<書置きはあくまでアイデアの保管場所であり、内容や文体は予告なく変更される場合があります。予めご了承下さい>
強酸液を纏って切れ味を増したハサミと髭のように長い触角は、『ノッケン』の船底をマンゴーのようにたやすく切り裂いた。
艦の電源が停止し、船体中央の舷側が膨らみ、露天甲板に稲妻のような亀裂が入ると、煙突やアンテナ付きマストを跳ね飛ばして中型個体の刺々しい顔が飛び出してきた。尚も触角とハサミから強酸液を滴らせながら。
まるで巣穴の出入口を掘削したモグラのようである。
船体の前後は今や歪んだ左右舷側で辛うじて繋がっていたが、互いを支え合うにはもはや強度が足りなかった。
急激な浸水であっという間に艦首と艦尾が持ち上がってV字型に折れ曲がり、中型個体が追い打ちにハサミで自分の周りを叩き刻んだおかげで遂に真っ二つに分かれてしまった。
それでも隔壁ハッチの閉鎖で辛うじて残骸の浮力は残されていたが、もはや時間の問題だった。
生き残った乗員達は脱出を図ったが、急角度で傾いた艦内の移動は困難を極めた。その上、しっかりとロックしたハッチのフレームが歪んで開かなくなり、閉じ込められてしまった者もいた。
幸運な何人かの乗員は甲板を這うようにしながら命からがら海に飛び込んだが、多くは艦内に閉じ込められたまま艦と運命を共にする羽目になった。艦橋の要員も、出入口から流入してきた海水に押し戻され、急速に沈んでいく艦の中で命運が決した。
隔壁ハッチの閉鎖は沈没まで僅かな猶予を稼ぐと同時に、二度と開かない棺桶の扉と化して仇となったのである。