砲身が角ばっていることを除けば、どっしりとした4連装砲は旧英国海軍のキングジョージ5世級や旧仏海軍のダンケルク級といった戦艦を思わせる。
そしてその甲板に、加賀達が見慣れた6人の内、5人の人影が立っているのが見えた。
その5人のすぐ前に、UV45の1号機がゆっくりと降り立つ……側面のドアが開け放たれて、
加賀達はフィラデルフィアの甲板に降り立った。
金剛が一歩進み出て加賀と敬礼を交わす。
「ご苦労様」
「そちらも御無事だったようで何よりデス」
小さく頷くと、
「瑞鶴は?」
「There. あそこデス」
金剛の指差す方向、フィラデルフィア艦尾から見て左斜め向こうに瑞鶴が航行していた。
加賀の彩雲を回収する為、ミフネを通じてマクスウェルから許可を取った上で再度洋上へと出たのだ。
外は程無くして夜を迎える。そうなれば艦載機の着艦、少なくとも艦娘にとっては非常に困難なものとなるので、その前に彩雲を回収する必要があったのである。
その代わりゴジラの追跡は、ハルナから射出されたティルトローター式無人偵察機ヴェルトロが担当する事となった。
無人機なので夜間飛行でパイロットが神経をすり減らす心配は無いのが最大の利点であるし、ローター音でゴジラの気を引く心配も無かった。
ただゴジラが潜航を再開すれば話は別だが。
さて、彩雲が高度を下げて瑞鶴の背後から近づくコースを取り出すと、瑞鶴は彩雲を肩越しに見ながら右手を差し上げた。
空母における着艦は陸上と違い、滑走距離が非常に短い為、着艦後は悠長に飛行甲板を滑って減速するわけにはいかない。
そこで空母が風上に向かって進む事で意図的に人工風力を生み出してスピードをある程度まで削り、残りは飛行甲板に何本か張り巡らせたワイヤーの内うち1本に、艦載機の尾部にあるフックを引っ掛けて完全相殺する仕組みを取る。
しかし艦娘では少々やり方が異なっていた。
彩雲は減速しながら、瑞鶴の差し上げた右手に衝突する針路を取っていたが、衝突まであと少しになった瞬間、機体はオレンジ色に光り矢の形に変形すると、そのまま矢として実体化した。
矢となって飛来した彩雲を、瑞鶴の右手がパシッと受け止め、そのまま腕が振り下ろされる。実に滑らかな動作であった。
つまり、艦娘の航行自体で艦載機の勢いを軽減し、残る勢いを腕の振りで完全相殺する方法を取っているのである。これはなかなかに練度を必要とする技術だ。
「Nice work, 瑞鶴!」
金剛が賛辞を贈る。
「サーンキュ!」
「後で返しなさいよ」
「お、加賀じゃん。いやはやこれは…」
笑いを堪えているような口ぶりに、加賀が首を傾げる。
「…どうしたの?」
「いやぁ……空母が空輸とはまた、面白い縁だなぁと思ってね♪」
とうとうガッハハハと笑い出す瑞鶴の影を、加賀は呆れた目で見ていた。
1時間程前の“緊急通信”の際に、瑞鶴は既に加賀のエンジンが破損していることを知っている。
艦載機を“飛ばす側”の艦娘が、艦載機に運ばれてやってきたことを皮肉りたかったらしい。
もっとも迅速に合流する必要を思えば、たとえエンジンが健在でも“空輸”されていたと思われるが。
「…こんな事態でもよく冗談が言えるわね…」
「シャレが利いてますよー瑞鶴さん♪」
後から降りて来た青葉がそうはやし立てたが、加賀は敢えてスルーした。実のところ疲れていて、早く一息つきたかった。
「とにかく早く戻りなさい」
瑞鶴にそう言うと踵を返し…改めてフィラデルフィアの巨体を仰ぎ見た。
原子炉格納容器のような3基の構造物の背後に、高層ビルのような艦橋が聳えて見える。
そのスケール感は軍艦の構造物というよりも、それこそ原子力発電所のようだ。
「この戦艦は、どんな記憶を持っているのかしらね……」
ふと――呟くようにそう言った加賀に、青葉が歩み寄ってくる。
「気になりますか、加賀さん? 私もです……取材許可出ませんかねー」
「進水直後ならまだしも……軍艦には皆、固有の記憶があるものよ……私たちだってそうでしょう」
そう言って加賀は目の前の第3主砲を見上げる。
角ばった巨大な砲塔は実に“SFチック”であるが、細かい傷が独自の歴史を重ねてきたことを窺わせる。
そんな“異世界の同志”に、加賀はふと思いを馳せたのだ。