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PA×艦これ エピソード集 ファーストコンタクト > USSフィラデルフィア

乾いた破裂音を後に残して照明弾は打ち上がり、上空でオレンジ色に強く発光し、第2補給拠点にいる艦娘達を照らし出した。
「みんな無事みたいね」
加賀が一同を見回していた。
「…あれ~?」
間延びした声は時津風のものだ。そちらに注目すると、時津風は海の方を向いて立っていた。「海が無い」
「は?」と、後ろから初風が聞き返した。「何言ってんのあんた?」
時津風は肩越しに初風を振り向き、海の方角を指差した。
「海が無いんだって~!」
「全く、何馬鹿な事を…」
初風も気が付いた。他の者も次々と気付き、思わず言葉を失った。どう言えば良いのか分からなかったからである。
「ね、無いでしょ?」
「え、何これどういう事?」と、陽炎が誰に聞くわけでもなく言った。
敢えて言うならば海のあった場所は、虚空と言うべきか、兎に角真っ暗な世界が広がっており、奈落の底が口を開けて待っているかのようで、誰もがその先へ足を踏み入れる事を躊躇った。

だが1人が良い事を思いついた。
吹雪がハンドサイズの石ころを拾うと、思い切り海が「あった」場所へ投げつけたのだ。
しかし石ころは、波音も潮風も立てない虚空の世界へと消え去り、それっきりとなった。普通なら海面に落ちた時にチャポンだかジャボンという音が聞こえる筈なのだが…どこかに吸い込まれるように消えて行った。音は無い。
後に残るは、無線で呼び掛けを続ける榛名と霞の声だけだ。
「…マジで?」
やっと鈴谷がそれだけ言った。
「…マジ…みたいですわ」と、熊野が応じた。お嬢様言葉の彼女が「マジ」という単語を使ったのは、恐らく無意識であったろう。

この状況を説明できる者など一人もいないように思われた。

「…無線は無駄ね」
「え、今何て言った?」
瑞鶴は加賀に顔を動かした。
加賀はまだ虚空の世界を見続けながら言った。
「無線は通じないわ」
「What do you mean? どういう事デスカ?」と、金剛が尋ねると、加賀は恐ろしいくらいの冷静さで説明した。
「私達は孤立しているわ。この島ごとね」
「ちょっと何言ってるのか分かんない」と、瑞鶴は右手の人差し指をこめかみに当ててグリグリした。
「馬鹿げているようだけど、そうとしか言いようがないわ。でなければ、私達が集団で幻覚を見ているかのどちらかでしょうね」
「…後者を信じたいわ」
瑞鶴がそう言った直後、照明弾が消えた。
「あっと、もう1発もう1発」
夕張が急いで予備弾を探す…と、その瞬間、下から突き上げられるような強い衝撃が発生し、ある者はよろめき、ある者は尻餅を突いた。続いて空が唐突に明るくなった。

海も現れ、周囲は何事も無かったかのように元通りとなっていた。
艦娘達は暫し呆然としていた。無線に呼び掛ける声も止む。
「…えっと…?」
青葉がお手上げだとばかりに両腕を広げた。「…えーっと…?」
「イミフ」
鈴谷が全員の気持ちを、短く且つ簡潔にまとめ上げた。「チョーイミフ」
「状況を確認しないと」
「同感ね」
加賀は瑞鶴の考えに同意した。
神通が瑞鶴とアイコンタクトで指示を汲み取り、指示をテキパキと発する。
「霞さん、無線連絡!」
神通の大声で霞はハッと我に返り、呼びかけを再開した。
「こちら霞、誰か聞こえる!?応答して!」
榛名も急いで無線機のスイッチを再度オンにする。
「こちら榛名!こちら榛名!聞こえますか!?どうぞ!」
「神通さん!」
神通が次の命令を飛ばす前に陽炎が呼んだ。「島を直接見に行ってきます!」
神通は頷いた。
「了解!2人随伴で!」
「行きます」と、不知火が真っ先に名乗り出た。
「さっすが」
「ほな、うちも行くわ」と、黒潮が挙手した。
「オッケー、何気に頼りになるねあんた」
「これでも陽炎型やで」
「それ忘れてた」
「うちもや」
陽炎、不知火、黒潮の3名は洋上に立つと、第1補給拠点のある島に向かって急行していった。
「神通、俺は時雨と吹雪で第3補給拠点に行って来る」
木曾が右手の親指で自分を指差しながら言った。
「お願いします」
「よし、行くぞお前ら」
木曾は吹雪を真ん中に、時雨を殿につけた単縦陣を組んで第3補給拠点のある島へと向かって行った。
「神通さん、私達は何をすれば良いですか?」
声を掛けて来たのは矢矧だ。後ろに初風と時津風と春雨を従えている。
「では、陽炎さん達、及び木曽さん達と無線連絡を取って下さい。回線は常にオープンにしておくように」
「分かりました」
矢矧は敬礼すると、自分は春雨と組んで第1補給拠点を調査する陽炎達と交信、初風と時津風のペアには第3補給拠点を調査する木曾達と交信させる事にした。


その結果。


「誰もいません!」と、陽炎の声。
「誰もいねえぞ、どういうこった!」と、木曾の声。

「無線も通じません」と、榛名が疲れたように首を振った。
「こっちも駄目だわ」
霞が無線機のスイッチをオフにした。「誰も応答しないわ」

「…引き続き捜索を続けるように言って」
「…分かりました」
神通は瑞鶴の言う通りにした。各補給拠点を調べる6人は、頭が混乱しつつも捜索を続けた。何もしないよりはマシだったからだ。

イミフな状況が次々と起こったので、自然と金剛、加賀、瑞鶴、神通の所に艦娘達が集まって来た。
「隊長代理、どうしたら…」
衣笠が言った。「正直頭が混乱しています」
「それは私も同じよ」と、瑞鶴は返した。「私も正直この場を放り投げて鎮守府に帰りたいわ」
「本部とも無線が通じないのに、どうやって?」
加賀がピシャリと言った。
「…でも、とにかく帰って見ると言うのも手では…?」
夕張が瑞鶴の愚痴をプランとして組み直した。「何か分かるかも…」
「不確実な推測ね。それで私達が危険に晒されるわけにはいかないから却下するわ」
「…危険って?」
そこまで言って、夕張は1つの可能性が頭に上がり、恐ろしくなった。「…まさか…本土が…!?」
「あり得る可能性としては、よ」
加賀は念を押した。「そうと決まったわけじゃないけど、補給を必要とする状況下で危険と遭遇するわけにはいかないわ」
「艦載機を飛ばして、周囲を索敵すればどうかしら?」
瑞鶴の提案を、加賀は素早く吟味した。
考えてみればこれを最初に思いつくべきだったろう。
「それなら鈴谷と熊野が適任ね」
「空母の方が機数多いじゃない」
「状況は今もって不明よ、忘れてなくて?」
加賀は瑞鶴に念を押すように言った。
「そりゃそうだけど…」
「空母か飛行場が要る機体では、もし空母が離脱を余儀なくされる事態に遭遇した時、艦載機を失う恐れがあるわ。でも水上機ならば、万一の場合でも着水して回収を待つ事も出来る。
それに航空巡洋艦だからある程度の応戦能力もあるから、この場合は空母よりもあの子達が最善だと考えるわ」
そこで加賀は、「まあ」と付け加えた。「判断は隊長代理次第だけど」
「いや、良いアイデアだと思う」
瑞鶴はそう言うと、鈴谷と熊野を指名した。「鈴谷は第1補給拠点を、熊野は第3補給拠点を上空から偵察。あと、ここを中心として円を描くように水上機を周回させ、徐々に外部の状況を調べていく事」
「了解!」と、元気よく答える鈴谷。
「了解」と、落ち着いて答える熊野。
神通の命令で、矢矧と春雨は鈴谷の直衛、初風と時津風は熊野の直衛も兼任する事となった。これに加えて、鈴谷側に霞が、熊野側に霰がサポートについた。
「調査隊は呼び戻すべきデスカネ」と、金剛が言った。
「いや」
瑞鶴が言った。「このまま調査を続けさせるわ」
「そうデスカ。では万一の時のバックアップは任せて下さいネ」
「そのつもりよ。頼りにしてるから」
「Great!」
金剛はウインクしながら右手の親指を立てて見せると、榛名の方へ歩いて行った。「無線はどうデスカー?」
「ふう」と、加賀が溜息ともつかない吐息を出した。「現状ではこれが最善といったところかしら」
「さあ、どうだろうね」
瑞鶴は夕張にお願いしてこの一帯の海図を持ってこさせた。夕張は気を利かせて、青葉と衣笠を手伝わせて空のドラム缶も持って来た。元は燃料が入っている設定のドラム缶だった。
物資集積所には、実際に燃料を満タンにしたドラム缶もいくつか置いてある。

夕張はドラム缶の上に海図を広げた。
加賀、瑞鶴、青葉、衣笠、神通、そして戻って来た金剛が加わって海図を囲んだ。
「少なくとも地形は変わってない」と、瑞鶴が切り出した。
「それに時間もデース」
金剛が懐中時計を見ながら言った。「さっきまでは夜だったのデスガ」
「あれは夜じゃないわ」
きっぱりとこう言ったのは加賀だ。全員の視線が彼女に集まる。加賀は平然と彼女達の注目を受け止めた。
「夜じゃないって?」
瑞鶴が聞き返すと、加賀は説明を始めた。
「確かに、周囲は海図通りよ。でも状況は一変している。第1補給拠点と第3補給拠点にいたはずの友軍が忽然と姿を消したわ」
「深海棲艦の奇襲とか?」と、衣笠が推測したが加賀はこれを否定した。
「違うわ。これは深海棲艦に出来る芸当では無い事わ」
「じゃあ誰の仕業よ?」と、瑞鶴が焦れたように言った。
「それは分からない」
加賀はそう言いつつ、「でも『誰か』である事は、確かなようね」
「…まるでSFデスネ」
「その通り」
金剛の呟きに、意外にも加賀は首肯した。「空想科学のような事態が、私達に見舞った、と考えるのが論理的よ」
「よく分かんないけど…」
瑞鶴は混乱しそうになる頭を何とか整理しようと左手で髪を揉んだ。「要するに、私達以外の部隊が何らかの現象で消滅したって言いたいわけ?」
「あるいは、私達『が』消滅したか、ね」
「消滅したと言っても、私達は今ここにちゃんと存在しているじゃないですか?」
夕張がそう反論したが、神通がこう言った。
「タイムスリップ等で、現代人が昔の時代に行ってしまうという話は、映画や本でよく出てきますが、まさかそれが私達に起こったと仰るのですか?」
加賀は腕を組んで俯き加減になった。
「過去か未来か、それとも別の世界か、それは分からないけど、私達は元いた世界から姿を消した、とだけ言えるわ」
もはや理解を越えているので、全員がその場で黙りこくってしまった。

自論を唱えた加賀にしても、やはり信じられない事だった。

「…でも、これからどうします?」
青葉が言った。「何が起きたにせよ、仲間が見当たらないので、ここはやはり本土に戻ってみた方が良いのでは?」
「やっぱり私もそうすべきだと思う」
瑞鶴が賛同した。「まさか世界に私達だけって事はあり得ないだろうから」
「危険よ、ここを動かない方が良い」
加賀が止めたが、瑞鶴は食って掛かる様に詰め寄った。
「じゃあ何か良い案でも?私はすぐに行動すべきだと思うわ!」
「現に周囲を水上機で偵察中よ。何か分かるまで…」
「このまま待ちぼうけで良いってわけ!?」
加賀は毅然と瑞鶴を見返した。
「落ち着きなさい、瑞鶴。あなたは動揺しているわ」
「くっ…」
瑞鶴は奥歯を噛みしめた。色々とムカつく青い艦娘だが、言っている事は正しい。瑞鶴は必死に自制を働かせた。
本当なら青葉の言う通り、今すぐにでも本土に向かいたい。だがそれは、隊を分断する事になり、即ち生存率に関わる。
更に何が起こっているか分からない本土よりは、ここで起こっている現状を冷静に調査するのが妥当である。
今は限りある資源と人数を有効活用し、何か手がかりを得なければならない。

加賀は瑞鶴が落ち着くのを待っている。
金剛がゆっくりと加賀の肩に手を置き、囁くように言った。
「肩の力を抜くネ、瑞鶴」
「う…うん」
瑞鶴は体から力を抜いた。「ごめん」
「気にしないで。私も感情が爆発しそうだから」
加賀は両手で自分の瞼を揉んだ。

と、そこへ。

「鈴谷から神通、鈴谷から神通」
神通は右手を耳に当てた。
「こちら神通、どうしました鈴谷さん?」
「うちの瑞雲が、MI方面でなんか光ってるって言って来てます!」
神通の周りに瑞鶴達が集まる。
「どんな光ですか?どうぞ」
「かなりでっかい光で…」
鈴谷の脳内では、光を見つけた瑞雲からの視覚が浮かんでいた。その視覚情報を必死に分析する。「あ、消えてく。これ、爆発じゃないっすか?」
「爆発…」
神通はそう言った後、瑞鶴を見た。「隊長代理」
「うん。水上機をそっちに向かわせるように言って」
「分かりました」
神通は鈴谷に瑞鶴からの命令を伝えた。
「遠そうだけど、大丈夫ですかね?」と、鈴谷の声。
瑞鶴が直接鈴谷との回線を開いた。
「距離は?」
「あーっと、30キロくらいかな?なんだ全然いけるじゃん」
「分かった。何でも良いから、向かわせて」
「りょーかい」
鈴谷は爆発らしき光を見つけた瑞雲に指示を送る。「5番機、いってらー!」

5番機と呼ばれた瑞雲は翼を翻すと、機首をMI方面に向けた。

 

 

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最終更新:2017年11月19日 01:58