PA×りっくじあーす ゲートを潜ってみた!

上のタイトルこうなってますがもはや潜ってません(爆沈)

 

●PA×りっくじあーす 

「間も無く目的地です!」
レシーバーを通して明野菜摘の報告を受け取った市ヶ谷愛は座席から立ち上がってコクピットの方へと向かった。
CH-47JA輸送ヘリコプターの機内には、今の2名の他、8名の計10名が乗り込んでいた…全員が少女であり、小学校低学年な見た目から高校生っぽい姿、大人びて見える顔立ちと、一見すると共通性が無いが、実は共通性がある。

彼女達は一般的に陸自娘(りくむす)と呼ばれる存在で、突如世界各地で侵攻を開始したマグマ軍と呼ばれる軍勢と日夜戦いを繰り広げていた。
そして2つの属性があり、駐屯地の記憶や装備といった特徴を持った駐屯地娘(とんむす)と、戦車やヘリといった陸自兵器の装備を身に纏った武器娘(ぶきむす)に分類される。

…と言いつつ、内1人は米陸軍出身なので本当のところは陸自娘とは言えないが、陸上自衛隊所属として動いているし呼び方の手間を省く為、陸自娘と呼ばれる。

例えば市ヶ谷は、市ヶ谷駐屯地(細かく言うと防衛省市ヶ谷地区であり、陸上自衛隊では実際に市ヶ谷駐屯地と呼んでいる)の記憶を持ち、陸海空自衛隊の幕僚監部を纏め上げている日本国防衛の中枢だからか、風貌は大人びていて頼れるお姉さんといった印象を与える。
服装も戦闘向きの迷彩服では無く、肩や胸に階級章や勲章が付けられた白っぽい半袖ワイシャツと深緑のタイトスカート、そして同じく深緑のフェルトハイバック制帽と、式典や儀礼時に身に着ける礼装式だ。

などと書くと、全員が自衛官用に準じた服を着用しているかと言うとそうではなく、寧ろ軍服型はマイノリティであったりする。

市ヶ谷の隣でこっくりしている鯖江静香はセーラー服と見るからに学生姿だし、同じく市ヶ谷の正面の座席で対人狙撃銃(M24SWS)を黙々と手入れしていた松本亜衣璃も、学生が着るようなベストに長袖シャツにスカート、そしてニーソックス姿だ。
知らない人が見ると「今流行りの武装JK」のコスプレと思ってしまうに違いない。

が、重ねて言うと彼女達は学生などではない。

これでもれっきとした自衛隊所属であり、マグマ軍と呼ばれる地下生命群を相手に戦っている。

このマグマ軍はロシアで最初に確認された未確認生命体であり、ハチやアリのように女王なる存在が大規模な群れを統率、ピラミッド式の厳格な上下関係を築いているらしい事が分かっている。これは人語を理解し操る『近衛兵』なる階級個体が話していた事で、近衛兵達は女王の事を『女王陛下』と呼んで絶対的な忠誠を誓い、地上の人類のみならず、同胞の下位個体に対しても高慢ちきな言動を振舞う事が確認されている。因みにマグマ軍自体は人類側が付けたコードネームではあるが、近衛兵の中にはこの名前を気に入っている者もいる。

上記のように、階級個体によっては知的水準が高く、世界各地に及ぼした電撃的侵攻も、後の分析によればかなり計画的で、確かに日本の防衛網も短時間で壊滅的打撃を受けた事を見てもそれと分かる。

尚、日本は完全占領まで秒読みまで追い詰められたが、陸自娘の活躍により北陸地方でギリギリ食い止め、そこから領土奪還作戦がスタートし、押し返す事に成功したが、地下の火山地帯を利用して移動していると考えられるマグマ軍相手の戦いはまだまだ続くと予想され、民間人が故郷に復帰するのは未だ不可能な状態である。

しかし話の通じない相手でも無いらしく、関西地方では将官クラスの個体と駐屯地娘が奇妙な交友関係を持っていたり、後に登場する、とある四姉妹の長女に至ってはピロシキで歩兵クラスの個体を懐柔したケースもあり、将来は和平締結がされるかもしれないし、されないかもしれない。

さて、市ヶ谷はコクピット左の機長席の背もたれに手を乗せた。
その席に明野が座っており、操縦桿を握りながら周囲を取り囲む計器の数々とキャノピーの向こうの外界に目を走らせていた。
三重県伊勢市の明野駐屯地の記憶を持ち、航空隊を持っていた関係からヘリコプター操縦はお手の物だ。
「茜さんと通信は取れましたか?」
「いえ。葵さんが代わりに出ました。何でも忙しいみたいで、葵さんが着陸を誘導するそうです」
「分かりました。私も直接連絡を取ります」
市ヶ谷は右の副操縦士席に座り、通信コンソールを操作した。「市ヶ谷からアウトポスト23へ。聞こえますか?」

すぐに木更津葵の声が応じた。落ち着いた物腰である。
「はい。こちらアウトポスト16」
「着陸地点の目印を御願いします」
「了解。今からスモークを焚きます」
一瞬の間。「そちらから見て右手に黄色い煙が見える筈です」

明野と市ヶ谷がそちらに視線を移すと、なるほど地上から黄色い煙が何筋かもくもくと立ち上がり始めていた。
ちょうど円形を描く配置で、煙が縁取る円の中に着陸せよという意味だ。
「…見えましたか?」
「はい。その円の中に着陸ですね?」
「その通りです。念の為、若菜と柚子をエスコートにつけます」
「助かります」
隣で明野が「ワーオ」と呟いた。「木更津四姉妹がお出迎えなんて」
市ヶ谷も首肯する。
「前線で引っ張りだこですからね。珍しいです」

輸送ヘリコプターが着陸コースに入った時、若菜が左側、柚子が右側に姿を現した。
前者がAH-1S対戦車ヘリコプター、後者がOH-1観測ヘリコプターの装備を身に着けた武器娘で、木更津四姉妹の三女と末っ子である。2人とも服は迷彩服だ。
背中のメインローターを回転させ、スーパーマンのように体は地面に対して平行の姿勢で飛行している…両腕は突き出していないので念の為。

若菜の方が呼び掛ける。
「こちらAH-1S。そちらをエスコートしますね!」
「ご苦労様です」
「有難う御座います。柚子、先導して。私は殿につくから」
「は、はい!頑張ってみます!」
オドオドとしていてか細い声だが、柚子は慣れた動作で輸送ヘリの前に滑り出た。若菜は減速してチヌークの左斜め後ろにつける。

その間、市ヶ谷は乗員達に注意を促した。
「市ヶ谷から葵さんへ。ヘリは荒川方面から接近します」
「了解」
「おっはよー」
振り向くと、鯖江が眠そうに眼をこすっていた。トレードマークの眼鏡は左手にあり、市ヶ谷は鯖江の素顔を見るのは何気に初めてだと思った。
「あ、鯖江さん。よく眠れましたか?」
「いんや、すっごく寝た気がしない。変な夢見てたから」
「はあ…どんな夢でしたか?」
「えっと…忘れた」
眼鏡を掛けると、左手のフィンガーレスグローヴを引っ張り直して握りしめた。「それより、新しい情報は?」
「今のところは、まだ何も」
「そっか。いつものゲートという事以外は、不明か…」
鯖江が呟いたように、陸自娘達はこれまでにも何度か異世界へ通じるゲートと遭遇し、その向こうを探査してきた経験を持っており、いわば『異世界慣れ』している。

今回の一件は、近畿地方のマグマ軍と戦闘中、木更津茜から関東に異次元ゲートっぽいゲートが現出したという報告がスタート地点である。
司令官から現地に飛べと命じられた市ヶ谷は、今このヘリに乗っている陸自娘達を選ぶと、ここまでやって来たのであった…2名は便乗に近いが。

その2名の内の片方、福知山凛子がウキウキ顔で鯖江の隣に立った。手元には一眼レフカメラが大事そうに抱え込まれている。
彼女は取材目的でこのヘリに乗って来たのである。
時間が無かったので、司令官の許可を貰ってから、市ヶ谷は彼女と護衛役の春日井樹も乗せたわけだ。

福知山は取材魂が服を着て歩いているような陸自娘で、戦闘では無く取材目的でよく前線に顔を出す事で有名だった。
彼女は靴こそ陸自のブーツだが、水色のスカートと鼠色のカーディガン、首元からは白の長袖シャツの襟が覗いているという、これまた学生の恰好である。

特ダネの気配に対する嗅覚は異様に鋭く、この謎のゲートの出現報告を受けてからたった5分で勘付いたようだ。
市ヶ谷に直訴しに来た彼女の右肩には、既に防水性のボストンバッグが吊り下がっており、そして明らかに重そうだった。

「いよいよ着陸ね!すっごい楽しみ!」
「テンションすっごいね…」
鯖江は面倒臭そうに呆れているが、福知山は逆に信じられないという表情で鯖江を見返した。
「あら?あなたそんなに興味無い?」
「あんまし」
「ふーん。それは残念」
市ヶ谷が振り向く。
「福知山さん。もう一度だけ念を押しておきますが、勝手な行動は慎んで下さいね?」
「勿論です!」
「どうだか」
と鯖江が小さく呟いた時、ドシンという音と共に機体が上下に揺れる。
ヘリが着陸したのだ。

拠点は江戸川区立新田小学校のグラウンドに設けられていた。
マグマ軍の攻撃により、校舎の壁のあちらこちらに銃弾の痕が見られ、ガラスというガラスが割れて廃墟感を醸し出していた。
それは周囲の風景も同じで、焼け爛れたり折れ曲がったり倒れたりした街路樹や電柱、銃弾や爆発による傷痕が生々しい建物、放置された何台もの自動車、バイク、自転車、そして一面に散らばる破片や瓦礫、そしてよく見ると無数の薬莢もその中に混ざっている。

この光景は東京都のほぼ全体で見られ、世紀末的な暗い雰囲気にしていた。
陸自娘達の必死の活躍により、マグマ軍は首都から放逐されたものの散発的な攻撃は今でも起こっており、東京都を始め関東地方全体は未だに緊急事態宣言を解除されていない。

さて、ヘリから下りるとグラウンドの前を通る葛西中央通りに装輪装甲車やトラックといった複数の陸自車輛の車列が縦一列に並んで停車しているのが見えた。
ゲート調査隊が使う車輛である。
先頭からオーストラリア製のブッシュマスター装甲車改め輸送防護車…これは今回の指揮車輛として選出された…、高機動車とこれに牽引された物資満載の1tトレーラー、武器娘輸送用に改造され、幌部分が装甲板に差し替えられた改修型73式大型トラック、マグマ軍歩兵の不意打ちに対抗してフェンス型装甲板が左右に取り付けられた現地改修型の96式装輪装甲車、そして殿に軽装甲機動車と、軽5両の編成である。
装輪装甲車は幾多の激戦を潜り抜けて来たと見え、修理されてはいるが銃弾を弾いた痕が残されているのが分かる。

その車列から30m程離れた位置に、12.7mm重機関銃M2を載せた73式小型トラック(以降ジープとする)が警備の為に停車し、その傍には北富士彩恵が89式小銃を持って立っているが、その出で立ちは、いよいよ武装JKにしか見えないロングのポニーテールである。
しかしこれでもれっきとした陸自娘である。
ジープより更にあちら側には道路を横断する形で有刺鉄線が張り巡らされ、敵の侵入を用意ならざるものにしてあった。
「あー私も行きたいなー行きたいなー」
ローターの回転を落とす輸送ヘリをしげしげと見ながら北富士はそう言うのだった。
それを苦笑しながら、一緒に警備するスウェーデン出身のStrv103…スウェーデン軍の退役したStrv103主力戦車のパーツと能力を備える小さめの女の子…が窘める。
「任務だから仕方ないですよ~」


鯖江に部隊をゲート前に集結させて待機させておくよう言った後、葵に案内されて何棟か並ぶテントまで歩いて行った。
テントの横には非番の軽装甲機動車が1両と、無造作に停め置かれた旧型の方のジープがあり、誰のジープだろうと思いながら一番大きなテントに入ると、座間仁菜が敬礼で出迎えた。
えんじ色のベレー帽に白のパフスリーブ、その上から水色のワンピースを着ているというこれまた自衛官のイメージからは程遠いが、敬礼は間違いなく本職の動作であった。
「御苦労様です!何か飲みますか?」
「いえ、折角ですが、時間が押してます」
市ヶ谷は左右を見回した。「茜さんは?」
「ああちょっと…取り込み中でして…」
「取り込み中?」
「ええっとですね…」
座間は困ったように笑いながら、胸の高さで両手の人差し指の頭を突き合わせた。「習志野さんが怒鳴り込んできたんです。若菜さんと柚子さんを現場から引っこ抜いたものですから」
しかし時間が押している。急いで仲裁する必要がある。
「ふーむ。2人はどこですか?」
座間が答える代わりに、習志野飛音の怒鳴り声が聞こえて来た。
「さっさと返さないとぶっとばすぞ!」
まるで犬が威嚇する時の唸り声みたいだ。
初めての人間なら怯えてしまうだろうが、面識のある市ヶ谷や座間は慣れたもので、「やれやれ」というように視線を交わした。
2人分の足音が聞こえ、最初に木更津茜、そのすぐ後から習志野がテントに入って来た。
「ごめーん!御待たせ御待たせ!」
言葉とは裏腹に快活な調子で茜が右手を挙げた。
茜を始めとして、木更津四姉妹は皆迷彩服を着用しており、陸自娘の中では寧ろ珍しい服装だった…本職の服なのに。
「あ、いえ。今着いたところです」
「そっか。ところで愛ちゃん久し振りだね」
怒りで眼球が爛々と光る習志野なぞどこ吹く風である。
そして習志野の眼は市ヶ谷に向けられた。
「良い所に来た市ヶ谷。こいつにコブラ(若菜のAH-1S対戦車ヘリコプター)とオメガ(柚子のOH-1観測ヘリコプター)を前線に戻すよう言ってくれ」
「ちょっと、妹達を物扱いしないでよ」
茜が頬を膨らまして言い返す。「あと返さないから」
「代わりに寄越しやがったカス校(霞ヶ浦航空学校)アパッチが全然使えねえんだよ」
習志野は今にも噛み付きそうな剣幕だが、茜は一向に取り合う気配が無い。
「使えない使えないってさあ、ちゃんと仕事してるでしょ」
「ふんっ」と習志野は皮肉気に鼻を鳴らした。「ああ仕事してるさ。死にかけてからやっと離陸すくらいにはな!」
本来攻撃ヘリの役割は地上部隊の援護の筈だが、霞ヶ浦航空学校のアパッチはどうやら仕事をしないらしい。仲間が窮地に陥ってやっと離陸するようでは、確かに習志野が抗議してくるのも分かる。
「おかげで何度か死にかけたぞ。スティンガー(個人携帯地対空誘導弾の一種)あったら撃墜していたところだ」
市ヶ谷は素早く思考を巡らす。
状況はこうだ。

習志野は若菜と柚子を返せと言って来ている。代理のヘリがどうも仕事しないらしい。放っておけない。
一方茜は妹達を返すつもりは無い。自分が命令しても絶対に言う事を聞かないだろう。

こちらとしても時間が無い。
そう言えば習志野の要求を考えると、「仕事すれば若菜と柚子で無くとも構わない」という事になりはしないか?

「座間さん」
「はい?」
「近くにいるヘリは?」
座間はは瞬時に市ヶ谷の意図を理解し、後ろの折り畳み机の上のラップトップコンピューターを操作した。
茜と習志野はまだ口論でとどまっているが、習志野がいつ暴走しだすか分からないから気が気で無い。
座間の調べる時間が1時間にも2時間にも感じられたが、実際は10秒程度であった。
「えっと…はい!台湾のスーパーコブラさんと英国のアパッチさんが群馬で活動中です!」
そう報告してから仁菜は難しそうな表情になる。「ああでも…向こうも手が一杯みたいですが…」
「取りあえず聞いてみて下さい。せめて1機でも」
「聞いてみます」
座間はラップトップコンピューターの左側に置かれている通信装置に手を伸ばした。

さて次は…

「習志野さん」
習志野は口論を中止した。茜と一緒に市ヶ谷に注目する。
「何だ?」
「残念ながら、こちらの任務にも差し障りが出てしまいますので、若菜さんと柚子さんはここに置きます」
習志野が条件反射的に反論する前に言葉を継ぐ。「その代わり、台湾のスーパーコブラと英国のアパッチのどちらかを派遣して貰うよう要請中です。カス校のアパッチは暫く…後方で反省して貰いましょう。それでどうですか?」
習志野の眼が疑わし気に細められる。
「…そいつら、本当に来るのか?」
習志野も千葉県の状況を知っているのだ。
「今要請中です」
「市ヶ谷さん!」
座間の声で3人とも振り返った。
「朝霞さんと連絡取れました!台湾のスーパーコブラを派遣してくれるそうです!」
市ヶ谷はまた習志野に向く。
「そういうわけで習志野さん。これで宜しいですか?」
習志野は茜をジロリと一瞥したが、渋々といった様子でまた市ヶ谷を見た。
「…分かった。それじゃあ…」

その時空気を震わすようなブーンという音が、聞こえて来た。
同時に市ヶ谷の通信機が鳴る。
「こちら市ヶ谷!」
「こちら鯖江!ゲートで異変あり!」
しかし音声がざらついており、漸く聞き取れるレベルだった。
市ヶ谷は、向こうに声が聞こえるようにしようと声を一段張り上げる。
「部隊に被害は!?」
しかし空電音はより酷くなった。この謎の音と何か関連があるのだろうか?
「…害無し!ま…音…け…ど……っご…うる…!(被害無し!まだ音だけだけど、すっごいうるさい!)」
「鯖江さん、よく聞こえません!もう1度御願いします!」
が、とうとう空電音が無線機を制圧してしまったようで、何も聞こえなくなった。
「電波障害なんて初めて…」と、茜が呟いた。
仕方無く無線を切り、
「すぐに行きましょう!」
そう言うと、すかさず習志野が
「私のジープに乗れ!」と言いながらテントを出て、無造作に停めてあったあのジープに飛び乗った。

テントを出る前に市ヶ谷は座間に言付ける。
「座間さん、ここを頼みます!」
「はい!お気を付けて!」
助手席に市ヶ谷、後部座席に茜が収まるや否や、「落ちるなよ!」と怒鳴ってから習志野はアクセルをふかしてジープをバックさせてから急に180度方向転換させて、それから素早い動作で前進に切り換えた。

輸送ヘリ点検の手を中断して音の方向を見ていた明野が、目の前を乱暴な動きで横切ったジープに口をあんぐりさせた。

座間はテントから、ジープが走り去っていく光景を心配そうに見送る。
2人が振り落とされないようにしがみつく中、習志野はジープでグラウンドから葛西中央通りに滑り出ると、そのまま道路を走って川の上を渡す橋部分を越えた先にある中左近橋交差点の真ん中に堂々と陣取るゲート前で急停車させた。
ゲートは縦に長い長方形型で、面は東西向きで建っている。
ゲート付近では、調査部隊が既に待機していた。
また、他にゲートを直衛する陸自娘2人の姿もあった。
1人は大宮氷乃という駐屯地娘で、もう1人はドイツ出身武器娘のレオパルト1A5…こちらは旧西ドイツが開発した主力戦車がベースの武器娘…ある。
2人とも立ち尽くしていたが、急行してきたジープで我に返った。
棒立ち状態になるのも無理は無い。
これまでにも異世界と接続するゲートの経験は確かにあったが、このケースは初めてだったからだ。

輸送防護車の上部ハッチから上半身を出していた鯖江が、ジープの助手席に市ヶ谷が座っているのに気付いた。
無線のスイッチに手を触れて何か言ったようだが、ゲートから発せられていると思しき音も手伝ってやはり何も聞こえない。

市ヶ谷が無線が聞こえないという手振りを送ると、鯖江は輸送防護車を飛び降りてこちらに駆け寄って来た。
「状況は!?」
市ヶ谷がゲートからの音に負けないよう声を張り上げた。
鯖江も声を張り上げる。
「音以外は何も!でもこれすっごいうるさい!耳がおかしくなりそう!」
市ヶ谷はゲートを一瞥し、何度も頷いた。これでは耳だけでなく頭もおかしくなってしまいそうだ。
「一旦離距離を取りましょう!(新田)小学校まで後退!」
「了解!」
鯖江が離れて行くと、市ヶ谷はジープの2人を振り返った。
2人とも身を乗り出して市ヶ谷に顔を近付ける。
「小学校まで後退します!」
「分かった!」
習志野はジープを発進させようとしたが、首を捻った。
習志野の肩越しに茜が覗き込む。
「どうしたのお!?」
「ジープが動かん!」
「エンストですか!?」
市ヶ谷が聞くと、習志野はまたも首を捻った。
「分からん!でもジープはアイドリングしてるんだ!」
習志野はジープの操作レバーやアクセルを、もう1度手順通りに操作してみたが、ジープはアイドリングしたまま動かない。
確かにアイドリングを告げる小刻みな振動は市ヶ谷や茜にも伝わって来るし、習志野はジープを正しく操作している。
しかし言う事を聞かないのだ。

ふと輸送防護車の方を見ると、運転手の豊川かるらが困惑した様子で鯖江に何か言っている。
こちらのジープと同じ事が起きているらしいと、市ヶ谷は察した。
鯖江も市ヶ谷の視線に気付き、装甲車が動かない事を手振りで伝えて来た。
こちらもそうだと、市ヶ谷も手振りで返す。
輸送防護車以外も同じ症状に陥っているようで、混乱が広がっていた。
「どうする、市ヶ谷!」
習志野が指示を仰いで来たので何か言おうと習志野の方に振り返った直後。

だしぬけに音量が鼓膜を破りそうな程に跳ね上がり、ゲートから白い光が発生し、球体状に広がって周辺の陸自娘達をあっという間に包み込んだ。
その光は更に膨張して、川を越えて新田小学校の座間や明野、路上の北富士とStrv103をも包み込んだ。

みんなみんな、耳を塞ぎ、目を強く閉じたが、更に等しく襲ってきたのは表現に難い頭痛の嵐だった。
その痛みに各々呻いたり叫んだりしたが、自分の声も聞こえない程に音が大きかった。
市ヶ谷は周りがどうなっているか把握出来ないまま、しまいには平衡感覚を失い、助手席の中でうずくまってしまった。
最後に感じたのは、体が宙に浮いているような感覚だった。

その間、何が起こったのか知る者はいなかった。
あまりにも突然の出来事だったからである。

音が鳴り止み、光が収まった後、ゲート周辺の陸自娘達や新田小学校とその近くにいた陸自娘達は、乗って来た車輛や拠点としていたテント、傍に停車していた車輛、輸送ヘリ諸共消え失せていた。

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最終更新:2020年07月23日 23:57