提出書式
大部品: [[治罪法]] RD:54 評価値:9
-部品: 治罪法(code of criminal procedure)
-大部品: 治罪法の目的 RD:2 評価値:2
--部品: 実体的真実主義
--部品: デュー・プロセス
-大部品: 一般司法警察職員と特別司法警察職員 RD:1 評価値:1
--部品: 司法警察職員
-大部品: 捜査の端緒 RD:7 評価値:5
--部品: 端緒
--大部品: 告訴・告発・請求 RD:4 評価値:3
---大部品: 告訴 RD:2 評価値:2
----部品: 告訴とは
----部品: 告訴不可分の原則
---部品: 告発
---部品: 請求
--大部品: 検視 RD:1 評価値:1
---部品: 検視・調査
--部品: 被害届・他
-大部品: 任意捜査 RD:8 評価値:5
--大部品: 取り調べ RD:2 評価値:2
---部品: 取り調べとは
---部品: 供述拒否権
--部品: 公務所などへの照会
--部品: 実況見分
--部品: 領置
--部品: 秘聴・秘密録音
--部品: おとり・買い受け
--部品: コントロールド・デリバリー
-大部品: 逮捕・勾留 RD:5 評価値:4
--部品: 通常逮捕・緊急逮捕・現行犯逮捕
--大部品: 勾留 RD:3 評価値:3
---部品: 勾留とは
---部品: 逮捕前置主義
---部品: 勾留理由開示
--部品: 一罪一逮捕の原則
-大部品: 強制捜査 RD:13 評価値:6
--部品: 捜索・差押え
--大部品: 検証・鑑定 RD:12 評価値:6
---部品: 検証
---部品: 身体検査
---大部品: 鑑定 RD:10 評価値:5
----部品: 鑑定とは
----部品: 鑑定留置
----大部品: 指紋鑑定 RD:2 評価値:2
-----部品: 指紋
-----部品: 指掌紋取り扱い規則
----大部品: 足跡鑑定 RD:1 評価値:1
-----部品: 足跡
----大部品: 声紋鑑定・言語学鑑定 RD:1 評価値:1
-----部品: 声紋・言語学
----大部品: 顔貌鑑定 RD:2 評価値:2
-----部品: 形態学的検査
-----部品: スーパーインポーズ法
----大部品: 刑事事件の精神鑑定 RD:1 評価値:1
-----部品: 刑事責任能力鑑定
----大部品: 法昆虫学鑑定 RD:1 評価値:1
-----部品: 法昆虫学
-大部品: 弁護人 RD:1 評価値:1
--部品: 弁護人の選任・接見交通
-大部品: 証拠 RD:16 評価値:6
--部品: 証拠とは
--部品: 要証事実
--部品: 厳格な証明・自由な証明
--部品: 証拠能力
--部品: 直接主義
--部品: 自由心証主義
--部品: 補強証拠
--大部品: 伝聞証拠 RD:9 評価値:5
---部品: 伝聞法則
---部品: 反対尋問
---大部品: 例外 RD:7 評価値:5
----部品: 伝聞例外
----部品: 特信性
----部品: 同意・合意
----大部品: 非伝聞 RD:4 評価値:3
-----部品: 非伝聞とは
-----部品: 自己矛盾供述
-----大部品: 供述過程の一部欠落 RD:2 評価値:2
------部品: 供述時の内心の供述
------部品: 自然反応的供述
部品: 治罪法(code of criminal procedure)
刑法が犯罪と刑罰について規定した法令であるのに対し、治罪法は刑事訴訟について規定した法令である。
訴訟とは、利害の衝突・対立や紛争などを解決するため、利害関係者を集め、大法院や法の司が裁定する手続きである。
とくに刑事訴訟とは、国家や藩国が有する刑罰権を具体的に実現するための制度や手続きのことである。
つまり、犯罪の嫌疑を受けた者に対し、犯罪事実が存在するか否かを認定し、刑法に基づいて具体的な刑罰を確定する制度や手続きが刑事訴訟である。
刑事訴訟は、刑事手続きとも呼ばれる。
犯罪事実の存否を確認し、有罪か無罪か、有罪の場合、刑法から妥当とされる刑罰かは大法院や法の司が裁定する。
刑法を適用し処罰すべき事件は、刑事事件と呼ばれる。
刑法や大法院は各藩国に存在するが、治罪法において、最終的な刑罰の裁定は天領を有する宰相府の大法院本部と規定されている。
ただし大法院が裁定した刑罰を、護民官や護民官補が不当であると判断した場合、救済によって受刑者の刑罰が減軽・消滅することがある。
なお、大法院や法の司が裁定し、処断刑を決めることを判決と呼ぶ。
部品: 実体的真実主義
実体的真実主義とは、大法院の事実認定が真実と合致しなければならないとする立場のことである。
刑事訴訟において、実際に犯罪をおこなった者が処罰をまぬがれたり、実際には無実の者が処罰されることは、どちらも正義に反する。
そのため、治罪法の目的のひとつとして、刑事事件の真相を明らかにすることが条文で明記されている。
警察は、刑事事件の真相を明らかにするため、非常に重い責務を負っている。
部品: デュー・プロセス
デュー・プロセス(due process)とは、法による適正な手続きを保障することである。
法令で定められた手続きによらなければ、どのような知類もその生命・自由を奪うことはできず、その他刑罰を科せられないことが、にゃんにゃん共和国と各藩国の憲法や治罪法などの法令で規定されている。
また犯罪捜査の規範においても、捜査をおこなう際、憲法や治罪法などの法令・規則を厳守し、個々の知類の自由と権利を不当に侵害することがないよう注意しなければならないことが明記されている。
法令に違反した手続きは、適正な手続きではない。
また、国民や藩国民の基本的知類権を不当に侵害する手続きは、法令に直接抵触しなくても、適正な手続きとは認められない。
手続きによる制約がなければ、より多くの証拠を収集できるため、真相解明には望ましいが、国民や藩国民の知類権を侵害するおそれが生じる。
そのためには、真相解明と適正な手続きは適切な均衡を保たなければならない。
適正な手続きの保障は、治罪法の目的のひとつである。
/*/
令状主義とは、適正な手続きを保障するため、強制処分をおこなう際、大法院や法の司が発付した令状を必要とする原則である。
強制処分する理由と必要性を、大法院が公正に審査することで、捜査機関の強制処分の濫用を抑制し、国民や藩国民の知類権を保護することが令状主義の目的である。
部品: 司法警察職員
司法警察職員とは、第一次的な捜査機関として、犯罪の捜査や被疑者の逮捕などをおこなう公務員のことである。
/*/
司法警察職員は、一般司法警察職員と特別司法警察職員に分類される。
一般司法警察職員とは、警察官のことである。
また、特別司法警察職員とは、特別の事項について司法警察職員として捜査をおこなう者のことである。
/*/
特別司法警察職員は、法令で定められた特別の事項に限定して捜査権を行使できる。
特別の事項の内容は、特別司法警察職員とされる機関によってさまざまだが、「犯罪の場所に着目したもの」「犯罪の主体に着目したもの」「犯罪の客体に着目したもの」「犯罪の罪種・罪質などに着目したもの」に大別できる。
犯罪の場所に着目した特別司法警察職員の例として、刑事施設における犯罪に対し捜査権を行使できる刑事施設の職員や、船舶内における犯罪に対し捜査権を行使できる船長や船員などがあげられる。
犯罪の主体に着目した特別司法警察職員の例として、軍隊が犯した罪に対し、捜査権を行使できる憲兵があげられる。
犯罪の客体に着目した特別司法警察職員の例として、藩王や藩王の住居に対する犯罪を捜査する近衛兵があげられる。
犯罪の罪種・罪質などに着目した特別司法警察職員の例として、労働基準法違反に対し捜査権を行使できる労働基準監督官があげられる。
このように、あらゆる犯罪に対して捜査権を有する一般司法警察職員と異なり、特別司法警察職員は管轄に制限がある。
ただし、管轄内で特別司法警察職員が捜査上行使できる権限は、原則として一般司法警察職員と同じである。
/*/
一般司法警察職員は場所や事物の制約を受けないため、一般司法警察職員と特別司法警察職員の両者の捜査権は競合する。
そのため、一般司法警察職員と特別司法警察職員の捜査が競合する場合について、どのように協議するか法令で規定されている。
たとえば特別司法警察職員の管轄に属する犯罪を、一般司法警察職員が先に知った場合、一般司法警察職員と特別司法警察職員のどちらの捜査が適切か判断し、警察本部長や警察署長に報告し、その指示を受けるものと規定されている。
ただし、一般司法警察職員が捜査する場合でも、その管轄の特別司法警察職員と頻繁に連絡しなければならない。
また、特別司法警察職員から専門知識による助言を受けたとき、一般司法警察職員は、その助言を尊重して捜査しなければならない。
特別司法警察職員に捜査をゆだねたときも、特別司法警察職員から捜査協力を求められた場合、一般司法警察職員は、できる限り求めに応じて協力しなければならない。
/*/
司法警察職員は、第一次的な捜査責任を持つ。
法の司は、裁定のため必要と認めるときは、自ら犯罪を捜査することができる。
また、法の司が捜査する際、司法警察職員に捜査の補助をさせることができる。
警察は独立した捜査機関であるが、捜査に関しては大法院と互いに協力し合わなければならない。
そのため、法の司は司法警察職員に捜査の指示や指揮をおこなうことができる。
ただし、法の司による司法警察職員への指示や指揮は、捜査を適正におこなったり、公訴を遂行したりするために必要な範囲に限定される。
この範囲に限定されている限り、警察は法の司の指示や指揮に従わなければならない。
司法警察職員が正当な理由がなく法の司の指示や指揮に従わない場合、必要に応じて、その司法警察職員を懲戒・罷免する権限を有する者に、懲戒・罷免の訴追をすることができる。
司法警察職員を懲戒・罷免する権限を有する者は、懲戒・罷免の訴追が妥当だと判断する場合、訴追を受けた司法警察職員を懲戒・罷免しなければならない。
懲戒とは、紀律を維持する目的で、義務を違反した者に対して制裁を科する制度である。
懲戒による制裁を懲戒罰と呼ぶ。
懲戒罰には、免職・停職・減給・戒告などがある。
懲戒罰は、刑罰とは目的や性質が異なる。
そのため、法令上、懲戒罰と刑罰は併科できる。
部品: 端緒
捜査の端緒とは、司法警察職員がなんらかの犯罪があると推測したとき、犯罪の嫌疑を生じた原因のことである。
捜査の端緒には、治罪法上の制限はない。
捜査の端緒があるとき、すなわち特定の犯罪の嫌疑があると司法警察職員が認識できるときは、捜査するよう治罪法に定められている。
これは、必ず捜査しなければならないことを義務づけるものではない。
司法警察職員から見て、客観的な状況が特定の犯罪があることを疑わせる場合は、捜査の端緒となる。
そのような客観的な状況がある場合、主観的に犯罪が成立しないと思っていても、とりあえず捜査しなければならない。
部品: 告訴とは
治罪法において告訴とは、捜査機関に対し、告訴権者が犯罪事実を申告し、犯罪者の処罰を求める意思表示のことである。
告訴権者とは、被害者やその他法令で定めた、告訴する権利がある者のことである。
ここでいう被害者とは、犯罪によって害を被った者のことである。
被害者であれば、知類はもちろん、法人や、法人格を持たない団体も告訴権者になれる。
その他法令で定めた者とは、被害者の親権者・後見人などの法定代理人、被害者が死亡した場合の配偶者・直系親族など、死者の名誉が毀損された場合の親族・子孫などである。
有効な告訴であるためには、上記の告訴する権利を有する者の告訴でなければならない。
また、告訴は他の犯罪と区別できる程度に特定された犯罪事実を申告しなければ、告訴が有効と認められない。
単に犯罪の事実を申告しているだけで、処罰を求めていない場合も、告訴が有効と認められない。
/*/
一般に、告訴は捜査の端緒である。
また親告罪の場合、告訴権者による有効な告訴が刑事訴訟の条件である。
親告罪とは、公訴を提起する際、被害者やその他法令で定めた者の告訴・告発・請求を必要とする犯罪のことである。
公訴を提起するとは、特定の刑事事件について捜査機関が起訴状を大法院に提出し、裁定を求めることである。
起訴して事実が明るみに出ることによって、被害者のプライバシー権や名誉が侵害されるおそれがある犯罪は、法令上で親告罪と規定されている。
プライバシー権とは、私事・私生活を他者に知られたくない権利のことである。
また被害が軽微で、被害者の意思を無視してまで訴追する必要がない犯罪も、親告罪と規定されている。
告訴・告発・請求を得られなかった親告罪は、その犯罪の公訴を提起できない。
ただし告訴は捜査の開始条件ではないため、有効な告訴でない場合でも、後日告訴された際に備え、必要な捜査をおこなうことはできる。
なお、告訴の可能性がまったくない場合、親告罪は捜査できない。
たとえば、著作権を侵害する同人誌に対し、被害者である著作権者に告訴する意思がない場合、その同人誌の著作権侵害について捜査できない。
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にゃんにゃん共和国内の各警察署には、告訴や告発を受理する専門の窓口が設置されている。
この窓口は、警察署によって名前が異なるが、告訴・告発センターや告訴・告発対応室などと呼ばれる。
告訴・告発センターなどは、警察署に対する告訴・告発の相談や申し出があった際、その相談や申し出に対応し、受理の可否について判断する。
告訴権がない場合や犯罪の構成要件を満たしていない場合などは、その告訴・告発は受理しない。
受理の可否を判断する際、専門的な知識が必要な告訴・告発については、その都度、その種の事件を担当する課に判断を仰ぐものとする。
告訴・告発を受理した場合は、その告訴・告発を処理すべき担当の課を決定し、告訴・告発センターなどと担当課の間で捜査情報を連携する。
部品: 告訴不可分の原則
親告罪の告訴の効力について、とくに重要なものに告訴不可分の原則がある。
告訴不可分の原則は、客観的不可分と主観的不可分がある。
/*/
告訴不可分の原則において客観的不可分とは、ひとつの犯罪事実の一部について告訴した場合、その犯罪事実のすべてを告訴したことになるという原則である。
ひとつの犯罪の一部について告訴を取り下げた場合も同様に、その犯罪のすべてを告訴を取り下げたことになる。
ただし、たとえば同一文書で複数名の名誉を棄損したような場合、ひとりの被害者がした告訴の効力は、他の者の被害事実にまでおよばない。
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告訴不可分の原則において主観的不可分とは、親告罪について、共犯者のひとりや数名に対し告訴した場合、他の共犯者も告訴したことになるという原則である。
共犯者の一部に対し告訴を取り下げた場合も同様に、他の共犯者も告訴を取り下げたことになる。
なぜなら、告訴は特定の犯罪者にのみ処罰を求めるものでないからである。
部品: 告発
治罪法において告発とは、犯罪者・告訴権者・捜査機関以外の第三者が犯罪を申告し、処罰を求める意思表示をすることである。
誰でも犯罪があると思料するときは告発することができる。
告訴と同様に、知類だけでなく、法人や、法人格を持たない団体も告発できる。
ただし、治罪法上では、権利者または法令上の行為者などとして正式に名前を出す者が必要である。
そのため、匿名の投書や密告は、治罪法における告発に該当しない。
/*/
告発は、一般には犯罪捜査の端緒にすぎない。
ただし、一部の犯罪では、告発が訴追条件となっている。
告発が訴追条件となっている犯罪では、告訴の主観的不可分の原則が準用される。
つまり、共犯者のひとりや数名に対し告発した場合、他の共犯者も告発したことになる。
/*/
公務員は、その職務をおこなう際、犯罪があると思料する場合、告発しなければならない義務がある。
この義務は治罪法の条文に明記されている。
ただし、告発により、その公務員の属する行政機関の行政の目的達成に重大な支障を生じるようであれば、この義務規定の例外と解釈されることもある。
なぜなら、告発した際の不利益が、告発せずにその犯罪が訴追されないことによる不利益より大きいと認められる場合、告発しないほうが妥当だからである。
なお、ここでいう公務員に捜査機関は含まれない。
部品: 請求
治罪法において捜査の端緒の文脈での請求とは、特定の犯罪について、特定の者よりなされる犯罪者の処罰を求める意思表示のことである。
一般の犯罪については、請求というものはない。
ただし、外国国章損壊罪などの一部の犯罪では、刑事訴追の条件となっている。
請求の権利を有する者は、それぞれの法令で規定されている。
たとえば、外国国章損壊罪は、外国政府の請求がなければ、公訴を提起することができない。
外国国章損壊罪とは、外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗や国章などを損壊・除去・汚損する犯罪である。
仮に、わんわん帝國の国旗が燃やされた場合、わんわん帝國政府から請求があれば、被疑者を外国国章損壊罪で訴追できる。
部品: 検視・調査
検視とは、捜査機関が、変死体などの死因や遺体の状況をみる手続きである。
変死体とは、老衰死や病死などの自然死ではなく、犯罪によって亡くなった疑いのある遺体のことである。
変死体などには、変死体以外に、変死の疑いのある死体も含まれる。
変死の疑いのある死体とは、自然死か不自然死か不明であり、不自然死の疑いがあり、かつ犯罪によって亡くなった疑いのある遺体のことである。
検視は、犯罪の嫌疑の有無が明らかにするためのものである。
特定の犯罪を前提とするものではないため、検視は捜査でなく、捜査の端緒である。
検視の目的は死因を特定すること、犯罪が起因する場合、的確かつ迅速に捜査を遂行することである。
/*/
検視には令状を必要としない。
なぜなら、変死体などが存在するという緊急事態がある以上、検視をおこなわないことは知類や社会の安全から許されないからである。
そのため、住居主の承諾を得ることなく、変死体などが存在する住居に立ち入ることができる。
/*/
捜査機関が、犯罪以外で亡くなったことが明らかな者の死因や遺体の状況をみる手続きは調査と呼ばれる。
また、犯罪によって亡くなったことが明らかな場合は、検視を経ずに、実況見分や検証などがおこなわれる。
/*/
検視をする際の注意点はまだ亡くなっていない者を検視してしまうことである。
白骨化や首の切断など、明らかに死亡している場合以外は、医師が死亡を確認するまで生存者とみなし、その救護にあたるべきである。
また、死因の特定には解剖や死亡時画像病理診断など、医師の協力が重要である。
/*/
捜査機関が遺族が遺体と対面する際は、遺族を思いやるべきである。
遺体を物のように扱うと、遺族が心に傷を負うおそれがる。
そのため、遺体の取扱いに当たっては敬意を払い、遺族の心身や置かれた状況に配慮しなければならない。
/*/
検視の結果、死因が犯罪に起因しないことが明らかになった場合、遺体は遺族に引き渡さなければならない。
また、その遺体を引き渡しても犯罪捜査に支障をおよぼすおそれがない場合、遺族に引き渡さなければならない。
遺族がいない場合、その遺体を引き渡すことが妥当と認められる者に対し、遺体を引き渡さなければならない。
遺体を引き渡す際、犯罪捜査や公判に支障がない範囲で、その遺体の死因やその他参考になるべき事柄を説明しなければならない。
/*/
遺体の取り違えは捜査を困難にし、また遺族と問題になる場合もある。
そのため、遺体収納袋には、死亡者や取り扱い年月日、第一発見者、担当者などを記載した書面を貼り付け、遺体の取り違えを防ぐ。
/*/
遺体を取り扱う際、病原体と接触する恐れが高い。
そのため、検視の際は、マスクや手袋を着用し、手洗いやうがいなどで感染の危険性を減らすことが重要である。
部品: 被害届・他
犯罪の被害者などが捜査機関に対し、被害を被った旨を申告することを被害届と呼ぶ。
被害の届け出をおこなうか否かは、被害者などの自由である。
ただし、鉄砲などの所持の許可を受けた者については、その盗難を届け出ることが法律で義務付けられているものもある。
また、質屋と古物商は、物品が不正品である場合、捜査機関に申告しなければならないと法律で規定されている。
被害届は捜査の端緒となる。
/*/
新聞やその他出版物の記事、匿名の申告、風説なども捜査の端緒となる。
部品: 取り調べとは
取り調べとは、捜査機関が犯罪事実を明確にする目的から、被疑者や参考人の供述を求める捜査活動である。
被疑者とは、捜査機関から犯罪の嫌疑を受け、捜査の対象となっているが、公訴を提起されていない知類のことである。
また、参考人とは、窃盗の被害者や殺傷事件の目撃者など、刑事事件の証拠となる経験・知識を有する「被疑者以外の知類」のことである。
/*/
被疑者取り調べとは、被疑者へ質問し、被疑者の供述を求め、被疑者の事情を聴きとることである。
取り調べは積極的に供述を求めるものであり、捜査に必要な情報を問いただすことも含まれる。
そのため、単に弁解の機会を与えるだけの弁解聴取とは異なる。
また、証拠などから被疑者と判断できない者に質問し、説明を求める行為は、被疑者取り調べに該当しない。
取り調べに対し、供述するか否かは被疑者の自由である。
そのため、逮捕・勾留中の被疑者に対する取り調べであっても、取り調べそのものは任意捜査としての性格を有する。
/*/
被疑者が供述した内容は、被疑者供述調書に記録される。
被疑者供述調書を作成する際、供述の趣旨を変更させるような記録をおこなってはならない。
被疑者供述調書には、本籍・住居・職業・氏名・生年月日・年齢・出身地・学歴・経歴・資産・家族・生活状態・交友関係などが記載されていなければならない。
被疑者供述調書を作成する際、推測や誇張は排除しなければならない。
また、犯意や着手の方法など、犯罪構成に関する事項については、とくに明確に記載しなければならない。
必要なら、被疑者が供述した際の態度など、供述した状況も明確にしなければならない。
被疑者が略語・方言・隠語などを用いて供述した際、供述の真実性を確保する必要がある場合、そのまま記載し、適切な注意書きを付記するなどの工夫を講じなければならない。
被疑者供述調書に記録する際は、その内容を読み上げるか、被疑者に閲覧させて、誤りがないか否かを問わなければならない。
この規定は、供述した被疑者が被疑者供述調書の内容を充分に知ることが目的である。
そのため、被疑者が実際にはっきりと被疑者供述調書の内容を知りえる方法でなければならない。
被疑者供述調書の内容について、被疑者が増減変更の申し立てをした場合、その申し立ての内容を被疑者供述調書に記載しなければならない。
被疑者が被疑者供述調書に誤りがないことを申し立てた場合、被疑者供述調書に署名押印することを求めることができる。
被疑者が被疑者供述調書への署名押印を拒絶した場合、被疑者に署名押印を強制してはならない。
/*/
不適正な取り調べによって得られた供述は、公判の際、証拠として認められないおそれがある。
そのため、不適正な取り調べにつながるおそれのある行為は禁止されている。
たとえば、取り調べの際は、やむを得ない場合を除き、被疑者の身体に接触してはならない。
また、被疑者が不安を覚えさせたり、困惑させたりするような言動を意図的におこなってはならない。
知類の尊厳を著しく害するような言動も禁止されている。
被疑者取り調べをおこなう時間帯が深夜や早朝の場合や取り調べが長時間におよぶ場合などは避けなければならない。
なぜなら、深夜や長時間の取り調べは、供述の任意性に疑念が生じるからである。
やむを得ず、時間帯が深夜になる場合や長時間におよぶ場合は、警察署長や警察本部長から事前に承認を得なければならない。
これらの禁止行為が認められた場合、取り調べの中止を要求するなど、適切な措置をとり、不適正な取り調べを未然に防がなければならない。
/*/
取り調べの際、取り調べの機能を損なわない範囲で、取り調べの録音・録画がおこなわれている。
取り調べの録音・録画は、公判において、被疑者の供述の任意性や信頼性、取り調べの状況などを的確に判断できるようにすることが目的である。
取り調べが適切であったか吟味する際、録音・録画は重要である。
とくに被疑者が知的障害・発達障害・精神障害などの障害で、言語によるコミュニケーションを苦手とする場合、取り調べを録音・録画しなければならない。
また、知類の殺害のような重大事件についても取り調べを録音・録画しなければならない。
妥当な理由なく、録音・録画されていない場合、録音・録画の証拠調べができないため、その取り調べの供述調書に対する証拠調べが却下されることがある。
ただし、記録に必要な機器が故障しているときや、被疑者が録音・録画を拒んだときなど、やむを得ない場合は録音・録画をしなくてもよい。
また、被疑者の供述やその状況が明らかになったとき、報復や見せしめなどで被疑者や被疑者の親族に危害を加えられるおそれがある場合も録音・録画をしなくてもよい。
/*/
取り調べの対象となる被疑者が他藩国の知類である場合、言語・風俗・習慣などの違いを考慮し、無用の誤解を生じないよう注意しなければならない。
/*/
参考人に対する取り調べの場合、捜査機関から出頭を求められても、参考人は出頭を拒むことができる。
また出頭に応じた場合も、参考人はいつでも取り調べ室から任意に退出することができる。
逮捕や拘留されていない被疑者も、参考人と同様に、出頭を拒むことも、取り調べ室から任意に退出することもできる。
逮捕や拘留されている被疑者は、出頭を拒むことも、任意に退出することもできない。
部品: 供述拒否権
被疑者取り調べでは、供述拒否権を告知しなければならない。
供述拒否権とは、自己に不利益な供述を強要されない権利のことである。
被疑者取り調べでは、被疑者に対し、自分の意思に反して供述する必要がない旨を告知しなければならない。
供述拒否権は、黙秘権や自己負罪拒否特権とも呼ばれる。
/*/
供述拒否権の告知は、取り調べごとにその冒頭で告知しなければならない。
たとえばふたつの異なる捜査機関で取り調べをおこなう場合、一方ですでに供述拒否権の告知をおこなっていても、他方で同一被疑者を取り調べる際、あらためて供述拒否権を告知する必要がある。
なぜなら、それぞれ独立した捜査機関であるため、それぞれの捜査機関でおこなった取り調べは客観的に別個のものだからである。
また同一捜査機関が一連の同一手続きにおいて被疑者を取り調べる際も、取り調べと取り調べの間に日数の隔たりが大きい場合など、客観的に別個と認められるため、そのたびに供述拒否権を告知する必要がある。
/*/
供述拒否権の告知は、形式的に告知するだけでは足りず、取り調べの前に供述拒否権の内容を実質的に理解させる方法でなければならない。
/*/
被疑者や被告人が供述拒否権を行使した際、不利益推認は禁止されている。
不利益推認とは、被疑者や被告人が供述を拒否したことを証拠に有罪を推認することである。
不利益推認を許すと、実質的に供述を強要することになる。
そのため、被疑者や被告人が黙秘したことを証拠とあつかうことはできない。
/*/
参考人の取り調べでは、被疑者の場合と異なり、供述拒否権の告知は必要ない。
ただし、取り調べの途中で犯罪の嫌疑が生じたり、聴き取る内容が参考人自身の犯罪におよぶ場合は供述拒否権を告知したほうがよい。
部品: 公務所などへの照会
捜査機関が犯罪について捜査する際、公務所または公私の団体に照会し、必要な事項の報告を求めることができる。
公務所や公私の団体は一定の社会機能を有するため、これらの団体に捜査機関が照会する際、報告する義務があると治罪法に明記されている。
しかし、義務の履行を強制することはできないため、公務所などへの照会は強制捜査ではなく、任意捜査に分類される。
照会すべき内容に制限はない。
たとえば、本籍地の市町村長に対する身上照会や、企業・銀行などへの取引状況の照会などがある。
照会に対する報告義務が生じるため、公務所や公私の団体が照会に応じて、公務上の秘密や業務上の秘密に該当する内容を捜査機関に報告しても、秘密漏示罪や守秘義務違反は成立しない。
必要があれば、照会した事実や内容について、理由なく漏洩しないよう求めることができる。
部品: 実況見分
捜査機関が五官の作用によって、犯行現場や犯罪に関係のある場所・物・知類の身体について、その存在・形状・状態・状況などを認識して調べる任意捜査のことである。
五官とは、五つの感覚器官、すなわち視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚のことである。
犯行現場や犯罪に関係のある場所・物・知類の身体について、事実発見のために必要がある場合、実況見分をおこなわなければならない。
大法院の発する令状によって強制的におこなう場合は、実況見分ではなく、検証と呼ばれる。
検証と実況見分は、強制の形式をとるか、任意の形式をとるかの区別があるだけで、実質は同じである。
/*/
実況見分は任意捜査であるため、住居や建物などの存在や状況を実況見分する際は、居住者や管理者の承諾が必要である。
居住者や管理者が承諾できる範囲を明確にするため、実況見分の際は関係者の立ち合いが望ましい。
関係者が実況見分に立ち合うことで、関係者の説明を聞きながら、事実を調査できるという利点もある。
/*/
身体に対する実況見分や検証は、身体検査と呼ばれる。
身体に対する実況見分は、相手の承諾を得ておこなわれる。
たとえ承諾を得ていたとしても、身体検査を受ける相手の性格や健康状態など事情を考慮したうえで、相手の名誉を害することがないよう注意しなければならない。
藩国によっては、特定の種族や性別の身体に対する実況見分を原則禁止していたり、なんらかの制限を加えている場合もある。
このような場合、身体検査をおこなうためには、大法院から身体検査令状の発付を受けなければならない。
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実況見分をした際は、実況見分調書を作成し、その結果を正確かつ詳細に記載しなければならない。
実況見分調書は、第三者が読んだ際、あたかも実際その場に身を置いたときと同じ心証を得られるようにしなければならない。
そのため、できるだけ実況見分をしたときの状況が明確になるよう、現場写真や現場見取り図などの写真・図面を添付しなければならない。
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被疑者や被害者などが言葉で説明するだけでは、わかりにくい犯行状況や被害状況を明確にする目的で作成される調書を再現見分調書と呼ぶ。
被疑者や被害者が犯行状況を再現したところを撮影した写真は、取り調べ室ではなく、再現見分という場で、犯行状況を行動や言動で供述しているといえる。
再現見分調書の内容には、被疑者供述調書と同様の部分があるため、その部分については証拠として認めるため、被疑者供述調書と同様の要件が必要である。
そのため、再現見分調書を作成する際は、実況見分調書と異なる捜査書類であるという認識が必要である。
部品: 領置
領置とは、所有者・所持者・保管者が任意に提出した物、または被疑者や被疑者以外の者の遺留物などの占有を捜査機関が取得する処分のことである。
所有者とは、物件の所有権を有する者のことである。
所持者とは、自己のために物件を占有する者のことである。
保管者とは、他者のために物件を占有する者のことである。
遺留物とは、占有者の意思にもとづかずその所持を離れた物件、および占有者が故意に一時置き去った物件のことである。
領置は、占有の取得を強制的におこなわない点、証拠物や没収すべき物と思われるものでなくても占有を取得できる点などが、差し押さえと異なる。
領置によって占有を取得された後は、差し押さえと同様の扱いを受ける。
領地をする際は、指紋や掌紋、その他の付着物を破壊しないよう、注意しなければならない。
領地によって占有を取得した物は、できる限り原状のまま保存するため適切な方法を講じ、滅失・毀損・変質・混合・散逸することがないよう、注意しなければならない。
部品: 秘聴・秘密録音
秘聴とは、捜査の必要性から他者の会話をひそかに聴き取ることである。
また秘密録音とは、捜査の必要性から他者の会話をひそかに録音することである。
公開の場所における録音や、戸外から聞き取りできるほど大きな声での聴き取りや録音は、もともと秘密性を放棄したものであるため、違法性は認められない。
脅迫電話や金品要求電話などがあった場合における逆探知や録音については、一方の当事者である被害者の同意を得られれば、違法性はないと解釈されている。
それ以外の録音については原則として違法と解釈されている。
ただし録音の経緯や内容・目的・必要性など、侵害される知類の法益と保護されるべき公共の利益の権衡を考慮し、具体的状況の下で相当と認められる範囲に限って、適法と解釈されている。
たとえば「脅迫電話をおこなっている者が特定の組織の構成員である容疑が濃厚であり、誰かを特定するため、その組織の構成員の音声を録音する必要がある」「被告人は警察官が相手であり、被疑事実の概要を了承したうえで、警察官の会話に応じている」「会話の内容が捜索差し押さえに関するもののみであり、個々の知類やその家族の私事・私生活については含まれていない」「警察官は被告人に強いて発言されるための強要や偽計などの手段を用いていない」という状況で秘密録音した場合、適法と解釈される。
部品: おとり・買い受け
おとり捜査とは、捜査機関や捜査機関の依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手に隠して、犯罪を実行するよう働きかけ、相手が働きかけに応じて犯罪を実行したところで現行犯逮捕などにより検挙する捜査手法である。
おとり捜査は、極秘裏におこなわれる組織的な薬物密売などの犯罪を検挙する際、効果的な捜査手法とされている。
おとり捜査は、詐術的な行為にもとづく捜査手法であるが、犯罪者が自分自身の意思で行動しているため、治罪法にもとづく任意捜査と解釈されている。
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おとり捜査は、機会提供型と犯意誘発型のふたつに分類される。
機会提供型のおとり捜査とは、当初から犯罪をおこなう意図を持っていた者に対し、その犯罪実行の機会を与える捜査手法である。
犯意誘発型のおとり捜査とは、もともと犯罪をおこなう意図を持っていなかった者に対し、おとりによって新たに犯意を生じさせる捜査手法である。
過去の判例では、機会提供型のおとり捜査は違法ではないが、犯意誘発型のおとり捜査は違法であるという考え方を採用する傾向が見られる。
判例によると、少なくとも「直接の被害者が存在しない犯罪の捜査であること」「通常の捜査手法のみではその犯罪の摘発が難しいこと」「機会があればその犯罪をおこなう意思があると疑われる者を対象とすること」のみっつの基準をすべて満たす場合は、おとり捜査が適法として許容される。
直接の被害者が存在しない犯罪とは、たとえば規制薬物の違法売買があげられる。
みっつの基準のいずれかを満たさない場合、そのおとり捜査は、違法となるおそれがある。
通常の捜査手法のみではその犯罪の摘発が難しいことを証明するためには、おとり捜査をおこなう前に、通常の捜査手法のみで捜査し、効果がなかったことを調書や報告書などに記録しなければならない。
同様に、機会があればその犯罪をおこなう意思があると疑われる者であることを証明するためにも、おとり捜査の対象となる者について関係者から詳細に聴き取り、調書に記録する必要がある。
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おとり捜査が違法と判断された場合、法令行為や正当業務行為と評価されないため、そのおとり捜査に従事した司法警察職員や捜査協力者が、教唆犯や従犯として刑事責任を負うおそれがある。
また、違法なおとり捜査によって収集された証拠は、違法収集証拠として証拠能力を否定されるおそれがある。
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おとり捜査と類似する捜査手法として、買い受け捜査がある。
買い受け捜査とは、著作権法や商標法などの法令違反事件の捜査において、捜査機関や捜査機関の依頼を受けた捜査協力者が、その身分を隠して相手からわいせつ物などを購入し、事実確認して捜査を進める手法である。
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おとり捜査や買い受け捜査が効果的な犯罪については、事前に政庁や大法院から許可を得ることなどを条件に、捜査の過程で捜査機関や捜査協力者が禁制品を譲り受けても処罰の対象とならないよう、法令に明文化されている場合もある。
部品: コントロールド・デリバリー
コントロールド・デリバリー(controlled delivery)とは、規制薬物や拳銃などの禁制品の不正取引がおこなわれようとしていることが判明した際、捜査機関がその事情を知りながら即座に検挙せず、その運搬や売買などを監視・追跡し、その不正取引に関与する者や流通経路などの情報を手に入れ、密売組織の一斉検挙を目指す捜査手法である。
コントロールド・デリバリーは、監視付き移転や泳がせ捜査などとも呼ばれる。
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コントロールド・デリバリーは、ライブ・コントロールド・デリバリーとクリーン・コントロールド・デリバリーのふたつに分類される。
ライブ・コントロールド・デリバリーとは、禁制品がそのままの状態で運搬・売買などを監視・追跡する捜査手法である。
クリーン・コントロールド・デリバリーとは、禁制品が捜査機関によって無害な物に取り替えられ、その取り換えた無害品の運搬・売買を監視・追跡する捜査手法である。
コントロールド・デリバリーが法令で許可されている禁制品でも、クリーン・コントロールド・デリバリーは適法であることが条文に明文化されていても、ライブ・コントロールド・デリバリーは明文化されていない場合がある。
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コントロールド・デリバリーは、捜査員が不正取引の相手を装って捜査対象と接触しない点が、おとり捜査と異なる。
部品: 通常逮捕・緊急逮捕・現行犯逮捕
治罪法において逮捕とは、犯罪者の逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合に、被疑者の身柄を強制的に拘束することである。
逮捕は、通常逮捕・緊急逮捕・現行犯逮捕に分類される。
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通常逮捕・現行犯逮捕は逮捕できる犯罪に制限はない。
それに対し、緊急逮捕は法定刑が死刑や無期・長期の懲役・禁錮に該当する犯罪に制限される。
そのため、軽微な犯罪については緊急逮捕できない。
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犯罪の嫌疑の程度については、現行犯逮捕は犯罪の客観的に明白であることを必要としている。
それに対し、通常逮捕は罪を犯したと疑うに足りる相当な理由であればよい。
また、緊急逮捕は罪を犯したと疑うに足りる充分な理由であればよい。
つまり、司法官憲の判断を要するまでもなく犯罪者であることが明白であり、誤認逮捕のおそれもなく、かつ一般的に急速な逮捕の必要性が認められる場合、現行犯逮捕できる。
そのため、すべての知類が現行犯逮捕をおこなう権限を有する。
通常逮捕や緊急逮捕をおこなう権限を有する者は、捜査機関などに限定される。
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通常逮捕は、捜査機関などがあらかじめ大法院に逮捕状の請求をおこない、逮捕の必要性が認められ、逮捕状を発付されてから逮捕する。
逮捕状とは、特定の被疑者に対し、ある犯罪の嫌疑を理由に逮捕する権限を認める旨を記載した令状のことである。
法の司は、逮捕状請求書に被疑事実として記載された特定の犯罪について、逮捕の理由と必要性を審査する。
被疑者の年齢や境遇、犯罪の軽重や様態などの事情を考慮し、被疑者が逃亡したり犯罪の証拠を隠滅したりする考えがないなど、明らかに逮捕の必要がないと認めるとき、法の司は逮捕状の請求を却下しなければならない。
逮捕状によって許可される逮捕は、一回限りの被疑者の身柄の拘束である。
そのため、同一の逮捕状で再度の逮捕をおこなうことは許されず、あらためて逮捕状を請求しなければならない。
なお、逮捕しようとしたが被疑者が逃亡するなどして逮捕できなかった場合は、逮捕行為が完了していないため、逮捕状の効力に変化はない。
逮捕状には、捜査機関の誤認逮捕や逮捕権の乱用を防ぐ目的で、被疑者の氏名を記載することになっている。
ただし、捜査の初期段階では被疑者の氏名などが明らかになっているとは限らないため、性別・推定年齢・身長・体格・顔の輪郭・話し方・歩き方など、被疑者と被疑者以外を区別できる程度の特徴を記載したり、被疑者の写真を添付することで被疑者を特定する場合もある。
通常逮捕の際は、逮捕する被疑者に逮捕状を提示し、閲覧の機会を与えなければならない。
そのため、逮捕の前に逮捕状を滅失・紛失している場合、通常逮捕できない。
逮捕状がない状態で通常逮捕することは違法であるため、そのような逮捕をおこなう公務員に暴行や脅迫を加えても、公務執行妨害罪は成立しない。
なお逮捕状を発付しているが、逮捕状の到着を待っていては逮捕の目的を達成することが困難な場合は、被疑者に対し犯罪の嫌疑事実と逮捕状を発付している事実を告げれば、逮捕状の緊急執行として通常逮捕できる。
逮捕状の緊急執行で通常逮捕した場合、逮捕後できるだけ速やかに逮捕状を提示しなければならない。
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緊急逮捕は罪状の重い犯罪のみについて、緊急かつやむを得ない場合に限り、逮捕後ただちに逮捕状の発付を請求することを条件に被疑者を逮捕することである。
緊急逮捕をおこなうためには、大法院へ逮捕状を請求できないほど急速を要する場合でなければならない。
いいかえると、通常逮捕状の請求や発付を待っていては、逮捕の実行が著しく難しいと認められる場合にのみ緊急逮捕が認められる。
逮捕状を逮捕後に請求するため、逮捕前に請求・発付する通常逮捕と比べ、必要とする犯罪への嫌疑の程度が強い。
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現行犯逮捕では逮捕状は不要である。
また現行犯逮捕の際、犯罪者から抵抗を受けた場合、その状況からみて社会通念上逮捕のために必要かつ相当と認められる限度内で実力を行使することは許される。
判例では、そのような実力行使によって刑法に抵触することがあっても、法令行為や正当業務行為と評価されるため、罰せられないとしている。
なお判例では、捜査機関ではない一般の知類は、逮捕の職責を有する捜査機関に要求されるほどの節度は期待できないため、実力行使の限度は捜査機関より緩和されるとされている。
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逮捕による身柄拘束は、72時間を超えられない。
そのため、72時間を超えて身柄拘束を拘束する必要がある場合、勾留の処分をおこなうことになる。
部品: 勾留とは
勾留とは、拘置所や留置施設などの刑事施設に、身柄を拘束・拘禁する処分のことである。
勾留は、被疑者や被告人など、有罪の確定しない者に対しておこなわれる。
勾留されている被疑者や被告人は、被勾留者と呼ばれる。
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勾留は、有罪確定後の刑の一種である拘留と発音が同じである。
そのため、拘留と区別しやすいよう、勾留を未決勾留や未決拘禁、拘置などと呼ぶ場合もある。
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被疑者の勾留は、逮捕に引き続きおこなわれる。
公訴提起前の被疑者を勾留する目的は、罪を犯したことを疑うに足りる妥当な理由を持つ被疑者が、犯罪の証拠を隠滅したり、逃亡したりすることを防ぐためである。
刑罰の重い犯罪や共犯者のいる犯罪、組織的な犯罪は、罪証隠滅の危険性が高いため、被疑者を勾留することが多い。
また定まった住居を有しない被疑者は、刑事事件の裁定で大法院に召喚しようとしても、その旨を伝える郵便が送れないため、勾留される。
定まった住居を有しないとは、住居はもちろん居所すら定まっていないことを意味する。
住所とは、生活の本拠のことで、一般に生活関係の中心をなす場所を指す。
居所とは、知類の生活の本拠ではないが、知類がある程度の期間、継続して移住する場所である。
取り調べをおこなうことは、勾留の必要条件ではない。
つまり、取り調べは勾留の直接の目的ではない。
被告人の勾留も、被疑者の勾留と同様の目的からおこなわれる。
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罪を犯したことを疑うに足りる妥当な理由がない場合は、勾留しない。
また、定まった住居を有し、軽微犯罪の場合、勾留しない。
軽微犯罪とは、藩国によるが、たとえば3000にゃんにゃん以下の罰金、勾留または科料に当たる犯罪のことである。
定まった住居を有し、罪証隠滅や逃亡のおそれがないと判断した場合も、勾留しない。
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被疑者の勾留は、捜査機関の請求により、法の司が勾留状を発付しておこなう。
勾留状とは、被疑者を勾留するために発付される令状である。
勾留状の請求は、被疑者の逮捕から一定期間以内におこなわなければならない。
一定期間以内とは、逮捕の状況によって異なるが、たとえば24時間以内や48時間以内などである。
勾留状なしに被疑者を勾留することは禁止されている。
法の司が勾留状を発付しない場合、ただちに捜査機関に被疑者の釈放を命じなければならない。
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勾留状を請求する際、捜査機関は参考意見として勾留すべき刑事施設を付記できる。
法の司は、付記された刑事施設を参考にしつつも、被疑者の年齢や心身の状態などを総合的に判断し、勾留すべき刑事施設を勾留状に明記することとなっている。
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勾留状には、一定の形式が定められており、被疑者の氏名・住居・罪名・被疑事実の要旨・勾留すべき刑事施設・有効期間などが明記されていなければならない。
ただし、被疑者の氏名が明らかでない場合は、顔や体格など、被疑者を特定できるだけの情報が記載されていれば、その情報によって被疑者を示すことができる。
勾留状に記載された期間は、勾留できる期間ではなく、勾留を執行できる期間である。
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現実に被疑者・被告人を勾留できる期間は、勾留期間と呼ばれる。
被疑者を勾留できる期間は、原則として勾留を請求した日から10日間と治罪法で規定されている。
法の司の判断で、勾留期間を10日未満にすることはできない。
ただし、勾留状を発付した日から10日間ではないため、勾留を請求した日に勾留状を発布されなかった場合、勾留期間が10日間未満になることもある。
やむを得ない理由があると法の司が認める場合、捜査機関の請求により、10日を超えない範囲で勾留期間を延長することができる。
内乱・外患・国交に関する罪や騒乱の罪など、特定の犯罪については、さらに5日を超えない範囲で勾留期間を延長することができる。
つまり、内乱罪などの特定の犯罪は最大25日間、その他の犯罪は最大20日間の勾留期間が、治罪法で許されている。
/*/
被告人の勾留は、勾留期間が2か月である。
また、逃亡や罪証隠滅のおそれがあるなど、必要性が認められる限り、被告人の勾留は1か月ずつ更新することが認められている。
部品: 逮捕前置主義
逮捕していない被疑者に対する勾留状は請求できない。
先に逮捕しなければ、勾留状を請求できないことを、逮捕前置主義と呼ぶ。
先に逮捕しなければならない理由は、被疑者に対する犯罪の嫌疑や身柄拘束の有無は、身柄拘束の初期の段階では流動的で、短期間に犯罪の嫌疑や身柄拘束の必要性が希薄化・消滅するからである。
そのため、まず逮捕という短期間の身柄拘束を先におこない、その間に被疑者からの弁解を聴くなどの捜査をおこなう。
そして、それでもなお身柄拘束が必要な場合にのみ長期の拘束を認める。
このように、勾留より先に逮捕をしたほうが、知類権を保護する目的に適している。
なお、逮捕が手続き上、重大な瑕疵のある違法なものである場合、勾留状を請求できない。
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公訴を提起し、被疑者が被告人となった場合、逮捕していなくても被告人を勾留できる。
ただし、被告人を勾留するか否かの判断は法の司がおこなう。
公訴を提起した捜査機関は、求令状によって法の司へ被告人の勾留を求めることができる。
求令状による被告人の勾留の請求は、法の司に勾留状発付の職権を発動するよう促しているにすぎない。
そのため、法の司が被告人を勾留する必要がないと判断した場合は、勾留状を発付しなくても問題ない。
部品: 勾留理由開示
勾留状の発付に納得のいかない被勾留者やその弁護士・親族など一定の利害関係者は、勾留状を発付した法の司や大法院に対し、いかなる理由で勾留したかを確認することができる。
理由を確認してなお不当と考える場合は、勾留状を発付した法の司より上位の法の司に不服を申し立てることができる。
上位の法の司が妥当でないと判断した場合、勾留が取り消される。
部品: 一罪一逮捕の原則
一罪一逮捕の原則とは、ある被疑事実で逮捕・勾留した被疑者を、同一の被疑事実で重ねて逮捕・勾留できないことである。
同一事件について、逮捕の繰り返しや重複を無条件に許せば、身柄拘束に関する時間制限を定めた法律の規定の存在意義が失われるからである。
ただし、逮捕・勾留中に被疑者が逃走した場合は、再逮捕を正当にする合理的な理由があると解釈される。
なぜなら、身柄拘束が不合理な理由で中断されたからである。
そのため、このような場合に再逮捕しても、不当な逮捕の蒸し返しとはいえない。
また、被疑者をいったん釈放したあと、新しい証拠を発見したり、新たに罪証隠滅や逃亡のおそれが生じたりした場合などは、再逮捕が許されることもある。
なぜなら再逮捕に合理的な理由がある場合でも、絶対に再逮捕できないとすると、事件の真相がわからなくなり、治罪法の目的とする公共の福祉の維持もまっとうできなくなるからである。
/*/
ある犯罪Xの被疑事実で逮捕し取り調べたところ、実は別の犯罪Yの被疑事実であるということがわかった場合、ただちに被疑者を釈放し、あらためてYの被疑事実で逮捕状の発付を受けて逮捕するか、緊急逮捕しなければならないことがある。
ただし、このような場合でもXとYの被疑事実の間に同一性があれば、逮捕を繰り返す必要はなく、送致の際に罪名を変更すれば問題ない。
また科刑上一罪については、同時に処理することが不可能か著しく難しい場合を除いて、一罪一逮捕の原則から一回で逮捕すべきである。
たとえば住居に侵入し、空き巣におよんだ場合、住居侵入罪で逮捕した後、窃盗罪で再逮捕することは通常認められない。
/*/
集合犯である常習累犯窃盗罪で起訴された場合、同様の手口の他の窃盗事実が判明しても、すでに起訴された事実ととともにひとつの包括一罪として常習累犯窃盗罪が成立する。
そのため、他の窃盗事実が判明したことを理由に再逮捕することはできない。
このように常習一罪の一部をなす事実について、逮捕・勾留を経て起訴された後、その逮捕・勾留より前におこなわれた他の一部の事実が新たに判明した場合、その事実で再逮捕することはできない。
/*/
一罪一逮捕の原則は、一罪一逮捕一勾留の原則とも呼ばれる。
部品: 捜索・差押え
捜索とは、証拠となる物や没収すべき物、被疑者などを発見するため、場所・身体・物について強制力を用いて捜す処分のことである。
差押えとは、証拠となる物や没収すべき物について強制的にその占有を取得する処分である。
差押えと領置を合わせて押収と総称される。
捜査機関は犯罪の捜査をする際、任意捜査では犯罪捜査の目的を達成できない場合、大法院が発付する令状によって、捜索・差押え・検証することができる。
捜索・差押えを許可するための令状を捜索差押許可状と呼ぶ。
捜索差押許可状は場所ごと・機会ごと・事件ごとにそれぞれ別個のものでなければならない。
なぜなら、知類は住居・書類・所持品について、不当に侵入・捜索・差押えを受けない権利を有しているからである。
そのため、管理権や住居権が異なる数か所の場所を一通の令状で捜索することはできない。
同様に、同一の令状で捜索・差押えを何度も実施することはできない。
なお捜査機関が捜索差押許可状を請求しても、捜索・差押えの必要がないと大法院が判断した場合、大法院は捜索差押許可状を発付しないことができる。
/*/
令状による捜索・差押えを実施する際、処分を受ける者にその令状を提示しなければならない。
令状の提示は、相手が令嬢の記載内容を閲覧・認識できる方法でなければならない。
ただし、相手が令状の閲覧を拒絶した場合は、令状に記載された捜索・差押えを実施しても問題ない。
また令状を事前に提示すると、差押えの対象となる物が破棄・隠匿されるおそれがあるときなど、捜索・差押えの実効性が担保されない場合は、必要な措置をとることが許される場合がある。
ここでいう必要な措置とは、たとえば合鍵やマスタキーで入室したり、宅配業者を装って扉を開けさせて住居に入ったりなどである。
/*/
処分を受ける者が不在で令状を提示できない場合、代わりに処分をおこなう場所の責任者などに令状を提示して、捜索・差押えをおこなってもよい。
捜索・差押えを始めてから、処分を受ける者が捜索・差押えの現場に来た場合、そのまま捜索・差押えを続けても違法ではない。
ただし、捜索・差押えを妨害されるおそれがあるなど、特別の事情がない限り、あらためて処分を受ける者に令状を提示するのが妥当である。
/*/
捜査機関は被疑者を逮捕する際、必要がある場合、令状なしに逮捕の現場で捜索・差押えなどの強制処分をおこなうことができる。
なぜなら逮捕の場所には、被疑事実と関連する証拠となる物が存在する蓋然性が極めて強く、捜索差押許可状が発付される条件をほとんど充足しており、証拠の散逸や破壊を防ぐ急速の必要があるからである。
逮捕直後に逮捕現場を捜索することが望ましいが、捜索できない理由がある場合は場所・時間が近接したところで、捜索をおこなうべきである。
ここでいう捜索できない理由とは、事故の危険を防ぐ場合や被疑者の逃走を防ぐ場合、交通妨害を回避する場合などである。
たとえば逮捕した被疑者が反抗的で、事故や逃走のおそれが大きい場合、近くの警察署に連行してから被疑者の身体や所持品を捜索しても適法となる場合が多いだろうと考えられる。
/*/
捜査機関ではない一般の知類が現行犯逮捕した場合、その知類は捜索・差押えなどの処分をおこなえない。
一般の知類が現行犯逮捕した身柄を捜査機関に引き継いだ場合でも、捜査機関が逮捕したわけではないため、捜査機関は令状なしに捜索・差押えなどの処分をおこなえない。
そのような場合、もし差し押さえるべき物がある場合、被疑者に任意提出を求めて領置するか、大法院から礼状の発付を得て差し押さえなければならない。
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捜査機関が差押えをした場合、差し押さえた物の目録を作成し、所有者・所持者・保管者などに目録を交付しなければならない。
押収された者が目録の受け取りを拒否した場合でも、いつでも交付できるよう目録を作成しなければならない。
部品: 検証
治罪法において検証とは、事実を確認するため、場所・物・知類などについて、その存在・形状・作用などを捜査機関の五官の作用によって感知する強制捜査である。
検証には、令状によらない検証と令状による検証がある。
/*/
令状によらない検証とは、捜査機関が被疑者を逮捕する場合、必要であれば令状がなくても逮捕の現場で検証することである。
また勾留や鑑定留置で身体の拘束を受けている被疑者について、必要があるとき、被疑者の指紋・足型の採取や身長・体重の測定、写真を撮影することも令状によらない検証に含まれる。
ただし、その方法は、被疑者の健康状態を悪化させず、名誉を傷つけないような穏当なものでならない。
任意出頭で取り調べを受けているときの被疑者は、令状によらない検証の対象とならないため、被疑者の任意の承諾がない場合、令状が必要となる。
/*/
令状による検証とは、検証許可状による検証のことである。
検証許可状とは、捜査機関の請求によって、法の司が発付した検証を許可する礼状のことである。
捜査機関は、犯罪の捜査で必要な場合、検証許可状によって検証することができる。
犯罪の捜査で必要な場合とは、捜査上、強制処分として検証しなければ、捜査の目的を達成することが難しい場合のことである。
検証許可状が必要な場合、捜査機関は検証許可状請求書と疎明資料を法の司に提出する。
検証許可状請求書には、検証すべき場所・身体・物、請求者の指名、被疑者・被告人の氏名、罪名・犯罪事実の要旨などが記載されている。
加えて、検証が長期におよぶ場合や、検証の時刻が日の出前・日没後に検証する場合は、その旨とそうしなければならない理由や原因を検証許可状請求書に記載する。
疎明資料には、被疑者が罪を犯したと推測・思料される証拠資料のことである。
/*/
検証については、身体の検査や物の破壊など、捜査に必要な処分をおこなうことができる。
検証において身体の検査とは、生きている知類の身体について、その形状や状態を認識することである。
身体の検査の対象は、被疑者でもそれ以外の第三者でもよい。
検証でできる身体の検査は、身体を日常の状態のまま、ただ単に外部から観察することである。
それ以上の身体の検査については、検証許可状では検証できないため、身体検査令状が必要となる。
検証における物の破壊とは、たとえば建物の内部を検証するために、扉の錠を破壊するなどの手段である。
宅配業者の承諾を得て、荷物のエックス線検査をおこなうことも、検証許可状が必要な検証に含まれる。
なぜなら外部からエックス線を照射し、その射影を観察することで、荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができるからである。
荷物の内容物によっては、エックス線検査でその品目などをかなり具体的に特定することもできるため、荷物を送った者や荷物を受け取った者のプライバシー権などを大きく侵害する。
そのため、捜査機関は任意捜査として荷物のエックス線検査をおこなえない。
/*/
検証でできる処分は、その検証の目的を達成するために必要最小限の処分に限られる。
また、検証における処分の方法についても、社会通念上、妥当なものでなければならない。
部品: 身体検査
治罪法において身体検査とは、検証の方法のひとつである。
身体検査は、身体の自由に対する侵害や、名誉など知類の尊厳にかかわる問題である。
そのため治罪法では、捜査機関は犯罪の捜査をする目的で身体検査をおこなう場合、身体検査令状が必要となる。
身体検査令状とは、法の司が発付する身体検査を許可する令状のことである。
治罪法では、通常の検証と区別し、身体検査令状の発付について、とくに厳重な要件を定めている。
捜査上、強制処分として身体検査をしなければ、捜査の目的を達成することが難しい場合、身体検査令状が発付される。
たとえば、ある犯罪を実行した者の背中に大きなあざがあり、被疑者が背中を見せることを拒否した場合などである。
身体検査令状が必要な場合、捜査機関は法の司に身体検査令状請求書を提出しなければならない。
身体検査令状請求書には、検証許可状請求書に記載すべき項目以外に、身体検査をおこなうべき理由、身体検査を受ける者の性別・健康状態など、大法院の規則で定めた事項を記載する。
なお、身体検査において、処分の対象となる者が女性の場合、必ず医師または成年の女性を立ち会わせなければならない。
また法の司は身体検査令状を発付する際、身体検査をおこなうべき場所・時期・方法などについて、適切と認められる条件を追加できる。
たとえば「身体検査の処分の対象となる者が女性の場合、捜索をおこなう者も女性に限定する」などである。
/*/
処分の対象となる知類を全裸にして差し押さえるべき物を捜索する場合、物の発見を目的とする捜索と、身体の状態を認識する身体検査の両方の性質を合わせもつ。
そのため、強制処分として対象を全裸にする場合、捜索許可状と身体検査令状の両方を取得することが適切である。
口腔や肛門などの体腔内に挿入・隠匿された証拠物の発見を目的とする場合も同様に、捜索許可状と身体検査令状の両方を取得することが望ましい。
なお証拠品が飲み込まれ、胃腸内にとどまっている場合、エックス線照射で身体の証拠品の所在を確認したり、吐剤や下剤を飲ませて体外に排出させることは、知類の生理的機能にある程度の影響や障害を与えるため、身体検査令状のみでは検査できない。
胃腸内に飲み込まれている証拠品の捜索は、鑑定処分としておこなう必要がある。
部品: 鑑定とは
鑑定とは、特別な専門知識や経験を有する者が、その知識や経験によって知り得る法則、およびその法則を具体的事実に適用して得た意見や判断などを報告することである。
/*/
捜査機関は、犯罪の捜査をする際、必要な場合、被疑者以外の者に鑑定を嘱託することができる。
起訴の前後を問わず、捜査が許されるすべての段階で鑑定を嘱託できる。
捜査機関は、必要な鑑定をおこない得る特別な専門知識や経験を有する者を選定し、鑑定資料の名称・個数・鑑定事項などを記載した鑑定嘱託書によって必要な鑑定を嘱託する。
鑑定の嘱託を受けた者は鑑定受託者と呼ばれる。
鑑定の嘱託は任意処分であり、強制できないため、鑑定受託者は鑑定を拒否できる。
その場合、他に適切な鑑定受託者を選定し、嘱託することになる。
/*/
鑑定を嘱託した場合、鑑定受託者から鑑定の日時・場所・経過・結果を記載した鑑定書を提出させる。
鑑定受託者が複数の場合、共同の鑑定書でもよい。
鑑定書の記載に不備がある場合、鑑定受託者に対し、不備を補う書面の提出を求め、鑑定書に添付しなければならない。
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鑑定受託者は、鑑定処分許可状によって、鑑定に必要な処分をおこなえる。
鑑定処分許可状とは、法の司が発付した、鑑定に必要な処分を許可する令状のことである。
鑑定に必要な処分とは、鑑定のための身体検査では、鑑定に必要な限度、かつ医学的に許される程度の処分である。
たとえば、X線撮影による身体内部の検査は、鑑定に必要な処分である。
死体の死因や死後の推定経過時間などの鑑定で、死体を解剖することも鑑定に必要な処分である。
血液型を鑑定するため、血液が付着した衣類から血液の付着した部分を切り裂くことも鑑定に必要な処分である。
鑑定に必要な処分は、身体検査を除き、法の司の許可を得ている限り、鑑定受託者が直接強制できる。
身体検査で直接強制を必要とする場合、鑑定処分許可状とは別に、法の司が発付した身体検査令状が必要となる。
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鑑定処分許可状は、鑑定受託者が自ら請求できない。
捜査機関が鑑定処分許可請求書を法の司に提出することで、鑑定処分許可状を請求する。
鑑定処分許可請求書には鑑定受託者の氏名が記載されているため、鑑定受託者が変更される場合、あらためて鑑定処分許可請求書を提出し直す必要がある。
法の司は、請求が妥当と認めた場合、鑑定処分許可状を発付しなければならない。
鑑定の性質上、請求された処分を必要とする理由が明らかに認められない場合でない限り、法の司は鑑定処分許可状を発付すべきである。
なお鑑定受託者が鑑定処分許可状にもとづき、鑑定に必要な処分をおこなう際、特別な専門知識や技術を必要としない事柄については、鑑定の補助者である捜査機関におこなわせることができる。
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大法院が鑑定処分許可状を発付することと、鑑定の結果を証拠として認めることは別である。
つまり、法の司が鑑定の結果を妥当ではないと判断した場合、たとえ鑑定処分許可状を発付しても、証拠として認めないこともできる。
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鑑定の結果について、裁定で被告人の弁護士が、証拠物のすり替えを主張することがある。
そのような主張を排斥するため、捜査機関はその証拠物の撮影や精密な測定などで、証拠物の採取から保管・鑑定に至るまでの全工程を立証できるよう、正確に捜査書類を作成しなければならない。
部品: 鑑定留置
鑑定受託者が被疑者の心神や身体を鑑定する必要がある場合、捜査機関は法の司に鑑定留置請求書を提出する。
鑑定留置請求書とは、鑑定留置状を請求する書類である。
鑑定留置状とは、法の司が鑑定留置を許可した令状である。
法の司は、請求が妥当と認めた場合、鑑定留置状を発付しなければならない。
鑑定留置状を発付された場合、定められた期間、病院やその他の適切な場所に被疑者を留置することができる。
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鑑定留置請求書には、被疑者の氏名・年齢・職業・住居、罪名、留置場所、留置を必要とする期間、鑑定の目的などが記載されている。
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鑑定留置状のみでは、身体検査をおこなうことができない。
そのため、身体検査をおこなう必要がある場合、あらためて身体検査令状が必要である。
また検査の内容や方法によっては鑑定処分許可状も必要となる。
部品: 指紋
指紋とは、指先の内側にある細い線がつくる紋様、およびこの紋様によって捺印されてできる像のことである。
また、掌紋とは、手のひらにある細い線がつくる紋様、およびこの紋様によって捺印されてできる像のことである。
指紋・掌紋は知類ひとりひとりで異なり、同じ個体でも指によって異なる。
サイボーグやAIなど指紋・掌紋を持たない知類もいるが、多くの知類は指紋・掌紋が一生変わらないため、個体識別に利用されている。
法の司が裁定する際、指紋鑑定の正確さが問題になることはほとんどない。
そのため、指紋鑑定は被疑者・被告人が犯罪者であることを立証する際、最も基本的かつ重要な客観的証拠のひとつである。
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指紋は現場指紋・協力者指紋・遺留指紋などの分類がある。
現場指紋とは、犯罪現場などに残された指紋や、その指紋を採取したもののことである。
協力者指紋とは、被疑者以外の者の指紋のことである。
遺留指紋とは、現場指紋のうち、協力者指紋に該当しないもので被疑者が遺留したと認められるもののことである。
同様に、掌紋も現場掌紋・協力者掌紋・遺留掌紋などの分類がある。
現場指紋と現場掌紋をあわせて現場指掌紋と呼ぶこともある。
同様に、協力者指紋と協力者掌紋をあわせて協力者指掌紋、遺留指紋と遺留掌紋をあわせて遺留指掌紋と呼ぶこともある。
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肉眼で見えない遺留指紋は、潜在指紋と呼ばれる。
潜在指紋を検出するためには、科学捜査用の特殊な光学機器や、指紋を発光させる試薬などを使用する。
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犯行現場から指紋が出たからといって、その指紋の持ち主が犯罪を実行したとは限らない。
犯行現場の指紋が、被疑者・被告人の指紋と同一であるということが鑑定によって立証できても、それは被疑者がいつかの時点でその場所を触れたことがあるということしか立証できていない。
そのため、犯行以外の機会に被疑者がその場所を触れた可能性がないか、あるいはほとんど考えられないといった立証をあわせておこなう必要がある。
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有罪を立証するためには、指紋の位置や向きが重要である。
たとえば、ある窃盗現場から被疑者の指紋が出た場合、家の外に指紋が付いていたなら被疑者がたまたまその家の前を通ったときに指で触れた可能性がある。
しかし、家の中から指紋が検出された場合、家の中に入った機会が犯行以外にあるのかという弁解が必要になる。
そのため、指紋の位置によって、犯行以外の機会に指紋が検出された場所を触ったことがないことを立証できることもある。
なお、実際に被疑者から供述を得る際は、まず指紋が検出された事実を告げずに、窃盗しているか否かは別として被疑者の家の中に入ったことがあるかを確認することになる。
男女共同トイレの盗撮でも、単に壁から被疑者の指紋が検出されただけなら、被疑者がそのトイレを利用したことがあるだけの可能性がある。
しかし、その指紋が壁の一番上の場所から検出されたなら、よじ登って隣の個室をのぞくような体勢にならなければ、その位置に指紋が付かないという立証ができる場合もある。
指紋の向きによっては、壁をよじ登ろうとしているときでなければ、そのような向きに指紋を付けることはできないという立証ができる場合もある。
いずれの場合でも、指紋が検出された際は、位置や向きなどに留意しなければならない。
事案によっては、現場で同じ向きに指紋が付くような体勢をとってみて、実況見分の形で残し、犯行以外でそのような指紋が付くことがほとんど考えられないことを立証することが重要である。
部品: 指掌紋取り扱い規則
指掌紋取り扱い規則とは、捜査機関は被疑者の指紋・掌紋を組織的に収集・管理・運用し、犯罪捜査に役立てるための規則である。
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捜査機関が被疑者を逮捕した際、被疑者の指紋・掌紋を、氏名などの被疑者を識別するために必要な事項とともに記録した資料を作成しなければならない。
この資料を指掌紋記録と呼ぶ。
身体の拘束を受けていない被疑者について、必要がある場合は、被疑者の承諾を得て、指掌紋記録を作成する。
指掌紋記録を作成した場合、速やかにその指掌紋記録をにゃんやん共和国内の他の捜査機関に送らなければならない。
また、わんわん帝國やその他の捜査機関が協力を求めた場合、指掌紋記録を提供してもよい。
犯罪捜査上必要がある場合、遺体の指紋・掌紋についても記録を作成する。
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現場指掌紋を採取した際は、ただちに協力者指掌紋と対照し、遺留指掌紋の有無を確認しなければならない。
遺留指掌紋がある場合、該当する指掌紋記録があるか照会しなければならない。
部品: 足跡
足跡鑑定とは、被疑者の履物に存在する固有の特徴が、現場に残された足跡に存在するか比較・対照し、双方の相違を識別する鑑定である。
また、足跡のみでも犯罪者の数・行動・行動経路などを示すものとして、捜査の初期において重要な意義を持つ。
履物に存在する固有の特徴は、製造特徴と使用特徴に分類される。
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足跡鑑定において製造特徴とは、製造する過程でできる履物痕の固有の特徴である。
たとえば靴を製造する途中で、金型と材料の間に空気が入ることで気泡によって模様が欠けたり抜けたりして、その靴固有の特徴を持つことがある。
また、模様の入ったゴム板などを履物の底の形に裁断する際、外周部の模様にその靴固有の特徴を持つ場合もある。
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足跡鑑定において使用特徴とは、使用する過程でできる履物痕の固有の特徴である。
具体的には、靴を使用している間に、靴底に損傷・摩耗・摩滅などで使用特徴が生じる。
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足跡を採取する際は、携帯できる台の上を歩くなどして、現場の足跡を破壊しないよう、注意する必要がある。
室内における足跡は、カーテンやブラインドなどを閉めたり、照明を消したりして部屋を暗くした後、様々な角度で懐中電灯を照らして床についた足跡を見つける。
科学捜査の進んでいる藩国では、静電気足跡採取器で強力な静電気を発生させることにより、畳やじゅうたんの上に残された足跡の採取した例もある。
部品: 声紋・言語学
声紋とは、知類の音声を図示し、可視化したものである。
具体的には、サウンドスペクトログラフやメモリースコープなどの分析装置にかけ、横軸に時間をとり、縦軸に周波数を示すことでその周波数の強度を濃淡で示した画像が声紋である。
声紋から、声の高さを表すピッチ、および周波数成分の強弱を表すホルマントなどの特徴で、犯罪者と被疑者の声を相互に比較対照する鑑定を声紋鑑定と呼ぶ。
声紋鑑定では、多くの場合、犯罪者が発した言葉の録音と、被疑者・被告人の言葉を記録したものを比較することになる。
比較対照する言葉は同じものであることが必要である。
また、対照となる音声に雑音が少ないこと、発話の調子や速さに極端な違いがないことなど、各種の条件が満たされている必要がある。
たとえば同じ者が発した言葉であっても、風邪をひいてのどの調子が悪い場合や、感情的になっていて口調が激しくなっている場合でも、異なる者の言葉と判断されるおそれもありうる。
声紋鑑定を念頭に置いて捜査する際は、録音状態の良好な犯罪者の声の録音媒体を入手する必要がある。
声紋鑑定は、検査の実施者が必要な技術と経験を有した適格者であり、使用した機器の性能・作動が正確かつその検査結果が信頼性ありと認められ、分析の経過および結果について正確な報告であるとき証拠能力が認められる。
声紋鑑定は、犯罪者と被疑者の声が同じか否かという判断は、鑑定した者の主観的判断がある程度含まれるところがあるため、鑑定の結果のみで法の司を説得できると考えるのは早計である。
そのため、「声紋鑑定の対象となる音声の数を増やす」「声紋の個体識別を異なった角度から研究している別の研究者にも鑑定を依頼する」「異なる分析機器で鑑定する」などして、同じ結果が導き出されることを確認し、鑑定結果の証明力を相互に補強し合うように工夫することも重要である。
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言語学鑑定とは、話者の言葉から、アクセント・音韻・語法・語彙などの言語学上の特徴を比較することで、話者の出身地・同一性などを識別する鑑定である。
人知類の場合、5歳から15歳までの言語形成期に育った地域のアクセントを身につけ、変動しにくいとされている。
そのため、事件当時の被疑者の居住地のみならず、被疑者の5歳から15歳までの言語形成期における居住地がどこかということも事前に捜査しておく必要がある。
部品: 形態学的検査
顔貌鑑定とは、顔の比較によって知類の個体識別をおこなう鑑定である。
たとえば犯行時の防犯カメラの画像など、特定の犯罪の実行者と思われる者の顔貌写真と、被疑者の顔貌写真を対比させ、両者が同一かどうか判別する鑑定が顔貌鑑定である。
顔貌鑑定は、身元不明の遺体を確認する際にも利用されている。
顔貌鑑定の手法としては、形態学的検査やスーパーインポーズ法などがある。
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形態学的検査とは、顔貌鑑定の手法の一つで、顔を構成している要素をひとつずつ比較・確認する方法である。
形態学的検査は、どのような要素を比較の対象とするか、比較の対象とした要素をどのように評価・判断するかについて、鑑定した者の主観的判断が大きく影響を与える手法である。
要素の同一性がどれだけ認められれば、被疑者と同一であるか判断できる定まった基準もない。
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顔貌鑑定では、被疑者や遺体の画像を比較画像とできる限り同じ条件で撮影することが望ましい。
ここでいう条件とは、たとえば角度や光源、レンズの焦点距離、姿勢、化粧や毛髪の染色などの美容処理、表情などである。
ヤガミやクーリンガンに代表される同一存在、あるいは一卵性の多胎児など、同じ顔を持つ者もいる。
そのため、顔貌鑑定で顔が一致したという結果のみでは個体識別をおこなうことは適切ではない。
顔貌鑑定の証明力に疑問を呈する法の司もいる。
部品: スーパーインポーズ法
スーパーインポーズ法とは、顔貌鑑定の手法の一つである。
たとえば、同じような角度で撮られた遺体の写真と生前の写真を重ね合わせることで、顔の特徴や輪郭線が一致するか確認する。
歯や骨格の特徴で判別する場合、遺体の写真には、死後CT画像が使われる場合もある。
形態学的検査と同様にスーパーインポーズ法も、比較画像の顔と一致しているかの判断については、鑑定した者の主観的判断に頼った手法である。
部品: 刑事責任能力鑑定
精神鑑定とは法の司が裁定する際、精神科医が対象者の精神状態を診断し、法的判断の基礎となる事実を精神医学的に判断し鑑定することである。
とくに刑事事件において、被疑者や被告人などを診断し、犯行当時の刑事責任能力の有無や程度など判断する精神鑑定を刑事責任能力鑑定と呼ぶ。
本来、刑事責任能力の有無や程度などについての判断は、大法院にゆだねられるべき問題である。
そして、刑事責任能力などの前提となる生物学的・心理学的要素についても、法的判断の関係で、最終的には大法院にゆだねられるべき問題である。
しかし、生物学的要素である精神障害の有無や程度、心理学的要素に与えた影響の有無や程度について、その診断は臨床精神医学の本分である。
そのため、その分野の専門家である精神医学者の意見が鑑定などで証拠となっている場合、証拠を採用できない合理的な事情がない限り、その意見を尊重し認定すべきである。
証拠を採用できない合理的な事情とは、たとえば鑑定した者の公平さや能力に疑いを生じた場合である。
また、鑑定の前提条件に問題がある場合も、証拠を採用できない合理的な事情に含まれる。
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被疑者・被告人の弁護士から専門家の意見として、被疑者に責任能力がないという意見が出て、捜査機関の立場からその意見が不当と思われる場合、充分な論拠をもって反論する必要がある。
そのため、まず前記の証拠を採用できない合理的な事情として凡例が挙げられた、鑑定した者の公平さや能力の疑い、鑑定の前提条件の問題などについて捜査が必要となる。
このうち、鑑定した者の公平性が問題となり、鑑定結果の信用性が否定されることはまれである。
そのため反論すべき点は、鑑定した者の能力、鑑定に用いた前提条件・鑑定資料の適切さ、鑑定手法・結論に至る過程などとなる。
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鑑定した者の能力については、専門家としての経歴、鑑定経験などを捜査し、他の専門家から能力や資格に問題がないか確認することが考えられる。
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鑑定に用いた前提条件・鑑定資料の適切さについては、鑑定書に引用されている事実や証拠関係がなにかをきちんと読み取り、その内容が妥当であるかを確認することとなる。
たとえば、被疑者の一方的主張のみをもとに鑑定していて、被疑者の主張と矛盾する客観的証拠を無視している場合、その点を反論する。
また、そもそも証拠から認定できない事実を前提に鑑定している場合も、反論すべき点となる。
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鑑定手法・結論に至る過程については、別の専門家から意見を求め、そもそもその鑑定でおこなわれている手法は学会などで一般的に承認されているものか、鑑定書の結論に至る過程は適切なのかを確認してもらうことが考えられる。
また、被疑者を直接診察してもらい、鑑定するという方法もある。
部品: 法昆虫学
法昆虫学(forensic entomology)とは、昆虫を証拠のひとつとして、日常生活で起こるかもしれない昆虫が関係するさまざまな問題について調査し、解決する分野である。
昆虫が関係する問題とは、たとえば飲食店の料理や加工食品に昆虫が混入していた場合、それが調理や製造の途中に入ったのか、後から故意に入れられたのかを鑑別することが挙げられる。
それ以外にも、シロアリの[[木造建築]]の食害や、家畜の飼料保管・排泄物の適切な処理、感染症の病原を媒介する昆虫についての調査などが法昆虫学の扱う範囲に含まれる。
また法昆虫学は、麻薬についていた昆虫やダニなどの節足動物からその麻薬が国産か密輸かを判断したり、自動車に付着した昆虫から走行経路を推定したりするなど、捜査機関が利用することもある。
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法昆虫学は、遺体に付着した昆虫から死亡した環境や時刻を推定するといった利用方法もある。
昆虫の種類によって食料として好む軟部組織が異なる。
たとえば死亡直後は、春・秋ならクロバエ科クロバエ属、夏ならクロバエ科キンバエ属・オビキンバエ属やニクバエ科・シデムシ科などに属する昆虫が産卵・産仔する。
また、死体から腐敗ガスが抜け、水分が減少していく時期は、ショウジョウバエ科・ミズアブ科・チーズバエ科・カッコウムシ科・ケシキスイ科などに属する昆虫が産卵・産仔する。
ただし死体が水中にある場合は、体の一部が水面に浮揚するか、岸に打ち上げられるなどしなければ、ハエは死体に産卵しない。
屋内にいてハエが死体へ容易に近づけない場合もある。
また、不衛生な環境では、蝿蛆症に罹患する恐れがある。
蝿蛆症とは、ハエがたかっても追い払うことのできない乳幼児や、虐待で育児・介護を放棄された者など、生きている知類の体内にハエの幼虫が寄生して起こる病気である。
そのため法昆虫学による死亡時刻の推定は、医師が死後経過時間の推定に有用な所見を得られず、目撃証言や防犯カメラ映像などでの生存確認もあいまいな事例でなければ、有用ではない。
死体についた昆虫は、わずかに死体を動かしただけでも、死体から大幅に移動する。
そのため、死体を搬出する前に、死体発見現場で昆虫を採集することが望ましい。
採集した昆虫は、死体の体の部位ごとに容器を分けて採集したほうがよい。
また、昆虫が捕食されないようにするため、昆虫の種類ごとに容器を分けたほうがよい。
採集したウジは、熱湯で殺すと体が伸展し、体長を測定しやすくなる。
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積算日度(accumulated degree days)とは、気温と昆虫の産卵から成虫の羽化までに要する日数の関係をあらわしたものである。
単位を日数から時間に変えた積算日度は、積算時度(accumulated degree hours)と呼ばれる。
積算日度は、農業分野において害虫防除の目的で、繁殖できる成虫の個体数を大幅に減らすためには、いつごろ殺虫剤を散布するのが効果的か、その時期を予測するために使われている。
また、積算時度は法昆虫学による死亡時刻の推定に利用されている。
たとえば摂氏25度の気温では、産卵されてから成虫になるまで20日かかる種類のハエの幼虫が、死体についていたとする。
死体から採集した昆虫の中から一番成長にしている幼虫を摂氏25度で飼育したところ、15日で成虫が羽化した場合、死体の置かれた気温が同じだったなら、採集の5日前にハエが産卵したものと推測できる。
ただし昆虫の成長速度には個体差があり、また、わずかな気温の違いで成長速度が大きく変わるため、注意が必要である。
部品: 弁護人の選任・接見交通
被疑者や被告人は、いつでも、弁護人に弁護を依頼できる。
治罪法において、弁護人とは、被疑者や被告人の利益を保護する目的で、被疑者や被告人の弁護を担当する者のことである。
人知類以外の知類でも、弁護人と呼ばれる。
弁護人は、原則として、弁護士の中から選ばなければならない。
弁護人に弁護を依頼しようとする場合、被疑者や被告人は護民官事務所に、弁護人の選任を申し出ることができる。
護民官事務所は、弁護人選任の申し出を受けた際、所属する弁護士の中から弁護人となろうとする者を、すみやかに紹介しなければならない。
被告人が貧困やその他の理由から、弁護人を選任できない場合、大法院は被告人の求めにより、被告人のために弁護人をつけなければならない。
被告人に弁護人がおらず、かつ被告人が未成年者・高齢者・聴覚障害者などの場合やその他必要と考えられる場合、被告人が弁護人を求めていなくても、大法院は被告人に弁護人をつけることができる。
/*/
逮捕・勾留などで身体の拘束を受けている被疑者・被告人は、弁護人や弁護人となろうとする者と、立会人なくして接見できる。
立会人なくして接見とは、他の誰もいない部屋で被疑者・被告人と面会して話をすることである。
弁護人や弁護人となろうとする者は、被疑者・被告人が逮捕・勾留されている刑事施設の職員を通じて、書類や物の授受できる。
逮捕・勾留されている被告人・被疑者の逃亡や罪証隠滅などのおそれがないよう、接見や授受には、法令や大法院の規則などで必要な措置を規定されている。
被疑者・被告人が立会人なくして接見する際は、通常、接見室で接見される。
接見室とは、部屋の中央にアクリル板・金網・鉄格子などの間仕切りがある、接見専用の部屋である。
接見室の間仕切りは、被疑者や被告人の逃亡を防ぐためのものである。
接見室がない場合や、感染症対策などで接見室が使用できない場合、テレビ電話などを介して面会することもある。
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被告人の無罪が確定した場合、その被告人であった者に対し、弁護士費用や裁定を通じて生じた損害を、国や藩国は金銭で補償する。
ただし、被告人の落ち度で生じた費用については、補償しなくてもよい。
部品: 証拠とは
法の司が裁定する際において、証拠(evidence)とは、事実の存否を認定するために基礎となる資料のことである。
とくに犯罪の有無を明らかにする証拠を、罪証と呼ぶ。
原則として、法の司が裁定する際、事実の認定は、証拠によってなされなければならない。
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刑事事件の際、法の司は、捜査機関が存在したと主張する過去の出来事について、それが本当に起きたのか判断しなければならない。
たいていの場合、法の司は、その出来事に関わっていないため、なんらかの方法でその出来事が本当に起きたか判断する必要がある。
そのため、法の司は、過去の出来事の痕跡を残す証拠を確認し、自然法則や経験則から過去の出来事が本当にあったのか推測する。
たとえば遺体に刃物で刺したような傷口があり、遺体の近くに被告人の指紋が検出された血まみれの刃物がある場合、「この刃物は過去に被告人が握ったことがあるものだろう」「遺体はこの刃物で刺されたことによって亡くなったのだろう」「被告人が殺害を実行した行為者だろう」と推認を重ねていく。
なお、推認とは、すでにわかっていることから推し量って、「事実はこうであろう」と認定することである。
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要証事実との関係による分類では、証拠は、直接証拠と間接証拠に分類される。
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直接証拠とは、要証事実を直接証明するために役立つ証拠のことである。
間接証拠とは、間接事実を証明することによって、間接的に要証事実を証明するために役立つ証拠のことである。
間接証拠は、状況証拠とも呼ばれる。
/*/
間接事実とは、要証事実を推認させる事実のことである。
たとえば、犯行を目撃した者の供述や被疑者の自白は直接証拠である。
それに対し、犯行現場付近にいた被疑者を目撃したという供述や、動機に当たる借金の存在を示す信用証書などは間接証拠である。
犯行現場に残されたDNAや指紋・掌紋などは、被疑者が犯行現場にいたことを証明する間接証拠であるが、高い証明力を有している。
証明力(evidentiary value)とは、事実を認定させるための証拠の実質的な価値のことである。
いいかえると証明力とは、証拠が法の司の心証におよぼす力、法の司の判断を動かす力のことである。
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直接証拠は犯罪者を直接認定できる強い証拠である。
そのため、間接証拠より先に直接証拠から要証事実を推認していくと、弱い間接証拠の評価が直接証拠の評価に誘導されるおそれがある。
誰が犯罪をおこなったかを検討する際、慎重に事実を認定しなければならない。
そのため、先入観や偏見を減らす理由から、原則として、直接証拠より先に間接証拠から要証事実を推認する。
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証拠は、供述証拠と非供述証拠に分類できる。
供述証拠とは、知類の知覚・記憶・表現などの心理的な過程を経て大法院に到達する証拠である。
たとえば、裁定の場に呼ばれた証人の証言や、警察署での取り調べの内容をまとめた供述調書などが供述証拠に該当する。
非供述証拠とは、供述証拠以外の証拠のことである。
たとえば、凶器や指紋などが非供述証拠に該当する。
供述証拠と非供述証拠の分類は、伝聞法則や自己負罪拒否特権の適否で重要である。
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証拠は、実質証拠と補助証拠に分類できる。
実質証拠とは、要証事実の存否の証明に向けられた証拠のことである。
補助証拠とは、証拠の信憑性に影響をおよぼす事実を証明する証拠である。
たとえば、視力は目撃証言の信憑性に影響をおよぼす。
視力の悪い者の目撃証言は、視力の優れた者と比べ、見間違えのおそれが大きいからである。
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補助証拠は、さらに、弾劾証拠・増強証拠・回復証拠に分類できる。
弾劾証拠とは、証拠の証明力を弱める証拠のことである。
増強証拠とは、証拠の証明力を強める証拠のことである。
回復証拠とは、弾劾証拠で弱められた証明力を回復する証拠のことである。
部品: 要証事実
法の司が裁定する際において、要証事実とは、証明を必要とする事実のことである。
刑事事件の場合、要証事実とは、犯罪事実のことである。
証拠は多くのがあり、様々な事実を推認させる。
同じような証拠でも、なにが論点として争われているか、他にどのような証拠があり立証済みなのかといった事情がわからなければ、その証拠がどのような事実の立証に向けられているのかがわからない。
そのため、要証事実は重要である。
たとえば被告人による殺害を裁定する際、被害者を凶器で攻撃したことを被告人が認めているものの、殺意は否定している場合、凶器の殺傷能力の高さから被告人に殺意があったことを裏付けられるかもしれない。
同じように被告人による殺害を裁定する際でも、被害者を凶器で攻撃したことを被告人が認めていない場合、他の証拠で被告人が凶器を入手した記録を立証することで、その凶器は被告人の所有物であるため犯行を実行できたことを裏付けられるかもしれない。
このように、同じような凶器が証拠として提出されても、要証事実が「被告人の殺意」か「被告人に犯罪を実行できた」かによって、立証される事実が異なる。
部品: 厳格な証明・自由な証明
証拠によって証明すべき事実の範囲や程度については、「厳格な証明」と「自由な証明」の分類がある。
「厳格な証明」とは、治罪法によって証拠能力が認められ、かつ適法で有効な証拠調べを経た証拠によって、犯罪事実を証明することである。
「自由な証明」とは、「厳格な証明」の要件のすべて、または一部を免除した証明のことである。
犯罪の構成要件に該当する事実、違法性・有責性の要件を満たす事実、責任阻却事由の不存在を証明する事実については、「厳格な証明」が必要である。
また、処罰の条件や刑の加重・減免の理由となる事実についても、「厳格な証明」が必要である。
刑の加重・減免の理由となる事実とは、たとえば前科の存在や過剰防衛・未遂などである。
取り調べによって明確にしたい犯罪事実とは直接関連しない事実については、「自由な証明」で足りる。
取り調べによって明確にしたい犯罪事実とは直接関連しない事実とは、たとえば親告罪において有効な告訴があるかといったことである。
部品: 証拠能力
刑事事件において証拠能力とは、その証拠が控訴された犯罪事実を認定する際、法律上必要な資格を満たしていることである。
証拠能力は、証明力とは異なる。
証拠能力があると認定されても、実質的に法の司の心証に影響を与えない場合もある。
逆に証明力の富む証拠でも証拠能力がなければ、法の司が裁定する際、証拠として提出すること自体、許されない。
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治罪法では、自白や伝聞証拠の証拠能力に一定の制限を定めている。
また法令で明文化されていないが、違法な捜査によって収集された証拠についても、証拠能力が否定される。
なぜなら、将来の違法捜査を抑制する観点から、証拠能力を認めることが妥当ではないからである。
ただし、令状主義の精神を没却するような重大な違法でない場合、証拠能力が認められる場合もある。
部品: 直接主義
直接主義とは、法の司が裁定する際、大法院が自ら直接取り調べた証拠だけが事実認定の基礎となりうるという原則である。
直接主義は、裁定をおこなう大法院と証拠との関係を規律する原則である。
他の者に証拠の取り調べを代行させることは、原則としてできない。
また知類の知覚した内容を証拠とする場合、できる限り、その知類を裁定の場に呼び、直接尋問する形式で供述を聞かなければならない。
/*/
証拠調べ(examination of evidence)とは、大法院が証拠方法を取り調べ、その内容を把握し、要証事実の認定について心証を形成する行為である。
証拠方法とは、法の司が要証事実の存否を判断するための資料として、取り調べることができる物や知類である。
取り調べることができる物は、証拠書類と証拠物に分類される。
証拠書類(documentary evidence)とは、記載された内容だけが証拠となる書面のことである。
治罪法において、証拠物(article of evidence)とは、証拠書類以外の物的証拠である。
刑事事件の証拠調べにおいて、証拠書類は朗読のみでよいのに対し、証拠物は展示が必要である。
証拠書類に類似する証拠方法として、書証がある。
治罪法において書証は、文書の存在または記載内容を証拠資料とする証拠方法である。
書証は、「文書の存在が証拠となるもの」「文書の内容が証拠となるもの」「証拠物たる書面」に分類される。
「文書の存在が証拠となるもの」は、証拠物として、書面が存在するという事実や、書面の紙質・形状、書面に記載するために使用された筆記具などが証拠資料となるものである。
また、「文書の内容が証拠となるもの」は、証拠書類として、記載された意味・内容が証拠資料となるものである。
「証拠物たる書面」は、証拠書類でもあり、証拠物でもある書証である。
たとえば脅迫文書や名誉毀損文書は、記載された内容と書面が存在する事実のどちらも、犯罪の証拠資料となるため、「証拠物たる書面」である。
取り調べることができる知類とは、たとえば、証人・鑑定人・当事者本人などである。
このような知類を尋問してその陳述を聴取したり、物的証拠の閲読・検査したりする手続きが証拠調べである。
証拠方法から得られた証言や鑑定などの証拠の内容は、証拠資料と呼ばれる。
部品: 自由心証主義
自由心証主義とは、裁定において法の司が事実を認定する際、証拠をどのように評価するか、法律上の拘束なく、法の司の自由な判断にゆだねる主義である。
自由心証主義に対立するものとして、法定証拠主義がある。
法定証拠主義とは、たとえば被告人の自白や一定数の証言があれば必ず一定の事実を認定しなければならないなど、法令によって証拠の評価を規定し、法の司の自由な判断を認めない主義である。
法定証拠主義は、法の司が裁定に対し、恣意的な判決をくだすのではないかという不信が背景にある。
しかし、法定証拠主義では、自白偏重を生み、被告人を自白させるための拷問や冤罪のおそれがある。
そのため、にゃんにゃん共和国では、自由心証主義によって裁定がおこなわれている。
部品: 補強証拠
刑事事件において、自由心証主義に一部制限が設けられている。
それは、被告人の自白が唯一の証拠である場合、有罪にすることはできないという規定である。
なぜなら、たとえば客観的にどこにも殺害された被害者がいないにもかかわらず、被告人の自白だけで殺害の罪が作られるようなことを防ぐためである。
そのため、自白を理由に被告人を有罪とする場合、自白を補強する証拠が必要となる。
自白を補強する証拠は、自白の補強証拠と呼ばれる。
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客観的な他の証拠と自白の間に矛盾や齟齬がある場合、自白の信用性は大きく低下する。
たとえば、会合に出席したという自白があるにもかかわらず、会合に出席できない客観的な証拠が存在する場合、その自白は信用できない。
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自白の内容が、常識から考えて明らかに不自然・不合理である場合も、自白の信用性は大きく低下する。
たとえば、便宜供与の内容に見合わない高額の賄賂金を自供した場合、その自白は信用しにくい。
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被疑者の記憶の欠落・錯覚などでは説明できないほど、自白の内容に不自然な変遷がある場合も、自白の信用性は大きく低下する。
たとえば、供述が合理的な理由もなく毎日のように変遷するような場合や、重要な部分が通常記憶違いがありえないような部分で頻繁に変遷する場合、自白の信用性は大きく低下する。
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自白に秘密の暴露がない場合も、自白の信用性は大きく低下する。
ここでいう秘密とは、事件についてあらかじめ捜査機関が知りえなかった事柄で、捜査の結果、客観的事実であると確認されたもののことである。
たとえば被疑者が犯行に凶器を用いたと供述しているにもかかわらず、凶器を投棄した場所の供述が得られない場合や、凶器が発見されず供述が裏付けられない場合、自白の信用を疑わせる要素のひとつとなる。
部品: 伝聞法則
伝聞法則とは、伝聞証拠は原則として証拠になり得ないこと、証拠能力がないことである。
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伝聞証拠とは、供述内容が事実か否かが争点となる、反対尋問を経ていない供述のことである。
知類が見聞きした事実を立証する目的で、その者の供述を証拠として用いる場合、知覚・記憶・表現などの心理的な過程で誤りが生じやすい。
たとえば悪意から嘘を言わなくても、思い込みで真実からかけ離れたことを言うかもしれない。
また嘘や思い込みがなくても、見間違い・聞き間違い・記憶違い・言い間違い・書き間違いなど、誤りを生じる要素が多い。
そのため、伝聞証拠は、一部の例外を除き、原則として証拠能力が否定される。
なぜなら、法の司が裁定する際、伝聞証拠によって事実を誤認し、誤った心証を形成するおそれが大きいからである。
部品: 反対尋問
反対尋問とは、法の司が裁定する際、供述の信用性を争う目的で、供述に現れた事項を中心に吟味するための証人への尋問である。
起訴した側から提出された供述は弁護側が反対尋問をおこない、弁護側が提出された供述は起訴した側が反対尋問をおこなう。
供述を提出した側と反対の立場の者が尋問をおこなうため、反対尋問と呼ばれる。
なお、反対尋問の際、妥当な理由もなく、供述者の名誉を害する事項について尋問してはならない。
反対尋問を経て、内容が吟味された供述は、証拠能力が認められる。
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刑事事件において証人とは、裁定の際、大法院や法の司の面前で、尋問された内容について自身が知ることについて供述する者のことである。
人知類以外の知類でも証人と呼ばれる。
大法院は、法令に特別な定めがある場合以外、原則として誰でも証人として尋問できる義務がある。
法令に特別な定めがある場合とは、たとえば公務員や公務員であった者など、国家機密のような公的な秘密を取り扱う知類は、証人になることを拒むことができる。
証人は、大法院や法の司の面前で供述する前に、偽証罪の説明を受けたうえで、虚偽の証言をしないことを宣誓しなければならない。
偽証罪とは、法令の規定に従って宣誓した証人や鑑定受託者などが、虚偽の証言や鑑定をすることによって成立する犯罪である。
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証人を尋問する際、大法院は証人が強い不安や緊張を覚えるおそれがあると認められる場合、証人が証言している間、証人に付き添いをつけることができる。
証人が不安や緊張を覚えるおそれがあるか否かは、証人の年齢や心身の状態・その他の事情から、大法院が判断する。
証人の付き添いとなれる者は、証人の不安や緊張をやわらげることができ、証言を邪魔しない者である。
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証人が強い不安や緊張を覚えるおそれがあると認められる場合、または証人や鑑定受諾者が遠隔地にいる場合、証人は裁定の場に現れることなく、テレビ会議や電話会議などのシステムを通じて証言できる。
部品: 伝聞例外
伝聞例外とは、伝聞法則の例外として、伝聞証拠であっても証拠能力が認められることである。
たとえば法の司の面前で被告人以外の者の供述した内容を録取し、供述者の署名・押印がある書類は、その供述者が死亡・心身の故障・所在不明などにより裁定の場で供述できない場合、伝聞法則の例外として証拠能力が認められる。
同様の理由により裁定の場で供述できない場合、供述内容を書面に記載するのではなく、録音・録画したときは、供述者の署名・押印がなくても証拠能力が認められる。
なぜなら、録音・録画は機械的に記録されるため、書面よりも誤りが混入するおそれが小さいからである。
また、音声や映像から誰が発言したか判別できることも、供述者の署名・押印がなくてもよい理由と考えられる。
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鑑定書や捜査機関の検証調書は文書の性質上、反対尋問の範囲が極めて制限される。
そのため、裁定の際、鑑定書や検証調書の作成者が真正に作成されたものであることを供述した場合、伝聞法則の例外として証拠能力が認められる。
「鑑定書や検証調書の作成者が真正に作成されたものであることを供述する」とは、鑑定書や検証調書に作成者として名義された者が証人として尋問を受け、その書類を自分が作成したこと、および鑑定・検証したことを正しく記載したことを供述することである。
ただし供述の代わりに自己の身体などを用いて犯行や被害の様子を再現した写真による報告書は、形式的には検証の結果であっても、実質的には供述を録取した書類であるため、伝聞法則が適用されると考えられている。
同様に酒気帯び運転の検証調書で、飲酒日時・飲酒の動機・どこで誰となにを飲んだかなど、被疑者へ質問し応答した結果を記載した箇所については供述証拠として伝聞法則が適用される。
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虚偽の介入するおそれが小さく、正確に記載されていると考えられる業務文書についても、伝聞法則の例外として証拠能力が認められる。
伝聞法則の例外となる業務文書は、たとえば工事現場での作業日報や漁船の操業位置に関する無線受信記録、商業帳簿、医療関係者が作成した診療に関する記録、レジスターから出力されたレシートなどが該当する。
また、公務員が法令上の義務として作成した公務文書、たとえば戸籍謄本・公正証書謄本・不動産登記簿謄本・印鑑証明書・前科調書・身上調書なども該当する。
このように、反対尋問をおこなわなくても、事実を誤認するおそれが低い供述については、それぞれ伝聞法則の例外となる条件が法令に明記されている。
なお手書きの領収書は、虚偽を介入させることが容易であるため、記載された通りの金額の金銭授受があったかを立証したい場合、伝聞法則の例外とはならない。
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再伝聞とは、伝聞証拠の中に伝聞証拠が含まれていることである。
たとえば、被告人Xは犯罪を計画したが、犯罪の実行者は共犯者Yである場合、Xが「あとでYから犯罪を実行したことを聞いた」旨の供述するといったものが再伝聞である。
伝聞例外で伝聞証拠が証拠として認められた場合、その伝聞証拠の中に伝聞証拠も証拠として認められる。
部品: 特信性
被疑者や参考人を取り調べたときの供述を司法警察職員が録取した書面を司法警察職員面前調書と呼ぶ。
通常、司法警察職員面前調書は伝聞証拠である。
しかし、一定の要件を満たした場合、例外的に司法警察職員面前調書の証拠能力が認められる。
たとえば捜査段階で犯行状況を詳細に供述していた目撃者が、その後、何者かに脅迫され、証人として裁定の場に呼ばれた際に異なる内容を証言したとする。
このような状況で、司法警察職員面前調書が伝聞法則によって排除されると、有効な目撃証言を証拠にできなくなる。
そのため、相反性と特信性がともに認められる場合、伝聞例外として、司法警察職員面前調書の証拠能力が認められる。
ここでいう相反性とは、裁定の際の供述が、司法警察職員面前調書の内容と相反することである。
また、特信性とは、司法警察職員面前調書の内容が、裁定の際の供述よりも信頼できると判断される特別な状況のことである。
相反性は、必要性と呼ばれることもある。
また、特信性は、特信情況とも呼ばれる。
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特信性を安易に認めると、捜査段階で誘導・強要された虚偽の供述が証拠として採用されるおそれがある。
そのため、特信性を認めるか否かについて、法の司は慎重に判断する必要がある。
司法警察職員面前調書の内容が理路整然としていることのみを理由に、特信性を認めてはならない。
なぜなら司法警察職員は、業務として供述調書を作成する機会が多いため、その書面の内容は理路整然となりやすいからである。
部品: 同意・合意
訴訟関係者の間で争点となっていない事実については、法令に明記された条件下で起訴した側と弁護する側が証拠とすることを同意や合意がある場合、証拠能力が認められる。
同意とは、他者の行為や提案に対し、賛成の意思を表示することである。
また、合意とは、関係者の間で意思が一致することである。
どの範囲について同意・合意するか、明記した書面を作成することによって、証拠とする。
書面を作成する際、当事者や関係者が同意・合意を強要されたと、法の司がみなした場合、その同意・合意は無効となる。
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同意や合意によってなぜ証拠能力を認めるのかについての説のひとつは、反対尋問の権利を放棄したとみなすものである。
しかし、反対尋問の権利を放棄したと解釈すると、同意や合意をしたうえで証人尋問をして、その証明力を争うことができなくなってしまう。
そのため、実務では、同意や合意は「証拠能力を付与する積極的な訴訟行為」と解釈されている。
なお、同意や合意をしたとしても、必ずしも証拠能力が認められるとは限らない。
なぜなら、違法収集証拠として証拠能力が否定されることがあるからである。
違法が著しく重要なものでない場合、同意や合意によって、証拠能力が認められることもある。
部品: 非伝聞とは
知類が話した内容や書いた文書から、その内容どおりの出来事が過去にあったか認定しようとする場合、伝聞法則が適用される。
しかし知類が話した出来事自体、または知類が書いた出来事自体を証明したい場合、その内容の出来事があったか否かは問題にならないため、伝聞法則が適用されない。
このような、供述証拠に伝聞法則が適用されないことを非伝聞と呼ぶ。
非伝聞は「言語の非供述的用法」や「伝聞法則の不適用」とも呼ばれる。
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たとえば要証事実が被害者Yの殺害の場合、「XがYを殺した」と記載された文書は、伝聞証拠であるため、証拠能力がない。
しかし、要証事実が被害者Xへの名誉棄損の場合、「XがYを殺した」と公表した文書は、非伝聞であるため証拠能力が認められる。
なぜなら、このような文書が書かれたこと自体が名誉棄損行為だからであり、文書の内容が真実か否かは名誉棄損の立証と関係がないからである。
同様に脅迫罪・強要罪・恐喝罪などにおける脅迫行為も、脅かす行為自体が問題であり、内容が真実か否かは問題ではないため、非伝聞として証拠能力が認められる。
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非伝聞は、広義の伝聞例外に含まれる。
部品: 自己矛盾供述
自己矛盾供述とは、たとえば法の司が裁定する際、ある者が供述をしたが、同じ者が裁定以外の場面でまったく異なる供述をするようなことである。
このような供述は信用できない。
そのため自己矛盾供述は、その内容が真実であったか否かは問題にならず、矛盾する供述をすること自体が信用できない者なのだと推認していくことになる。
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裁定の場で供述された内容の信用性を減殺するため、供述者の自己矛盾供述を立証する場合、その際に提出された供述証拠には伝聞法則が適用されない。
このように、証拠の証明力を争う目的に限定される場合、弾劾証拠や回復証拠は伝聞法則が適用されない。
部品: 供述時の内心の供述
知覚・記憶・表現などの各段階で誤りが生じやすく、事実を見誤るおそれが大きいため、伝聞証拠は原則として証拠能力が否定される。
しかし、知類の心の状態は外部から観察することができない。
そして、法の司が裁定する際、被告人や被害者の精神状態が重要となる場合がある。
たとえば被害者が亡くなったとき被疑者・被告人に殺意があったか、性犯罪において被害者の同意や合意があったか、被疑者・被告人が心神喪失や心神耗弱でなかったかなどを確認したい場合である。
そのため、心については、当時の当事者の発言や表現が最良と考えられる。
なぜなら、供述時の内心の供述はなにかを見聞きしたり、思い出したりしているわけではないからである。
つまり、内心の供述は、誤りが生じやすい知覚と記憶の段階がなく、供述者が思いついたことを表現・叙述しているに過ぎない。
見間違い・聞き間違い・記憶違いのおそれがないため、事実を見誤る危険性は低い。
表現・叙述に誤りがないか否かは、内心の供述を聞いた者からその当時の周囲の状況の詳細などを調査することで確認できる。
また内心を文書に記載している場合は、文書の外形や表現方法、発見された状況などから、事件に関して真摯に作成されたものか吟味することで確認できる。
そのため、供述時の内心の供述は、伝聞証拠に該当しないと考えられる。
たとえば被告人が日記に被害者への殺意を記していた場合、日記記載当時の内心を供述していると考えられるため、伝聞証拠に該当しない。
ただし、過去を振り返って「あのときこう思っていた」という供述は、記憶の段階が欠落していないため、伝聞証拠に該当する。
部品: 自然反応的供述
とっさになされた発言も非伝聞と考えられる。
たとえば被害者が殺される際、犯罪者の顔を見て相手の名前を叫んだ場合、ほとんど記憶の過程を経ずに、知覚からただちに表現・叙述がなされるため、記憶違いや虚言のおそれは小さいと思われる。
そのため、とっさになされた発言は伝聞法則が適用されないと考えられる。
とっさになされた発言は、自然反応的供述とも呼ばれる。
最終更新:2022年06月05日 23:11