●PA×艦これ 特設司令部
ゆっくりと航行するフィラデルフィア艦橋の見張り員用の張り出し部に、艦橋の出入りを特別許可された3人の艦娘の姿があった。
3人とも、同じ方角に双眼鏡を向けており、特に瑞鶴は食い入るように前のめりになっている。
最初に双眼鏡を下ろしたのは加賀だった。
「やはり違う世界ね…覚悟していた事だけれど…」
次に瑞鶴、最後に金剛が双眼鏡を下ろす。
3人とも複雑な表情を浮かべながら、フィラデルフィアや国連艦隊がこれから入港しようとしている石巻軍港を見ていた。
瑞鶴は双眼鏡を握る手に力を込めて、落ち着かない気持ちを強引に抑制しながら、素早く思考を巡らせた。
「…何はともあれ、日本に帰って来た。それが大事」
「元の世界デハ…」と、金剛が記憶を手繰り寄せる。「港は確か荒れ放題でしたヨネ…」
「うん。少なくともまだ人は住めなかった筈」
今3人が見ている石巻は、文明が生き生きとひしめいており、破壊された痕跡はゼロだ。
瑞鶴達のいた世界では、深海棲艦の攻撃で徹底的に破壊され、住民達は内陸部へ追いやられるように避難を余儀なくされており、安全宣言が出るまで戻る事は出来ない状態にある。
それとは真逆の光景が、『ここ』の石巻では広がっていた。
「…皮肉なものね」
「え?」
「What?」
瑞鶴と金剛が加賀の横顔を見ると、加賀の口元がほんの僅か、自嘲気味に歪めているのが見て取れた。
「今目の前にしている光景を取り戻す為に今まで戦って来たというのに、期待していた光景は…廃墟の世界…」
瑞鶴達は内心、これまでの出来事が何もかも夢幻であり、実は本土では鎮守府や提督、仲間の艦娘達が待っていてくれているのではないだろうかという根拠の無い願望にすがっていた所があったのである。
眼前にその虚しい望みを否定する材料がこれでもかと示されているのにも関わらずだが、人間の心理というものは、どうしても未練や割り切れなさを残しがちなのだ。
「…そうね」
瑞鶴が同意しつつ、すぐに毅然とした声で、「でもこれで、腹が座ったわ」と言った。
瑞鶴に倣い、加賀と金剛も心を切り替える。
「…まずは、拠点の確保ね」
加賀の言葉に、金剛も頷く。
「それまではこのBattleshipで寝起きデスネ?」
「うん。でもずっと厄介になるわけにはいかないわ」
瑞鶴はまた双眼鏡を目に当てたが、その時ふと、(そう言えば健在な石巻を見たのってこれが初めてだわ)と言う感想が頭の中に浮かんだ。
瑞鶴が正式に艦娘達のリーダーとして任命される。金剛「これが民主主義ネ!」鈴谷「直接民主主義!」
現状の確認。
軍港で野上一尉を連絡将校として特設司令部の候補地の探索に出かける手続き。
石巻で特設司令部の捜索中に鳳翔さんのそっくりさんと遭遇し、艦娘たちは軽く動揺する。
ウィッシュボーンと金剛。
瑞鶴達が東京都に送り出される。
1日戦争勃発。
鳳翔さんの居酒屋もゾイドの弾丸を浴びて大破してしまう。再建に補助金は出るものの、順番待ち状態。
同じ頃、特設司令部の候補地が決まり、居酒屋が再建されるまで鳳翔さんのそっくりさんを特設司令部に誘致する事になり、野上一尉も賛同。
話を聞きつけたウィッシュボーンがひょっこり手伝いに来る。名目は「艦娘追い出し作戦の加速」である。
陸自娘が到着して、共同運用する事になる。
鳳翔さんが感謝の気持ちとして腕によりをかけて料理を作る。ウィッシュボーンもお手伝いする。
艦娘達に割り振られた部屋では、1つの進展が起こっていた。
「私が司令官に!?」
驚きで瑞鶴は思わず上ずった声を上げた。
「何か問題でも?」
平然と問い返すのは加賀。隣で金剛がウンウンと相槌を打っている。
「I agree.」
「え、ちょっと待ってよ…」
瑞鶴は両腕を広げて反論しようとしたが、加賀の平静な声が遮った。
「私達をここまで連れて来たのはあなた。みんなあなたを信頼している。それで十分ではなくて?]
「いや、あれは…」
自分もただ必死だっただけ、と言い掛けて瑞鶴は口ごもった。
加賀が片眉を上げて先を促したので、何故躊躇するのかだけを言う。
「私は…その、指揮を執るような器じゃないわ」
すると加賀は心外そうに瑞鶴を見返した。
「…それが翔鶴型のセリフかしら?」
瑞鶴がじろりと睨み返した。
こんな事を加賀に出来るのは瑞鶴だけだが、周りの艦娘達は一瞬緊張で体を硬くした。
「…あんただって正規空母でしょ」
「それなら私も立派な高速戦艦デスヨ」と、瑞鶴の反論に金剛が肩をすくめ、軽く咳払いした。「Well、実はデスネ、みんなで相談したんデス。ちゃんと指揮官を決めようって」
「え、私聞いてないけど?」
「えーっとね、(金剛さんから)『トップシークレットデース!』って、言われちゃったんだよねー」
鈴谷が笑顔で代弁した。
金剛の発案で、瑞鶴を除く全員が密かに話し合い、奇妙な出来事に巻き込まれた自分達を纏め上げる正式な指揮官を決めたのである。
もっとも、瑞鶴を除いた時点で答えは明白だったが、満場一致で瑞鶴と決まったのであった。
金剛は少し決まり悪そうにする。
「So sorry. But、瑞鶴。瑞鶴は私達を力付けてくれたジャナイデスカ」
全員がうんうんと頷きや「そうそう」に「ハゲドウ(激しく同意)」と同意の声を上げる。
「いや…あれは…」
「本心じゃないと?」
ピシャリと問い返したのは加賀である。
今度はギョッとしてこちらを見た瑞鶴に、加賀は尚も問う。「あれは嘘偽り?」
「い、いや、違うわ…」
「でしょうね。だから私達は力付けられた。本当の意味で、希望を持つ事が出来た。あの訓示は、あなただから出来た事」
理詰めで迫る加賀。
だがその眼は、瑞鶴に心底から指揮官になって貰いたいと言う願いがこもっていた。
いつもならカッと来て更に言い返す瑞鶴だが、加賀のその眼に圧倒されて何も言えなくなった。
その空気を察して、金剛が畳みかけて来た。
「だからデスネ瑞鶴。是非御願いシマス」
42の眼差しが瑞鶴に向けられる。
瑞鶴は少し俯き、暫し押し黙った。
期待の沈黙がその場を支配する。
だが瑞鶴の心の声も、自分が引き続き指揮を執るべきだと囁いていた。
それで考えは定まったが、腹を決めるのには更に2秒要した。
そして瑞鶴は顔を上げた。
「…分かった。私が指揮を執るわ」
次に議題となったのは、それぞれの役割の割り振りである。
まず、加賀と金剛が副官に決定した。以後は瑞鶴、加賀、金剛の3名が異世界に飛ばされた22名の艦娘全体の動きを決定する。
最終決断するのは瑞鶴だが、加賀と金剛はその補佐を担う。
次に、通信担当が榛名、情報担当が青葉、整備担当が夕張、補給担当が衣笠、訓練担当が神通に割り振られ、これらを他の艦娘達が補佐する事となった。
これらが決定すると、次は当面の任務が議題に上がった。
「東京ねえ…」
瑞鶴は慣れない仕事に早くも疲労で思考停止しそうになっていたが、ひとまず直近のスケジュールを決めなければならない。休むのはその後だ。
金剛が淹れたアッサムティーをぐいと飲み干し、気合いを入れ直す。
マクスウェル艦長に同行する形で、艦娘達も東京に行って情報収集する事になっていた。
艦娘は6名で『艦隊』を形成するが、今回も同じ6名で東京派遣チームを選抜する事になっていた。
「私と加賀でまず2人…」
瑞鶴が指折りでカウントする。「金剛、留守は任せたわ」
「Understood...ア、ma'amはいりマスカ?」
「いらない」
「で、あとの4人は?」と、加賀が話を進める。
「1人は夕張。技術的な視点が欲しい」
「そうね。それで3人」
「あとは…」
瑞鶴は、自分を半円に取り囲む艦娘達を順繰りに眺めて行き、陽炎と黒潮に目を留めた。
「…そう言えば、陽炎と黒潮って適応が早かったよね?ほら、ジーラさんやザラクさんと仲良かった感じだし?」
陽炎が思い出すように首を斜め上向きに傾げた。
「あー、そう言えば、そうだったかな?」
「せやな。うちら適応出来てるかもしれへんな」
そんな2人に神通がぞっとする冷たい笑顔を向けた。
「司令官にタメ口ですか?」
「あ、すみません!」
「ごめんなさい!」
一瞬で顔色が蒼くなった陽炎と黒潮に瑞鶴は苦笑した。
瑞鶴にとっては別にため口でも構わなかったが、神通はその辺りの筋はキチンと通してくるのだ。少なくとも、自分と自分の部下には徹底させるようである。
「じゃあ、陽炎と黒潮を入れて5人…」
「瑞鶴さん、私も行きます。それで6人です」
そう言ったのは他でも無い神通だった。
「神通が?」
「はい。(2人が)さっき瑞鶴さんにため口をきいたので、ちょっと見張っておかないといけませんから」
神通がまたにっこりと笑って陽炎と黒潮を見ると、2人の顔が青みを増した。
病気やがなそれでは、と言いたいところだが、神通はそれ程恐れられているのだ。
「ああ、全然気にしてないから、大丈夫だよ?」
と、瑞鶴はフォローを入れたが、そんなものは何の役にも立たないというように2人の顔色は悪化する一方だった。
「…とまあ、冗談はさておき」
神通の後付けで、やっと2人の顔色に血の気が戻って行ったが、それまでの恐怖でかなり消耗したらしく、激務で疲労でもしたかのような哀れな様相になっていた。
そんな2人を気にせず、神通は大真面目に説明する。
「この2人の上司で責任がありますし、2人の指揮を直接執れるのは、私だけです。あとの3人は、木曾さんに預けます。二水戦が二手に分かれますが、まず問題ありません」
あとの3人、即ち不知火、霞、霰は椅子の上で神妙に姿勢を正していた。
さっきの『冗談』が、二水戦の駆逐艦娘全員をピリッとさせたようだ。
そればかりでなく、他の駆逐艦娘達もいつの間にか居住まいを正している…あの時津風でさえ。
神通は優秀な『下士官』であり、木曾もまた然り。
そして優秀な下士官が揃っている軍は精強を意味する。
木曾も異論を唱えないし、神通の判断に間違いは無いだろうと、瑞鶴は考えた。
「なるほど。分かったわ。じゃあ私、加賀、夕張、神通、陽炎、黒潮で編成するわ。留守中は金剛が代理で指揮を執る。良いわね?」
話はそれで決まった。
出発前。
「お気を付ケテ」
見送りに来た金剛の言葉に、瑞鶴は頷いた。
「そっちもね」
「Good newsがあると良いデスネ」
瑞鶴が隣の加賀を見やった。いつもならいじりの一言でも掛けるのだが、今はそんな状況では無い。
文字通り、死活問題に見舞われているのだ。
加賀が、心配そうにこちらを見る瑞鶴を見返した。
「…変わったわね」
「嫌でもそうなるわ」
「出発しますよー!」
後ろから夕張が、高まっていくジェットエンジン音に負けないよう声を張り上げた。
「オッケー!」
瑞鶴が手を振って答え、金剛にまた頷くと、ヘリコプターに乗り込もうとした。
と、その直前。
瑞鶴がまた振り向いて金剛に言った。
「もし万が一の事が起こったら、全力で協力して!」
金剛の顔が一瞬ハッとしたが、すぐに表情を引き締め、
「Affirmative!」と答えた。
それから十数秒後、金剛達の見ている前でマクスウェル艦長や瑞鶴達を乗せたヘリコプターがふわりと空中に浮かび上がり、高度を取ると東京に向けて飛行していった。
「青葉、行きたかったなあ」
金剛は、残念そうに肩を落とす青葉の肩に手を置いた。
「Never mind. ココでも色々情報を仕入れられマスヨ」
ナガト応接室。
石巻軍港勤務の女性尉官が派遣されてくる。艦娘と国連艦隊の連絡将校であると共に、フィラデルフィアのミシェル大尉との連絡役でもある。
豊田提督から直々に任命される。
名前は野上美鈴一等海尉。アメリカに留学経験を持ち、英語が堪能。
金剛が即応部隊を編成。金剛、鈴谷、熊野、木曾、吹雪、時雨。
野上一尉と挨拶。ミシェル大尉も御一緒。
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●エステバン・B・ウィッシュボーン
フィラデルフィアの料理長。整ったひげ面で体格がいいテキサス州出身のスペイン系アメリカ人。料理の腕前は一丁前でクルーにも好評。
退役後は自営業のレストラン開店を夢見ており、今はその貯蓄中。口が悪い。
●星洋子…国連艦隊将兵から慕われる居酒屋の女将。通称おかん。弓道を嗜んでいる。艦娘の鳳翔のそっくりさんで艦娘達を軽く動揺させる。
ウィッシュボーン「こう言っちゃあ悪いんだがねお嬢ちゃん。あんた方には、一刻も早くここから出て行って貰いたいんでさあ」
金剛「Why?」
ウィッシュボーン「メシのなくなり具合が半端じゃねえんだ。まるで決壊したダムの水みてえだぜ。ただでさえ食い意地張ったクルーがわんさかいるってえのに」
榛名「え、私は控えているつもりなのですが…」
ウィッシュボーン「じゃあそのマッキンリーばりに山盛りのマッシュポテトは何なんだよ。グレイビーソースもこってり掛けやがって、まるでキャラメルアイスクリームじゃねえか」
榛名「あ、これは、その…お姉さまに頼まれまして…」
ウィッシュボーン「共犯じゃねえかそれじゃあ」
霞「あーあ、全く…」
霰「霞姉さんも、よく食べる…」
霞「はあ?どこがよ?」
霰「私より多い…」
そう言う霰のプレートは、表面積の3分の1しか料理が乗っていない。
霞「あんたが逆に少ないのよ。ほら、分けてあげるから」
霞が自分のプレートのマッシュポテトをスプーンですくって霰のプレートに乗せようとする。
霰「霰…そんなに食べない」
霞「体に悪いってば」
霰「パワハラ…」
霞「なんでパワハラなのよ!」
不知火「パワハラですね」
霞「おかしいったら!」
陽炎と黒潮がいなくて良かった。
矢矧「ほらほら、冗談はそこまでにしなさい」
霰「はい( ´艸`)」
矢矧が苦笑しながら取りあえずその場を収める。軽巡としての指導力の成長の一端。
とは言え、ウィッシュボーンは後に手作り料理を大量に新拠点に送って来てくれる。
これが後のバーベキューパーティーに繋がる。
現在考えている構成
<前編>
1:フィラデルフィアと国連艦隊の石巻入港
2:フィラデルフィア艦内。艦娘艦隊再編成
3:瑞鶴達の出発
4:金剛代理の指揮
5:ウィッシュボーン登場
<後編>
6:拠点探し班と鳳翔そっくりさんとの出会い(国連艦隊クルーが同行)
7:陸自娘飛来
8:拠点決定とBBQ企画
9:BBQ準備(ウィッシュボーン助太刀)
10:BBQ
PA本編を確認して時系列に矛盾が無いように注意。日にちが大きくジャンプする場合は「XX日後」と但し書きする。
どうしても矛盾が生じる場合は構成を入れ替える。