「はっぁーーい!!本日はき・も・だ・め・し・大会をしっまーーす!!」
明日菜が今日も軽やかに叫んでいる。
私は、そうか、今日は肝試しをするのか、なんて思いながら。
ネギがいつものように、手をわたわたさせながら、心配している。
「二人…一組で学校敷地内の、林の最奥にある、メモ帳を取って来るらしいです」
宮崎が何やら書かれた紙を見て説明する。
明日菜が頼んだにでもしたに違いない。
許せ、宮崎。あいつは悪いやつじゃない。
「真名」
隣で奴が言う。楓。
「…お前、私の隣じゃないだろ。出席番号的に……超はどこいった」
「そこらへんはノータッチでござる。というか、むしろ超殿がいないでござるよ」
にこ、と笑った顔。
実は長い髪。糸目とか。
「肝試し……真名といきたいと思ってる、でござる」
その『ござる』の文法活用法が間違っているとか、そう言うことよりも先に。
――まじですか。
驚愕というよりは、心が跳ねた。
肝試しってのは子供だましだと思った。
カップルがイチャつきたいだけの行事だと思った。
しかし、今日、今現在それは覆された。
(怖い!!)
思ったより怖いよ、夜中の校庭。+、林。
無駄に広い上に、端なんて真っ暗で何も見えない。
そのうえかなりの寒さ。凍える!!!
背筋が震えるのは、ここが寒いから?
「怖いのろ?」
「ひゃわぁ~大きいのにぃ」
うるさいっ!!鳴滝の二人!!
そうやって、一括すると、楓におこられた。
「こら真名。ふーかふみかには、優しくするでござる!」
そういえば、楓はこいつらと仲いいのか。忘れていた。
くっそこいつら…私が楓に弱いのをうまくとりやがって……。
「さて、始めるよーっww」
明日菜は今日も、長い髪を宙に舞わせ、ノリノリ(死語)でみんなをまとめている。
「三番☆長瀬・龍宮ペア!」
き、キターーーーーーー(´∀`)ーーーーーーー!
心の中でガッツポーズをしている私をよそ目に双子は怒りを露にした表情でこちらを睨んでいる。
っていうかお前らね、どっちか楓とあたってもどっちか外れるからね。(二人一組だから)
「よろしくでござる、真名」
楓がいつものニコニコフェイスでこちらを向いた。
「ああ」
(よろこんで~~♪)
素っ気ない顔で返事を返すが、
もう一度、心の中でガッツ!!(ぐっ)
あっという間に、順番は回ってきたようだ。
「ほら、いったいったーー!」
取り仕切っているのは明日菜。
明日菜、本当に今日は仕切るな。仕切りまくるな。
あ、こら朝倉、カメラ持って行くな!(何か写るから)
なんで朝倉が一人で林に入っていくのかと思ったら、隣にいるのは相坂ですか、このヤロー。
「次はー!?」
元気いっぱいに明日菜。
「はい、はい!でござる!」
元気いっぱい手を上げて、返事をする楓。
楽しそうだね、楓!(諤々)
「震えてるでござるかー?真名ー」
ええ、震えてますよ、震えてますよ。
手には小型拳銃を握っている。いつだって戦闘体制だよ、このヤロー。
「真名は、やっぱ怖いんだ」
「なっ……!!」
声を荒げると、楓はいつもとかわらぬ、細い目で私を見ていた。
「怖くなんかない」
「手が震えてますが」
「……ッッ!!」
私の反抗も、余儀なく覆され、私は今度こそ泣きそうになる。
「あ、」
声を発して、笑顔を壊す楓と、楓の長い髪が翻ったのは同時だった。
「へ?」
どっぎゃあぁあぁ。
派手な効果音と共に――私のの体が、木に叩きつけられた。
「真名!!」
頭上で楓が叫ぶのが聞こえる。
木の上――…瞬時にそこまで跳躍し、逃げたのだ。
私ををとばした本体は、いう。
『あっちゃぁー。戦闘系の二人だから、最大にしたのに……、案外あっさり!?』
ハカセである。
もう一体、後方で待機しているのは、超。
だから超は、あの場にいなかったのか。
そして、この肝試しは、3-Aのクラスメイトを驚かすためのイベント、と。
私は全て理解した。
アニメ的な外見をした機械は、起動を終了する。
「大丈夫アルかー?」
「大丈夫ですか?」
二人が、駆け寄ろうとした。
傷つきながらも、二人に笑いかけようとした私。
――しかし。
「ちょおーーっと、待つでござる」
刹那に響くその声は。
機械の操縦席から現れた、ハカセと超に戦闘能力はほぼない。
真名も、傷ついていて、立つのがやっと。
彼女を止めるものは、何もなかったのである。
「何をやったかを、思い知るがいいでござる」
目を完全に開いた楓が、木の枝の上で立っていた。
手には手裏剣。あと、もろもろ。
「ひっ……」
彼女達二人が、息を呑む瞬間でさえも、彼女は与えなかった。
※
「ほら、運んで運んでー」
亜子が、担架にハカセと超を乗せて、走っていく。
同じく担架を持つ、アキラと美空と茶々丸、それにチアガール三人組。
「どうしたのよっ、楓ちゃん!」
明日菜が強い表情で問い詰めると、楓はいつもよりも、苦渋な笑顔で返した。
「いやいやいや、拙者がやったとは思い難い!拙者ではないでござる」
「あの二人は『楓サンにやられたアルー』とか言ってたわよ!悪夢見てるみたいに!」
「うぅっ……!!;;ちょ、ちょ」
楓は全く持って、明日菜に弱い。太刀打ちすることができないようだ。
「問答無用!」
明日菜は脚を思い切り上げたかと思うと、瞬間的に、その脚を楓のつま先に、下ろした。
「うぁぁあったーーー!!」
かなり珍しい、楓の叫び声が、学園に響いたのであった。
「っていうか、楓」
「ん?」
真名が、保健室で楓に呼びかける。
先ほどの叫び声は、ただの楓の大げさな振る舞いに見られたが、実は普通の人間であったら、骨折を起こしていたほどの重症であった。
しかし、楓は少しの捻挫ですみ、その処置をしに二人は保健室にいた。
「何であそこでキレたんだ?」
「拙者はー、何にもー、キレてないでござーるー☆」
「隠しても無駄だぞ」
「……ぁいぁい」
しょぼくれた返事をし、楓は包帯を巻く。
「真名だって、拙者にとっては大事な仲間でござるよー。だから、それが傷つけられたら誰だってキレるでござる」
包帯が、シュルシュルという音を立てて巻かれていく。
「つい、相手が機械に乗っていたから、敵と認識してしまったのでござる。拙者の失態だ」
真名が、ふう、と一つ、ため息をつく。
「あー、そうかい。意外とお前もいいやつだな?」
「元からでござるよ」
此処で初めて、包帯から目を離して、楓は真名を見た。
その顔は、真名が思うには晴れ晴れとした顔で。
真名はしきりに、思う。
ただただ、楓が好きだ。
一緒に戦って、対立して、それでも、好きだ。
それだから好きなのかも、しれない。
「せっかくだから、さぼっちゃおうか?で、ござる」
楓の楽しそうな声。
「へ?え、ぇえ?」
楓が私のの腕を引いた。
その先は――……保健室の、真っ白いベッド。
消毒液の匂い、注ぎ込む風、白い、シーツの意味するもの。
「え……えぇえっ!?」
それは……。
そして、彼女は微笑んだ。
「サボろうか?今日は寮に帰れないくらいに」
End
最終更新:2007年06月17日 00:09