季節外れの桜は
見事なまでに咲き誇り
静かに散っていった

【桜花の理】


それは楓のすっとぼけた一言から始まった。
「桜の花でも見に行かぬか?」
「何?」
今は真冬。桜といえばそれは春。
花見などこの寒い季節にするものではない。
「春になったらな。」
大切な仕事道具を磨きながら私は答えた。
「明日いくでござる。」
「明日?お前はあほか。花見は春にするものだ。」
頭が弱いとは思っていたが、ここまで弱いとは思ってもいなかった。
「桜が、咲いているのでござるよ。」
「お前の頭の中には年中咲いてるのかも知れないがな…」
近衛や刹那の脳内が今お花畑のようだが、とうとう楓にまで伝染したのか。
そんなことを呟いていると後ろから苦無が飛んできた。
「拙者は刹那たちと違うでござる!みたのでござるよ、桜を。」
「夢でも見たんだろうよ。ほら、寝るぞ。」
「だからこの目でしかと見たのだといってるのに。」
「こんな時期に桜が咲いているわけないだろう。」
「咲いていたのでござるよ!うそだと思うなら明日見に行くでござる!」
あまりに必死に楓が言うので、仕方なく頷いてしまった。
楓にはかなわない。

翌日。
楓につれられてやってきたのは学園から少し離れた山奥。
「この辺りでよく修行してるのでござるが。」
山奥育ち故、このような景色のほうが落ち着くでござるよ、と楓はいう。
いつか一度楓の生まれ故郷にもいってみたいものだ。
楓について山奥へ入っていく。
進めば進むほど木は生い茂っていく。
好き好んでこんな場所に来るひともいないだろう。
そして。


「ついたでござるよ。」


確かに桜は咲いていた。
葉さえ落ちた木々の中で一本だけ、それは見事なまでに咲き乱れていた。
「うそではなかったでござろう?」
そういって桜の下に腰を下ろす楓。
「ああ…」
まさに今が見ごろ。

「まだ刹那を忘れられないでござるか?」
不意に楓が口を開く。
「そんなこと…」
「わかってるでござるよ。拙者もそこまで馬鹿ではござらぬ。」
「刹那はただの仕事仲間で…」
かつて、私は刹那に思いを寄せていた。
しかしその思いは届くことなく散っていった。
思い出すだけでも胸が痛む。
「忘れろとは、いわぬでござるよ。」
楓は優しい。
傷ついた私を救ってくれたのは楓だった。
「ただ、拙者がいつでもそばにいるということを忘れないでほしいでござる。」
唇に柔らかいものが触れる。
いつもそうだ。
私をうまくコントロールしてくれる。
必要としている言葉を与えてくれる。

風が吹き、桜の花びらを散らす。
『桜』が『楓』を隠していく。
失ってしまうことが怖くて、私は必死で楓を求めた。
楓の声が、吐息が、熱が愛おしい。
私の指の動きにあわせて楓の肢体が跳ねる。
色っぽい。艶かしい。
全身に余すところなく舌を這わせる。
「ぅ…ん…んはぁ…」
楓の声で私の脳は益々覚醒されていく。
「ま・・・な・・・」
楓の声で、限界が近いことを知る。
いっそう指の動きを早め、私のすべてを楓にぶつける。
刹那への想いさえも・・・
「んはっ・・・ん・・・あ、あ、あああっ」
最上級に美しい声を出して、楓は果てた。

「拙者が、刹那に嫉妬しないかといえば、それは否でござる。」
服装を正しながら楓はいう。
「拙者とて女でござるから、嫉妬くらいするでござる。でも・・・」
そういって楓は私を抱き寄せる。
「今は真名が隣にいて、真名が拙者だけを見ている。それが一番の幸せでござるよ。」

今夜は雨が降ると聞いた。
きっとこの桜も花を落としてしまうだろう。
それと同じように。
私の心に根付いていた『桜』も・・・
散っていく気がした。

<了>

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最終更新:2007年04月10日 04:35