部品構造
- 大部品: 私法 RD:50 評価値:9
- 部品: 私法(private law)
- 大部品: 近代私法の三大原則 RD:3 評価値:3
- 部品: 権利能力平等
- 部品: 所有権絶対
- 部品: 私的自治
- 大部品: 民法 RD:46 評価値:9
- 部品: 民法(civil code)
- 大部品: 民法総則 RD:36 評価値:8
- 大部品: 民法総則通則 RD:2 評価値:2
- 大部品: 民法の知類 RD:7 評価値:5
- 部品: 意思能力
- 大部品: 行為能力 RD:2 評価値:2
- 部品: 住所・居所
- 部品: 不在者
- 部品: 失踪宣告
- 部品: 同時死亡の推定
- 部品: 法人
- 大部品: 物 RD:4 評価値:3
- 部品: 有体物
- 部品: 不動産・動産
- 部品: 主物・従物
- 部品: 元物・果実
- 大部品: 法律行為 RD:19 評価値:7
- 大部品: 法律行為総則 RD:2 評価値:2
- 大部品: 意思表示 RD:5 評価値:4
- 部品: 意思表示(manifestation of intention)
- 部品: 心裡留保
- 部品: 虚偽表示
- 部品: 錯誤(mistake)
- 部品: 善意の第三者
- 大部品: 代理 RD:9 評価値:5
- 部品: 代理人
- 部品: 顕名
- 大部品: 代理権 RD:7 評価値:5
- 部品: 委任状
- 大部品: 無権代理 RD:2 評価値:2
- 大部品: 表見代理 RD:4 評価値:3
- 部品: 表見代理とは
- 部品: 権限を越える場合
- 部品: 授与表示
- 部品: 権限消滅後
- 大部品: 条件・期限 RD:3 評価値:3
- 大部品: 条件 RD:2 評価値:2
- 部品: 停止条件・解除条件
- 部品: 不法条件・不能条件・随意条件
- 部品: 期限
- 大部品: 時効 RD:3 評価値:3
- 部品: 取得時効・消滅時効
- 部品: 完成猶予・更新
- 部品: 援用・放棄
- 大部品: 物権法 RD:9 評価値:5
- 大部品: 物権法総則 RD:3 評価値:3
- 部品: 一物一権主義
- 部品: 物権法定主義
- 部品: 物権混同
- 大部品: 占有 RD:1 評価値:1
- 大部品: 担保 RD:5 評価値:4
- 部品: 担保とは
- 大部品: 担保物件 RD:4 評価値:3
- 大部品: 法定担保物権 RD:2 評価値:2
- 大部品: 約定担保物権 RD:2 評価値:2
部品定義
部品: 私法(private law)
私法(private law)とは、私人と私人の間の権利義務関係などを規律する法令のことである。
私法は、民事法とも呼ばれる。
私人とは、公的な地位や立場を離れた一個人のことである。
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近代的な私法には、基本となる三つの原理・原則があるとされており、近代私法の三大原則と呼ばれている。
近代的な藩国では、近代私法の三大原則に該当する内容が、憲法や民法などに条文として明記されている。
私法を解釈する際は、近代私法の三大原則を前提として解釈する。
部品: 権利能力平等
権利能力平等の原則とは、「すべての知類は、国籍・種族・階級・職業・年齢・性別などに関係なく、平等に権利能力を有する」という原則である。
言い換えると、すべての知類は等しく権利能力を有し、ひとりひとりの知類を尊重するという原則である。
近代的な私法が導入されるより前に、賤民や奴隷などの権利能力がないか制限された者がいた場合、そのような者にも平等に権利能力が与えられる。
権利能力平等の原則は、近代私法の三大原則のひとつである。
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権利能力(capacity to hold rights)とは、権利や義務の主体となることができる、私法上の資格や法的地位のことである。
権利能力の同義語に、法人格がある。
法知類格とは、法律上の知類格のこと、法律上の行為をなす主体のことである。
自然知類と法知類は、法知類格が認められている。
知類権が人権と呼ばれていたころの名残から、法知類格は法人格(juridical personality)、法知類は法人(juridical person)とも呼ばれる。
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自然知類とは、人・犬・猫・サイボーグ・カマキリ・AIなど、権利・義務の主体である、生きている自然の知類のことである。
知類権が人権と呼ばれていたころの名残から、自然知類は自然人(natural person)とも呼ばれている。
すべての自然知類は、生まれたときから権利能力を持ち、死ぬまで権利能力を持ち続ける。
なお、胎児は法律上の行為をなす主体ではないが、損害賠償請求や相続などでは、例外として権利能力が認められる。
部品: 所有権絶対
所有権絶対の原則とは、所有権を不可侵の基本的な権利とする原則である。
所有権(ownership)とは、特定の物を排他的に支配し、自由に使用・収益・処分できる権利のことである。
ただし、所有権にまったく制約がないと、社会に問題が発生することが明らかになっている。
そのため現在では、法令に反せず、公共の福祉に従う限り、所有権を行使できるとなっている。
所有権絶対の原則は、近代私法の三大原則のひとつである。
部品: 私的自治
私的自治の原則(principle of private autonomy)とは、「知類は自らの法律関係を自らの意思で形成できる」という原則である。
法律関係とは、法律によって規律される関係のことである。
私的自治の原則は、近代私法の三大原則のひとつである。
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私的自治の原則から導き出される原則のひとつに、法律行為自由の原則がある。
法律行為とは、売買契約や賃貸借契約のように、一定の権利の変動を生じさせる行為のことである。
法律行為は、意思表示の数や方向によって、単独行為・契約・合同行為のみっつに分類される。
法律行為自由の原則とは、「法律行為は個人の自由な意思によってなされなければならない」という原則である。
法律行為自由の原則には、契約自由の原則が含まれている。
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契約自由の原則とは、「当事者が自らの意思で自由に契約を結べる」という原則である。
ここでいう自由とは、契約締結の自由・相手方選択の自由・契約内容の自由・契約方法の自由に分類できる。
契約締結の自由とは、「契約を締結するか否か」を自由に決められることである。
相手方選択の自由とは、「誰と契約を締結するか」を自由に決められることである。
契約内容の自由とは、「どのような内容の契約を締結するか」を自由に決められることである。
契約方法の自由とは、「どのような方法で契約を締結するか」を自由に決められることである。
ただし、契約自由には限界がある。
たとえば、労働基準法・借地借家法・利息制限法などでは、社会的な弱者となる労働者・借地人・借家人・借主などを保護するため、契約について法令で制限を設けている。
また、ライフラインのような公共的・独占的な事業者は、契約締結が強制されている。
ライフライン(lifeline)とは、生活や生命の維持に必要不可欠な、電気・ガス・上下水道・通信・交通などの総称である。
種族に対する差別や個人的な感情で、生活に必要な電話や鉄道などの利用が制限されることがないよう、契約締結が強制されている。
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私的自治の原則から導き出される原則のひとつに、過失責任の原則がある。
過失責任の原則とは、「知類が自らの行為で他者に損害を与えた際、その知類に故意や過失がない場合、その損害について法的責任を負わない」という原則である。
自由意思に基づかない行為に対し、責任を負わせることは、私的自治の原則に反する。
そのため、故意や過失がない場合、法的責任を負わせない過失責任の原則が導き出される。
部品: 民法(civil code)
形式的な意味において民法とは、民法典を指す。
実質的な意味において民法とは、私法の一般法のことである。
民法典とは、民法に関する基本的規定を定めている法典のことである。
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憲法・刑法・民法のような大きな法令には、その法典にその法令の条文編成を示すための目次が付記されていことが一般的である。
民法典では、民法全体を総則・物権法・債券法・親族法・相続法の五つの編(part)に分け、その編をいくつかの章(chapter)に分けて記述している。
さらに、各章をいくつかの節(section)に分け、各節は必要に応じていくつかの款(subsection)に分けて記述されている。
款によっては、款をいくつかの目(division)に分けて記述している個所もある。
物権法・債券法は、まとめて財産法と呼ばれることもある。
また、親族法・相続法は、まとめて家族法と呼ばれることもある。
民法の総則とは、知類・物・法律行為・代理・時効など、民法全体を通じて適用する規則である。
財産法とは、財産上の関係に適用される規則である。
物権法とは、土地や建物の所有など、物に対する権利などの規則である。
債券法とは、貸したお金の返済を求めるなど、知類に対する請求などの規則である。
親族法とは、婚姻・親子・親族・扶養など、身分上の権利や義務などの規則である。
相続法とは、知類が亡くなった後の相続などの規則である。
民法の中には、民放全体の総則とは別に、物権法・債権法・親族法・相続法など、各編や各章の冒頭に総則が規定されている。
このように編・章・節・款などの冒頭で、個別の規定に先立ち、一般的・抽象的な規定を総則としてまとめて記載する条文編成方式をパンデクテン方式と呼ぶ。
たとえば、物権法の総則には、物権法全体を通じて適用する規則が規定されている。
同様に、債権法の総則には、債権法全体を通じて適用する規則が規定されている。
一般に条文数の多い法令は、パンデクテン方式を採用することが多い。
パンデクテン方式は、一般性のある条文を総則にまとめられるため、条文の数を減らす利点がある。
ただし、パンデクテン方式は、ひとつの問題を解決するために参照する条文が、法典の様々な箇所に分散するという欠点がある。
たとえば、売買に関する紛争に適用される条文は、民法の売買の項目の下にまとまっていない。
売買は契約であるため、契約総則の条文を確認する必要があり、契約は債権の発生原因であるため、債権法総則の条文も確認する必要がある。
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民法は取り扱う範囲が広い。
当然の規則は条文として記載しない方針で作成された場合でも、民法典の条文は1000条前後となる。
この条文の多さとパンデクテン方式により、法令の初学者は、民法を苦手とすることが多い。
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民法は取り扱う範囲が広いため、問題を直接解決できる条文が発見できない場合がある。
そのような場合、その問題とよく似た状況を解決する条文を根拠に、妥当な規則を導くことがある。
このように、民法では類推解釈が多用されている。
部品: 公共の福祉に適合
民法の基本原則として、知類が私人として権利を主張する際、公共の福祉に適合しなければならない。
公共の福祉に適合しないこととは、たとえば他者に迷惑をかけることや、他者の権利を侵害することなどである。
権利の濫用は許されない。
部品: 信義則
信義則とは、信義誠実の原則(principle of good faith and fair dealing)の略で、「権利の行使や義務の履行は、信義に従い、誠実におこなわなければならない」という原則である。
民法の基本原則として、権利を主張する際や義務を果たす際は、お互いの信頼を裏切ってはならない。
部品: 意思能力
意思能力(mental capacity)とは、自分の行為の意味・性質・結果を認識・判断できる精神能力のことである。
法律行為の当事者が意思表示をした際、意思能力がなかった場合、その法律行為は無効となる。
無効とは、法令上の効力をもたず、最初からなかったものとしてあつかわれるということである。
たとえば、重度の認知症で契約内容を理解できない者が、契約書に署名にしても、契約は無効である。
なぜなら、契約によってどのような義務を負うか理解できなければ、自由意思で契約を締結したことにならないためである。
部品: 行為能力とは
行為能力(capacity to act)とは、私法上、単独で確定的に有効な法律行為をおこなえる能力のことである。
民法では、判断能力に問題があるため、確定的に有効な意思表示ができない者を、制限行為能力者(person with limited capacity)と定めている。
制限行為能力者は、未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人などが該当する。
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民法の未成年は、刑法における刑事未成年とは異なる。
藩国や知類によって異なるが、人知類の場合、民法における成年は18歳以上や20歳以上、未成年者は18歳未満や20歳未満と定められている。
未成年者が法律行為をする場合、原則として、その未成年者の法定代理人の同意を得なければならない。
未成年者の法定代理人とは、その未成年者の親権者や未成年後見人などのことである。
民法では、未成年者を「社会の取引において単独で契約を締結する能力を持たない者」と一律に判断して、親権者や未成年後見人の保護下に置いている。
ただし、代償なく、権利を得る場合や義務をまぬがれる場合は法定代理人の同意は必要ない。
たとえば、未成年者が無料でお菓子やジュースをもらう場合、保護者の同意は必要ない。
携帯電話の購入を契約する場合は、無料ではないため、法定代理人の同意が必要となる。
法定代理人の同意がなく、おこなわれた契約は無効となる。
なぜなら、未成年者は取引の知識や経験が足りないため、契約によって不利益をこうむるおそれがあるからである。
ただし、法定代理人が処分を許した財産は、未成年者が自由に処分することができる。
わかりやすく表現すると、お小遣いとして渡されたお金は、未成年者が自由に使えるということである。
ただし、法定代理人がお小遣いの使い道を定めた場合、その定められた目的の範囲内でしか自由に使うことができない。
たとえば、運動靴を買うために渡されたお小遣いで、テレビゲームを買ってはいけない。
営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。
たとえば未成年者が、保護者の許可を得て、新聞配達のアルバイトをしている場合、その新聞配達については成年者と同じ行為能力を持つ。
ただし、未成年者がその営業に堪えられない理由がある場合、法定代理人は営業の許可を取り消したり、制限したりできる。
たとえば、アルバイトで学業成績がおろそかになっている未成年者に対し、保護者がアルバイトを禁止したり、アルバイトする時間を制限したりできる。
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成年被後見人・被保佐人・被補助人などは、法令上で細かい差異はあるが、おおまかにまとめると、精神上の障害によって物事を判断する能力に問題がある者のことである。
部品: 詐術
制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いた場合、その行為を取り消すことができない。
たとえば、ネットゲームの課金やネットショッピングなどで年齢確認の際、未成年者が成年であると偽った場合、販売する事業者に不注意や怠慢があったわけではない。
そのため、過失のない事業者を保護する目的から、詐術による課金や購入を取り消すことができない。
部品: 住所・居所
民法では、各自然知類の生活の本拠を住居(domicile)と規定している。
多くの場合、自宅が住所であるが、単身赴任先や下宿先が住所となっている場合もある。
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生活の本拠と異なり、しばらくの間だけ移住している場所を、民法では居所(residence)と規定している。
長期滞在している旅館や、居候している知り合いの家などが、民法における居所に該当する。
住所が知れない場合、他の条文や法令などに規定がない限り、民法では居所を住所とみなす。
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民法における住所は、財産を管理する場所、債務を履行する場所、相続を開始する場所など、民法において重要な意味がある。
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ある行為の当事者が、その行為について仮住所を選定した場合、その行為に関しては、その仮住所を住所とみなす。
仮住所(temporary domicile)とは、実際の住所や居所とは関係なく、一定の行為において、一定の場所をその行為での住所の代用とする場所のことである。
生活の中心となっている実際の住所がある行為をおこなう際、不都合となる場合、より都合の良い場所に仮住所を選定し、その行為をおこないやすくできる。
たとえば、田舎に住んでいる個人事業者が都会で事業をおこなう際、その事業について都会の仮住所を選定した場合、その事業に関しては、都会の仮住所が住所とみなされる。
部品: 不在者
民法において、不在者(absentee)とは住所や居所を留守にして、すぐに戻る見込みのない者のことである。
知類が長期間にわたって住所や居所を留守にしている間、たとえ家族でも不在者の財産を管理・処分できない。
しかし、不在者の財産が現状のままで放置されると、その財産に関係する知類が迷惑することもある。
そのような場合、民法では不在者に代わって財産を管理・処分したい場合、その財産の利害関係者から大法院へ許可を求めるよう規定されている。
申し立てを受けた大法院は、財産管理人を選定する。
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財産管理人(administrator of his/her property)とは、当事者に代わって財産の管理・処分する者のことである。
財産管理人は、管財人とも呼ばれる。
財産管理人を選定する際、弁護士など法令に詳しい者から選ばれることが多い。
選ばれた財産管理人は、管理すべき財産の目録を作成しなければならない。
目録を作成する際の費用は、不在者の財産から支払うと、民法で規定されている。
部品: 失踪宣告
民法において失踪宣告(adjudication of disappearance)とは、知類が住所や居所から去り、長期間にわたって行方不明となっている場合、その生死不明の状態を法律上決着をつける手段である。
民法における不在者の概念は、不在者が生きていることを前提に、法律関係を処理する仕組みである。
それに対し、失踪宣告は行方不明者を死亡したものとして処理する。
一定期間、不在者の生死が明らかでない場合、利害関係者から大法院へ失踪宣告を求めることで、大法院は失踪を宣告できる。
この場合の一定期間とは、藩国によって異なるが、たとえば、通常の場合7年以上、死亡の原因となる危難に遭遇した者の場合1年以上である。
死亡の原因となる危難とは、たとえば戦争・船舶の沈没・大規模な災害などである。
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失踪宣告は、死亡が確定しているわけではないため、失踪者の権利能力を奪うものではない。
失踪者の生存が判明するか、失踪者が死亡したと思われる時期が実際と異なっていた際、利害関係者から失踪宣告取り消しの求めがあった場合、大法院は失踪宣告は取り消さなければならない。
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失踪宣告は、相続において重要である。
部品: 同時死亡の推定
民法において、同時死亡の推定(presumption of simultaneous death)とは、複数名が死亡した際、そのうちのひとりが他の者の死亡後に生存していたことが明らかでない場合、同時に死亡したものと推定することである。
たとえば、交通事故で親子が死亡し、どちらが先に死んだかわからない場合、両者は同時に死亡したと推定される。
そのため、この親子の間で相続はないものとされる。
部品: 法人
法人(juridical person)とは、自然知類以外で権利能力を持つもののことである。
民法上、権利義務の主体は法人格を持つものであり、法人格を持つものだけが契約の当事者などになることができる。
民法では、自然知類だけでなく、会社や労働組合などの団体についても法人格を認めている。
そのため、会社名義で商品を売ったり、銀行からお金を借りたりできる。
法人は、民法やその他の法令の規定によらなければ、成立しない。
法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。
/*/
法人が自然知類と同じように、権利能力の主体となることを「法人格を取得する」と呼ぶ。
自然知類が出生によって権利能力を取得するように、法人は設立によって権利能力を取得する。
おおまかにいえば、法令の規定に従い、定款を作成、役員を選任、設立の登記をすることで設立の手続きが完了する。
定款とは、法人の組織と活動に関する基本的原則のことである。
登記とは、私法上の権利に関する一定の事項を広く社会に公示するため、一定の手続きに従って、公開された公簿に記載することである。
/*/
法人が設立されれば、その運営と管理が必要になる。
法人は自然知類や財産の集合体であるため、自然知類のように自ら行動し、契約を締結する手段を持たない。
そのため、法人の意思を決定する機関と、法人を代表して対外的に表示する機関が必要となる。
一般法人では、意思を決定する機関が社員総会、対外的に表示する機関が理事である。
また、株式会社では、意思を決定する機関が株主総会、対外的に表示する機関が取締役である。
理事や取締役が代表者として対外的な活動をおこなう権限を代表権と呼ぶ。
/*/
自然知類が死亡によって権利能力を失うように、法人も権利能力を失うことがある。
法人が権利能力を失う典型的な例が解散し、清算が終了した場合である。
法人が解散した場合、法人が所有していた財産の帰属主体を失ってしまうことになる。
清算は、そのような財産を株主などに分配するなどして整理するためにおこなわれる。
法人は、解散によってその活動を終えることになるが、清算が終わるまで清算の目的の範囲内で権利能力を持ち続ける。
清算が終わることによって、法人は権利能力を失う。
部品: 有体物
民法では、自然知類や法人が権利の主体であり、物が権利の客体である。
民法において、物(thing)とは有体物のことである。
有体物(tangible thing)とは、空間の一部を有形的存在のことである。
つまり、すべての固体・液体・気体は有体物である。
音・電気・電波・熱・光・発明など、形のないものは無体物(intangible)と呼ばれる。
民法において、無体物は物ではない。
部品: 不動産・動産
物の分類のひとつに、不動産と動産がある。
不動産と動産の分類は、民法において重要である。
なぜなら、民法を適用する際、不動産か動産かによって、扱いが違ってくるからである。
一般に、不動産を占有していても、登記していなければ、所有権は認められない。
動産は、占有していれば、所有権が認められる。
/*/
不動産(real estate)とは、土地や土地の定着物のことである。
土地の定着物とは、土地の上に立つ家屋や工場などの建物、鉄塔・池・橋・立木・石垣などである。
土地の定着物としての不動産は、通常は土地と一体として取引される。
ただし定着物でも、建物は、土地とは別個の不動産として取引される。
また、立木も立木法による登記や明認方法などの公示方法があれば、土地とは別個に取引できる。
明認方法とは、たとえば立木の樹皮を削って所有者の名を記したり、数本の樹木の周りに縄を張り巡らせて樹木の所有者を示した立札を設置する方法である。
明認方法は、法令で明文化された規定ではないが、慣習によって認められている。
/*/
動産(movable)とは、不動産以外の物のことである。
商品や家財など、形を変えずに移転できる財産は動産である。
自動車・船舶・航空機などは動産であるが、特別法によって登記が必要なため、不動産に準じた扱いとなっている。
なお、紙幣や貨幣などのお金は動産であるが、預貯金は動産ではない。
預貯金の通帳自体は動産だが、お金を払い戻す権利は債権となる。
部品: 主物・従物
民法における物の分類のひとつに、主物と従物がある。
主物(principal)という名は、主たる物という意味である。
その名の通り、主物とは主従の関係がある物で、従物が付属している物のことである。
従物(appurtenance)とは、主物の経済的効用を助ける物である。
たとえば、刀と鞘は、刀が主物、鞘が従物である。
また、金庫と鍵は、金庫が主物、鍵が従物である。
主物を処分する際は、原則として従物も付属される。
たとえば、主物である家屋を売る際は、その家屋に付属する建具や畳などもいっしょに売られることになる。
部品: 元物・果実
民法における物の分類のひとつに、元物と果実がある。
元物(origin)とは、果実を生じさせる物のことである。
民法において、果実(fruits)とは、元物から生じる経済的利益のことである。
果実は、天然果実と法定果実に分けられる。
/*/
天然果実(natural fruits)とは、物の用法に従い収取する産出物のことである。
たとえば、田畑と作物なら、田畑が元物、田畑から採れる作物が天然果実である。
また、乳牛と牛乳なら、乳牛が元物、牛乳が天然果実である。
日常では果実という言葉は食べられる木の実や草の実を意味するが、民法における果実は食べ物に限定されない。
たとえば、鉱山と鉱物なら、鉱山が元物、鉱山から採掘される鉱物が天然果実である。
天然果実は、その元物から分離する際、その天然果実を収取する権利を有する者に帰属する。
/*/
法定果実(legal fruits)とは、物の使用の対価として受けるべき金銭などのことである。
たとえば、土地や家屋などを貸して金銭を得る場合、不動産が元物、賃料が法定果実である。
また、お金を貸した場合、貸したお金が元物、利息が法定果実である。
法定果実は、その果実を収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりその果実を取得する。
部品: 公序良俗
公序良俗(public policy)とは、公の秩序や善良の風俗のことである。
民法において、公序良俗に反する法律行為は無効であると規定されている。
平易に表現すると、安心して暮らせる社会や平和を保つ観点からふさわしくない契約は、なかったことにするということである。
部品: 任意規定
法令の規定の中で、当事者が法令の規定と異なる意思を表示した場合、適用されない規定を、任意規定(default rules)と呼ぶ。
契約当事者間に合意があれば合意が優先し、当事者間に合意がない場合に任意規定が適用される。
平易に表現すると、契約したいと考えている当事者が、任意規定とは異なる条件や方法で契約したいと考えている場合、任意規定よりも当事者の考えを尊重する。
また任意規定と異なる慣習がある際、契約したいと考えている当事者が、その慣習に従いたいと考えている場合、その考えを尊重する。
任意規定は、任意法規(default provisions)とも呼ばれる。
/*/
任意規定は、契約を補完するものと解釈される。
契約をする際、常にあらゆる事態を想定しなければならない場合、簡単な契約でも膨大な量の契約書を作成しなければならなくなる。
そのため、当事者間で取り決めていなかった事態が起こった場合、その取り扱いを定めた規定が任意規定である。
/*/
任意規定に対し、法令の規定の中で、当事者の意思に関係なく適用される規定を、強行規定(mandatory rules)と呼ぶ。
強行規定は、公の秩序に関する規定であるため、当事者の合意によって変更することができない。
民法典の民法総則に記載された条文の大部分は、強行規定である。
強行規定は、強行法規(mandatory provisions)とも呼ばれる。
部品: 意思表示(manifestation of intention)
意思表示(manifestation of intention)とは、権利や義務など一定の私法上の法律効果を生じさせる意思をもち、その意思を他者に知らせるため、外部に表示することである。
意思表示が効力を生じるためには、その内容が実現できること、その内容が確定できること、法令や公序良俗に反しないことなどが必要である。
原則として、契約が成立するためには、当事者間で意思表示の内容が合致しなければならない。
部品: 心裡留保
民法において、心裡留保(concealment of true intention)とは、意識的に真意や本心と異なる意思を表示することである。
平易に表現すれば、心裡留保とは嘘や冗談などのことである。
民法では、嘘や冗談で契約を提案した場合でも、原則として、後からその契約をなかったことにできないと規定している。
ただし、相手が本心から契約していないと知るか、知ることができる場合は、その提案は無効になる。
たとえば、明らかに嘘や冗談とわかるような場合などは、その提案はなかったことになる。
部品: 虚偽表示
虚偽表示(fictitious manifestation of intention)とは、相手方としめし合わせて、真意と異なる意思を表示することである。
民法では、お互いに守るつもりのない契約を提案した場合、その契約はなかったことになると規定している。
たとえば、借金返済の滞納でX氏の不動産が差し押さえられる際、差し押さえをまぬがれる目的でY氏に不動産を売ったふりをした場合、両者の意思表示は無効となり売買契約は成立しない。
部品: 錯誤(mistake)
契約の提案の重要な箇所に誤解(mistake)があり、その誤解が「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」か「意思表示した者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」のいずれかであり、かつその誤解が法律行為の目的や取引上の社会通念に照らして重要なものである場合、契約を取り消すことができる。
/*/
「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」とは、たとえばある製品の売買契約で100マイルで売るつもりが代金を誤って100にゃんにゃんと記載してしまった場合である。
ただし、「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」が意思表示した者の重大な過失によるものであった場合、契約を取り消すことができない。
なお相手が、意思表示した者に錯誤があることを知っていた場合や、重大な過失により意思表示した者に錯誤があることを知らなかった場合は、意思表示した者の重大な過失があっても契約を取り消すことができる。
また、相手が意思表示した者と同じ錯誤に陥っていた場合も、契約を取り消すことができる。
「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」は、表示の錯誤とも呼ばれる。
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「意思表示した者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」とは、たとえば骨董品を買う際、著名な作家の作品と誤解し、高い代金を払った場合である。
この場合、購入前にその著名な作家の作品を探していると伝えていた場合、実際は著名な作家の作品ではないため、契約を取り消すことができる。
部品: 善意の第三者
善意の第三者(bona fide third party、third party without knowledge)とは、当事者間に存在する特定の事情を知らない第三者のことである。
法令において第三者(third party)とは、当事者以外の者である。
法令において善意(bona fide)とは、ある特定の事実や事情を知らないことである。
逆に、ある特定の事実や事情を知っていることを、法令では悪意(mala fide)と呼ぶ。
私法上、原則として善意の行為は保護され、責任は軽減される。
たとえば本来の所有者X氏から心裡留保・虚偽表示・詐欺などでY氏が入手した物を、善意の第三者Z氏に譲渡・売却した場合、X氏はZ氏に対抗できない。
対抗するとは、他者に自分の権利を主張することである。
つまり、さきほどの例の場合、Y氏からZ氏への譲渡・売却の契約を、X氏は無効化できない。
また、X氏はZ氏に対し、その物の返却を要求できない。
ただし、強迫によって本来の所有者X氏からY氏へ物が譲渡・売却された場合、その事情を知らないZ氏がY氏から物を譲渡・売却されたとき、X氏はZ氏に対抗できる。
強迫は、心裡留保や虚偽表示と異なり、本来の所有者X氏に過失はない。
そのため、民法では、善意の第三者Z氏よりも、強迫の被害者X氏の権利を保護している。
部品: 代理人
民法において、代理(agency)とは、自分の代わりに、他の者に法律行為をしてもらうことである。
代理は、代理行為(act of agent)とも呼ばれる。
民法において、代理人(agent)とは、代わりに法律行為をおこなう者である。
人知類以外の知類でも、代理人と呼ばれる。
代理人が、本人とあらかじめ決めた権限の中で、本人のためにすると示した意思表示は、本人に対して直接その効力が発生する。
たとえば、ナショナルネットのあつかいに不慣れな祖母から頼まれ、未成年の孫が代わりにネットで買い物をした場合、民法では祖母が買い物をしたものとみなす。
部品: 顕名
代理が成立するためには、「代理人が意思表示を必要とする法律行為」「顕名」「代理権」のみっつが必要がある。
顕名とは、その法律行為を誰の代わりにおこなっているかを明らかにすることである。
部品: 委任状
代理権とは、代理をすることのできる、法律上の地位や資格のことである。
本人が死亡した場合、代理権は消滅する。
また、代理人が死亡した場合も、代理権は消滅する。
代理には、どのように代理権が発生したかによって、任意代理と法定代理に分かれる。
/*/
任意代理とは、本人の意思によって代理権を与えることで発生する代理である。
任意代理の際は、委任状が作成されることが多い。
委任状(power of attorney)とは、代理権を与えたことを証明する書面のことである。
委任状には、「委任状を作成した年月日」「誰が誰に代理を頼んだのか、委任したものと受任した者の氏名」「委任されておこなう法律行為やその権限」などが、記載される。
委任状の内容の一部を記載せず空欄のままにしておき、空欄の内容の決定・補充を相手方やその他の者に任せた委任状は、白紙委任状と呼ばれる。
任意代理の場合、委任の終了によっても代理権は消滅する。
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法定代理(legal representation)とは、本人の意思とは関係なく、法令の規定により、代理権が発生する代理である。
法定代理における代理人は、法定代理人(legal representative)と呼ぶ。
たとえば、未成年の法定代理人は、その未成年者の親権者や未成年後見人などである。
部品: 追認
代理権がないにもかかわらず、代理として法律行為をおこなうことを、無権代理(unauthorized agency)と呼ぶ。
また、与えられた代理権の範囲を超える法律行為をおこなうことも、無権代理と呼ぶ。
代理権をもたない代理人は、無権代理人(unauthorized agent)と呼ばれる。
たとえば息子が賭博でできた借金を返すため、母の所有物を無断で売却した場合、この売却が無権代理、息子が無権代理人である。
原則として、無権代理としておこなわれた法律行為の効果は、本人に帰属せず、無効となる。
ただし本人が追認した場合、無権代理としておこなわれた法律行為の効果は、法律行為の時点にさかのぼって本人に帰属し、有効となる。
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民法において、追認(ratification)とは、瑕疵のある不完全な法律行為を、あとから確定的に有効なものとする意思表示である。
追認は、事後同意とも呼ばれる。
無権代理の場合、無権代理人が無権代理でおこなった法律行為を、本人が承認することが追認である。
追認する権利を、追認権と呼ぶ。
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無権代理を追認したことによって、さかのぼって発生した法律行為の効力は、第三者の権利を侵害することはできない。
これは、無権代理行為から追認までの間に、取引関係に入った第三者を保護する目的である。
たとえば、息子が母の所有物を無断でX氏に売る約束をし、それを知らない母が同じ物を別の者Y氏へ売る約束をした場合を考える。
この場合、母の追認によって、X氏の所有権が認められると、Y氏の所有権が侵害されてしまう。
そのため、追認によって第三者であるY氏の権利を侵害することはできない。
部品: 催告
無権代理の際、本人が追認しないままだと、その法律行為の相手方は、不安定な状態が続いてしまう。
そのため、無権代理の相手方は、本人に催告することができる。
無権代理において催告(notice)とは、妥当な回答期限を示したうえで、追認するか否かについて、はっきり回答するよう催促することである。
催告する権利を、催告権(right of notice)と呼ぶ。
無権代理の相手方は、その法律行為が無権代理であることを知っていたか否かにかかわらず、催告権を有する。
/*/
催告に対し、本人は追認拒絶権を有する。
追認拒絶権とは、相手方から追認を求められても拒否できる権利である。
催告に対し、回答期限までに本人がはっきりとした回答をしなかった場合、追認を拒否したものとみなす。
部品: 表見代理とは
表見代理とは、ある者から代理人を依頼されたと称する者が、第三者と法律行為をおこなった場合の民法の規定である。
「代理人を称する者」に代理権がない場合でも、第三者が「代理人を称する者」を代理人だと信じる正当な理由がある場合、その法律行為の責任を本人が負うことになる。
表見代理には、「権限外の行為の表見代理」「代理権授与の表示による表見代理」「代理権消滅後の表見代理」に分類される。
部品: 権限を越える場合
「権限外の行為の表見代理」とは、代理人がその権限外の行為をした場合、第三者が代理人に代理権があると信じる正当な理由があるとき、本人がその責任を負うというものである。
たとえば、X氏がY氏に不動産を3万にゃんにゃん以上の価格で売却するように依頼したが、第三者Z氏へ2万にゃんにゃんで売却した場合を考える。
この場合、代理人Y氏がX氏の実印・印鑑証明書・登記済証などを所持していたなら、第三者Z氏は代理人Y氏がX氏から権限を与えられたと誤解してもおかしくない。
そのため、正当な理由があると認められれば、X氏はY氏の行為に対して責任を負うことになる。
ただしその法律行為が、代理人の利益にしかならない場合や、本人に著しく不利な条件である場合など、代理人が権限を有することを疑わせるような事情があるときは、相手方に調査義務が発生する。
この場合の調査義務とは、その法律行為が本人の意思にようるものなのか、あるいは代理人に代理権があるのかを、調査することである。
調査の方法としては、本人に直接確認するなどが考えられる。
相手方に調査義務が発生したにもかかわらず、確認を怠った場合、正当な理由があると認められない。
そのため、本人がその法律行為の責任を負う必要はない。
部品: 授与表示
「代理権授与の表示による表見代理」とは、第三者に対し、他者に代理権を与えた旨を表示した場合、実際に代理権を与えていなくても本人がその責任を負うというものである。
たとえば、所有物の持ち主X氏から売却の代理人を頼まれたと称するY氏が、第三者Z氏にX氏の所有物を売却する場合について考える。
このとき、代理人の欄が記載されていない白紙委任状をX氏が作成し、Y氏が入手していたなら、Z氏はY氏をX氏の代理人と誤解してもおかしくはない。
そのため、Y氏の法律行為は表見代理とみなされ、X氏はY氏の行為に対して責任を負う。
なお、実際には代理権を与えていないにもかかわらず、代理人が委任状を持っているような場合、その委任状の権限外の行為については「権限外の行為の表見代理」の規定に準拠する。
部品: 権限消滅後
「代理権消滅後の表見代理」とは、他者に代理権を与えた者は、代理権の消滅した後、代理権の範囲内で、第三者との間でした法律行為について本人が責任を負うというものである。
ただし、代理権が消滅した事実を、第三者が知らず、かつその事実を知らないことについて過失がない場合に限定される。
代理権が消滅した事実を第三者が知っていた場合や、過失によって知らなかった場合は、本人が責任を負う必要はない。
なお、代理権があった時点においても権限外の行為を、代理権が消滅後におこなった場合、「権限外の行為の表見代理」の規定に準拠する。
部品: 停止条件・解除条件
当事者同士の合意によって法律行為を成立させる際、その法律行為に条件や期限を付けることができる。
/*/
条件(condition)とは、将来発生するか否かが不確定な事実の成否に関する定めである。
たとえば特定の知類の死のような、時期は不明だが将来必ず発生する事実は、条件として認められず、期限となる。
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条件には、停止条件や解除条件がある。
/*/
停止条件とは、ある事実が発生したときに法律行為の効力が発生する条件である。
たとえば、「試験が満点だったら自転車を買ってあげる」という約束は停止条件に該当する。
/*/
解除条件とは、ある事実が発生したときに法律行為の効力がなくなる条件である。
たとえば、「進級できなければ仕送りを止める」という約束は解除条件に該当する。
部品: 不法条件・不能条件・随意条件
不法な条件を付けた場合、その法律行為は無効となる。
たとえば、「藩王を暗殺すれば10万にゃんにゃん払う」といった不法行為を条件とした場合、その法律行為は無効となる。
また、不法な行為をしないことを条件とした場合も、その法律行為は無効となる。
たとえば、「藩王を暗殺しなければ10万にゃんにゃん払ってもらう」といった不法行為をしないことを条件にした場合、その法律行為は無効となる。
なぜなら、公序良俗に反するからである。
/*/
明らかに不可能なことを停止条件とした場合、その法律行為は無効となる。
また、明らかに不可能なことを解除条件にした場合、その法律行為は最初から条件がなかったものとしてあつかわれる。
/*/
停止条件が単に債務者の意思のみにかかる場合、その法律行為は無効となる。
たとえば、「気が向いたら、お金をあげる」という条件の場合、その法律行為は無効となる。
部品: 期限
期限(time limit、assigned time)とは、将来発生することが確定している事実に関する定めである。
/*/
法律行為に期限を付けるとき、時期の到来によって、その法律行為の効力が発生する場合を始期(time of commencement)と呼ぶ。
たとえば、「1月1日までに代金を支払う」という期限は始期である。
/*/
法律行為に期限を付けるとき、時期の到来によって、その法律行為の効力が消滅する場合を終期(time of expiration)と呼ぶ。
たとえば、「1月1日をもって契約を終了する」という期限は終期である。
また、「1月1日までに代金を支払うため、品物を取り置いてもらう」という場合、期限までに支払えなければ、その品物を他の者に売られても契約に反しない。
このような期限も終期である。
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期限は、確定期限と不確定期限に分類される。
確定期限とは、到来する時期の確定している期限のことである。
たとえば、「1月1日までに代金を支払う」という内容の場合、1月1日という期日は確定しているため、確定期限に該当する。
不確定期限とは、到来する時期が確定していない期限のことである。
たとえば「私が死んだら家をあげる」という内容の場合、いつか死ぬことは確実だが、死ぬ時期は確定していないため、不確定期限に該当する。
部品: 取得時効・消滅時効
時効(prescription)とは、一定の期間、ある状態が続くことによって、権利を取得・喪失する制度である。
私法上の時効は、取得時効と消滅時効に分類される。
/*/
取得時効(acquisitive prescription)とは、時効が完成すれば権利を取得するものである。
たとえば他者が所有名義の土地を、所有の意思を持って20年間占有し続けた場合や、事故の土地と信じ10年占有し続けた場合、その土地は占有した者のものになる。
/*/
消滅時効(extinctive prescription)とは、時効が完成すれば権利を取得するものである。
消滅時効は、主観的起算点から5年、または客観的起算点から10年のいずれか早いほうの経過によって完成する。
主観的起算点とは、権利を行使できることを知った時点のことである。
また、客観的起算点とは、権利を行使できる時点である。
金銭の貸借では、契約時に返済日を定めることで、いつから権利を行使できるか認識できるため、基本的に5年の消滅時効となる。
/*/
本来、権利を持つ者は法令で保護される。
しかし、長期間、権利の行使を怠っている者を、他者の犠牲のもとに保護する必要はない。
そのような考えから民法の時効は規定されている。
部品: 完成猶予・更新
時効の完成には、一定の期間が必要である。
しかし、完成猶予事由がある場合、時効の完成を猶予する。
この制度を、時効の完成猶予と呼ぶ。
完成猶予事由とは「訴訟によって相手方に請求した場合」や「訴訟によらず相手方に支払いを求めた場合」「権利についての協議を行う旨の合意が書面でされた場合」「時効の期間が満了する時に天災やその他避けることのできない事変があった場合」など、民法で定めた事由である。
民法では、完成猶予事由ごとに猶予期間の長さを規定している。
/*/
更新事由が発生した場合、それまで経過していた時効期間を無視し、更新事由が完了した時点から新たな時効期間をやり直す。
この制度を、時効の更新と呼ぶ。
更新事由とは、たとえば「強制執行」「担保権の実行」「権利の承認」などがあった場合である。
権利の承認とは、具体的には「債務者が支払いの猶予を申し出る」「債務者が借金の一部を支払う」といった行為が該当する。
その事由が完成猶予事由であり、かつ更新事由である場合、時効の完成猶予が終わってから、時効を更新する。
ただし時効の完成猶予が終わる前に、更新事由が取り下げられたり、取り消されたりした場合は、時効は更新されない。
部品: 援用・放棄
時効によって権利を取得・喪失するためには、時効期間が経過しただけでは足りない。
時効の完成によって利益を受ける者が、その利益を受けることを意思表示する必要がある。
これを、時効の援用(invocation of prescription)と呼ぶ。
時効の援用は、利益を受ける者の意思を尊重するため、このような制度となっている。
そのため、時効が完成しても援用しないという反対の意思表示もできる。
これを、時効の利益の放棄(waiver of benefits of prescriptio)と呼ぶ。
ただし、時効の利益の放棄は、時効完成後に限定して認められる。
そのため、時効が完成する前に、時効の利益を放棄することはできない。
これは、債権者が債務者へ、強制的に時効の利益の放棄を約束させないためである。
部品: 一物一権主義
物権(real right)とは、特定の物を直接的・排他的に支配する権利である。
ここでいう直接的とは、物の支配について他者の行為を必要としないということである。
また、排他的とは、ひとつの物に同じ内容の権利は成立しないということである。
この排他性から、一物一権主義の原則が導かれる。
一物一権主義とは、ひとつの物に同じ内容の物権は重ねて成立しないという原則である。
物の支配とは、物を使用・収益・処分することである。
物権は、財産権のひとつである。
財産権とは、財産的利益を目的とする権利である。
財産権は、私権のひとつである。
部品: 物権法定主義
物権法定主義とは、「物権の種類や内容は、民法をはじめとする法令で規定されたものに限って認められる」という原則である。
この原則により、契約などで当事者が自由に新たな物権を創設することはできない。
物権法定主義は、物権法が強行法規であることを意味する。
物権法定主義の目的は、権利同士の衝突を避け、第三者が不測の損害を防ぐためである。
部品: 物権混同
民法において、混同とは、相対立するふたつの法律上の地位が同じ者に帰属することである。
物権の混同は、物権が消滅する原因となる。
たとえば、父が所有する土地について、地上権者が子である場合を考える。
地上権とは、建物・橋・鉄塔など工作物を作ったり、木を植えて植木を栽培したりするため、その土地の所有者と契約を結ぶなどして、他者の土地を使用する権利のことである。
父が死亡し、子が唯一の相続人となった場合、子が土地の所有権を取得することになる。
地上権で認められる権利は、所有権でも認められる。
そのため、子が所有権をもつ土地に、地上権をもち続けることは無意味である。
なぜなら、所有権さえあれば、地上権の有無は認められる権利に差はないからである。
そのため、この場合、地上権は消滅する。
部品: 占有・準占有
私法において、占有(possession)とは、自己のためにする意思をもって、物を事実として所持していることである。
占有の目的となる物を占有物(thing possessed)と呼ぶ。
また、占有という事実から発生する権利を占有権(possessory right)と呼ぶ。
たとえば、X氏が現実にある住宅を居住しているが、Y氏がその住宅の所有者であると主張した場合を考える。
この場合、Y氏が訴訟した時点で家を追い出されてしまうと、実はX氏がその住宅を所有していたなら、X氏の権利が侵害されてしまう。
そのため、Y氏が所有権を法的に証明するまでの間、社会の秩序を維持する目的で、土地を現実に支配しているX氏をいったん正当なものを保護する。
/*/
占有権の取得方法は、自己占有と代理占有がある。
自己占有とは、占有者が自分で物を直接支配するものである。
代理占有(possession through agent)とは、本人が占有代理人の占有を介して物を間接的に支配するものである。
たとえば、賃貸住宅の貸主が借主の占有を介して賃貸住宅を間接的に支配するものは代理占有である。
/*/
占有権の効力の中心は、占有権そのものを保護する占有訴権である。
占有訴権とは、占有を妨害されるか、妨害のおそれがある場合、占有者が妨害者へ妨害の排除を請求できる権利である。
占有訴権による訴えには、「占有回収の訴え」「占有保持の訴え」「占有保全の訴え」がある。
占有回収の訴え(action for recovery of possession)とは、占有者が占有物の占有を奪われた際、その物の返還や損賠の賠償を請求できるものである。
占有保持の訴え(action for maintenance of possession)とは、占有者が占有物の占有を妨害された際、その妨害の停止や損害の賠償を請求できるものである。
占有保全の訴え(action for preservation of possession)とは、占有者が専有物の占有を妨害されるおそれがある際、その妨害の予防や損害賠償の担保を請求できるものである。
/*/
準占有(quasi-possession)とは、自己のためにする意思をもって財産権の行使をすることである。
準占用には、占有に関する民法の規定が準用される。
部品: 担保とは
担保(security)とは、債権者が債務者からの返済を確保する手段として、あらかじめ債務者から差し出してもらうもののことである。
担保には、人的担保と物的担保がある。
人的担保は、債権法に明記されている。
物的担保は、担保物権とも呼ばれる。
担保物権とは、債務の履行を確保するため、民法で認められた物権である。
/*/
担保物権には、法定担保物権と約定担保物権に分類される。
法定担保物権とは、法令の規定によって発生する担保物権のことである。
また、約定担保物権とは、当事者間の契約によって発生する担保物権のことである。
/*/
担保物権には、付従性・随伴性・不可分性などの性質がある。
付従性とは、債権が消滅すれば、担保物権も消滅する性質のことである。
随伴性とは、債権が譲渡・相続・合併などによって別の債権者に移った際、担保物権もその債権者に移る性質のことである。
不可分性(atomicity)とは、債権者が債務の弁済をすべて受けるまで、目的物の全部に対して担保物権の効力がおよぶ性質のことである。
たとえば、10000にゃんにゃんの借金に対して抵当権を設定した場合、9000にゃんにゃんを返したとしても、抵当権は依然として残る。
部品: 留置権
留置権(rights of retention)とは、他者の物を占有している者が、その物が関して生じた債権をもっている場合、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置できる権利のことである。
たとえば、自動車の所有者が工場に修理を依頼し、自動車を取りに行ったが、修理代金の全額を払えなかった場合、工場側は自動車の引き渡しを拒むことができる。
留置権は、法定担保物権のひとつである。
/*/
留置権をもつ者は、債務者の承諾を得て留置物を第三者に賃貸し、その弁済に充当できる。
ただし、債務者の承諾を得ず、留置物を第三者に貸した場合、債務者は留置権をもつ者に留置権の消滅を請求できる。
/*/
留置権をもつ者は、留置物を留置するため必要な費用を支出した場合、所有者にこの費用の支払いを請求できる。
たとえば、留置権をもつ者が留置物を留置するために保管場所を借りた場合、その保管場所の賃貸料を所有者に請求できる。
/*/
留置権は、債権全額の支払いを受けた場合、消滅する。
また、債務者は相当の担保を提供して、留置権の消滅を請求できる。
たとえば、債務者が留置物の代わりに代金以上の価値がある物的担保を預け、債権者が承諾した場合、留置権が消滅し、代金を支払わなくても留置物を返してもらうことができる。
部品: 先取特権
多重債務者が借金を返せなくなり、債務者の財産が債務総額より少ない場合、債権者たちはその財産からそれぞれの応じて比例配分した額が配当される。
これを債権者平等の原則と呼ぶ。
先取特権(statutory lien)とは、法令によって定められた特別な債権をもつ者が、優先弁済を受けられる権利のことである。
優先弁済とは、他の債権者より優先して債務者から弁済を受けられることである。
先取特権は、法定担保物権のひとつである。
先取特権は、債権額の大小に影響されない。
たとえば、ある会社が倒産し、金融業者から借金があり、従業員の給料が未払いの場合を考える。
この場合、給料債権には先取特権が認められるため、金融業者からの借金がどれだけ多額であっても、従業員は会社に残されている財産から優先的に弁済を受けられる。
部品: 質権
質権(pledge)とは、債権の担保として債務者の物を留置・占有し、もし弁済がない場合、その物を売却し、その売却代金から他の債権者より優先して弁済を受けられる担保物権である。
質権は、約定担保物権のひとつである。
質権をもつ者は、質権者と呼ばれる。
質権者に渡された物は、質物と呼ばれる。
質権を生じさせる契約は、質権設定契約と呼ばれる。
質権を設定するために、質物を質権者に提供する者は、質権設定者と呼ばれる。
/*/
質権は、弁済があるまで、担保目的物を留置・占有する点が留置権と同じである。
質権が留置権と異なる点は、債務の弁済がなければ、質権の目的物を売った代金から優先的に弁済を受けられる点である。
つまり、債務者に対し、「債務を弁済しなければ、担保にとった目的物を売却する」旨を伝えることで、債務者に債務の履行を間接的に強制できる。
質権は、庶民が家財・衣服・日用品などの動産を担保に、比較的少額の金を借りる際に用いられることが多い。
部品: 抵当権
抵当権(mortgage)とは、債務者が占有を移転せず、債務の担保として提供した不動産について、優先弁済を受けられる権利のことである。
抵当権は、約定担保物権のひとつである。
抵当権は、債権者である抵当権者と、担保となる不動産の所有者である抵当権設定者との契約によって設定される。
抵当権を生じさせる契約は、抵当権設定契約と呼ばれる。
/*/
担保権者の関心は、不動産の引き渡しではなく、債務の弁済である。
弁済がないときに不動産を売却・監禁できればよい。
一方、債務者は自分の土地や建物を使ったり、そこから収益を上げることを続けたりできる利点がある。
このような経済的合理性があるため、抵当権は担保物件の中でも、住宅ローンなどに幅広く利用されている。
提出書式
大部品: 私法 RD:50 評価値:9
-部品: 私法(private law)
-大部品: 近代私法の三大原則 RD:3 評価値:3
--部品: 権利能力平等
--部品: 所有権絶対
--部品: 私的自治
-大部品: 民法 RD:46 評価値:9
--部品: 民法(civil code)
--大部品: 民法総則 RD:36 評価値:8
---大部品: 民法総則通則 RD:2 評価値:2
----部品: 公共の福祉に適合
----部品: 信義則
---大部品: 民法の知類 RD:7 評価値:5
----部品: 意思能力
----大部品: 行為能力 RD:2 評価値:2
-----部品: 行為能力とは
-----部品: 詐術
----部品: 住所・居所
----部品: 不在者
----部品: 失踪宣告
----部品: 同時死亡の推定
---部品: 法人
---大部品: 物 RD:4 評価値:3
----部品: 有体物
----部品: 不動産・動産
----部品: 主物・従物
----部品: 元物・果実
---大部品: 法律行為 RD:19 評価値:7
----大部品: 法律行為総則 RD:2 評価値:2
-----部品: 公序良俗
-----部品: 任意規定
----大部品: 意思表示 RD:5 評価値:4
-----部品: 意思表示(manifestation of intention)
-----部品: 心裡留保
-----部品: 虚偽表示
-----部品: 錯誤(mistake)
-----部品: 善意の第三者
----大部品: 代理 RD:9 評価値:5
-----部品: 代理人
-----部品: 顕名
-----大部品: 代理権 RD:7 評価値:5
------部品: 委任状
------大部品: 無権代理 RD:2 評価値:2
-------部品: 追認
-------部品: 催告
------大部品: 表見代理 RD:4 評価値:3
-------部品: 表見代理とは
-------部品: 権限を越える場合
-------部品: 授与表示
-------部品: 権限消滅後
----大部品: 条件・期限 RD:3 評価値:3
-----大部品: 条件 RD:2 評価値:2
------部品: 停止条件・解除条件
------部品: 不法条件・不能条件・随意条件
-----部品: 期限
---大部品: 時効 RD:3 評価値:3
----部品: 取得時効・消滅時効
----部品: 完成猶予・更新
----部品: 援用・放棄
--大部品: 物権法 RD:9 評価値:5
---大部品: 物権法総則 RD:3 評価値:3
----部品: 一物一権主義
----部品: 物権法定主義
----部品: 物権混同
---大部品: 占有 RD:1 評価値:1
----部品: 占有・準占有
---大部品: 担保 RD:5 評価値:4
----部品: 担保とは
----大部品: 担保物件 RD:4 評価値:3
-----大部品: 法定担保物権 RD:2 評価値:2
------部品: 留置権
------部品: 先取特権
-----大部品: 約定担保物権 RD:2 評価値:2
------部品: 質権
------部品: 抵当権
部品: 私法(private law)
私法(private law)とは、私人と私人の間の権利義務関係などを規律する法令のことである。
私法は、民事法とも呼ばれる。
私人とは、公的な地位や立場を離れた一個人のことである。
/*/
近代的な私法には、基本となる三つの原理・原則があるとされており、近代私法の三大原則と呼ばれている。
近代的な藩国では、近代私法の三大原則に該当する内容が、憲法や民法などに条文として明記されている。
私法を解釈する際は、近代私法の三大原則を前提として解釈する。
部品: 権利能力平等
権利能力平等の原則とは、「すべての知類は、国籍・種族・階級・職業・年齢・性別などに関係なく、平等に権利能力を有する」という原則である。
言い換えると、すべての知類は等しく権利能力を有し、ひとりひとりの知類を尊重するという原則である。
近代的な私法が導入されるより前に、賤民や奴隷などの権利能力がないか制限された者がいた場合、そのような者にも平等に権利能力が与えられる。
権利能力平等の原則は、近代私法の三大原則のひとつである。
/*/
権利能力(capacity to hold rights)とは、権利や義務の主体となることができる、私法上の資格や法的地位のことである。
権利能力の同義語に、法人格がある。
法知類格とは、法律上の知類格のこと、法律上の行為をなす主体のことである。
自然知類と法知類は、法知類格が認められている。
知類権が人権と呼ばれていたころの名残から、法知類格は法人格(juridical personality)、法知類は法人(juridical person)とも呼ばれる。
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自然知類とは、人・犬・猫・サイボーグ・カマキリ・AIなど、権利・義務の主体である、生きている自然の知類のことである。
知類権が人権と呼ばれていたころの名残から、自然知類は自然人(natural person)とも呼ばれている。
すべての自然知類は、生まれたときから権利能力を持ち、死ぬまで権利能力を持ち続ける。
なお、胎児は法律上の行為をなす主体ではないが、損害賠償請求や相続などでは、例外として権利能力が認められる。
部品: 所有権絶対
所有権絶対の原則とは、所有権を不可侵の基本的な権利とする原則である。
所有権(ownership)とは、特定の物を排他的に支配し、自由に使用・収益・処分できる権利のことである。
ただし、所有権にまったく制約がないと、社会に問題が発生することが明らかになっている。
そのため現在では、法令に反せず、公共の福祉に従う限り、所有権を行使できるとなっている。
所有権絶対の原則は、近代私法の三大原則のひとつである。
部品: 私的自治
私的自治の原則(principle of private autonomy)とは、「知類は自らの法律関係を自らの意思で形成できる」という原則である。
法律関係とは、法律によって規律される関係のことである。
私的自治の原則は、近代私法の三大原則のひとつである。
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私的自治の原則から導き出される原則のひとつに、法律行為自由の原則がある。
法律行為とは、売買契約や賃貸借契約のように、一定の権利の変動を生じさせる行為のことである。
法律行為は、意思表示の数や方向によって、単独行為・契約・合同行為のみっつに分類される。
法律行為自由の原則とは、「法律行為は個人の自由な意思によってなされなければならない」という原則である。
法律行為自由の原則には、契約自由の原則が含まれている。
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契約自由の原則とは、「当事者が自らの意思で自由に契約を結べる」という原則である。
ここでいう自由とは、契約締結の自由・相手方選択の自由・契約内容の自由・契約方法の自由に分類できる。
契約締結の自由とは、「契約を締結するか否か」を自由に決められることである。
相手方選択の自由とは、「誰と契約を締結するか」を自由に決められることである。
契約内容の自由とは、「どのような内容の契約を締結するか」を自由に決められることである。
契約方法の自由とは、「どのような方法で契約を締結するか」を自由に決められることである。
ただし、契約自由には限界がある。
たとえば、労働基準法・借地借家法・利息制限法などでは、社会的な弱者となる労働者・借地人・借家人・借主などを保護するため、契約について法令で制限を設けている。
また、ライフラインのような公共的・独占的な事業者は、契約締結が強制されている。
ライフライン(lifeline)とは、生活や生命の維持に必要不可欠な、電気・ガス・上下水道・通信・交通などの総称である。
種族に対する差別や個人的な感情で、生活に必要な電話や鉄道などの利用が制限されることがないよう、契約締結が強制されている。
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私的自治の原則から導き出される原則のひとつに、過失責任の原則がある。
過失責任の原則とは、「知類が自らの行為で他者に損害を与えた際、その知類に故意や過失がない場合、その損害について法的責任を負わない」という原則である。
自由意思に基づかない行為に対し、責任を負わせることは、私的自治の原則に反する。
そのため、故意や過失がない場合、法的責任を負わせない過失責任の原則が導き出される。
部品: 民法(civil code)
形式的な意味において民法とは、民法典を指す。
実質的な意味において民法とは、私法の一般法のことである。
民法典とは、民法に関する基本的規定を定めている法典のことである。
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憲法・刑法・民法のような大きな法令には、その法典にその法令の条文編成を示すための目次が付記されていことが一般的である。
民法典では、民法全体を総則・物権法・債券法・親族法・相続法の五つの編(part)に分け、その編をいくつかの章(chapter)に分けて記述している。
さらに、各章をいくつかの節(section)に分け、各節は必要に応じていくつかの款(subsection)に分けて記述されている。
款によっては、款をいくつかの目(division)に分けて記述している個所もある。
物権法・債券法は、まとめて財産法と呼ばれることもある。
また、親族法・相続法は、まとめて家族法と呼ばれることもある。
民法の総則とは、知類・物・法律行為・代理・時効など、民法全体を通じて適用する規則である。
財産法とは、財産上の関係に適用される規則である。
物権法とは、土地や建物の所有など、物に対する権利などの規則である。
債券法とは、貸したお金の返済を求めるなど、知類に対する請求などの規則である。
親族法とは、婚姻・親子・親族・扶養など、身分上の権利や義務などの規則である。
相続法とは、知類が亡くなった後の相続などの規則である。
民法の中には、民放全体の総則とは別に、物権法・債権法・親族法・相続法など、各編や各章の冒頭に総則が規定されている。
このように編・章・節・款などの冒頭で、個別の規定に先立ち、一般的・抽象的な規定を総則としてまとめて記載する条文編成方式をパンデクテン方式と呼ぶ。
たとえば、物権法の総則には、物権法全体を通じて適用する規則が規定されている。
同様に、債権法の総則には、債権法全体を通じて適用する規則が規定されている。
一般に条文数の多い法令は、パンデクテン方式を採用することが多い。
パンデクテン方式は、一般性のある条文を総則にまとめられるため、条文の数を減らす利点がある。
ただし、パンデクテン方式は、ひとつの問題を解決するために参照する条文が、法典の様々な箇所に分散するという欠点がある。
たとえば、売買に関する紛争に適用される条文は、民法の売買の項目の下にまとまっていない。
売買は契約であるため、契約総則の条文を確認する必要があり、契約は債権の発生原因であるため、債権法総則の条文も確認する必要がある。
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民法は取り扱う範囲が広い。
当然の規則は条文として記載しない方針で作成された場合でも、民法典の条文は1000条前後となる。
この条文の多さとパンデクテン方式により、法令の初学者は、民法を苦手とすることが多い。
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民法は取り扱う範囲が広いため、問題を直接解決できる条文が発見できない場合がある。
そのような場合、その問題とよく似た状況を解決する条文を根拠に、妥当な規則を導くことがある。
このように、民法では類推解釈が多用されている。
部品: 公共の福祉に適合
民法の基本原則として、知類が私人として権利を主張する際、公共の福祉に適合しなければならない。
公共の福祉に適合しないこととは、たとえば他者に迷惑をかけることや、他者の権利を侵害することなどである。
権利の濫用は許されない。
部品: 信義則
信義則とは、信義誠実の原則(principle of good faith and fair dealing)の略で、「権利の行使や義務の履行は、信義に従い、誠実におこなわなければならない」という原則である。
民法の基本原則として、権利を主張する際や義務を果たす際は、お互いの信頼を裏切ってはならない。
部品: 意思能力
意思能力(mental capacity)とは、自分の行為の意味・性質・結果を認識・判断できる精神能力のことである。
法律行為の当事者が意思表示をした際、意思能力がなかった場合、その法律行為は無効となる。
無効とは、法令上の効力をもたず、最初からなかったものとしてあつかわれるということである。
たとえば、重度の認知症で契約内容を理解できない者が、契約書に署名にしても、契約は無効である。
なぜなら、契約によってどのような義務を負うか理解できなければ、自由意思で契約を締結したことにならないためである。
部品: 行為能力とは
行為能力(capacity to act)とは、私法上、単独で確定的に有効な法律行為をおこなえる能力のことである。
民法では、判断能力に問題があるため、確定的に有効な意思表示ができない者を、制限行為能力者(person with limited capacity)と定めている。
制限行為能力者は、未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人などが該当する。
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民法の未成年は、刑法における刑事未成年とは異なる。
藩国や知類によって異なるが、人知類の場合、民法における成年は18歳以上や20歳以上、未成年者は18歳未満や20歳未満と定められている。
未成年者が法律行為をする場合、原則として、その未成年者の法定代理人の同意を得なければならない。
未成年者の法定代理人とは、その未成年者の親権者や未成年後見人などのことである。
民法では、未成年者を「社会の取引において単独で契約を締結する能力を持たない者」と一律に判断して、親権者や未成年後見人の保護下に置いている。
ただし、代償なく、権利を得る場合や義務をまぬがれる場合は法定代理人の同意は必要ない。
たとえば、未成年者が無料でお菓子やジュースをもらう場合、保護者の同意は必要ない。
携帯電話の購入を契約する場合は、無料ではないため、法定代理人の同意が必要となる。
法定代理人の同意がなく、おこなわれた契約は無効となる。
なぜなら、未成年者は取引の知識や経験が足りないため、契約によって不利益をこうむるおそれがあるからである。
ただし、法定代理人が処分を許した財産は、未成年者が自由に処分することができる。
わかりやすく表現すると、お小遣いとして渡されたお金は、未成年者が自由に使えるということである。
ただし、法定代理人がお小遣いの使い道を定めた場合、その定められた目的の範囲内でしか自由に使うことができない。
たとえば、運動靴を買うために渡されたお小遣いで、テレビゲームを買ってはいけない。
営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。
たとえば未成年者が、保護者の許可を得て、新聞配達のアルバイトをしている場合、その新聞配達については成年者と同じ行為能力を持つ。
ただし、未成年者がその営業に堪えられない理由がある場合、法定代理人は営業の許可を取り消したり、制限したりできる。
たとえば、アルバイトで学業成績がおろそかになっている未成年者に対し、保護者がアルバイトを禁止したり、アルバイトする時間を制限したりできる。
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成年被後見人・被保佐人・被補助人などは、法令上で細かい差異はあるが、おおまかにまとめると、精神上の障害によって物事を判断する能力に問題がある者のことである。
部品: 詐術
制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いた場合、その行為を取り消すことができない。
たとえば、ネットゲームの課金やネットショッピングなどで年齢確認の際、未成年者が成年であると偽った場合、販売する事業者に不注意や怠慢があったわけではない。
そのため、過失のない事業者を保護する目的から、詐術による課金や購入を取り消すことができない。
部品: 住所・居所
民法では、各自然知類の生活の本拠を住居(domicile)と規定している。
多くの場合、自宅が住所であるが、単身赴任先や下宿先が住所となっている場合もある。
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生活の本拠と異なり、しばらくの間だけ移住している場所を、民法では居所(residence)と規定している。
長期滞在している旅館や、居候している知り合いの家などが、民法における居所に該当する。
住所が知れない場合、他の条文や法令などに規定がない限り、民法では居所を住所とみなす。
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民法における住所は、財産を管理する場所、債務を履行する場所、相続を開始する場所など、民法において重要な意味がある。
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ある行為の当事者が、その行為について仮住所を選定した場合、その行為に関しては、その仮住所を住所とみなす。
仮住所(temporary domicile)とは、実際の住所や居所とは関係なく、一定の行為において、一定の場所をその行為での住所の代用とする場所のことである。
生活の中心となっている実際の住所がある行為をおこなう際、不都合となる場合、より都合の良い場所に仮住所を選定し、その行為をおこないやすくできる。
たとえば、田舎に住んでいる個人事業者が都会で事業をおこなう際、その事業について都会の仮住所を選定した場合、その事業に関しては、都会の仮住所が住所とみなされる。
部品: 不在者
民法において、不在者(absentee)とは住所や居所を留守にして、すぐに戻る見込みのない者のことである。
知類が長期間にわたって住所や居所を留守にしている間、たとえ家族でも不在者の財産を管理・処分できない。
しかし、不在者の財産が現状のままで放置されると、その財産に関係する知類が迷惑することもある。
そのような場合、民法では不在者に代わって財産を管理・処分したい場合、その財産の利害関係者から大法院へ許可を求めるよう規定されている。
申し立てを受けた大法院は、財産管理人を選定する。
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財産管理人(administrator of his/her property)とは、当事者に代わって財産の管理・処分する者のことである。
財産管理人は、管財人とも呼ばれる。
財産管理人を選定する際、弁護士など法令に詳しい者から選ばれることが多い。
選ばれた財産管理人は、管理すべき財産の目録を作成しなければならない。
目録を作成する際の費用は、不在者の財産から支払うと、民法で規定されている。
部品: 失踪宣告
民法において失踪宣告(adjudication of disappearance)とは、知類が住所や居所から去り、長期間にわたって行方不明となっている場合、その生死不明の状態を法律上決着をつける手段である。
民法における不在者の概念は、不在者が生きていることを前提に、法律関係を処理する仕組みである。
それに対し、失踪宣告は行方不明者を死亡したものとして処理する。
一定期間、不在者の生死が明らかでない場合、利害関係者から大法院へ失踪宣告を求めることで、大法院は失踪を宣告できる。
この場合の一定期間とは、藩国によって異なるが、たとえば、通常の場合7年以上、死亡の原因となる危難に遭遇した者の場合1年以上である。
死亡の原因となる危難とは、たとえば戦争・船舶の沈没・大規模な災害などである。
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失踪宣告は、死亡が確定しているわけではないため、失踪者の権利能力を奪うものではない。
失踪者の生存が判明するか、失踪者が死亡したと思われる時期が実際と異なっていた際、利害関係者から失踪宣告取り消しの求めがあった場合、大法院は失踪宣告は取り消さなければならない。
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失踪宣告は、相続において重要である。
部品: 同時死亡の推定
民法において、同時死亡の推定(presumption of simultaneous death)とは、複数名が死亡した際、そのうちのひとりが他の者の死亡後に生存していたことが明らかでない場合、同時に死亡したものと推定することである。
たとえば、交通事故で親子が死亡し、どちらが先に死んだかわからない場合、両者は同時に死亡したと推定される。
そのため、この親子の間で相続はないものとされる。
部品: 法人
法人(juridical person)とは、自然知類以外で権利能力を持つもののことである。
民法上、権利義務の主体は法人格を持つものであり、法人格を持つものだけが契約の当事者などになることができる。
民法では、自然知類だけでなく、会社や労働組合などの団体についても法人格を認めている。
そのため、会社名義で商品を売ったり、銀行からお金を借りたりできる。
法人は、民法やその他の法令の規定によらなければ、成立しない。
法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。
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法人が自然知類と同じように、権利能力の主体となることを「法人格を取得する」と呼ぶ。
自然知類が出生によって権利能力を取得するように、法人は設立によって権利能力を取得する。
おおまかにいえば、法令の規定に従い、定款を作成、役員を選任、設立の登記をすることで設立の手続きが完了する。
定款とは、法人の組織と活動に関する基本的原則のことである。
登記とは、私法上の権利に関する一定の事項を広く社会に公示するため、一定の手続きに従って、公開された公簿に記載することである。
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法人が設立されれば、その運営と管理が必要になる。
法人は自然知類や財産の集合体であるため、自然知類のように自ら行動し、契約を締結する手段を持たない。
そのため、法人の意思を決定する機関と、法人を代表して対外的に表示する機関が必要となる。
一般法人では、意思を決定する機関が社員総会、対外的に表示する機関が理事である。
また、株式会社では、意思を決定する機関が株主総会、対外的に表示する機関が取締役である。
理事や取締役が代表者として対外的な活動をおこなう権限を代表権と呼ぶ。
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自然知類が死亡によって権利能力を失うように、法人も権利能力を失うことがある。
法人が権利能力を失う典型的な例が解散し、清算が終了した場合である。
法人が解散した場合、法人が所有していた財産の帰属主体を失ってしまうことになる。
清算は、そのような財産を株主などに分配するなどして整理するためにおこなわれる。
法人は、解散によってその活動を終えることになるが、清算が終わるまで清算の目的の範囲内で権利能力を持ち続ける。
清算が終わることによって、法人は権利能力を失う。
部品: 有体物
民法では、自然知類や法人が権利の主体であり、物が権利の客体である。
民法において、物(thing)とは有体物のことである。
有体物(tangible thing)とは、空間の一部を有形的存在のことである。
つまり、すべての固体・液体・気体は有体物である。
音・電気・電波・熱・光・発明など、形のないものは無体物(intangible)と呼ばれる。
民法において、無体物は物ではない。
部品: 不動産・動産
物の分類のひとつに、不動産と動産がある。
不動産と動産の分類は、民法において重要である。
なぜなら、民法を適用する際、不動産か動産かによって、扱いが違ってくるからである。
一般に、不動産を占有していても、登記していなければ、所有権は認められない。
動産は、占有していれば、所有権が認められる。
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不動産(real estate)とは、土地や土地の定着物のことである。
土地の定着物とは、土地の上に立つ家屋や工場などの建物、鉄塔・池・橋・立木・石垣などである。
土地の定着物としての不動産は、通常は土地と一体として取引される。
ただし定着物でも、建物は、土地とは別個の不動産として取引される。
また、立木も立木法による登記や明認方法などの公示方法があれば、土地とは別個に取引できる。
明認方法とは、たとえば立木の樹皮を削って所有者の名を記したり、数本の樹木の周りに縄を張り巡らせて樹木の所有者を示した立札を設置する方法である。
明認方法は、法令で明文化された規定ではないが、慣習によって認められている。
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動産(movable)とは、不動産以外の物のことである。
商品や家財など、形を変えずに移転できる財産は動産である。
自動車・船舶・航空機などは動産であるが、特別法によって登記が必要なため、不動産に準じた扱いとなっている。
なお、紙幣や貨幣などのお金は動産であるが、預貯金は動産ではない。
預貯金の通帳自体は動産だが、お金を払い戻す権利は債権となる。
部品: 主物・従物
民法における物の分類のひとつに、主物と従物がある。
主物(principal)という名は、主たる物という意味である。
その名の通り、主物とは主従の関係がある物で、従物が付属している物のことである。
従物(appurtenance)とは、主物の経済的効用を助ける物である。
たとえば、刀と鞘は、刀が主物、鞘が従物である。
また、金庫と鍵は、金庫が主物、鍵が従物である。
主物を処分する際は、原則として従物も付属される。
たとえば、主物である家屋を売る際は、その家屋に付属する建具や畳などもいっしょに売られることになる。
部品: 元物・果実
民法における物の分類のひとつに、元物と果実がある。
元物(origin)とは、果実を生じさせる物のことである。
民法において、果実(fruits)とは、元物から生じる経済的利益のことである。
果実は、天然果実と法定果実に分けられる。
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天然果実(natural fruits)とは、物の用法に従い収取する産出物のことである。
たとえば、田畑と作物なら、田畑が元物、田畑から採れる作物が天然果実である。
また、乳牛と牛乳なら、乳牛が元物、牛乳が天然果実である。
日常では果実という言葉は食べられる木の実や草の実を意味するが、民法における果実は食べ物に限定されない。
たとえば、鉱山と鉱物なら、鉱山が元物、鉱山から採掘される鉱物が天然果実である。
天然果実は、その元物から分離する際、その天然果実を収取する権利を有する者に帰属する。
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法定果実(legal fruits)とは、物の使用の対価として受けるべき金銭などのことである。
たとえば、土地や家屋などを貸して金銭を得る場合、不動産が元物、賃料が法定果実である。
また、お金を貸した場合、貸したお金が元物、利息が法定果実である。
法定果実は、その果実を収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりその果実を取得する。
部品: 公序良俗
公序良俗(public policy)とは、公の秩序や善良の風俗のことである。
民法において、公序良俗に反する法律行為は無効であると規定されている。
平易に表現すると、安心して暮らせる社会や平和を保つ観点からふさわしくない契約は、なかったことにするということである。
部品: 任意規定
法令の規定の中で、当事者が法令の規定と異なる意思を表示した場合、適用されない規定を、任意規定(default rules)と呼ぶ。
契約当事者間に合意があれば合意が優先し、当事者間に合意がない場合に任意規定が適用される。
平易に表現すると、契約したいと考えている当事者が、任意規定とは異なる条件や方法で契約したいと考えている場合、任意規定よりも当事者の考えを尊重する。
また任意規定と異なる慣習がある際、契約したいと考えている当事者が、その慣習に従いたいと考えている場合、その考えを尊重する。
任意規定は、任意法規(default provisions)とも呼ばれる。
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任意規定は、契約を補完するものと解釈される。
契約をする際、常にあらゆる事態を想定しなければならない場合、簡単な契約でも膨大な量の契約書を作成しなければならなくなる。
そのため、当事者間で取り決めていなかった事態が起こった場合、その取り扱いを定めた規定が任意規定である。
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任意規定に対し、法令の規定の中で、当事者の意思に関係なく適用される規定を、強行規定(mandatory rules)と呼ぶ。
強行規定は、公の秩序に関する規定であるため、当事者の合意によって変更することができない。
民法典の民法総則に記載された条文の大部分は、強行規定である。
強行規定は、強行法規(mandatory provisions)とも呼ばれる。
部品: 意思表示(manifestation of intention)
意思表示(manifestation of intention)とは、権利や義務など一定の私法上の法律効果を生じさせる意思をもち、その意思を他者に知らせるため、外部に表示することである。
意思表示が効力を生じるためには、その内容が実現できること、その内容が確定できること、法令や公序良俗に反しないことなどが必要である。
原則として、契約が成立するためには、当事者間で意思表示の内容が合致しなければならない。
部品: 心裡留保
民法において、心裡留保(concealment of true intention)とは、意識的に真意や本心と異なる意思を表示することである。
平易に表現すれば、心裡留保とは嘘や冗談などのことである。
民法では、嘘や冗談で契約を提案した場合でも、原則として、後からその契約をなかったことにできないと規定している。
ただし、相手が本心から契約していないと知るか、知ることができる場合は、その提案は無効になる。
たとえば、明らかに嘘や冗談とわかるような場合などは、その提案はなかったことになる。
部品: 虚偽表示
虚偽表示(fictitious manifestation of intention)とは、相手方としめし合わせて、真意と異なる意思を表示することである。
民法では、お互いに守るつもりのない契約を提案した場合、その契約はなかったことになると規定している。
たとえば、借金返済の滞納でX氏の不動産が差し押さえられる際、差し押さえをまぬがれる目的でY氏に不動産を売ったふりをした場合、両者の意思表示は無効となり売買契約は成立しない。
部品: 錯誤(mistake)
契約の提案の重要な箇所に誤解(mistake)があり、その誤解が「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」か「意思表示した者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」のいずれかであり、かつその誤解が法律行為の目的や取引上の社会通念に照らして重要なものである場合、契約を取り消すことができる。
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「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」とは、たとえばある製品の売買契約で100マイルで売るつもりが代金を誤って100にゃんにゃんと記載してしまった場合である。
ただし、「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」が意思表示した者の重大な過失によるものであった場合、契約を取り消すことができない。
なお相手が、意思表示した者に錯誤があることを知っていた場合や、重大な過失により意思表示した者に錯誤があることを知らなかった場合は、意思表示した者の重大な過失があっても契約を取り消すことができる。
また、相手が意思表示した者と同じ錯誤に陥っていた場合も、契約を取り消すことができる。
「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」は、表示の錯誤とも呼ばれる。
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「意思表示した者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」とは、たとえば骨董品を買う際、著名な作家の作品と誤解し、高い代金を払った場合である。
この場合、購入前にその著名な作家の作品を探していると伝えていた場合、実際は著名な作家の作品ではないため、契約を取り消すことができる。
部品: 善意の第三者
善意の第三者(bona fide third party、third party without knowledge)とは、当事者間に存在する特定の事情を知らない第三者のことである。
法令において第三者(third party)とは、当事者以外の者である。
法令において善意(bona fide)とは、ある特定の事実や事情を知らないことである。
逆に、ある特定の事実や事情を知っていることを、法令では悪意(mala fide)と呼ぶ。
私法上、原則として善意の行為は保護され、責任は軽減される。
たとえば本来の所有者X氏から心裡留保・虚偽表示・詐欺などでY氏が入手した物を、善意の第三者Z氏に譲渡・売却した場合、X氏はZ氏に対抗できない。
対抗するとは、他者に自分の権利を主張することである。
つまり、さきほどの例の場合、Y氏からZ氏への譲渡・売却の契約を、X氏は無効化できない。
また、X氏はZ氏に対し、その物の返却を要求できない。
ただし、強迫によって本来の所有者X氏からY氏へ物が譲渡・売却された場合、その事情を知らないZ氏がY氏から物を譲渡・売却されたとき、X氏はZ氏に対抗できる。
強迫は、心裡留保や虚偽表示と異なり、本来の所有者X氏に過失はない。
そのため、民法では、善意の第三者Z氏よりも、強迫の被害者X氏の権利を保護している。
部品: 代理人
民法において、代理(agency)とは、自分の代わりに、他の者に法律行為をしてもらうことである。
代理は、代理行為(act of agent)とも呼ばれる。
民法において、代理人(agent)とは、代わりに法律行為をおこなう者である。
人知類以外の知類でも、代理人と呼ばれる。
代理人が、本人とあらかじめ決めた権限の中で、本人のためにすると示した意思表示は、本人に対して直接その効力が発生する。
たとえば、ナショナルネットのあつかいに不慣れな祖母から頼まれ、未成年の孫が代わりにネットで買い物をした場合、民法では祖母が買い物をしたものとみなす。
部品: 顕名
代理が成立するためには、「代理人が意思表示を必要とする法律行為」「顕名」「代理権」のみっつが必要がある。
顕名とは、その法律行為を誰の代わりにおこなっているかを明らかにすることである。
部品: 委任状
代理権とは、代理をすることのできる、法律上の地位や資格のことである。
本人が死亡した場合、代理権は消滅する。
また、代理人が死亡した場合も、代理権は消滅する。
代理には、どのように代理権が発生したかによって、任意代理と法定代理に分かれる。
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任意代理とは、本人の意思によって代理権を与えることで発生する代理である。
任意代理の際は、委任状が作成されることが多い。
委任状(power of attorney)とは、代理権を与えたことを証明する書面のことである。
委任状には、「委任状を作成した年月日」「誰が誰に代理を頼んだのか、委任したものと受任した者の氏名」「委任されておこなう法律行為やその権限」などが、記載される。
委任状の内容の一部を記載せず空欄のままにしておき、空欄の内容の決定・補充を相手方やその他の者に任せた委任状は、白紙委任状と呼ばれる。
任意代理の場合、委任の終了によっても代理権は消滅する。
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法定代理(legal representation)とは、本人の意思とは関係なく、法令の規定により、代理権が発生する代理である。
法定代理における代理人は、法定代理人(legal representative)と呼ぶ。
たとえば、未成年の法定代理人は、その未成年者の親権者や未成年後見人などである。
部品: 追認
代理権がないにもかかわらず、代理として法律行為をおこなうことを、無権代理(unauthorized agency)と呼ぶ。
また、与えられた代理権の範囲を超える法律行為をおこなうことも、無権代理と呼ぶ。
代理権をもたない代理人は、無権代理人(unauthorized agent)と呼ばれる。
たとえば息子が賭博でできた借金を返すため、母の所有物を無断で売却した場合、この売却が無権代理、息子が無権代理人である。
原則として、無権代理としておこなわれた法律行為の効果は、本人に帰属せず、無効となる。
ただし本人が追認した場合、無権代理としておこなわれた法律行為の効果は、法律行為の時点にさかのぼって本人に帰属し、有効となる。
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民法において、追認(ratification)とは、瑕疵のある不完全な法律行為を、あとから確定的に有効なものとする意思表示である。
追認は、事後同意とも呼ばれる。
無権代理の場合、無権代理人が無権代理でおこなった法律行為を、本人が承認することが追認である。
追認する権利を、追認権と呼ぶ。
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無権代理を追認したことによって、さかのぼって発生した法律行為の効力は、第三者の権利を侵害することはできない。
これは、無権代理行為から追認までの間に、取引関係に入った第三者を保護する目的である。
たとえば、息子が母の所有物を無断でX氏に売る約束をし、それを知らない母が同じ物を別の者Y氏へ売る約束をした場合を考える。
この場合、母の追認によって、X氏の所有権が認められると、Y氏の所有権が侵害されてしまう。
そのため、追認によって第三者であるY氏の権利を侵害することはできない。
部品: 催告
無権代理の際、本人が追認しないままだと、その法律行為の相手方は、不安定な状態が続いてしまう。
そのため、無権代理の相手方は、本人に催告することができる。
無権代理において催告(notice)とは、妥当な回答期限を示したうえで、追認するか否かについて、はっきり回答するよう催促することである。
催告する権利を、催告権(right of notice)と呼ぶ。
無権代理の相手方は、その法律行為が無権代理であることを知っていたか否かにかかわらず、催告権を有する。
/*/
催告に対し、本人は追認拒絶権を有する。
追認拒絶権とは、相手方から追認を求められても拒否できる権利である。
催告に対し、回答期限までに本人がはっきりとした回答をしなかった場合、追認を拒否したものとみなす。
部品: 表見代理とは
表見代理とは、ある者から代理人を依頼されたと称する者が、第三者と法律行為をおこなった場合の民法の規定である。
「代理人を称する者」に代理権がない場合でも、第三者が「代理人を称する者」を代理人だと信じる正当な理由がある場合、その法律行為の責任を本人が負うことになる。
表見代理には、「権限外の行為の表見代理」「代理権授与の表示による表見代理」「代理権消滅後の表見代理」に分類される。
部品: 権限を越える場合
「権限外の行為の表見代理」とは、代理人がその権限外の行為をした場合、第三者が代理人に代理権があると信じる正当な理由があるとき、本人がその責任を負うというものである。
たとえば、X氏がY氏に不動産を3万にゃんにゃん以上の価格で売却するように依頼したが、第三者Z氏へ2万にゃんにゃんで売却した場合を考える。
この場合、代理人Y氏がX氏の実印・印鑑証明書・登記済証などを所持していたなら、第三者Z氏は代理人Y氏がX氏から権限を与えられたと誤解してもおかしくない。
そのため、正当な理由があると認められれば、X氏はY氏の行為に対して責任を負うことになる。
ただしその法律行為が、代理人の利益にしかならない場合や、本人に著しく不利な条件である場合など、代理人が権限を有することを疑わせるような事情があるときは、相手方に調査義務が発生する。
この場合の調査義務とは、その法律行為が本人の意思にようるものなのか、あるいは代理人に代理権があるのかを、調査することである。
調査の方法としては、本人に直接確認するなどが考えられる。
相手方に調査義務が発生したにもかかわらず、確認を怠った場合、正当な理由があると認められない。
そのため、本人がその法律行為の責任を負う必要はない。
部品: 授与表示
「代理権授与の表示による表見代理」とは、第三者に対し、他者に代理権を与えた旨を表示した場合、実際に代理権を与えていなくても本人がその責任を負うというものである。
たとえば、所有物の持ち主X氏から売却の代理人を頼まれたと称するY氏が、第三者Z氏にX氏の所有物を売却する場合について考える。
このとき、代理人の欄が記載されていない白紙委任状をX氏が作成し、Y氏が入手していたなら、Z氏はY氏をX氏の代理人と誤解してもおかしくはない。
そのため、Y氏の法律行為は表見代理とみなされ、X氏はY氏の行為に対して責任を負う。
なお、実際には代理権を与えていないにもかかわらず、代理人が委任状を持っているような場合、その委任状の権限外の行為については「権限外の行為の表見代理」の規定に準拠する。
部品: 権限消滅後
「代理権消滅後の表見代理」とは、他者に代理権を与えた者は、代理権の消滅した後、代理権の範囲内で、第三者との間でした法律行為について本人が責任を負うというものである。
ただし、代理権が消滅した事実を、第三者が知らず、かつその事実を知らないことについて過失がない場合に限定される。
代理権が消滅した事実を第三者が知っていた場合や、過失によって知らなかった場合は、本人が責任を負う必要はない。
なお、代理権があった時点においても権限外の行為を、代理権が消滅後におこなった場合、「権限外の行為の表見代理」の規定に準拠する。
部品: 停止条件・解除条件
当事者同士の合意によって法律行為を成立させる際、その法律行為に条件や期限を付けることができる。
/*/
条件(condition)とは、将来発生するか否かが不確定な事実の成否に関する定めである。
たとえば特定の知類の死のような、時期は不明だが将来必ず発生する事実は、条件として認められず、期限となる。
/*/
条件には、停止条件や解除条件がある。
/*/
停止条件とは、ある事実が発生したときに法律行為の効力が発生する条件である。
たとえば、「試験が満点だったら自転車を買ってあげる」という約束は停止条件に該当する。
/*/
解除条件とは、ある事実が発生したときに法律行為の効力がなくなる条件である。
たとえば、「進級できなければ仕送りを止める」という約束は解除条件に該当する。
部品: 不法条件・不能条件・随意条件
不法な条件を付けた場合、その法律行為は無効となる。
たとえば、「藩王を暗殺すれば10万にゃんにゃん払う」といった不法行為を条件とした場合、その法律行為は無効となる。
また、不法な行為をしないことを条件とした場合も、その法律行為は無効となる。
たとえば、「藩王を暗殺しなければ10万にゃんにゃん払ってもらう」といった不法行為をしないことを条件にした場合、その法律行為は無効となる。
なぜなら、公序良俗に反するからである。
/*/
明らかに不可能なことを停止条件とした場合、その法律行為は無効となる。
また、明らかに不可能なことを解除条件にした場合、その法律行為は最初から条件がなかったものとしてあつかわれる。
/*/
停止条件が単に債務者の意思のみにかかる場合、その法律行為は無効となる。
たとえば、「気が向いたら、お金をあげる」という条件の場合、その法律行為は無効となる。
部品: 期限
期限(time limit、assigned time)とは、将来発生することが確定している事実に関する定めである。
/*/
法律行為に期限を付けるとき、時期の到来によって、その法律行為の効力が発生する場合を始期(time of commencement)と呼ぶ。
たとえば、「1月1日までに代金を支払う」という期限は始期である。
/*/
法律行為に期限を付けるとき、時期の到来によって、その法律行為の効力が消滅する場合を終期(time of expiration)と呼ぶ。
たとえば、「1月1日をもって契約を終了する」という期限は終期である。
また、「1月1日までに代金を支払うため、品物を取り置いてもらう」という場合、期限までに支払えなければ、その品物を他の者に売られても契約に反しない。
このような期限も終期である。
/*/
期限は、確定期限と不確定期限に分類される。
確定期限とは、到来する時期の確定している期限のことである。
たとえば、「1月1日までに代金を支払う」という内容の場合、1月1日という期日は確定しているため、確定期限に該当する。
不確定期限とは、到来する時期が確定していない期限のことである。
たとえば「私が死んだら家をあげる」という内容の場合、いつか死ぬことは確実だが、死ぬ時期は確定していないため、不確定期限に該当する。
部品: 取得時効・消滅時効
時効(prescription)とは、一定の期間、ある状態が続くことによって、権利を取得・喪失する制度である。
私法上の時効は、取得時効と消滅時効に分類される。
/*/
取得時効(acquisitive prescription)とは、時効が完成すれば権利を取得するものである。
たとえば他者が所有名義の土地を、所有の意思を持って20年間占有し続けた場合や、事故の土地と信じ10年占有し続けた場合、その土地は占有した者のものになる。
/*/
消滅時効(extinctive prescription)とは、時効が完成すれば権利を取得するものである。
消滅時効は、主観的起算点から5年、または客観的起算点から10年のいずれか早いほうの経過によって完成する。
主観的起算点とは、権利を行使できることを知った時点のことである。
また、客観的起算点とは、権利を行使できる時点である。
金銭の貸借では、契約時に返済日を定めることで、いつから権利を行使できるか認識できるため、基本的に5年の消滅時効となる。
/*/
本来、権利を持つ者は法令で保護される。
しかし、長期間、権利の行使を怠っている者を、他者の犠牲のもとに保護する必要はない。
そのような考えから民法の時効は規定されている。
部品: 完成猶予・更新
時効の完成には、一定の期間が必要である。
しかし、完成猶予事由がある場合、時効の完成を猶予する。
この制度を、時効の完成猶予と呼ぶ。
完成猶予事由とは「訴訟によって相手方に請求した場合」や「訴訟によらず相手方に支払いを求めた場合」「権利についての協議を行う旨の合意が書面でされた場合」「時効の期間が満了する時に天災やその他避けることのできない事変があった場合」など、民法で定めた事由である。
民法では、完成猶予事由ごとに猶予期間の長さを規定している。
/*/
更新事由が発生した場合、それまで経過していた時効期間を無視し、更新事由が完了した時点から新たな時効期間をやり直す。
この制度を、時効の更新と呼ぶ。
更新事由とは、たとえば「強制執行」「担保権の実行」「権利の承認」などがあった場合である。
権利の承認とは、具体的には「債務者が支払いの猶予を申し出る」「債務者が借金の一部を支払う」といった行為が該当する。
その事由が完成猶予事由であり、かつ更新事由である場合、時効の完成猶予が終わってから、時効を更新する。
ただし時効の完成猶予が終わる前に、更新事由が取り下げられたり、取り消されたりした場合は、時効は更新されない。
部品: 援用・放棄
時効によって権利を取得・喪失するためには、時効期間が経過しただけでは足りない。
時効の完成によって利益を受ける者が、その利益を受けることを意思表示する必要がある。
これを、時効の援用(invocation of prescription)と呼ぶ。
時効の援用は、利益を受ける者の意思を尊重するため、このような制度となっている。
そのため、時効が完成しても援用しないという反対の意思表示もできる。
これを、時効の利益の放棄(waiver of benefits of prescriptio)と呼ぶ。
ただし、時効の利益の放棄は、時効完成後に限定して認められる。
そのため、時効が完成する前に、時効の利益を放棄することはできない。
これは、債権者が債務者へ、強制的に時効の利益の放棄を約束させないためである。
部品: 一物一権主義
物権(real right)とは、特定の物を直接的・排他的に支配する権利である。
ここでいう直接的とは、物の支配について他者の行為を必要としないということである。
また、排他的とは、ひとつの物に同じ内容の権利は成立しないということである。
この排他性から、一物一権主義の原則が導かれる。
一物一権主義とは、ひとつの物に同じ内容の物権は重ねて成立しないという原則である。
物の支配とは、物を使用・収益・処分することである。
物権は、財産権のひとつである。
財産権とは、財産的利益を目的とする権利である。
財産権は、私権のひとつである。
部品: 物権法定主義
物権法定主義とは、「物権の種類や内容は、民法をはじめとする法令で規定されたものに限って認められる」という原則である。
この原則により、契約などで当事者が自由に新たな物権を創設することはできない。
物権法定主義は、物権法が強行法規であることを意味する。
物権法定主義の目的は、権利同士の衝突を避け、第三者が不測の損害を防ぐためである。
部品: 物権混同
民法において、混同とは、相対立するふたつの法律上の地位が同じ者に帰属することである。
物権の混同は、物権が消滅する原因となる。
たとえば、父が所有する土地について、地上権者が子である場合を考える。
地上権とは、建物・橋・鉄塔など工作物を作ったり、木を植えて植木を栽培したりするため、その土地の所有者と契約を結ぶなどして、他者の土地を使用する権利のことである。
父が死亡し、子が唯一の相続人となった場合、子が土地の所有権を取得することになる。
地上権で認められる権利は、所有権でも認められる。
そのため、子が所有権をもつ土地に、地上権をもち続けることは無意味である。
なぜなら、所有権さえあれば、地上権の有無は認められる権利に差はないからである。
そのため、この場合、地上権は消滅する。
部品: 占有・準占有
私法において、占有(possession)とは、自己のためにする意思をもって、物を事実として所持していることである。
占有の目的となる物を占有物(thing possessed)と呼ぶ。
また、占有という事実から発生する権利を占有権(possessory right)と呼ぶ。
たとえば、X氏が現実にある住宅を居住しているが、Y氏がその住宅の所有者であると主張した場合を考える。
この場合、Y氏が訴訟した時点で家を追い出されてしまうと、実はX氏がその住宅を所有していたなら、X氏の権利が侵害されてしまう。
そのため、Y氏が所有権を法的に証明するまでの間、社会の秩序を維持する目的で、土地を現実に支配しているX氏をいったん正当なものを保護する。
/*/
占有権の取得方法は、自己占有と代理占有がある。
自己占有とは、占有者が自分で物を直接支配するものである。
代理占有(possession through agent)とは、本人が占有代理人の占有を介して物を間接的に支配するものである。
たとえば、賃貸住宅の貸主が借主の占有を介して賃貸住宅を間接的に支配するものは代理占有である。
/*/
占有権の効力の中心は、占有権そのものを保護する占有訴権である。
占有訴権とは、占有を妨害されるか、妨害のおそれがある場合、占有者が妨害者へ妨害の排除を請求できる権利である。
占有訴権による訴えには、「占有回収の訴え」「占有保持の訴え」「占有保全の訴え」がある。
占有回収の訴え(action for recovery of possession)とは、占有者が占有物の占有を奪われた際、その物の返還や損賠の賠償を請求できるものである。
占有保持の訴え(action for maintenance of possession)とは、占有者が占有物の占有を妨害された際、その妨害の停止や損害の賠償を請求できるものである。
占有保全の訴え(action for preservation of possession)とは、占有者が専有物の占有を妨害されるおそれがある際、その妨害の予防や損害賠償の担保を請求できるものである。
/*/
準占有(quasi-possession)とは、自己のためにする意思をもって財産権の行使をすることである。
準占用には、占有に関する民法の規定が準用される。
部品: 担保とは
担保(security)とは、債権者が債務者からの返済を確保する手段として、あらかじめ債務者から差し出してもらうもののことである。
担保には、人的担保と物的担保がある。
人的担保は、債権法に明記されている。
物的担保は、担保物権とも呼ばれる。
担保物権とは、債務の履行を確保するため、民法で認められた物権である。
/*/
担保物権には、法定担保物権と約定担保物権に分類される。
法定担保物権とは、法令の規定によって発生する担保物権のことである。
また、約定担保物権とは、当事者間の契約によって発生する担保物権のことである。
/*/
担保物権には、付従性・随伴性・不可分性などの性質がある。
付従性とは、債権が消滅すれば、担保物権も消滅する性質のことである。
随伴性とは、債権が譲渡・相続・合併などによって別の債権者に移った際、担保物権もその債権者に移る性質のことである。
不可分性(atomicity)とは、債権者が債務の弁済をすべて受けるまで、目的物の全部に対して担保物権の効力がおよぶ性質のことである。
たとえば、10000にゃんにゃんの借金に対して抵当権を設定した場合、9000にゃんにゃんを返したとしても、抵当権は依然として残る。
部品: 留置権
留置権(rights of retention)とは、他者の物を占有している者が、その物が関して生じた債権をもっている場合、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置できる権利のことである。
たとえば、自動車の所有者が工場に修理を依頼し、自動車を取りに行ったが、修理代金の全額を払えなかった場合、工場側は自動車の引き渡しを拒むことができる。
留置権は、法定担保物権のひとつである。
/*/
留置権をもつ者は、債務者の承諾を得て留置物を第三者に賃貸し、その弁済に充当できる。
ただし、債務者の承諾を得ず、留置物を第三者に貸した場合、債務者は留置権をもつ者に留置権の消滅を請求できる。
/*/
留置権をもつ者は、留置物を留置するため必要な費用を支出した場合、所有者にこの費用の支払いを請求できる。
たとえば、留置権をもつ者が留置物を留置するために保管場所を借りた場合、その保管場所の賃貸料を所有者に請求できる。
/*/
留置権は、債権全額の支払いを受けた場合、消滅する。
また、債務者は相当の担保を提供して、留置権の消滅を請求できる。
たとえば、債務者が留置物の代わりに代金以上の価値がある物的担保を預け、債権者が承諾した場合、留置権が消滅し、代金を支払わなくても留置物を返してもらうことができる。
部品: 先取特権
多重債務者が借金を返せなくなり、債務者の財産が債務総額より少ない場合、債権者たちはその財産からそれぞれの応じて比例配分した額が配当される。
これを債権者平等の原則と呼ぶ。
先取特権(statutory lien)とは、法令によって定められた特別な債権をもつ者が、優先弁済を受けられる権利のことである。
優先弁済とは、他の債権者より優先して債務者から弁済を受けられることである。
先取特権は、法定担保物権のひとつである。
先取特権は、債権額の大小に影響されない。
たとえば、ある会社が倒産し、金融業者から借金があり、従業員の給料が未払いの場合を考える。
この場合、給料債権には先取特権が認められるため、金融業者からの借金がどれだけ多額であっても、従業員は会社に残されている財産から優先的に弁済を受けられる。
部品: 質権
質権(pledge)とは、債権の担保として債務者の物を留置・占有し、もし弁済がない場合、その物を売却し、その売却代金から他の債権者より優先して弁済を受けられる担保物権である。
質権は、約定担保物権のひとつである。
質権をもつ者は、質権者と呼ばれる。
質権者に渡された物は、質物と呼ばれる。
質権を生じさせる契約は、質権設定契約と呼ばれる。
質権を設定するために、質物を質権者に提供する者は、質権設定者と呼ばれる。
/*/
質権は、弁済があるまで、担保目的物を留置・占有する点が留置権と同じである。
質権が留置権と異なる点は、債務の弁済がなければ、質権の目的物を売った代金から優先的に弁済を受けられる点である。
つまり、債務者に対し、「債務を弁済しなければ、担保にとった目的物を売却する」旨を伝えることで、債務者に債務の履行を間接的に強制できる。
質権は、庶民が家財・衣服・日用品などの動産を担保に、比較的少額の金を借りる際に用いられることが多い。
部品: 抵当権
抵当権(mortgage)とは、債務者が占有を移転せず、債務の担保として提供した不動産について、優先弁済を受けられる権利のことである。
抵当権は、約定担保物権のひとつである。
抵当権は、債権者である抵当権者と、担保となる不動産の所有者である抵当権設定者との契約によって設定される。
抵当権を生じさせる契約は、抵当権設定契約と呼ばれる。
/*/
担保権者の関心は、不動産の引き渡しではなく、債務の弁済である。
弁済がないときに不動産を売却・監禁できればよい。
一方、債務者は自分の土地や建物を使ったり、そこから収益を上げることを続けたりできる利点がある。
このような経済的合理性があるため、抵当権は担保物件の中でも、住宅ローンなどに幅広く利用されている。
インポート用定義データ
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"title": "私法",
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"title": "私法(private law)",
"description": "私法(private law)とは、私人と私人の間の権利義務関係などを規律する法令のことである。\n私法は、民事法とも呼ばれる。\n私人とは、公的な地位や立場を離れた一個人のことである。\n/*/\n近代的な私法には、基本となる三つの原理・原則があるとされており、近代私法の三大原則と呼ばれている。\n近代的な藩国では、近代私法の三大原則に該当する内容が、憲法や民法などに条文として明記されている。\n私法を解釈する際は、近代私法の三大原則を前提として解釈する。",
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"description": "権利能力平等の原則とは、「すべての知類は、国籍・種族・階級・職業・年齢・性別などに関係なく、平等に権利能力を有する」という原則である。\n言い換えると、すべての知類は等しく権利能力を有し、ひとりひとりの知類を尊重するという原則である。\n近代的な私法が導入されるより前に、賤民や奴隷などの権利能力がないか制限された者がいた場合、そのような者にも平等に権利能力が与えられる。\n権利能力平等の原則は、近代私法の三大原則のひとつである。\n/*/\n権利能力(capacity to hold rights)とは、権利や義務の主体となることができる、私法上の資格や法的地位のことである。\n権利能力の同義語に、法人格がある。\n法知類格とは、法律上の知類格のこと、法律上の行為をなす主体のことである。\n自然知類と法知類は、法知類格が認められている。\n知類権が人権と呼ばれていたころの名残から、法知類格は法人格(juridical personality)、法知類は法人(juridical person)とも呼ばれる。\n/*/\n自然知類とは、人・犬・猫・サイボーグ・カマキリ・AIなど、権利・義務の主体である、生きている自然の知類のことである。\n知類権が人権と呼ばれていたころの名残から、自然知類は自然人(natural person)とも呼ばれている。\nすべての自然知類は、生まれたときから権利能力を持ち、死ぬまで権利能力を持ち続ける。\nなお、胎児は法律上の行為をなす主体ではないが、損害賠償請求や相続などでは、例外として権利能力が認められる。",
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"description": "私的自治の原則(principle of private autonomy)とは、「知類は自らの法律関係を自らの意思で形成できる」という原則である。\n法律関係とは、法律によって規律される関係のことである。\n私的自治の原則は、近代私法の三大原則のひとつである。\n/*/\n私的自治の原則から導き出される原則のひとつに、法律行為自由の原則がある。\n法律行為とは、売買契約や賃貸借契約のように、一定の権利の変動を生じさせる行為のことである。\n法律行為は、意思表示の数や方向によって、単独行為・契約・合同行為のみっつに分類される。\n法律行為自由の原則とは、「法律行為は個人の自由な意思によってなされなければならない」という原則である。\n法律行為自由の原則には、契約自由の原則が含まれている。\n/*/\n契約自由の原則とは、「当事者が自らの意思で自由に契約を結べる」という原則である。\nここでいう自由とは、契約締結の自由・相手方選択の自由・契約内容の自由・契約方法の自由に分類できる。\n契約締結の自由とは、「契約を締結するか否か」を自由に決められることである。\n相手方選択の自由とは、「誰と契約を締結するか」を自由に決められることである。\n契約内容の自由とは、「どのような内容の契約を締結するか」を自由に決められることである。\n契約方法の自由とは、「どのような方法で契約を締結するか」を自由に決められることである。\nただし、契約自由には限界がある。\nたとえば、労働基準法・借地借家法・利息制限法などでは、社会的な弱者となる労働者・借地人・借家人・借主などを保護するため、契約について法令で制限を設けている。\nまた、ライフラインのような公共的・独占的な事業者は、契約締結が強制されている。\nライフライン(lifeline)とは、生活や生命の維持に必要不可欠な、電気・ガス・上下水道・通信・交通などの総称である。\n種族に対する差別や個人的な感情で、生活に必要な電話や鉄道などの利用が制限されることがないよう、契約締結が強制されている。\n/*/\n私的自治の原則から導き出される原則のひとつに、過失責任の原則がある。\n過失責任の原則とは、「知類が自らの行為で他者に損害を与えた際、その知類に故意や過失がない場合、その損害について法的責任を負わない」という原則である。\n自由意思に基づかない行為に対し、責任を負わせることは、私的自治の原則に反する。\nそのため、故意や過失がない場合、法的責任を負わせない過失責任の原則が導き出される。",
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"title": "民法",
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"title": "民法(civil code)",
"description": "形式的な意味において民法とは、民法典を指す。\n実質的な意味において民法とは、私法の一般法のことである。\n民法典とは、民法に関する基本的規定を定めている法典のことである。\n/*/\n憲法・刑法・民法のような大きな法令には、その法典にその法令の条文編成を示すための目次が付記されていことが一般的である。\n民法典では、民法全体を総則・物権法・債券法・親族法・相続法の五つの編(part)に分け、その編をいくつかの章(chapter)に分けて記述している。\nさらに、各章をいくつかの節(section)に分け、各節は必要に応じていくつかの款(subsection)に分けて記述されている。\n款によっては、款をいくつかの目(division)に分けて記述している個所もある。\n物権法・債券法は、まとめて財産法と呼ばれることもある。\nまた、親族法・相続法は、まとめて家族法と呼ばれることもある。\n民法の総則とは、知類・物・法律行為・代理・時効など、民法全体を通じて適用する規則である。\n財産法とは、財産上の関係に適用される規則である。\n物権法とは、土地や建物の所有など、物に対する権利などの規則である。\n債券法とは、貸したお金の返済を求めるなど、知類に対する請求などの規則である。\n親族法とは、婚姻・親子・親族・扶養など、身分上の権利や義務などの規則である。\n相続法とは、知類が亡くなった後の相続などの規則である。\n民法の中には、民放全体の総則とは別に、物権法・債権法・親族法・相続法など、各編や各章の冒頭に総則が規定されている。\nこのように編・章・節・款などの冒頭で、個別の規定に先立ち、一般的・抽象的な規定を総則としてまとめて記載する条文編成方式をパンデクテン方式と呼ぶ。\nたとえば、物権法の総則には、物権法全体を通じて適用する規則が規定されている。\n同様に、債権法の総則には、債権法全体を通じて適用する規則が規定されている。\n一般に条文数の多い法令は、パンデクテン方式を採用することが多い。\nパンデクテン方式は、一般性のある条文を総則にまとめられるため、条文の数を減らす利点がある。\nただし、パンデクテン方式は、ひとつの問題を解決するために参照する条文が、法典の様々な箇所に分散するという欠点がある。\nたとえば、売買に関する紛争に適用される条文は、民法の売買の項目の下にまとまっていない。\n売買は契約であるため、契約総則の条文を確認する必要があり、契約は債権の発生原因であるため、債権法総則の条文も確認する必要がある。\n/*/\n民法は取り扱う範囲が広い。\n当然の規則は条文として記載しない方針で作成された場合でも、民法典の条文は1000条前後となる。\nこの条文の多さとパンデクテン方式により、法令の初学者は、民法を苦手とすることが多い。\n/*/\n民法は取り扱う範囲が広いため、問題を直接解決できる条文が発見できない場合がある。\nそのような場合、その問題とよく似た状況を解決する条文を根拠に、妥当な規則を導くことがある。\nこのように、民法では類推解釈が多用されている。",
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},
{
"title": "信義則",
"description": "信義則とは、信義誠実の原則(principle of good faith and fair dealing)の略で、「権利の行使や義務の履行は、信義に従い、誠実におこなわなければならない」という原則である。\n民法の基本原則として、権利を主張する際や義務を果たす際は、お互いの信頼を裏切ってはならない。",
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"localID": 11
}
],
"localID": 9,
"expanded": true
},
{
"title": "民法の知類",
"description": "流用可能",
"part_type": "group",
"children": [
{
"title": "意思能力",
"description": "意思能力(mental capacity)とは、自分の行為の意味・性質・結果を認識・判断できる精神能力のことである。\n法律行為の当事者が意思表示をした際、意思能力がなかった場合、その法律行為は無効となる。\n無効とは、法令上の効力をもたず、最初からなかったものとしてあつかわれるということである。\nたとえば、重度の認知症で契約内容を理解できない者が、契約書に署名にしても、契約は無効である。\nなぜなら、契約によってどのような義務を負うか理解できなければ、自由意思で契約を締結したことにならないためである。",
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"localID": 13
},
{
"title": "行為能力",
"description": "流用可能",
"part_type": "group",
"children": [
{
"title": "行為能力とは",
"description": "行為能力(capacity to act)とは、私法上、単独で確定的に有効な法律行為をおこなえる能力のことである。\n民法では、判断能力に問題があるため、確定的に有効な意思表示ができない者を、制限行為能力者(person with limited capacity)と定めている。\n制限行為能力者は、未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人などが該当する。\n/*/\n民法の未成年は、刑法における刑事未成年とは異なる。\n藩国や知類によって異なるが、人知類の場合、民法における成年は18歳以上や20歳以上、未成年者は18歳未満や20歳未満と定められている。\n未成年者が法律行為をする場合、原則として、その未成年者の法定代理人の同意を得なければならない。\n未成年者の法定代理人とは、その未成年者の親権者や未成年後見人などのことである。\n民法では、未成年者を「社会の取引において単独で契約を締結する能力を持たない者」と一律に判断して、親権者や未成年後見人の保護下に置いている。\nただし、代償なく、権利を得る場合や義務をまぬがれる場合は法定代理人の同意は必要ない。\nたとえば、未成年者が無料でお菓子やジュースをもらう場合、保護者の同意は必要ない。\n携帯電話の購入を契約する場合は、無料ではないため、法定代理人の同意が必要となる。\n法定代理人の同意がなく、おこなわれた契約は無効となる。\nなぜなら、未成年者は取引の知識や経験が足りないため、契約によって不利益をこうむるおそれがあるからである。\nただし、法定代理人が処分を許した財産は、未成年者が自由に処分することができる。\nわかりやすく表現すると、お小遣いとして渡されたお金は、未成年者が自由に使えるということである。\nただし、法定代理人がお小遣いの使い道を定めた場合、その定められた目的の範囲内でしか自由に使うことができない。\nたとえば、運動靴を買うために渡されたお小遣いで、テレビゲームを買ってはいけない。\n営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。\nたとえば未成年者が、保護者の許可を得て、新聞配達のアルバイトをしている場合、その新聞配達については成年者と同じ行為能力を持つ。\nただし、未成年者がその営業に堪えられない理由がある場合、法定代理人は営業の許可を取り消したり、制限したりできる。\nたとえば、アルバイトで学業成績がおろそかになっている未成年者に対し、保護者がアルバイトを禁止したり、アルバイトする時間を制限したりできる。\n/*/\n成年被後見人・被保佐人・被補助人などは、法令上で細かい差異はあるが、おおまかにまとめると、精神上の障害によって物事を判断する能力に問題がある者のことである。",
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"localID": 15
},
{
"title": "詐術",
"description": "制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いた場合、その行為を取り消すことができない。\nたとえば、ネットゲームの課金やネットショッピングなどで年齢確認の際、未成年者が成年であると偽った場合、販売する事業者に不注意や怠慢があったわけではない。\nそのため、過失のない事業者を保護する目的から、詐術による課金や購入を取り消すことができない。",
"part_type": "part",
"localID": 16
}
],
"localID": 14,
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},
{
"title": "住所・居所",
"description": "民法では、各自然知類の生活の本拠を住居(domicile)と規定している。\n多くの場合、自宅が住所であるが、単身赴任先や下宿先が住所となっている場合もある。\n/*/\n生活の本拠と異なり、しばらくの間だけ移住している場所を、民法では居所(residence)と規定している。\n長期滞在している旅館や、居候している知り合いの家などが、民法における居所に該当する。\n住所が知れない場合、他の条文や法令などに規定がない限り、民法では居所を住所とみなす。\n/*/\n民法における住所は、財産を管理する場所、債務を履行する場所、相続を開始する場所など、民法において重要な意味がある。\n/*/\nある行為の当事者が、その行為について仮住所を選定した場合、その行為に関しては、その仮住所を住所とみなす。\n仮住所(temporary domicile)とは、実際の住所や居所とは関係なく、一定の行為において、一定の場所をその行為での住所の代用とする場所のことである。\n生活の中心となっている実際の住所がある行為をおこなう際、不都合となる場合、より都合の良い場所に仮住所を選定し、その行為をおこないやすくできる。\nたとえば、田舎に住んでいる個人事業者が都会で事業をおこなう際、その事業について都会の仮住所を選定した場合、その事業に関しては、都会の仮住所が住所とみなされる。",
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"localID": 17,
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},
{
"title": "不在者",
"description": "民法において、不在者(absentee)とは住所や居所を留守にして、すぐに戻る見込みのない者のことである。\n知類が長期間にわたって住所や居所を留守にしている間、たとえ家族でも不在者の財産を管理・処分できない。\nしかし、不在者の財産が現状のままで放置されると、その財産に関係する知類が迷惑することもある。\nそのような場合、民法では不在者に代わって財産を管理・処分したい場合、その財産の利害関係者から大法院へ許可を求めるよう規定されている。\n申し立てを受けた大法院は、財産管理人を選定する。\n/*/\n財産管理人(administrator of his/her property)とは、当事者に代わって財産の管理・処分する者のことである。\n財産管理人は、管財人とも呼ばれる。\n財産管理人を選定する際、弁護士など法令に詳しい者から選ばれることが多い。\n選ばれた財産管理人は、管理すべき財産の目録を作成しなければならない。\n目録を作成する際の費用は、不在者の財産から支払うと、民法で規定されている。",
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"localID": 18,
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},
{
"title": "失踪宣告",
"description": "民法において失踪宣告(adjudication of disappearance)とは、知類が住所や居所から去り、長期間にわたって行方不明となっている場合、その生死不明の状態を法律上決着をつける手段である。\n民法における不在者の概念は、不在者が生きていることを前提に、法律関係を処理する仕組みである。\nそれに対し、失踪宣告は行方不明者を死亡したものとして処理する。\n一定期間、不在者の生死が明らかでない場合、利害関係者から大法院へ失踪宣告を求めることで、大法院は失踪を宣告できる。\nこの場合の一定期間とは、藩国によって異なるが、たとえば、通常の場合7年以上、死亡の原因となる危難に遭遇した者の場合1年以上である。\n死亡の原因となる危難とは、たとえば戦争・船舶の沈没・大規模な災害などである。\n/*/\n失踪宣告は、死亡が確定しているわけではないため、失踪者の権利能力を奪うものではない。\n失踪者の生存が判明するか、失踪者が死亡したと思われる時期が実際と異なっていた際、利害関係者から失踪宣告取り消しの求めがあった場合、大法院は失踪宣告は取り消さなければならない。\n/*/\n失踪宣告は、相続において重要である。",
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"localID": 19,
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},
{
"title": "同時死亡の推定",
"description": "民法において、同時死亡の推定(presumption of simultaneous death)とは、複数名が死亡した際、そのうちのひとりが他の者の死亡後に生存していたことが明らかでない場合、同時に死亡したものと推定することである。\nたとえば、交通事故で親子が死亡し、どちらが先に死んだかわからない場合、両者は同時に死亡したと推定される。\nそのため、この親子の間で相続はないものとされる。",
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"localID": 20
}
],
"localID": 12,
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},
{
"title": "法人",
"description": "法人(juridical person)とは、自然知類以外で権利能力を持つもののことである。\n民法上、権利義務の主体は法人格を持つものであり、法人格を持つものだけが契約の当事者などになることができる。\n民法では、自然知類だけでなく、会社や労働組合などの団体についても法人格を認めている。\nそのため、会社名義で商品を売ったり、銀行からお金を借りたりできる。\n法人は、民法やその他の法令の規定によらなければ、成立しない。\n法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。\n/*/\n法人が自然知類と同じように、権利能力の主体となることを「法人格を取得する」と呼ぶ。\n自然知類が出生によって権利能力を取得するように、法人は設立によって権利能力を取得する。\nおおまかにいえば、法令の規定に従い、定款を作成、役員を選任、設立の登記をすることで設立の手続きが完了する。\n定款とは、法人の組織と活動に関する基本的原則のことである。\n登記とは、私法上の権利に関する一定の事項を広く社会に公示するため、一定の手続きに従って、公開された公簿に記載することである。\n/*/\n法人が設立されれば、その運営と管理が必要になる。\n法人は自然知類や財産の集合体であるため、自然知類のように自ら行動し、契約を締結する手段を持たない。\nそのため、法人の意思を決定する機関と、法人を代表して対外的に表示する機関が必要となる。\n一般法人では、意思を決定する機関が社員総会、対外的に表示する機関が理事である。\nまた、株式会社では、意思を決定する機関が株主総会、対外的に表示する機関が取締役である。\n理事や取締役が代表者として対外的な活動をおこなう権限を代表権と呼ぶ。\n/*/\n自然知類が死亡によって権利能力を失うように、法人も権利能力を失うことがある。\n法人が権利能力を失う典型的な例が解散し、清算が終了した場合である。\n法人が解散した場合、法人が所有していた財産の帰属主体を失ってしまうことになる。\n清算は、そのような財産を株主などに分配するなどして整理するためにおこなわれる。\n法人は、解散によってその活動を終えることになるが、清算が終わるまで清算の目的の範囲内で権利能力を持ち続ける。\n清算が終わることによって、法人は権利能力を失う。",
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"localID": 21,
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},
{
"title": "物",
"description": "流用可能",
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"children": [
{
"title": "有体物",
"description": "民法では、自然知類や法人が権利の主体であり、物が権利の客体である。\n民法において、物(thing)とは有体物のことである。\n有体物(tangible thing)とは、空間の一部を有形的存在のことである。\nつまり、すべての固体・液体・気体は有体物である。\n音・電気・電波・熱・光・発明など、形のないものは無体物(intangible)と呼ばれる。\n民法において、無体物は物ではない。",
"part_type": "part",
"localID": 23,
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},
{
"title": "不動産・動産",
"description": "物の分類のひとつに、不動産と動産がある。\n不動産と動産の分類は、民法において重要である。\nなぜなら、民法を適用する際、不動産か動産かによって、扱いが違ってくるからである。\n一般に、不動産を占有していても、登記していなければ、所有権は認められない。\n動産は、占有していれば、所有権が認められる。\n/*/\n不動産(real estate)とは、土地や土地の定着物のことである。\n土地の定着物とは、土地の上に立つ家屋や工場などの建物、鉄塔・池・橋・立木・石垣などである。\n土地の定着物としての不動産は、通常は土地と一体として取引される。\nただし定着物でも、建物は、土地とは別個の不動産として取引される。\nまた、立木も立木法による登記や明認方法などの公示方法があれば、土地とは別個に取引できる。\n明認方法とは、たとえば立木の樹皮を削って所有者の名を記したり、数本の樹木の周りに縄を張り巡らせて樹木の所有者を示した立札を設置する方法である。\n明認方法は、法令で明文化された規定ではないが、慣習によって認められている。\n/*/\n動産(movable)とは、不動産以外の物のことである。\n商品や家財など、形を変えずに移転できる財産は動産である。\n自動車・船舶・航空機などは動産であるが、特別法によって登記が必要なため、不動産に準じた扱いとなっている。\nなお、紙幣や貨幣などのお金は動産であるが、預貯金は動産ではない。\n預貯金の通帳自体は動産だが、お金を払い戻す権利は債権となる。",
"part_type": "part",
"localID": 24,
"expanded": true
},
{
"title": "主物・従物",
"description": "民法における物の分類のひとつに、主物と従物がある。\n主物(principal)という名は、主たる物という意味である。\nその名の通り、主物とは主従の関係がある物で、従物が付属している物のことである。\n従物(appurtenance)とは、主物の経済的効用を助ける物である。\nたとえば、刀と鞘は、刀が主物、鞘が従物である。\nまた、金庫と鍵は、金庫が主物、鍵が従物である。\n主物を処分する際は、原則として従物も付属される。\nたとえば、主物である家屋を売る際は、その家屋に付属する建具や畳などもいっしょに売られることになる。",
"part_type": "part",
"localID": 25,
"expanded": true
},
{
"title": "元物・果実",
"description": "民法における物の分類のひとつに、元物と果実がある。\n元物(origin)とは、果実を生じさせる物のことである。\n民法において、果実(fruits)とは、元物から生じる経済的利益のことである。\n果実は、天然果実と法定果実に分けられる。\n/*/\n天然果実(natural fruits)とは、物の用法に従い収取する産出物のことである。\nたとえば、田畑と作物なら、田畑が元物、田畑から採れる作物が天然果実である。\nまた、乳牛と牛乳なら、乳牛が元物、牛乳が天然果実である。\n日常では果実という言葉は食べられる木の実や草の実を意味するが、民法における果実は食べ物に限定されない。\nたとえば、鉱山と鉱物なら、鉱山が元物、鉱山から採掘される鉱物が天然果実である。\n天然果実は、その元物から分離する際、その天然果実を収取する権利を有する者に帰属する。\n/*/\n法定果実(legal fruits)とは、物の使用の対価として受けるべき金銭などのことである。\nたとえば、土地や家屋などを貸して金銭を得る場合、不動産が元物、賃料が法定果実である。\nまた、お金を貸した場合、貸したお金が元物、利息が法定果実である。\n法定果実は、その果実を収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりその果実を取得する。",
"part_type": "part",
"localID": 26
}
],
"localID": 22,
"expanded": true
},
{
"title": "法律行為",
"description": "流用可能",
"part_type": "group",
"children": [
{
"title": "法律行為総則",
"description": "流用可能",
"part_type": "group",
"children": [
{
"title": "公序良俗",
"description": "公序良俗(public policy)とは、公の秩序や善良の風俗のことである。\n民法において、公序良俗に反する法律行為は無効であると規定されている。\n平易に表現すると、安心して暮らせる社会や平和を保つ観点からふさわしくない契約は、なかったことにするということである。",
"part_type": "part",
"localID": 29
},
{
"title": "任意規定",
"description": "法令の規定の中で、当事者が法令の規定と異なる意思を表示した場合、適用されない規定を、任意規定(default rules)と呼ぶ。\n契約当事者間に合意があれば合意が優先し、当事者間に合意がない場合に任意規定が適用される。\n平易に表現すると、契約したいと考えている当事者が、任意規定とは異なる条件や方法で契約したいと考えている場合、任意規定よりも当事者の考えを尊重する。\nまた任意規定と異なる慣習がある際、契約したいと考えている当事者が、その慣習に従いたいと考えている場合、その考えを尊重する。\n任意規定は、任意法規(default provisions)とも呼ばれる。\n/*/\n任意規定は、契約を補完するものと解釈される。\n契約をする際、常にあらゆる事態を想定しなければならない場合、簡単な契約でも膨大な量の契約書を作成しなければならなくなる。\nそのため、当事者間で取り決めていなかった事態が起こった場合、その取り扱いを定めた規定が任意規定である。\n/*/\n任意規定に対し、法令の規定の中で、当事者の意思に関係なく適用される規定を、強行規定(mandatory rules)と呼ぶ。\n強行規定は、公の秩序に関する規定であるため、当事者の合意によって変更することができない。\n民法典の民法総則に記載された条文の大部分は、強行規定である。\n強行規定は、強行法規(mandatory provisions)とも呼ばれる。",
"part_type": "part",
"localID": 30
}
],
"localID": 28,
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},
{
"title": "意思表示",
"description": "流用可能",
"part_type": "group",
"children": [
{
"title": "意思表示(manifestation of intention)",
"description": "意思表示(manifestation of intention)とは、権利や義務など一定の私法上の法律効果を生じさせる意思をもち、その意思を他者に知らせるため、外部に表示することである。\n意思表示が効力を生じるためには、その内容が実現できること、その内容が確定できること、法令や公序良俗に反しないことなどが必要である。\n原則として、契約が成立するためには、当事者間で意思表示の内容が合致しなければならない。",
"part_type": "part",
"localID": 32
},
{
"title": "心裡留保",
"description": "民法において、心裡留保(concealment of true intention)とは、意識的に真意や本心と異なる意思を表示することである。\n平易に表現すれば、心裡留保とは嘘や冗談などのことである。\n民法では、嘘や冗談で契約を提案した場合でも、原則として、後からその契約をなかったことにできないと規定している。\nただし、相手が本心から契約していないと知るか、知ることができる場合は、その提案は無効になる。\nたとえば、明らかに嘘や冗談とわかるような場合などは、その提案はなかったことになる。",
"part_type": "part",
"localID": 33
},
{
"title": "虚偽表示",
"description": "虚偽表示(fictitious manifestation of intention)とは、相手方としめし合わせて、真意と異なる意思を表示することである。\n民法では、お互いに守るつもりのない契約を提案した場合、その契約はなかったことになると規定している。\nたとえば、借金返済の滞納でX氏の不動産が差し押さえられる際、差し押さえをまぬがれる目的でY氏に不動産を売ったふりをした場合、両者の意思表示は無効となり売買契約は成立しない。",
"part_type": "part",
"localID": 34
},
{
"title": "錯誤(mistake)",
"description": "契約の提案の重要な箇所に誤解(mistake)があり、その誤解が「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」か「意思表示した者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」のいずれかであり、かつその誤解が法律行為の目的や取引上の社会通念に照らして重要なものである場合、契約を取り消すことができる。\n/*/\n「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」とは、たとえばある製品の売買契約で100マイルで売るつもりが代金を誤って100にゃんにゃんと記載してしまった場合である。\nただし、「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」が意思表示した者の重大な過失によるものであった場合、契約を取り消すことができない。\nなお相手が、意思表示した者に錯誤があることを知っていた場合や、重大な過失により意思表示した者に錯誤があることを知らなかった場合は、意思表示した者の重大な過失があっても契約を取り消すことができる。\nまた、相手が意思表示した者と同じ錯誤に陥っていた場合も、契約を取り消すことができる。\n「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」は、表示の錯誤とも呼ばれる。\n/*/\n「意思表示した者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」とは、たとえば骨董品を買う際、著名な作家の作品と誤解し、高い代金を払った場合である。\nこの場合、購入前にその著名な作家の作品を探していると伝えていた場合、実際は著名な作家の作品ではないため、契約を取り消すことができる。",
"part_type": "part",
"localID": 35
},
{
"title": "善意の第三者",
"description": "善意の第三者(bona fide third party、third party without knowledge)とは、当事者間に存在する特定の事情を知らない第三者のことである。\n法令において第三者(third party)とは、当事者以外の者である。\n法令において善意(bona fide)とは、ある特定の事実や事情を知らないことである。\n逆に、ある特定の事実や事情を知っていることを、法令では悪意(mala fide)と呼ぶ。\n私法上、原則として善意の行為は保護され、責任は軽減される。\nたとえば本来の所有者X氏から心裡留保・虚偽表示・詐欺などでY氏が入手した物を、善意の第三者Z氏に譲渡・売却した場合、X氏はZ氏に対抗できない。\n対抗するとは、他者に自分の権利を主張することである。\nつまり、さきほどの例の場合、Y氏からZ氏への譲渡・売却の契約を、X氏は無効化できない。\nまた、X氏はZ氏に対し、その物の返却を要求できない。\nただし、強迫によって本来の所有者X氏からY氏へ物が譲渡・売却された場合、その事情を知らないZ氏がY氏から物を譲渡・売却されたとき、X氏はZ氏に対抗できる。\n強迫は、心裡留保や虚偽表示と異なり、本来の所有者X氏に過失はない。\nそのため、民法では、善意の第三者Z氏よりも、強迫の被害者X氏の権利を保護している。",
"part_type": "part",
"localID": 36
}
],
"localID": 31,
"expanded": true
},
{
"title": "代理",
"description": "流用可能",
"part_type": "group",
"children": [
{
"title": "代理人",
"description": "民法において、代理(agency)とは、自分の代わりに、他の者に法律行為をしてもらうことである。\n代理は、代理行為(act of agent)とも呼ばれる。\n民法において、代理人(agent)とは、代わりに法律行為をおこなう者である。\n人知類以外の知類でも、代理人と呼ばれる。\n代理人が、本人とあらかじめ決めた権限の中で、本人のためにすると示した意思表示は、本人に対して直接その効力が発生する。\nたとえば、ナショナルネットのあつかいに不慣れな祖母から頼まれ、未成年の孫が代わりにネットで買い物をした場合、民法では祖母が買い物をしたものとみなす。",
"part_type": "part",
"localID": 38
},
{
"title": "顕名",
"description": "代理が成立するためには、「代理人が意思表示を必要とする法律行為」「顕名」「代理権」のみっつが必要がある。\n顕名とは、その法律行為を誰の代わりにおこなっているかを明らかにすることである。",
"part_type": "part",
"localID": 39
},
{
"title": "代理権",
"description": "流用可能",
"part_type": "group",
"children": [
{
"title": "委任状",
"description": "代理権とは、代理をすることのできる、法律上の地位や資格のことである。\n本人が死亡した場合、代理権は消滅する。\nまた、代理人が死亡した場合も、代理権は消滅する。\n代理には、どのように代理権が発生したかによって、任意代理と法定代理に分かれる。\n/*/\n任意代理とは、本人の意思によって代理権を与えることで発生する代理である。\n任意代理の際は、委任状が作成されることが多い。\n委任状(power of attorney)とは、代理権を与えたことを証明する書面のことである。\n委任状には、「委任状を作成した年月日」「誰が誰に代理を頼んだのか、委任したものと受任した者の氏名」「委任されておこなう法律行為やその権限」などが、記載される。\n委任状の内容の一部を記載せず空欄のままにしておき、空欄の内容の決定・補充を相手方やその他の者に任せた委任状は、白紙委任状と呼ばれる。\n任意代理の場合、委任の終了によっても代理権は消滅する。\n/*/\n法定代理(legal representation)とは、本人の意思とは関係なく、法令の規定により、代理権が発生する代理である。\n法定代理における代理人は、法定代理人(legal representative)と呼ぶ。\nたとえば、未成年の法定代理人は、その未成年者の親権者や未成年後見人などである。",
"part_type": "part",
"localID": 41
},
{
"title": "無権代理",
"description": "流用可能",
"part_type": "group",
"children": [
{
"title": "追認",
"description": "代理権がないにもかかわらず、代理として法律行為をおこなうことを、無権代理(unauthorized agency)と呼ぶ。\nまた、与えられた代理権の範囲を超える法律行為をおこなうことも、無権代理と呼ぶ。\n代理権をもたない代理人は、無権代理人(unauthorized agent)と呼ばれる。\nたとえば息子が賭博でできた借金を返すため、母の所有物を無断で売却した場合、この売却が無権代理、息子が無権代理人である。\n原則として、無権代理としておこなわれた法律行為の効果は、本人に帰属せず、無効となる。\nただし本人が追認した場合、無権代理としておこなわれた法律行為の効果は、法律行為の時点にさかのぼって本人に帰属し、有効となる。\n/*/\n民法において、追認(ratification)とは、瑕疵のある不完全な法律行為を、あとから確定的に有効なものとする意思表示である。\n追認は、事後同意とも呼ばれる。\n無権代理の場合、無権代理人が無権代理でおこなった法律行為を、本人が承認することが追認である。\n追認する権利を、追認権と呼ぶ。\n/*/\n無権代理を追認したことによって、さかのぼって発生した法律行為の効力は、第三者の権利を侵害することはできない。\nこれは、無権代理行為から追認までの間に、取引関係に入った第三者を保護する目的である。\nたとえば、息子が母の所有物を無断でX氏に売る約束をし、それを知らない母が同じ物を別の者Y氏へ売る約束をした場合を考える。\nこの場合、母の追認によって、X氏の所有権が認められると、Y氏の所有権が侵害されてしまう。\nそのため、追認によって第三者であるY氏の権利を侵害することはできない。",
"part_type": "part",
"localID": 43
},
{
"title": "催告",
"description": "無権代理の際、本人が追認しないままだと、その法律行為の相手方は、不安定な状態が続いてしまう。\nそのため、無権代理の相手方は、本人に催告することができる。\n無権代理において催告(notice)とは、妥当な回答期限を示したうえで、追認するか否かについて、はっきり回答するよう催促することである。\n催告する権利を、催告権(right of notice)と呼ぶ。\n無権代理の相手方は、その法律行為が無権代理であることを知っていたか否かにかかわらず、催告権を有する。\n/*/\n催告に対し、本人は追認拒絶権を有する。\n追認拒絶権とは、相手方から追認を求められても拒否できる権利である。\n催告に対し、回答期限までに本人がはっきりとした回答をしなかった場合、追認を拒否したものとみなす。",
"part_type": "part",
"localID": 44
}
],
"localID": 42,
"expanded": true
},
{
"title": "表見代理",
"description": "流用可能",
"part_type": "group",
"children": [
{
"title": "表見代理とは",
"description": "表見代理とは、ある者から代理人を依頼されたと称する者が、第三者と法律行為をおこなった場合の民法の規定である。\n「代理人を称する者」に代理権がない場合でも、第三者が「代理人を称する者」を代理人だと信じる正当な理由がある場合、その法律行為の責任を本人が負うことになる。\n表見代理には、「権限外の行為の表見代理」「代理権授与の表示による表見代理」「代理権消滅後の表見代理」に分類される。",
"part_type": "part",
"localID": 46
},
{
"title": "権限を越える場合",
"description": "「権限外の行為の表見代理」とは、代理人がその権限外の行為をした場合、第三者が代理人に代理権があると信じる正当な理由があるとき、本人がその責任を負うというものである。\nたとえば、X氏がY氏に不動産を3万にゃんにゃん以上の価格で売却するように依頼したが、第三者Z氏へ2万にゃんにゃんで売却した場合を考える。\nこの場合、代理人Y氏がX氏の実印・印鑑証明書・登記済証などを所持していたなら、第三者Z氏は代理人Y氏がX氏から権限を与えられたと誤解してもおかしくない。\nそのため、正当な理由があると認められれば、X氏はY氏の行為に対して責任を負うことになる。\nただしその法律行為が、代理人の利益にしかならない場合や、本人に著しく不利な条件である場合など、代理人が権限を有することを疑わせるような事情があるときは、相手方に調査義務が発生する。\nこの場合の調査義務とは、その法律行為が本人の意思にようるものなのか、あるいは代理人に代理権があるのかを、調査することである。\n調査の方法としては、本人に直接確認するなどが考えられる。\n相手方に調査義務が発生したにもかかわらず、確認を怠った場合、正当な理由があると認められない。\nそのため、本人がその法律行為の責任を負う必要はない。",
"part_type": "part",
"localID": 47
},
{
"title": "授与表示",
"description": "「代理権授与の表示による表見代理」とは、第三者に対し、他者に代理権を与えた旨を表示した場合、実際に代理権を与えていなくても本人がその責任を負うというものである。\nたとえば、所有物の持ち主X氏から売却の代理人を頼まれたと称するY氏が、第三者Z氏にX氏の所有物を売却する場合について考える。\nこのとき、代理人の欄が記載されていない白紙委任状をX氏が作成し、Y氏が入手していたなら、Z氏はY氏をX氏の代理人と誤解してもおかしくはない。\nそのため、Y氏の法律行為は表見代理とみなされ、X氏はY氏の行為に対して責任を負う。\nなお、実際には代理権を与えていないにもかかわらず、代理人が委任状を持っているような場合、その委任状の権限外の行為については「権限外の行為の表見代理」の規定に準拠する。",
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"localID": 48
},
{
"title": "権限消滅後",
"description": "「代理権消滅後の表見代理」とは、他者に代理権を与えた者は、代理権の消滅した後、代理権の範囲内で、第三者との間でした法律行為について本人が責任を負うというものである。\nただし、代理権が消滅した事実を、第三者が知らず、かつその事実を知らないことについて過失がない場合に限定される。\n代理権が消滅した事実を第三者が知っていた場合や、過失によって知らなかった場合は、本人が責任を負う必要はない。\nなお、代理権があった時点においても権限外の行為を、代理権が消滅後におこなった場合、「権限外の行為の表見代理」の規定に準拠する。",
"part_type": "part",
"localID": 49
}
],
"localID": 45,
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],
"localID": 40,
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}
],
"localID": 37,
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},
{
"title": "条件・期限",
"description": "流用可能",
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"children": [
{
"title": "条件",
"description": "流用可能",
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"children": [
{
"title": "停止条件・解除条件",
"description": "当事者同士の合意によって法律行為を成立させる際、その法律行為に条件や期限を付けることができる。\n/*/\n条件(condition)とは、将来発生するか否かが不確定な事実の成否に関する定めである。\nたとえば特定の知類の死のような、時期は不明だが将来必ず発生する事実は、条件として認められず、期限となる。\n/*/\n条件には、停止条件や解除条件がある。\n/*/\n停止条件とは、ある事実が発生したときに法律行為の効力が発生する条件である。\nたとえば、「試験が満点だったら自転車を買ってあげる」という約束は停止条件に該当する。\n/*/\n解除条件とは、ある事実が発生したときに法律行為の効力がなくなる条件である。\nたとえば、「進級できなければ仕送りを止める」という約束は解除条件に該当する。",
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"localID": 52
},
{
"title": "不法条件・不能条件・随意条件",
"description": "不法な条件を付けた場合、その法律行為は無効となる。\nたとえば、「藩王を暗殺すれば10万にゃんにゃん払う」といった不法行為を条件とした場合、その法律行為は無効となる。\nまた、不法な行為をしないことを条件とした場合も、その法律行為は無効となる。\nたとえば、「藩王を暗殺しなければ10万にゃんにゃん払ってもらう」といった不法行為をしないことを条件にした場合、その法律行為は無効となる。\nなぜなら、公序良俗に反するからである。\n/*/\n明らかに不可能なことを停止条件とした場合、その法律行為は無効となる。\nまた、明らかに不可能なことを解除条件にした場合、その法律行為は最初から条件がなかったものとしてあつかわれる。\n/*/\n停止条件が単に債務者の意思のみにかかる場合、その法律行為は無効となる。\nたとえば、「気が向いたら、お金をあげる」という条件の場合、その法律行為は無効となる。",
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"localID": 53
}
],
"localID": 51,
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},
{
"title": "期限",
"description": "期限(time limit、assigned time)とは、将来発生することが確定している事実に関する定めである。\n/*/\n法律行為に期限を付けるとき、時期の到来によって、その法律行為の効力が発生する場合を始期(time of commencement)と呼ぶ。\nたとえば、「1月1日までに代金を支払う」という期限は始期である。\n/*/\n法律行為に期限を付けるとき、時期の到来によって、その法律行為の効力が消滅する場合を終期(time of expiration)と呼ぶ。\nたとえば、「1月1日をもって契約を終了する」という期限は終期である。\nまた、「1月1日までに代金を支払うため、品物を取り置いてもらう」という場合、期限までに支払えなければ、その品物を他の者に売られても契約に反しない。\nこのような期限も終期である。\n/*/\n期限は、確定期限と不確定期限に分類される。\n確定期限とは、到来する時期の確定している期限のことである。\nたとえば、「1月1日までに代金を支払う」という内容の場合、1月1日という期日は確定しているため、確定期限に該当する。\n不確定期限とは、到来する時期が確定していない期限のことである。\nたとえば「私が死んだら家をあげる」という内容の場合、いつか死ぬことは確実だが、死ぬ時期は確定していないため、不確定期限に該当する。",
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"localID": 54
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"localID": 50,
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],
"localID": 27,
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{
"title": "時効",
"description": "流用可能",
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"children": [
{
"title": "取得時効・消滅時効",
"description": "時効(prescription)とは、一定の期間、ある状態が続くことによって、権利を取得・喪失する制度である。\n私法上の時効は、取得時効と消滅時効に分類される。\n/*/\n取得時効(acquisitive prescription)とは、時効が完成すれば権利を取得するものである。\nたとえば他者が所有名義の土地を、所有の意思を持って20年間占有し続けた場合や、事故の土地と信じ10年占有し続けた場合、その土地は占有した者のものになる。\n/*/\n消滅時効(extinctive prescription)とは、時効が完成すれば権利を取得するものである。\n消滅時効は、主観的起算点から5年、または客観的起算点から10年のいずれか早いほうの経過によって完成する。\n主観的起算点とは、権利を行使できることを知った時点のことである。\nまた、客観的起算点とは、権利を行使できる時点である。\n金銭の貸借では、契約時に返済日を定めることで、いつから権利を行使できるか認識できるため、基本的に5年の消滅時効となる。\n/*/\n本来、権利を持つ者は法令で保護される。\nしかし、長期間、権利の行使を怠っている者を、他者の犠牲のもとに保護する必要はない。\nそのような考えから民法の時効は規定されている。",
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"localID": 56
},
{
"title": "完成猶予・更新",
"description": "時効の完成には、一定の期間が必要である。\nしかし、完成猶予事由がある場合、時効の完成を猶予する。\nこの制度を、時効の完成猶予と呼ぶ。\n完成猶予事由とは「訴訟によって相手方に請求した場合」や「訴訟によらず相手方に支払いを求めた場合」「権利についての協議を行う旨の合意が書面でされた場合」「時効の期間が満了する時に天災やその他避けることのできない事変があった場合」など、民法で定めた事由である。\n民法では、完成猶予事由ごとに猶予期間の長さを規定している。\n/*/\n更新事由が発生した場合、それまで経過していた時効期間を無視し、更新事由が完了した時点から新たな時効期間をやり直す。\nこの制度を、時効の更新と呼ぶ。\n更新事由とは、たとえば「強制執行」「担保権の実行」「権利の承認」などがあった場合である。\n権利の承認とは、具体的には「債務者が支払いの猶予を申し出る」「債務者が借金の一部を支払う」といった行為が該当する。\nその事由が完成猶予事由であり、かつ更新事由である場合、時効の完成猶予が終わってから、時効を更新する。\nただし時効の完成猶予が終わる前に、更新事由が取り下げられたり、取り消されたりした場合は、時効は更新されない。",
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"localID": 57
},
{
"title": "援用・放棄",
"description": "時効によって権利を取得・喪失するためには、時効期間が経過しただけでは足りない。\n時効の完成によって利益を受ける者が、その利益を受けることを意思表示する必要がある。\nこれを、時効の援用(invocation of prescription)と呼ぶ。\n時効の援用は、利益を受ける者の意思を尊重するため、このような制度となっている。\nそのため、時効が完成しても援用しないという反対の意思表示もできる。\nこれを、時効の利益の放棄(waiver of benefits of prescriptio)と呼ぶ。\nただし、時効の利益の放棄は、時効完成後に限定して認められる。\nそのため、時効が完成する前に、時効の利益を放棄することはできない。\nこれは、債権者が債務者へ、強制的に時効の利益の放棄を約束させないためである。",
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"localID": 58
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"localID": 55,
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],
"localID": 8,
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{
"title": "物権法",
"description": "流用可能",
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"children": [
{
"title": "物権法総則",
"description": "流用可能",
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"children": [
{
"title": "一物一権主義",
"description": "物権(real right)とは、特定の物を直接的・排他的に支配する権利である。\nここでいう直接的とは、物の支配について他者の行為を必要としないということである。\nまた、排他的とは、ひとつの物に同じ内容の権利は成立しないということである。\nこの排他性から、一物一権主義の原則が導かれる。\n一物一権主義とは、ひとつの物に同じ内容の物権は重ねて成立しないという原則である。\n物の支配とは、物を使用・収益・処分することである。\n物権は、財産権のひとつである。\n財産権とは、財産的利益を目的とする権利である。\n財産権は、私権のひとつである。",
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"localID": 61
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{
"title": "物権法定主義",
"description": "物権法定主義とは、「物権の種類や内容は、民法をはじめとする法令で規定されたものに限って認められる」という原則である。\nこの原則により、契約などで当事者が自由に新たな物権を創設することはできない。\n物権法定主義は、物権法が強行法規であることを意味する。\n物権法定主義の目的は、権利同士の衝突を避け、第三者が不測の損害を防ぐためである。",
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"localID": 62
},
{
"title": "物権混同",
"description": "民法において、混同とは、相対立するふたつの法律上の地位が同じ者に帰属することである。\n物権の混同は、物権が消滅する原因となる。\nたとえば、父が所有する土地について、地上権者が子である場合を考える。\n地上権とは、建物・橋・鉄塔など工作物を作ったり、木を植えて植木を栽培したりするため、その土地の所有者と契約を結ぶなどして、他者の土地を使用する権利のことである。\n父が死亡し、子が唯一の相続人となった場合、子が土地の所有権を取得することになる。\n地上権で認められる権利は、所有権でも認められる。\nそのため、子が所有権をもつ土地に、地上権をもち続けることは無意味である。\nなぜなら、所有権さえあれば、地上権の有無は認められる権利に差はないからである。\nそのため、この場合、地上権は消滅する。",
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"localID": 63
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],
"localID": 60,
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},
{
"title": "占有",
"description": "流用可能",
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"children": [
{
"title": "占有・準占有",
"description": "私法において、占有(possession)とは、自己のためにする意思をもって、物を事実として所持していることである。\n占有の目的となる物を占有物(thing possessed)と呼ぶ。\nまた、占有という事実から発生する権利を占有権(possessory right)と呼ぶ。\nたとえば、X氏が現実にある住宅を居住しているが、Y氏がその住宅の所有者であると主張した場合を考える。\nこの場合、Y氏が訴訟した時点で家を追い出されてしまうと、実はX氏がその住宅を所有していたなら、X氏の権利が侵害されてしまう。\nそのため、Y氏が所有権を法的に証明するまでの間、社会の秩序を維持する目的で、土地を現実に支配しているX氏をいったん正当なものを保護する。\n/*/\n占有権の取得方法は、自己占有と代理占有がある。\n自己占有とは、占有者が自分で物を直接支配するものである。\n代理占有(possession through agent)とは、本人が占有代理人の占有を介して物を間接的に支配するものである。\nたとえば、賃貸住宅の貸主が借主の占有を介して賃貸住宅を間接的に支配するものは代理占有である。\n/*/\n占有権の効力の中心は、占有権そのものを保護する占有訴権である。\n占有訴権とは、占有を妨害されるか、妨害のおそれがある場合、占有者が妨害者へ妨害の排除を請求できる権利である。\n占有訴権による訴えには、「占有回収の訴え」「占有保持の訴え」「占有保全の訴え」がある。\n占有回収の訴え(action for recovery of possession)とは、占有者が占有物の占有を奪われた際、その物の返還や損賠の賠償を請求できるものである。\n占有保持の訴え(action for maintenance of possession)とは、占有者が占有物の占有を妨害された際、その妨害の停止や損害の賠償を請求できるものである。\n占有保全の訴え(action for preservation of possession)とは、占有者が専有物の占有を妨害されるおそれがある際、その妨害の予防や損害賠償の担保を請求できるものである。\n/*/\n準占有(quasi-possession)とは、自己のためにする意思をもって財産権の行使をすることである。\n準占用には、占有に関する民法の規定が準用される。",
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"localID": 65
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"localID": 64,
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{
"title": "担保",
"description": "流用可能",
"part_type": "group",
"children": [
{
"title": "担保とは",
"description": "担保(security)とは、債権者が債務者からの返済を確保する手段として、あらかじめ債務者から差し出してもらうもののことである。\n担保には、人的担保と物的担保がある。\n人的担保は、債権法に明記されている。\n物的担保は、担保物権とも呼ばれる。\n担保物権とは、債務の履行を確保するため、民法で認められた物権である。\n/*/\n担保物権には、法定担保物権と約定担保物権に分類される。\n法定担保物権とは、法令の規定によって発生する担保物権のことである。\nまた、約定担保物権とは、当事者間の契約によって発生する担保物権のことである。\n/*/\n担保物権には、付従性・随伴性・不可分性などの性質がある。\n付従性とは、債権が消滅すれば、担保物権も消滅する性質のことである。\n随伴性とは、債権が譲渡・相続・合併などによって別の債権者に移った際、担保物権もその債権者に移る性質のことである。\n不可分性(atomicity)とは、債権者が債務の弁済をすべて受けるまで、目的物の全部に対して担保物権の効力がおよぶ性質のことである。\nたとえば、10000にゃんにゃんの借金に対して抵当権を設定した場合、9000にゃんにゃんを返したとしても、抵当権は依然として残る。",
"part_type": "part",
"localID": 67
},
{
"title": "担保物件",
"description": "流用可能",
"part_type": "group",
"children": [
{
"title": "法定担保物権",
"description": "流用可能",
"part_type": "group",
"children": [
{
"title": "留置権",
"description": "留置権(rights of retention)とは、他者の物を占有している者が、その物が関して生じた債権をもっている場合、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置できる権利のことである。\nたとえば、自動車の所有者が工場に修理を依頼し、自動車を取りに行ったが、修理代金の全額を払えなかった場合、工場側は自動車の引き渡しを拒むことができる。\n留置権は、法定担保物権のひとつである。\n/*/\n留置権をもつ者は、債務者の承諾を得て留置物を第三者に賃貸し、その弁済に充当できる。\nただし、債務者の承諾を得ず、留置物を第三者に貸した場合、債務者は留置権をもつ者に留置権の消滅を請求できる。\n/*/\n留置権をもつ者は、留置物を留置するため必要な費用を支出した場合、所有者にこの費用の支払いを請求できる。\nたとえば、留置権をもつ者が留置物を留置するために保管場所を借りた場合、その保管場所の賃貸料を所有者に請求できる。\n/*/\n留置権は、債権全額の支払いを受けた場合、消滅する。\nまた、債務者は相当の担保を提供して、留置権の消滅を請求できる。\nたとえば、債務者が留置物の代わりに代金以上の価値がある物的担保を預け、債権者が承諾した場合、留置権が消滅し、代金を支払わなくても留置物を返してもらうことができる。",
"part_type": "part",
"localID": 70
},
{
"title": "先取特権",
"description": "多重債務者が借金を返せなくなり、債務者の財産が債務総額より少ない場合、債権者たちはその財産からそれぞれの応じて比例配分した額が配当される。\nこれを債権者平等の原則と呼ぶ。\n先取特権(statutory lien)とは、法令によって定められた特別な債権をもつ者が、優先弁済を受けられる権利のことである。\n優先弁済とは、他の債権者より優先して債務者から弁済を受けられることである。\n先取特権は、法定担保物権のひとつである。\n先取特権は、債権額の大小に影響されない。\nたとえば、ある会社が倒産し、金融業者から借金があり、従業員の給料が未払いの場合を考える。\nこの場合、給料債権には先取特権が認められるため、金融業者からの借金がどれだけ多額であっても、従業員は会社に残されている財産から優先的に弁済を受けられる。",
"part_type": "part",
"localID": 71
}
],
"localID": 69,
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},
{
"title": "約定担保物権",
"description": "流用可能",
"part_type": "group",
"children": [
{
"title": "質権",
"description": "質権(pledge)とは、債権の担保として債務者の物を留置・占有し、もし弁済がない場合、その物を売却し、その売却代金から他の債権者より優先して弁済を受けられる担保物権である。\n質権は、約定担保物権のひとつである。\n質権をもつ者は、質権者と呼ばれる。\n質権者に渡された物は、質物と呼ばれる。\n質権を生じさせる契約は、質権設定契約と呼ばれる。\n質権を設定するために、質物を質権者に提供する者は、質権設定者と呼ばれる。\n/*/\n質権は、弁済があるまで、担保目的物を留置・占有する点が留置権と同じである。\n質権が留置権と異なる点は、債務の弁済がなければ、質権の目的物を売った代金から優先的に弁済を受けられる点である。\nつまり、債務者に対し、「債務を弁済しなければ、担保にとった目的物を売却する」旨を伝えることで、債務者に債務の履行を間接的に強制できる。\n質権は、庶民が家財・衣服・日用品などの動産を担保に、比較的少額の金を借りる際に用いられることが多い。",
"part_type": "part",
"localID": 73
},
{
"title": "抵当権",
"description": "抵当権(mortgage)とは、債務者が占有を移転せず、債務の担保として提供した不動産について、優先弁済を受けられる権利のことである。\n抵当権は、約定担保物権のひとつである。\n抵当権は、債権者である抵当権者と、担保となる不動産の所有者である抵当権設定者との契約によって設定される。\n抵当権を生じさせる契約は、抵当権設定契約と呼ばれる。\n/*/\n担保権者の関心は、不動産の引き渡しではなく、債務の弁済である。\n弁済がないときに不動産を売却・監禁できればよい。\n一方、債務者は自分の土地や建物を使ったり、そこから収益を上げることを続けたりできる利点がある。\nこのような経済的合理性があるため、抵当権は担保物件の中でも、住宅ローンなどに幅広く利用されている。",
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"localID": 74
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"localID": 68,
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"localID": 6,
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"localID": 0,
"description": "流用可能"
}
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最終更新:2022年08月25日 20:43