「なぁ、龍宮」

 銃の手入れをする同室の相手に声をかける。
 龍宮はこちらに目を向けることも無く「ん?」と短く返事をした。


「もしも……
 もしも、“楓を殺せ”という依頼が入ったら、
 お前はどうする?」

 そんな依頼など入っていない。
 ただ、自分と同じように 同性を愛してしまった者に聞きたかっただけだった。

 金で動くこいつが、それを蹴って思い人を守る。
 罪深き者が 自分以外にこの世にいる。
 そんな安心感が欲しかった。

 龍宮は少し考え、答える。



「殺すよ」


 その言葉に、私は愛刀を抜き龍宮の首に当てる。
 本気ではなかったが、思わぬ返答で距離を見間違った。
 薄皮が一枚裂け、刃と首を一滴の鮮血が伝う。


「楓は私を好きだと言った。
 龍宮 真名、そのままの私を愛していると。
 私はスナイパーだ。
 仕事に生きる人間だ。
 そんな私を愛している楓を、私も愛している。
 だから 迷わず殺す」

 平然と言う龍宮。
 思わず私は刀を握る指に力を篭めた。


 なぜこんな事を言うのだろう。
 私が求めたのはそんな物ではない。



「きっとそうなったら、楓も私を殺しにくるだろう。
 私を迷わせないために。
 自分以外の誰かが 私を殺さないように。
 全力の本気で」


 なぜ、愛し合うもの同士が殺しあわなければならない?
 互いに守り抜けば良いだけの事ではないか。


 いっそこの場で龍宮を殺してしまえば……
 そんな悲劇は起こらないのかもしれない。

 私の瞳に涙が溜まる。
 止めようと思っても止まらない水滴に、視界が霞む。

 私は刀を鞘に納め、涙を拭った。


「なぁ、刹那。
 お前には理解できないかもしれないが……」

 私は楓を守りたい。
 その楓は 私の仕事もプライドも過去も、全部守ってくれる。
 だから殺さなきゃいけないんだ。
 楓の想いを守るために。


 どちらかが死ぬ。
 そんなことは たいした事じゃない。


 生き残った者は、死んだ者の全てを奪える。
 死んだ者は、生き残った者の一生を手に入れられる。
 互いの心に深い傷ができ、支配できるんだ。

 そして二人の想いは守られる。
 これ以上の愛はないんだよ。



 龍宮の歪んだ感情が痛い。
 楓は……こんなに歪んでいる龍宮を受け入れているのだろうか。


 翌日、私は愛しい人と一緒に学校へ向かう。
 私の僅かな変化を鋭く見破り、心配してくださる。

 一歩先を行く龍宮の脇を、楓が双子と共に通り過ぎた。

 楓は首の瘡蓋に気づいているはずなのに、軽く挨拶をするだけで その事には触れない。
 龍宮も挨拶を短く返すだけで、並んで歩こうとはしない。


 平行線のような龍宮と楓の信念。
 どちらかを殺すことにより、その平行線は交わり 一つになるのだと言う。


 そんな事を信じたくないのに・・・・・
 傍を供に歩く私たちのほうが 正論なのに・・・・
 なぜだろう。


 お嬢様の笑顔よりも、
 屈託のない美しい愛情よりも、

 一定の距離を保つ平行線が 輝いてみえる。

     fin

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最終更新:2007年06月29日 22:55