●PA×艦これⅢ 合流と決断
少し先行して目を凝らしていた吹雪が叫んだ。
「前方、艦影多数確認!例の艦隊と思われます!」
鈴谷が肯定する。
「うん、うちの瑞雲もそうだって言ってるよー」
瑞鶴が唾を飲み込む。
「いよいよね…」
対話に合意したとは言え、やはり緊張するものである。
間も無く報告通りに複数の艦影が夕陽をバックに浮かび上がったが、瑞鶴、金剛、鈴谷、木曾、吹雪、時雨から成る『代表団』は一際巨大な艦影に気付いて無意識に声を洩らした。
でかいのだ、圧倒的に。遠くから見ても。
話に聞くのと実際に見るのとでは、体感するスケールが全く違う。
論より証拠、百聞は一見に如かずというあの諺の通りである。
彼女達はあの艦隊から見て左舷側から接近していたので、より比較がしやすかったわけだが、大和型戦艦や現代アメリカ海軍のスーパーキャリアを見て来た彼女達の視点でさえ、あの艦影は大き過ぎたのだ。
瑞鶴が双眼鏡を巨大な艦影に向けると、レンズ内に映ったのは間違い無く大戦艦フィラデルフィアの威容であった。
「…うん、あれは見た事無い」
「あのBattleshipと随伴艦艇は…どうも設計が違いような気がシマース」
金剛の双眼鏡はフィラデルフィアと国連艦隊艦艇を交互に動いていた。2人とも双眼鏡を覗いているのにコースが全くずれない。高い練度の持主である証左だ。
敢えて言うならば、随伴艦艇よりも大戦艦の方が、自分達の感覚に近しいものを感じるのだ。逆に随伴艦艇は、自分達が「今」住む世界で動く艦艇に近い。
「アイオワ型の例があるじゃない」
確かに米海軍では1990年代まで二次大戦時代のアイオワ級戦艦が戦後生まれの巡洋艦や駆逐艦と行動を共にしていた例自体はある。
瑞鶴の指摘に金剛は、
「You are right, but...」と首を傾げる。「違和感を禁じ得マセン…何がそうさせるノカ…」
金剛は双眼鏡を下ろした。「答えは何れ分かるデショウ」
瑞鶴はひとまずこの話題を脇に置いて加賀との回線を繋いだ。
「こちら瑞鶴。聞こえる?」
「…聞こえるわ。どうしたの?」
「もうすぐ艦隊と接触するわ。暫くは木曾に通信を任せるわ」
「了解。それと1つ…」
「何?」
加賀はゆっくりと強調しながら言った。
「今から接触する相手は、お互いに知らない事だらけよ。それを考えて的確に行動しなさい」
「…了解」
フィラデルフィア&国連艦隊パート。
艦娘を目撃して色々あって下の会話。
豊田「我々が交信するのですか?」
マクスウェル「はい。我々の見る限りアジア系…そしてミフネ中佐…私の副長ですが…彼の見解では日本人ではないかとの事です。そちらはどう思いますか?」
豊田が有賀艦長や村埜副長と無言の同意を交わす。
豊田「はっ。マクスウェル艦長の見解と同じです」
マクスウェル「うちのミフネも日本語は堪能ですが、ここはあなた方が通信を取ってみた方が、スムーズに会話が成立すると思います。通信をオープンにして頂ければ、こちらで言語はリアルタイムで翻訳可能ですので、どうか御心配なく」
村埜がすぐに通信準備に取り掛かる。
豊田「…分かりましたマクスウェル艦長。早速交信します」
マクスウェル「相手が友好的だと良いですな」
豊田「全くです」
通信オープンにする。
ミシェル「艦長、国連艦隊との通信状態を共有しました」
マクスウェル「翻訳機能は?」
ミシェル「セット完了しました。いつでもいけます」
マクスウェル「ミフネ君、一応念の為、君も翻訳に加わってくれたまえ。正確を期したい」
ミフネ「勿論です艦長」
ミシェル「どうぞ、ヘッドフォンです(但し近未来的っぽいデザイン。ワイヤレスで軽量級が手っ取り早いかな)」
ミフネ「有難う大尉(ヘッドフォン装着。マクスウェルに頷きかける)。OKです」
マクスウェル「宜しい。向こうに準備完了と伝えてくれ」
ミシェル「はい艦長」
村埜「司令、通信共有完了との事です」
豊田「では始めるか…なんか緊張するな」
有賀「(CICに)全周波数で呼び掛けろ。どれか引っ掛かる筈だ」
CIC「了解、全周波数で呼び掛けます!」
艦娘と交信パート。
「…こちらは、国連艦隊第3艦隊司令、豊田将貴少将である。そちらの…官姓名を名乗られたし、どうぞ」
音声は驚く程クリアである。
全員が注目する中、瑞鶴は送話ボタンを押した。
「…こちら瑞鶴。この艦隊の指揮官です」
空母と敢えて言わなかったのは、相手に混乱を与えるのを避ける為だ…まあ、聞く人が聞けば瑞鶴という名前自体に違和感を覚えるだろうし、相手は同じ海の人間だ。瑞鶴と聞いて思い当たる要素は1つしかない。
ミフネ「ズイカク…」
ミシェル「変わった名前ですね。アジア系っぽいですが…」
ミフネ「大尉。ズイカクとは第二次世界大戦を戦った旧日本海軍航空母艦の名前だよ」
そう言いながらミフネは、隣のコンソールを器用に右手で操作してデータバンクにアクセスし、空母瑞鶴の概要を呼び出した。出て来た画像は、相手から見て左舷斜め前方より撮影した白黒写真だ。
ミシェル「…はあ…」
ミシェルとしては、監視モニターに映る少女達と過去の艦艇とは結び付かないのだ。
だがそれは、ミフネやマクスウェルとしても同じ気持だった。
龍二「マクスウェル艦長。あるいは今の自己紹介、実は整合性があるかもしれませんよ?」
マクスウェル艦長「…もう暫く様子見だな」
「瑞鶴…金剛…鈴谷…木曽…吹雪…時雨…か…」
海図台の上でメモを取った有賀が、走り書き内容を呟くように読み上げた。
「向こうのコールサインでしょうか?対話に合意したとは言え、警戒していてもおかしくありません」と、村埜が言った。
豊田は尚も通信を行っていた。
「それでは…その、瑞鶴さん」
過去の艦艇名を『さん』付けするなど、生まれてこの方想像だにしていなかった。「何はともあれ、そちらには敵対意思は断じて無いと…そう考えて宜しいですか?」
「少し戸惑われている事とは思いますが…」
瑞鶴と名乗った少女の声は、慎重に言葉を選んでいた。「敵対意思は一切ありません。それだけは信じて下さい」
「分かりました。では、5分時間を下さい。会談場所を決定します」
「はい。連絡をお待ちしています」
通信を保留状態にすると、豊田は2人を振り返った。有賀と村埜には、豊田が説明に困っている事がありありと分かった。
「…聞いた通りだ」
豊田はそう始めた。ふと有賀のメモに目をやると、有賀はそれを慌てて隠した。「その名前、貴官らも聞き覚えがあるだろう?」
「全部…洋上艦の、名前…ですよね…?」
「うむ」
混乱しそうな頭を平静にする為、話題を変える。「マクスウェル艦長に繋いでくれ」
すぐにフィラデルフィアから応答があった。
「マクスウェルです」
「お聞きになりましたか?」
「ええ。それで今、ミフネ副長が今の名前のデータを全て呼び出しているところです」
「…と、言いますと?」
「はい。そちらもお気付きかと思われますが、全て第二次大戦を戦った旧日本海軍艦艇の名前なんです。監視モニターで確認したところ、どうも彼女達の装備にはそれらと共通するところがあるのです」
なんてこった。逃げ道までが混乱の種を蒔いてきた…ここは流れに身を任せるしかないか。
「…なるほど」
本当はよく分からない。「それで、会談場所をどこにするか、ですが…こちらは通信を取りましたので、つきましてはそちらに会談場所を設ける事を提案したいと思います」
「我々にも美味しい所を提供する、と言ったところですかな」
ミフネが言った。特に皮肉とかは感じられない。
マクスウェルが相手に答える。
「分かりました。こちらの方が中は広い事ですし、本艦を会談場所としましょう」
「感謝します。ではこちらから彼女達に伝えますので、乗艦準備の手配を御願いします」
「了解しました」
フィラデルフィア会談後
・第2補給拠点
「ほい、紅茶」
「おおきに」
陽炎から差し出された紅茶入りのカップを受け取った黒潮は早速口に含んで後悔した…アツアツの紅茶だったからだ。
吐き出そうとする体の条件反射に抗って悶絶する黒潮に不知火が溜息を吐いた。
「全く…」
黒潮は何とか飲み下した。
「出さへんで絶対に」
「出せとは言ってないですが…」
「そんな目してたで」
「霞らも戻って来たら良いのに」
陽炎は海を見やった。ちょうど視線の先に航行する霞と霰が見えた。矢矧と春雨を島に戻した後、霰を連れて哨戒に戻って行ったのである…霰は特に拒否もせず淡々と従って行った。
「加賀さん、紅茶が入りました」
「有難う…これはダージリンかしら?」
湯気を嗅いだ加賀が榛名に顔を上げた。加賀は瑞鶴からの連絡を待ちながら、腰掛けにちょうど良い岩の上に座って海を眺めていた…これは警戒も兼ねている。
夕張が修理していた下駄型艤装…機関部内蔵…は、応急修理を終えており、加賀の足に収まっていた。但し無理はしてはいけないと夕張に釘を刺されていた。
「ええ。甘い香りで、私も大好きです」
紅茶を啜った加賀は、その熱が体中に沁み込んでいく感覚で、身体が思いの外冷えていた事に気付いた。
と、加賀は榛名の様子がおかしい事に気付いた。
「どうしたの?」
「…あれ、何でしょう…?」
榛名の視線を辿ると、海面の一部が盛り上がり始めているのが目に入った。物体が水面下を高速で移動する時、水が抵抗し切れず押しやられた時の状態だ。
そうやって盛り上がった海面は、先が丸い鏃のような見た目となって水面下の物体の移動に合わせて動くわけだが、加賀と榛名が目撃したそれはスケールが大きかった。
すぐに全員が気付いた。
「何あれ?」
衣笠が驚きで思わず立ち上がった。
言葉が見つからない一同の目の前で、移動する海面の「コブ」が千切りにされ始めた。切り裂かれた海水が飛沫となって四散する。
飛沫の中には、ギザギザした黒い板切れのような物体が複数枚認められた。これが「コブ」を切り裂いたらしい。板切れの上は5つ6つに枝分かれしており、その先端は白かった。
「な、何でしょう、あれ」
春雨が矢矧に尋ねたが、当然矢矧に答えられる筈は無かった。
更に驚いたのは、飛沫のすぐ後ろの海面が凡そ100mくらいに渡って縦割りされ、長い黒々とした細長い物体が、まるで蛇が鎌首をもたげるように高々と持ち上げられた事だ。
これを見て黒潮が二口めの紅茶を吹き出してしまった。
だが気に留める者はいない。
「尻尾…!?」
「ええ、尻尾ですね…」
陽炎の言葉に答える神通、その声は呆けていた。
尻尾はまた海中に戻ったが、その際に叩きつけられた海水が左右に押し退けられた。
それが合図で、陽炎が我に返る。
「あ、そうだ、霞らは!?」
「何よ何よこれ!!」
正体不明の潜水物体がすぐ後ろに現れた時、霞と霰は半ばパニックに陥りかけた。あまりにも不意打ちで、あまりにも大きく、あまりにも近かったからだ。
物体と2人の間は50mも離れていなかった。
物体が浮上しかけたので衝突を覚悟したが、直前に物体は急速潜航したのでその恐れは無くなった。
すぐに物体は霞と霰の真下を通過したが、霞と霰はゴツゴツとした表面の物体から目を離せずにいた。
「あ…あ…」
霞は何か言おうとしたが、ショックでわなわなしてしまった。
霰も目をしばたたかせていたが、霞よりは立ち直りが早かった。
「霞姉さん…大丈夫?」
恐ろしいスペックの深海棲艦相手にも動じなかったのを知っているだけに、霰は意外そうに霞を見ていた。
「あ、霰…今の…見た…?」
「見た」
「…な、何なの、あれ…って!?」
霞の目前で、物体が再浮上した。今度は勿体ぶらずその正体を披露してくれた。
物体が口を開いたのを見た時津風は、某SF映画の肉食恐竜のように重々しく背筋が冷えるような咆哮をするものだと思っていたが、予想は外れた。
背びれ付きの恐竜のような黒い生物の吼え声は、映画で見た恐竜以上に重々しく、威圧感があり、それでいて強さと畏怖の念を感じさせるものがあった。
しかし時津風の感想は、その生物が聞くと怒りそうなものだった。
「…でっかい深海棲艦…!?」
「そ、そうには見えないけど…」と、初風。
全員がその生物に釘付けになる中、動いた艦娘が2人あった。
1人は青葉で、ジャーナリストとしての情熱が撮影しろと命令し、その生物の威容を写真に収めた。
もう1人は加賀で、こちらは青葉よりもアグレッシブだった。
榛名は、隣に座っていた加賀が急に立ち上がり、海に向かって走り出したのを最初はぼんやりと見送っていたが、すぐに慌てだした。
「か、加賀さん、何をするつもりですか!?」
後を追いかけたが、その時には加賀は波打ち際に到達しており、そのまま海上へと滑り出ていた。
榛名の後から走って来たのは夕張である。
「加賀さん、何してるんですか!?」
榛名と夕張の声を尻目に、加賀は背中の矢筒から1本の短めの矢を引き抜き、愛用の長弓につがえ、引き絞る。
だがすぐには放たない。矢…ひいては艦載機を発艦させる為の人工風力を生み出すのに必要な速度にまだ達していないからだ。
しかし同時に、左足の機関部に異常を感じ取る。夕張が応急修理した方だが、病み上がりの酷使に抗議しているのだ。
「…御願い、もう少しもって…!」
それでも出力が不安定だ。これまで培ってきた技量でバランスを保ちながら、速度を上げ続ける。
黒い未確認巨大生物は、加賀から見て斜め右前方に位置している。
そして…
「発艦!」
弓から矢が飛び出した。普通の矢ならそのまま海面に落下してしまうが、この矢は違う。
オレンジ色に発光したかと思うとプロペラ機の形に変形、そして深緑色のプロペラ機として実体化した。数は1機だが、加賀の使った矢は1機搭載タイプで、他の長い矢は複数機に変形、展開する仕組みだ。
機体は艦上偵察機彩雲で、細見で主翼が細長く角ばっている事が特徴の高速偵察機である。
舞い上がった彩雲は迂回上昇しながら未確認巨大生物の上空に取り付き、触接を始めた。
加賀は、この生物の動向を把握する為に海上へ飛び出したのであった。
だが、代償は大きかった。
彩雲発艦とほぼ同時に、加賀の左側機関部が咳き込み、黒煙を濛々と噴き出した。
「くっ…」
速度が半分近くに減った。一応自力航行は可能だが、艦載機発艦に著しい制約を受ける事は明らかだった。せいぜい軽量級の零戦52型を発艦させるのに精一杯だろう。彗星や天山は、フル装備しなければいけるだろうが、それでは本来の雷爆撃任務は出来ない。
「加賀さん!」
いつの間にか榛名と夕張が追い付いていた。
榛名は心配そうだが、夕張の方は明らかに怒っていた。
付き添われて島に戻った加賀は、早速夕張に左足の下駄型艤装を奪い取られた。
夢中で上蓋を開いた夕張は、逃げ場を失っていた黒煙を顔にまともに浴びて咳き込んだ。
それでも工具で機関部をいじくり回し、それから天を仰いだ。
「あぁ~もう~っ!」
それから加賀を睨みつける。「これはお預かりします!ドクターストップです!」
加賀に決定権は無かった。
●瑞鶴達がフィラデルフィアに乗艦した後の流れ原案
1.ナガトから豊田司令、有賀艦長、村埜副長がヘリでフィラデルフィアに乗艦し、広々とした士官室に案内されるまで。士官室ではマクスウェル艦長始めフィラデルフィアの主要幹部達と艦娘達が待っている。
2.三者会談。次元融合の話を持ち出し、この際の安全策としてゴジラを始めとした巨大生物の存在も艦娘達に情報提供される。
3.第2補給拠点とゴジラ。未確認巨大生物の出現が木曾を通じて瑞鶴達に知れ渡る。加賀さん片舷エンジンぶっ壊れる。
4.全員一致で第2補給拠点の放棄決定。物資回収の為にフィラデルフィアと国連艦隊が協力。最後に加賀と夕張がヘリでフィラデルフィアまで空輸される。
5.針路、石巻。
会談パート?。
●艦娘って何?と聞かれた時の答え
瑞鶴「艦艇の記憶と能力を持った人類…と言えます。例えば私は、空母瑞鶴の艦歴とそれに準じた性能…つまり艦載機数84とそれらの運用能力、自衛火器として高角砲、機銃、噴進砲を搭載しています」
●艦娘ってあらゆる時代の艦艇のものが存在しているの?と聞かれた時の答え
瑞鶴「いえ、私が知る限り第2次大戦を戦った経験を持つ艦艇が主流です。例外もありますが…凡そ2次大戦の記憶を持っています」
●あの島で何してたの?って聞かれた時の答え
瑞鶴「私達は、AL/MI作戦に向けた実戦演習の為、天皇海山列に集結していました。他に30名以上参加していましたが、私達だけが異常事態に巻き込まれたようです」
●何人いるの?と聞かれた時の答え
瑞鶴「島で待機中の者を含め、総勢22名です」
ゴジラと艦娘ニアミスパート。
会談とゴジラ再発見の報告。
艦娘達の第2補給拠点放棄決定。
その理由。
その1。いわゆる『揺り戻し』がいつ発生するか不明である事。
その2。『揺り戻し』まで島で待つには無補給自給自足サバイバルを強いられ、その場合は士気と隊の維持に大きく影響を与える事。座して待つだけのこちらが他者からの援助を期待する事はお門違いで、たとえ補給を受けられたとしても装備の維持は不可能だし、よしんばその技術があったとしても島にその設備を建設するわけにはいかない。
その3。先程遭遇したような巨大生物、ないし同等の脅威の襲撃を受けた場合、現有火力での撃退は不可能。尚且つ島での待機が長引いた場合、装備の劣化で退避さえ不可能となる可能性が高い。
第2補給拠点で揺り戻しが起こる可能性は否定出来ないが、選択の余地は無い。艦娘22名の生存と能力の維持を行いつつ、情報収集し元の世界に帰還する方法を模索する(会談で他にも次元融合のケースが確認されている事を聞いた事から)。