8章6話より
仙台湾で繰り広げられている敵性ゾイドとの海戦。
海上防衛隊や国連第3艦隊は、無人の偵察機や爆撃機などを前線に展開させて“囮”とし、
敵性ゾイドたちの爆撃によるダメージを最小限に抑えるべく奮闘していた。
それでもそのドローンを掻い潜り、何発ものビームやミサイルが艦隊の至近に飛んでくる。
「くそっ……埒が明かない、これじゃジリ貧だ!」
「艦長、国連艦隊旗艦のナガトから通信です……高速ミサイル艇の特殊部隊を前線展開するため、
ミサイル艇の周囲には弾幕を張らないよう願うとのことです!」
「高速ミサイル艇だと……そんなもので、ロボットみたいなあいつらに通用するのか?」
間もなく海防艦隊の後方から、1隻のミサイル艇が波を立てて前線に出てきた。
「おいおい、たった1隻じゃないか……豊田司令は何を考えて―― んんんっ!?」
そしてそのミサイル艇の後方から――6人ほどの“人影”が海上に直立する姿勢で付いてきたのだ。
戦艦フィラデルフィアから“出撃”した“艦娘艦隊”である。
斥候に駆逐艦娘の吹雪と時雨、その背後に10mほど離れて戦艦娘の金剛と軽巡洋艦娘の木曾、
殿に航空巡洋艦娘の鈴谷と熊野が“複縦陣”で航行している。
「あれって確か……天皇海山列の近海で保護したという……」
「あぁ……軍艦の記憶を持つ異世界の戦闘員、だったか……しかしまさか、こんな形で……!?」
海上防衛隊にも、国連艦隊がミッドウェイ海域で保護した、艦娘たちの情報は送られている。
理解できるかどうかはともかくとして、彼女たちが過去の戦争の記憶を持つ“戦士種族”であることも、
防衛隊の将校たちには伝わっていたために“見たことのない人材”ではなかった……しかし。
幾ら何でもその“異世界の戦士種族”が、武装を直接背負って海上を航行するなど――想定外だった。
旗艦の役目を負った金剛は、“標準装備”の主砲と副砲に加えて、細長い連装ランチャーを2基抱えている。
フィラデルフィアの倉庫に積まれていた、特殊作戦用のマイクロミサイルである。
何しろ彼女たちは“演習用装備”しか持ち合わせていないため、実戦では弾薬が足りなくなる恐れが高い。
そのため武装プラットフォームとして余裕のある戦艦娘や巡洋艦娘に、
特殊部隊が装備するマイクロランチャーを別途、装備させることにしたのだ……ミフネ副艦長の案である。
駆逐艦娘にも、RPGに似た先込め式のロケットランチャーを持たせている。
実はこれ、ただのロケットランチャーではない……ジャミング工作を意図したEMPランチャーである。
砲弾が炸裂すると、弾頭に仕込んだ重水素式爆縮ユニットが反応し、電磁パルスを放射するのだ。
21世紀半ばの“近未来テクノロジー”の恩恵を受ける、地球連合軍ならではの装備とも言えるだろう。
本来はミサイル艇や特殊部隊が集団で使うレベルの装備だが、艦娘たちは各々が単独でそれを扱えるのだ。
「皆さん!使い方は分かりマスネ!?」
金剛の念押しの確認に、各艦娘がそれぞれ応答する。
「問題ありません!」
「大丈夫だよ、任せてくれ…!」
「おうよ!」
「いつでもどーぞ!」
「大丈夫ですわ!」
直後に吹雪が目標を視認する。
「1時の方向!〇〇m先に敵艦多数!」
「All right ブッキー! Commence firing!」
「了解!」
吹雪がランチャーを構えた。
自分の連装砲を扱う時と同じように、相手の動きから未来予想位置を探る。
一方、海上を疾駆してくる、爆撃ドローンよりも小さな“敵”を察知し、
数機のハンマーヘッドやウォディックが旋回する――まさにその直後、上空で強烈な光が輝いた。
艦娘艦隊の先頭にいた、吹雪が解き放ったEMPランチャーが炸裂したのである。
このEMPランチャーの弾頭は、撃墜リスクを下げるために多面体のステルス構造を持っている。
レーダーシステムに混乱を来たし、海戦ゾイドたちが隊列を乱したところに、金剛の主砲がピタリと狙いをつけた。
右腕もゾイドたちに向かって真一文字に伸ばされている。
「Fire!」
再度爆音が響き渡り、そして3秒と経たないうちに、海上に爆雷でも炸裂させたような水柱が何本も立ち上がった。
本来の“戦艦金剛”と同じ威力ではないが、迫撃砲よりも強力な1撃だ。
この内の1発が、先頭のウォディックの背中の大口径ビームガンに直撃し、破片を撒き散らした。花のように開いた傷口から煙が上がる……みるみる速力が落ち、ダメージを受けているのが分かる。
「Blow up!」
そして更にその“傷口”に、マイクロミサイル数発が、手負いの獲物に襲い掛かるピラニアの群れのように追い討ちをかけた。
動力源と接続している大口径ビームガンに穿たれた傷口にミサイルを集中されてはたまらない。
間もなく被弾したウォディックの背中で複数の爆発が連鎖し、ウォディックは忽ち航行不能に陥ると、そのまま力尽きるように沈んだ。
その一部始終を目撃した、海防艦隊の将校たちが目を見張る。
「沈めやがった……俺たちがあんなに苦戦したやつを、1分も経たないうちに……」
「戦い慣れていますね……錬度も高い、見た目とは違って熟練の戦士なのですね。
しかし……2人か3人で1機を相手にするのでは、有利になったとは言えないのでは?」
「確かにな……そこは我々がフォローしろってことなんだろう。
よし、今のを見たな、隊列から外れたターゲットは深追いするな、我々は防衛ライン維持に徹する!」
「なるほど……隊列を外れたやつらを、彼女達に任せるということですね!」
仙台湾の戦況が、艦娘たちの参戦によって、徐々にではあるが変わり始めていた。