彼女曰く、人の性格は、構える銃身と目付きとで分かってしまうとのことだ。

【銃身と目付きと心情と】

構える銃身(この場合は軍か部隊かに限られるが)の振るえ具合、握り方、
全てから計算して、大体のパターンに当てはめるということらしい。
そんな難しいこと、何がよくてやっているのだろう……。
私はいつも疑問だ。

目付きについては、私も同感。
しかし、それで性格を当てるまでの洞察力を私は持っていない。

――そう。
彼女と、私が初めて会った日。
確かに彼女と私は〈初対面〉だった。
何十人という人間を〈初対面〉と認識する、その日に。

彼女は、疑わしい目で私を見ていた。
まるで、初めて会ったのではないかのように……。

今も脳裏を離れない、その映像。

―――――――
その話について、詳しく彼女に聞いたのは、
彼女とそれなりに仲良くなった……そのときだった。

「……じゅうしん?」
そっちの世界に疎い私は、その単語に聞き覚えがなく、口の中でその単語を転がした。
どうも、しっくりこない。
私は、繰り返す。
「じゅうしん…………」
「三点リーダー多いな」
そう言う、目の前の彼女の名は龍宮真名である。
ホームルーム前の教室の座談会。
今日は双子が風邪で欠席。
他の人間は、すでに友を見つけ、会話を交わしている。
おとなしく席に座っているのも暇だから、ちょうど近くにいた真名に声を掛けたというところだ。
―――――――――――
彼女についての感想は、『とにかく厳格そう』という、それだけだ。
クラスで聞いた声は、かなり低く、男かと思った。
――少しだが、好奇心があったのも、本当である。

まず、案外快く会話相手として、自分を認めてくれたのに、少し驚いた。
次に、案外物腰が柔らかだということ。

そして、一番最初に話したのが、その銃身と目付きについての、その話題だった。
――――――――――

彼女は一つ、ため息をついてから言う。
「銃身な。銃って知ってるか?」
「あ、ああ。確か――飛び道具の一つやらなんやら…」
「飛び道具って……」
彼女は一度、口元を緩めた。あまり笑わないが、笑うときはちゃんと笑うのか……。
「その飛び道具のな、」
わざわざ、私の使った単語を使うのは、私をからかっているのか?
「拙者は女同士の関係はよくわからんでござるよ……」
「何がだ?」
「いや……」
少し落ち込む私を、疑問を浮かべる顔で見ながら、真名は話を続ける。
「銃身ってのは、その銃のボディのことだ。『ボディ』は分かるか?」
「わからん」
「本体……といえば分かるか?」
「ああ、その物体そのものということでござるな?」
「そうそう」
「それが……どういう?むしろ、本物を見たことないでござるからなぁ……」
「そうか!」

急に、真名の目が光った気がした。

「ならば見せてやろう!これが強い貫通力!初速のスピード!
言っておくが、『黒星』じゃないぜ、旧ソ連の小型拳銃!トカ○フ!!!」

制服のわき目から、黒く光るト○レフが二丁、引き抜かれた。

「おおっ!」(私)
「きゃぁあーっ!さすっが、たつみー♪」(ネギま!?設定・裕奈)
すごかった。
目にも留まらぬ速さで、引き抜かれたその銃。

一瞬、恐怖を感じた。


…………。
自分にそれほどの自信があるわけでもない。
それほど自分がすごい存在だと、思ったことも、あまりない。
只……。
「すごいでござるな……」
「それほどすごくはないさ」
そう言いながら、彼女は勝ち誇った笑顔。
「速いでござる」
「お前のが、速いんだろう」

「―――……?」

理解が遅れた。
「え」
彼女にそんなことを教えた覚えは無かった。
彼女に、そんなことは教えなかった。
私が忍者であるだなんて……。

「誰が速いって?」
事は過ぎ去り、放課後の教室。
部活は放置。落ちる夕日は、カーテンと、机とに色を塗った。
目の前には、彼女。
誰のとも知れない机に寄り添っている。
「お前がさ。お前さ、ただのさんぽ部じゃないだろ」
「ただの……?例えば」
「んー、格闘家、プロレスラー、若しくは私と同業者?」
「遠くも近くもないでござる。お前は銃身を見ないと、性格はわからないのでござろう?
なぜ、拙者の性格が見えるような、言い草をしているでござるか?」
真名が笑った。
そして、私の眉間に向けて、指を伸ばす。
「目付きだよ、目付き」

「めつき?」
「そう、目の付き方と書いて、目付き」
「鋭いか、タレ目かそうでないか、とか、そう言うことでござるか?」
「大体はね。でも、そういう目の形が問題なんじゃない。
目は、全てを語る」
「ほほう、拙者の目は、魅力的でござるか?」
風が吹いた。
部活班の、せわしい声が遠くなる。

「かなりね」

長い髪は、風もないのに、大きく揺れた。
私の同様が、体に伝わってしまったのだ。
「え?」
――かなりね。
「拙者の目が、魅力的、と?」
昔っからのタレ目と、細目。
少し、コンプレックスだった。

「お前の目はさ、何か、その、直感的に思わせるんだよ。その、なんていうの、戦うやつだなー、みたいな」
彼女は熱弁を奮っている。ここまでにこやかに、頬を赤くする彼女は初めて見た。
急に、可笑しくなった。
腹がよじれるほど、可笑しくなった。
ははは、とつい、口にだしてしまう。教室のセピア色が、急に映えて見えた。
突然の私の笑い声に、彼女は、
「どうした?あ、私がたくさん喋りすぎたか……?」
「いや、違うでござるよ」
笑いすぎて、涙が出てきた。
「拙者はそういうの、よく分からんでござるが、合ってるもんでござるなぁ」
「は、……ぁ、あ……やはりか!!」
「そのとおりで、ござる」
何故か、
「不思議」
龍宮真名「何が?」
(その、期待と自信に満ちたその顔を、壊してみたいのだ)
長瀬楓「拙者の目は別に、龍宮のように、瞳孔が開いているわけでもござらん。
    なのに、なんでそんなことが分かるんでござるか?」
(君のその、僕が予想していなかったそんな顔をするから)

「分からん」
と、一言で終わらせる彼女も、
それについつい、微笑んでしまう私も、

―――……。

そして、日々は過ぎる。
いつの間にか、私は彼女を『真名』と呼び、彼女は私を『楓』と呼ぶようになった。
少年教師が担任になった。
そして、彼女は言う。
「楓、」
私は返す。
「何でござるか?真名」
相手の名前を、当然かのように、交わす日々。
「あの坊主……、何か、しでかすな」
「子供先生でござるからなぁ」
彼女には、確かに同感だ。それは違わない。
ただ。
「真名は、それが気になる?」
悲しくなるんだ。
「興味がある?」

あの、可笑しく笑った日を思い出すと、
泣きたいくらいの感情が込み上げた。
あの時は、私に興味がある、魅力があるといってくれた。
そんな彼女が、私でない誰かを、一心に見つめるのが、怖くて、悲しい。
ねえ、お願いだ。
「あんまり、関わらないで欲しいでござるよ」
我侭だけど、許してほしい。

一言で終わらせる彼女も、
それについつい、微笑んでしまう私も、
きっと、そのときが、その場所が、一番幸せで、一番、愛されるべき時間なのだ……。

       End

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最終更新:2007年04月15日 01:46