授業が終わった後,私と楓は街に出た。まだ早い時間なので,学生の数も少ない。
 私は先に立って,一軒のカフェに入った。
「これは,おいしそうでござるなあ」
 運ばれてきたプリンに,珍しくうっとりとした顔をする楓。
「ここの人気メニューらしい。カラメルソースに秘密があるとか」
「これは意外。真名は,和風の甘味が好きだと思っていたのでござるが」
「私だって,タウン情報誌ぐらい見るさ」
 楓の好みそうなメニューのある店を探すため,とはとても言えない。 
 それからしばらく,私達はたわいもない話に花を咲かせた。
 ふと,楓の携帯に貼られたシールに目が留まった。
「それは?」
「これでござるか?京都の修学旅行で,班のみんなと撮ったものでござる」
 そう言って見せてくれる。それはプリクラだった。超や春日達と一緒に,楓が写っている。
 いいなあ。私も楓と写りたい,素直にそう思った。
 それを見ていると
「真名,よかったらこれからゲームセンターに行かぬか? 拙者,やりたいゲームがあるのでござるよ」
「私は別に構わないが……」
 そう言いながらも,私の心は浮き立っていた。何がやりたいのかわからないが,これはチャンスだ。もしかしたら
楓とプリクラを撮れるかもしれない。
 はやる心を抑えながら,勘定もそこそこに私達はカフェを後にした。

「ふーん……」
 久しぶりに来る店内に,私は圧倒された。所狭しと置いてあるゲームの筐体に,店中に響く音楽。
 私は歩きながら,さりげなく店内を見渡した。左手の方に,プリクラの機械が数台置いてある。
「これこれ,これがやりたかったのでござるよ」
 それは,クレーンゲームだった。中に動物のぬいぐるみがたくさん入っている。
「あの茶色いタヌキのぬいぐるみが,ほしいのでござる」
 それなら私がプレゼントするのに,とはさすがに言えない。さっそくコインを入れて,動かし始める楓。
「む? これはなかなか……」
「もうちょっと右じゃないか?」
 そんな風に何度か繰り返したが,惜しいところで取れない。
 かわりに私がやってみることにした。楓にいいところを見せるチャンスだ。
「……」
 だが,そう簡単でにはいかなかった。
「真名,もうよしとするでござるよ。拙者があと一回挑戦して終わりにするでござる」
 するとその一回ですんなりと取れた。ぬいぐるみを手に,喜ぶ楓。
「よかったよかった。真名の手伝ってくれたおかげでござるよ」
 そうは言ってくれるが,私の手で取りたかったものだ。

「真名は何かやりたいゲームはないのでござるか?」
「そうだな……」
 私は言葉を濁して,店内を歩く。プリクラの機械の横を通ってみたが,楓は何も言わなかった。
 自分から撮ろうと誘うのは照れくさいが,このままではどうにもなりそうにない。よし,こうなったら。
「なあ,楓。せっかくゲームセンターに来たのだから,対戦してみないか?」
 負けた方が勝った方の言うことをきく,という常套手段を取ろう。すると楓は
「いいでござるよ。食券でもなんでも賭けるでござる」
 にやっと笑って乗ってきた。
 ガンシューティングでは,あからさますぎる。まずは普通のシューティングゲームで勝負。
5万5千点対5万2千点で,私の負け。いきなりこれはまずい。
次は,対戦格闘ゲーム。
「むむっ,やるな楓」
「真名こそ,さすがでござる」
 白熱したものの,3対2で私が負けた。
自動車レース,最初は私が余裕だったのだが。
「くっ……しまった」
「今のうちでござるな!」
 スリップした際に,追い上げてきた楓に抜かれてしまった。

「はあ……」
 結局負けてしまった。ガンシューティングもやってみたが,これは私の勝ち。しかし,これで挽回できる
ものではない。
「では,真名に言うことをきいてもらうでござるかな」
「何だ? 何でも言ってみろ」
 まあ,楓の言うことなら別にきいても構わない。
 連れて行かれたのは,プリクラコーナーだった。
「二人でプリクラを撮るでござるよ」
 楓は笑って言う。
「プリクラ? こういうのは,私達には似合わないんじゃないか?」
 私は顔が緩みそうになるのを必死で抑えながら,何気ないふりで中をのぞき込んだりする。
「真名がさっきから,ずいぶん気にしてる様子でござったからな」
「あ,あれはその前に話で出てきたからで……」
「まあまあ,中に入るでござるよ」
 ぐいぐいと押し込まれる。そしてフレームを選んだりと,なんのかんのいいながら楽しんだ。
「真名,もっと横に近づくでござる」
「こ,こうか」
「それと,笑顔だといいでござるな」
 タヌキのぬいぐるみを抱いて立つ楓。隣に立つと楓の髪からいい香りが漂ってきて,私は戸惑った。
 そうして出来た,プリクラのシートを渡される。
「これを携帯電話や,手帳に貼り付けたりするのでござる。満足したでござるか?」
「あのな楓,私はお前がやりたそうだからついてきただけで……」
 そう言いながらも,私は丁寧にシートを鞄の中にしまうのだった。

 そして夜。嬉しそうに手帳にプリクラを貼り付ける私を見て,刹那が言った。
「龍宮,それはプリクラか? お前にしては珍しいな」
「い,いや,これはただのシールだよ。貰った以上は,使おうと思ってな。さあ,寝るぞ」
 携帯電話を裏返した。そこには私と楓が仲良く映っているプリクラが貼ってある。
 今夜はいい夢が見られそうだなと思いながら,私は眠りについた。 

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最終更新:2007年04月10日 04:24