなかったセイヴァーはそもそもをしてこのスキルを獲得できないのであるが、生前の辿った足跡の影響で、唯一単体で、
即ち片翼のサポートを得る事無く、独力でガイアリバースを発動出来るセラフィックブルー・セルフに進化している。ランクEXとはまさにこの、セルフ化した事に由来する。

抑止力の加護(ガイア):C(EX)
星の代弁者、その加護。
存在自体が星の救助の為に在るセラフィックブルーは、その性質上星の危機を明白に救う事が確定されている存在であり、翻って、星にとってなくてはならないピースである。
この故にセイヴァーは地球上に於いて戦う事で、ガイア側の抑止力から優先的なバックアップとサポートの供給を可能としている。
本来のランクはEX相当。優先的に、星の内部で鍛造された神造宝具相当の代物をも与えられる程の破格のランクであるが、この異界東京都はヴェーネの活動していた地球ではない事。
加えて再現範囲が限定的である事、何よりも星の代弁者と呼ばれる、所謂ガイアの抑止力側の担当者が見受けられない事から、格段にランクが落ちている。
このランクになるとこちら側の幸運判定に優先ボーナスが得られ、この地上にいる限り大地から魔力が優先して供給されるなどの恩恵に留まる。

対魔(異邦):A+
魔なる者に対する特攻性能。
事にセイヴァーは、地球由来のかつ、本来の生態系や進化の系統樹から逸脱した存在に対して、強い特攻性能を有する。
また聖杯戦争に於いては更に能力に拡大解釈がなされ、地球外の生命体に対しても特攻性能を得られるようになった。
対フォーリナークラス、対ビースト、対異星の生命体、対系統樹外の生命体・能力者特攻。
ランクA+は極めて高度なクラスランク。生前、ガイアプロビデンスの異常から生まれた地球の癌、ガイアキャンサーを一匹残らず駆逐したセイヴァーの対魔ランクは、最高峰のそれを誇る。

対魔力:A

精神異常:E
精神を病んでいる。精神的なスーパーアーマー、と言う程ではないが、彼女の精神はやや歪んでいる。

【宝具】

『天羅の翼(セラフィックトランス)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大補足:100~
セイヴァー、即ち、セラパーソンと呼ばれる人種に於いて、前世の情報と記憶を一つの身体に溜め置く事が出来ない為、この二つ分の人生を体内に留めさせる為の拡張器官・フェザー。
通常この器官は目に見える事はないが、極限までの意識集中か意識の喪失状態になると体外に、フェザーの名前の通りの天使の白い翼のような器官として現出する。
このフェザーを自壊させ、莫大なエネルギー暴走を引き起こす事をセラフィックトランスと呼びその威力は破格のもの。
この現象を意識的に引き起こした場合、待っているのは当該セラパーソンの確実な死亡であり、通常は何が在っても生き残れない。
仮に生き残れたとしても、フェザーそのものがセラパーソンの記憶と人生の情報を内包した拡張器官であり、それを自壊させると言う性質上、重大な記憶障害が発生する。
しかしセイヴァーはこの現象を引き起こして生き残っていた唯一の人物である、と言うエピソードと、スキル・抑止力の加護(ガイア)スキルの影響と、宝具として登録された事により、
出力の調整が可能となり、出力如何によってはセラフィックトランスを引き起こしても自爆になるどころか記憶障害すら引き起こす事もなくなると言うメリットを得られるようになった。
勿論これは、『出力を調整していたら』の話であり、最大開放の威力は正に痛烈無比。サーヴァントの霊基を得たセイヴァーですら、消滅確定の自爆宝具となる。

『癒者よ、星を治せ(ガイアリバース)』
ランク:EX 種別:対星・対摂理宝具 レンジ:∞ 最大補足:∞
生前にセイヴァーが引き起こした究極の奇跡、ガイアリバース。これを意図的に生じさせる宝具。
ガイアリバースとは、地球が持つ生命エネルギー、或いはこれに類するエネルギー溜まりを活性化させる事であり、
生前はこの現象を用い、地球環境の安定及び地球に根差す病根を根絶させるに至った。発動した瞬間、地球を蝕むあらゆる内的・外的因子は消滅する。
この因子とは物質的な存在は元より、概念的なもの、また異界・異星由来の物を含めて、『地球上では本来生じ得ない上に確実に地球を滅びしかねないもの』を完全に消滅させる。
この消滅とは攻撃ではなく、『地球が元の形に回復する過程で起こる消滅』の為、攻撃や障害を防ぐと言う目的で編まれた概念・魔術・呪術的な、全ての防護を貫く。
勿論埒外の奇跡を体現させる宝具の為、発動すればセイヴァーは消滅するだけでなく、魔力消費も尋常のそれではなく、何よりも、セイヴァー自身が、
強い生きる意思を有していなければこの宝具は発動する事が出来ない。二番目のデメリットも致命的だが、最後の生きる意思こそが重大で、セイヴァーは現在、この宝具を発動出来るだけの強い意思を持っていない。

『R(エル)』
ランク:- 種別:- レンジ:- 最大捕捉:-
この宝具は完全に消滅している。セイヴァーは、勝利している。

【weapon】

蒼天弓ブルーブレイカー:
生前星の代弁者より与えられた、星の内部で鍛造された弓矢。矢ではなく指向性のエネルギーを射出する弓で、これ単体がAランク宝具に相当する性能を持つ。

蒼天衣セイクリッドブルー:
同じく星の代弁者より与えられたフレーム。着用している本人にAランク相当の対魔力と、状態異常に対する耐性を約束する。これもまた、Aランク宝具に相当する性能である。

魔法:
TYPE-MOON世界に於ける魔法とは違うが、セイヴァーは特に回復と補助の魔術に長けていて、この2つに関しては、下手なキャスタークラスをも完全に超えている。
この2つの魔法と、上述のブルーブレイカーによる恐るべき威力の弓術を合わせる戦いこそが、セイヴァーの基本骨子。

【人物背景】

生きる事を決意した女性。だがそれでも、世界の無情さに耐え切れなかった、嘗て優しかった女性。

【サーヴァントとしての願い】

ない。が、自分を召喚した餓鬼の選択は見守ってやる



【マスター】

キーア@赫炎のインガノック -What a beautiful people-

【マスターとしての願い】

誰も殺したくないけど、出来るのなら、あの人に逢いたい

【能力・技能】

勘が鋭い。直感的に、人の嘘が解るようになる。後母性的。

【人物背景】

嘗て死んだ命。自分の命を懸命に拾い上げようとした男に、ありがとうを伝える、その為に立ち上がった少女。

その本懐を果たし、召された後から参戦。

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最終更新:2022年08月14日 01:30