「危ない!!」
工具などを置いてあった角材類がすぐそばを通りかかった楓に向かって倒れてきた。
真名の怒号と共に楓の体が宙を舞った。
目を見開き驚く顔を見せた楓は真名に抱きしめられる形で角材の直撃を免れた。
自身の足の数センチ先に10キロはあろうかというものが横倒しになっている。
「怪我はないか?」
立ち上がる真名は楓の安否を心配する。
「大丈夫でござるよ。今の間合いならすぐに避けられ…」
「それでも心配なんだ」
真名の真っ直ぐな瞳に一瞬言葉が詰まってしまった楓。
よく見ると真名の肘が赤くなっている。さっきのことで擦り剥いてしまったのだろう。
「真名、肘を擦り剥いているでござるよ」
「大丈夫だ、このくらい」
「ダメでござる」
腕を掴まれて傷口を見る楓はすぐに秘伝の薬を取り出し治療にかかる。
治療するその手はずっと真名の手を掴み、自分だけを見ているその楓の姿……。
何かを言おうとしても声が出てこない。
その手がもしも自分の感じやすい場所を触れていたら……。そんないやらしい想像をかきたててしまう。
――駄目だ。抑えろ…っ!
この場で今すぐにでも押し倒したい。
欲望を描き立てる思いを必死に抑えて楓の姿を見た。
「これでいいでござるよ。すまなかったでござる真名」
「……あぁ」
返事が曖昧でとても感謝しているようには聞こえない。
今すぐにこの場から、楓から離れないといけない。そうでないと…
「こっちこそ助かった、遅くなる前にすぐ帰るんだぞ」
「あ、真名……」
逃げるように帰ってしまう真名の後姿を追わずに見つめる楓は寂しげに見ていた。
寮の部屋で一人、気を紛らわすように銃の手入れをする真名。
助けようとしたときに楓を抱きしめたあの感触が忘れられない。
「…(体格的にしっかりしていると思ったが……意外とスリムだったな)」
楓の温かみと感触が手を伝って頭に直接叩きつけられる。
どうしても抑えきれない。己の力を使って無理矢理楓の自由を奪って、そして…
その想像が具体的な描写へと変わっていくごとに、その手は自分の下半身へと伸びていく。
「…っ…くっ………楓……」
そのはしたない妄想だけでは留まらず、自慰でようやく落ち着かせることになった。
だが気持ちは落ち着いても、行き場のない感情は変わらない。
翌日の放課後――
「真名、一緒に帰ろうでござる」
楓はいつもの調子で一緒に帰宅しようと誘ってきた。
「昨日助けてくれたお礼にお主が好きな餡蜜をおごるでござるよ」
笑って真名を誘っているが、真名は今もあの感情が心に残る。
「……昨日のことはいい」
素っ気無く誘いを断ると真名は一目散に帰った。
楓がそれ以上近寄れば自分がどんな行動に出るか分からない。
それで楓を傷つけるようなことになれば…。
「真名!」
寮の扉を開けようとして楓に行く手を阻まれた。
「何を怒っているでござる」
楓の目が珍しく見開いてこっちを見た。
あれだけしっかりと自分を見つめられるとまたあの欲望が掻き立てられるため、目を反らす。
「拙者の不注意で怪我をさせたのは謝るでござる。しかし、そういう態度は真名らしくないでござるよ!」
次の瞬間、真名は楓の胸元を掴み挙げて壁に叩きつける。
「……ならどうすればいい」
「真名…?」
真名は目を反らしたまま下を向いて何かを訴えそうか顔をしていた。
その行動に、いつもの状態ではないと悟る楓。
すると徐々に制服の胸元を外し、そこから手を滑り込ませた。
「なっ、何を!」
その声に反応して手を止めた。
「私は…お前が思っているような人間じゃない」
お前――楓をこのまま抱きたくて……。
「私が何を考えているか…お前には分からない」
お前――楓を思いっきり自分の手で汚したい。
「だから帰れ」
そうやって楓を押し返す真名。
扉を開け、急いで閉めようとした時、楓がまた止めに入った。
開いた胸元を隠す様子もなく、むしろ楓に己の裸を見てもらいたいような素振りをしている。
「真名こそ、拙者のことを何も分かっていないでござるな」
ゆっくりと制服の上着をその場で脱ぎだした。
そして真名の手を掴むと自身の豊富な胸に置いた。真名は目を丸くして驚く。
「真名になら、何をされてもいいでござるよ……」
「楓…」
「真名は拙者のことをどうしたいでござるか?」
扉を閉めようとした手が緩み、そこから楓が抱きついてきた。
もう歯止めが利かなくなったことを真名は理解した。
「どうなっても知らんぞ」
その体の温もりを確かめつつ、真名と楓はキスをした。
口唇を犯す卑猥な音などもう聞こえなかった。
ドアの鍵をかけて薄暗い部屋の中で二人は裸で抱き合う。
ベッドは程よい冷たさを保っており、火照った体を冷やすのにはちょうど良かった。
しかしすぐにそのシーツも何もかも二人の温かみで温もってしまう。
真名の舌は首筋に何度もキスマークをつけた後、徐々に首筋から胸元へ。
右の乳房を自分の腕と指使いで犯し、左の乳房は自分の口で直接犯す。
「はぁ……っ……」
楓の口から必死に耐えようとする悶絶の呻き声。
真名の欲望の塊とほぼ同化している性欲をさらに増幅さえる要因ともなった。
乳房の責めをやめると、開いた手で楓の太ももに触れ、そして一番感じる秘所に触れた。
「ま、真名!」
「ふふふふ、どうした楓? 濡れているじゃないか」
楓の秘所から真名の指が離れて目の前の持っていく。
真名の指にべったりとくっついた愛液は楓の顔を赤くさせ、しばらく見せ付けると顔を抑えて横を向いた。
どうやらあまりの恥ずかしさに耐え切れなくなったのだろう。
真名はそんな楓の秘所にもう一度触れて今度は一気に指を動かす。
「んぅぅ……ああぁ――っ!!!」
楓はたまらなくなり声を出すが、即座に真名によってキスで口を塞がれる。
舌と舌が絡み合いぴちゃぴちゃと唾液が混ざり合う。口で犯される感覚に楓の目はとろんと垂れてしまった。
「声を出すな、皆にばれるだろ」
「う……」
口をまたキスで塞がれた。これでは声を出せということの方が無理である。
「さて、そろそろ…」
真名は楓の足を開き、自分の秘所を見せ付けるようにしてのしかかった。
互いに濡れた秘所同士が重なり合って愛液がシーツを汚す。
「はぁ! あっ、あっ、あぁぁ…ぅぅ……」
割れ目から止め処なく流れ続ける愛液を、真名は軽くすくって口に入れた。
「そ、そのような汚いものを……」
「そうか? 楓の味は悪くないぞ」
「真名……」
ぺろっと舌を出して笑うと真名はさらにピッチを上げた。
「あうっ……うっぅぅぅ…」
重なり合う秘所のいやらしい音と真名の指が秘所の敏感な場所を同時に刺激し、楓を快楽の渦へと巻き込む。
声が漏れ、必死に耐えても口と感情は止まることを知らない。
「ま……真名…せ…拙者…も…ぅ」
息が上がり、まともに声が出せなくなった楓が限界を知らせた。
「いいぞ…私もそろそろ限界だ……流石にここで大声はまずいから…」
頭からぞくぞく刺激する何かがこみ上げてきた。真名はその感覚を自覚して楓の口をキスで塞いだ。
それと同時に二人の中で絶頂の波が津波のように襲い掛かった。
「うぅぐぅぅっ! ふぅぅ――――っ!」
「―――っ!!」
声を出さないようにキスで口を塞がれたまま楓と真名はすぐに絶頂に達してしまった。
「大丈夫か?」
「ん…まだ変な感覚でござるが大丈夫でござる」
すべてが終わった後、真名と楓はシーツを体に乗せて眠っていた。
まだ時間は午後7時。食事もまだのため腹が減ってしまった。
「私は食事に行くが」
「拙者も行くでござる……あれ?」
服を着るために立ち上がる真名と違い、立ち上がろうとしても立ち上がれない楓。
腰から下が震えて力が入らない。
「…腰が抜けてしまって立てないでござる」
少しやりすぎたと反省する真名は財布を持って部屋を出る。
「何か買ってきてやる、そこで休んでいろ」
「分かったでござる」
そしてそのまま扉を閉めようとした瞬間。
「真名」
楓は真名を呼び止めた。
「…?」
「いつでも真名のしたいようにしていいでござるよ」
己の欲望が叶った。しかし今度はそれ以上のことが頭を過ぎった。
今度は二人でこの気持ちを守り抜きたいと。ただの欲望から希望と喜びへ。
これほど楓のことを愛しく思ったことはない。
――好きだ楓、心の底から愛している。
だが真名は恥ずかしがってそれを口に出さない。むしろ態度で示す。
「ならおとなしくしてろ、夜はもっと激しいぞ」
その発言で真名と楓は頬を赤く染めて笑った。
真名が部屋を出て行って、楓はしばらく自分が何をしていたかをゆっくりと考えた。
ここまで自分を愛してくれる人がいた。
「嬉しいでござるよ真名」
明日は休んでもいいから真名と一緒に居たい。
それは欲望にも似た幸せな感情……。
終
最終更新:2007年06月16日 23:52