DINOGATOR/プレデターフィールド・SYUGEKISYA

南米大陸にあるコロンビア共和国のカリブ海に面する沿岸部のとあるマングローブ林。

そこにはヨーロッパに向けて麻薬の一種であるコカインを密輸しようとする全長20m程の麻薬密輸用潜水艦が入江より更に奥深く行った河川に身を潜めていた。

「急げ。出発まで1時間切ったぞ」
「分かってるって、そう急かすなよ」

木の板で足場を固めた陸地から作業のペースアップを催促する男に、潜水艦の上の太った男が手を振りながらそう言い返した。「お前も来て手伝えよ」

「あ?あんまり舐めた口利いてるとワニの餌にするぞ?」

催促した方の殺気を感じ取った太っちょは、

「なんだよ冗談だって。そうマジになるなよ」

と逃げ口上を言って作業を続行した。
一方、催促男はまだ苛立ちが抑えきれないようだ。

「おい。まだ積み込みが半分しか終わってねえんだぞ」
「分かってる。急ぐよ」

太っちょはさっきよりも真剣にそう答え、動きを速めた。
それを見て、催促側はやれやれと首を振って踵を返し、テントに向かった。
見張り役の傭兵が一瞬こちらを見たが、AK-74突撃銃を抱え直してまた周辺を警戒し始める。
今のところ、コロンビア陸軍の気配は無いが、よくよく注意していないと奇襲されて瞬く間に逮捕されてしまうからだ。
そうなれば自分達が所属する麻薬カルテルの犯罪の証拠が明るみに出されてしまい、賄賂で買収している警官でも動かざるを得なくなる。

それに、その不手際をこちらが命を持って償う羽目になる…想像もしたくないような拷問の末に。

男は自分の所属する麻薬カルテルを裏切ったメンバーや、公然と麻薬カルテルを批判した公人がそのような末路を辿る光景を何度か見て来ている。
その幾つもの残虐な場面がフラッシュバックし、男は思わず身震いして立ち止まったが、それを振り切るようにしてまたテントに歩き出す。

テントに入る直前、男は自分達を取り囲むように守ってくれている傭兵達を見回して気持ちを落ち着けた。
ちょうどテントの中のテーブルの上にはテキーラ入りのボトルがある。
それを一口あおって、気付け薬の代わりとしよう。

そう思ってテントの入り口の幕をめくった直後、あの太っちょの叫び声が聞こえ、さっと振り返った。

さてはコロンビア陸軍、ワニに襲われる危険を冒して川の中から潜入してきたのか?
走りながらそう考え、同時に腰のホルスターのリボルバー拳銃に反射的に手が伸びる。

傭兵達も銃を構えながら、潜水艦の方に走って来る。

と、男は何か巨大な動く物体を見た。
コロンビア陸軍等、自分達を狙う組織からの発見を恐れて灯火管制をしている為、何かはハッキリ分からなかったが、それは確かに巨大だった。
高さは数メートルだろうか…

「なんだ、ありゃあ…?」

男は怪獣を知らない世界側の犯罪者だった。
その為、常識はずれの大きさをした生き物…なぜ生き物だと判断出来たのだろう…を目の前にして思わず棒立ちになってしまったが、リボルバー拳銃の撃鉄を倒し、その正体不明の生き物に銃口を向けた。

と、物体がこちらを見た気がした。
引き金を引くと同時に、その物体がこちらに突進してきた。

結局、最期まで男はその物体の正体は分からずじまいだった。

 

DINOGATOR
プレデターフィールド/SYUGEKISYA


数日後。

「なあチコさんよお。俺はボスに今すぐ報告しなきゃならねえんだ。どうして軌道に乗った新規ビジネスが頓挫したのかってな!」

コロンビアの麻薬カルテル「チコ・カルテル(架空のカルテル)」のアジトで、テーブルの向こうで悠然と座るボスのチコに向かって口角泡を飛ばすのは、スペインの犯罪組織「アルバレス・グループ(架空の犯罪組織)」の幹部、マルセロだ。
今にも掴みかからん勢いのマルセロに対し、チコの護衛が半歩進み出て身構えるが、チコが手で制したので元の位置に戻った。

チコは芝生のように綺麗に刈り揃えた髭を撫でながら、

「マルセロさん、どうか落ち着いて。もうじき連絡が入る筈だ」

チコの目の前には衛星電話が立てられており、直後に着信のビープ音が鳴る。
チコはあくまでゆっくりとした動作で衛星電話を手に取り、通話ボタンを押した。

「…ペドロか。で?おう…おう…そうか。後で確認する。ああ。引き続き調査を頼んだ」
「それで?」

チコは衛星電話をテーブルに置き直した。

「どうやら不運にも、我が密輸潜水艦の拠点が巨大なモンスターの襲撃を受けたらしい」

マルセロが俄かに殺気立つ。

「おいてめえ。適当な事ぬかすと…!」
「気持ちは分かるよマルセロさん。だが、『我々の世界』の事を思い出してくれ」
「ああ、でっかい怪物が跋扈しているんだってな?信じられるか、そんな話」
「無理もない。ではその証拠をお見せしよう」

チコは立ち上がった。「まあ、『我々の世界』の一端に過ぎないがね」

不審に思いながらもマルセロはチコに案内されて、アジトの一角に向かった。
厳重にロックされた分厚い扉が開き、その先を進むと、マルセロは驚きで目を見開き、息を呑んだ。

「なんだよ、こりゃあ…」
「『我々の世界』へようこそ」

2人が目の前にしているのは、防弾ガラスで仕切られた檻だった。
檻の中はクモの糸が乱雑に入り組んでおり、その中にゾウ程のサイズはあろうかと言う巨大なクモが鎮座していた。
そして巨大グモの足元には、服を着たままのミイラが何人も転がっている。

「実に興味深いだろう?」
「未だに信じられん…でも、どうやら、本当のようだな…」

まだ呆気に取られているマルセロを、チコは楽しむように見上げる。

「こいつの糸は高く売れてね。非常に強靭なロープになるのだよ。それに、裏切者や敵も処刑してくれる」

その時、護衛の1人がチコに歩み寄り、耳打ちする。
チコが頷くと、護衛も頷き返してもと来た道を戻っていく。

「さて、マルセロさん。我が潜水艦の拠点を襲ったという怪物の証拠をお見せしよう。そろそろ新たな情報が入ってきている筈だよ?」

チコとマルセロがこの一室を仕切るあの頑丈な扉を出た時、正面から2人の屈強な手下に抱えられた1人の男が引きずられてくるのが見えた。
引きずられている男は喚きながら暴れているが、屈強な手下が2人がかりでは逃げられない。

途中、男はチコを認めて懇願した。

「ボス!お願いです!この償いをするので殺さないで下さい!」

チコは元メンバーだったらしいこの男を冷酷に見返した。

「別に殺したりはせんよ。試練を与えるだけだ。今からきっかり24時間、クモの部屋の中で生き延びる事が出来たら赦してあげよう」
「確認しました、ボス」

男を引っ立てていた2人のうちの片方が、腕時計を見ながら言う。

「よし。連れて行け」

再びチコとマルセロが歩き出すと、入れ替わりに屈強2人組と、『試練』を与えられた男が分厚い扉の向こうに消えた。

 

一方、コロンビアの内陸部では。

「漁村の住民は全員見当たりません」
「全員拉致されたのでしょうか?」
「理由はともかく、その可能性もあるが…薬莢が見当たらん。それに、なんだって家屋を派手に壊したりするんだ?重火器レベルの破壊だが、その痕跡じゃない。まるで…巨人が荒らしたみたいだ」

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最終更新:2023年05月01日 23:36